特許第6244729号(P6244729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244729
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】樹脂被覆シームレスアルミニウム缶
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/00 20060101AFI20171204BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B65D1/00
   B32B15/09 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-164143(P2013-164143)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30538(P2015-30538A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】市之瀬 省三
(72)【発明者】
【氏名】小原 功義
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−097712(JP,A)
【文献】 特開2004−299390(JP,A)
【文献】 特開2001−072747(JP,A)
【文献】 特開平07−310189(JP,A)
【文献】 特開2004−018929(JP,A)
【文献】 特開2011−025935(JP,A)
【文献】 特開2002−255169(JP,A)
【文献】 特開2007−076012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D1/00− 1/48
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外表面にポリエステル樹脂被覆が形成されている樹脂被覆シームレスアルミニウム缶において、
前記ポリエステル樹脂被覆はそれぞれノンクロム系無機表面処理膜を介してアルミニウム製缶基体の内外表面に形成されており、
前記ポリエステル樹脂被覆は、二塩基酸に由来する共重合単位と3価以上の多塩基酸に由来する共重合単位とが導入されている低結晶性の第一のポリエステルからなる第一のポリエステル層を含んでおり、
外面側に形成されている前記ポリエステル樹脂被覆は、アルミニウム製缶基体側に位置し且つ前記第一のポリエステルからなる第一のポリエステル層と、外面側に位置し且つ第二のポリエステルからなる第二のポリエステル層との二層構造を有しており、
前記第一のポリエステルは、二塩基酸共重合エステル単位の含有量が、全エステル単位当り13〜17モル%の範囲にあり、前記3価以上の多塩基酸共重合成分を、ポリエステルを形成するための全酸成分当り0.01〜0.5モル%の量で含有しており、且つ220〜270℃の融点を有しており、
前記第二のポリエステルは、二塩基酸共重合エステル単位の含有量が、全エステル単位当り5〜10モル%の範囲にあること、
を特徴とする樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【請求項2】
前記第一のポリエステルにおいて、前記3価以上の多塩基酸がトリメリット酸である請求項1に記載の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【請求項3】
前記第一及び第二のポリエステルは、二塩基酸共重合単位としてイソフタル酸に由来する単位を含むポリエチレンテレフタレートにより形成されている請求項1または2に記載の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【請求項4】
少なくとも外面側に形成されている前記ポリエステル樹脂被覆は、プライマー層を介して前記ノンクロム系無機表面処理膜上に形成されている請求項1〜3の何れかに記載の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【請求項5】
前記ノンクロム系無機表面処理膜がリン酸ジルコニウムを含む請求項1〜4の何れかに記載の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【請求項6】
