(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被結合部側重ね接合部分と前記ウェイト部側重ね接合部分とのそれぞれには、金属板の積層方向に同一形状の部位が、周方向に少なくとも一箇所設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載のデコンプ装置。
前記マスウェイトは、切断、ダボ形成、積層・接合を順次実施する順送プレス工程にて形成され、この順送プレス工程における前記接合が、形成された前記ダボを用いたかしめ接合であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のデコンプ装置。
【背景技術】
【0002】
4サイクルエンジンの動弁機構には、エンジンの始動性の向上を目的としてデコンプ装置を備えたものがある。このデコンプ装置は、たとえば特許文献1及び
図15〜
図17に示すように、デコンプシャフト102がマスウェイト103に結合されてなるデコンプカム101と、戻しスプリング104と、ストッパプレート105と、を有して構成されている。
【0003】
動弁機構の図示しないカムシャフトには、排気側カムのベースサークル部を含むカムシャフトの表面側にデコンプ溝が軸方向に形成され、このデコンプ溝内にデコンプカム101のデコンプシャフト102が回動自在に収容されている。このデコンプカム101は、カムシャフトの回転に伴う遠心力と戻しスプリング104の付勢力との作用で、デコンプシャフト102を中心として回動する。
【0004】
エンジンの停止時には、デコンプシャフト102の一端部(カム部106)が排気側カムのベースサークル部の外方へ突出するように戻しスプリング104の付勢力が作用する。この状態でエンジンが始動すると、エンジンの排気バルブ用のロッカアームが、デコンプシャフト102の突出したカム部106により若干押し上げられ、排気バルブが開弁してエンジンの燃焼室が減圧され、エンジンの始動性が向上する。このデコンプ装置の作動状態を
図16に示す。
【0005】
エンジンの回転数が例えばアイドル回転数に至ると、
図17に示すように、デコンプカム101は、マスウェイト103が遠心力の作用でカムシャフトから遠ざかる方向に回動する。この結果、デコンプシャフト102のカム部106が排気側カムのベースサークル部よりも内側に収まり、排気バルブは通常状態で作動する。
【0006】
上述のようなデコンプ装置のデコンプカム101におけるマスウェイト103は、デコンプシャフト102を結合(例えば圧入)するための穴107が設けられた被結合部108と、デコンプカム101の重量及び全体の重心バランスの大半を決定する部位であるウェイト部109と、被結合部108とウェイト部109とを懸架する懸架部110と、を有してなる。
【0007】
被結合部108の周囲に戻しスプリング104が配置される。この戻しスプリング104は、その一端104Aがカムスプロケット111に係止され、他端104Bが、マスウェイト103の懸架部110に形成された係止部112に係止される。
【0008】
また、ストッパプレート105は、カムスプロケット111と共に、ボルト113を用いてカムシャフト(不図示)の一端面に固定される。このうちの一方のボルト113は、
図16に示すように、戻しスプリング104の付勢力によりデコンプカム101がカムシャフトに近づく方向に回動するときに、マスウェイト103の当接部114に当接して、デコンプカム101の回動を規制する。また、
図17に示すように、マスウェイト103に遠心力が作用してマスウェイト103がカムシャフトから遠ざかる方向に回動するときには、マスウェイト103に形成された当接部115がストッパプレート105のストッパ部116に当接して、デコンプカム101の回動が規制される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るデコンプ装置の一実施形態をカムシャフトと共に示す断面図である。
図2は、
図1におけるデコンプ装置の正面図であり、
図3は、
図1及び
図2のデコンプ装置におけるデコンプカムを示す斜視図である。
【0018】
図1に示すカムシャフト1は、SOHC(シングルオーバーヘッドカムシャフト)型の動弁機構を構成するものであり、1本のカムシャフト1に吸気側カム2及び排気側カム3を備える。吸気側カム2により、吸気側ロッカアームを介して吸気バルブ(共に図示せず)が開閉動作され、排気側カム3により、排気側ロッカアームを介して排気バルブ(共に図示せず)が開閉動作される。これらの吸気バルブ及び排気バルブは、4サイクルエンジンの図示しないシリンダヘッドに配置されている。また、カムシャフト1は、一対のベアリング4によりシリンダヘッドに回転自在に支持される。
【0019】
