(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空調機用熱交換器、冷凍機用熱交換器等の伝熱管又は冷媒配管に用いられる銅合金継目無管は、熱膨張及び熱収縮の繰り返しに伴う熱疲労によって、疲労亀裂が発生する危険性がある。また、熱膨張に伴い継目無管に張力が発生し、使用温度によってはクリープ変形が発生する危険性がある。
【0007】
そのため、空調機用熱交換器、冷凍機用熱交換器等の伝熱管又は冷媒配管に用いられる銅合金継目無管には、「強度が高い」及び「ろう付けによる強度低下が少ない」に加え、耐熱疲労亀裂発生特性及び耐クリープ変形特性が備わっていることが求められる。
【0008】
ところが、引用文献1のような、Snを添加した固溶強化型の銅合金製の継目無管には、中間温度脆性があり、脆性温度域において熱疲労、クリープ破壊を生じさせ易い。熱交換器の製造時、継目無管に張力がはたらいた状態でろう付け等の加熱をすることにより、中間温度脆性が発生し、脆化割れを生じ易い。
【0009】
中間温度脆性を増進させる因子として、S及びHがあり、S及びHの含有量を極限まで下げることで、ある程度の中間温度脆性は抑制できるが、十分ではない。また、Sの含有量を極限まで下げるためには高純度の地金を使用する必要があり、コスト面で好ましくない。また、Hの含有量を極限まで下げるためには長時間の溶湯処理が必要、雰囲気コントロールを行った溶解鋳造が必要等、コスト面で好ましくない。
【0010】
そのため、通常のレベル(極限まで下げることのないレベル)のS及びHの含有量であっても、中間温度脆性を効果的に抑制させることが望ましい。なお、通常のレベル(極限まで下げることのないレベル)のS及びHの含有量とは、Sが0.0005〜0.0008質量%程度であり、Hが0.0002〜0.0010質量%程度である。
【0011】
一方、特許文献2及び特許文献3のような、Sn及びZrを添加した固溶強化及び析出強化型の銅合金製の継目無管では、Zrの添加により、強度が高いこと及びろう付けによる強度低下が少ないことに加え、中間温度脆性の発現をある程度抑制することができる。
【0012】
しかしながら、更なる耐熱疲労亀裂発生特性の向上及び耐クリープ変形特性の向上が求められている。
【0013】
従って、本発明の目的は、強度が高く、ろう付けによる強度低下が少なく、耐クリープ変形特性が高く、且つ、中間温度脆性の抑制効果が高い伝熱管用の銅合金継目無管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、銅合金にSn及びZrを特定の含有量で含有させ、更に、Zrを銅合金中に適切な状態で存在させることにより、強度が高く、ろう付けによる強度低下が少なく、耐クリープ変形特性が高く、且つ、中間温度脆性の抑制効果が高い伝熱管用の銅合金継目無管が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明(
1)は、銅合金を加工して得られる伝熱管用銅合金継目無管であり、
該銅合金は、Snと、0.01〜0.08質量%のZrと、0.004〜0.04質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなり、該銅合金中のSn及びZrの含有量が、下記式(1):
(1)0.4≦A+2B≦0.85
(式中、AはSnの含有量(質量%)を示し、BはZrの含有量(質量%)を示す。)
を満たし、
該伝熱管用銅合金継目無管の電気伝導度が、下記式(3):
(3)ρ4−ρ3≧0.3(%IACS)
(式中、ρ3は950℃で10分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指し、ρ4は550℃で60分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指す。)
を満たすこと、
を特徴とする伝熱管用銅合金継目無管を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強度が高く、ろう付けによる強度低下が少なく、耐クリープ変形特性が高く、且つ、中間温度脆性の抑制効果が高い伝熱管用の銅合金継目無管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の形態の伝熱管用銅合金継目無管(以下、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)とも記載する。)は、銅合金を加工して得られる伝熱管用銅合金継目無管であり、
