特許第6244601号(P6244601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244601
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】低グルテン酵母加水分解産物
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/30 20060101AFI20171204BHJP
   C12P 19/32 20060101ALI20171204BHJP
   A23L 31/15 20160101ALI20171204BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20171204BHJP
   C12N 9/62 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C12P19/30
   C12P19/32
   A23L31/15
   !C12N9/16 C
   !C12N9/62
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-571425(P2016-571425)
(86)(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公表番号】特表2017-520244(P2017-520244A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(86)【国際出願番号】EP2015064483
(87)【国際公開番号】WO2016001072
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2017年2月6日
(31)【優先権主張番号】14175235.2
(32)【優先日】2014年7月1日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ベーレン, ファン, ペトルス ノルベルトゥス
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−502236(JP,A)
【文献】 特表2010−532981(JP,A)
【文献】 特表2009−525033(JP,A)
【文献】 米国特許第05286630(US,A)
【文献】 特表2004−517832(JP,A)
【文献】 特表2005−528906(JP,A)
【文献】 特表2007−505639(JP,A)
【文献】 特表2007−521805(JP,A)
【文献】 特表2014−505485(JP,A)
【文献】 特開2007−049988(JP,A)
【文献】 特開2009−207464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/30
A23L 31/00−31/15
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテン含有酵母加水分解産物を、5’−リボヌクレオチドを生成するためのホスホジエステラーゼ及びアスペルギルスニガーのプロリン特異的エンドプロテアーゼと接触させ、その結果、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを100ppm未満かつ少なくとも1ppm含み、5’−リボヌクレオチド 5’−GMPおよび/または5’−IMPを更に含む酵母加水分解産物が生成される工程を含み、
前記5’−GMPおよび前記5’−IMPの総量が、酵母加水分解産物のNaCl不含乾燥物に対して、少なくとも1.5%であることを特徴とする、酵母加水分解産物を製造するプロセス。
【請求項2】
得られた前記酵母加水分解産物が、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを50ppm未満含、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
得られた前記酵母加水分解産物が、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを40ppm未満含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
得られた前記酵母加水分解産物が、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを30ppm未満含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
