特許第6244734号(P6244734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244734
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】磁気軸受装置および真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/04 20060101AFI20171204BHJP
   F04D 19/04 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F16C32/04 A
   F04D19/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-168546(P2013-168546)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36575(P2015-36575A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−308074(JP,A)
【文献】 特開2006−283799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第1のラジアル電磁石と、
第2のラジアル方向に関して前記回転軸を非接触支持する第2のラジアル電磁石と、
第1の搬送波信号を生成する第1の搬送波生成部と、
前記第1の搬送波信号に対して位相が(π/2+θ)ラジアン異なる第2の搬送波信号を生成する第2の搬送波生成部と、
前記第1のラジアル方向の回転軸位置変位に応じて前記第1の搬送波信号を変調し、第1の変調信号を出力する第1の変位センサと、
前記第2のラジアル方向の回転軸位置変位に応じて前記第2の搬送波信号を変調し、第2の変調信号を出力する第2の変位センサと、
前記第1の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相θずれたサンプリングタイミングで、前記第1の変調信号をサンプリングして復調を行う第1の復調部と、
前記第2の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたサンプリングタイミングで、前記第2の変調信号をサンプリングして復調を行う第2の復調部と、
前記第1および第2の復調部の復調結果に基づいて前記第1および第2のラジアル電磁石の電流を制御する制御部と、を備え
前記位相θが−π/4≦θ≦π/4の範囲に設定される磁気軸受装置。
【請求項2】
第1のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第1のラジアル電磁石と、
第2のラジアル方向に関して前記回転軸を非接触支持する第2のラジアル電磁石と、
前記第1のラジアル方向の回転軸位置変位を検出するための第1の搬送波信号が重畳された第1の電磁石電流を、前記第1のラジアル電磁石に供給する第1の励磁アンプと、
前記第2のラジアル方向の回転軸位置変位を検出するための第2の搬送波信号が重畳された第2の電磁石電流を、前記第2のラジアル電磁石に供給する第2の励磁アンプと、
前記第1の電磁石電流を検出する第1の電流センサと、
前記第2の電磁石電流を検出する第2の電流センサと、
前記第1の電流センサの検出信号をサンプリングして回転軸位置変位情報を抽出する第1の復調部と、
前記第2の電流センサの検出信号をサンプリングして回転軸位置変位情報を抽出する第2の復調部と、
前記第1および第2の復調部の復調結果に基づいて、前記第1および第2の励磁アンプを制御する制御部と、を備え、
前記第2の搬送波信号は、前記第1の搬送波信号に対して位相が(π/2+θ)ラジアン異なり、
前記第1の復調部は、前記第1の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相θずれたサンプリングタイミングで、前記第1の電流センサの検出信号をサンプリングし、
前記第2の復調部は、前記第2の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたサンプリングタイミングで、前記第2の電流センサの検出信号をサンプリングし、
前記位相θが−π/4≦θ≦π/4の範囲に設定される磁気軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気軸受装置において、
前記第1の復調部は、前記第1の搬送波信号の周波数fcに対してfc=(m+1/2)×fs1(ただし、mは0以上の整数)を満たす周波数fs1でサンプリングを行い、前記第1の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相θずれたタイミングでサンプリングして得たデータd11、および、前記第1の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相θずれたタイミングでサンプリングして得たデータd12から算出される値d13=(d11−d12)/2を復調結果として出力し、
前記第2の復調部は、前記第2の搬送波信号の周波数をfcに対してfc=(n+1/2)×fs2(ただし、nは0以上の整数)を満たす周波数fs2でサンプリングを行い、前記第2の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングでサンプリングして得たデータd21、および、前記第2の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングでサンプリングして得たデータd22から算出される値d23=(d21−d22)/2を復調結果として出力する、磁気軸受装置。
【請求項4】
ポンプロータと、
前記ポンプロータを回転駆動するモータと、
前記ポンプロータを磁気浮上支持する請求項1乃至のいずれか一項に記載の磁気軸受装置と、を備える真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受装置、および磁気軸受装置を備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受型ターボ分子ポンプのように回転体(ロータ)を磁気軸受装置で非接触支持する装置においては、ロータを所定の目標位置に浮上維持すべく、ロータの浮上位置と目標位置との偏差(変位)に基づいて電磁石の磁気吸引力(電磁石電流)をリアルタイムでフィードバック制御している。
【0003】
変位の検出に関しては、専用の変位センサにて検出する方式のものが主流であるが、近年、コンパクト化、低価格化および信頼性向上のために、専用センサを省略するとともに、浮上制御力を発生する電磁石に従来のアクチュエータ機能だけでなく、センシング機能(インダクタンス方式)も兼用させたセンサレスタイプ(セルフセンシングタイプとも称される)の装置が実用化されつつある。
【0004】
インダクタンス方式では、専用センサあるいは電磁石コイルに高周波搬送波(センサキャリア)を印加し、浮上ギャップによるインダクタンス変化でセンサキャリアを振幅変調して、それを復調することで浮上ギャップ信号(変位信号)を得ている。復調処理にあたっては、デジタル技術を適用してADコンバータで変調波信号を同期サンプリングして取り込む方式、すなわち、遅延発生の起因となる平滑処理を不要にしたダイレクト方式が多く考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−308074号公報
【特許文献2】特開2000−60169号公報
【特許文献3】特開2001−177919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は専用センサを備える構成のものであり、変調波信号をサンプリングする際のセンサキャリア周波数fcとサンプリング周波数fsとの関係を、fs=2fcあるいはfs=fc/n(nは自然数)としている。専用センサにはセンサキャリア信号電圧のみが印加されているので、通常、信号のS/Nは良好である。しかし、例えば、磁気軸受が搭載されている装置をコンパクト化すべく電磁石と専用センサとを極めて近くへ配置するなどのように、電磁石を励磁する制御電流による磁束が専用センサコイルの信号に影響を及ぼす場合には、磁束の影響によって、ロータ変位で変調された信号成分に制御電流成分(ノイズ成分)が混入するおそれがある。
【0007】
そのため、通常は、ADコンバータの直前に設けられたバンドパスフィルタ(センサキャリア周波数fcを中心とするバンドパスフィルタ)で大部分はフィルタリングされるが、ノイズ成分を取りきるためにはバンドパスフィルタのQ値をさらに大きくして狭帯域化する必要がある。しかしながら、バンドパスフィルタを狭帯域化すると、復調した変位信号が本来の信号から大きく遅延することになり、磁気軸受制御自体が悪化するので適用に限度がある。そのため、ADコンバータの入力信号にノイズ成分が残ることになり、復調信号にもノイズの影響が生じる。従って、復調されたロータ変位信号に、実際には変位(振動)していない振動成分が混入し、その変位情報がそのままフィードバックされて浮上制御される。その結果、ロータがノイズ成分によって強制振動されることになり、その反力がステータ側に伝達され、装置振動発生の原因になることがあった。
【0008】
特許文献2に記載の技術は、専用センサおよびセンサレスの両タイプに関するものである。専用センサを有するタイプに関しては、fs=2fcの条件のサンプリング時間ごとに符号反転させた方形波信号を、デジタル処理で発生させてDAコンバータから出力し、これをセンサキャリア信号としてセンサにて変位信号(ロータ変位)で変調し、その変調波を同一周波数fs(=2fc)でピークタイミングに同期させて取り込んでいる。復調処理においては、ADコンバータで取り込んだ信号データを1サンプリング毎に符号を反転(センサキャリアの最小ピーク時に符号反転)して処理しているので、特許文献1に記載の発明の場合と同様に、振動発生の問題がある。
【0009】
