特許第6244623号(P6244623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6244623非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244623
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20171204BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171204BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 E
   H01M4/485
   H01M10/058
   H01M10/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-275224(P2012-275224)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-120355(P2014-120355A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】田村 基子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕一
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−034218(JP,A)
【文献】 特開2007−026752(JP,A)
【文献】 特開2003−036887(JP,A)
【文献】 特開2001−307730(JP,A)
【文献】 特開2002−279989(JP,A)
【文献】 特開2010−251060(JP,A)
【文献】 特表2008−541401(JP,A)
【文献】 特表2008−536272(JP,A)
【文献】 特表2009−527096(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/001988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/058
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が専ら3.7V(vs.Li/Li+)以下である正極活物質(A)を主として含む正極を備えた非水電解質電池であって、前記正極は、3.7V(vs.Li/Li+)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)が、前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して1質量%未満備えられている(ただし、活物質(B)がコバルト酸リチウムであり、前記正極活物質(A)と前記正極活物質(B)との合計に対して0.5質量%備えられている場合を除く)非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質(A)は、リン酸鉄リチウムを含有している請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記活物質(B)は、リチウム遷移金属複合酸化物である請求項1又は2記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が専ら3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質(A)を主として含む正極を備えた非水電解質電池の製造方法であって、充電装置を設定することによって正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段と、内部微短絡の発生の有無を検出する手段とを含
前記正極は、3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)が、前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して5質量%未満含んでいる非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池用の正極活物質として、オリビン型の結晶構造を有する活物質(以下単に「オリビン型活物質」という)が知られている。オリビン型活物質は、優れた熱的安定性を示すことから、これを正極活物質として用いることにより、高い安全性を備えた二次電池を提供することができる。
【0003】
オリビン型活物質の中でも、特にリン酸鉄リチウム(LiFePO)は、電子伝導性及びイオン伝導性が高く、容量密度が大きいという特性を有し、優れた正極材料であることが知られている。しかし、リン酸鉄リチウムは、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が約3.4V(vs.Li/Li)であり、現在汎用されているリチウムイオン二次電池用正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO)等に比べて低い。
【0004】
リン酸鉄リチウム等のオリビン型活物質と、コバルト酸リチウム等の酸化物型活物質を混合して用いる技術が知られている。
【0005】
特許文献1には、化学的安定性、サイクル耐久性、低温特性がより良好なリチウムイオン二次電池を提供することを目的として、LiFePO4とLi1.05Ni0.75Co0.15Al0.05Mg0.052とを95:5〜65:35の重量比率で含む正極と、非晶質炭素被覆黒鉛を有する負極活物質を含む負極を備えたリチウムイオン二次電池が記載されている。
【0006】
特許文献2には、優れた初期クーロン効率を備えた非水電解質電池を提供することを目的として、LiMn0.8Fe0.2POとLiNi0.33Mn0.33Co0.34を10:90〜80:20の質量比率で混合したものを正極活物質としたリチウム二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−251060号公報
【特許文献2】特開2011−159388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電池の製造工程中に、正極板内に金属粉が混入することがある。
【0009】
正極板内に金属粉が混入した場合、混入量が多いと使用中に内部微短絡を引き起こす虞があるが、このような電池は、製造工程中のエージング検査段階で発見され、廃棄される。
【0010】
しかしながら、正極の作動電位が比較的低い正極活物質を用いた電池では、前記エージング検査工程を長時間設定する必要があった。エージング検査工程の時間を短縮できる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、正極板内に金属粉が混入し、内部微短絡を起こす虞がある電池がエージング検査工程で発見できる理由、及び、正極の作動電位が比較的低い正極活物質を用いた電池の場合、前記エージング検査工程を長時間設定する必要がある理由について述べる。
【0012】
非水電解質電池の製造工程は、発電要素の作製工程、電槽内に前記発電要素等を装着する組立工程、前記電槽内に非水電解質(電解液)を注入する注液工程、予備充電工程、所定の充電深度で一定期間放置するエージング検査工程、等を含む。
