【文献】
Appl. Environ. Microbiol.,1996年,62 (8),p.3047-3049
【文献】
J. Mol. Biol.,2002年,320,p.883-897
【文献】
Appl. Microbiol. Biotechnol.,2012年,95,p.135-146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の超耐熱性エンドグルカナーゼ、請求項2に記載のポリヌクレオチドがコードする超耐熱性エンドグルカナーゼ、又は請求項6に記載の超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼと、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素とを含む、グリコシド加水分解酵素混合物。
セルロースを含む材料を、請求項1に記載の超耐熱性エンドグルカナーゼ、請求項2に記載のポリヌクレオチドがコードする超耐熱性エンドグルカナーゼ、請求項4若しくは5に記載の形質転換体、請求項6に記載の超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼ、又は請求項7に記載のグリコシド加水分解酵素混合物に接触させることにより、リグノセルロース分解物を生産することを含む、リグノセルロース分解物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[超耐熱性エンドグルカナーゼ]
糸状菌、細菌、アーキアを含む多くの微生物は難培養性であり、土壌など微生物環境に生息する菌の99%が未知の菌であるといわれている。特に、高温環境に生息する微生物の培養は極めて困難であり、現在の微生物培養技術では土壌中に生息する微生物の0.1%以下を単離及び培養しているにすぎないと考えられている。この高温土壌微生物の難培養性が、耐熱性酵素の開発が進まない一因である。
【0013】
近年、ギガ塩基対の大量配列解読を可能にした次世代ギガシーケンサーが開発されたことにより、土壌等に含まれる微生物叢のゲノムを丸ごと解読することが可能となった。この解析技術を利用して、土壌などの環境サンプルから微生物集団のゲノムDNAを調製し、ゲノム構成が不均一、雑多な集団について直接ゲノムを網羅的に解読し、並列コンピュータにより解読データをアセンブルすることで微生物叢ゲノム配列を再構成するメタゲノム解析法が提案され、難培養性微生物のゲノム解読が急速に進展した。
【0014】
本発明者らは、後記実施例1に示すように、採取した高温温泉土壌から微生物集団のゲノムDNA(メタゲノムDNA)を調製し、メタゲノムDNAのショットガンシーケンス及びアノテーションを行い、既知のエンドグルカナーゼ酵素と類似したアミノ酸配列を持つオープンリーディングフレーム(ORF)を得た。これらのORFのうち、エンドグルカナーゼ触媒領域が確認できたORF106個について、ORFの塩基配列情報に基づいてプライマーを設計し、PCR法により、高温温泉土壌メタゲノムDNAから遺伝子候補をクローニングした。PCRクローニングされたDNAを大腸菌に組込み、当該塩基配列がコードするタンパク質を発現させ、CMC加水分解活性アッセイによる機能スクリーニングを行った。最終的に、これらのORFの中からエンドグルカナーゼ活性を持つ超耐熱性エンドグルカナーゼ(以下、「AR15G−11−7」)を得た。AR15G−11−7のアミノ酸配列を配列番号2に、塩基配列を配列番号4に、それぞれ表す。
【0015】
後記実施例1<9>に示すように、AR15G−11−7は、CMC、β−グルカン、β−1,3結合とβ−1,4結合グルカンからなるリケナン(Lichenan)、非結晶性セルロースのリン酸膨潤アビセル(phosphoric acid swollen Avicel、PSA)、及びPNPC(p−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド)に対し加水分解活性を示す一方で、結晶性セルロースであるアビセル、β−1,3結合とβ−1,6結合グルカンからなるラミナリン(Laminarin)、キシラン(xylan)、PNPX(p−ニトロフェニル−β−D−キシロピラノシド)、及びPNPG(p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド)に対しては、ほとんど分解活性を示さない。
【0016】
AR15G−11−7のアミノ酸配列を公知のアミノ酸配列データベースに対して検索したところ、最も配列同一性が高かったアミノ酸配列は、カムチャッカの噴火口からメタゲノム手法により得られた既知のGHファミリー5に属するセルラーゼuncultured organism(GenBank: AEC45566.1)(配列番号8)であり、GH5(Glycoside hydrolase family 5)触媒領域について76%の配列同一性(相同性)を示した。基質特異性及び既知のタンパク質とのアミノ酸配列の配列同一性から、AR15G−11−7は、GH5ファミリーに属する新規なエンドグルカナーゼであることが明らかとなった。
【0017】
AR15G−11−7は、少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有する。実際に、後記実施例1<10>、<11>に示すように、AR15G−11−7は、40〜100℃の広い温度範囲内、かつpH5〜8のpH範囲内においてエンドグルカナーゼ活性を示し、70〜100℃の温度範囲内、かつpH5〜8において強いエンドグルカナーゼ活性を示し、80〜100℃の温度範囲内、かつpH5〜8において非常に強いエンドグルカナーゼ活性を示す。
【0018】
一般的に何らかの生理活性を有するタンパク質は、その生理活性を損なうことなく、1個又は2個以上のアミノ酸を欠失、置換又は付加させることができる。つまり、AR15G−11−7に対しても、グリコシド加水分解活性を失わせることなく、1個又は2個以上のアミノ酸を欠失、置換又は付加させることができる。
【0019】
すなわち、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、下記(A)〜(C)のいずれかからなるエンドグルカナーゼ触媒領域を有する、超耐熱性グリコシド加水分解酵素である。
(A)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(すなわち、オープンリーディングフレームAR15G−11がコードするポリペプチド又はAR15G−11−7)、
(B)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチド、
(C)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチド。
【0020】
本発明及び本願明細書において、「ポリペプチドにおいてアミノ酸が欠失する」とは、ポリペプチドを構成しているアミノ酸の一部が失われる(除去される)ことを意味する。
本発明及び本願明細書において、「ポリペプチドにおいてアミノ酸が置換する」とは、ポリペプチドを構成しているアミノ酸が別のアミノ酸に変わることを意味する。
本発明及び本願明細書において、「ポリペプチドにおいてアミノ酸が付加される」とは、ポリペプチド中に新たなアミノ酸が挿入されることを意味する。
【0021】
前記(B)のポリペプチドにおいて、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列に対して欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸の数は、1〜20個が好ましく、1〜10個がより好ましく、1〜5個がさらに好ましい。
【0022】