また、センサレスタイプの場合には、電磁石駆動電流信号にセンサキャリア信号を重畳してDAコンバータから出力し、パワーアンプを介して電磁石を励磁している。重畳されたセンサキャリア信号は電磁石コイルにおいて振幅変調される。そのため、変位信号成分を含む振幅変調信号を抽出し、専用センサ有りの場合と同様にセンサキャリアと同期した復調処理が行われる。しかしながら、センサレスタイプの場合には、専用センサに代えて電磁石で変位信号をセンシングするため、重畳されるセンサキャリア信号の変調信号だけでなく、制御電流信号が同等以上の信号レベルで混合している。従って、振幅変調信号に混入する制御電流成分(ノイズ成分)は、専用センサタイプの場合よりもさらに多くなる。
【0010】
特許文献3に記載の技術はセンサレスタイプに関するものであり、電磁石を励磁する駆動電流にセンシング用のセンサキャリア成分を重畳させている。基本的な信号処理は特許文献2に記載のものと同様であるが、以下の点で異なっている。すなわち、ロータを挟むように対向して向き合う一対の電磁石の各々に重畳されるセンサキャリア(搬送波)を、逆位相関係にて印加している。それにより、変位信号成分を含む振幅変調信号を制御電流成分から効率良く分離して抽出することができる。しかしながら、上記一対の電磁石の各々の特性および周辺環境が常に全く同一になることはあり得ず、程度の差はあるにしても、特許文献2のセンサレスタイプの場合と同様の理由から、変位変調信号へのノイズの混入という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の好ましい実施の形態による磁気軸受装置は、第1のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第1のラジアル電磁石と、第2のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第2のラジアル電磁石と、第1の搬送波信号を生成する第1の搬送波生成部と、第1の搬送波信号に対して位相が(π/2+θ)ラジアン異なる第2の搬送波信号を生成する第2の搬送波生成部と、第1のラジアル方向の回転軸位置変位に応じて第1の搬送波信号を変調し、第1の変調信号を出力する第1の変位センサと、第2のラジアル方向の回転軸位置変位に応じて第2の搬送波信号を変調し、第2の変調信号を出力する第2の変位センサと、第1の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相θずれたサンプリングタイミングで、第1の変調信号をサンプリングして復調を行う第1の復調部と、第2の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたサンプリングタイミングで、第2の変調信号をサンプリングして復調を行う第2の復調部と、第1および第2の復調部の復調結果に基づいて第1および第2のラジアル電磁石の電流を制御する制御部と、を備え、前記位相θが−π/4≦θ≦π/4の範囲に設定される
本発明の好ましい実施の形態による磁気軸受装置は、第1のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第1のラジアル電磁石と、第2のラジアル方向に関して回転軸を非接触支持する第2のラジアル電磁石と、第1のラジアル方向の回転軸位置変位を検出するための第1の搬送波信号が重畳された第1の電磁石電流を、第1のラジアル電磁石に供給する第1の励磁アンプと、第2のラジアル方向の回転軸位置変位を検出するための第2の搬送波信号が重畳された第2の電磁石電流を、第2のラジアル電磁石に供給する第2の励磁アンプと、第1の電磁石電流を検出する第1の電流センサと、第2の電磁石電流を検出する第2の電流センサと、第1の電流センサの検出信号をサンプリングして回転軸位置変位情報を抽出する第1の復調部と、第2の電流センサの検出信号をサンプリングして回転軸位置変位情報を抽出する第2の復調部と、第1および第2の復調部の復調結果に基づいて、第1および第2の励磁アンプを制御する制御部と、を備え、第2の搬送波信号は、第1の搬送波信号に対して位相が(π/2+θ)ラジアン異なり、第1の復調部は、第1の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相θずれたサンプリングタイミングで、第1の電流センサの検出信号をサンプリングし、第2の復調部は、第2の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたサンプリングタイミングで、第2の電流センサの検出信号をサンプリングし、前記位相θが−π/4≦θ≦π/4の範囲に設定される
さらに好ましい実施形態では、第1の復調部は、第1の搬送波信号の周波数fcに対してfc=(m+1/2)×fs1(ただし、mは0以上の整数)を満たす周波数fs1でサンプリングを行い、第1の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相θずれたタイミングでサンプリングして得たデータd11、および、第1の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相θずれたタイミングでサンプリングして得たデータd12から算出される値d13=(d11−d12)/2を復調結果として出力し、第2の復調部は、第2の搬送波信号の周波数をfcに対してfc=(n+1/2)×fs2(ただし、nは0以上の整数)を満たす周波数fs2でサンプリングを行い、第2の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングでサンプリングして得たデータd21、および、第2の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングでサンプリングして得たデータd22から算出される値d23=(d21−d22)/2を復調結果として出力する。
本発明の好ましい実施の形態による真空ポンプは、ポンプロータと、ポンプロータを回転駆動するモータと、ポンプロータを磁気浮上支持する前記実施の形態のいずれか一に記載の磁気軸受装置と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁気軸受制御における変位情報のS/N比向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、変位センサ方式の磁気軸受装置を備えた磁気軸受型ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。
図2図2は、コントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。
図3図3は、5軸制御型磁気軸受の構成を示すブロック図である。
図4図4は、ラジアルセンサ71のY1軸センサ71yに関係する制御ブロックを示す図である。
図5図5は、ラジアルセンサ71の外観を示す図である。
図6図6は、第1のノイズ成分を除去するためのサンプリングおよび復調処理を定性的に示す図である。
図7図7は、第1のノイズ成分を除去するためのサンプリングおよび復調処理の他の例を示す図である。
図8図8は、第1のノイズ成分を除去するためのサンプリングおよび復調処理の他の例を示す図である。
図9図9は、干渉が無い場合の差分信号Δixs,Δiysを示すグラフである。
図10図10は、Y軸干渉を受けた差分信号Δixsを示す図である。
図11図11は、X軸干渉を受けた差分信号Δiysを示す図である。
図12図12は、隣接軸の干渉が無い場合の差分信号Δixs、Δiysを示す図である。
図13図13は、隣接軸の干渉がある場合の差分信号Δixsを示す図である。
図14図14は、隣接軸の干渉がある場合の差分信号Δiysを示す図である。
図15図15は、センサレス方式の磁気軸受型ターボ分子ポンプのコントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。
図16図16は、制御部44における磁気軸受制御の機能ブロック図である。
図17図17は、励磁アンプ36の構成を示す図である。
図18図18は、ノイズ対策をした場合およびノイズ対策をしなかった場合のX軸変位、Y軸変位、X軸変位復調出力およびY軸変位復調出力のそれぞれを示す図である。
図19図19は、センサレス方式の場合の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
図1は、変位センサ方式の磁気軸受装置を備えた磁気軸受型ターボ分子ポンプの概略構成を示す図である。ターボ分子ポンプは、ポンプユニット1と、ポンプユニット1を駆動制御するコントロールユニットとにより構成されている。なお、図1では、コントロールユニットの図示を省略した。
【0015】
ロータ3に設けられたロータシャフト4は、ラジアル方向の磁気軸受51、52およびアキシャル方向の磁気軸受53によって非接触支持される。磁気軸受53は、ロータシャフト4の下部に固定されたスラストディスク4aを軸方向に挟むように配置されている。ロータシャフト4の浮上位置の変位は、変位センサであるラジアルセンサ71、72およびアキシャルセンサ73によって検出される。センサ71〜73には、センサコアにコイルを巻き回した構成のインダクタンス式変位センサが用いられている。
【0016】
磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたロータ3は、モータ27により高速回転駆動される。モータ27にはブラシレスDCモータ等が用いられる。なお、図1では、模式的にモータ27と記載しているが、より詳細には、符号27で示した部分はモータステータを構成し、ロータシャフト4側にモータロータが設けられている。
【0017】
ロータ3の回転は、回転センサ28によって検出される。モータ27によって回転駆動されるロータシャフト4の下端には、センサターゲット29が設けられている。センサターゲット29はロータシャフト4と一体に回転する。上述したアキシャルセンサ73および回転センサ28は、センサターゲット29の下面と対向する位置に配置されている。磁気軸受が動作していないときには、ロータシャフト4は非常用のメカニカルベアリング26a,26bによって支持される。
【0018】
ロータ3には、回転側排気機能部を構成する複数段の回転翼3aと円筒部3bとが形成されている。一方、固定側には、固定側排気機能部である固定翼22とネジステータ24とが設けられている。複数段の固定翼22は、軸方向に対して回転翼3aと交互に配置されている。ネジステータ24は、円筒部3bの外周側に所定のギャップを隔てて設けられている。
