(54)【発明の名称】複合材料の解析用モデルの作成方法、複合材料の解析用コンピュータプログラム、複合材料のシミュレーション方法及び複合材料のシミュレーション用コンピュータプログラム
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンピュータを用いて分子動力学法によりポリマーとフィラーとを含有する複合材料における前記フィラー表面への前記ポリマーの結合状態が、前記複合材料の材料特性に与える影響を解析するための複合材料の解析用モデルを作成する方法であって、
前記ポリマーに前記フィラーを分散させる分散工程と、
分散させた前記フィラー表面における少なくとも2つの前記ポリマーとの結合位置を、前記フィラーの中心からのベクトルに基づいてそれぞれ指定する指定工程と、
指定した前記結合位置に前記ポリマーを結合させて前記複合材料の解析用モデルを作成する結合工程と、
を含むことを特徴とする、複合材料の解析用モデルの作成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フィラー及びポリマーを含む複合材料は、結合位置及び結合点数が複合材料の材料特性に大きな影響を与える。しかしながら、従来のシリカなどのフィラーを含有する複合材料においては、シランカップリング剤を介してフィラーとポリマーとを一定の確率で結合させているので、フィラーとポリマーとの結合位置及び結合点数が十分に制御できていない実情がある。
【0005】
また、特許文献1に記載されたモデルの作成方法においても、ポリマー末端とフィラー表面とを反応させて結合を形成するので、フィラーとポリマーとの間の結合位置及び結合点数を十分に制御したモデルを作成できない場合がある。このように、フィラー及びポリマーを含む複合材料においては、ポリマーとフィラーとの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析できていない実情がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、フィラー表面の任意の点でポリマーを結合させることができ、フィラー表面におけるポリマーの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析できる複合材料の解析用モデルの作成方法、複合材料の解析用コンピュータプログラム、複合材料のシミュレーション方法及び複合材料のシミュレーション用コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合材料の解析用モデルの作成方法は、コンピュータを用いて分子動力学法によりポリマーとフィラーとを含有する複合材料における前記フィラー表面への前記ポリマーの結合状態が、前記複合材料の材料特性に与える影響を解析するための複合材料の解析用モデルを作成する方法であって、前記ポリマーに前記フィラーを分散させる分散工程と、分散させた前記フィラー表面における
少なくとも2つの前記ポリマーとの結合位置を
、前記フィラーの中心からのベクトルに基づいてそれぞれ指定する指定工程と、指定した前記結合位置に前記ポリマーを結合させて前記複合材料の解析用モデルを作成する結合工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明の複合材料の解析用モデルの作成方法においては、前記結合工程において、前記指定工程で指定された結合位置に少なくとも一対の前記ポリマーを相互に180度異なる方向で結合させることが好ましい。
【0008】
この方法によれば、フィラー表面にポリマーを所望の結合位置及び結合点数で結合させることができるので、フィラー表面におけるポリマーの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析できる複合材料の解析用モデルを作成することが可能となる。これにより、当該複合材料の解析用モデルで解析したフィラー表面とポリマーとの結合状態を再現することにより、例えば、自動車用タイヤに用いられる複合材料においても、優れたコンパウンドが得られる複合材料を実現できる。
【0009】
本発明の複合材料の解析用モデルの作成方法においては、さらに、前記ポリマーと前記フィラーとの相対位置を特定する結合鎖を用いて前記複合材料の解析用モデルを作成することが好ましい。この方法により、結合鎖の影響も考慮した複合材料の解析用モデルを作成できるので、得られる複合材料の解析用モデルを用いた解析の精度が向上する。
【0010】
本発明の複合材料の解析用モデルの作成方法においては、前記結合工程において、前記フィラーと前記ポリマーとを反応解析によって結合させることが好ましい。この方法により、フィラーとポリマーとを任意の反応で結合させることができるので、フィラーとポリマーとを効率的に結合させることができる。
【0011】
本発明の複合材料の解析用モデルの作成方法においては、前記指定工程において、予め設定した物理量履歴に基づいて前記結合位置を指定することが好ましい。この方法により、予め設定した物理量履歴を再現できる複合材料の解析用モデルを作成することが可能となる。
【0012】
本発明の複合材料の解析用コンピュータプログラムは、上記複合材料の解析用モデルの作成方法をコンピュータに実行させる。
【0013】