前記(C)のポリペプチドにおいて、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列との配列同一性は、80%以上100%未満であれば特に限定されないが、85%以上100%未満であることが好ましく、90%以上100%未満であることがより好ましく、95%以上100%未満であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、アミノ酸配列同士の配列同一性(相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。本発明におけるアミノ酸配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得られる。
【0024】
前記(B)及び(C)のポリペプチドとしては、人工的に設計されたものであってもよく、AR15G−11及びAR15G−11−7等のホモログ又はその部分タンパク質であってもよい。
【0025】
前記(A)〜(C)のポリペプチドは、それぞれ、アミノ酸配列に基づいて化学的に合成してもよく、後記の本発明に係るポリヌクレオチドを用いて、タンパク質発現系によって生産してもよい。また、前記(B)及び(C)のポリペプチドは、それぞれ、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに基づいて、アミノ酸変異を導入する遺伝子組換え技術を用いて人工的に合成することもできる。
【0026】
前記(A)〜(C)のポリペプチドは、少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有する。このため、前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドをエンドグルカナーゼ触媒領域として有することにより超耐熱性エンドグルカナーゼが得られる。
【0027】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、β−1,3結合とβ−1,4結合からなるグルカン、及びβ−1,4結合からなるグルカンを基質とするものである。β−1,3結合とβ−1,4結合からなるグルカンとしては、リケナン、β−グルカン等が挙げられる。β−1,4結合からなるグルカンとしては、CMC、PSA、セロビオース、アビセル、結晶性バクテリアセルロース(Bacterial microcrystalline cellulose、BMCC)、濾紙などの結晶性セルロース等が挙げられる。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼとしては、CMC、β−グルカン、リケナン、PSA、及びPNPCを基質とするものが特に好ましい。
【0028】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、その他のグルカン等を基質としてもよい。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが基質とし得るものとしては、例えば、キシラン、PNPX、PNPG、p−ニトロフェニル−α−L−アラビノフラノシド、p−ニトロフェニル−α−L−アラビノピラノシド、p−ニトロフェニル−β−L−アラビノピラノシド、p−ニトロフェニル−β−D−マンノピラノシド、p−ニトロフェニル−α−D−ガラクトピラノシド、p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド;β−1,3結合からなるグルカン;ゲンチオビオース等のβ−1,6結合からなるグルカン等が挙げられる。
【0029】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、少なくともpH5.5の条件下で、CMC加水分解活性を、80〜100℃の温度範囲内で示すことが好ましく、70〜100℃の温度範囲内で示すことがより好ましく、40〜100℃の広い温度範囲内で示すことがさらに好ましい。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼのCMC加水分解活性の至適温度は、pH5.5の条件下で、80〜100℃の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが有するエンドグルカナーゼ活性の至適pHは、反応温度や基質に依存して変化するものの、pH5.0〜7.0の範囲内にある。例えば、基質がCMCの場合の50℃における至適pHは5.4である。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼとしては、少なくともpH5.0〜7.0の範囲内においてエンドグルカナーゼ活性を示すものが好ましく、pH5.0〜8.0の範囲内においてエンドグルカナーゼ活性を示すものがより好ましい。
【0031】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、キシラナーゼ活性を有するものであってもよい。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが有するキシラナーゼ活性は、少なくとも90℃、pH5.5の条件下で示すことが好ましい。
【0032】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、エンドグルカナーゼ活性及びキシラナーゼ活性以外のグリコシド加水分解活性を有していてもよい。その他のグリコシド加水分解活性としては、β−キシロシダーゼ活性、β−グルコシダーゼ活性、又はセロビオハイドロラーゼ活性等が挙げられる。
【0033】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、前記(A)〜(C)のポリペプチドのいずれかからなるエンドグルカナーゼ触媒領域のみからなる酵素であってもよく、その他の領域を含んでいてもよい。その他の領域としては、公知のグリコシド加水分解酵素が有する、酵素触媒領域以外の領域が挙げられる。例えば、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼには、公知のグリコシド加水分解酵素に対し、酵素触媒領域を前記(A)〜(C)のポリペプチドに置換することによって得られる酵素も含まれる。
【0034】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼがエンドグルカナーゼ触媒領域以外の領域を含む場合、セルロース結合モジュールを含むことも好ましい。セルロース結合モジュールは、エンドグルカナーゼ触媒領域の上流(N末端側)にあってもよく、下流(C末端側)にあってもよい。また、セルロース結合モジュールとエンドグルカナーゼ触媒領域は、直接結合していてもよく、適当な長さのリンカー領域を介して結合していてもよい。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼとしては、エンドグルカナーゼ触媒領域の上流又は下流に、リンカー領域を介してセルロース結合モジュールが存在しているものが好ましく、エンドグルカナーゼ触媒領域の上流にリンカー領域を介してセルロース結合モジュールが存在しているものがより好ましい。
【0035】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが含むセルロース結合モジュールは、セルロースとの結合能、例えば、PSAや結晶性アビセルとの結合能を有する領域であればよく、そのアミノ酸配列は特に限定されるものではない。当該セルロース結合モジュールとしては、例えば、既知のタンパク質が有するセルロース結合モジュール又はそれを適宜改変したものを用いてもよい。また、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼがエンドグルカナーゼ触媒領域とセルロース結合モジュールを有する場合、これらはリンカー配列を介して結合していることが好ましい。当該リンカー配列のアミノ酸配列やその長さ等は特に限定されるものではない。