該銅合金は、Snと、0.01〜0.08質量%のZrと、0.004〜0.04質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなり、該銅合金中のSn及びZrの含有量が、下記式(1):
(1)0.4≦A+2B≦0.85
(式中、AはSnの含有量(質量%)を示し、BはZrの含有量(質量%)を示す。)
を満たし、
該伝熱管用銅合金継目無管の電気伝導度が、下記式(2):
(2)ρ2−ρ1≧0.3(%IACS)
(式中、ρ1は溶体化処理後の電気伝導度(%IACS)を指し、ρ2は時効処理後の電気伝導度(%IACS)を指す。)
を満たすこと、
を特徴とする伝熱管用銅合金継目無管である。
【0019】
本発明の第二の形態の伝熱管用銅合金継目無管(以下、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)とも記載する。)は、銅合金を加工して得られる伝熱管用銅合金継目無管であり、
該銅合金は、Snと、0.01〜0.08質量%のZrと、0.004〜0.04質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなり、該銅合金中のSn及びZrの含有量が、下記式(1):
(1)0.4≦A+2B≦0.85
(式中、AはSnの含有量(質量%)を示し、BはZrの含有量(質量%)を示す。)
を満たし、
該伝熱管用銅合金継目無管の電気伝導度が、下記式(3):
(3)ρ4−ρ3≧0.3(%IACS)
(式中、ρ3は950℃で10分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指し、ρ4は550℃で60分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指す。)
を満たすこと、
を特徴とする伝熱管用銅合金継目無管である。
【0020】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)と本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)とは、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)の電気伝導度が、式(2)を満たすのに対し、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)の電気伝導度が、式(3)を満たす点が異なること以外は、同様である。
【0021】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)及び本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)は、空調機用熱交換器、冷凍機用熱交換器、自然ガス冷媒ヒートポンプ式熱交換器等の伝熱管又は冷媒配管として用いられる継目無管であり、銅合金からなる銅合金製の継目無管、つまり、伝熱管用の銅合金製の継目無管である。
【0022】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金は、Sn、Zr及びPを必須元素として含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金である。
【0023】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)において、Snには、固溶強化により銅合金の強度を向上させる効果及び常温での延性を向上させる効果がある。また、これらの元素の場合、比較的低温で合金化できるので、製造上有利である。
【0024】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)において、Zrには、析出強化により銅合金の強度を向上させる効果がある。また、Zrには、ろう付け温度が過剰に高くならない前提では、Zr析出物が残存し、結晶粒の粗大化を抑制することにより、強度低下を小さくする効果がある。
【0025】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金中、Zrの含有量は、0.01〜0.08質量%である。銅合金中のZrの含有量が、0.01質量%未満だと、結晶粒粗大化を抑制する効果が小さく、ろう付けによる強度低下が大きくなり、また、Snによる固溶強化とZrによる析出強化を合わせても銅合金の強化が不十分となる。一方、銅合金中のZrの含有量が、0.08質量%を超えると、過剰な析出硬化が起こり、加工性を低下させる原因となる。特に、冷間での転造加工性が悪くなる。その結果、管内面のらせん溝形状の転写が不十分となり、C1220で得られたような伝熱性能が得られ難くなる。
