【実施例1】
【0032】
図8は、二層グラフェンを利用した半導体素子の概略構成図を示す。
図8(A)の半導体素子20Aは、二層グラフェン31の一方の側に絶縁膜27を介して金属電極(ボトムゲート)25が配置され、他方の側に絶縁膜28を介して金属電極(トップゲート)26が配置される。
【0033】
金属電極26に−6Vを印加し、金属電極25に−8Vを印加すると、二層グラフェン31に、バンドギャップが形成されたままp型特性を示す半導体が形成される。また、金属電極26に6Vを印加し、金属電極25に8Vを印加すると、二層グラフェン31にバンドギャップが形成されたままn型特性を示す半導体が形成される。
【0034】
この構成によると、不純物をドープすることなく、電圧の印加により二層グラフェン31の導電型を制御することができる。
【0035】
図8(B)の半導体素子20Bは、二層グラフェン31の一方の側に絶縁膜27を介して2つの金属電極25a、25bが配置され、他方の側に絶縁膜28を介して2つの金属電極26a、26bが配置される。
【0036】
金属電極26aと25aの組に、それぞれ−6Vと−8Vを印加し、金属電極26bと25bの組に、それぞれ8Vと6Vを印加する。これにより、金属電極26aと25aに対応する二層グラフェン31の領域にバンドギャップが形成されたままp型特性を示す半導体が形成される。また、金属電極26bと25bに対応する二層グラフェン31の領域にバンドギャップが形成されたままn型特性を示す半導体が形成される。
【0037】
この構成では、不純物をドープしなくても、電圧の印加によりpn接合を形成することができる。この状態で、p型領域の図示しないアノード電極に正の電圧を印加すると、p型領域からn型領域へ電流が流れる。n型領域の図示しないカソード電極に正の電圧を印加することで電流を止めることができる。
【0038】
二層グラフェン31の積層方向の上下に形成される電極ペアを3つにすると、
図2の構成になる。この場合、チャネルに与える電界によってソース-ドレイン間の電流をオン・オフ制御する電界効果トランジスタが構成される。
【0039】
図9は、実施形態の二層グラフェンを利用した半導体素子の作製工程図である。
図9(A)において、基板21上に下部ゲート電極25を形成する。基板21は任意の絶縁基板あるいはシリコン基板上に十分な厚さの絶縁膜が形成された基板である。下部ゲート電極25は、たとえばリソグラフィ技術と蒸着・リフトオフ技術を用いて、所望の形状に形成される。
【0040】
次に、
図9(B)に示すように、SiO2膜などの絶縁膜27を全面に形成し、平坦に研磨する。絶縁膜27の膜厚は、たとえば2nm、ゲート電極25上の絶縁膜27の厚さは2nmである。ゲート電極25に対応する位置の絶縁膜27上に2層のグラフェン膜31を転写する。二層グラフェン膜31の転写は、たとえばSiC基板や金属触媒上に成長したグラフェン2層分を樹脂シートなどにより剥がして、絶縁膜27上に貼り付ける。
【0041】
次に、
図9(C)に示すように、ソース/ドレイン電極22、23を、リソグラフィと蒸着・リフトオフにより形成する。
【0042】
次に、
図9(D)に示すように、全面に絶縁膜28をたとえば厚さ2nmに形成する。
【0043】
最後に、
図9(E)に示すように、絶縁膜28上に、二層グラフェン31を介して下部電極25と対向する位置に、上部電極26を形成する。その後全面に図示しない絶縁膜を形成する。ゲート電極25、26の数が複数になっても工程は同じである。たとえば、下部電極25と上部電極26を2つずつ配置する形状にすると、
図8(B)の構成になる。下部電極25と上部電極26を3つずつ配置する形状にすると、
図2の構成になる。
【実施例2】
【0044】
図10は、実施例2の半導体素子の構成例を示す。
図10(A)の半導体素子40Aと
図10(B)の半導体素子40Bは、ゲート電極としてカーボンナノチューブを用いている。
【0045】
図10(A)において、半導体素子40Aは、二層グラフェン41と、この二層グラフェン41の一方の層41
1の側に配置される金属カーボンナノチューブ45a、45b、45cと、他方の層41
2の側に配置される金属カーボンナノチューブ46a、46b、46cを有する。この例で用いられるカーボンナノチューブ45a〜45c、46a〜46cは、単層の金属カーボンナノチューブである。
【0046】
カーボンナノチューブは、一般的に金属性を示すナノチューブと半導体性を示すナノチューブが混在した状態で合成されることが知られているが、過酸化水素水を用いる方法やアガロースゲルを用いる方法などにより、単層金属ナノチューブと単層半導体ナノチューブに分離することができる。
【0047】
カーボンナノチューブ45a、45b、45cは互いに所定の間隔をおいて配置され、かつ、グラフェン層41
1との間に0.3〜3nmの絶縁層を介して配置される。カーボンナノチューブ46a、46b、46cも互いに所定の間隔をおいて配置され、かつ、グラフェン層41
2との間に0.3〜3nmの絶縁層を介して配置される。カーボンナノチューブ45aと46a、45bと46b、45cと46cで、それぞれゲート電極ペアを形成する。グラフェン層41
1、41
2と各カーボンナノチューブ45、46の間の絶縁物は、成膜した絶縁膜であってもよいし、空気層であってもよい。