【0036】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、その他にも、そのN末端又はC末端に、細胞内の特定の領域に移行させて局在させ得るシグナルペプチドや、細胞外へ分泌するシグナルペプチドを有していてもよい。このようなシグナルペプチドとして、例えば、アポプラスト移行シグナルペプチド、小胞体保留シグナルペプチド、核移行シグナルペプチド、又は分泌型シグナルペプチド等がある。小胞体保留シグナルペプチドとして、例えば、HDELのアミノ酸配列からなるシグナルペプチド等がある。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが、そのN末端又はC末端にシグナルペプチドを有している場合には、形質転換体中で発現させた超耐熱性エンドグルカナーゼを、細胞外へ分泌させたり、細胞中の小胞体等に局在させることができる。
【0037】
また、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼは、その他にも、発現系を用いて生産した場合に簡便に精製可能とするため、例えば当該超耐熱性エンドグルカナーゼのN末端やC末端に、各種タグが付加されていてもよい。当該タグとしては、例えば、Hisタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換えタンパク質の発現又は精製において汎用されているタグを用いることができる。
【0038】
[超耐熱性エンドグルカナーゼをコードするポリヌクレオチド]
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼをコードする。当該超耐熱性エンドグルカナーゼは、当該ポリヌクレオチドが組込まれた発現ベクターを宿主に導入することにより、当該宿主の発現系を利用して生産することができる。
【0039】
具体的には、本発明に係るポリヌクレオチドは、下記(a)〜(e)のいずれかの塩基配列からなるエンドグルカナーゼ触媒領域をコードする領域を有する、ポリヌクレオチドである。
【0040】
(a)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(c)配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(d)配列番号3又は4で表される塩基配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(e)配列番号3又は4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドの塩基配列であり、かつ少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列。
【0041】
なお、本願及び本願明細書において、「ポリヌクレオチドにおいて塩基が欠失する」とは、ポリヌクレオチドを構成しているヌクレオチドの一部が失われる(除去される)ことを意味する。
本発明及び本願明細書において、「ポリヌクレオチドにおいて塩基が置換する」とは、ポリヌクレオチドを構成している塩基が別の塩基に変わることを意味する。
本発明及び本願明細書において、「ポリヌクレオチドにおいて塩基が付加される」とは、ポリヌクレオチド中に新たな塩基が挿入されることを意味する。
【0042】
本発明及び本願明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、6×SSC(20×SSCの組成:3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸溶液、pH7.0)、5×デンハルト溶液(100×デンハルト溶液の組成:2質量%ウシ血清アルブミン、2質量%フィコール、2質量%ポリビニルピロリドン)、0.5質量%のSDS、0.1mg/mLサケ精子DNA、及び50%フォルムアミドからなるハイブリダイゼーションバッファー中で、42〜70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0043】
前記(a)〜(e)の塩基配列においては、縮重コドンは、宿主のコドン使用頻度の高いものを選択することが好ましい。例えば、前記(a)の塩基配列としては、配列番号3又は4で表される塩基配列であってもよく、配列番号3又は4で表される塩基配列を、コードするアミノ酸配列は変更せずに、宿主において使用頻度の高いコドンへ改変した塩基配列であってもよい。コドンの改変は、公知の遺伝子配列変異技術又は人工遺伝子合成によって行うことができる。
【0044】
配列番号3又は4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、塩基配列情報に基づいて化学的に合成してもよく、AR15G−11−7をコードする遺伝子(「AR15G−11−7遺伝子」ということがある。)の全長若しくはエンドグルカナーゼ触媒領域を含む部分領域(AR15G−11−7遺伝子の場合、配列番号2中の32位のチロシン(Y)から326位のセリン(S)までの295アミノ酸残基からなる部分領域をコードする領域)を遺伝子組換え技術によって自然界から取得したものであってもよい。AR15G−11−7遺伝子の全長又はその部分領域は、例えば、自然界から微生物を含むサンプルを取得し、当該サンプルから回収されたゲノムDNAを鋳型として、配列番号3又は4で表される塩基配列に基づいて常法により設計したフォワードプライマーとリバースプライマーを用いてPCRを行うことによって得ることができる。当該サンプルから回収したmRNAを鋳型として逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型としてもよい。なお、鋳型となる核酸を回収するサンプルは、温泉土壌等の高温環境下から採取されたサンプルであることが好ましい。
【0045】
前記(d)の塩基配列において、配列番号3又は4で表される塩基配列との配列同一性は、80%以上100%未満であれば特に限定されないが、85%以上100%未満であることが好ましく、90%以上100%未満であることがより好ましく、95%以上100%未満であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、塩基配列同士の配列同一性(相同性)は、2つの塩基配列を、対応する塩基が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除く塩基配列全体に対する一致した塩基の割合として求められる。塩基配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。本発明における塩基配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTNにより得られたアライメントを元にした計算によって得られる。
【0047】
例えば、前記(b)、(c)、又は(d)の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドに対して、1又は2以上の塩基を欠失、置換若しくは付加することによって人工的に合成することができる。また、前記(b)、(c)、又は(d)の塩基配列としては、AR15G−11−7遺伝子のホモログ遺伝子の全長配列又はその部分配列であってもよい。AR15G−11−7遺伝子のホモログ遺伝子は、塩基配列が既知の遺伝子のホモログ遺伝子を取得する際に用いられる遺伝子組換え技術によって取得することができる。
【0048】
本発明に係るポリヌクレオチドは、エンドグルカナーゼ触媒領域をコードする領域のみを有するものであってもよく、当該領域に加えて、セルロース結合モジュール、リンカー配列、各種シグナルペプチド、各種タグ等をコードする領域を有していてもよい。
【0049】
[発現ベクター]