【0026】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金中のSnの含有量をA(質量%)、Zrの含有量をB(質量%)とすると、本発明の伝熱管用銅合金継目無管に係る銅合金では、A+2Bは0.4以上0.85以下であること、すなわち、下記式(1):
(1)0.4≦A+2B≦0.85
を満たし、
好ましくはA+2Bは0.42以上0.83以下であること、すなわち、下記式(1a):
(1a)0.42≦A+2B≦0.83
を満たす。A+2Bを上記範囲内とし、且つ、Zrの含有量を0.01〜0.08質量%とすることにより、厳しい加工性が必要となる場合でも、継目無管の強度を最低限維持することができる。一方、A+2Bが、上記範囲未満だと、継目無管の強度が不足し、また、上記範囲を超えると、冷間加工性が著しく低くなる。
【0027】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金中のPの含有量は、0.004〜0.04質量%であり、好ましくは0.015〜0.030質量%である。銅合金が、P元素を0.004質量%以上含有することにより、材料中の脱酸が十分であることが示される。そして、銅合金中のPの含有量が、多すぎると、銅合金の熱伝導性が低くなるので、銅合金中のPの含有量は、0.040質量%以下である。
【0028】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)の電気伝導度については、ρ2−ρ1が0.3以上であること、すなわち、下記式(2):
(2)ρ2−ρ1≧0.3(%IACS)
(式中、ρ1は溶体化処理後の電気伝導度(%IACS)を指し、ρ2は時効処理後の電気伝導度(%IACS)を指す。)
を満たし、
好ましくはρ2−ρ1は0.5以上20以下であること、すなわち、下記式(2a):
(2a)0.5≦ρ2−ρ1≦20
を満たす。また、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)の電気伝導度については、ρ4−ρ3が0.3以上であること、すなわち、下記式(3):
(3)ρ4−ρ3≧0.3(%IACS)
(式中、ρ3は950℃で10分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指し、ρ4は550℃で60分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度(%IACS)を指す。)
を満たし、
好ましくはρ4−ρ3は0.5以上20以下であること、すなわち、下記式(3a):
(3a)0.5≦ρ4−ρ3≦20
を満たす。
【0029】
本発明において、溶体化処理とは、溶解及び鋳造工程での鋳塊の冷却過程で晶出したZr系金属間化合物を十分に固溶させる処理を指し、また、時効処理とは、Zr系金属間化合物を析出させる処理を指す。本発明の伝熱管用銅合金継目無管は、「溶解及び鋳造工程→熱間押出工程→冷間加工工程→必要に応じて中間焼鈍処理及び転造工程→時効処理」の順に行い製造される。そして、このような製造工程では、熱間押出工程における加熱が、溶解及び鋳造工程での鋳塊の冷却過程で晶出したZr系金属間化合物を十分に固溶させる溶体化処理となる。
【0030】
銅合金製継目無管においては、溶解及び鋳造工程での鋳塊の冷却過程で晶出したZrが、溶体化処理で十分に固溶しないと、Zrの含有量に見合った強度を得るための、時効処理で析出する微細な析出物の量及び分布が適正とはならない。また、溶体化処理で固溶しきれなかったZr系晶出物は、強度向上に寄与しないばかりでなく、後の冷間加工工程、転造工程、熱交換器製作時の曲げ加工工程での加工性を阻害することになる。更に、固溶したZrは、鋳造時の凝固過程又は溶体化処理において、Sと化合物を生成することによってSをトラップし、また、熱間押出時に粒界ボイドを形成させるHをトラップすることにより、耐クリープ変形特性を向上させ、中間温度脆性を抑制する。このように、溶体化処理後に固溶しているZrは、後工程である時効処理による析出強化に寄与するばかりでなく、耐クリープ変形特性の向上、中間温度脆性の抑制に寄与する。また、時効処理でのZrの析出状態を適切なものとすることによって、中間温度脆性の抑制効果が高くなる。
【0031】
ところが、溶体化処理でのZrの固溶状態及び時効処理でのZrの析出状態を、定量的にすることは難しい。そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、溶体化処理後の電気伝導度と時効処理後の電気伝導度の差(ρ2−ρ1)により、溶体化処理でのZrの固溶状態及び時効処理でのZrの析出状態の把握ができ、ρ2−ρ1を特定の範囲に規定することにより、耐クリープ変形特性を向上させ、中間温度脆性を抑制することができることを見出した。つまり、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)の電気伝導度については、ρ2−ρ1が0.3以上であること、すなわち、下記式(2):