前記ノンクロム系無機表面処理膜は、ジルコニウム原子を3〜30mg/mの割合で含み且つリン原子を1〜15mg/mの割合で含んでいる請求項5に記載の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンクロム系無機表面処理膜を介してポリエステル樹脂被覆が形成されているシームレスアルミニウム缶に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、スチール等に比して軽量性に富み且つ成形加工し易いことから、容器の分野での用途に好適であり、特に絞り加工や絞りしごき加工などの過酷な成形加工により形成されるシームレス缶としては、アルミニウム製のものが広く実用に供されている。
【0003】
ところで、上記のようなシームレスアルミニウム缶においては、一般に、缶を形成するアルミニウム板の内外表面に化成処理により形成されたクロム系表面処理膜が形成され、これによりアルミニウムの耐食性が高められている。また、このようなシームレスアルミニウム缶は、過酷な成形加工によって形成されることから、缶の内外面には、通常、上記の表面処理膜を介してポリエステル樹脂被覆あるいは塗膜が形成されている。
【0004】
しかるに、近年における環境衛生に対する強い要望から、アルミニウム表面の化成処理膜としてクロムを含有していないノンクロム系無機表面処理膜が種々検討されており、例えば、特許文献1には、ジルコニウム化合物を用いての化成処理により形成された表面処理膜がアルミニウム表面に形成されている樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記で提案されているノンクロム系無機表面処理膜は、その上に形成される樹脂被覆との密着性が十分ではないため、缶蓋に比してより過酷な成形加工により形成されるシームレス缶などに適用する場合には、さらなる改善が必要である。即ち、ノンクロム系無機表面処理膜上に樹脂被覆が形成されている樹脂被覆アルミニウムシームレス缶では、樹脂被覆と表面処理膜との間の密着性が十分でないため、缶に成形加工する際や成形加工後の後加工の際(例えばネッキング加工や巻き締め加工)に、微小な傷が外面に形成され、この結果、その後の熱履歴、例えば内容物充填後のパストライズ処理(低温加熱殺菌)、レトルト殺菌などによって、この微小な傷を起点として樹脂被覆の剥離(キズデラミ)が発生し、外観不良などが引き起こされるなどの問題があった。
【0006】
一方、特許文献2には、ノンクロム系無機表面処理膜を樹脂被覆アルミニウムシームレス缶に適用したときの問題を解決する手段として、ジルコニウム化合物、リン化合物、有機化合物を含む有機無機系表面処理膜を形成することが本出願人により提案されている。このような表面処理膜は、樹脂被覆との密着性が高く、この結果、シームレス缶成形加工時や成形加工後の後加工時での外面のキズがあった場合であっても、キズを起点とした樹脂被覆剥離の発生を有効に防止することができる。
【0007】
しかるに、特許文献2のノンクロム系かつ有機無機複合表面処理膜では、該膜を形成するための処理液としてリン化合物、ジルコニウム化合物と共に有機化合物が溶解乃至分散した水溶液を使用しなければならず、処理液の濃度管理などが煩雑となってしまい、成膜が容易でなく、しかも生産コストの増大などをもたらし、さらなる改善が求められているのが現状である。
また、押し出しラミネートにより金属基板上に樹脂被覆を形成する場合、ネックイン(溶融押出しされたフィルム状樹脂がダイ出口の幅よりも狭くなる現象)が生じ易くなるという問題がある。このようなネックインが生じると、例えば内外面の樹脂被覆に厚みムラを生じてしまい、密着性等の特性にバラツキを生じてしまうこととなる。特に、樹脂として低結晶性ポリエステルを用いた場合に多く認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−76651号
【特許文献2】特開2007−76012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、有機化合物が配合されていない処理液を用いての通常の化成処理によって形成される成膜容易なノンクロム系無機表面処理膜がアルミニウム基材の表面に設けられていると同時に、この表面上に形成される樹脂被覆、特に外面側に形成される樹脂被覆との密着性に優れ、成形加工時や成形加工後の後加工時での外面のキズがあった場合であっても、キズを起点とした樹脂被覆剥離(キズデラミ)の発生が有効に防止され、さらには、押し出しラミネートにより樹脂被覆を形成する際のネックインの問題も有効に解決されている樹脂被覆アルミニウムシームレス缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、内外表面にポリエステル樹脂被覆が形成されている樹脂被覆シームレスアルミニウム缶において、
