【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するために本発明は、ガラス基材上に、一般式M
xWO
yで表される複合酸化タングステンナノ粒子と分散剤からなる被膜を塗布した遮熱ガラスであって、該複合酸化タングステンナノ粒子中の金属MのタングステンWに対するモル比Xが0.8〜1.1の範囲にあり、金属Mが少なくともアルミニウム(Al)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)及びヒ素(As)を含有し、前記複合酸化タングステンナノ粒子の平均粒径が50nm以下であり、かつ前記複合酸化タングステンナノ粒子と分散剤からなる被膜にシランカップリング剤が添加されていることを特徴とする遮熱ガラスである。
【0020】
本発明において、金属Mは、酸化タングステンにおけるタングステン原子を置換するか酸化タングステン中に固溶して存在し、そのことにより酸素欠損を生じさせ、5価のタングステンイオンであるW
5+を効率的に生成させ、酸化タングステンの近赤外光吸収効果、すなわち遮熱効果を促進する。本発明においては、金属Mとして、Al、Sn、Zn及びAsを含有することが必須であるが、これら以外にカリウム(K)、イットリウム(Y)及びジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、ユーロピウム(Eu)、ニオビウム(Nb)及び鉄(Fe)を含有していてもよい。
【0021】
特許文献1では、紫外線遮蔽機能を得るために、紫外線遮蔽機能を有する微粒子を含有させた樹脂シートで貼り合せた合わせガラスとしているのに対して、本発明では、ガラス基材上に塗布する複合タングステン酸化物が、W以外の金属MとしてZnを含有し、さらにAl、Sn、Asを含有させる。これらの作用によって、近赤外線の吸収効果に加えて、紫外線の遮蔽効果を併せ持つことができる。
【0022】
本発明において、金属MのタングステンWに対するモル比Xは、0.8〜1.1であるのがよい。Xが1.1を超えると、金属イオンが過多になって可視光透過率が低下する。逆に、Xが0.8より小さいと、5価のタングステンイオンの生成が不足し、日射透過率が増大してしまう。
【0023】
本発明における複合酸化タングステンナノ粒子は、特許文献2等に開示された公知の方法を利用して作製することができる。すなわち、酸化タングステン原料としては酸化タングステン水和物(H
2WO
4)等を、酸化亜鉛原料としては酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH
3COO)
2・2H
2O)等を、酸化アルミニウム原料としては硫酸アルミニウム水和物(Al
2(SO
4)
3・16H
2O)等を、酸化スズ原料としては塩化スズ二水和物(SnCl
2・2H
2O)等を、三酸化二ヒ素原料としては亜ヒ酸(As(OH)
3)等を、酸化カリウム原料としては水酸化カリウム(KOH)等を、酸化イットリウム原料としては硝酸イットリウム水和物(Y(NO
3)
3・6H
2O)等を、酸化ジルコニウム原料としてはジルコニアナノ粒子分散液等を利用することができる。これら原料を所定の比率で含有させた水溶液を均一に撹拌し、不活性ガス雰囲気中で約650℃の温度で焼成することにより、分子レベルで均一な複合酸化タングステンナノ粒子を得ることができる。
【0024】
なお、複合酸化タングステンナノ粒子の製造方法は前記方法に限定されず、PVD法、CVD法、粉砕法、溶液法、レーザー蒸発法、パルス細線放電法など、本発明の平均粒径と形状を満たす製法であればよい。
【0025】
本発明の、前記複合酸化タングステンと分散剤からなる被膜を塗布した遮熱ガラスは、複合酸化タングステンナノ粒子と分散剤を、ケトン系有機溶剤及び/又はエステル系有機溶剤に分散させた得た分散液を、ガラス基材表面に塗布することによって得ることができる。前記分散液は、攪拌機で撹拌し混合することによって均一にすることが望ましい。
【0026】
分散液中で複合酸化タングステンナノ粒子の分散を安定させるための分散剤として、高分子型分散剤及び/又は界面活性剤型分散剤を添加する必要がある。
【0027】
高分子型分散剤としては、非水系の、陰イオン性のポリカルボン酸部分アルキルエステル系分散剤、非イオン性のポリエーテル系分散剤又は陽イオン性のポリアルキレンポリアミン系分散剤などを用いることができる。
【0028】
界面活性剤型分散剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などの陽イオン界面活性剤、高級脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩、メチルタウリン酸塩などの陰イオン界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグルコシドなどの非イオン界面活性剤あるいはアルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルアミンオキシドなどの両性界面活性剤を用いることができる。