【0048】
図2の構成と同様に、カーボンナノチューブ45bと46bのペアは、二層グラフェン41のチャネル領域に垂直方向に印加される電界を制御するコントロールゲートとして用いられる。カーボンナノチューブ45aと46aのペア、及びカーボンナノチューブ45cと46cのペアはそれぞれ、二層グラフェン41の対応する領域の導電型を制御するために用いられる。この構成により、二層グラフェン41に不純物をドープしなくても、スイッチング特性に優れたトンネルFETを実現することができる。なお、図示はしていないが、
図2と同様に、スイッチオン時にソース-ドレイン間に電位差を与えるためのソース/ドレイン電極が、カーボンナノチューブ配列45a〜45c(または55a〜55c)の両側に配置される。
【0049】
図10(B)の半導体素子40Bは、多層カーボンナノチューブ55a〜55c、56a〜56cをゲート電極として用いる。多層のカーボンナノチューブにも、金属ナノチューブと半導体ナノチューブが混在しているが、径の太い多層カーボンナノチューブは金属性、またはごく小さいエネルギーギャップの半導体性を示すので、電極として利用可能である。
【0050】
図10(A)と同様に、多層カーボンナノチューブ55a、55b、55cは互いに所定の間隔をおいて配置され、かつ、グラフェン層41
1との間に0.3〜3nmの絶縁層を介して配置される。多層カーボンナノチューブ56a、56b、56cも互いに所定の間隔をおいて配置され、かつ、グラフェン層41
2との間に0.3〜3nmの絶縁層を介して配置される。カーボンナノチューブ55aと56a、55bと56b、55cと56cのペアで、3つのゲート電極ペアを形成する。カーボンナノチューブ55bと56bのペアは、チャネルに対して層と垂直方向に印加される電界を制御するコントロールゲートとして用いられる。カーボンナノチューブ55aと56aのペアと、カーボンナノチューブ55cと56cのペアは、二層グラフェン41の対応する領域の導電型を制御する電極として用いられる。
【0051】
図11及び
図12は、
図10の半導体素子の作製工程図である。
図11(A)に示すように、たとえばクォーツ基板50上に、エタノールガスなどの炭素源ガスを用いたCVD(化学気相成長)法により、カーボンナノチューブ46を配向成長する。
【0052】
次に、
図11(B)に示すように、基板50上に樹脂などの接着層52を形成する。
【0053】
次に、
図11(C)に示すように、基板50から接着層52を剥離することで、カーボンナノチューブ46を基板50から樹脂層52上に転写する。剥離した樹脂層52を、カーボンナノチューブ46を下方に向けて、基板51に対向させる。
【0054】
次に、
図11(D)に示すように、樹脂層52を基板51上に配置する。次に、
図11(E)に示すように、樹脂層52をエッチングして、カーボンナノチューブ46を基板51上に転写する。
【0055】
上記とは別に、グラフェンシートを作製しておく。
図12(A)に示すように、金属触媒70上にグラフェン41を合成し、
図12(B)に示すように、グラフェン41上に樹脂層72を形成する。
図12(C)に示すように、金属触媒70をエッチング除去して、樹脂層72上にグラフェンシート41を写し取る。
【0056】
図12(D)に示すように、
図11(D)で作製したカーボンナノチューブ46を有する基板51上に、グラフェンシート41を有する樹脂層72を配置する。
【0057】
その後、
図12(E)に示すように、樹脂層72をエッチングすることで、カーボンナノチューブ46上にグラフェンシート41が配置される。このとき、グラフェンシート41上に1〜3nmの厚さで樹脂層72の一部を残してもよい。さらに、
図11と同様の工程で別の樹脂層にカーボンナノチューブ45を写し取って、カーボンナノチューブ45と樹脂層を、基板51上のグラフェンシート41上に配置することで、
図10の半導体素子40を作製することができる。
【0058】
なお、実施例2の単層または多層のカーボンナノチューブ電極を、
図8(A)の1つの電極ペアを有する構成や、
図8(B)の2つの電極ペアを有する構成に適用してもよい。
【0059】
上述した例でゲート電極に印加される電圧は一例であり、絶縁膜の材料や厚さ、寄生容量に応じて異なるが、二層グラフェンの層に対して垂直方向に電界をかけることで、バンドギャップを維持しながら、二層グラフェンの導電型を制御することができる。特に、2つの層の間に(1.2±0.01)×10
13
cm
-2の電荷密度の差を保ちながら、2つのグラフェン層(L1,L2)に(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の電子又は正孔を誘起させることで、不純物のドープなしに、二層グラフェンをn型またはp型の半導体に制御することができる。
【0060】
以下の説明に対し、以下の付記を提示する。
(付記1)
第1グラフェン層と第2グラフェン層を有し、ドープされた不純物を含まない二層グラフェンと、
前記二層グラフェンの前記第1グラフェン層の側に第1絶縁層を介して配置される第1電極と、
前記二層グラフェンの前記第2グラフェン層の側に第2絶縁層を介して配置される第2電極と、