前記ポリエステル樹脂被覆はそれぞれノンクロム系無機表面処理膜を介してアルミニウム製缶基体の内外表面に形成されており、
前記ポリエステル樹脂被覆は、二塩基酸に由来する共重合単位と3価以上の多塩基酸に由来する共重合単位とが導入されている低結晶性の第一のポリエステルからなる第一のポリエステル層を含んでおり、
外面側に形成されている前記ポリエステル樹脂被覆は、アルミニウム製缶基体側に位置し且つ前記第一のポリエステルからなる第一のポリエステル層と、外面側に位置し且つ第二のポリエステルからなる第二のポリエステル層との二層構造を有しており、
前記第一のポリエステルは、二塩基酸共重合エステル単位の含有量が、全エステル単位当り13〜17モル%の範囲にあり、前記3価以上の多塩基酸共重合成分を、ポリエステルを形成するための全酸成分当り0.01〜0.5モル%の量で含有しており、且つ220〜270℃の融点を有しており、
前記第二のポリエステルは、二塩基酸共重合エステル単位の含有量が、全エステル単位当り5〜10モル%の範囲にあること、
を特徴とする樹脂被覆シームレスアルミニウム缶が提供される。
【0011】
本発明の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶においては、
(1)前記第一のポリエステルにおいて、前記3価以上の多塩基酸がトリメリット酸であること、
(2)前記第一及び第二のポリエステルは、二塩基酸共重合単位としてイソフタル酸に由来する単位を含むポリエチレンテレフタレートにより形成されていること、
(3)少なくとも外面側に形成されている前記ポリエステル樹脂被覆は、プライマー層を介して前記ノンクロム系無機表面処理膜上に形成されていること、
(4)前記ノンクロム系無機表面処理膜がリン酸ジルコニウムを含むこと、
(5)前記ノンクロム系無機表面処理膜は、ジルコニウム原子を3〜30mg/mの割合で含み且つリン原子を1〜15mg/mの割合で含んでいること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂被覆シームレスアルミニウム缶においては、シームレス加工に供されるアルミニウム板の表面にノンクロム系無機表面処理膜が設けられているが、特にこの無機表面処理膜上に形成される樹脂被覆は、共重合成分として二塩基酸を含む低結晶性ポリエステル(第一のポリエステル)からなる第一のポリエステル層を有している。即ち、ポリエステル樹脂被覆が低結晶性であり、共重合成分を含んでいないものに比して柔軟性、可撓性に富んでいるため、曲げ加工のみならず、絞り加工やしごき加工などの過酷なシームレス加工に際してもアルミニウムの加工による変形に有効に追随し、アルミニウム表面のノンクロム系無機表面処理膜との高い密着性が維持される。この結果、ネッキング加工や巻き締め加工などの後加工に際しても樹脂被覆の高い密着性が保持され、その後の熱履歴に際して、微小な傷を起点とする樹脂被覆の剥離(キズデラミ)や外観不良も有効に抑制されることとなる。
【0013】
ところで、無機表面処理膜上の樹脂被覆を低結晶性のポリエステルを用いて形成した場合、先にも述べたように、押し出しラミネート時に発生するネックインが極めて生じ易くなり、これに伴い、内外面の樹脂被覆に厚みムラを生じてしまい、密着性等の特性にバラツキが生じてしまう。しかるに、本発明においては、この低結晶性ポリエステルには、二塩基酸に由来する共重合単位に加え、3価以上の多塩基酸(例えばトリメリット酸)に由来する共重合単位が導入されているため、後述する実施例から明らかなとおり、ネックインの問題が有効に解決されている。即ち、このような3価以上の多塩基酸をエステル単位中に導入することにより、このエステル単位が架橋点となって架橋構造が形成され、この結果、低結晶性ポリエステルの溶融流動特性が改善され、ネックインの発生を有効に抑制することが可能となるわけである。
【0014】
また、本発明でアルミニウム表面に設けられる表面処理膜(即ち、化成処理により得られる膜)はクロムを含有していないため、環境性、衛生性などの面でも優れているばかりか有機化合物も使用されていないため、化成処理を行うための処理槽の濃度等の管理も容易であり、煩雑な管理による生産性の低下やコストの増大も有効に回避されている。
【0015】
また、本発明においては特に、外面側のポリエステル樹脂被覆は、アルミニウム製缶基体側に位置する前記第一のポリエステルからなる第一のポリエステル層と、外面側に位置する第二のポリエステルからなる第二のポリエステル層との二層構造を有しており、第一のポリエステル層は、第二のポリエステル層に比して二塩基酸共重合単位が多く、より低結晶性のポリエステルから形成されている。