(2)ρ2−ρ1≧0.3(%IACS)
を満たし、
好ましくはρ2−ρ1が0.5以上20以下であること、すなわち、下記式(2a):
(2a)0.5≦ρ2−ρ1≦20
を満たす。ρ2−ρ1が上記範囲内であることにより、耐クリープ変形特性を向上させ、中間温度脆性を抑制することができる。
【0032】
また、本発明者らは、950℃で10分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度と550℃で60分間の加熱−水冷試験後の電気伝導度の差(ρ4−ρ3)により、溶体化処理でのZrの固溶状態及び時効処理でのZrの析出状態の把握ができ、ρ4−ρ3を、特定の範囲に規定することにより、耐クリープ特性変形を向上させ、中間温度脆性を抑制することができることを見出した。つまり、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)の電気伝導度については、ρ4−ρ3が0.3以上であること、すなわち、下記式(3):
(3)ρ4−ρ3≧0.3(%IACS)
を満たし、
好ましくはρ4−ρ3は0.5以上20以下であること、すなわち、下記式(3a):
(3a)0.5≦ρ4−ρ3≦20
を満たす。ρ4−ρ3が上記範囲内であることにより、耐クリープ変形特性を向上させ、中間温度脆性を抑制することができる。
【0033】
なお、本発明において、950℃で10分間の加熱−水冷試験とは、試験対象となる銅合金継目無管を950℃±25℃で10分間の加熱をした後水冷するという試験であり、先ず、窒素ガス雰囲気、950±25℃に設定された電気炉内に、試験対象を装入し、炉内温度が950℃に復帰した後、950℃±25℃で10分間保持し、次いで、950℃から直ちに水冷することにより行われる。そして、950℃で10分間加熱−水冷試験後の試験対象の電気伝導度(%IACS)を測定して、ρ3を求める。
【0034】
また、本発明において、550℃で60分間の加熱−水冷試験とは、試験対象となる銅合金継目無管を、950℃で10分間の加熱と水冷を行った後、次いで、550℃±10℃で60分間の加熱をした後水冷するという試験であり、先ず、試験対象を、950℃で10分間の加熱−水冷試験と同様にして、950℃±25℃で10分間加熱した後950℃から直ちに水冷し、次いで、950℃で10分間の加熱と水冷を行った試験対象を、塩浴炉内に装入し、550℃±10℃で60分間保持し、次いで、直ちに水冷することにより行われる。そして、550℃±10℃で60分間加熱−水冷試験後の試験対象の電気伝導度(%IACS)を測定して、ρ4を求める。
【0035】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金は、更に、S原子を含有してもよい。本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金が、更に、Sを含有する場合、銅合金中のSの含有量は、0.0005〜0.0010質量%である。また、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金は、更に、Hを含有してもよい。本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)に係る銅合金が、更に、Hを含有する場合、銅合金中のHの含有量は、0.0002〜0.0020質量%である。銅合金中のSの含有量又はHの含有量が、上記範囲を超えると、固溶しているZrによりS又はHを十分に補足することができず、耐クリープ変形特性の向上、中間温度脆性の抑制の効果が得られない。一方、銅合金中のSの含有量又はHの含有量が、上記範囲未満の場合、耐クリープ変形特性の向上、中間温度脆性の抑制の効果は得られるが、コストアップになり易い。
【0036】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管は、溶解、鋳造及び冷却→熱間押出及び冷却→冷間加工→必要に応じて中間焼鈍処理及び転造→時効処理の順に行い製造される。
【0037】