本発明に係る発現ベクターは、前記本発明に係るポリヌクレオチドが組込まれており、宿主細胞において、少なくとも90℃、pH5.5の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドを発現し得る。すなわち、前記本発明に係るポリヌクレオチドが、前記本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを発現し得る状態で組込まれた発現ベクターである。具体的には、上流から、プロモーター配列を有するDNA、前記本発明に係るポリヌクレオチド、及びターミネーター配列を有するDNAからなる発現カセットが、発現ベクターに組込まれていることが必要である。なお、周知の遺伝子組み換え技術を用いることにより、ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込むことができる。ポリヌクレオチドの発現ベクターへの組み込みでは、市販の発現ベクター作製キットを用いてもよい。
【0050】
本発明及び本願明細書において、発現ベクターとは、上流から、プロモーター配列を有するDNA、外来DNAを組込むための配列を有するDNA、及びターミネーター配列を有するDNAを含むベクターである。
【0051】
当該発現ベクターとしては、大腸菌等の原核細胞へ導入されるものであってもよく、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、哺乳培養細胞、又は植物細胞等の真核細胞へ導入されるものであってもよい。これらの発現ベクターとしては、それぞれの宿主に応じて通常用いられる任意の発現ベクターを用いることができる。
【0052】
本発明に係る発現ベクターは、前記本発明に係るポリヌクレオチドのみならず、薬剤耐性遺伝子等も組込まれた発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターにより形質転換された細胞と形質転換されていない細胞の選抜を容易に行うことができるためである。当該薬剤耐性遺伝子として、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びビアラホス耐性遺伝子等がある。
【0053】
[形質転換体]
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る発現ベクターが導入されている。当該形質転換体中では、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを発現させ得る。発現ベクターを導入する宿主としては、大腸菌等の原核細胞であってもよく、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、哺乳培養細胞、又は植物細胞等の真核細胞であってもよい。大腸菌の形質転換体を培養することにより、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを、より簡便かつ大量に生産することができる。一方で、真核細胞内ではタンパク質に糖鎖修飾が施されるため、真核細胞の形質転換体を用いることにより、原核細胞の形質転換体を用いた場合よりも、より耐熱性に優れた超耐熱性エンドグルカナーゼを生産し得る。
【0054】
発現ベクターを用いて形質転換体を作製する方法は、特に限定されるものではなく、形質転換体を作製する場合に通常用いられている方法により行うことができる。当該方法として、例えば、ヒートショック法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、及びPEG(ポリエチレングリコール)法等がある。このうち、宿主が植物細胞である場合には、パーティクルガン法又はアグロバクテリウム法で行うことが好ましい。
【0055】
宿主として、原核細胞、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、又は哺乳培養細胞等を用いた場合には、得られた形質転換体は、一般的には、形質転換前の宿主と同様にして、常法により培養することができる。
【0056】
[超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法]
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法は、前記本発明に係る形質転換体内で、超耐熱性エンドグルカナーゼを生産する方法である。前記本発明に係るポリヌクレオチドが、発現の時期等の制御能を有していないプロモーターの下流に組込まれている発現ベクターを用いて製造された形質転換体内では、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが恒常的に発現している。一方で、特定の化合物や温度条件等によって発現を誘導するいわゆる発現誘導型プロモーターを用いて製造された形質転換体に対しては、それぞれの発現誘導条件に適した誘導処理を行うことにより、当該形質転換体内に超耐熱性エンドグルカナーゼを発現させる。
【0057】
形質転換体によって生産された超耐熱性エンドグルカナーゼは、当該形質転換体内に留めた状態で使用してもよく、当該形質転換体から抽出・精製してもよい。
【0058】
形質転換体から本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを抽出又は精製する方法は、当該超耐熱性エンドグルカナーゼのグリコシド加水分解活性を損なわない方法であれば、特に限定されるものではなく、細胞や生体組織からポリペプチドを抽出する場合に通常用いられている方法によって抽出することができる。当該方法として、例えば、形質転換体を適当な抽出バッファーに浸し、超耐熱性エンドグルカナーゼを抽出した後、抽出液と固形残渣に分離する方法が挙げられる。当該抽出バッファーとしては、界面活性剤等の可溶化剤を含有するものが好ましい。形質転換体が植物である場合には、抽出バッファーに浸す前に、予め当該形質転換体を細断又は粉砕しておいてもよい。また、抽出液と固形残渣を分離する方法としては、例えば、濾過方法、圧縮濾過方法、又は遠心分離処理方法等の公知の固液分離処理を用いることができ、抽出バッファーに浸した状態の形質転換体を搾ってもよい。抽出液中の超耐熱性エンドグルカナーゼは、塩析法、限外濾過法、又はクロマトグラフィー法等の公知の精製方法を用いて精製することができる。
【0059】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを、形質転換体内で分泌型シグナルペプチドを有する状態で発現させた場合には、当該形質転換体を培養した後、得られた培養物から形質転換体を除いた培養液上清を回収することにより、簡便に超耐熱性エンドグルカナーゼを含む溶液を得ることができる。また、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼが、Hisタグ等のタグを有している場合、当該タグを利用したアフィニティクロマトグラフィ法により、抽出液や培養上清中の超耐熱性エンドグルカナーゼを簡便に精製することができる。
【0060】
すなわち、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法は、前記本発明に係る形質転換体内で、超耐熱性エンドグルカナーゼを生産すること、及び所望により前記形質転換体から前記超耐熱性エンドグルカナーゼを抽出し精製することを含む。
【0061】
[グリコシド加水分解酵素混合物]