このような二層構造では、缶基体側に位置する第一のポリエステル層がより柔軟性、可撓性に富んでおり、シームレス缶への加工工程で生じるアルミニウムの変形により追随し易く、缶基体の表面に形成されているノンクロム系無機表面処理膜に対してより高い密着性を確保することができるばかりか、外面側に位置する第二のポリエステル層は、第一のポリエステル層に比して結晶性が高く、このため、強度等の機械的特性が高く、外面側からの外力に対しての耐性が高い。この結果、シームレス加工後の後加工に際しての微小な傷の発生をより有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシームレスアルミニウム缶の断面構造の一例を示す図。
図2】本発明のシームレスアルミニウム缶の断面構造の他の例を示す図。
図3】本発明のシームレスアルミニウム缶の断面構造の更に他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシームレスアルミニウム缶の断面構造を示す図1において、全体として10で示すこのシームレス缶は、アルミニウム製の缶基体1と、缶基体1の内外面のそれぞれに形成された無機表面処理膜3,3と、無機表面処理膜3を介して、缶基体1の内外面に設けられたポリエステルの樹脂被覆5,7とから構成されている。
【0018】
<アルミニウム製の缶基体1>
缶基体1は、純アルミニウムのみならず、アルミニウムと他の金属との合金、例えばマグネシウムやマンガンなどを含むアルミニウム合金から形成されていてよい。アルミニウム合金としては、アルミニウム、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−珪素合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−マグネシウム−珪素合金、アルミニウム−亜鉛合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金等を挙げることができる。特に、耐食性や加工性の観点から、重量基準で示して、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%の範囲にあるものがよく、特に3000番系合金が好適である。このようなアルミニウム合金は、例えばWO2007/091740号等により公知である。
【0019】
缶基体1の厚みは、シームレス加工のための絞り加工や絞りしごき加工の程度やシームレス加工を施す前の素板厚、及び用途などによっても異なり、一概に特定することはできないが、通常の飲料缶においては、一般に0.15〜0.40mm、特に0.20〜0.30mm程度の素板厚みのアルミニウム板がシームレス加工に付され、通常、元板厚の20〜50%の厚み、特に30〜45%程度の厚みに薄肉化される。
【0020】
<無機表面処理膜3>
無機表面処理膜3は、ノンクロム系の膜であり、上記缶基体1を形成するアルミニウム或いはアルミニウム合金から形成された素板をノンクロム系化成処理することにより形成されるものであり、無機化合物を主体とするものであり、有機化合物を含むものではない。
このようなノンクロム系化成処理は、ジルコニウムやチタンなどの金属の水溶性金属化合物やリン酸化合物を含む酸水溶液を用いて上記素板の表面を処理することにより形成される。
【0021】
本発明における無機表面処理膜3は、特に耐食性や後述するポリエステルの内外面被覆5,7との密着性の観点から、ジルコニウム及びリンを含んでいること、例えばジルコニウム原子を3〜30mg/mの割合で含み且つリン原子を1〜15mg/mの割合で含んでいることが好ましい。
【0022】
このようなジルコニウム及びリンを含むノンクロム系の無機表面処理膜3は、特開2007−76012号等により公知であり、例えば、前述した水溶性化合物として、HZrF,(NHZrF,KZrF、NaZrF、LiZrF等を使用し、リン化合物として、リン酸もしくはその塩、縮合リン酸もしくはその塩などを用いて形成され、ジルコニウムやリンは、Zr(PO)・nHOやZrO・nHOなどの形で膜中に存在することとなる。従って、無機表面処理膜3は、通常、リン酸ジルコニウム成分を含んでいる。
また、このようなジルコニウムやリンを含む水溶液中のジルコニウムの含有量は、一般に、100〜10,000mg/L、特に300〜1,000mg/Lであり、リン含有量は、一般に、100〜10,000mg/L、好ましくは300〜1,000mg/Lである。
さらに、この水溶液のpHは、通常、2.5〜5.5、特に2.8〜4.0の範囲に調整される。このようなpH範囲内のAl表面の適度なエッチングが行われて前述した量でジルコニウム及びリンを含む無機表面処理膜3が形成される。