得られた前記酵母加水分解産物が、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを20ppm未満含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記プロリン特異的エンドプロテアーゼがEC3.4.21.26と分類される、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酵母加水分解産物が酵母抽出物または酵母自己消化物である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記酵母加水分解産物が使用済みビール酵母加水分解産物である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酵母が、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)またはトルラ属(Torula)に由来する種である、請求項1からのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記酵母が、サッカロミセス属(Saccharomyces)に由来する種である、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、低グルテン酵母加水分解産物およびポリイル特異的エンドプロテアーゼを用いた、それを製造するプロセスに関する。
【0002】
[発明の背景]
酵母抽出物の製造には、通常、パン酵母およびトルラ(torula)酵母細胞が自己消化にかけられる。一部の酵母原料(例えば、使用済みビール酵母)は、グルテンの残留物(グリアジン)を含有する。その結果、グリアジンを含有する酵母原料に由来する抽出物および懸濁液は、個体群の一部がグリアジンに対して不耐性(セリアック病)があるために、食品用途での使用が限られる。グリアジンを含有する原料から得られる一般的な酵母抽出物(例えば、ビール酵母抽出物)または自己消化物は、許容可能な閾値20ppm(重量)を超える濃度でグリアジンを含有することが確認された。
【0003】
グリアジンを含有する酵母原料からグリアジンを減らすことによって、低濃度のグルテンが存在しないことが必要とされる食品用途で、これらの酵母およびその抽出物を使用することが可能となる。
【0004】
酵母におけるグリアジンの低減に伴う問題は、望ましくない処理の副作用なく、グリアジン含有量を特異的に減らすことである。例えば、グリアジン含有量を減らす目的の処理が、酵母のRNAも分解することは望ましくない。
【0005】
驚くべきことに、加水分解および/または自己消化プロセス中にプロリン特異的エンドプロテアーゼと共にインキュベートすることによって、グリアジンを含有する酵母原料からグリアジンを除去することができることが見出された。驚くべきことに、酵母自己消化物および抽出物の乾燥物含有量に対して、グリアジンを20ppm(重量)未満のレベルまで有効に加水分解することができることが判明した。さらに、加水分解および/または自己消化プロセス中にプロリン特異的エンドプロテアーゼと共にインキュベートすることによって、酵母に存在するRNAは分解されないことが見出された。
【0006】
[定義]
「酵母」は本明細書において、酵母細胞を含む固体、ペーストまたは液体組成物として定義される。好ましくは、酵母細胞は、サッカロミセス属(Saccharomyces)に由来する。その酵母は、一般的なパン酵母を製造するプロセスなどの発酵プロセスで製造され得る。好ましくは、酵母は、ビール醸造プロセスからのサイドストリームとして得られる、使用済みビール酵母などのビール酵母である。
【0007】
「自己消化」は本明細書において、内因性酵母酵素、および任意に外来性添加酵素を使用する、酵母細胞の酵素的分解として定義される。自己消化は、自己消化物および酵母抽出物の両方を生じ得る(以下の定義を参照のこと)。
【0008】
「加水分解」は本明細書において、外来性酵素のみを使用する酵母細胞の酵素的分解として定義される。内在性酵母酵素は最初に、例えば熱ショックによって不活性化される。加水分解によっても、酵母自己消化物および酵母抽出物の両方が生じ得る(以下の定義を参照のこと)。
【0009】
「酵母加水分解産物」は本明細書において、上記で本明細書において定義される自己消化または加水分解によって得られ、かつ以下で本明細書において定義される酵母自己消化物または酵母抽出物を生じる、使用済みビール酵母などの酵母の消化物として定義される。
【0010】
「酵母自己消化物」は、ビール酵母細胞、好ましくは使用済みビール酵母細胞から得られる、濃縮されているが抽出されていない、部分的に可溶性の消化物である。消化は、上記で定義される酵母細胞の加水分解または自己消化によって達成される。ビール酵母自己消化物は、酵母細胞全体に由来する可溶性成分および不溶性成分の両方を含有する(例えば、Food Chemical Codex)。
【0011】
「酵母抽出物」は、ビール酵母細胞の水溶性成分のみを含み、その組成は、主にアミノ酸、ペプチド、炭水化物、および塩である。酵母抽出物は、食用酵母に存在する天然酵素による、かつ/または食品グレード酵素の添加による、つまり上記で定義される自己消化または加水分解による、ペプチド結合の加水分解を通じて生成される(Food Chemical Codex)。
