特許第6244586号(P6244586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244586
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】撚線製造方法及び撚線機
(51)【国際特許分類】
   D07B 3/08 20060101AFI20171204BHJP
   H01B 13/02 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   D07B3/08
   H01B13/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-174356(P2015-174356)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-48483(P2017-48483A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】591200623
【氏名又は名称】住電ファインコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153110
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100131037
【弁理士】
【氏名又は名称】坪井 健児
(74)【代理人】
【識別番号】100099069
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昇一
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭48−075077(JP,U)
【文献】 実開平03−106207(JP,U)
【文献】 特開平02−062378(JP,A)
【文献】 実開平05−076612(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B1/00−9/00
H01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を撚り合わせて撚線を製造する撚線製造方法であって、
前記複数本の素線を集合させてガイド機構に掛け、前記ガイド機構を回転させて撚ることで、前記撚線を形成し、
前記ガイド機構の回転により形成される回転体の内側に設置された巻取機で、前記撚線を巻き取り、
前記巻取機の回転軸に取り付けた磁力式の可変トルク制御機構により、前記巻取機の巻取張力を調整し、
前記素線は直径0.025mm以下の導体である、撚線製造方法。
【請求項2】
前記ガイド機構は、弓形状のガイド部材、椀状のガイド部材、ガイドローラを先端に有するガイド部材のいずれか1つである、請求項1に記載の撚線製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の素線から撚線を製造するための撚線製造方法及び撚線機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数本の素線(導体等)を撚った撚線を製造するための装置(撚線機)が様々提案されている。撚線機は、複数本の素線を集合させて弓状等のガイド機構に掛け、そのガイド機構を回転させて撚ることで、上記撚線を形成している。なお、弓状等のガイド機構については例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、撚線機には形成した撚線を巻き取るための巻取機を設ける必要がある。そして、撚線機では、巻取機の巻取張力を電気式の調整機構で調整しながら撚線の巻き取りがなされている。例えば、特許文献2には、電気クラッチで巻取張力を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−29904号公報
【特許文献2】特開平7−94047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、上記ガイド機構の回転により形成される回転体の内側に巻取機を設置されており、その巻取張力の調整のためにその回転体の外側から電力を供給する必要がある。従来、電気式の調整機構への電力供給のために、撚線機にはスリップリングとカーボンブラシが設けられている。そして、このような電気式の調整機構を採用すると、次の(a)〜(d)のような問題が生じる。
【0006】
(a)撚線機が稼働している間、スリップリングと擦れ合うカーボンブラシが経時摩耗し、摩耗粉が撚線機内に飛散して、それにより、設備の壁面や部品・パスラインが汚れ、且つ撚線の表面に付着して外観異常の要因になる。
(b)設備内部が汚れるために、稼働担当作業者が定期的に(素線を上記ガイド機構に掛け替える度に)設備内部を清掃する必要がある。
(c)摩耗したカーボンブラシを定期的に新品に交換する必要がある。
(d)雷等による停電発生時、設備が急停止するため、撚線が断線してしまう。具体的には、停電発生時には、電気クラッチが切れて巻き取りが停止する一方で、上記ガイド機構が惰性で回転し続け、巻き取られない素線が撚り続けられて切れてしまう。特に素線が極細線の場合には切れ易くなる。
【0007】