本発明の複合材料のシミュレーション方法は、上記複合材料の解析用モデルの作成方法で作成した複合材料の解析用モデルを用いて複合材料の材料特性を解析することを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、フィラー表面とポリマーとを所望の結合位置及び結合点数で結合させた複合材料の解析用モデルを用いるので、フィラー表面におけるポリマーの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析することが可能となる。これにより、当該複合材料の解析用モデルで解析したフィラー表面とポリマーとの結合状態を再現することにより、例えば、自動車用タイヤに用いられる複合材料において優れたコンパウンドが得られる複合材料を実現できる。
【0015】
本発明の複合材料のシミュレーション方法においては、分子動力学法による運動シミュレーションを実行して物理量を取得することが好ましい。この方法によれば、分子シミュレーション結果の部分領域の動きが観察できるので、分子運動のメカニズムを解明することが可能となる。
【0016】
本発明の複合材料のシミュレーション用コンピュータプログラムは、上記複合材料のシミュレーション方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィラー表面の任意の点でポリマーを結合させることができ、フィラー表面におけるポリマーの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析できる複合材料の解析用モデルの作成方法、複合材料の解析用コンピュータプログラム、複合材料のシミュレーション方法及び複合材料のシミュレーション用コンピュータプログラムを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。
【0020】
本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法は、コンピュータを用いて分子動力学法によりポリマーとフィラーとを含有する複合材料におけるフィラー表面への前記ポリマーの結合状態が、複合材料の材料特性に与える影響を解析する複合材料の解析用モデルの作成方法である。この複合材料の解析用モデルの作成方法は、ポリマーにフィラーを分散させる分散工程と、分散させたフィラー表面におけるポリマーとの結合位置を指定する指定工程と、指定した結合位置にポリマーを結合させて複合材料の解析用モデルを作成する結合工程と、を含む。まず、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法の概要について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法に用いられる複合材料の説明図である。
図1に示すように、この複合材料10は、例えば、相互に材料特性が異なる母相11及び分散相12を含む。母相11は、例えば、ゴム又は各種樹脂材料などの高分子材料(ポリマー)を含有する。分散相12は、例えば、カーボンブラック又はシリカなどの無機材料のフィラーを含有する。
【0022】
図2A及び
図2Bは、本実施の形態に係る分散相12を構成するフィラー21の説明図である。
図2Aに示すように、本実施の形態においては、フィラー21は、複数のフィラー原子及び複数のフィラー原子が集合したフィラー粒子を含む。フィラー21は、複数のフィラー原子及び複数のフィラー粒子が集合した略球体としてフィラーモデル化される。また、
図2Bに示すように、フィラー21は、複数の略球体のフィラー21同士が連結した構造としてモデル化される。フィラー原子及びフィラー粒子は、フィラー原子及びフィラー粒子間の結合鎖(不図示)によって相対位置が特定される。この結合鎖(不図示)は、平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、フィラーモデルの各粒子間を拘束している。各フィラー21の周囲には、母相11(
図1参照)となるポリマー(不図示)を形成するポリマー原子及び複数のポリマー原子が集合したポリマー粒子がフィラー21との間で所定間隔をとって分散してポリマーモデル化されている。
【0023】
図3A及び
図3Bは、本実施の形態に係るフィラー21とポリマー22との結合の説明図である。
図3A及び
図3Bに示すように、複合材料10中では、ポリマー22は、ポリマー原子及び複数のポリマー原子が集合したポリマー粒子が集合した略線状体としてポリマーモデル化される。ポリマー原子及びポリマー粒子は、フィラー原子及びフィラー粒子と同様に、ポリマー原子及びポリマー粒子間の結合鎖(不図示)によって相対位置を特定される。この結合鎖(不図示)は、平衡長とばね定数とが定義されたバネとしての機能を有し、ポリマーモデルの各粒子間を拘束している。
【0024】
本実施の形態では、フィラー21表面の任意の位置のフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群に任意の数の結合位置21aを指定する。そして、指定した結合位置21aにポリマー22を結合させることにより、フィラー21表面に任意の結合位置及び結合点数のポリマー22が導入された複合材料の解析用モデルを形成する。また、この場合、フィラー21表面に結合位置21aを指定すると共に、ポリマー22のポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群に結合位置22aを指定し、フィラー21とポリマー22とを結合位置21a、22aで結合させることにより、フィラー21表面にポリマー22が導入された複合材料の解析用モデルを作成してもよい。このように、結合位置21aを指定することにより、フィラー21表面にポリマー22を所望の結合位置及び結合点数で結合させた複合材料の解析用モデルを作成できるので、フィラー21表面の結合位置及び結合点数が複合材料10の材料特性に与える影響を解析できる複合材料の解析用モデルを作成できる。
【0025】