前記本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼ、又は前記本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼと、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素を含むグリコシド加水分解酵素混合物として使用することもできる。前記本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼは、形質転換体内に含まれた状態のものであってもよく、形質転換体から抽出又は精製されたものであってもよい。本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼを、その他のグリコシド加水分解酵素との混合物として多糖類の加水分解反応に用いることにより、難分解性であるリグノセルロースをより効率よく分解させることができる。
【0062】
当該グリコシド加水分解酵素混合物に含まれる前記超耐熱性エンドグルカナーゼ以外のその他のグリコシド加水分解酵素としては、リグノセルロースの加水分解活性を有するものであれば特に限定されるものではない。当該グリコシド加水分解酵素混合物に含まれる前記超耐熱性エンドグルカナーゼ以外のその他のグリコシド加水分解酵素としては、例えば、キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ等のヘミセルラーゼ、セロビオハイドロラーゼ、β−グルコシダーゼ、又はエンドグルカナーゼ等が挙げられる。本発明に係るグリコシド加水分解酵素混合物としては、ヘミセルラーゼとエンドグルカナーゼの少なくとも一方を含むものが好ましく、ヘミセルラーゼとエンドグルカナーゼを両方含むものがより好ましい。中でも、キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、セロビオハイドロラーゼ、及びβ−グルコシダーゼからなる群より選択される1種以上のグリコシド加水分解酵素を含むものが好ましく、キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、セロビオハイドロラーゼ、及びβ−グルコシダーゼを全て含むものがより好ましい。
【0063】
当該グリコシド加水分解酵素混合物に含まれるその他のグリコシド加水分解酵素は、少なくとも85℃でグリコシド加水分解酵素活性を有する耐熱性グリコシド加水分解酵素であることが好ましく、70〜90℃でグリコシド加水分解酵素活性を有する耐熱性グリコシド加水分解酵素であることがより好ましい。当該グリコシド加水分解酵素混合物に含まれる全ての酵素が耐熱性であることにより、当該グリコシド加水分解酵素混合物によるリグノセルロースの分解反応を高温条件下で効率よく行うことができる。すなわち、当該グリコシド加水分解酵素混合物が耐熱性グリコシド加水分解酵素のみを含む場合、当該グリコシド加水分解酵素混合物をリグノセルロース糖化処理に用いることにより、糖化温度70〜90℃の高温環境下でリグノセルロース加水分解反応を行うことが可能になる。この高温糖化により、酵素量と糖化時間を著しく減らすことができ、糖化コストが大幅に削減される。
【0064】
[リグノセルロース分解物の製造方法]
本発明に係るリグノセルロース分解物の製造方法は、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼによりセルロースやへミセルロースを加水分解して、オリゴ糖を産生することによってリグノセルロース分解物を得る方法である。具体的には、ヘミセルロース若しくはセルロースを含む材料を、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼ、本発明に係る形質転換体、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼ、又は本発明に係るグリコシド加水分解酵素混合物に接触させることにより、ヘミセルロース若しくはセルロース分解物を生産する。
【0065】
ヘミセルロース、若しくはセルロースを含む材料としては、ヘミセルロース、若しくはセルロースが含まれていれば特に限定されるものではない。当該材料としては、例えば、雑草や農業系廃棄物等のセルロース系バイオマス、又は古紙等が挙げられる。当該セルロースを含む材料は、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼと接触させる前に、破砕若しくは細断等の物理的処理、酸若しくはアルカリ等による化学処理、又は適当なバッファーへの浸漬又は溶解処理等を行っておくことが好ましい。
【0066】
本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼによるヘミセルロースの加水分解反応の反応条件は、当該超耐熱性エンドグルカナーゼがエンドグルカナーゼ活性を示す条件であればよく、エンドグルカナーゼ活性とキシラナーゼ活性を示す条件であることが好ましい。例えば、40〜100℃、pH5.0〜8.0で反応を行うことが好ましく、70〜100℃、pH5.0〜7.0で反応を行うことがより好ましく、80〜100℃、pH5.0〜7.0で反応を行うことがさらに好ましい。前記加水分解反応の反応時間は、加水分解に供されるセルロースを含む材料の種類、前処理の方法、又は量等を考慮して適宜調整される。例えば、10分間〜100時間、セルロース系バイオマスを分解する場合には、1〜100時間の反応時間で前記加水分解反応を行うことができる。
【0067】
リグノセルロースの加水分解反応には、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼに加えて、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素を用いることも好ましい。その他のグリコシド加水分解酵素としては、前記グリコシド加水分解酵素混合物に含められるグリコシド加水分解酵素と同様のものを用いることができ、少なくとも85℃で、好ましくは少なくとも70〜90℃でグリコシド加水分解酵素活性を有する耐熱性グリコシド加水分解酵素であることが好ましい。また、当該リグノセルロース分解物の製造方法には、本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼ、本発明に係る形質転換体、又は本発明に係る超耐熱性エンドグルカナーゼの製造方法によって製造された超耐熱性エンドグルカナーゼに代えて、前記グリコシド加水分解酵素混合物を用いてもよい。
【実施例】
【0068】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]温泉土壌からの新規超耐熱性エンドグルカナーゼのクローニング
<1> 温泉土壌からのDNA抽出と全ゲノムシーケンス(Whole Genome Sequence、WGS)
超耐熱性エンドグルカナーゼの遺伝子探索を目的として、中性〜弱アルカリ性温泉から土壌DNAを採取し、これらの土壌を構成する微生物叢メタゲノムDNAの塩基配列解読を行った。
中性〜弱アルカリ性温泉土壌サンプルとして、野外にて高温の温泉が噴き出している日本国内の3ヶ所、5地点(メタゲノムDNAサンプルN2、AR19、AR15、OJ1、及びH1)から、土壌、泥、バイオマットを含む温泉水を採取した。これらの温泉土壌サンプルは、採取時の温度58〜78℃、pH7.2〜8のレンジにあった。
【0070】
採取した温泉土壌サンプル各10gから、DNA抽出キット(ISOIL Large for Beads ver.2、NIPPON GENE社製)を使い、DNAを抽出した。抽出されたDNAのうち5μgに対して、ロシュダイアグノスティックス社製のシーケンサーGS FLX Titanium 454を用いて、メタゲノムDNAのショットガンシーケンスを行った。残りのDNAは、エンドグルカナーゼ遺伝子のPCRクローニングに用いた。
温泉土壌サンプルAR15について、メタゲノムDNAの配列解読を行い、平均リード長370bp、総リード数5,419,406個、総ゲノム解読量2,007,725,040bpの全ゲノムシーケンス(WGS)データセットを得た。
【0071】
<2> 温泉メタゲノムデータのアセンブルと統計量