を有し、前記二層グラフェンは、前記第1電極と前記第2電極に印加される電圧に応じて、前記第1グラフェン層と前記第2グラフェン層の間に(1.2±0.01)×10
13 cm
-2の電荷密度差を保ったまま、第1導電型の特性と第2導電型の特性を切り換え可能に示すことを特徴とする半導体装置。
(付記2)
前記第1電極と前記第2電極に印加される電圧に応じて、前記電荷密度差を保ったまま前記二層グラフェンに(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の電子又は正孔が誘発されて、前記第1導電型と前記第2導電型が切り換え可能に発現することを特徴とする付記1に半導体装置。
(付記3)
前記第1グラフェン層の側に前記第1絶縁層を介して配置される第3電極と、
前記第2グラフェン層の側に前記第2絶縁層を介して配置される第4電極と、
をさらに有し、
前記第1電極と前記第2電極の組に正電圧が印加されたときに、前記第1電極と前記第2電極に挟まれる前記二層グラフェンの第1領域に、前記電荷密度差を保ちながら、(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の電子が誘発されてn型半導体領域が形成され、
前記第3電極と前記第4電極の組に負電圧が印加されたときに、前記第3電極と前記第4電極に挟まれる前記二層グラフェンの第2領域に、前記電荷密度差を保ちながら、(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の正孔が誘発されてp型半導体領域が形成されることを特徴とする付記2に記載の半導体装置。
(付記4)
前記第1グラフェン層の側に前記第1絶縁層を介して配置され、前記第1電極と前記第3電極の間に配置される第5電極と、
前記第2グラフェン層の側に前記第2絶縁層を介して配置され、前記第2電極と前記第4電極の間に配置される第6電極と、
をさらに有し、
前記第5電極と前記第6電極に印加される電圧値に応じて、前記p型半導体領域と前記n型半導体領域の間に流れる電流のオン・オフが制御されることを特徴とする付記3に記載の半導体装置。
(付記5)
前記第1電極と前記第2電極は、金属カーボンナノチューブ電極であることを特徴とする付記1又は2に記載の半導体装置。
(付記6)
前記第1電極と第3電極は、前記第1グラフェン層の側に所定の間隔で配置される単離された金属カーボンナノチューブ電極であり、前記第2電極と第4電極は、前記第2グラフェン層の側に前記所定の間隔で配置される単離された金属カーボンナノチューブ電極であることを特徴とする付記3に記載の半導体装置。
(付記7)
前記第1電極、前記第3電極、及び前記第5電極は、前記第1グラフェン層の側に所定の間隔で配置される単離された金属カーボンナノチューブ電極であり、前記第2電極、前記第4電極、及び前記第6電極は、前記第2グラフェン層の側に前記所定の間隔で配置される単離された金属カーボンナノチューブ電極であることを特徴とする付記4に記載の半導体装置。
(付記8)
ドープされた不純物を含まない二層グラフェンの積層方向の上下に絶縁層を介して第1の電極ペアを配置し、
前記第1の電極ペアの各電極に印加する電圧を切り換えて、前記二層グラフェンを構成する2つの層の間に(1.2±0.01)×10
13 cm
-2の電荷密度差を保ちながら、前記二層グラフェンの導電型を切り換えることを特徴とするスイッチング制御方法。
(付記9)
前記第1の電極ペアの各電極に印加する電圧を切り換えて、前記電荷密度差を保ちながら、前記二層グラフェンに(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の電子又は正孔を誘発することによって、第1導電型と第2導電型を切り換えることを特徴とする付記8に記載のスイッチング制御方法。
(付記10)
前記二層グラフェンの前記積層方向の上下に前記絶縁膜を介して第2の電極ペアを配置し、
前記第1の電極ペアに正電圧を印加して、前記第1の電極ペアに挟まれる前記二層グラフェンの第1領域に、前記電荷密度差を保ちながら、(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の電子を誘発してn型半導体領域を形成し、
前記第2の電極ペアに負電圧を印加して、前記第2の電極ペアに挟まれる前記二層グラフェンの第2領域に、前記電荷密度差を保ちながら、(2.3×10
13 cm
-2,3.5×10
13 cm
-2)〜(3.8×10
13 cm
-2,5.0×10
13 cm
-2)の範囲の正孔を誘発してp型半導体領域を形成することを特徴とする付記9に記載のスイッチング制御方法。
(付記11)
前記二層グラフェンの前記積層方向の上下に、前記絶縁膜を介して、前記第1の電極ペアと前記第2の電極ペアの間に第3の電極ペアを配置し、
前記第3の電極ペアに印加する電圧値を制御することで、前記p型半導体領域と前記n型半導体領域の間に流れる電流のオン・オフを制御することを特徴とする付記10に記載のスイッチング制御方法。
(付記12)
前記第3の電極ペアに、前記第1の電極ペアと前記第2の電極ペアに印加される電圧の中間の電圧を印加することで、pin構造を形成して電流オフ状態にすることを特徴とする付記11に記載のスイッチング制御方法。