【0019】
各固定翼22は、スペーサリング23を介してベース20上に載置される。ポンプケーシング21の固定フランジ21cをボルトによりベース20に固定すると、積層されたスペーサリング23がベース20とポンプケーシング21との間に挟持され、固定翼22が位置決めされる。ベース20には排気ポート25が設けられ、この排気ポート25にバックポンプが接続される。ロータ3を磁気浮上させつつモータ27により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体分子は排気ポート25側へと排気される。
【0020】
図2は、コントロールユニットの概略構成を示すブロック図である。外部からのAC入力は、コントロールユニットに設けられたDC電源40によって交流から直流に変換される。DC電源40は、インバータ41用の電源、励磁アンプ36用の電源、制御部44用の電源をそれぞれ生成する。
【0021】
モータ27に電流を供給するインバータ41には、複数のスイッチング素子が備えられている。これらのスイッチング素子のオンオフを制御部44によって制御することにより、モータ27が駆動される。
【0022】
図2に示した10個の磁気軸受電磁石500は、各磁気軸受51,52,53に設けられている磁気軸受電磁石を示している。図1に示したターボ分子ポンプに用いられている磁気軸受は5軸制御型磁気軸受であって、ラジアル方向の磁気軸受51,52は各々2軸の磁気軸受であって、それぞれ2対(4個)の磁気軸受電磁石500を備えている。また、アキシャル方向の磁気軸受53は1軸の磁気軸受であって、1対(2個)の磁気軸受電磁石500を備えている。磁気軸受電磁石500に電流を供給する励磁アンプ36は10個の磁気軸受電磁石500のそれぞれに設けられており、コントロールユニットには合計で10個の励磁アンプ36が備えられている。
【0023】
モータ27の駆動および磁気軸受の駆動を制御する制御部44は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル演算器とその周辺回路により構成される。モータ制御に関しては、制御部44からインバータ41へ、インバータ41に設けられている複数のスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号301が入力され、回転センサ28から制御部44へ、回転速度に関する信号302が入力される。磁気軸受制御に関しては、制御部44から各励磁アンプ36へ、励磁アンプ36に含まれるスイッチング素子をオンオフ制御するためのPWM制御信号303が入力され、各励磁アンプ36から制御部44には、各磁気軸受電磁石500に関する電磁石電流信号304が入力される。また、制御部44から各センサ回路33には、センサキャリア信号(搬送波信号)305が入力され、各センサ回路33から制御部44には、変位により変調されたセンサ信号306が入力される。
【0024】
図3は、5軸制御型磁気軸受の構成を示すブロック図である。図3において、デジタル制御回路30,DAコンバータ31、フィルタ32、ADコンバータ34、DAコンバータ35および位相シフトフィルタ37A〜37Dは、図2の制御部44に対応している。図1のラジアル磁気軸受51はX1軸電磁石51xとY1軸電磁石51yとを備えており、ラジアル磁気軸受52はX2軸電磁石52xとY2軸電磁石52yとを備えている。各電磁石51x,51y,52x,52yは、ロータシャフト4を挟んで対向する一対の磁気軸受電磁石500(図2参照)で構成されている。アキシャル磁気軸受53の電磁石53zも、一対の磁気軸受電磁石500で構成されている。一方、図1のラジアルセンサ71は、X1軸電磁石51xおよびY1軸電磁石51yに対応してX1軸センサ71xおよびY1軸センサ71yを備えている。同様に、ラジアルセンサ72は、X2軸電磁石52xおよびY2軸電磁石52yに対応してX2軸センサ72xおよびY2軸センサ72yを備えている。
【0025】
上述したように、ラジアルセンサ71(71x,71y),72(72x,72y)およびアキシャルセンサ73はインダクタンス式の変位センサであり、ギャップ変位の変化によるセンサ部インピーダンスの変化を利用して、ギャップ変位を電気信号に変換する。デジタル制御回路30で生成された周波数fcのセンサキャリア信号は、DAコンバータ31でアナログ信号に変換され、フィルタ32および位相シフトフィルタ37A〜37Dを介して各センサ71x,71y,72x,72yおよび73に印加される。
【0026】
各センサ71x,71y,72x,72yおよび73に印加されたセンサキャリア信号(搬送波信号)は、ギャップ変位により生じるセンサ部インピーダンス変化に応じて振幅変調される。この振幅変調されたセンサキャリア信号(以下では、変位変調波信号と呼ぶ)は各センサ回路33a〜33eを介してADコンバータ34に入力される。各センサ回路33a〜33eからのアナログ信号はADコンバータ34により順にデジタル値へと変換され、デジタル制御回路30へと入力される。なお、ADコンバータ34におけるサンプリングの詳細は後述する。
【0027】
デジタル制御回路30では、予め記憶された磁気浮上制御定数とデジタル値へと変換された位置情報とに基づいて各電磁石51x、51y、52x、52y、53に流すべき電磁石電流を算出し、電磁石電流制御信号を出力する。電磁石電流制御信号はDAコンバータ35によりアナログ値に変換された後に励磁アンプ36に入力される。なお、図3では励磁アンプ36は一つだけ記載されているが、実際には図2に示したように磁気軸受電磁石500の数(10個)だけ設けられており、各励磁アンプ36から各磁気軸受電磁石500へと電磁石電流が供給される。
【0028】
図4は、ラジアルセンサ71のY1軸センサ71y(図3参照)に関係する制御ブロックの一例を示したものである。Y1軸センサ71yは、ロータシャフト4を挟んで対向配置された一対のセンサ71yp,71ymを有している。デジタル制御回路30の正弦波離散値生成部313で生成された正弦波離散値はDAコンバータ31によりアナログ信号に変換され、そのアナログ信号はフィルタ32へ出力される。出力されたセンサキャリア信号は高調波が含まれていて階段状になっているため、ローパスフィルタやバンドパスフィルタ等で構成されるフィルタ32でフィルタリングすることにより、滑らかなセンサキャリア信号が得られる。
【0029】
フィルタ32から出力されたセンサキャリア信号は、位相シフトフィルタ37Aにおいてセンサキャリア信号の位相をずらす処理が行われる。位相シフトフィルタ37Aから出力されたセンサキャリア信号は、抵抗Rと直列接続されたセンサ71yp,71ymに印加される。各センサ71yp,71ymで振幅変調されたセンサキャリア信号(変位変調波信号)は、差動アンプ203に入力される。差動アンプ203からは、それらの変位変調波信号の差分信号が出力される。差動アンプ203から出力された差分信号は、フィルタ205においてキャリア周波数fcを中心周波数とするバンドパス処理が施される。
【0030】
フィルタ205から出力された信号は、ADコンバータ34から同期サンプリングにてデジタル制御回路30に取り込まれる。その際、正弦波離散値生成部313で生成された正弦波離散値に基づいてサンプリングを行うが、本実施の形態では、正弦波離散値を位相シフト部312により所定量だけ位相シフトし、その位相シフトされた正弦波離散値に基づいてサンプリングを行う。その後、サンプリングしたデータに基づいて、復調演算部310にて復調演算を行う。その演算結果は制御演算部311に入力され、制御演算部311において電磁石電流制御量の演算が行われる。
【0031】
なお、図3では、ADコンバータ34と同期させて出力するセンサキャリア信号をDAコンバータ31から出力しているが、これに限定されない。例えば、デジタルにてセンサキャリア正弦波信号を一旦PWM変調してHigh/Low信号にてデジタル出力し、アナログローパスフィルタにてPWM成分を除去してセンサキャリア信号を得るようにしても良い。
【0032】
ところで、センサ71〜73に用いられているインダクタンス式変位センサは、センサコイルに鎖交する磁束の変化を検出することにより変位を検出するものである。そのため、電磁石が形成する磁束や隣接する変位センサが形成する磁束の影響を受け、それらが変位検出のノイズとして悪影響を及ぼす。
【0033】
図5は、ラジアルセンサ71の外観を示す図である。図5のラジアルセンサ71は、z軸方向に沿って見た平面図であり、2軸分(図3の71x,71y)のラジアルセンサを構成している。ラジアルセンサ71は、内周に複数のティース12が突設された電磁鋼板製のリング状コア14と、所定のティース12に捲き回されたセンサコイル13a〜13hとを備えている。
【0034】
一対のセンサコイル13a,13bは、ラジアルセンサ71xpのセンサコイルを構成している。一対のコイル13e,13fは、ラジアルセンサ71xmのセンサコイルを構成している。一対のコイル13c,13dは、ラジアルセンサ71ymのセンサコイルを構成している。一対のコイル13g,13hは、ラジアルセンサ71ypのセンサコイルを構成している。
【0035】
例えば、センサコイル13aのティースから出た磁力線は対になっているコイル13bのティース12に入り、コアを通ってセンサコイル13aのティース12へ戻る。しかしながら、リング状のコアであるため、磁力線の一部が隣接するラジアルセンサ、この場合にはラジアルセンサ71yp、71ymのティースにも漏洩し、それらのセンサコイルと鎖交している。他のラジアルセンサ71xm、71yp、71ymの場合も同様である。このように、センサコイル13a〜13hが一つのリング状コアに設けられているため、ラジアルセンサ71xp〜71ymは、隣接するラジアルセンサの漏洩磁束(すなわちセンサ電流)の影響を受ける。すなわち、この漏洩磁束の影響は、影響を受けるラジアルセンサのセンサキャリア信号にとっては、ノイズとして作用する。
【0036】
上述のように、変位センサにおけるノイズとしては、電磁石電流等に起因する第1のノイズ成分と、隣接する変位センサとの干渉による第2のノイズ成分とがある。第2のノイズ成分はセンサキャリア周波数域におけるノイズであるが、第1のノイズ成分の周波数域は第2のノイズ成分よりも低く、1/10程度の周波数である。