【0023】
尚、このような化成処理のための水溶液には、必要に応じて、エッチング助剤、キレート剤、pH調整剤が配合されていてもよい。
上記エッチング助剤としては、例えば、過酸化水素、フッ化水素酸、フッ化水素酸塩、フッ化硼酸等を挙げることができる。
上記キレート剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等、アルミニウムと錯体を形成する酸及びそれらの金属塩等を挙げることができる。
上記pH調整剤としては、例えば、リン酸、縮合リン酸、フッ化水素酸、硝酸、過塩素酸、硫酸、硝酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の表面処理に悪影響を与えない酸又は塩基を挙げることができる。
【0024】
本発明において、上述したノンクロム系無機表面処理膜3は、特に内外面のポリエステル樹脂被覆5,7に対する密着性の観点からジルコニウム化合物及びリン化合物を用いての化成処理により得られるものが最適であり、通常、シームレス加工前のアルミニウム素板の表面に5〜100nm程度の厚みで形成される。
【0025】
<内外面の樹脂被覆5,7>
本発明において、内外面の樹脂被覆を形成するポリエステルとしては、共重合成分として二塩基酸を含む共重合ポリエステル、即ち低結晶性の第一のポリエステルが使用される(以下、この第一のポリエステルを低結晶性ポリエステルと呼ぶことがある)。具体的に説明すると、この低結晶性ポリエステルは、ジオールと二塩基酸とから形成される主エステル単位と、主エステル単位とジオール成分は同じであるが二塩基酸成分を異にする共重合エステル単位を含む共重合ポリエステルである。このような共重合ポリエステルは、共重合二塩基酸単位が組み込まれているため、低結晶性であり、共重合成分を含んでいないホモポリエステルに比して柔軟性や可撓性が高い。このため、過酷なシームレス加工に際しても、アルミニウム基材の加工変形に容易に追随し、この結果、高い密着性を維持することができる。特に、シームレス缶成形後の後加工時での傷の発生や剥がれなどを有効に防止することが可能となる。
【0026】
上記のように主エステル単位の形成に使用されるジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等を挙げることができる。
また、二塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
本発明においては、主エステル単位としては、エチレンテレフタレート単位、エチレンナフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位が好ましく、特にエチレンテレフタレート単位が、成形加工性、耐熱性等の観点から最も好ましい。
【0027】
さらに、ジオール成分はエステル単位と同じであるが、二塩基酸成分を主エステル単位と異にする共重合エステル単位は、全エステル単位中に13〜17モル%の割合で存在している。この共重合エステル単位の含有量が多すぎると、主エステル単位から形成されるポリエステルの特性(例えば強度等)が損なわれてしまい、共重合エステル単位の含有量が少なすぎると、アルミニウム基材(缶基体1)との密着性が低下するおそれがある。
このような共重合エステル単位として好適なものは、主エステル単位の種類によって異なり、一概に規定することはできないが、一般に、主エステル単位がエチレンテレフタレート単位、エチレンナフタレート単位或いはブチレンテレフタレート単位であるときは、二塩基酸としてイソフタル酸を含むエステル単位が好適である。
【0028】
さらに、本発明においては、上記の低結晶ポリエステル(共重合ポリエステル)には、3価以上の多塩基酸が導入されていることが必要である。即ち、上記のような内外面被覆5,7は、溶融押出により上述した低結晶性ポリエステルをアルミニウム基材(素板)表面の無機表面処理膜上にラミネートすることにより形成されるが、このような低結晶性ポリエステルは、押出ラミネート時にネックイン(溶融押出されたフィルム状樹脂がダイ出口の幅よりも狭くなる現象)を生じ易い。このようなネックインは、内外面被覆5,7の厚みムラをもたらし、密着性等の特性にバラツキを生じせしめる。しかるに、本発明においては、二塩基酸共重合単位と共に3価以上の多塩基酸共重合単位を導入しておくことにより、低結晶性ポリエステルの溶融流動特性が改善され、ネックインの発生を有効に抑制することができる。
【0029】