【0012】
「プロテアーゼ」は本明細書において、つまりエキソ式でタンパク質基質中のペプチド結合に作用する、つまりポリペプチド鎖の末端付近に作用する(アミノペプチダーゼは、ポリペプチド鎖のN末端側から、アミノ酸、ジ、トリ、またはそれ以上のオリゴペプチドを切断し、カルボキシペプチダーゼは、ポリペプチド鎖のC末端側から、アミノ酸、ジ、トリ、またはそれ以上のオリゴペプチドを切断する)ヒドロラーゼとして本明細書で定義される(エキソ)ペプチダーゼと異なり、エンド式でタンパク質基質中のペプチド結合に対して作用する、つまりポリペプチド鎖のどこでもペプチド結合を切断するヒドロラーゼとして定義される。エンドプロテアーゼは、その触媒機構に基づいて、サブクラス:セリンエンドプロテアーゼ(EC3.4.21.xx)、システインエンドプロテアーゼ(EC3.4.22.xx)、アスパラギン酸エンドプロテアーゼ(EC3.4.23.xx)およびメタロ−エンドプロテアーゼ(EC3.4.24.xx)に分類される。
【0013】
「プロリン特異的エンドプロテアーゼ」は本明細書において、タンパク質またはオリゴペプチド基質におけるプロリン残基のC末端側のタンパク質またはオリゴペプチド基質を切断するエンドプロテアーゼとして定義される。プロリン特異的エンドプロテアーゼは、EC3.4.21.26として分類されている。その酵素は、哺乳動物原料、細菌(フラボバクテリウム(Flavobacterium))および真菌(アスペルギルス(Aspergillus)、特にアスペルギルスニガー(Aspergillus niger))などの様々な原料から得ることができる。アスペルギルスニガーの酵素は、国際公開第02/45524号パンフレット、国際公開第02/46381号パンフレット、国際公開第03/104382号パンフレットに詳細に記述されている。ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)に由来する適切な真菌酵素が国際公開第2009/144269号パンフレットに開示されている。フラボハクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum)に由来する適切な細菌酵素が国際公開第03068170号パンフレットに開示されている。
【0014】
「グルテン」は、穀物に見られるタンパク質複合体として本明細書で定義され、グリアジンおよびグルテニンタンパク質に分けられる。
【0015】
[本発明の詳細な説明]
第1の態様において、本発明は、グルテン含有酵母加水分解産物をプロリン特異的エンドプロテアーゼと接触させ、その結果、塩不含酵母乾燥物に対してグルテン、またはグリアジンを100ppm未満含む酵母加水分解産物が生じる工程を含むことを特徴とする、酵母加水分解産物を製造するプロセスを提供する。好ましくは、得られる酵母加水分解産物は、塩不含酵母乾燥物に対して、グルテン、またはグリアジンを50ppm未満、さらに好ましくは40ppm未満、さらに好ましくは30ppm、さらに好ましくは20ppm含んでいる。酵母加水分解産物は好ましくは、グルテン、またはグリアジンを少なくとも5ppm、さらに好ましくはグルテン、またはグリアジンを少なくとも4ppm、さらに好ましくはグルテン、またはグリアジンを少なくとも3ppm、さらに好ましくはグルテン、またはグリアジンを少なくとも2ppm含有し得る。最も好ましくは、酵母加水分解産物は、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを少なくとも1ppm含有する。本発明の発明者らは意外なことに、本発明のプロリン特異的エンドプロテアーゼが、その酵母のRNAまたは由来する5’リボヌクレオチドが分解されない、または実質的に分解されず、したがって味覚向上(taste enhancing)5’−リボヌクレオチドへと転化するために利用可能である、低グルテン酵母加水分解産物を提供することを見出した。
【0016】
あらゆるプロリン特異的エンドプロテアーゼを本発明のプロセスにおいて使用することができる。プロリン特異的エンドプロテアーゼは、哺乳動物、植物または微生物起源に由来し得る。適切な微生物のプロリン特異的エンドプロテアーゼは、フラボハクテリウム・メニンゴセプチカム(Flavobacterium meningosepticum)などの細菌またはペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)またはアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)などの真菌に由来する。好ましい実施形態において、本発明のプロセスは、アスペルギルスニガーのプロリン特異的エンドプロテアーゼを使用するプロセスである。この酵素は、Brewer’s Clarexとして市販されており、DSM Food Specialties(デルフト(Delft),オランダ(The Netherlands))から入手することができる。
