(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態に係る放電ランプ点灯装置、放電ランプ点灯方法及びプロジェクターについて説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0019】
図1は、本実施形態によるプロジェクター1の機能構成の一例を示すブロック図である。
本実施形態によるプロジェクター1は、
図1に示すように、放電ランプ10と、液晶パネル20と、投射光学系30と、インターフェイス(I/F:Interface)部40と、画像処理部50と、液晶パネル駆動部60と、放電ランプ点灯装置70と、CPU(Central Processing Unit)80とを備えている。
【0020】
放電ランプ10は、プロジェクター1の光源として用いられる。放電ランプ10は、本実施形態においては、例えば、アーク放電を利用した高圧水銀ランプである。放電ランプ10としては、特に限定されず、例えばメタルハライドランプやキセノンランプなどの他の任意の放電ランプを用いてもよい。
【0021】
液晶パネル20は、投影される画像に応じて放電ランプ10からの照射光を変調して透過させるものである。
投射光学系30は、液晶パネル20を透過した透過光をスクリーン(図示せず)に投射するものである。
【0022】
インターフェイス部40は、図示しないパーソナルコンピューターなどから入力される画像信号SPを、画像処理部50で処理可能な形式の画像データに変換するものである。
画像処理部50は、インターフェイス部40から供給される画像データに対して、輝度調整や色バランス調整などの各種画像処理を施すものである。
液晶パネル駆動部60は、画像処理部50により画像処理が施された画像データに基づいて液晶パネル20を駆動するためのものである。
【0023】
放電ランプ点灯装置70は、イグナイターとして機能する後述の共振回路部73を備えている。放電ランプ点灯装置70は、放電ランプ10に共振回路部73を介して高周波の交流電力を供給することにより、放電ランプ10の放電を開始させて放電ランプ10を点灯させる。放電ランプ点灯装置70は、後述する放電ランプ10が定常点灯状態に至るまでに含まれる点灯始動期間P1において、共振回路部73の共振を起こさせる共振周波数(第1周波数)とは異なる所定の基本周波数(第2周波数)foを有する交流電力を放電ランプ10に供給する基本周波数期間Pf(後述する
図6参照)を挟んで、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを段階的に変化させるように構成される。その詳細については後述する。
【0024】
CPU80は、リモートコントローラー(図示せず)や、プロジェクター1の本体に備えられた操作ボタン(図示せず)の操作に従って、画像処理部50や投射光学系30を制御するものである。本実施形態において、CPU80は、例えば、利用者がプロジェクター1の電源スイッチ(図示せず)を操作したときに、放電ランプ点灯装置70に対して放電ランプ10を点灯させるよう指示する機能を有する。
【0025】
次に、放電ランプ点灯装置70の構成についてより詳細に説明する。
図2は、放電ランプ点灯装置70の機能構成の一例を示す図である。
放電ランプ点灯装置70は、ダウンチョッパー部71と、電力変換部72と、共振回路部73と、電圧検出部74と、点灯検出部75と、制御部76とを備えている。
【0026】
ダウンチョッパー部71は、入力端子TIN1と入力端子TIN2との間に直流電源(図示せず)から印加される電圧Vinを有する直流電力を、所定の直流電圧を有する直流電力に変換するものである。
ダウンチョッパー部71は、nチャネル型電界効果トランジスター711と、チョークコイル712と、ダイオード713と、コンデンサー714とを備えている。ダウンチョッパー部71によれば、制御部76から供給される制御信号S711に基づいて、nチャネル型電界効果トランジスター711を流れる電流をチョッピングすることにより、制御信号S711のデューティー比に応じた所望の出力電圧を有する直流電力を得る。本実施形態において、ダウンチョッパー部71の出力電圧は例えば380Vであるが、これに限定されない。
なお、ダウンチョッパー部71は、本実施形態によるプロジェクター1に必須の構成要素ではなく、省略してもよい。
【0027】
電力変換部72は、ダウンチョッパー部71から供給される直流電力を交流電力に変換し、この交流電力を後述の共振回路部73を介して放電ランプ10に供給するためのものである。電力変換部72は、nチャネル型電界効果トランジスター721,722,723,724を備えたフルブリッジ回路である。
nチャネル型電界効果トランジスター721,722の各ドレインは、ダウンチョッパー部71を構成するnチャネル型電界効果トランジスター711及びチョークコイル712を介して入力端子TIN1に繋がる高電位ノードNHに接続されている。nチャネル型電界効果トランジスター721,722の各ソースは、それぞれ、nチャネル型電界効果トランジスター723,724の各ドレインに接続されている。nチャネル型電界効果トランジスター723,724の各ソースは、後述する点灯検出部75を構成する抵抗751を介して、入力端子TIN2に繋がる低電位ノードNLに接続されている。
【0028】
nチャネル型電界効果トランジスター721とnチャネル型電界効果トランジスター724のゲートには制御部76から制御信号Saが供給される。nチャネル型電界効果トランジスター722とnチャネル型電界効果トランジスター723のゲートには、制御部76から、制御信号Saの反転信号に相当する制御信号Sbが供給される。
本実施形態では、nチャネル型電界効果トランジスター721のソースとnチャネル型電界効果トランジスター723のドレインとの間の接続部を、電力変換部72の一方の出力ノードN1とする。nチャネル型電界効果トランジスター722のソースとnチャネル型電界効果トランジスター724のドレインとの間の接続部を、電力変換部72の他方の出力ノードN2とする。