このカムシャフト1の一端部にはカムスプロケット5が設けられ、このカムスプロケット5は、図示しないカムチェーンを介して、クランクシャフトに設けられたカムドライブギヤ(共に図示せず)に作動的に連結される。これにより、クランクシャフトの回転がカムチェーンを介してカムシャフト1へ伝達され、動弁機構が作動する。
【0020】
更に、カムシャフト1には、エンジンの始動時に排気側ロッカアームを介して排気バルブを開動作させ、これによりエンジンの燃焼室内を減圧してエンジンの始動性を向上させるためのデコンプ装置10が設けられている。
【0021】
このデコンプ装置10は、デコンプシャフト12がマスウェイト13に結合されてなるデコンプカム11と、戻しスプリング14と、デコンプカム11の位置決め手段であるストッパプレート15と、デコンプカム11の位置決め手段であり、且つストッパプレート15の固定手段でもあるボルト16と、を有して構成される。
【0022】
カムシャフト1には、排気側カム3からカムスプロケット5側へ向かって軸方向に延びるデコンプ溝6が形成されている。このデコンプ溝6は、排気側カム3のベースサークル部の表面側に形成される。ここで、排気側カム3のベースサークル部は、排気バルブのリフトに寄与しない部分である。
【0023】
前記デコンプシャフト12は、
図1及び
図3に示すように、一端が円弧部分と弦部分からなる半月形状に形成され、このうちの円弧部分がカム部12Aとして構成される。このカム部12Aを含むデコンプシャフト12がデコンプ溝6内に回動自在に収容される。この状態で、デコンプシャフト12の他端側はカムスプロケット5を貫通し、このデコンプシャフト12の他端にマスウェイト13が回動一体に結合される。このマスウェイト13は遠心ウェイトとして機能し、カムシャフト1の回転による遠心力の作用で、カムシャフト1から離れる方向(
図2の矢印α方向)に揺動してデコンプシャフト12を回動させる。
【0024】
図1及び
図2に示すように、このとき、マスウェイト13の当接部13Aがストッパプレート15のストッパ部15Aに当接して、デコンプカム11の回動が規制される。このストッパプレート15は、例えば板状部材を折曲加工して形成され、カムシャフト1の端面にカムスプロケット5と共に、ボルト16を用いて着脱自在に締結されている。
【0025】
マスウェイト13とカムスプロケット5との間に戻しスプリング14が介在される。この戻しスプリング14は例えばコイル状に形成されて、マスウェイト13の被結合部17(後述)の周囲に配置される。尚、この被結合部17とカムスプロケット5との間に、例えば樹脂製のワッシャ7が介在されている。戻しスプリング14は、一端14Aがカムスプロケット5に係止され、他端14Bがマスウェイト13に係止される。この戻しスプリング14は、マスウェイト13をカムシャフト1の回転により発生する遠心力に抗する方向、即ちカムシャフト1に接近する方向(
図2のβ方向)に付勢する。このとき、マスウェイト13の当接部13Bがボルト16(
図2)の一方に当接することで、デコンプカム11はその回動が規制される。
【0026】
エンジンの停止時、カムシャフト1が回転していないときには、マスウェイト13が戻しスプリング14の付勢力の作用でカムシャフト1に接近する位置にある。このとき、デコンプシャフト12の一端に設けられたカム部12Aは、排気側カム3のベースサークル部よりも外方へ突出した状態にある。従って、エンジンの始動時には、排気側ロッカアームが、排気側カム3のベースサークル部から突出したカム部12Aに乗り上がり、これにより排気側ロッカアームが排気バルブを押し下げてこの排気バルブを開弁させ、燃焼室を減圧させてエンジンの始動を容易化する。
【0027】
エンジンが始動してカムシャフト1が回転し、このカムシャフト1の回転数が所定回転数、例えばアイドリング回転数に至ると、マスウェイト13は、遠心力の作用でデコンプシャフト12を中心に、戻しスプリング14の付勢力に抗してカムシャフト1から離れる方向(
図2のα方向)に揺動する。これにより、デコンプシャフト12が回動して、そのカム部12Aはデコンプ溝6内に収容され、排気側カム3のベースサークル部よりも低い位置になる。従って、排気側ロッカアームは、通常のバルブ作動によって排気バルブを開閉駆動する。
【0028】
ところで、マスウェイト13は、
図3〜
図5に示すように、被結合部17及びウェイト部18が懸架部19に重ね接合されて構成される。被結合部17は、金属板の鋼板21が積層された積層体であり、ウェイト部18は、金属板としての鋼板22が積層された積層体であり、懸架部19は、金属板の鋼板23が積層された積層体である。
【0029】
そして、被結合部17と懸架部19とが重ね接合されて被結合部側重ね接合部分24が構成され、また、ウェイト部18と懸架部19とが重ね接合されてウェイト部側重ね接合部分25が構成される。これら被結合部側重ね接合部分24を構成する鋼板21及び23と、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する鋼板22及び23は、それぞれ