454シーケンサーで読みとられた塩基配列は、Roche 454の出力(sffファイル)をPyroBayes(Quinlan et al., Nature Methods,2008,vol.5,p.179-81.)にて再ベースコールし、FASTA形式の配列ファイル及びQuality値ファイルを取得した。得られたシーケンスリードは、端を切り落とし品質を上げ、454 Life SciencesのアセンブルソフトウェアNewbler version 2.3を使ってアセンブルした。アセンブルは、「minimum acceptable overlap match (mi)=0.9」、「option:−large(for large or complex genomes,speeds up assembly,but reduces accuracy.)」に設定して行った。
100bp以上にアセンブルされた総コンティグ長は、 合計118,600,846bpであり、このデータセットをセルラーゼ酵素遺伝子解析に用いた。リード総数5,419,406リードのうち4,805,640リードが、平均で1,146bp以上のコンティグにアセンブルされ(計103,508コンティグ)、このうち最大コンティグ長は151,585bpであった。
【0072】
<3> エンドグルカナーゼのオープンリーディングフレーム(ORF)予測
UniProtデータベース(http://www.uniprot.org/)からEC番号が3.2.1.4(セルラーゼ)、3.2.1.21(β−グルコシダーゼ)、3.2.1.37(β−キシロシダーゼ) 、3.2.1.91(セルロース 1,4−β−セロビオシダーゼ)、3.2.1.8(エンド1,4−β−キシラナーゼ)の配列をダウンロードし(アクセス日:2011/12/9)、これらグリコシド加水分解酵素遺伝子のプロテオームローカルデータベースを構築した。アノテーションソフトウェアOrphelia(Hoff et al.,Nucleic Acids Research,2009,37(Web Server issue:W101-W105))を使用して、前記<2>で得たコンティグ配列から、遺伝子領域(=オープンリーディングフレーム)を推定した(Orphelia option:default(model=Net700,maxoverlap=60))。推定されたORFからグリコシド加水分解酵素遺伝子を抽出するために、BLASTP(blastall ver. 2.2.18)を使い、前記ローカルデータベースに参照した。BLASTPのoption条件は、「Filter query sequence=false」、「Expectation value(E)<1e
−20」[以下、デフォルト値:Cost to open a gap=−1、Cost to extended gap=−1、X dropoff value for gapped alignment=0、Threshold for extending hits=0、Word size=default]とし、ヒットしたORF配列をグリコシド加水分解酵素遺伝子として収集した。収集された塩基配列は、セルラーゼ、エンドヘミセルラーゼ、脱分岐酵素等のグリコシド加水分解酵素を含んでいた。
【0073】
<4> 遺伝子のグリコシド加水分解酵素(GH)ファミリー分類
前記<3>で収集された塩基配列について、タンパク質の機能領域配列データベースpfam HMMs(Pfam version 23.0 and HMMER v2.3;Finn et al.,Nucleic Acids Research Database,2010,Issue 38,p.D211-222)を基準に、機能分類を行った。具体的には、タンパク質モチーフ検索プログラムHMMER(Durbin et al.,‘The theory behind profile HMMs. Biological sequence analysis: probabilistic models of proteins and nucleic acids’, 1998,Cambridge University Press.;hmmpfam(Ver.2.3.2)、E−value cutoff<1e
−5; Database=Pfam_fs(models that can be used to find fragments of the represented domains in a sequence.))を用いて、Pfam領域データベースとの相同性から、前記<3>で収集された各塩基配列についてグリコシド加水分解酵素(GH)ファミリーを決定した。なお、GH触媒ドメインの配列を70%以上カバーしているものを、各ファミリーに属する酵素遺伝子としてカウントした。
【0074】
メタゲノムAR15シーケンスデータを用いたBLASTPによる相同性検索から、エンドグルカナーゼ配列として106個のORFがエンドグルカナーゼ遺伝子と予測された。このORF106個のGHファミリー分類を表1に示す。表1に示すように、メタゲノムAR15から、GH5ファミリーに属するエンドグルカナーゼ完全長ORF13個と、GH9ファミリーに属する完全長ORF4個と、GH12ファミリーに属する完全長ORF4個とが得られた。エンドグルカナーゼ遺伝子と推定された全ての完全長ORFについて、プライマーを設計し、温泉土壌メタゲノムDNAからPCRにより遺伝子をクローニングした。この結果、GH12ファミリーに属しエンドグルカナーゼ配列を持つORFであるAR15G−11からエンドグルカナーゼ遺伝子が単離された。
【0075】
【表1】
【0076】
<5> オープンリーディングフレームAR15G−11
オープンリーディングフレームAR15G−11(配列番号1)は、353アミノ酸残基からなるポリペプチドをコードし、当該ポリペプチドは1位のアミノ酸残基が開始コドンメチオニン(M)であり、3’末端が終始コドンで終わる完全長配列(配列番号3)である。モチーフの配列相同性から、オープンリーディングフレームAR15G−11は、32位のチロシン(Y)から326位のセリン(S)までの295アミノ酸残基がGH5触媒ドメインをコードしていると推測された。また、シグナル配列予測ソフトウェア SignalP 4.1による分泌シグナルは検出されなかった。当該ORFと最も配列同一性が高かった既知アミノ酸配列は、カムチャッカの噴火口からメタゲノム手法により得られたGHファミリー5に属するセルラーゼuncultured organism(GenBank: AEC45566.1)であった。ClustalWアルゴリズムにより算出した両者のアミノ酸配列の相同性は、GH5触媒領域について76%であったため、当該ORFは新規な配列であると確認された。
【0077】
図1に、オープンリーディングフレームAR15G−11がコードするポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)と、GHファミリー5に属するセルラーゼuncultured organism(GenBank: AEC45566.1)のアミノ酸配列(配列番号8)のアライメントを示す。
図1中、黒白反転のアミノ酸は、これらの全アミノ酸配列において同一アミノ酸残基(identical)を示し、「−」は欠失(ギャップ)を示す。
【0078】
<6> オープンリーディングフレームAR15G−11からの遺伝子クローニング