本実施の形態においては、反応解析によってフィラー21とポリマー22とを結合させることが好ましい。これにより、ポリマー22分子の主鎖又は末端など任意の位置に設けた結合位置22aでフィラー21表面と任意の反応で結合させることができるので、フィラー21とポリマー22とを効率的に結合させることができる。
【0026】
反応解析の方法としては、フィラー21とポリマー22とを結合させることができるものであれば特に制限はない。反応解析の方法としては、例えば、フィラー21表面のフィラー粒子を反応粒子に置換し、置換した反応粒子とポリマー粒子を反応させる方法、フィラー粒子に新たに結合鎖を作成し、作成した結合鎖をポリマー粒子と結合させる方法及び新たに反応粒子として粒子を追加し、追加した反応粒子をポリマー粒子とフィラー粒子と結合させる方法などが挙げられる。
【0027】
次に、フィラー21の表面における結合位置21aの指定方法について説明する。
図4A及び
図4Bは、フィラー21の結合位置21aの説明図である。なお、
図4A及び
図4Bにおいては、略球体のフィラー21の球の中心からのベクトル(X,Y,Z)に基づいて結合位置を設定した例を示している。
【0028】
図4Aに示す例では、結合点数を2点(1点はフィラー21の背面側のため図示不可)とし、結合位置21aを略球状のフィラー21の中心からベクトル(−1,1,1)及び(1,−1,−1)としている。
図4Bに示す例では、結合点数を8点(4点はフィラー21の背面側のため図示不可)とし、結合位置21aを略球体のフィラー21の中心からベクトル(−1,1,1)、(−1,1,−1)、(−1,−1,1)、(−1,−1,−1)、(1,1,1)、(1,1,−1)、(1,−1,1)及び(1,−1,−1)としている。これらにより、フィラー21の表面において、相互に180度異なる方向でポリマーを結合させた複合材料の解析用モデルを作成することができる。
【0029】
なお、上述した実施の形態では、略球体のフィラー21の中心からのベクトルに基づいて結合位置21aを指定する例について説明したが、結合位置21aの指定方法は、この方法に限定されない。結合位置21aは、例えば、フィラー21の中心以外の基準点からのベクトルに基づいて指定してもよく、フィラー21表面のフィラー粒子に粒子番号を付与して指定してもよい。また、フィラー21とポリマー22とを結合させる場合には、フィラー21の1つの粒子と結合させてもよく、フィラー21表面において隣接する複数の粒子を結合位置21aとしてフィラー21とポリマー22とを面で結合させてもよい。また、フィラー21は、フィラーの結合位置21aの最も近くに存在するポリマー22と結合させることにより、効率的に結合させることができる。
【0030】
本実施の形態においては、予め設定した物理量履歴に基づいてフィラー21とポリマー22との結合位置を指定することが好ましい。これにより、予め設定した物理量履歴を再現できる複合材料の解析用モデルを作成することが可能となる。ここで、予め設定した物理量履歴としては、フィラー21とポリマー22との結合位置を指定できるものであれば特に制限はない。物理量履歴としては、例えば、実際に作製した複合材料又は複合材料の解析用モデルを用いた複合材料の解析用によって実測した応力ひずみ曲線又は有限要素法(FEM:Finite Element Method)などを用いて材料特性を解析した結果から作成した応力ひずみ曲線などが挙げられる。
【0031】
次に、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法及び複合材料の解析用方法について詳細に説明する。
図5は、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法及び複合材料の解析用方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図5に示すように、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法及び複合材料のシミュレーション方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、複合材料の解析用モデルの作成対象であるフィラー21、ポリマー22(
図3参照、以下同様)の各種物性値及び解析における境界条件などを処理部52又は記憶部54へ入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
【0032】
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。例えば、処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開し、展開したデータに基づいて、複合材料10の複合材料の解析用モデルの作成及び複合材料の解析用モデルを用いた複合材料のシミュレーションに関する各種処理を実行する。
【0033】
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法により複合材料の解析用モデルを作成する際のフィラー及びポリマーの粒子数、分子数、分子量、分岐、形状、大きさ、フィラー及びポリマーの粒子間を接続する結合鎖などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定、ポリマー−ポリマー間、ポリマー−フィラー間などの相互作用などの各種計算パラメーターの初期条件の設定を行う。
【0034】