【0017】
酵母加水分解産物のグルテン含有量を減らすためにプロリン特異的エンドプロテアーゼが使用される工程の、pHおよび温度などの条件は、プロリン特異的エンドプロテアーゼごとに異なるが、種々のプロリン特異的エンドプロテアーゼに関して当技術分野で公知の酵素特性に基づいて、過度な負担なく当業者によって選択され得る。
【0018】
好ましくは、本発明のグルテン含有酵母加水分解産物と接触させるプロリン特異的エンドプロテアーゼの量は、塩不含酵母乾燥物に対してゼロを超え0.5%(w/w)までの範囲内にある。さらに好ましくは、本発明のグルテン含有酵母加水分解産物と接触させるプロリン特異的エンドプロテアーゼの量は、塩不含酵母乾燥物に対して、0.01〜0.5の範囲内、さらに好ましくは0.02〜0.1または〜0.01w/wの範囲内にある。
【0019】
その酵母加水分解産物は、上記で定義される酵母抽出物または酵母自己消化物であり得る。酵母はいずれかの適切な酵母であり、好ましくは、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces):カンジダ属(Candida)またはトルラ属(Torula)、好ましくはサッカロミセス属(Saccharomyces)、さらに好ましくは、パン酵母として使用されるサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)または例えばラガービールの製造に醸造産業で使用される、ビール酵母サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)またはその異名Saccharomyces pastorianusから選択される。好ましい実施形態において、酵母は、ビール酵母であり、さらに好ましくはビール醸造プロセスの副生成物である使用済みビール酵母である。
【0020】
上記で定義される自己消化または加水分解など、当技術分野でよく知られている方法によって、酵母加水分解産物は酵母細胞から生成され得る。酵母の製造プロセスにおいて、グルテンを含有する原料が使用されるため、酵母細胞は、例えばグルテンを含有し得る。特にビール酵母、さらに好ましくは使用済みビール酵母は、ビール醸造プロセスで使用されるオオムギまたはコムギからの残留グルテンを含有し得る。
【0021】
本発明のプロセスにおいて、塩不含酵母乾燥物に対して、グルテン、またはグリアジンを100ppm未満含む酵母加水分解産物が製造される。好ましくは、得られる酵母加水分解産物は、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンまたはグリアジンを50ppm未満、さらに好ましくは40ppm未満、さらに好ましくは30ppm未満、さらに好ましくは20ppm未満含んでいる。そのプロセスで使用されるプロリン特異的エンドプロテアーゼは、プロリン特異的エンドプロテアーゼについて上述の特異性でグルテンを切断することによって、酵母加水分解産物中に存在するグルテンの量を低減する。グルテン100ppm未満の酵母加水分解産物を得るために、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、100ppmを超える量を含有しなければならず、そうでなければ、プロリン特異的エンドプロテアーゼはグルテン含有量を低減することができないことは、当業者であれば容易に理解されよう。同様に、グルテン50ppm未満の酵母加水分解産物を得るために、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、50ppmを超える量を含有しなければならず、またグルテン40ppm未満の酵母加水分解産物を得るために、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、40ppmを超える量を含有しなければならず、さらに、グルテン30ppm未満の酵母加水分解産物を得るために、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、30ppmを超える量を含有しなければならず、さらに、グルテン20ppm未満の酵母加水分解産物を得るために、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、20ppmを超える量を含有しなければならない。一般に、プロリン特異的エンドプロテアーゼを用いた工程にかけられる酵母加水分解産物は、プロリン特異的エンドプロテアーゼがグルテン含有量を低減する工程後に得られる酵母加水分解産物よりも、多いグルテンを含有しなければならない。
【0022】