【0013】
正極板内に金属粉が混入した場合、前記金属粉は、正極の貴な電位によって溶解し、金属イオンとなる。例えばFe粉は3.35V(vs.Li/Li)以上の電位において溶解してFeイオンとなる。このような金属イオンが負極側に泳動すると、金属イオンは負極の卑な電位によって析出する可能性がある。このように負極で析出した金属が、万一、デンドライト状に成長を続けた場合、内部微短絡の原因となる可能性がある。そのような電池は、前記エージング検査工程中に、開回路電圧の低下が観察されるので、発見できる。
【0014】
しかし、金属粉は貴な電位によって溶解するところ、金属粉の溶解速度は、電位が高いほど大きい。即ち、逆に、正極の作動電位が比較的低い正極活物質を用いた電池の場合、金属粉の溶解速度が比較的小さいことになるから、LiCoO等のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた非水電解質電池に比べて、LiFePO等の作動電位が比較的低い活物質を正極活物質として用いた非水電解質電池においては、正極板内に金属粉が混入した場合、充電工程及びエージング検査工程中に溶解して金属イオンとなる量が少ないと考えられるため、前記エージング検査工程中に、開回路電圧の低下が観察されるまでの時間が長くなる。従って、前記エージング検査にかける時間を長く設定する必要がある。
【0015】
次に、本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0016】
本発明は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が専ら3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質(A)を主として含む正極を備えた非水電解質電池の製造方法であって、正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段と、内部微短絡の発生の有無を検出する手段とを含む、非水電解質二次電池の製造方法である。
【0017】
ここで、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が「専ら」3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質とは、該正極活物質を単独で用いた電極について、4.5V(vs.Li/Li)まで定電圧充電を行った後、0.1CmA以下の電流で閉回路が2.0V以下となるまで放電させたとき、全放電容量に対する、3.7V(vs.Li/Li)を以上の電位領域における放電容量の割合が1%以下である正極活物質をいう。また、正極活物質(A)を「主として」含むとは、電極が正極活物質として該正極活物質(A)を単独で含むか、又は、電極が正極活物質として該正極活物質(A)他の種類の活物質を含み該正極活物質(A)と他の活物質との質量の和に対する該正極活物質(A)の割合が95質量%を超えているものをいう。
【0018】
本発明の製造方法によれば、製造工程中に、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質(A)を充電するに必要な電位を超えて、正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段を含むので、この手段によって、正極板内に混入した金属粉を十分に溶解させることができる。従って、金属粉が混入し内部微短絡を引き起こす可能性がある電池は、エージング検査工程において、開回路電圧の低下が観察されるまでの時間が短くなる。従って、エージング検査工程にかける時間を短縮できる。
【0019】
また、本発明は、前記製造方法において、前記正極は、3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)が前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して5質量%未満備えられていることを特徴としている。
【0020】
ここで、活物質(B)は、前記正極活物質(A)とは異なる種類の材料である。この製造方法によれば、3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)が正極に備えられているので、エージング検査工程において、容易に貴な電位を維持できる。従って、より確実に、混入した金属粉を十分に溶解させることができる。従って、金属粉が混入し内部微短絡を引き起こす可能性がある電池をエージング検査工程においてより確実に短時間で発見することができる。前記3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)は、3.8V(vs.Li/Li)以上の電位を示しうる活物質(B)であることが好ましい。
【0021】
活物質(B)の含有量は、多い方が、予備充電工程後に電池を開回路状態とした後の電位の低下が緩慢になるので、エージング検査工程において、より長時間にわたって貴な電位を維持できるため、好ましい。具体的には、前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して0.3質量%以上が好ましい。
【0022】
一方、活物質(B)の量が多すぎると、充電時の負極へのリチウムの析出を避けるために、負極に充電リザーブを余剰に設ける必要が生じるため、好ましくない。そのため、活物質(B)の量は、前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して5質量%未満が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
【0023】
また、本発明は、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が専ら3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質(A)を主として含む正極を備えた非水電解質電池であって、前記正極は、3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)が、前記正極活物質(A)と前記活物質(B)との合計に対して5質量%以下備えられている非水電解質二次電池である。
【0024】
このような構成によれば、予備充電工程において正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段と適用することにより、エージング検査工程において、正極が、前記正極活物質(A)が発現する電位よりも貴な電位を容易に維持でき、金属粉の溶解を促進できるので、エージング検査工程にかける時間を短縮でき、製造コストが低減された安価な電池を提供できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、リチウムイオンの電気化学的挿入・脱離反応に伴う酸化・還元電位が専ら3.7V(vs.Li/Li)以下である正極活物質を主として用いた電池の製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
正極活物質(A)としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、チタン酸リチウム(LiTi12)、タングステン酸(WO2)、バナジウム酸リチウム(LiVO2)等が挙げられる。