上記の3価以上の多塩基酸としては、これに限定されるものではないが、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸、1,1,2−エタンカルボン酸、1,1,22,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸等を挙げることができ、特にトリメリット酸が最も好適である。
かかる多塩基酸は、ポリエステルを形成するための全酸成分(多塩基酸を含む)当り0.01〜0.5モル%の量で使用される。この範囲を下回るとネックインが大きくなる傾向があり、この範囲を上回るとラミネート時の押出し圧力が上昇し膜厚制御が不安定になる傾向がある。
【0030】
上述した共重合ポリエステルは、フィルムを形成するに足る分子量を有していればよく、通常、フィルム成形性や耐熱性、強度等の観点から、ガラス転移点(Tg)が50乃至90℃、特に55乃至80℃、融点(Tm)が200乃至275℃、特に220乃至270℃の範囲にあることが好適である。
【0031】
本発明において、内外面被覆5,7を形成するポリエステルとして最も好ましいものは、エチレンテレフタレート単位を主エステル単位とし、エチレンイソフタレート単位及びトリメリット酸エステル単位を共重合エステル単位として有する低結晶性ポリエステル(共重合ポリエステル)である。
【0032】
本発明において、低結晶性ポリエステルの内外面被覆5,7は、それぞれ、シームレス加工前のアルミニウム素板の表面処理膜上に、0.1〜20μm、特に8〜16μm程度の範囲で形成され、シームレス加工により、アルミニウム素板と共に薄肉化されることとなる。通常の飲料缶の場合には、一般に、シームレス加工により薄肉化された缶基体1の厚みの20〜50%の厚みとなる。この厚みが薄いと、成形加工時のアルミニウム基材の表面荒れ等を抑制することが困難となったり、被覆の剥がれを生じ易くなったりする。一方、必要以上に厚い場合には、格別のメリットは生ぜず、むしろコストの増大をもたらし、さらにはアルミニウム基材の成形加工が困難になったりするおそれがある。
【0033】
上述した構造の本発明のシームレスアルミニウム缶においては、種々の設計変更が可能であり、例えば、低結晶性ポリエステルの内外面被覆5,7を2層構成とすることができる。
即ち、図2には、外面被覆7が内面側(缶基体1側)の第一の層7aと外表面側の第二の層7bとから形成された態様が示されている。また、図3には、外面被覆7が内面側の第一の層7aと外表面側の第二の層7bとから形成されていると同時に、内面被覆5も外面側(缶基体1側)の第一の層5aと内表面側の第二の層5bとから形成された態様が示されている。以下では、缶基体1側の第一の層を下層、内外表面側の第二の層を表層と呼ぶことがある。
【0034】
このような二層構造においては、缶基体1側の第一の層7a或いは5aを形成する低結晶性ポリエステル(即ち、第一のポリエステル)は、外表面或いは内表面に露出している層7b或いは5bに比して共重合二塩基酸単位が多く、より低結晶性のポリエステルから形成されている。例えば、二塩基酸成分を主エステル単位と異にする共重合エステル単位の含有量が、第一の層7a或いは5aでは全エステル単位中に13〜17モル%の割合で存在しており、外表面側の第二の層7b(第二のポリエステル)では全エステル単位中に5〜10モル%の割合で存在しており、内表面側の第二の層5bでは全エステル単位中に0〜10モル%の割合で存在しており、第一の層7a或いは5aでの共重合エステル単位の含有量が、第二の層7b或いは5bに比してより多くなっている。第二の層7bがこの範囲を下回ると印刷インキとポリエステル樹脂の密着性が低く打痕部でインキ剥離する傾向があり、この範囲を上回ると樹脂が柔らかいために製缶中の搬送などでキズつきやすい傾向がある。
即ち、缶基体1(無機表面処理膜3)側の第一の層7a,5aは、共重合エステル単位の含有量が多く、第二の層7b,5bに比して柔軟性、可撓性に富んでいる。このため、シームレス缶を成形するための過酷な成形加工に際して、第一の層7a,5aは無機表面処理膜が表面に形成されているアルミニウム基材にしっかりと追随し、より高い密着性を確保することができる。一方、外表面側或いは内表面側の第二の層7b,5bは、成形加工に比して加工用の治具(例えばポンチやダイスなど)に直接接触するが、第一の層7a,5aに比して結晶性が高く、外圧に対する耐性が高いため、成形加工時の傷等の発生を有効に抑制することができるというわけである。
【0035】
このような二層構造において、第一の層7a,5aと第二の層7b,5bとの合計厚みは、前述した内外面被覆5,7に関して述べた範囲の厚みを有していることが望ましく、且つ第一の層7a,5aと第二の層7b,5bとの厚み比(第一の層/第二の層)は10/90〜90/10の範囲にあることが、上述した第一の層7a,5aと第二の層7b,5bとの特性を十分に発揮させる上で好ましい。