本発明は、上述のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガイド機構及びその回転により形成される回転体内に巻取機を設けた撚線機において、複数本の素線から撚線を形成するに際し、巻取張力調整機構を要因とする設備や撚線の表面の汚れ及び停電発生時の素線切断を防止し、且つその機構において定期的な交換が必要な部品を減らすことを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る撚線製造方法は、複数本の素線を撚り合わせて撚線を製造する撚線製造方法であって、上記複数本の素線を集合させてガイド機構に掛け、上記ガイド機構を回転させて撚ることで、上記撚線を形成し、上記ガイド機構の回転により形成される回転体の内側に設置された巻取機で、上記撚線を巻き取り、上記巻取機の回転軸に取り付けた磁力式の可変トルク制御機構により、上記巻取機の巻取張力を調整し、上記素線は直径0.025mm以下の導体であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数本の素線から撚線を形成するに際し、ガイド機構及びその回転により形成される回転体内に巻取機を設けた撚線機において、磁力式の可変トルク制御機構により巻取張力を調整するため、スリップリング及びカーボンブラシを使用しない。したがってカーボンリングの使用に付随する設備や撚線の表面の汚れ及び停電発生時の素線切断がなく、カーボンブラシの交換の必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る撚線機の一構成例を示す図である。
図2A図1の撚線機の巻取機及びそれに取り付けられた可変トルク制御機構(最小トルク発生時)の一例を示す上面図である。
図2B図1の撚線機の巻取機及びそれに取り付けられた可変トルク制御機構(最大トルク発生時)の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本発明に係る撚線製造方法は、複数本の素線を撚り合わせて撚線を製造する撚線製造方法であって、上記複数本の素線を集合させてガイド機構に掛け、上記ガイド機構を回転させて撚ることで、上記撚線を形成し、上記ガイド機構の回転により形成される回転体の内側に設置された巻取機で、上記撚線を巻き取り、上記巻取機の回転軸に取り付けた磁力式の可変トルク制御機構により、上記巻取機の巻取張力を調整するようにしたものである。
【0013】
(2)上記(1)の撚線製造方法において、上記素線は直径0.025mm以下の導体であるようにしたものである。電気クラッチ使用の場合は、極細の導体素線が停電発生時に切れ易いが、本発明ではその恐れがない。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)の撚線製造方法において、上記ガイド機構は、弓形状のガイド部材、椀状のガイド部材、ガイドローラを先端に有するガイド部材のいずれか1つであるようにしたものである。
【0015】
(4)本発明に係る撚線機は、複数本の素線を繰り出すサプライと、繰り出された上記複数本の素線を集合させるダイスと、集合させた上記複数本の素線を掛けて回転させることで、撚線を形成するガイド機構と、上記ガイド機構の回転により形成される回転体の内側に設置され、上記撚線を巻き取る巻取機と、を備え、上記巻取機は、回転軸に磁力式の可変トルク制御機構が取り付けられているようにしたものである。
【0016】
(5)上記(4)の撚線機において、上記ガイド機構は、弓形状のガイド部材、椀状のガイド部材、ガイドローラを先端に有するガイド部材のいずれか1つであるようにしたものである。
【0017】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の一実施形態に係る撚線製造方法及び撚線機(撚線製造装置)の具体例を、以下に図1図2A図2Bを参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る撚線機の一構成例を示す図、図2Aは、図1の撚線機の巻取機及びそれに取り付けられた可変トルク制御機構(最小トルク発生時)の一例を示す上面図、図2Bは、その可変トルク制御機構(但し、最大トルク発生時)を示す上面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る撚線機1は、ダブルツイストバンチャ式の撚線機であり、サプライ11、ダイス12、シャフト体13、支持台14,19、第1撚部15、弓形状のガイド部材16、第2撚部17、回転軸体18、引取りキャプスタン20、ガイドローラ21、及び巻取ドラム22を備える。また、後述するが、撚線機1は張力調整機構として図2Aに示すような磁力式の可変トルク制御機構が設けられている。
【0019】
サプライ11は、複数本の素線10aを繰り出すリール等のサプライであり、この例では各素線10aの数だけサプライ11が設けられているが、1つのサプライ11に複数本の素線10aが巻かれていてもよい。
【0020】
ダイス12は、サプライ11から繰り出された上記複数本の素線を集合させる(寄せ集める)撚口となるものである。サプライ11との間には素線10aをガイドする素線ガイドを設けておいてもよい。例示する撚線機1で撚られる素線10aは一般的に導体であるが、これに限らない。
【0021】
シャフト体13は、支持台14に回転自在に支持されるシャフトであり、その一端側にはダイス12が設けられ、他端側には第1撚部15が設けられている。また、回転軸体18は、支持台14に対向する位置に設けられた支持台19に回転自在に支持された軸体である。そして、この回転軸体18の端部には第2撚部17が設けられている。
【0022】