図6に示すように、例えば丸ダボかしめ部30より部分的にかしめ接合されることで一体化される。
【0030】
ここで、
図3及び
図4に示す鋼板21、22及び23は軟鋼板、高張力鋼板、めっき鋼板、機械構造用鋼板、ステンレス鋼板等のいずれであってもよい。また、鋼板21、22及び23の板厚は、順送プレス工程(後述)で製造しやすい0.1〜4.0mmであればよいが、歩留まりやプレス加工性を考慮して0.5〜2.0mmが好ましい。なお、積層体24を構成する金属板は鋼板に限らず、銅合金板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板、チタン合金板等であってもよい。
【0031】
前記被結合部側重ね接合部分24の少なくとも一箇所(本実施形態では一箇所)に、鋼板21及び23の積層方向に貫通する第1貫通孔26が形成される。この第1貫通孔26に、後に詳説するように、デコンプシャフト12の他端が圧入されて結合される。また、ウェイト部側重ね接合部分25は、マスウェイト13の重量やデコンプカム11全体の重量バランスの大半を決定する部位である。そして、上述のように懸架部19に重ね接合された被結合部17とウェイト部18は非接触状態に構成されて、これらの被結合部17とウェイト部18間に隙間31が設けられ、この被結合部17の周囲に戻しスプリング14が配置される。
【0032】
また、異なる形状の鋼板21及び23が積層されてなる被結合部側重ね接合部分24には、鋼板21、23の積層方向に同一形状の部位(同一形状部位)28が、被結合部側重ね接合部分24の周方向に少なくとも一箇所、つまり、第1貫通孔26を挟んで対向して2箇所設けられる。同様に、異なる形状の鋼板22及び23が積層されてなるウェイト部側重ね接合部分25は、鋼板22、23の積層方向に同一形状の部位(同一形状部位)29が、ウェイト部側重ね接合部分25の周方向に少なくとも一箇所、つまり、ウェイト部18における隙間31に対応する箇所を除いた3箇所設けられる。後述の順送プレス工程の積層・接合ステージにおいて、これらの同一形状部位28、29に対応する鋼板21、22、23の部分が保持されることで、互いに異なる形状の鋼板21、22、23が位置決めされる。
【0033】
図4に示すように、ウェイト部側重ね接合部分25の厚さT2は、被結合部側重ね接合部分24の厚さT1よりも小さく設定されている。これにより、
図1に示すように、デコンプカム11のマスウェイト13における被結合部17がカムスプロケット5にワッシャ7を介して接触したときに、マスウェイト13のウェイト部18とカムスプロケット5との距離Lは、ウェイト部側重ね接合部分25の第2貫通孔27(後述)へのオイルの流出入がカムスプロケット5に邪魔されることなく可能な値に設定される。
【0034】
図3及び
図4に示すように、ウェイト部側重ね接合部分25の少なくとも一箇所(本実施形態では一箇所)に、鋼板22及び23の積層方向に貫通する第2貫通孔27が形成される。この第2貫通孔27は、軸心が鋼板22、23の積層方向と一致してもよく、またはこの積層方向に対し傾斜してもよい。また、この第2貫通孔27の中心位置Oは、
図8に示すように、ウェイト部18の長手方向Aにおける1/4〜3/4の範囲で、且つウェイト部18の外周33と内周34との間の短手方向Bにおける1/4〜3/4の範囲に設定される。これにより、第2貫通孔27は、ウェイト部18の長手方向A及び短手方向Bの略中央位置に形成されることになる。
【0035】
図3及び
図7に示すように、マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25には、略閉塞状態の空洞32が、少なくとも一箇所(本実施形態では一箇所)形成されている。この空洞32は、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する鋼板22及び23のうち、内側の例えば鋼板22に開口が形成され、この開口を外側の鋼板22と内側の鋼板23とで閉塞して構成される。この空洞32はオイル溜りとして機能する。
【0036】
上述のようにして構成されるマスウェイト13は、
図9に示す順送プレス装置35を用い、切断(穴あけ、切出し)、ダボ形成、積層・接合を順次実施する順送プレス工程にて形成される。
【0037】
順送プレス装置35は、互いに接離するパンチ側の金型36とダイ側の金型37とを有し、これらの金型36、37間に、長尺形状の鋼板38がフィーダ(不図示)により順送プレス装置35の1ステージ(後述)毎に長尺方向に間欠搬送される。金型36には、穴あけ用パンチ39、切出し用パンチ40、ダボ形成用パンチ41、打抜き用パンチ42が順次設置される。金型37には、穴あけ用パンチ39、切出し用パンチ40、ダボ形成用パンチ41にそれぞれ対応して図示しない凹部が形成され、打抜き用パンチ42に対応して空間43が形成されている。