【0027】
正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段は、前記予備充電工程において、正極電位が3.7V(vs.Li/Li)よりも貴となるように、充電装置の充電電圧を設定することによって達成できる。
【0028】
正極電位を3.7V(vs.Li/Li)よりも貴とする手段において、正極電位が高い方が金属粉の溶解速度が高まり、エージング検査工程の時間を短縮できるため好ましい。しかし、正極電位が高すぎると、電解液の分解を促進し電池性能の低下を招く虞がある。従って、充電装置の充電電圧の設定は、正極電位を3.8V(vs.Li/Li)以上となる条件を採用することが好ましく、正極電位が4.0V(vs.Li/Li)以上となる条件を採用することがより好ましく、4.1V(vs.Li/Li)以上がさらに好ましい。また、4.5V(vs.Li/Li)以下が好ましく、4.4V(vs.Li/Li)以下がより好ましく、4.3V(vs.Li/Li)以下がさらに好ましい。
【0029】
エージング検査工程において、前記電位に設定した充電装置を電池に接続したままとして、正極が前記電位を維持するようにすることは、金属粉の溶解を促進できる点で極めて好ましい。しかしながら、この方法は、充電装置を長時間占有してしまうことになるので、生産効率の点で好ましくない。そこで、エージング検査工程においては、充電装置との接続を解除し、電池を開回路状態とすることが考えられる。電池を開回路状態とすることで、正極電位は徐々に低下するが、予備充電工程において設定した電圧に応じて、正極電位が3.7V(vs.Li/Li)よりも貴である状態がある程度の時間維持できる。
【0030】
エージング検査工程にかける時間は、混入した金属粉が十分に溶解する時間とすることが必要であり、12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、36時間以上がさらに好ましい。しかし、前記時間が長すぎると生産性が低下するため、100時間以下が好ましく、60時間以下がより好ましい。
【0031】
前記エージング検査工程において、内部微短絡の発生の有無を検出する方法については、限定されるものではないが、電池の開回路電圧の変化をモニターする方法が挙げられる。内部微短絡を起こす可能性のある電池は、開回路電圧の低下が観察されるので、発見できる。
【0032】
このような材料としては、3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位領域に至って充放電可能な材料であれば特に制限はなく、種々の材料を適宜使用できる。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、LiMn等で表されるスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiNi1.5Mn05等で表されるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物等に代表されるスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物や、LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.1Co2/3Ni1/6Mn1/6、等に代表されるα−NaFeO構造を有するLiMeO型(Meは遷移金属)リチウム遷移金属複合酸化物、LiMePO(MeはCo又はMnを含む遷移金属)、Li(PO等のリン酸遷移金属リチウム化合物、等が挙げられる。また、Li1+αMe1−α(α>0)と表記可能ないわゆる「リチウム過剰型」リチウム遷移金属複合酸化物を用いてもよい。ここで、Li/Me比は1.25〜1.6が好ましい。なお、Li/Me比をβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0033】
3.7V(vs.Li/Li)よりも貴な電位を示しうる活物質(B)を正極に備える態様としては、限定されるものではなく、正極集電体上であって正極活物質(A)を含む正極合剤層が配されている部分以外の部分(例えば、裏面、端部等)に前記活物質(B)を含む合剤層を配置されていてもよく、前記活物質(B)を含む合剤層が正極集電体表面に接するように層状に配置され、該合剤層を覆うように正極活物質(A)を含む合剤層が配置されていてもよく、前記物質(A)を含む合剤層が正極集電体表面に接するように層状に配置され、該合剤層を覆うように正極活物質(B)を含む合剤層が配置されていてもよく、正極集電体上に正極活物質(A)を含む合剤層と前記活物質(B)を含む合剤層が交互に多層構造となるように配置されていてもよく、正極活物質(A)及び前記活物質(B)を共に含む合剤層が正極集電体に配置されていてもよい。なかでも、前記活物質(B)はできるだけ正極活物質(A)の近傍に配置することにより、前記活物質(B)によって、金属粉の混入が想定されている正極活物質(A)に確実に高い電位を印加することができる点で好ましい。従って、正極活物質(A)と前記活物質(B)とは混合して用いることが好ましい。
【0034】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0035】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で30μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0036】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0037】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0038】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して0.1質量%〜50質量%が好ましく、特に0.5質量%〜30質量%が好ましいこれらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0039】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVdF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総質量に対して1〜50質量%が好ましく、特に2〜30質量%が好ましい。
【0040】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総質量に対して添加量は30質量%以下が好ましい。