先ず、溶解、鋳造及び冷却を行う。溶解及び鋳造では、常法に従って、溶解及び鋳造して、所定の元素が所定の含有量で配合されているビレットを得る。例えば、銅の地金及び本発明の伝熱管用銅合金継目無管の含有元素の地金又は該含有元素と銅の合金を、本発明の伝熱管用銅合金継目無管中の含有量が、所定の含有量となるように配合して、成分調整を行い、次いで、高周波溶解炉等を用いて、ビレットを鋳造する。次いで、鋳造後、ビレットを冷却する。
【0038】
次いで、熱間押出及び冷却を行う。熱間押出では、鋳造により得られたビレットを、所定の温度で加熱して、熱間押出する。熱間押出は、マンドレル押出によって行われる。すなわち、加熱前に、冷間で予め穿孔したビレット、あるいは、押出前に熱間で穿孔したビレットに、マンドレルを挿入した状態で、熱間押出を行う。そして、熱間押出を行った後、速やかに冷却して、熱間押出素管を得る。
【0039】
次いで、冷間加工を行う。冷間加工では、熱間押出により得られた熱間押出素管を、冷間圧延や冷間引き抜き等の冷間加工し、管の外径及び肉厚を減じていき、継目無素管を得る。
【0040】
内面溝が形成されていない内面平滑管(ベアー管)を得る場合は、冷間加工に次いで、冷間加工により得られた継目無素管を、400〜600℃で加熱し、次いで、冷却する時効処理を行う。そして、時効処理を行うことにより、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)を得る。
【0041】
内面溝が形成されている内面溝付管を得る場合、冷間加工に次いで、冷間加工により得られた継目無素管を、400〜600℃で加熱する中間焼鈍を行い、次いで、転造を行う。転造は、継目無素管内に、外面にらせん状の溝加工を施した転造プラグを配置して、高速回転する複数の転造ボールによって、管の外側から押圧して、管の内面に転造プラグの溝を転写することにより行われる。次いで、転造を施した継目無管を時効処理する。時効処理は、転造を施した継目無管を、400〜600℃で加熱し、冷却することにより行なわれる。そして、時効処理を行うことにより、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)を得る。
【0042】
そして、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)において、電気伝導度を、式(2):ρ2−ρ1≧0.3(%IACS)、好ましくは式(2a):0.5≦ρ2−ρ1≦20とする方法、また、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)において、電気伝導度を、式(3):ρ4−ρ3≧0.3(%IACS)、好ましくは式(3a):0.5≦ρ4−ρ3≦20とする方法としては、例えば、溶解及び鋳造後の冷却において、ビレットの冷却速度を調節する方法が挙げられる。本発明者らは、溶解及び鋳造後の冷却におけるビレットの冷却速度の違いにより、銅合金中のZrの存在状態が異なり、溶解及び鋳造後のZrの存在状態の違いが、「ρ2−ρ1」及び「ρ4−ρ3」の値に影響を与えることを見出した。なお、ビレットの径、鋳造後の冷却条件、溶体化処理条件、時効処理条件等により、電気伝導度を、式(2)、好ましくは式(2a)に調節するために適切な冷却速度、あるいは、式(3)、好ましくは式(3a)に調節するために適切な冷却速度は、異なるため、溶解及び鋳造後の冷却におけるビレットの冷却速度は、ビレットの径、鋳造後の冷却条件、溶体化処理条件、時効処理条件等により、適宜選択される。また、ビレットの径、鋳造後の冷却条件、溶体化処理条件、時効処理条件等を適宜調節することにより、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)の電気伝導度が、式(2)、好ましくは式(2a)を満たすように調節し、また、本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)の電気伝導度が、式(3)、好ましくは式(3a)を満たすように調節する。
【0043】
本発明の伝熱管用銅合金継目無管は、熱交換器用の伝熱管としてコイル形状に巻き取られ、熱交換器(クロスフィンチューブ型熱交換器)の作製に供される。クロスフィンチューブ型熱交換器は、空気側のアルミニウムフィンと冷媒側の伝熱管が一体に組付けられて構成されているものである。
【0044】
クロスフィンチューブ型熱交換器は、先ず、プレス加工等により、所定の組付け孔が複数形成されたアルミニウムプレートフィンを作製し、次いで、得られたアルミニウムプレートフィンを積層した後、組付け孔の内部に、定尺切断及びヘアピン曲げ加工した本発明の伝熱管用銅合金継目無管(1)又は本発明の伝熱管用銅合金継目無管(2)を挿通し、次いで、継目無管を、アルミニウムプレートフィンに拡管固着し、ヘアピン曲げ加工を施した側とは反対側の継目無管端部に、Uベンド管をロウ付けすることにより、作製される。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0046】