【0038】
金型36及び37には、穴あけ用パンチ39と対応する凹部とによって穴あけステージが、切出し用パンチ40と対応する凹部とによって切出しステージが、ダボ形成用パンチ41と対応する凹部とによってダボ形成ステージが、打抜き用パンチ42と対応する空間43とによって積層・接合ステージがそれぞれ設けられる。
【0039】
穴あけステージにおいては、穴あけ用パンチ39によって鋼板38に、第1貫通孔26、第2貫通孔27、空洞32となる穴44が形成される。この穴44の形成後に、鋼板38が次の切出しステージまで搬送され、この鋼板38に切出し用パンチ40によって、鋼板21と22とを同時に形成するための開口45が形成される。
【0040】
この開口45の形成後に、鋼板38が次のダボ形成ステージまで搬送され、この鋼板38にダボ形成用パンチ41によって、丸ダボかしめ部30を形成するためのダボ46が形成される。このダボ46の形成後に、鋼板38が次の積層・接合ステージまで搬送され、鋼板23の外形形状を有する打抜き用パンチ42によって鋼板47が打ち抜かれる。
【0041】
ここで、穴あけ用パンチ39、切出し用パンチ40及びダボ形成用パンチ41は、押し出し量が調整可能であり、穴あけ、切出し、ダボ形成、加工無しが切り換え可能に構成される。このため、鋼板47は、全てが同一形状ではなく、
図10に示すような異なる形状の鋼板、即ちマスウェイト13の被結合部17を構成する鋼板21、ウェイト部18を構成する鋼板22、懸架部19を構成する鋼板23となる。
【0042】
打ち抜かれた鋼板47(鋼板21、22、23)は、金型37において鋼板23の外形形状に上下に貫通して形成された前記空間43内に収納され、この空間43を形成する内壁に同一形状部位28、29が押し当てられることで位置決めされる。と同時に、打ち抜かれた鋼板47は、そのダボ46が打抜き用パンチ42によって、空間43内にある他の鋼板47のダボ46とかしめ結合される。このようにして、金型37の空間43内で積層体としてのマスウェイト13が形成される。尚、空間43内には、図示していないが積層体としてのマスウェイト13が多数収納されている。
【0043】
上述のようにして形成されたマスウェイト13の第
1貫通孔26に、
図11に示す圧入用治具(下部治具50、中間治具51及び上部治具52)を用いてデコンプシャフト12が圧入される。
【0044】
下部治具50には、ガイドピン53、54及び55が突設されると共に、デコンプシャフト12が挿入されるデコンプシャフト用穴56が形成される。中間治具51及び上部治具52には、下部治具50のガイドピン53が挿通するガイドピン穴57、58がそれぞれ形成されると共に、下部治具50のガイドピン54が挿通するガイドピン穴59、60がそれぞれ形成される。更に、中間治具51及び上部治具52には、下部治具50のガイドピン55が挿通するガイドピン穴61、62がそれぞれ形成される。
【0045】
図11〜
図13に示すように、中間治具51には、マスウェイト13を設置するためのマスウェイト設置凹部63が形成される。中間治具51のガイドピン穴61は、このマスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13の第2貫通孔27と一致する位置に形成される。下部治具50のガイドピン55は、マスウェイト13の第2貫通孔27、中間治具51のガイドピン穴61、上部治具52のガイドピン穴62よりも小径に形成されて、これらの第2貫通孔27、ガイドピン穴61及び62に挿通可能に設けられる。
【0046】
また、中間治具51には、マスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13の第1貫通孔26と一致する位置にデコンプシャフト用穴64が形成される。このデコンプシャフト用穴64と、上部治具52に形成されるデコンプシャフト用穴65とは、下部治具50のデコンプシャフト用穴56に挿入されたデコンプシャフト12よりも大径に形成されて、このデコンプシャフト12を挿通可能とする。但し、デコンプシャフト12が圧入されるマスウェイト13の第1貫通孔26は、デコンプシャフト12よりも小径に形成されている。
【0047】
まず、下部治具50のデコンプシャフト用孔56にデコンプシャフト12を挿入し、中間治具51のマスウェイト設置凹部63にマスウェイト13を設置する。次に、下部治具50のガイドピン53を中間治具51のガイドピン穴57、上部治具52のガイドピン穴58に、下部治具50のガイドピン54を中間治具51のガイドピン穴59、上部治具52のガイドピン穴60に、それぞれ挿通させることで、下部治具50、中間治具51及び上部治具52を連結する。
【0048】