ポリマーとフィラーとの相互作用を調整する計算パラメーターとしては、下記式(1)で表されるレナード・ジョーンズポテンシャルのσ、εを用い、これらが調整される。ポテンシャルを計算する上限距離(カットオフ距離)を大きくすることで、遠距離まで働いた引力、斥力を調整できる。なお、ポリマー−フィラー間相互作用が一定値になるまで順次、ポリマー−フィラー間相互作用パラメーターを小さくすることが好ましい。レナード・ジョーンズポテンシャルのσ
0、εを大きな値から徐々に本来の値に近づけることにより、分子を不自然な状態に導かない穏やかな速度で粒子の接近を行うことができる。また、カットオフ距離も徐々に小さくすることにより、適正な範囲で引力、斥力を調整できる。
【数1】
【0035】
モデル作成部52aは、初期条件の設定の後、平衡化計算を行う。平衡化計算では、所定の温度、密度及び圧力で、初期設定後の各種構成要素が平衡状態に到達する所定の時間、分子動力学計算を行う。そして、モデル作成部52aは、初期条件の設定及び平衡化を計算した後に、フィラー21及びポリマー22を複合材料の解析のためにモデル化したポリマーモデル及びフィラーモデルを作成し、作成したポリマーモデル中にフィラーモデルを分散させる。
【0036】
モデル作成部52aは、ポリマー22と結合させるフィラー21表面におけるフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置を指定する。また、モデル作成部52aは、フィラー21表面に結合させるポリマーモデルのポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置を指定する。さらに、モデル作成部52aは、各ポリマー22間、各フィラー21間及びポリマー22とフィラー21との間の結合鎖の位置及び数を指定する。ここでは、モデル作成部52aは、作成したフィラーモデルのフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置及び数、ポリマーモデルのポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子、ポリマー粒子群の位置及び数、フィラー21表面のフィラー粒子番号、ポリマー粒子番号、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線などに基づいて、フィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子、フィラー粒子群、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置、結合鎖の位置を指定する。ここでは、モデル作成部52aが、フィラー21表面における各結合位置に対して最短距離のポリマーを指定することで効率的に結合させることができる。
【0037】
さらに、モデル作成部52aは、全結合位置を指定した後、指定した位置でポリマーモデルとフィラーモデルとを結合させて複合材料の解析用モデルを作成する。作成した複合材料の解析用モデルは、解析部52cにより実行される伸張解析などの複合材料の解析用モデルとして用いられる。
【0038】
条件設定部52bは、モデル作成部52aで作成した複合材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)を実行するための各種条件を設定する。条件設定部52bは、入力手段53からの入力及び記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件を設定する。各種条件としては、解析を実行する際のフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置及び数、フィラー21表面におけるポリマー22の結合位置及び結合点数、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置及び数、フィラー21表面のフィラー粒子番号、ポリマー粒子番号、結合鎖の位置及び数、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び条件を変更しない固定値などが含まれる。
【0039】
解析部52cは、モデル作成部52aにより作成された複合材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による伸張解析などの運動シミュレーションを実行して各種物理量を取得する。ここでの物理量としては、シミュレーションの結果得られる運動変位及び公称応力又は運動変位を演算して得られる公称ひずみなどが挙げられる。このように、作成した複合材料の解析用モデルを用いて運動シミュレーションを行って部分領域の動きを観察することにより、フィラーとポリマーとが結合する際の反応などのメカニズムを解明することも期待できる。
【0040】
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD−ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ、並びに、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
【0041】
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となる複合材料の解析用モデルを作成するためのデータであるゴム及び樹脂材料などのポリマー22(
図3参照)、シリカ及びカーボンブラックなどのフィラー21(
図3参照)のデータ、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法、複合材料のシミュレーション方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施の形態に係る複合材料のシミュレーション方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0042】