【0037】
(第1のノイズ成分の除去)
ラジアルセンサ71のX1軸センサ71xは、図5に示すように、ロータシャフト4を挟んで対向配置された一対のセンサ71xp,71xmを有している。ロータシャフト4とセンサ71xp,71xmのティース12との間の隙間(ギャップ)が大きいとセンサコイルのインダクタンス値は小さく、ギャップが小さいとセンサコイルのインダクタンス値は大きくなる。したがって、対向するセンサ71xp,71xmの一方のインダクタンス値が大きくなると、他方のインダクタンス値は小さくなる。すなわち、対向するセンサ71xp,71xmのインダクタンス変化によって、ギャップ変化、すなわちロータシャフト4の変位情報を得ることができる。
【0038】
対向するセンサ71xp,71xmのコイルのインダクタンスをそれぞれLsp,Lsmとした場合、近似的に次式(1)が成り立つ。なお、Dsはロータシャフト4が浮上中心軸(浮上目標位置)にある場合の、センサ71xp,71xmとのギャップで、式(1)におけるdsは浮上目標位置からの変位を表している。Asは定数である。
1/Lsp=As×(Ds−ds)
1/Lsm=As×(Ds+ds) …(1)
【0039】
ここで、コイル抵抗を近似的に無視すると、センサコイルに印加される電圧vsp,vsmとセンサコイルを流れる電流isp,ismとの関係は、次式(2)により表すことができる。なお、d(isp)/dtは、ispの時間微分を表す。
vsp=Lsp×d(isp)/dt
vsm=Lsm×d(ism)/dt …(2)
【0040】
センサコイルに印加される電圧vsp,vsmを「−vsin(ωc×t)」と表すと(ただし、ωc=2π×fc)、上述した式(1),(2)から、センサコイルを流れる電流isp,ismは次式(3)のように表される。なお、Bs=v×As/ωcである。このように、電流isp,ismは、変位dsの時間変化により振幅変調される。ラジアルセンサの場合には、これらの差分信号が変位変調波信号として用いられるので、差分信号は式(4)のようになる。
isp=−v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lsp)
=−Bs(Ds−ds)×sin(ωc×t−π/2)
ism=−v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lsm)
=−Bs(Ds+ds)×sin(ωc×t−π/2) …(3)
Δis=isp−ism
=2Bsds×sin(ωc×t−π/2) …(4)
【0041】
図6は、第1のノイズ成分を除去するためのサンプリングおよび復調処理を定性的に示す図である。図6(a)は本実施の形態における処理を示し、図6(b)は従来の処理を示している。図6において、振動波形WはADコンバータ34に入力される変位変調波信号を表しており、rはノイズ成分である。
【0042】
例えば、電磁石電流に起因するノイズの場合にはサンプリング周波数fsに比べて低い周波数のノイズ成分となり、ここでは、定性的な影響を見るために近似的に直流ノイズとする。また、変位変調波信号もシンプルに直流変位のみで変調された場合を考える。そのため、ノイズ成分rは一定で、入力信号Wの振幅2Bsdsも一定値となっている。2Bsds=dと表すと、ADコンバータ34に入力される信号は、(直流変調)+(直流ノイズ)=d×sin(2πfc×t)+rのように表せる。
【0043】
本実施の形態の場合には、同期サンプリングにて取り込みを行う際に、fc=(n+1/2)×fsの関係にて、センサキャリア信号の最大ピークタイミング(S11、S12、S13、S14、・・・)および最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)に同期して取り込みを行う。なお、fcはキャリア周波数であり、fsはサンプリング周波数である。図6(a)に示す例は、fc=(n+1/2)×fsにおいてn=0の場合(fs=2fc)を示している。すなわち、キャリア周波数fcの場合の半分の周期1/(2×fc)(すなわち、2倍の周波数2fc)のピークタイミングにおいてサンプリングを行う。ここでは、最大ピークタイミング(S11、S12、S13、S14、・・・)で取り込まれたデータ値をd1(=d+r)、最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)で取り込まれたデータ値をd2(=−d+r)とする。
【0044】
図4の復調演算部310は、最大ピークタイミングS11で取り込まれたサンプリングデータ値d1と最小ピークタイミングS21で取り込まれたサンプリングデータ値d2とに基づいて、次式(5)で示す演算を行う。図6の矢印S31〜S34は演算結果の出力タイミングを示しており、図6に示す例では、出力タイミングS31〜S34は最小ピークタイミングS21〜S24と同一タイミングに設定されている。最大ピークタイミングS11および最小ピークタイミングS21のデータ値d1,d2に基づく演算結果d3は、出力タイミングS31(最小ピークタイミングS21と同一タイミング)において復調演算出力として出力される。
d3=(d1−d2)/2 …(5)
【0045】
同様に、出力タイミングS32(最小ピークタイミングS22と同一タイミング)には、最大ピークタイミングS12のサンプリングデータ値d1と最小ピークタイミングS22のサンプリングデータ値d2とに基づく値d3が復調演算出力として出力される。上述したように、出力タイミング(S33、S34、・・・)においても、同様の演算結果が出力される。出力タイミング(S31、S32、S33、S34・・・)は、それぞれ最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)と同タイミングに設定される。式(5)からも分かるように、直流ノイズの場合にはノイズ成分rは完全にキャンセルされる。図6(a)に示した例ではセンサキャリア信号は直流変位によるものなので、復調演算出力d3は振幅値dと等しくなる。
【0046】
すなわち、復調演算出力d3は、キャリア周波数fc(すなわち、周期1/fc)の信号波形の最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)において出力される。なお、復調演算出力d3の出力タイミング(S31、S32、S33、S34・・・)を、最大ピークタイミング(S11、S12、S13、S14、・・・)と同一タイミングに設定するようにしても良い。例えば、最大ピークタイミングS12で復調演算出力d3を出力する場合には、最小ピークタイミングS21のデータ値d2と最大ピークタイミングS12のデータ値d1とに基づいて復調演算出力d3を算出する。
【0047】
一方、図6(b)では、本実施の形態と異なり、fs=fcで最小ピークタイミングで取り込み、最小ピークタイミングで復調演算処理d3を出力する場合を示している。この場合には、サンプリングされたデータ値d2(=−d+r)を正負反転した値−d2(=d−r)を、復調演算出力d3として出力している。すなわち、復調演算出力d3にはノイズに起因する値rが誤差として含まれる。このように、電磁石電流に起因する低い周波数の混合ノイズも復調信号として取り込まれる。その結果、復調されたロータ変位信号(変位情報)に実際には変位(振動)していない振動成分が混入したままとなり、そのロータ変位信号がフィードバックされて磁気浮上制御される。そのため、ロータがノイズ分で強制振動されることになり、その反力がポンプケーシング21に伝達され、ポンプユニット1の振動の原因となる。
【0048】
しかしながら、本実施の形態では、上述したようにd3=(d1−d2)/2を算出した際にノイズ成分rがほぼキャンセルされるため、復調されたロータ変位信号に含まれるノイズ(第1のノイズ成分)を低減することができ、ポンプ振動を防止することができる。
【0049】
図6(a)に示す例では、fs=2×fcのサンプリング周波数fsでピーク値(最大ピーク値および最少ピーク値)をサンプリングし、周期1/fcのピークタイミングにおいて復調演算出力d3を出力する場合を示したが、サンプリングタイミングおよび出力タイミングはこれに限らない。図7は、サンプリング周期と復調演算出力d3の出力周期とが等しい場合を示したものである。なお、図7では、入力信号Wをノイズ成分r=0として示しており、入力信号Wはd×sin(2πfc×t)と表される。
【0050】
図7(a)は、fs=2×fcでピーク値をサンプリングし、サンプリング周期と同じ周期1/(2×fc)のピークタイミングにおいて復調演算出力d3を出力する場合を示す。fs=2×fcでピーク値のサンプリングを行うことにより、センサキャリアの最大ピークタイミング(S11、S12、S13、S14、・・・)のデータ値d1および最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)のデータ値d2が取り込まれる。そして、出力タイミング(S31、S32、S33、S34、S35・・・)にて復調演算出力d3(=(d1−d2)/2)を出力する。奇数番目の出力タイミング(S31、S33、S35、S37、・・・)は最大ピークタイミング(S11、S12、S13、S14、・・・)と同一タイミングであり、偶数番目の出力タイミング(S32、S34、S36、S38・・・)は最小ピークタイミング(S21、S22、S23、S24、・・・)と同一タイミングである。
【0051】
例えば、最小ピークタイミングS21と同一タイミングの出力タイミングS32で復調演算出力d3を出力する場合には、最大ピークタイミングS11のデータ値d1と最小ピークタイミングS21のデータ値d2とに基づいて復調演算出力d3を算出する。一方、最大ピークタイミングS12と同一タイミングの出力タイミングS33で復調演算出力d3を出力する場合には、最大ピークタイミングS12のデータ値d1と最小ピークタイミングS21のデータ値d2とに基づいて復調演算出力d3を算出する。すなわち、直近に取り込まれた2つのデータ値d1,d2に基づいて復調演算出力d3を算出する。
【0052】