この下部治具50、中間治具51及び上部治具52の連結状態では、下部治具50のデコンプシャフト用穴56に挿入されたデコンプシャフト12は、その外径が中間治具51のマスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13の第1貫通孔26の内径よりも大きいことから、この第1貫通孔26に挿入されず、この第1貫通孔26の手前に配置される。その後、下部治具50及び中間治具51に連結された状態にある上部治具52の押圧面66にプレス機により押圧力を付与することで、中間治具51のマスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13の第1貫通孔26に、下部治具50のデコンプシャフト用穴56に挿入されたデコンプシャフト12を圧入する。
【0049】
上述のデコンプシャフト12の圧入時には、中間治具51のマスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13は、
図3、
図12及び
図13に示すように、第
2貫通孔
27に下部治具50のガイドピン55が挿入されることで位置決めされ、また、被結合部重ね接合部分24の同一形状部位28が中間治具51のマスウェイト設置凹部63の円周面67に嵌合され、且つウェイト部側重ね接合部分25の同一形状部位29が中間治具51のマスウェイト設置凹部63の湾曲面68に嵌合することで位置決めされる。
【0050】
更に、中間治具51のマスウェイト設置面部63には凸部69が形成されている。この凸部69は、マスウェイト設置凹部63に設置されたマスウェイト13における被結合部17とウェイト部18との隙間31に嵌入される。この凸部69によって、マスウェイト13における被結合部17の隙間31を臨む部位17Aと、ウェイト部18の隙間31を臨む部位18Aと、懸架部19の隙間31を臨む部位19Aとが、位置決めされると共に強固に保持される。
【0051】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)〜(7)を奏する。
【0052】
(1)
図3、
図12及び
図13に示すように、マスウェイト13における被結合部側重ね接合部分24の第1貫通孔26にデコンプシャフト12を圧入する際に、ウェイト部側重ね接合部分25の第2貫通孔27を位置決めガイド孔として機能させ、また、被結合部側重ね接合部分24の同一形状部位28、ウェイト部側重ね接合部分25の同一形状部位29を中間治具51の内周面67、湾曲面68に当接して位置決めさせ、更に、懸架部19に重ね接合された被結合部17とウェイト部18との非接触部分、即ち隙間31に中間治具51の凸部69を嵌入させることで、被結合部17、ウェイト部18、懸架部19のそれぞれ隙間31を臨む部位17A、18A、19Aを位置決めさせると共に強固に保持する。
【0053】
このように、マスウェイト13の外周等が中間治具51等によって位置決めされ、マスウェイト13におけるデコンプシャフト12の圧入部周囲が中間治具51により強固に保持されたので、デコンプシャフト12の圧入時に鋼板21及び23のデコンプシャフト12周囲が塑性変形しても、マスウェイト13の全体が歪変形することを防止できる。この結果、マスウェイト13に対するデコンプシャフト12の直角度を精度よく実現できる。
【0054】
(2)
図3に示すように、マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25の第2貫通孔27がオイルを通過可能な通路となるので、このウェイト部側重ね接合部分25を構成する積層された鋼板22、23間へのオイルの流出入を迅速に実施できる。このため、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する表面側の鋼板22、23のみならず、内側の鋼板22、23の温度上昇を抑制できる。
【0055】
また、マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25に第2貫通孔27が形成されたことで、ウェイト部側重ね接合部分25の表面積は第2貫通孔27の内周面の分だけ増大する。このため、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する表面側の鋼板22、23を効率良く冷却し、その温度上昇を抑制できる。この結果、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する内側の鋼板22、23への伝熱も抑制できる。
【0056】
更に、マスウェイト13における被結合部17とウェイト部18とが非接触状態で隙間31が設けられたことから、ウェイト部18の表面積を増大させることができる。この結果、ウェイト部18を含むウェイト部側重ね接合部分25を構成する表面側の鋼板22、23を効率良く冷却してその温度上昇を抑制できる。従って、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する内側の鋼板22、23への伝熱も抑制できる。