配列番号7で表される塩基配列からなるフォワードプライマー(5’−CACCATGACCCCGACGGCTGTCCT−3’:配列番号5で表される塩基配列の5’末端側に4塩基(CACC)を付加したもの。5’側に付加したCACCは、ベクターに挿入するための配列である。)と配列番号6で表される塩基配列からなるリバースプライマー(5’−TCACTCCATCAGGCGGCGG−3’)を用い、ゲノムDNA増幅キット(GenomiPhi V2 DNA Amplification Kit、GEヘルスケア社製)で増幅した温泉土壌DNAをテンプレートにして、PCRを行った。配列番号5で表される塩基配列は、配列番号3で表される塩基配列の1〜20位の塩基からなる部分配列と相同的な(同一の)塩基配列である。また、配列番号6で表される塩基配列は、配列番号3で表される塩基配列の1,044〜1,062位の塩基からなる部分配列と相補的な塩基配列である。増幅したPCR産物は、Champion pET Directional TOPO Expression Kits(ライフテクノロジーズ社製)のpET101/D−TOPOベクターに挿入し、One Shot TOP10株に形質転換した。コロニーPCRによりポジティブクローンを選抜し、100mg/Lアンピシリンを含むLB液体培地を用いて37℃、200rpmで17〜20時間培養した後、ミニプレップキット(Wizard plus SV Minipreps DNA Purification System、Promega社製)を用いてプラスミドの調製を行った。調製したプラスミドは、ライフテクノロジーズ社の3730 DNA Analyzerシーケンサーを用いて配列確認を行った。
【0079】
PCRクローニングにより、オープンリーディングフレームAR15G−11から2個の遺伝子クローンAR15G−11−3及びAR15G−11−7を得た。エンドグルカナーゼ候補遺伝子AR15G−11−7の塩基配列(配列番号4)は、オープンリーディングフレームAR15G−11(配列番号3)と同様、 1,062bpを含むが、2塩基異なっていた。すなわち、896番目の塩基がオープンリーディングフレームAR15G−11ではA、クローニングされたAR15G−11−7遺伝子においてはGであり、 932番目の塩基がオープンリーディングフレームAR15G−11ではA、AR15G−11−7遺伝子においてはGであった。この2ヶ所の塩基の違いにより、両者がコードするポリペプチドのアミノ酸配列も異なっており、オープンリーディングフレームAR15G−11のアミノ酸配列(配列番号1)とエンドグルカナーゼ候補遺伝子AR15G−11−7のアミノ酸配列(配列番号2)は2アミノ酸残基異なっていた。すなわち、299位のアミノ酸残基がオープンリーディングフレームAR15G−11ではグルタミン(Q)、AR15G−11−7遺伝子においてはアルギニン(R)であり、 311位のアミノ酸残基がオープンリーディングフレームAR15G−11ではグルタミン酸(E)、AR15G−11−7遺伝子においてはグリシン(G)であった。
【0080】
<7> AR15G−11−7遺伝子の遺伝子発現及び酵素タンパクの精製
シーケンス確認後、目的遺伝子をもつプラスミドを、ヒートショック法によりタンパク質発現用大腸菌へ導入した。形質転換用コンピテントセルは、Rosetta−gamiB(DE3)pLysS株(Merck社製)を用いた。目的の遺伝子をもつ大腸菌を100mg/Lアンピシリンを含むLB培地に植菌し、OD
600=0.2〜0.8程度まで培養した後、IPTG(Isopropyl−β−D(−)−thiogalactopyranoside)を添加し、さらに20時間培養することによって、目的タンパク質の発現誘導を行った。培養後、遠心分離を行って大腸菌を回収し、培養液の1/10容量の50mM Tris−HCl Buffer(pH8.0)を加えて懸濁した。その後、超音波破砕装置BioRuptorUCD−200T(コスモバイオ社製)を用いて、30秒間破砕−30秒間休止工程を10回繰り返し、目的タンパク質を含む遺伝子組換え大腸菌の粗抽出物を得た。当該遺伝子組換え大腸菌粗抽出物を70℃で2時間熱処理した後、遠心分離処理を行って得られた上清を、粗酵素液とした。
【0081】
酵素タンパク質の精製を行う場合には、前記と同様に培養及び遠心分離して得られた菌体の懸濁液に対して、超音波破砕装置astrason3000(MISONIX社製)を用いて、5分間破砕−5分間休止工程を7〜8サイクル繰返し、目的タンパク質を含む遺伝子組換え大腸菌の粗抽出物を得た。当該遺伝子組換え大腸菌粗抽出物をフィルター(孔径φ=0.45μm、ミリポア社製)で濾過し、得られた濾液を遺伝子組換え大腸菌破砕上清とした。
【0082】
当該遺伝子組換え大腸菌破砕上清に、終濃度500mMとなるようにNaClを加えた後、500mMのNaClを含む50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)で平衡化したイオン交換カラムHisTrap FF(GEヘルスケア社製)に充填し、中高圧液体クロマトグラフィーシステムAKTA design(GEヘルスケア社製)を用いて、500mMのNaCl及び500mMのイミダゾールを含む50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)にて0〜100%の濃度勾配でタンパク質を分画した。CMC加水分解活性のあった分画は、まとめて混合した後、遠心式の限外濾過膜VIVASPIN 20(Sartorius stedim社製)によって750mMの硫酸アンモニウムを含む50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)へ溶液交換した。溶液交換後のCMC加水分解活性分画を、同液で平衡化した疎水性相互作用分離カラムHiTrap Phnenyl HP(GEヘルスケア社製)に充填し、50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)にて0〜100%の濃度勾配でタンパク質を分画した。CMC加水分解活性のあった分画は、まとめて混合した後に、液量が8mL程度になるまでVIVASPIN 20を用いて濃縮した。濃縮したサンプルは、150mMのNaClを含む50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)で平衡化したゲル濾過カラムHiload26/60 superdex200 pg(GEヘルスケア社製)に添加し、カラム体積の1〜1.5倍容の同バッファーを流速2〜3mL/minで流すことによって分画した。CMC加水分解活性のあった分画は、まとめて混合した後、VIVASPIN 20によって50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)への溶液交換と濃縮を行い、HiTrap Q HP(GEヘルスケア社製)を用いて、1MのNaClを含む50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)にて0〜50%の濃度勾配でタンパク質を分画した。CMC加水分解活性のあった分画は、まとめて混合した後、50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)への溶液交換と濃縮を行い、終濃度約1mg/mLの精製酵素を得た。
【0083】
<8> AR15G−11−7のCMC加水分解活性測定
まず、CMC(カルボキシメチルセルロース、Sigma社製)を基質とし、AR15G−11−7遺伝子がコードする酵素タンパク質(AR15G−11−7)のCMC加水分解活性を調べた。計測には、前記<7>で得られた粗酵素液、又は前記<7>で得られた精製酵素を0.05MのTris−HClバッファー(pH8.0)で0.2mg/mLに希釈した精製酵素液を用いた。
具体的には、50μLの1質量%CMC水溶液、25μLの200mM 酢酸バッファー(pH5.5)、25μLの粗酵素液又は精製酵素液からなる混合液を、10分間又は15分間反応させることにより行った。全ての計測において、粗酵素液又は精製酵素液の代わりに50mMのTris−HClバッファー(pH8.0)を入れて同条件で反応させた混合液をコントロール区とした。また、基質溶液と酵素は、反応温度で5分間それぞれ別々に保温した後に混合し、反応開始とした。