図7(b)はfc=(n+1/2)×fsにおいてn=1とした場合を示している。図7(b)では、fs=(2/3)×fcでピーク値をサンプリングし、サンプリング周期と同じ周期1/((2/3)×fc)のピークタイミングにおいて復調演算出力d3を出力する。すなわち、キャリア周波数fcの3周期に2回の頻度でサンプリングを行い、最大ピークタイミングのデータ値d1と最小ピークタイミングのデータ値d2とを取り込む。そして、データ値d1,d2を取得したタイミングで復調演算出力d3を出力する。
【0053】
例えば、最小ピークタイミングS21と同一タイミングの出力タイミングS32では、最大ピークタイミングS11のデータ値d1と最小ピークタイミングS21のデータ値d2とに基づいて復調演算出力d3を出力する。また、最大ピークタイミングS12と同一タイミングの出力タイミングS33では、最大ピークタイミングS12のデータ値d1と最小ピークタイミングS21のデータ値d2とに基づいて復調演算出力d3を出力する。
【0054】
図8(a)に示す例では、fs=2×fcでピーク値をサンプリングし、周期1/fcの最小ピークタイミングにおいて復調演算出力d3を出力する。復調演算出力d3は、直近に取り込まれた2つのデータ値d1,d2に基づいて算出される。図7(a)に示した例と比較すると、復調演算出力d3の出力頻度が1/2になっている。そのため、図8(a)に示す場合には演算負荷の軽減が図れる。一方、図7(a)の場合には、センサ信号に含まれるノイズをより高い周波成分まで除去することができる。
【0055】
図8(b)に示す例では、fs=(2/3)×fcでピーク値をサンプリングし、サンプリング周期の2倍の周期1/(fc/3)の最小ピークタイミングにおいて復調演算出力d3を出力する。図7(b)に示した例と比較すると、復調演算出力d3の出力頻度が1/2になっている。そのため、図8(b)に示す場合の方が、演算負荷の軽減が図れる。
【0056】
図6〜8に示したように、本実施の形態では、fc=(n+1/2)×fsの関係にてサンプリングを行うことによって、センサキャリアの最大ピークタイミングのデータ値d1と最小ピークタイミングのデータ値d2とが交互に取り込まれる。そして、出力タイミングの直近に取り込まれたデータ値d1,d2に基づいて復調演算出力d3を出力することにより、ノイズ成分rがほぼキャンセルされる。その演算結果d3に基づいて電磁石電流を制御することにより、ノイズに起因するポンプ振動を防止することができる。
【0057】
(第2のノイズ成分の除去)
上述した式(4)で表される差分信号Δisは、隣接する変位センサとの間に干渉がない場合であって、干渉がある場合には、隣接する変位センサの電流の影響を受ける。ここでは、干渉を受ける軸をX軸(Xp側、Xm側)、干渉を与える軸をY軸(Yp側、Ym側)として説明する。X軸の差分信号をΔixs、Y軸の差分信号をΔiysとし、干渉の影響を簡易的に次式(6),(7)の第2項のように考える。式(7)におけるφは、X軸センサのセンサキャリア信号に対するY軸センサのセンサキャリア信号の位相ずれを表す。
Δixs=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)+α×Δiys …(6)
Δiys=2Bsdys×sin(ωc×t−π/2+φ)+α×Δixs …(7)
【0058】
式(7)を式(6)に代入し、α≪1であることからαの項を無視すると、差分信号Δixsは次式(8)のようになる。同様に、Δiysは次式(9)のようになる。すなわち、信号dxsにはY軸の干渉によるノイズαdysが加算され、信号dysにはX軸の干渉によるノイズαdxsが加算される。
Δixs=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)
+2Bsαdys×sin(ωc×t−π/2+φ) …(8)
Δiys=2Bsdys×sin(ωc×t−π/2+φ)
+2Bsαdxs×sin(ωc×t−π/2) …(9)
【0059】
本実施の形態では、Y軸側のセンサキャリア信号の位相のずれφをφ=90°+θとし、サンプリングの際にはX軸側およびY軸側のセンサキャリア信号の最大・最少ピークからθだけ位相をずらしてデータd1、d2のサンプリングを、それぞれ行うようにした。そのようなタイミングでサンプリングを行うことにより、式(8),(9)の第2項がゼロとなり、隣接軸の干渉の影響を除去することが可能となる。なお、θは、−45°≦θ≦45°とする。
【0060】
例えば、θ=0として最大・最少ピークでデータd1、d2をサンプリングする場合について、ラジアルセンサ71を例に説明する。式(8),(9)の位相ずれφが90°となるように、Y1軸用センサキャリア信号を90°だけ位相をずらして生成する。すなわち、図3、4の位相シフトフィルタ37Aにより、Y1軸用センサキャリア信号の位相を90°ずらす。その場合、上述した式(8),(9)は次式(10),(11)のようになる。
Δixs=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)+2Bsαdys×sin(ωc×t)
…(10)
Δiys=2Bsdys×sin(ωc×t)+2Bsαdxs×sin(ωc×t−π/2)
…(11)
【0061】
まず、干渉が無い場合(α=0)について説明する。図9は、干渉が無い場合の差分信号Δixs,Δiysを示すグラフである。すなわち、図9(a)は式(10)でα=0とした差分信号Δixs=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)を示しており、図9(b)は式(11)でα=0とした差分信号Δiys=2Bsdys×sin(ωc×t)を示している。なお、ここでは2Bsdxs=2Bsdys=1として図示している。差分信号Δixsと差分信号Δiysとは、位相が90°(=π/2ラジアン)ずれていることが分かる。図9の場合には、差分信号Δiysの方が90°だけ進み位相となっている。これは、Y軸用センサキャリア信号が、X軸用キャリア信号に対して位相が90°進んでいるためである。
【0062】
そして、ADコンバータ34からデータd1,d2を取り込む場合には、それぞれ、キャリア信号の最大・最小ピークに同期して取り込むようにする。Y軸用センサキャリア信号はX軸用キャリア信号に対して位相が90°進んでいるので、図9からも分かるように、差分信号Δiysのデータd1,d2を取り込む時刻は、差分信号Δixsのデータd1,d2を取り込む時刻に対して位相90°分だけ早い。
【0063】
その結果、差分信号Δixs,Δiysのいずれにおいても最大ピークでデータd1がサンプリングされ、最少ピークでデータd2がサンプリングされる。差分信号Δixsの場合にはd1=2Bsdxs、d2=−2Bsdxsとなるので、d3=d1−d2/4Bsを演算することで、X軸直流変位dxsを得ることができる。差分信号Δiysについても同様である。
【0064】
図10,11は、干渉がある場合を示したものであり、ここではα=0.15として図示している。図10はY軸干渉を受けた差分信号Δixsを示す図であり、差分信号Δixsを示すラインL1と共に、2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)を示すラインL2および2Bsdys×sin(ωc×t)を示すラインL3も図示している。図11はX軸干渉を受けた差分信号Δiysを示す図であり、差分信号Δiysを示すラインL4と共に、2Bsdys×sin(ωc×t)を示すラインL5および2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)を示すラインL6も図示している。
【0065】
図10において、データd1のサンプリングタイミングは、式(10)の第1項(ラインL2)が最大ピークとなるタイミグ(t=(n+1/2)/fc、nは整数)で、データd2のサンプリングタイミングは、ラインL2が最少ピークとなるタイミグ(t=n/fc、nは整数)である。上述したようにY軸用センサキャリア信号はX軸用センサキャリア信号に対して位相が90°ずれているため、式(10)の第1項と第2項とは位相が90°ずれている。そのため、t=(n+1/2)/fcおよびt=n/fcにおいては、Y軸干渉によるノイズ成分である式(10)の第2項(すなわちラインL3)はゼロとなる。その結果、復調演算結果d3=(d1−d2/4Bs)は、X軸直流変位dxsを正確に復調していることが分かる。
【0066】
同様に、図11に示す差分信号Δiysの場合にも、式(11)の第1項を表すラインL5の最大ピークでデータd1をサンプリングし、ラインL5の最小ピークでデータd2をサンプリングする。上述したように、Y軸用キャリア信号はX軸用キャリア信号に対して90°だけ位相が進んでいるので、差分信号Δiysにおけるデータd1,d2のサンプリング時刻は、差分信号Δixsの場合に比べて位相90°に相当する時間だけ早くなる。
【0067】
このサンプリングタイミングでは、式(11)の第2項がゼロとなるので、サンプリングされたデータd1、d2にはY軸干渉によるノイズ成分が含まれていない。その結果、復調演算結果d3=(d1−d2/4Bs)は、Y軸直流変位dysを正確に復調することになる。
【0068】
図10,11では、式(10)、(11)の第1項が最大・最少ピークとなるタイミングでサンプリングを行うようにしたが、以下では、第1項の最大・最少ピークからθだけ位相がずれたタイミングでサンプリングを行う場合について説明する。通常の制御型磁気軸受は、図3に示すように5軸から構成されている。このように、制御軸の軸数が多い場合には、ADコンバータ34での取り込みの都合上、最大・最少ピークから位相をずらして取り込みを行うことが多く適用される。
【0069】
X軸用センサキャリア信号に対するY軸用センサキャリア信号の位相差φをφ=90°+θとする。θは、最大・最少ピークからの位相ずれを示す。なお、θは、−45°≦θ≦45°とする。そして、X軸側の差分信号Δixsに対しては、X軸用センサキャリア信号の最大・最少ピークからθだけ位相ずれたタイミングに同期してデータd1、d2をサンプリングする。一方、Y軸側の差分信号Δiysに対しては、Y軸用センサキャリア信号の最大・最少ピークからθだけ位相ずれたタイミングに同期してデータd1、d2をサンプリングする。ここで、差分信号Δixs,Δiysは、次式(12)、(13)のように表される。