グルテン含有酵母加水分解産物をプロリン特異的エンドプロテアーゼと接触させて、塩不含酵母乾燥物に対してグルテンを100ppm未満、少なくとも1ppm含む酵母加水分解産物が生成される、本発明の工程に5’−リボヌクレオチドを生成するためのホスホジエステラーゼも、任意に5’−AMPを5’−IMPへと転化する酵素的処理を含ませることがさらに好ましい。ホスホジエステラーゼと本発明のプロリン特異的エンドプロテアーゼとの組み合わせを用いる利点は、増量した5’−リボヌクレオチドと共に低グルテン酵母加水分解産物が得られることである。
【0023】
第2の態様において、本発明は、塩不含酵母乾燥物に対してグルテン、またはグリアジンを100ppm未満含む酵母加水分解産物を提供する。好ましくは、得られる酵母加水分解産物は、塩不含酵母乾燥物に対してグルテン、またはグリアジンを50ppm未満、さらに好ましくは40ppm未満、さらに好ましくは30ppm未満、さらに好ましくは20ppm未満含んでいる。酵母加水分解産物は好ましくは、グルテンを少なくとも5ppm、さらに好ましくはグルテンまたはグリアジンを少なくとも4ppm、さらに好ましくはグルテン、またはグリアジンを少なくとも3ppm、さらに好ましくはグルテン、またはグリアジンを少なくとも2ppm含有し得る。最も好ましくは、酵母加水分解産物は、塩不含酵母乾燥物に対してグルテン、またはグリアジンを少なくとも1ppm含有する。酵母加水分解産物は、いずれかの適切なプロセスによって得ることができるが、好ましくは、本発明の第1態様のプロセスによって得ることができる、または得られる。
【0024】
第2の態様の好ましい実施形態において、本発明の酵母加水分解産物はさらに、5’−リボヌクレオチドを含む。「5’−リボヌクレオチド」という用語は、本明細書において遊離5’−リボヌクレオチドまたはその塩のいずれかを意味することが意図される。5’−IMP、5’−GMPは、その風味向上特性について知られている。それらは、特定のタイプの食品において風味および旨味を向上させることができる。したがって、本発明の酵母加水分解産物の利点は、少量のグリアジンおよび/またはグルテンと組み合わせて香味向上特性を提供することである。
【0025】
本発明の酵母加水分解産物中の5’−リボヌクレオチドの重量パーセント(%w/w)は、酵母加水分解産物のNaCl不含乾燥物の重量に対するものであり、5’−リボヌクレオチドの二ナトリウム塩七水和物(2Na.7HO)として計算される。
【0026】
第1または第2の態様の更なる好ましい実施形態において、本発明の酵母加水分解産物はさらに、5’−GMP(5’−グアニンモノホスフェート)および/または5’−IMP(5’−イノシンモノホスフェート)を含む。好ましくは、本発明の酵母加水分解産物は、酵母加水分解産物がそれから得られる、酵母細胞中に存在するRNAの量で最大限に得ることができる5’−GMPおよび/または5’−IMPの量に対して、60%を超える、好ましくは70%を超える、さらに好ましくは80%超える、さらに好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える5’−GMPおよび/または5’−IMPを含む。
【0027】
好ましくは、本発明の酵母加水分解産物中の5’−GMPおよび5’−IMPの総量は、酵母加水分解産物のNaCl不含乾燥物に対して少なくとも1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5、4%、5%または少なくとも6%である。酵母加水分解産物が酵母自己消化物である場合には、5’−GMPおよび5’−IMPの総量は、酵母自己消化物のNaCl不含乾燥物に対して少なくとも1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5、4%、5%または少なくとも6%である。本発明の酵母加水分解産物が酵母抽出物である場合には、酵母抽出物のNaCl不含乾燥物に対して少なくとも1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5、4%、5%または少なくとも6%である。好ましくは、本発明の酵母自己消化物または酵母抽出物中に存在する5’−GMPおよび5’−IMPの総量は、酵母自己消化物または酵母抽出物のNaCl不含乾燥物に対して10%未満、好ましくは6%未満、さらに好ましくは5%未満、または4%未満である。
【0028】
本発明の第2の態様の酵母加水分解産物は、上記で定義される酵母抽出物または酵母自己消化物であり得る。その酵母はいずれかの適切な酵母であることができ、好ましくは、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)またはトルラ属(Torula)、好ましくはサッカロミセス属(Saccharomyces)、さらに好ましくは、パン酵母として使用されるサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)または例えばラガービールの製造に醸造産業で使用される、ビール酵母サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)またはその異名Saccharomyces pastorianusから選択される。好ましい実施形態において、酵母はビール酵母であり、さらに好ましくはビール醸造プロセスの副生成物である使用済みビール酵母である。