【0036】
また、かかる態様では、第一の層7a,5aを形成する共重合ポリエステルに、前述した3価以上の多塩基酸に由来するエステル単位が導入されていることが必要である。第一の層7a,5aを形成する共重合ポリエステルは、共重合成分が多いため、よりネックインを発生し易いからである。
【0037】
さらに、図2及び図3では示されていないが、勿論、内面側の樹脂被覆5のみを上述した二層構造とすることもできるが、本発明では、図2及び図3に示されているように、少なくとも外面側の樹脂被覆7を二層構造とすることが好ましい。即ち、シームレス缶成形後は、ネッキング加工や巻締め加工などの後加工が行われ、このような後加工に際して外面側の樹脂被覆7に加工用の治具によって外圧が加えられるため、より高い強度を要求されるからである。
【0038】
また、上述した図1図3には示されていないが、本発明のシームレスアルミニウム缶10においては、内外面樹脂被覆5,7を、プライマー層を介してノンクロム系の無機表面処理膜3上に形成することもでき、これにより、内外面樹脂被覆5,7と無機表面処理膜3(缶基体1)との間により高い密着性を確保することができる。
このようなプライマー層は、それ自体公知のプライマー、例えばエポキシアクリル樹脂やカルボン酸リッチのポリエステル樹脂塗料を用いて形成することができ、その厚みは極めて薄く、通常、シームレス加工前のアルミニウム素板の表面処理膜上に0.1〜4.5μm程度の厚みで形成され、この厚みは、一般に、シームレス加工によって20〜50%の厚みに薄肉化される。
【0039】
<シームレスアルミニウム缶10の製造>
上述した本発明のシームレスアルミニウム缶10は、内外面の樹脂被覆5,7を前述した二塩基酸に由来する共重合単位に加え、3価以上の多塩基酸に由来する共重合単位が導入された低結晶性のポリエステルを用いて形成することを除けば、それ自体公知の方法によって製造される。
即ち、前述したアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる素板(アルミニウム基材)を用意し、このアルミニウム基材の表面を所定の処理液を用いてノンクロム化成処理を行って無機表面処理膜を形成し、水洗した後、必要によりプライマーを塗布してプライマー層を無機表面処理膜上に形成した後、前述した低結晶性ポリエステルを用いての押出ラミネートによって内外面の樹脂被覆を形成して缶形成用の樹脂被覆アルミニウム基板を作製する。
このようにして作製された樹脂被覆アルミニウム基板を打ち抜き、次いで絞り加工、絞り再絞り加工、絞りしごき加工、曲げ伸ばし加工、曲げ伸ばししごき加工等のシームレス加工に付して目的とするシームレスアルミニウム缶が得られる。
製造されたシームレスアルミニウム缶は、適宜、ネッキング加工、フランジ加工、内容物の充填及び蓋の巻き締め加工等を経て、内容物の種類に応じて、低温加熱殺菌、レトルト殺菌等を行い、販売に供される。
【0040】
このようにして得られる本発明のシームレスアルミニウム缶は、アルミニウム製缶基体1に設けられる表面処理膜3がノンクロム系の無機表面処理膜であり、クロムを含有していないため、環境性、衛生性などの面で優れており、しかも、有機物を含有しておらず、化成処理を行うための処理槽の濃度等の管理が容易であり、煩雑な管理による生産性の低下やコストの増大が有効に回避されている。
さらに、上記の無機表面処理膜3上に設けられる内外面樹脂被覆5,7が3価以上の多塩基酸に由来する共重合単位が導入された低結晶性ポリエステルにより形成される為、押出しラミネート時に樹脂ネックインの発生が抑制されるとともに、この樹脂被覆5,7と無機表面処理膜3(缶基体1)との密着性も極めて高く、缶のネッキング加工や巻き締めなどの後加工に際しても傷の発生等が有効に防止されており、その後の殺菌処理等などに由来する熱履歴を受けた場合の樹脂被覆5,7の剥がれなども有効に防止されており、その商品価値は極めて高い。
【実施例】
【0041】
本発明を次の実験例で説明する。
(実験例1)
[ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板の製造]
アルミニウム合金JIS3104の厚み0.28mmのコイル板の両面に、日本パーカライジング社製「アロジンN―405」を用いてZrで10mg/mの量のリン酸ジルコニウム系化成処理をし、缶外面側となる面にポリエステルフェノール系プライマーをロールコートし、乾燥し、250℃で焼付け、0.9μm厚みのプライマーを形成して巻き取った。