Δixs=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2)+2Bsαdys×sin(ωc×t+θ)
…(12)
Δiys=2Bsdys×sin(ωc×t+θ)+2Bsαdxs×sin(ωc×t−π/2)
…(13)
【0070】
式(12)の第1項の最大ピークからθだけ位相がずれた(進んだ)タイミングの時刻は、t=(n+1/2)/fc−θ/(2πfc)となる。また、最少ピークからθだけ位相がずれた(進んだ)タイミングの時刻は、t=n/fc−θ/(2πfc)となる。ただし、nは整数である。このように差分信号Δixsのサンプリングタイミングを設定することにより、式(12)のY軸ノイズ成分である第2項はゼロとなる。
【0071】
一方、式(13)において、第1項の最大ピークからθだけ位相がずれた(遅れた)タイミングの時刻は、t=(n+1/4)/fcとなる。また、第1項の最小ピークからθだけ位相がずれた(遅れた)タイミングの時刻は、t=(n−1/4)/fcとなる。このように差分信号Δiysのサンプリングタイミングを設定することにより、式(12)のY軸ノイズ成分である第2項はゼロとなる。
【0072】
図12(a)は、隣接軸の干渉が無い場合(α=0、θ=45°)の差分信号Δixs(=2Bsdxs×sin(ωc×t−π/2))を示す図である。同様に、図12(b)は、隣接軸の干渉が無い場合(α=0、θ=45°)の差分信号Δiys(=2Bsdys×sin(ωc×t+θ))を示す図である。差分信号Δixsの場合には、丸印で示すデータd1、d2のサンプリングタイミングは、Δixsの第1項を示すラインの最大・最少ピークからマイナス方向に、位相θに相当する時刻Δt=θ/2πfcだけずれている。一方、差分信号Δiysの場合には、データd1、d2のサンプリングタイミングは、Δiysの第1項を示すラインの最大・最少ピークからプラス方向に、位相θに相当する時刻Δt=θ/2πfcだけずれている。このように、サンプリングタイミングが最大・最小ピークからずれているため、得られる値は、X軸直流変位よりも若干小さくなっている。
【0073】
図13,14は、α=0.15、θ=45°の場合の差分信号Δixs,Δiys,データd1,2のサンプリングタイミング、およびデータd3の出力タイミングを示す図である。図13において、ラインL7は差分信号Δixsを示し、ラインL8は式(12)の第1項を示し、ラインL9は、式(12)の第2項(αを除く)を示している。丸印で示すデータd1,d2のサンプリングタイミングは、X軸用センサキャリア信号に対応するラインL7の最大・最小ピークから、位相θだけ進み側(+θ)にずれている。そのサンプリングタイミングにおいては、式(12)の第2項、すなわちY軸干渉によるノイズ成分はゼロとなる。
【0074】
図14において、ラインL10は差分信号Δiysを示し、ラインL11は式(13)の第1項を示し、ラインL12は、式(13)の第2項(αを除く)を示している。丸印で示すデータd1,d2のサンプリングタイミングは、Y軸用センサキャリア信号に対応するラインL11の最大・最小ピークから、位相θだけ遅れ側(−θ)にずれている。そのサンプリングタイミングにおいては、式(13)の第2項、すなわちX軸干渉によるノイズ成分はゼロとなる。
【0075】
図3に示したような5軸制御型磁気軸受の場合には、X1軸、Y1軸、X2軸、Y2軸およびZ軸のそれぞれに変位センサが設けられている。これらのセンサ出力信号を一つのADコンバータ34でAD変換する場合には、それらのセンサ出力信号を入力ch1〜ch5のそれぞれに入力し、順に取り込むことになる。そのため、取り込みタイミングに時間ズレが生じ、5つのセンサキャリア信号の位相が揃っている場合には、各々のセンサキャリア信号の最大・最小ピークで上述したデータd1,d2を取り込むことができない。そこで、位相シフトフィルタ37A〜37Dを用いてセンサキャリア信号の位相をそれぞれずらすことで、センサキャリア信号の最大・最小ピークでデータd1,d2を取り込むことが可能となる。
【0076】
すなわち、位相シフトフィルタ37A〜37Dの位相シフト量θをθa、θb、θc、θdのように互いに重ならないように設定する。このとき、X1軸センサ71xのセンサキャリア信号に対するY1軸センサ71yのセンサキャリア信号の位相ずれθ1=θa、X2軸センサ72xのセンサキャリア信号に対するY2軸センサ72yのセンサキャリア信号の位相ずれθ2=θc−θbは、−45°以上45°以下の範囲に設定される。このように各センサキャリア信号の位相を設定することにより、X1軸センサ71xとY1軸センサ71yとの間、および、X2軸センサ72xとY2軸センサ72yとの間に、上述した内容を適用することができる。
【0077】
なお、上述した第2のノイズ成分の除去の説明では、最大ピークまたはその近傍のデータd1と最小ピークまたはその近傍のデータd2との差を取ることで、第1のノイズ成分の除去も行っている。しかし、図6(b)に示したように、データd1またはデータd2だけを用いて復調した場合においても、第2のノイズ成分の除去は可能である。すなわち、第2のノイズの除去は、第1のノイズの除去と独立して行うことができる。一方、上記では、順に信号を取り込む方式のADコンバータを適用した場合について説明したが、これとは別方式となる、ch1〜ch5の信号を一括して同タイミングで取り込む方式のADコンバータを適用した場合は、隣接するX、Y間で搬送波位相差を90°、すなわちθ=0°にすれば良い。
【0078】
−第2の実施の形態−
上述した第1の実施の形態では、変位センサ方式の磁気軸受装置を備えた磁気軸受型ターボ分子ポンプについて説明した。第2の実施の形態では、本来の軸支持機能に加えて位置センシング機能を有する磁気軸受装置を備えた磁気軸受型ターボ分子について説明する。ここでは、位置センシング機能を備えたセルフセンシング方式の磁気軸受装置を、センサレス方式の磁気軸受装置と呼ぶことにする。以下では、センサレス方式の磁気軸受装置に、第1の実施の形態で説明したノイズ除去方法を適用する場合について説明する。なおセンサレス方式の磁気軸受装置を備えた磁気軸受型ターボ分子ポンプにおいては、図1に示したラジアルセンサ71、72およびアキシャルセンサ73が省略される。
【0079】
図15は、センサレス方式の磁気軸受型ターボ分子ポンプのコントロールユニットの概略構成を示すブロック図であり、第1の実施の形態の図2に対応する図である。センサレス方式の磁気軸受装置を備える磁気軸受型ターボ分子ポンプの場合には、変位センサ用のセンサ回路が省略され、その代わりにセンシング用の電流成分が重畳された電磁石電流が、各磁気軸受電磁石500に供給される。
【0080】
図16は、制御部44における磁気軸受制御の機能ブロック図であって、制御軸5軸の内の1軸分(例えば、X1軸)について示したものである。上述したように、制御軸1軸分には一対(P側およびM側)の磁気軸受電磁石500が設けられており、各磁気軸受電磁石500に対して励磁アンプ36(36p、36m)がそれぞれ設けられている。
【0081】
図17は、各磁気軸受電磁石500に対応して設けられている励磁アンプ36の構成を示す図である。励磁アンプ36は、スイッチング素子とダイオードとを直列接続したものを、さらに2つ並列接続したものである。磁気軸受電磁石500は、スイッチング素子SW10およびダイオードD10の中間と、スイッチング素子SW11およびダイオードD11の中間との間に接続される。
【0082】
スイッチング素子SW10,SW11は、制御部44からのPWMゲート駆動信号303に基づいてオンオフ(導通、遮断)制御される。スイッチング素子SW10,SW11は同時にオンオフされ、両方ともオンの場合には実線矢印で示すように電磁石電流が流れ、両方ともオフの場合には破線矢印で示すように電磁石電流が流れる。オン時の電流値は電流センサ101Aにより計測され、オフ時の電流値は電流センサ101Bにより計測される。電流センサ101A,101Bには例えばシャント抵抗が用いられ、シャント抵抗の電圧を電流検出信号として用いる。
【0083】
図16に戻って、ゲート信号生成部401pは、PWM演算部412pで生成されたPWM制御信号に基づいて、P側の励磁アンプ36pのスイッチング素子を駆動するためのゲート駆動電圧(ゲート信号)を生成する。同様に、ゲート信号生成部401mは、PWM演算部412mで生成されたPWM制御信号に基づいて、M側の励磁アンプ36mのスイッチング素子を駆動するためのゲート信号を生成する。
【0084】
ゲート信号に基づいて各励磁アンプ36(36p,36m)のスイッチング素子がオンオフ制御されると、磁気軸受電磁石500の電磁石コイルに電圧が印加され、電流Ip、Imが流れる。P側の励磁アンプ36pの電流センサ101A,101Bからは、P側の磁気軸受電磁石500に流れる電流Ipの電流検出信号(電流と同様の符号Ipで示す)が出力される。一方、M側の励磁アンプ36mの電流センサ101A,101Bからは、M側の磁気軸受電磁石500に流れる電流Imの電流検出信号(電流と同様の符号Imで示す)が出力される。
【0085】
各磁気軸受電磁石500に流れる電磁石電流は、機能別で成分に分けると、バイアス電流ib、浮上制御電流icおよび位置検出用のセンサキャリア成分の電流is(p側のisp、M側のism)から構成される。ここで、対向する磁気軸受電磁石500に流れる電磁石電流の各成分は、磁気浮上制御の必要性および位置信号(変位信号)を良好に検出する必要性から、バイアス電流は同符号、浮上制御電流およびセンサキャリア成分は逆符号となるように構成される。そのため、電流IpおよびImは、次式(14)のように表される。ただし、式(14)ではispとismとは振幅が逆符号になっているので、ispおよびismの係数はプラスとなっている。
Ip=ib+ic+isp
Im=ib−ic+ism …(14)
【0086】
バイアス電流ibは直流あるいは極めて低い周波数帯であり、回転体に作用する重力との釣り合い力、浮上力の直線性改善、変位センシングのためのバイアス用として用いられる。
【0087】
浮上制御電流icは、ロータシャフト4を所定位置に浮上させる制御力用として用いられる電流である。浮上制御電流icは浮上位置の変動に応じて変化するので、その周波数帯は直流から1kHzオーダとなる。
【0088】