【0029】
第3の態様において、本発明は、プロセス風味反応における、精肉用途における、または風味増強剤としての、または風味向上剤としての、またはトップノート担体における、または卓上用途における、酵母加水分解産物の使用または本発明の第2態様の酵母抽出物または酵母自己消化物の使用を提供する。
【0030】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2態様の酵母加水分解産物または酵母抽出物または酵母自己消化物を含む、風味増強剤、肉製品、風味向上剤、トップノート担体または卓上用途を提供する。
【0031】
[材料および方法]
[グルテンの決定]
酵母加水分解産物中のグルテンの量は、グルテン/グリアジンのUPEX−抽出(Universal Prolamin and Glutelin Extractant solution)によって、かつ本質的にM.C.Mena et al.Talanta 91(2012)pp33−40“Comprehensive analysis of gluten in processed foods using a new extraction method and a competitive ELISA based on the R5 antibody”に記述されるようにELISA試験により定量化することによって決定された。
【0032】
グルテン抽出手順は、PBS(シグマ・アルドリッチ社(Sigma−Aldrich)製品番号:P3813,オランダ)中でトリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン(TCEP)(シグマ・アルドリッチ社製品番号:C4706,オランダ)およびアニオン界面活性剤N−ラウロイルサルコシン(Sarkosyl)(シグマ・アルドリッチ社製品番号:61745,オランダ)試剤を還元することに基づく。
【0033】
1.乾燥酵母加水分解産物250mgを計量し、10mlポリプロピレンチューブに移した。
2.酵母加水分解産物を含有するチューブに、UPEX溶液(PBS中に5mM TCEP,2%N−ラウロイルサルコシン,pH7)2.5mlを添加した。還元剤の不活性化を防ぐために、使用直前に、UPEX溶液を調製した。
3.チューブをしっかりと閉めて、キャップをフィルムで覆い、蒸発を防いだ。
4.5〜10秒間ボルテックスすることによって、チューブの内容物を完全に混合し、チューブを試験管立てに置いた。
5.タイプ1003のGL水浴内でチューブを50℃で40分間インキュベートした。
6.チューブを室温で5分間冷却した。
7.80%エタノール/水(v/v)7.5mlを添加し、試料全体の分散が達成されるまで、10〜60秒間ボルテックスすることによって、試料を完全に分散させ、次いで、回転(ヘッド−オーバーヘッド)振盪機(Stuart Scientific Rollermixerタイプ:SRT2)において45回転/分にて室温で1時間インキュベートした。
8.ベンチトップ遠心機(エッペンドルフ(Eppendorf)モデル5810R)でチューブを室温にて2500gにて10分間遠心した。
9.新たなパスツールピペットを使用して、各チューブからの上澄みを清潔な10mlポリプロピレンチューブに移した。
10.抽出して24時間以内にELISA試験によって、溶液を分析した。
【0034】
ELISA試験では、Ridascreen(登録商標)Gliadin Competitive kit(R−Biopharm社によって供給されている)を使用した(R−Biopharm AG,ダルムシュタット(Darmstadt),ドイツ(Germany))。
【0035】
[実施例]
[実施例1]
[グリアジンの還元]
使用済み醸造クリーム酵母は、オランダの醸造所から入手された。入手した酵母を55℃に加熱し、pHを5.3に設定した。Alcalase(登録商標)は、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)のエンドプロテアーゼサブチリシンのカールスバーグ(Carlsberg)を含有し、ノボザイムズ社(Novozymes)(デンマーク(Denmark))によって製造され、シグマ社(Sigma)から購入し、カタログ番号P4860)を塩不含酵母乾燥物に対して投与量1%(w/w)でスラリーに添加した。懸濁液を一晩インキュベートした。Alcalase(登録商標)のインキュベーション後、懸濁液をpH5.3に設定し、4つの異なるフラクションに分けた。表1に従って、塩不含乾燥物に対して0〜0.5%(w/w)の範囲でプロリン特異的エンドプロテアーゼを添加した。懸濁液を61℃で維持し、15時間インキュベートした。インキュベートした後、懸濁液を加熱して残留酵素活性を止めた。懸濁液および抽出物(懸濁液の清澄化後)の試料を採取し、蒸発させることによって濃縮した。材料および方法(Materials and Methods)に記述されるUPEX抽出およびELISA試験の手段によって、グリアジン含有量について濃縮物を分析した。