【0041】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、グラビアロールコーティング、ダイコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−C、NClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0044】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0045】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0046】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0047】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0048】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0049】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0050】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0051】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0052】
非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【実施例】
【0053】
実際に製造される非水電解質電池では、仮に正極板内に金属粉が混入し、且つ、溶解した金属イオンが負極上に析出しても、その析出物の成長のしかたについては、種々の条件が複雑に組み合わされて決定されるものである。従って、その析出物が内部微短絡を起こすような形状と規模にまで成長するかどうかは、偶然性に大きく支配されるものである。事実、金属粉が混入する同じ環境下で製造された非水電解質電池であっても、実際に内部微短絡が発生する率は極めて低い。従って、本発明の効果を検証する目的で、正極に故意に金属粉を混入させた電池を作製し、試験を行ったとしても、内部微短絡を起こした電池の発生率によって評価しようとすれば、天文学的な個数の電池を作製して試験を行う必要があり、実質不可能である。そこで、以下の実施例では、正極に故意に金属粉を混入させた電池を作製し、溶出して負極に析出した金属イオンの量を測定することにより、本発明の効果を定量的に評価した。故意に混入させる金属粉として、粒径25〜45μm(平均粒径30μm)のステンレス鋼(品番:SUS304)の微粉末を用いた。
【0054】
正極活物質(A)として、組成式LiFePOで表されるリン酸鉄リチウムの粒子表面にカーボンが被覆された材料を用いた。
【0055】
活物質(B)として、組成式LiCo1/3Ni1/3Mn1/3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。
【0056】
(比較例1〜3、実施例1〜4に係る正極板の作製)
前記金属粉、正極活物質(A)、導電剤としてのアセチレンブラック及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を1:87:5:7の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。前記正極ペーストを正極集電体である厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔集電体上の片面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工を行った。このようにして正極板を作製した。
【0057】
(実施例5〜7、比較例4に係る正極板の作製)
前記正極活物質(A)に代えて、正極活物質(A)と活物質(B)を混合したものを用いたことを除いては、実施例1と同様にして正極板を作製した。正極活物質(A)と活物質(B)との合計に対する活物質(B)の質量比率は、0.3%(実施例5)、1.0%(実施例6)、4.9%(実施例7)又は10%(比較例4)とした。
【0058】
(参考例1に係る正極板の作製)
正極活物質(A)と活物質(B)を90:10の質量比率で混合したもの、導電剤としてのアセチレンブラック及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を87:5:7の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。前記正極ペーストを正極集電体である厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔集電体上の片面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工を行った。このようにして正極板を作製した。
【0059】
負極には、溶解した金属イオンが析出しやすい材料として、金属リチウムを用いた。金属リチウムは銅箔に貼り付け、負極板とした。
【0060】
前記正極板及び負極板を対向させ、ガラスセルに設置し、非水電解質を注液した。非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の体積比6:7:7の混合溶媒に1mol/lのLiPFを溶解したものを用いた。このようにして、非水電解質二次電池を作製した。
【0061】
以下の説明において、負極に金属リチウムを用いているので、充電器が接続され充電電圧が印加されている状態、又は、開回路状態における電池の端子間電圧(V)の値は、それぞれの状態における正極電位(vs.Li/Li)の値と同じであると考えても以下の考察に支障がない。
【0062】
全ての実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池について、定電流定電圧充電を行った。充電電流は1CmAとし、充電時間は3時間とした。充電電圧は、3.575V(比較例1)、3.6V(比較例2)、3.7V(比較例3)、3.8V(実施例1)、3.9V(実施例2)、4.0V(実施例3)又は4.1V(実施例4〜7、比較例4及び参考例1)とした。
【0063】
充電終了後、充電器を取り外し、開回路状態にて60時間放置した。参考のため、放置24時間後にそれぞれの非水電解質電池の開回路電圧を測定したので、表1に併せて示す。
【0064】
放置後、負極板を取り出し、負極板上に析出したFeの量を定量した。表1に、定量されたFeの量について、比較例1を基準として示した。
【0065】
【表1】
【0066】
まず、参考例1においては、60hr放置後に負極からFeが検出されなかったことから、以降の検討において、正極活物質由来のFeについては考慮する必要がないことがわかる。比較例1〜3及び実施例1〜4の結果からわかるように、LiFePOのみを正極活物質として用いた非水電解質電池において、充電電圧を3.6〜3.7Vとした場合は、充電電圧を3.575Vとした場合に比べて、負極に析出したFeの量は1.3倍にとどまっているのに対し、充電電圧を3.8〜4.1Vとした場合には、負極に析出するFeの量が2〜2.5倍に増加した。
【0067】
次に、充電電圧を4.1Vとし、正極活物質中に混合する活物質(B)の割合を変化させた実施例4〜7及び比較例4の結果からわかるように、混合する活物質(B)の割合が多いほど、エージング検査工程において、正極を貴な電位に維持する効果が優れると共に、金属粉から溶出する金属イオンの量を増やすことができることがわかる。
【0068】
【表2】
【0069】
次に、これらの実施例及び比較例において定量されたFeの量について、実施例4を基準として表2に示すと共に、含有した活物質(B)の質量あたりの効果を計算した結果を示す。この結果から、活物質(B)を1質量%以下含有した場合は単位質量あたりの溶出促進効果が優れているが、これを超えて活物質(B)を含有してもそれに応じた効果が期待できないことがわかる。