ガイド部材16は、集合させた上記複数本の素線10aを掛けて回転させることで、撚線10cを形成する部材であり、第1撚部15と第2撚部17との間にわたって配置された一対の弧状(弓形状)の部材である。ガイド部材16にはそれぞれでガイドする線を貫通させるガイドダイスなどを線経路に複数設けておくか、或いは弓なりの外側表面を溝状に形成しておくなどすればよい。なお、図示しないが、ガイド部材16の回転駆動は、撚線機1にモータ等の駆動部やその駆動を伝達するベルト等の伝達機構を設けておくことで可能となる。
【0023】
巻取ドラム22は、ガイド部材16の回転により形成される回転体の内側に設置され、撚り合わされた撚線10cを巻き取る装置の一例であり、代わりに巻き取りロールなどを採用することもできる。また、巻取ドラム22と第2撚部17との間には引取りキャプスタン20やガイドローラ21などが設けられている。引取りキャプスタン20やガイドローラ21は巻取機の一部であると言える。
【0024】
撚線機1では、まず、各素線10aがサプライ11からダイス12に導かれ、ダイス12で集合されて素線群10bが形成される。次いで、素線群10bが、シャフト体13の内部及び第1撚部15の内部を通ってガイド部材16に掛けられ、第2撚部17の内部を通って撚線10cとなる。具体的には、素線群10bは、ガイド部材16の回転により、第1撚部15で最初の撚りが与えられ、第2撚部17で2度目の撚りが与えられ、それにより撚線10cが形成される。そして、その撚線10cが、引取りキャプスタン20、ガイドローラ21を介して巻取ドラム22で巻き取られる。
【0025】
そして、本実施形態の主たる特徴として、巻取ドラム22には、その回転軸に磁力式の可変トルク制御機構が取り付けられている。
この例における可変トルク制御機構は、図2Aで例示するように、2枚のマグネット28,29と1枚のディスク27からなる。マグネット28,29はいずれも中心に貫通孔が形成されている。ディスク27は、巻取ドラム22の回転軸となるシャフト25に固定されている。シャフト25は、巻取ドラム22の胴部23の両端にある鍔部24a,24bの外側にそれぞれ配設された軸受26a,26bにより、回転可能に保持されている。
【0026】
そして、ディスク27が回転すると、2つのマグネット28,29間に作用する磁力がディスク27の回転を妨げようとするように働く。この抵抗力はマグネット28,29の磁極の相対位置により変化し、図2Aのような位置関係の場合にはトルクが最小となり、図2Bのような位置関係の場合にはトルクが最大となる。
【0027】
以上、本実施形態によれば、巻取張力調整機構として磁力式の機構を採用しているため、複数本の素線から撚線を形成するに際し、電気クラッチを巻取張力調整機構とする場合に生じる上記(a)〜(d)の課題を解決することができる。
【0028】
このように、本発明では、回転するガイド部材内に電力を供給するためのスリップリング及びカーボンブラシを使用しない。これにより、カーボンブラシの摩耗粉が発生することがなく、それによる装置内の汚れや、撚線の外観異常がない。また、上記摩耗粉の清掃の必要やカーボンブラシの交換の必要がない。
【0029】
また、電気クラッチを使用した場合に素線10aが細いと、停電時にガイド部材が惰性で回転することで素線が撚られすぎて切れてしまう。本発明では、停電発生時もクラッチが切れることがなく巻取ドラムが惰性で回転するので、ガイド部材が惰性で回転し続けても、素線が切れるほどに素線が撚られることがない。したがって、素線10aが0.025mm以下の細い導体である場合に、素線が切れない本発明の効果が特に大きい。
【0030】
また、図1では、ガイド機構の簡易な構成例として弓形状のガイド部材を採用した例を挙げたが、特許文献1に記載のような、椀状のガイド部材(弓形状の中間部分がないような形状のガイド部材)や、ガイドローラを先端に有するガイド部材などの機構を採用することでも同様に簡易な構成とすることができる。なお、ガイド機構として、弓形状のガイド部材16のような巻取ドラム22に跨るような機構を採用しない場合には、上記回転体は、ガイド機構とそこでガイドされるN本の素線10aとを回転させることで形成される回転体を指すことになる。ガイド部材16も含め、いずれのガイド機構を採用することでも、撚線機を簡易な構成とすることができる。
【0031】
本実施形態に係る撚線製造方法は、撚線機1における製造過程から分かるように、N本の素線10aを集合させてガイド部材16等のガイド機構に掛け(添わせ)、そのガイド機構を回転させて撚ることで、撚線10cを形成する。そして、このガイド機構の回転により形成される回転体の内側に設置された巻取ドラム22等の巻取機で、撚線10cを巻き取る。ここで、巻取ドラム22の回転軸となるシャフト25に取り付けた上述のような磁力式の可変トルク制御機構により、巻取ドラム22の巻取張力を調整する。この撚線製造方法の他の応用例については、撚線機1について説明した通りである。
【0032】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0033】
1…撚線機、10a…素線、10b…素線群、10c…撚線、11…サプライ、12…ダイス、13…シャフト体、14,19…支持台、15…第1撚部、16…弓形状のガイド部材、17…第2撚部、18…回転軸体、20…引取りキャプスタン、21…ガイドローラ、22…巻取ドラム、23…胴部、24a,24b…鍔部、25…シャフト、25a,25b…軸受、27…ディスク、28,29…マグネット。
図1
図2A
図2B