【0036】
【表1】
【0037】
[実施例2]
[グリアジンの還元]
粉末製剤のビール酵母抽出物(EXPRESA2200S,DSM FOOD SPECIALTIES,デルフト,オランダ)を水に10%(w/w)まで溶解した。溶液のpHを5.3に設定し、温度を61℃に維持した。試料を2つのフラクションに分けた。
【0038】
酵母抽出物を含有する2つのフラスコのうちの1つに、プロリン特異的エンドプロテアーゼを添加し、塩不含酵母乾燥物に対して0.5%(w/w)で投与した。その溶液を15時間インキュベートした。インキュベートした後、溶液を90℃に加熱して、残留する酵素活性を止めた。水を蒸発させて、得られた溶液を濃縮した。濃縮された試料を使用し、材料および方法(Materials and Methods)に記述されるUPEX抽出およびELISA試験の手段によって、グリアジン含有量について分析した。
【0039】
【表2】
【0040】
[実施例3]
[プロテアーゼと比較したプロリン特異的エンドプロテアーゼのRNAの低減]
この実施例において、プロリン特異的エンドプロテアーゼを使用してグリアジン含有量を低減した後のRNAの望ましくない分解が、グリアジン含有量の低減にも適している市販のプロテアーゼでの処理と比較される。オランダの醸造所から入手したビール酵母を使用して、高い酵母可溶化収量を有するヌクレオチド含有酵母自己消化物を生成した。酵母RNAが測定され、乾燥物で3.4%であった。最初に、酵母に95℃で5分間熱ショックをかけた。続いて、乾燥物を2つのプロテアーゼ工程によって溶解した。最初に、Alcalase(登録商標)(Alcalase(登録商標)は、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)のエンドプロテアーゼサブチリシンのカールスバーグ(Carlsberg)を含有し、かつノボザイムズ社(デンマーク)によって製造され、シグマ社から購入される,カタログ番号P4860)をpH8および温度62℃で6時間インキュベートした(投与量:乾燥物で0.8%)。第2のプロテアーゼ処理では、いくつかの異なる酵素を試験した:
・Proteax(Amano Enzymeから入手可能)
・Peptidase R(Amano Enzymeから入手可能)
・Accelerzyme(DSMから入手可能)
・Sumizyme FP(Shin Nihonから入手可能)
・プロリン特異的エンドプロテアーゼ(Brewers Clarex,DSMから入手可能)
【0041】
これらのプロテアーゼを別々に、異なる実験において適用し(乾燥物で1%)、pH5.2で温度51.5℃にて15時間インキュベートした。これらの2つのプロテアーゼ工程後、酵素を85℃の熱ショックによって不活性化した。5’−ホスホジエステラーゼ(DSM)およびデアミナーゼ(Amano)と共にインキュベートすることによって、RNAを転化し、5’GMPおよび5’IMPが生成された。インキュベーションをpH5.3および温度60℃で15時間行った。これらの異なるプロセスの後、続いて試料中の5’−GMPおよび5’−IMPの量(塩化ナトリウム不含乾燥物に対するその二ナトリウム七水和物の重量パーセンテージとして表される)を、以下の方法に従ってHPLCによって決定した。Whatman Partisil 10−SAXカラム、溶離剤としてリン酸緩衝液(pH3.35)およびUV検出を用いて、HPLCによって5’−GMPおよび5−IMPを定量化した。5’−GMPおよび5’−IMP標準に基づいて、濃度を計算した。Jenway chloride meter PCLM 3(Jenway,エセックス(Essex),英国(England))で試料中の塩化物イオンを測定し、相当する量の塩化ナトリウムを計算することによって、塩化ナトリウムを決定した。
【0042】
可溶化収率およびタンパク質の加水分解の程度を決定することによって、プロテアーゼの有効性を測定した。その結果を表3にまとめる。
【0043】
【表3】
【0044】
表3から、プロリン特異的エンドプロテアーゼを使用すると、期待量の5’−GMPおよび5’−IMPの少なくとも90%の5’−GMPおよび5’−IMPが提供され、出発酵母のRNA含有率(3.4%)が得られることが分かる。したがって、プロリン特異的エンドプロテアーゼは実施例1および2に示すようにグルテンを低減することができ、酵母中に存在するRNAは分解されず、したがって5’−GMPおよび5’−IMPのような5’−リボヌクレオチドへと転化するのに利用可能である。酵母のRNAも明らかに分解した、他のプロテアーゼに関して5’−GMPおよび5’−IMPを考慮すると、これは驚くべきことである。