【0057】
また、車両走行中にマスウェイト13が高速回転すると、マスウェイト13の第2貫通孔27がオイルを捕獲するので、マスウェイト13のウェイト部側重ね接合部分25を構成する表面側の鋼板22、23を効率良く冷却でき、その温度上昇を抑制できる。この結果、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する内側の鋼板22、23への伝熱も抑制できる。
【0058】
これらのことから、マスウェイト13、特にウェイト部側重ね接合部分25を構成する表面側と内側の鋼板22、23の温度が略同等に維持されるので、これらの表面側と内側の鋼板22、23における線膨張の差を解消できる。従って、デコンプシャフト12のマスウェイト13に対する直角度を精度よく実現できると共に、マスウェイト13を構成する積層された鋼板21、22、23の剥離を防止できる。
【0059】
(3)マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25の第2貫通孔27の外径や位置、個数を変更することで、マスウェイト13の外形形状を変更することなく、マスウェイト13の重量及びデコンプカム11の重量バランスを容易に変更できる。
【0060】
(4)
図1及び
図4に示すように、マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25の厚さT2が被結合部側重ね接合部分24の厚さT1よりも小さく設定されたので、デコンプカム11の取付状態でウェイト部側重ね接合部分25とカムスプロケット5との距離Lを所定の値に設定できる。この値は、ウェイト部側重ね接合部分25の第2貫通孔27内へのオイルの流出入がカムスプロケット5に邪魔されずに実施可能な値であることから、第2貫通孔27内へのオイルの供給を良好に実施できる。
【0061】
(5)
図3及び
図8に示すように、マスウェイト13のウェイト部側重ね接合部分25に形成される第2貫通孔27の中心位置Oは、ウェイト部18の長手方向Aにおける1/4〜3/4の範囲で、且つウェイト部18の外周33と内周34の間の短手方向Bにおける1/4〜3/4の範囲に設定されている。このため、第2貫通孔27は、ウェイト部18の長手方向A及び短手方向Bの略中央位置に形成されることなので、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する積層された鋼板22、23間に第2貫通孔27を通して流出入するオイルは、その流出入を迅速に実施できる。特に、順送プレス工程における製造条件のばらつき等によって鋼板22、23間のクリアランスが小さく(数μm)になることが多い場合であっても、鋼板22、23間をオイルが迅速に流れ、滞留することがない。この結果、ウェイト部側重ね接合部分25を構成する内側の鋼板22、23の冷却効率を向上できると共に、オイルの酸化劣化や熱劣化を防止できる。
【0062】
(6)
図3及び
図7に示すように、マスウェイト13におけるウェイト部側重ね接合部分25には、略閉塞状態の空洞32が形成され、この空洞32をオイル溜まりとして機能させることができる。このため、オイル切れが発生した際に、しばらくの間はオイルが、空洞32から鋼板22、23間を経てウェイト部側重ね接合部分25の外周に流出するので、マスウェイト13の潤滑性の低下を抑制できる。また、この空洞32の外径や位置、個数を変更することで、マスウェイト13の重量及びデコンプカム11全体の重量バランスを容易に調整できる。
【0063】
(7)
図3、
図9に示すように、マスウェイト13が、切断(穴あけ、切出し)、ダボ形成、積層・接合を順次実施する順送プレス工程にて形成されたので、接合(かしめ接合)前に第1貫通孔26及び第2貫通孔27等を形成できる。このため、接合後に第1貫通孔26及び第2貫通孔27等を形成する場合に比べ、これらの第1貫通孔26及び第2貫通孔27等の寸法精度を向上させることができる。従って、特に第1貫通孔26に圧入されるデコンプシャフト12の直角度の精度を向上させることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0065】
例えば、
図14に示すように、デコンプカム70のマスウェイト71における第2貫通孔72の
内径が、デコンプシャフト12の外径よりも大きく形成されている。この場合には、複数のデコンプカム70を保管する際に、一方のデコンプカム70のデコンプシャフト12を他方のデコンプカム70の第2貫通孔72内に挿入できるので、同一のコンテナにより多くのデコンプカム70を収納することができ、保管効率を向上できる。