(実施例及び比較例)
<伝熱管用銅合金継目無管>
(溶解、鋳造及び冷却)
半連続鋳造により、表1に示す化学成分を含有する外径254mmのビレットを鋳造し、次いで、冷却した。このときのビレットの冷却水の水量を、以下の通りとした。なお、表1中、残部はCu及び不可避不純物である。
冷却条件A:冷却水量1,000L/分
冷却条件B:冷却水量600L/分
(熱間押出及び冷却)
上記のようにして得たビレットを、連続加熱炉内で、950℃(±25℃)で10分間以上保持することにより加熱し、次いで、押出温度950℃で、外径81mm×肉厚8mmの管を押出し、押出後ただちに水中へ投入して冷却して、熱間押出素管を得た。このとき、溶体化処理を兼ねて行った。
得られた熱間押出素管の頭部及び尾部から、電気伝導度の測定用サンプル(サンプル1)をサンプリングした。
(冷間加工)
上記のようにして得た熱間押出無素管を、冷間圧延及び冷間抽伸し、外径9.52mm×肉厚0.8mmの継目無素管を得た。
(時効処理)
上記のようにして得た継目無素管を、バッチ炉内で、非酸化性雰囲気中、550℃で60分間加熱し、伝熱管用銅合金継目無管を得た。
得られた伝熱管用銅合金継目無管から、電気伝導度測定用に、サンプル2をサンプリングした。また、加熱−水冷試験用に、サンプル3及びサンプル4をサンプリングした。
【0047】
<加熱−水冷試験>
950℃で10分間の加熱−水冷試験とは、試験対象となる銅合金継目無管を950℃±25℃で10分間の加熱をした後水冷するという試験であり、先ず、窒素ガス雰囲気、950±25℃に設定された電気炉内に、試験対象を装入し、炉内温度が950℃に復帰した後、950℃±25℃で10分間保持し、次いで、950℃から直ちに水冷することにより行われる。そして、950℃で10分間加熱−水冷試験後の試験対象の電気伝導度(%IACS)を測定して、ρ3を求める。
また、550℃で60分間の加熱−水冷試験とは、試験対象となる銅合金継目無管を、950℃で10分間の加熱と水冷を行った後、次いで、550℃±10℃で60分間の加熱をした後水冷するという試験であり、先ず、試験対象を、950℃で10分間の加熱−水冷試験と同様にして、950℃±25℃で10分間加熱した後950℃から直ちに水冷し、次いで、950℃で10分間の加熱と水冷を行った試験対象を、塩浴炉内に装入し、550℃±10℃で60分間保持し、次いで、直ちに水冷することにより行われる。そして、550℃±10℃で60分間加熱−水冷試験後の試験対象の電気伝導度(%IACS)を測定して、ρ4を求める。
【0048】
(加熱−水冷試験1)950℃±25℃×10分
先ず、サンプル3を、窒素ガス雰囲気、950±25℃に設定された電気炉内に装入し、炉内の温度が950℃に復帰した後、950±25℃で10分間保持し、次いで、950℃から直ちに水冷して、加熱−水冷試験1を行った。
【0049】
(加熱−水冷試験2)550℃±10℃×60分
先ず、サンプル4を、加熱−水冷試験1と同様にして、950±25℃で10分間の加熱と水冷を行い、次いで、加熱−水冷試験1と同様の加熱と水冷を行ったサンプル4を、塩浴炉内に装入し、550℃±10℃で60分間保持し、次いで、直ちに水冷して、加熱−水冷試験2を行った。
【0050】
<評価>
(機械的性質)
トーチろう付けを、ろう材(JIS Z3264 BCuP−2)及び酸素−プロパン混合ガスを用いて実施して、ろう付け後の耐圧強度測定用試料を作製した。このとき、ろう材が継ぎ手部に流れ込むまでろう付けを実施した。冷却は空冷とし、冷却後、水圧による破裂試験を行い、破壊強度から次式*1を用い、引張り強さを推定し、ろう付け前後の機械的性質(引張強さと伸び)を評価した。
ろう付け前の機械的性質を、引張試験により評価し、JIS Z2241に準じ、引張強さと伸びを測定した。その結果を、表3に示す。
<式*1>KHK式:破裂圧力=2×引張強さ×肉厚/(外径−0.8×肉厚)
(電気伝導度)
電気伝導度測定を、JIS H0505に準拠した方法、すなわち四端子法により電気抵抗を測定し、0.15328で除した値を百分率で表した。
(中間温度脆性試験)
銅合金継目無管を、350℃で、ひずみ速度10
−4の引張速度で引張試験した。伸び(δ)が30%以上であったものを合格とした。
(熱疲労試験)
100℃の恒温槽内で、銅合金継目無管に、0から15MPaの繰り返し内圧を10万回負荷し、熱疲労試験を行った。試験中に亀裂が生じなかったものを合格とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】