【0029】
前記ケトン系有機溶剤としては、アセトン、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキセニル)シクロヘキサノンメチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどから選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0030】
前記エステル系有機溶剤としては、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸メチル、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、トリプロピレングリコールジアリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、メタクリル酸グリシジルなどから選ばれる一種又は二種以上を用いることができる。
【0031】
ここで、本発明においては、前記分散液に、シランカップリング剤を添加する。添加量としては、0.5〜3重量%が好ましい。分散液中に添加されたシランカップリング剤の作用により、前記複合酸化タングステン被膜とガラス基板との間の密着性を高めることができる。また、本発明の合わせガラスにおいて、前記複合酸化タングステン被膜と前記中間膜の間の密着性を高めることができる。そして、これら2つの界面の密着性を向上させることによって、合わせガラスの安全性の指標であるパンメル値を高めることができる。密着性の向上により、合わせガラスの破損時に、中間膜からガラス破片が脱落しにくくなるからである。
【0032】
前記シランカップリング剤としては、官能基としてエポキシ基を有するものを挙げることができる(例えば、信越化学社製KBM-403やKBE-903)。
【0033】
前記複合酸化タングステンナノ粒子分散液をガラス基材表面に塗布し、250℃で20分乾燥させ、さらに自然乾燥・硬化させるか、あるいは、約120℃で約20分乾燥させ、さらに約200℃で約1時間硬化させるなどの乾燥・硬化工程により、複合酸化タングステンナノ粒子と硬化した分散剤からなる被膜が形成された本発明の遮熱ガラスを得ることができる。
【0034】
本発明において、ガラス基材表面に塗布する前記分散液中の複合酸化タングステンナノ粒子の平均粒径は50nm以下とする。50nm以下とすることにより、複合酸化タングステンナノ粒子の分散状態がよく、可視光の散乱が少ない被膜が得られる。また、ナノ粒子の粒径が小さく、凝集体を形成することなく均一に分散していることから、ナノ粒子の機能が向上し、可視光透過率を高く保ち、日射遮蔽性も向上する。
【0035】
本発明において、平均粒径を50nm以下とした前記複合酸化タングステンナノ粒子を、前記被膜中で良好に安定化させるためには、複合酸化タングステンナノ粒子の周囲を分散剤が取り囲んでいる必要があり、これにより複合酸化タングステンナノ粒子が凝集体を形成することを防止することができる。そのために、後述するように、タングステン原子に対する炭素原子Cのモル比(C/W)を、1000以上とすることが望ましい。1000以下であると凝集体が形成されてしまう。
【0036】
さらに本発明は、前記遮熱ガラスを、中間膜を介して、同寸法のもう1枚のガラス基材と貼り合せた合わせガラスである。
【0037】
ここで、高い可視光線透過率とは、前記複合酸化物タングステン被膜が形成された遮熱ガラスにおいて75%以上であり、該遮熱ガラスを、合わせガラスを構成する1枚のガラスとして用いた合わせガラスにおいて70%以上の透過率である。これらの数値は、特に自動車用フロントガラスとして用いる場合に重要であり、多くの国で法令によって規定されている。
【0038】
優れた日射遮蔽性及び紫外線遮蔽性とは、本発明の遮熱ガラスでは、日射透過率が40%以下、紫外線透過率が1%以下という性能を満足することができることを言い、また、該遮熱ガラスを、合わせガラスを構成する1枚のガラスとして用いた本発明の合わせガラスにおいて、日射透過率が40%以下、紫外線透過率が0.2%以下という性能を満足できることを言う。
【0039】
本発明の遮熱ガラスに用いることのできるガラス基材としては、一般的なクリアガラスであるフロート板ガラスを用いればよい。また、遮熱性を高めるために、グリーンガラスなどの熱線吸収ガラスを用いてもよい。あるいは、紫外線遮蔽性を高めるために、紫外線吸収ガラスを用いることもできる。
【0040】
本発明の合わせガラスに用いることのできる中間膜としては、一般的なPVB膜(ポリビニルブチラール膜)の他、樹脂注入法で得られるアクリル膜やウレタン膜を挙げることができる。