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
【0043】
次に、
図6を参照して本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法の具体例について説明する。
図6は、本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法の概略を示すフロー図である。
【0044】
図6に示すように、開始時には、モデル作成部52aが、入力手段53を介して予め記憶部54に記憶された複合材料をモデル化するためのデータであるフィラー及びポリマーの粒子数、分子数、分子量、分岐、形状、大きさ、フィラー及びポリマーの粒子間を接続する結合鎖などの構成要素の配置、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び条件を変更しない固定値などのフィラー21及びポリマー22をモデル化するための各種データを読込む。続いて、モデル作成部52aは、各種データに基づいてフィラーモデル及びポリマーモデルを作成し、初期条件の設定及び分子動力学計算により平衡化計算を行う。
【0045】
次に、モデル作成部52aは、作成したポリマーモデル中にフィラーモデルを分散させる(ステップS1)。続いて、モデル作成部52aは、ポリマーモデルと結合させるフィラーモデルのフィラー表面のフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置を指定する(ステップS2)。また、モデル作成部52aは、必要に応じてフィラー表面に結合させるポリマーモデルのポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置を指定する。
【0046】
次に、モデル作成部52aは、全結合位置を指定したか否かを確認し、全結合位置を指定していない場合(ステップS2:No)には、再度、ポリマーモデルと結合させるフィラーモデルのフィラー表面のフィラー原子、フィラー原子団、フィラー粒子及びフィラー粒子群の位置を指定する(ステップS2)。また、モデル作成部52aは、全結合位置を指定した場合(ステップS2:Yes)には、指定した結合位置でポリマーモデルとフィラーモデルとを結合させて複合材料の解析用モデルを作成する(ステップS3)。また、モデル作成部52aは、作成した複合材料の解析用モデルのデータを記憶部54に格納して複合材料の解析用モデルの作成を終了する。
【0047】
次に、条件設定部52bは、入力手段53からの入力又は記憶部54に記憶されている情報に基づいて、複合材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)の条件を設定する。次に、解析部52cは、条件設定部52bによって設定された条件に基づいて、モデル作成部52aによって作成された複合材料の解析用モデルを用いて伸張解析などの解析を行い公称応力及び公称ひずみなどの物理量を取得する。また、解析部52cは、伸張解析などによって得られた解析結果を記憶部54に格納する。
【0048】
以上説明したように、上記実施の形態に係る複合材料の解析用モデルによれば、フィラー表面にポリマーを所望の結合位置及び結合点数で結合させることができるので、フィラー表面におけるポリマーの結合状態が複合材料の材料特性に与える影響を解析できる複合材料の解析用モデルを作成することが可能となる。これにより、当該複合材料の解析用モデルで解析したフィラー表面とポリマーとの結合状態を再現することにより、例えば、ポリマーとフィラーとの間の相互作用がコンパウンドの材料特性に大きな影響を与える自動車用タイヤに用いられる複合材料においても、優れたコンパウンドが得られる複合材料を実現できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
本発明者らは、上述した本実施の形態に係る複合材料の解析用モデルの作成方法により複合材料の解析用モデルを作成し、伸張解析によりフィラー表面におけるポリマーの結合点数及び結合位置が公称応力及び公称ひずみに及ぼす影響を調べた。以下、本発明者らが調べた内容について説明する。
【0051】
複合材料の解析用モデルは、ポリマー及びフィラー間のポテンシャルとして上記式(1)に示したレナード・ジョーンズポテンシャルを使用し、カットオフ長を2
1/6として作成した。
図4Aに示した結合点数を2点とし、結合位置21aを略球状のフィラー21の中心からベクトル(−1,1,1)及び(1,−1,−1)とした複合材料の解析用モデルAと、
図4Bに示した結合点数を8点とし、結合位置21aを略球体のフィラー21の中心からベクトル(−1,1,1)、(−1,1,−1)、(−1,−1,1)、(−1,−1,−1)、(1,1,1)、(1,1,−1)、(1,−1,1)及び(1,−1,−1)とした複合材料の解析用モデルBを作成した。
【0052】
次に、作成した複合材料の解析用モデルA及び複合材料の解析用モデルBを用いて分子動力学法による運動シミュレーションである伸張解析を実行した。伸張解析結果を
図7に示す。
図7に示すように、結合点数が2点の複合材料の解析用モデルA(
図7の実線参照)に対し、結合点数が8点の複合材料の解析用モデルB(
図7の点線参照)では、公称応力及び公称ひずみの増大が大幅に抑制される結果が得られた。この結果から、結合点数が多い方がフィラーによるポリマーの補強効果が大きく、ポリマーとフィラーとの間の相互作用が正確に反映されていることが分かる。