このコイル板を巻き戻しながら、両面に押出しコートでポリエステル樹脂をラミネートした。尚、缶外面側のポリエステル樹脂として、下層として7μm厚のイソフタル酸15モル%及びトリメリット酸0.1モル%含有ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET/IA15TMA0.1」のように表記する)及び上層として3μm厚のPET/IA7.5から成る二層構造のポリエステル樹脂を用いた。缶内面側のポリエステル樹脂は、缶外面側の樹脂と同じにした。その後、内外面にグラマワックスを塗布してコイルを巻き取り、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を製造した。
[ラミネート方法]
コイル両面にポリエステル樹脂をラミネートするにあたり、特開2004−25640号の図1に示されているラミネーターを用い、速度100m/分、押出し時樹脂温度240℃、押出し機Tダイ樹脂幅950mm、Tダイ押出スリットからラミネートロールに樹脂フィルムが接触するまでの距離を100mmとした。
【0042】
[シームレス缶の成形]
このポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を常法により、ブランキングし、絞り加工し、再絞りしごき加工し、開口端を所定寸法にトリミングし、200℃30秒でヒートセットし、外面印刷し、仕上げニスを塗布し、200℃40秒で焼付け、開口部をネッキングし、フランジングして、缶胴211径でネック部206径の容量350mlのシームレス缶を作製した。
トリミングは、缶外側円形カッターと缶内側円形カッターで缶側壁を挟み、カッターを回転させて缶全周にわたり切断した。
【0043】
[トリミング性評価]
得られたトリミング缶のトリム部を視覚で観察した。24缶を測定し、24缶のなかで最もトリム端からの樹脂伸びの大きい部位について次の基準で評点を付け、トリミング性の評点とした。◎、○、△が製品としての許容内である。
◎:樹脂伸びが0.1mm未満である。
〇:樹脂伸びが0.1mm以上、0.5mm未満である。
△:樹脂伸びが0.5mm以上、1.0mm未満である。
×:樹脂伸びが1.0mm以上である。
【0044】
[外面キズデラミ性評価]
得られたシームレス缶ネック部の最小径部に外面から缶周に沿ってカッターで金属面まで達するキズを付与したのち、水道水中にシームレス缶を浸漬し、90℃30分の熱処理をした。各缶について、缶周全体長さに対しての、付与キズ起点の樹脂被覆剥離がある部分の長さの割合(%)を求めた。24缶について測定し、24缶の平均デラミ率を求め、外面キズデラミ性の評点とした。
◎:平均デラミ率が5%未満
〇:平均デラミ率が5%以上で10%未満
△:平均デラミ率が10%以上で30%未満
×:平均デラミ率が30%以上
【0045】
[ラミネックイン性評価]
押出しラミネート時のネックイン程度を次のように評価した。Tダイ出口での樹脂幅950mmと得られたラミネート板樹脂幅の差を求め、その値の半分を片側相当のネックイン長さとした。コイルの100m長さについて調査し、その範囲での最大値を最大ネックイン長さとし、次の基準で評点化し、ラミネックイン性の評点とした。
◎:最大ネックイン長さが30mm未満
〇:最大ネックイン長さが30mm以上で50mm未満
△:最大ネックイン長さが50mm以上で80mm未満
×:最大ネックイン長さが80mm以上
【0046】
(実験例2〜16)
表面処理量、プライマー種類、プライマー膜厚、外面樹脂組成を表1に示すようにした以外は実験例1と同様にしてポリエステル樹脂被覆アルミニウム板及びシームレス缶を作製した。
実験例13の表面処理は日本パーカライジング社製パルコート3750を用いてリン酸チタン系化成処理を行った。チタン(Ti)量として10mg/mにした。それ以外は実験例1と同様にした。
実験例14はプライマーとしてエポキシフェノール系プライマーを用いた。それ以外は実験例1と同様にした。
尚、実験10のラミネックイン性評価においては、ラミネックイン性は良好であったが、押出し時に樹脂粘度が高く、押出し圧力が大きくなり、許容内ではあるがスムーズな押出しラミネートがやや不安定であった。
また実験例11では、許容範囲内ではあるが、缶搬送時の缶胴打痕部で印刷インキにやや剥離が見られた。
【0047】
【表1】
【符号の説明】
【0048】
1:アルミニウム製缶基体
3:ノンクロム系無機表面処理膜
5:低結晶性ポリエステルの内面樹脂被覆
7:低結晶性ポリエステルの外面樹脂被覆
10:シームレスアルミニウム缶
図1
図2
図3