反応終了後は、等量の3,5−dinitrosalicylic acid reagent(DNS溶液)を加えて100℃で5分間加熱処理し、5分間の氷冷後に遠心分離処理し、上清を得た。上清中の還元糖量を、分光光度計を用いて540nmの吸光度を計測し、グルコースで作成した検量線を用いて算出し、コントロール区との差分から酵素の加水分解によって生成した還元糖量を求めた。精製酵素を用いた場合には、1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素活性を1Uとし、タンパク質量で除した値を比活性(U/mg)とした。この結果、粗酵素液と精製酵素液のいずれも、CMC加水分解活性を有することが確認された。
【0084】
<9> AR15G−11−7の基質特異性
AR15G−11−7遺伝子がコードする酵素タンパク質(AR15G−11−7)に対して、様々なセルロース基質とヘミセルロース基質に対する加水分解活性を調べた。計測には、前記<7>で得られた粗酵素液を用いた。また、基質として、アビセル粉末(微結晶性セルロース粉末、Merck社製)、PSA、CMC、大麦由来β−グルカン(Megazyme社製)、キシラン(カバ材由来、Sigma社製)、リケナン(MP Biomedicals社製)、ラミナリン(Laminaria digitata由来、Sigma社製)、PNPC(Sigma社製)、PNPX(Sigma社製)、及びPNPG(Sigma社製)を用いた。
PSAはリン酸溶液でアビセル粉末(微結晶性セルロース粉末、Merck社製)を一旦溶解させた後に滅菌蒸留水を加えて析出させた後、pHが5以上になるまで洗浄することによって調製した。なお、以降の実験に用いたPSAは全て当該方法により調製した。
【0085】
具体的には、まず、反応液として、25μLの200mM 酢酸バッファー(pH5.5)と7μLの粗酵素液と18μLの精製水からなる混合液を90℃で5分間プリインキュベーションした後、さらに同様に保温した50μLの各基質溶液(アビセル粉末、PSA、CMC、β−グルカン、キシラン、リケナン、及びラミナリンは1質量%水溶液、PNPC、PNPG、及びPNPXは3.4mM水溶液)を添加し、得られた混合液を90℃で15分間インキュベートすることにより酵素反応を行った。全ての計測において、精製酵素溶液の代わりに50mM Tris−HClバッファー(pH8.0)を入れて同条件で反応させた混合液をコントロール区とした。
【0086】
反応終了後、アビセル粉末、PSA、CMC、キシラン、リケナン、又はラミナリンを基質とした反応においては、前記<8>のAR15G−11−7のCMC加水分解活性を調べた場合と同様にして、加水分解によって生成した還元糖量を求めた。ただし、キシランの場合は、キシロースで作成した検量線を用いた。
PNPG、PNPX、又はPNPCを基質とした反応においては、反応終了後は、等量の200mM 炭酸ナトリウム水溶液を加えて5分間遠心分離処理し、上清を得た。上清中のp−ニトロフェノール量を、分光光度計を用いて420nmによって吸光度を計測し、p−ニトロフェノールで作成した検量線を用いて算出し、コントロール区との差分から酵素の加水分解によって生成したp−ニトロフェノール量を求めた。
【0087】
各計測は、3回の独立した試行により行い、平均値と標準誤差を求めた。各基質に対する加水分解活性は、CMC加水分解活性を100%とした相対値(Relative activity、%)、すなわち、CMCを基質とした反応で生成された還元糖量を100%とした場合の、反応により生成された還元糖量又はp−ニトロフェノール量の相対値(%)として示した。各基質に対する加水分解活性の相対値(%)を
図2に示す。この結果、AR15G−11−7は、CMC、β−グルカン、PSA、リケナン、及びPNPCに対し加水分解活性を示したが、その他の基質に対しては、ほとんど分解活性は示さなかった。
【0088】
<10> CMC加水分解活性の温度依存性
酵素タンパク質(AR15G−11−7)のCMC加水分解活性の温度依存性を調べた。計測には、前記<7>で得られた精製酵素を0.05MのTris−HClバッファー(pH8.0)で0.2mg/mLに希釈した精製酵素液を用いた。
【0089】
具体的には、25μLの200mM 酢酸バッファー(pH5.5)と25μLの精製酵素液と50μLの1質量%CMC水溶液とからなる混合液を、30、40、50、60、70、80、90、又は100℃で10分間反応させることにより行った。反応終了後、前記<8>と同様にして酵素による加水分解によって生成した還元糖量を求めた。1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素活性を1Uとし、タンパク質量で除した値を比活性(U/mg)として算出した。
【0090】
測定結果を
図3に示す。AR15G−11−7は、温度範囲40〜100℃においてCMC加水分解活性を示した。最も高い活性を示した至適温度(T
opt)は、pH5.5において90℃であった。
【0091】
<11> CMC加水分解活性のpH依存性
酵素タンパク質(AR15G−11−7)のCMC加水分解活性のpH依存性を調べた。計測には、前記<7>で得られた精製酵素を0.05MのTris−HClバッファー(pH8.0)で0.2mg/mLに希釈した精製酵素液を用いた。また、バッファーとして、200mM マッキルベインバッファー(MB)(pH4.0〜8.0)、200mM 酢酸バッファー(SAB)(pH4.0、5.5、6.0)、又は200mM リン酸バッファー(PB)(pH6.0、7.0、8.0)を用いた。
【0092】
具体的には、25μLの各バッファーと25μLの精製酵素液と50μLの1質量%CMC水溶液からなる混合液を、50℃で10分間反応させることにより行った。反応終了後、前記<8>と同様にして酵素による加水分解によって生成した還元糖量を求めた。
【0093】
各pHにおけるCMC加水分解活性は、pH5.5におけるCMC加水分解活性を100%とした相対値(Relative activity、%)、すなわち、pH5.5における反応で生成された還元糖量を100%とした場合の、各反応により生成された還元糖量の相対値(%)として示した。pH5.5におけるCMC加水分解活性を100%とした、各pHにおけるCMC加水分解活性の相対値(%)を
図4に示す。pHは、基質とバッファーと酵素の混合液の実測値をプロットした。
AR15G−11−7は、pH5〜8の範囲において、CMC加水分解活性を示した。至適pHは、50℃でpH5.4(基質、バッファーと酵素の混合液の実測値)であった。
【0094】
<12> CMCを基質としたAR15G−11−7の熱安定性
酵素タンパク質(AR15G−11−7)の熱安定性(耐熱性)を調べるため、80℃で0〜168時間、又は90℃で0〜120分間の予備加温(プリインキュベーション)を行い、酵素活性が無処理区(プリインキュベーション時間:0時間)の50%に低下するプリインキュベーション時間(半減期T
half)を求めた。計測には、前記<7>で得られた粗酵素液を用いた。
【0095】
具体的には、まず、25μLの200mM 酢酸バッファー(pH5.5)と7μLの粗酵素液と18μLの精製水とからなる混合液を、80℃で0、3、6、24、48、72、96、121、168時間保温、又は90℃で0、15、30、60、120分間保温してプリインキュベーションを行った。CMC加水分解活性の測定は、プリインキュベーション後の混合液と1質量%CMC水溶液をそれぞれ別々に90℃で5分間加温した後、当該混合液に等量の1質量%CMC水溶液を添加し、90℃で15分間反応させることにより行った。反応終了後、前記<8>と同様にして酵素による加水分解によって生成した還元糖量を求めた。各計測は、3回の独立した試行により行い、平均値と標準誤差を求めた。
【0096】
CMC加水分解活性は、無処理区の活性を100%とした相対値(%)として示した。各プリインキュベーション時間におけるCMC加水分解活性の相対値(%)を
図5に示す。
図5Aに80℃でプリインキュベーションした結果を、
図5Bに90℃でプリインキュベーションした結果を、それぞれ示す。プリインキュベーション温度80℃及び90℃におけるAR15G−11−7の半減期T
halfは、それぞれ約90時間及び約50分間であった。