センサキャリア成分isは、ロータシャフト4の浮上位置変位の検出に用いられる電流成分である。センサキャリア成分isには、浮上制御力の影響を極力抑えるべく、通常は数kHz〜数十kHz(1kHz≪fc≪100kHz)の周波数帯における周波数が使用される。
【0089】
一般に、産業用途の磁気軸受では、励磁アンプ36(36p,36m)として、フィードバックした電流信号と目標電流値との偏差量にて電圧制御するPWMアンプが適用される。すなわち、磁気軸受電磁石500の電磁石コイルに印加される電圧を制御することで、電磁石電流の制御を行っている。そのため、バイアス電流、浮上制御電流およびセンサキャリア成分の符号の決定は、電圧印加前の電圧制御信号で符号関係が生成される。
【0090】
電磁石コイルに印加される電圧Vp、Vmの内の、センサキャリア成分vsp,vsmはそれぞれ逆位相で印加されるので、次式(15)のように表される。ただし、ωc=2πfcであって、fcはセンサキャリア周波数である。また、tは時間、vは一定振幅値である。
vsp=−v×sin(ωc×t)
vsm=v×sin(ωc×t) …(15)
【0091】
ロータシャフト4と磁気軸受電磁石500との間の隙間(ギャップ)が大きいと、電磁石コイルのインダクタンス値は小さく、ギャップが小さいとインダクタンス値は大きくなる。したがって、対向する電磁石コイルの一方のインダクタンス値が大きくなると、他方の電磁石コイルのインダクタンス値は小さくなる。すなわち、対向する電磁石コイルのインダクタンス変化によって、ギャップ変化、すなわちロータシャフト4の変位情報を得ることができる。
【0092】
対向するP側電磁石コイルおよびM側電磁石コイルのインダクタンスLp,Lmに関しては、第1の実施の形態の変位センサの場合と同様の式(16)が成り立つ。なお、Dはロータシャフト4が浮上中心軸(浮上目標位置)にある場合のギャップで、式(16)におけるdは浮上目標位置からの変位を表している。Aは定数である。
1/Lp=A×(D−d)
1/Lm=A×(D+d) …(16)
【0093】
ここで、コイル抵抗を近似的に無視すると、センサキャリア成分に関して、電磁石コイルに印加される電圧と電磁石コイルを流れる電流との関係は、次式(17)により表すことができる。
vsp=Lp×d(isp)/dt
vsm=Lm×d(ism)/dt …(17)
【0094】
上述した式(15),(16),(17)から、電磁石コイルを流れる電流のセンサキャリア成分isp,ismは次式(18)のように表される。なお、B=v×A/ωcである。このように、センサキャリア成分isp,ismは、変位dの時間変化により振幅変調されるので、これを検波すれば変位情報が得られる。
isp=−v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lp)
=−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2)
ism=v×sin(ωc×t−π/2)/(ωc×Lm)
=B(D+d)×sin(ωc×t−π/2) …(18)
【0095】
P側およびM側の磁気軸受電磁石500を流れるトータルの電流Ip,Imは、次式(19)のように表される。
Ip=ib+ic−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2)
Im=ib−ic+B(D+d)×sin(ωc×t−π/2) …(19)
【0096】
図15に示すように、励磁アンプ36p,36mにおいて検出された電流信号Ip,Imは、ローパスフィルタ403p,403mを介してそれぞれ対応するADコンバータ400p,400mにより取り込まれる。また、ローパスフィルタ403p,403mを通過した電流信号Ip,Imは加算部414により加算され、和信号(Ip+Im)が加算部414から出力される。その後、和信号(Ip+Im)は、センサキャリア周波数fcを中心周波数とするバンドパスフィルタ405を介してADコンバータ400に入力され、ADコンバータ400により取り込まれる。
【0097】
(第1のノイズ成分の除去)
ADコンバータ400は、センサキャリア生成回路411で生成されたセンサキャリア信号(センサキャリア成分)に基づいて同期サンプリングにてデータを取り込む。そして、第1の実施の形態の場合と同じように、センサキャリア信号の周波数fcに対して、fc=(n+1/2)fsを満足するサンプリングfsで最大ピーク位置および最少ピーク位置(または、最大ピーク位置近傍および最少ピーク位置近傍)にてサンプリングを行う。
【0098】
ADコンバータ400により取り込まれた和信号(Ip+Im)は、復調演算部406に入力される。そして、復調演算部406では、サンプリングにより取り込まれた最大ピーク位置のデータ値d1と最小ピーク位置のデータ値d2とに基づいて、復調演算出力d3=(d1−d2)/2を演算する。磁気浮上制御器407では、復調演算部406からの変位情報に基づいて比例制御、積分制御および微分制御、位相補正等により浮上制御電流設定を生成する。そして、P側の制御には、バイアス電流設定量から浮上制御電流設定を減算したものが用いられ、M側の制御には、バイアス電流設定量に浮上制御電流設定を加算したものが用いられる。
【0099】
一方、ADコンバータ400p,400mにより取り込まれた電流検出信号Ip,Imは、それぞれ対応する信号処理演算部409p,409mに入力される。信号処理演算部409p,409mは、サンプリングデータに基づいて浮上制御力へ寄与する電流成分(バイアス電流ib、浮上制御電流ic)に関する情報を演算する。例えば、ADコンバータ400p,400mにおいてfs=fcで取り込み、その取り込んだ信号データを、信号処理演算部409p,409mにおいて周波数fsで移動平均処理する。
【0100】
信号処理演算部409pの演算結果は、アンプ制御器410pに通された後に、バイアス電流設定量から浮上制御電流設定を減算した結果に対して減算処理される。さらにこの減算処理結果に対してセンサキャリア生成回路411からのセンサキャリア成分(v×sin(ωc×t))が減算され、その減算結果に基づいてPWM制御信号がPWM演算部412pにおいて生成される。ゲート信号生成部401pは、PWM演算部412pで生成されたPWM制御信号に基づいてゲート駆動電圧(PWMゲート信号)を生成する。
【0101】
また、信号処理演算部409mの演算結果は、アンプ制御器410mに通された後に、バイアス電流設定量に浮上制御電流設定を加算した結果に対して減算処理される。さらに、この減算処理結果に対してセンサキャリア生成回路411からのセンサキャリア成分(v×sin(ωc×t))が加算され、その加算結果に基づいてPWM制御信号がPWM演算部412mにおいて生成される。ゲート信号生成部401mは、PWM演算部412mで生成されたPWM制御信号に基づいてゲート駆動電圧を生成する。
【0102】
ところで、各軸の対向する磁気軸受電磁石500には特性ばらつきや、直角方向軸(例えば、X1軸に対するY1軸)間で磁束の干渉があるため、浮上制御電流icが全く同一に成ることはあり得ない。特に、高い周波数になるに従って不一致が大きくなると考えられる。このことを考慮して、P側の浮上制御電流をicp、M側の浮上制御電流をicmのように個別に表すと、上述した式(19)は次式(20)のように表される。
Ip=ib+icp−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2)
Im=ib−icm+B(D+d)×sin(ωc×t−π/2) …(20)
【0103】
電流信号Ip、Imの和演算により得られる和信号(Ip+Im)は次式(21)で表せる。なお、式(21)におけるΔicpmは、Δicpm=icp−icmである。
Ip+Im=2×ib+Δicpm+2×B×d×sin(ωc×t−π/2) …(21)
【0104】
上述したように、和信号(Ip+Im)は、センサキャリア周波数fcを中心周波数とするバンドパスフィルタ405を介して入力される。しかしながら、フィルタによる信号遅延の影響を考慮すると、バンドパスフィルタ405の狭帯域化にも自ずと限界がある。そのため、和信号(Ip+Im)をバンドパスフィルタ405に通しても、重畳されている制御電流成分に起因するノイズがADコンバータ400の入力信号に残留することになる。
【0105】
そこで、ADコンバータ400は、第1の実施の形態におけるADコンバータ34と同様に構成され、図6〜8に示した処理と同様のサンプリング処理を行う。そして、復調演算部406では、サンプリングにより取り込まれた最大ピーク位置のデータ値d1と最小ピーク位置のデータ値d2とに基づいて、復調演算出力d3=(d1−d2)/2を演算する。
【0106】
ADコンバータ400の入力信号は、式(21)で表される信号(Ip+Im)をバンドパスフィルタ405に通したものであって、理想的には変調波信号以外は全てカットされるべきであるが、上述したように、浮上制御で不可欠な信号遅延防止とのトレードオフにより十分にフィルタリングできない。従って、ここでは、便宜的に式(21)の信号をADコンバータ400の入力信号とする。
【0107】
式(21)において、バイアス電流ibは一定(直流)と考えて良く、磁気軸受型ターボ分子ポンプの場合、通常、浮上制御電流icは変位信号をPID演算した信号であるので、Δicpmの周波数帯域は直流から制御応答に関与する2kHz程度までの広帯域である。また、ロータ変位(ロータシャフト4の変位)は、ロータ寸法にも依存するが、一般の磁気軸受型ターボ分子ポンプにおいては、通常、直流〜1kHz程度までで、浮上制御電流icの帯域と同等、または、それよりも狭い帯域となっている。これらに比べて、センサキャリア周波数fcは10kHz程度と高い。そのため、センサキャリア周波数fcに対して浮上制御電流icおよび変位dの周波数は1/10程度と低く、センサキャリア信号の変化に対して浮上制御電流icおよび変位はゆっくりと変化する。
【0108】
一方、ADコンバータ400に取り込む際のサンプリング周波数fsは、浮上制御電流icや変位dに対して十分に周波数が高いので、隣り合うサンプリングタイミングにおいて、変位dおよびΔicpmの値の変化量は小さく、また、バイアス電流ibは一定である。従って、最大ピーク位置におけるデータ値d1および最小ピーク位置におけるデータ値d2は、次式(22)のように表せる。その結果、第1の実施の形態の場合と同様に、これらのデータ値d1,d2から復調演算出力d3=(d1−d2)/2を算出すると、d3=dとなるので、復調演算出力d3を用いることにより、浮上制御電流成分は、直流以外の交流成分も含めてキャンセルすることができる。
d1≒ib+Δicpm+d
d2≒ib+Δicpm−d …(22)
【0109】
(第2のノイズ成分の除去)
次に、隣接軸間の干渉によるノイズ成分の除去について説明する。センサレスタイプの磁気軸受装置の場合も、X軸用電磁石電流およびY軸用電磁石電流に関しても、上述したラジアルセンサの場合と同様に、隣接軸との干渉によるノイズ成分が問題となる。ここでは、干渉の影響を受ける軸をX軸(Xp側、Xm側コイル)、干渉の影響を与える軸をY軸(Yp側、Ym側)とする。対称性より、X軸はp側、m側の両コイルともに、Y軸のp側、m側の両コイルから同等の干渉を受けるとみるのが自然である。これより、各コイルを流れる励磁電流へ干渉度αを乗算した項を式(20)に加算することで、干渉の影響を簡易的に表現できる。
【0110】
式(20)をX軸側の電流Ixp、Ixmのように表現すると、電流Ixp、Ixmは次式(23)のようになる。X軸変位信号は、X軸電流同士を和演算した信号(Ixp+Ixm)に含まれる。和信号(Ixp+Ixm)は次式(24)のようになる。なお、Δicxpm=icxp−icxmである。
Ixp=ibx+icxp−B(D−dx)×sin(ωc×t−π/2)+α(Iyp+Iym)
Ixm=ibx−icxm+B(D+dx)×sin(ωc×t−π/2)+α(Iyp+Iym)
…(23)
Ixp+Ixm=2ibx+Δicxpm+2Bdx×sin(ωc×t−π/2)+2α(Iyp+Iym)
…(24)
【0111】
Y軸に関しても同様であり、上述した式(23)、(24)に対応した式(25)、(26)が成り立つ。なお、Δicypm=icyp−icymである。また、φは、第1の実施の形態の場合と同様に、XY軸間のセンサキャリア信号の位相ずれである。
Iyp=iby+icyp−B(D−d)×sin(ωc×t−π/2+φ)+α(Ixp+Ixm)
Iym=iby−icym+B(D+d)×sin(ωc×t−π/2+φ)+α(Ixp+Ixm)
…(25)
Iyp+Iym=2iby+Δicypm
+2Bdx×sin(ωc×t−π/2+φ)+2α(Ixp+Ixm)
…(26)
【0112】
式(26)を式(24)に代入して、α≪1であることからαの項を無視すると、式(26)は次式(27)のように表せる。
Ixp+Ixm={2ibx+2iby}+{Δicxpm+2αΔicypm}
+{2B(dx×sin(ωc×t−π/2)+2αdy×sin(ωc×t−π/2+φ))}
…(27)
【0113】
式(27)の右辺は、第1項目のバイアス電流項、第2項目の制御電流項、第3項目の変位変調波項から構成される。第1および第2項のノイズ成分は、上述した第1のノイズ成分の除去方法によって除去される。
【0114】
一方、第3項は、上述した第1の実施の形態の式(8)に対応するものである。2番目のαを含む項が隣接する2軸間干渉によるノイズ成分であり、信号dxに対して2αdyのノイズが加算されている。式(8)と式(27)の第3項との対応関係からも分かるように、このノイズ成分は、第1の実施の形態で説明した第2のノイズ成分の除去方法を適用することにより、同様に除去することができる。
【0115】
除去方法の説明は繰り返しになるので省略するが、第1の実施の形態の場合と同じように、X軸側とY軸側のセンサキャリア信号の位相のずれφをφ=90°+θとし、サンプリングの際には、X軸側およびY軸側のいずれにおいても、センサキャリア信号の最大・最少ピークからθだけ位相をずらしてデータd1、d2のサンプリングを行えばよい。なお、θは、−45°≦θ≦45°とする。図16のセンサキャリア生成回路411からは、上述のようなセンサキャリア信号は各軸に出力される。そして、ADコンバータ400は、センサキャリア生成回路411のセンサキャリア信号に同期して、θだけ位相をずらしてデータd1、d2をサンプリングする。その結果、隣接軸の干渉の影響によるノイズ成分も除去することができる。なお、第1の実施の形態でも記載したが、データd1、d2のいずれか一方をサンプリングする場合であっても、第2のノイズ成分を除去することはできる。
【0116】
図18(a)は、XY軸間の干渉によるノイズ成分を除去した場合の、X軸変位(ラインL11)、Y軸変位(ラインL12)、X軸変位復調出力(ラインL13)およびY軸変位復調出力(ラインL14)のそれぞれを示す図である。一方、図18(b)は、XY軸間の干渉によるノイズ成分を除去を行わなかった場合、すなわち、X軸用センサキャリア信号とY軸用センサキャリア信号の位相を同位相とした場合を示す。ラインL21〜L24が、図18(a)のラインL11〜L14に対応するここでは、簡略的に、ロータシャフト4がX軸方向には500Hzのみで振動し、Y軸方向には300Hzのみで振動している場合とした。また、α=0.15,θ=45°とした。
【0117】
図18(a)と図18(b)とを比較すると、ノイズ除去対策をしなかった図18(b)では歪みが多いが、ノイズ除去対策をした図18(a)の場合には歪みが少ないことが確認できる。
【0118】
図16に示す例では、励磁アンプ36p,36mに対するPWM制御信号生成までがデジタル処理される構成としたが、図19に示すように、センサキャリアが重畳されたバイアス電流を含む制御電流がDAコンバータ413p,413mから出力される構成としても良い。
【0119】
図16の構成では、PWM制御信号生成までデジタル処理されるので、ゲート信号となるPWM信号出力はH/Lの2値信号である。そのため、従来のDAコンバータ出力に限定されず、デジタル出力されることが多い。なお、図16の説明では、電流信号Ip,Imをfs=fcで取り込み、取込信号データを周波数fsで移動平均処理する構成としたが、電流信号Ip,Imの取り込み方法についてはこれに限定されるものではない。
【0120】
上述した第2の実施の形態では、和信号(Ip+Im)をADコンバータ400に取り込む構成としたが、これに限定されず、例えば、式(15)で示したvsp,vsmの符号を同符号(両者とも+v)に変更して、差信号(Ip−Im)を取り込む構成でも本発明は同様に適用できる。
【0121】
以上説明したように、図3のY1軸のセンサ71yに印加される第2の搬送波信号を、X1軸のセンサ71xに印加される第1の搬送波信号に対して位相が(π/2+θ)ラジアン異なるように設定し、かつ、第1の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相θずれたサンプリングタイミングで、第1のセンサ71xから出力される変位変調波信号(第1の変調信号)をサンプリングするとともに、第2の搬送波信号がピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたサンプリングタイミングで、第2のセンサ71yから出力される第2の変調信号をサンプリングする。また、センサレスタイプの場合には、電磁石電流を検出する電流センサ101A,101Bの検出信号を上述したサンプリングタイミングでサンプリングする。その結果、隣接軸の干渉によるノイズ成分を除去することができ、磁気軸受制御における変位情報のS/N被向上を図ることができる。また、ノイズ成分混入による振動の発生を抑制することができる。
【0122】
さらに、第1の搬送波信号の周波数fcに対してfc=(m+1/2)×fs1(ただし、mは0以上の整数)を満たす周波数fs1でサンプリングを行い、第1の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相θずれたタイミングで変位変調波信号(第1の変調信号)をサンプリングして得たデータd11、および、第1の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相θずれたタイミングで第1の変調信号をサンプリングして得たデータd12から算出される値d13=(d11−d12)/2を復調結果として出力する。同様に、第2の搬送波信号の周波数をfcに対してfc=(n+1/2)×fs2(ただし、nは0以上の整数)を満たす周波数fs2でサンプリングを行い、第2の搬送波信号が最大ピークとなるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングで第2の変調信号をサンプリングして得たデータd21、および、第2の搬送波信号が最小ピーク位置近傍となるタイミングから位相(−θ)ずれたタイミングで第2の変調信号をサンプリングして得たデータd22から算出される値d23=(d21−d22)/2を復調結果として出力する。
【0123】
このようなサンプリングおよび復調演算を行うことにより、上述した隣接軸の干渉によるノイズ成分の除去に加えて、変位情報に電磁石電流制御の振動成分(ノイズ成分)が混入するのを防止することができ、S/N比のさらなる向上が図れると共に、ノイズ成分に起因する振動を抑制することができる。
【0124】
また、位相ずれθを−π/4≦θ≦π/4の範囲に設定することで、複数軸の信号を一つのADコンバータで取り込む場合においても、S/N比の低下を極力抑えることができる。
【0125】
なお、上述した実施の形態ではターボポンプ段とドラッグポンプ段とを有するターボ分子ポンプを例に説明したが、回転体を磁気軸受装置で支持する構成の真空ポンプであれば、本発明を同様に適用することができる。
【0126】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0127】
1:ポンプユニット、3:ロータ、4:ロータシャフト、13a〜13h:センサコイル、30:ディジタル制御回路、31:DAコンバータ、33,33a〜33e:センサ回路、34,400:ADコンバータ、36,36p,36m:励磁アンプ、44:制御部、51〜53:磁気軸受、71,72:ラジアルセンサ、73:アキシャルセンサ、101A,101B:電流センサ、310,406:復調演算部、313:正弦波離散値生成部、411:センサキャリア生成回路、414:加算部、500:磁気軸受電磁石
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