【0029】
制御部76から供給される制御信号S(Sa,Sb)に基づいて一対のnチャネル型電界効果トランジスター722,723と一対のnチャネル型電界効果トランジスター721,724とが相補的にスイッチングすることにより、出力ノードN1,N2のそれぞれから380Vと0Vが相補的に出力されるようになっている。すなわち、nチャネル型電界効果トランジスター721,722,723,724のスイッチング動作により、電力変換部72は、直流電力を交流電力に変換する。該交流電力は、矩形波であり、基本周波数が周波数fsである。この交流電力の周波数fsは、制御部76から供給される制御信号Sのクロック周波数と一致する。本実施形態では、制御部76から供給される制御信号Sの周波数と、電力変換部72から供給される交流電力の周波数を、共に「周波数fs」として説明する。
【0030】
共振回路部73は、放電ランプ10の放電開始電圧(ブレークダウン電圧)を超える高電圧を発生させるイグナイターとして機能するものである。共振回路部73は、磁気的に結合された2つのコイル731,732と、コンデンサー733とを備えている。共振回路部73には出力端子TOUT1,TOUT2を介して放電ランプ10が接続される。
コイル731の一端は電力変換部72の出力ノードN1に接続され、このコイル731の他端はコイル732の一端に接続され、このコイル732の他端は出力端子TOUT1に接続されている。コイル731とコイル732との間の接続ノードにはコンデンサー733の一方の電極が接続されている。コンデンサー733の他方の電極は、電力変換部72の出力ノードN2に接続されていると共に出力端子TOUT2に接続されている。
【0031】
本実施形態では、共振回路部73を構成するコイル731とコンデンサー733とによりLC直列共振回路が形成されており、基本的には、このLC直列共振回路の共振周波数(コイル731とコンデンサー733とにより定まる共振周波数)が共振回路部73の固有の共振周波数(第1周波数)frになる。
【0032】
本実施形態では、共振周波数frは、例えば、390kHzに設定される。したがって、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsが共振回路部73の共振周波数frと一致して、コイル731とコンデンサー733により構成されるLC直列共振回路が共振状態になれば、原理上、コンデンサー733の端子間電圧V733が無限大になり、放電ランプ10の放電を開始させるのに必要な高電圧が共振回路部73により得られる。
【0033】
ただし、後述するように、本実施形態では3倍共振モードを用いているので、共振回路部73が共振状態になるときの電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsは、共振回路部73の固有の共振周波数frの3分の1の周波数である。すなわち、N倍共振モードを用いた場合、共振回路部73が共振状態になるときの電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsは、共振回路部73の共振周波数frのN分の1の周波数となる。
【0034】
しかしながら、上述のLC直列共振回路が共振状態になっても、電力変換部72を構成するnチャネル型電界効果トランジスター721,722,723,724の抵抗成分や配線インピーダンスが存在すると、コンデンサー733の端子間電圧V733は、概ね1kV以上、1.5kV以下程度に留まり、放電ランプ10の放電を開始させるのに必要な高電圧が得られなくなる。そこで、本実施形態では、共振回路部73は、LC直列共振回路を構成するコイル731と磁気的に結合されたコイル732を備え、コンデンサー733の端子間電圧V733を、コイル731とコイル732との巻数比に応じて増幅することにより、最終的に放電ランプ10の放電を開始させるのに必要な数kVの高電圧を発生させている。
【0035】
また、本実施形態では、共振回路部73は、いわゆる3倍共振モードを利用することにより、後述する点灯始動期間P1において電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsの3倍の周波数で共振する。ここで、3倍共振モードは、電力変換部72から出力される交流電力の波形の振動成分を利用している。原理上、電力変換部72は、交流電力の波形として矩形波を出力するが、その波形は高調波成分を含んでいる。この高調波成分を利用して、共振回路部73は、点灯始動期間において電力変換部72から出力される交流電力の周波数fsの3倍の周波数で共振するように設計される。すなわち、共振回路部73の共振周波数frは、点灯始動期間において電力変換部72から出力される交流電力の周波数fsの3倍の周波数に設定される。
【0036】
本実施形態では、共振回路部73の共振周波数frは、390kHzに設定されており、3倍共振モードにより、電力変換部72から130kHzの交流電力が供給されると、共振回路部73はその3倍の390kHzで共振する。このように3倍共振モードを利用すれば、上記交流電力の周波数fsに対して共振回路部73の共振周波数frを相対的に高く設定することができる。そのため、3倍共振モードを利用しない場合と比較して、共振回路部73を構成するコイル731,732のインダクタンス成分とコンデンサー733の容量成分の各値を小さく設定することができる。これにより、共振回路部73を小型に構成することが可能になる。
【0037】
また、共振回路部73は、コイル731,732のうち、コイル732を備えなくてもよい。例えば、放電ランプ10の点灯する電圧が低い場合、または各素子・パターンの影響が少なく端子間電圧V733が大きい場合には、コイル732が不要となり、これにより共振回路部73を小型に構成することができる。
【0038】
したがって、点灯始動期間P1において電力変換部72から出力される交流電力の周波数fs(130kHz)に共振回路部73の共振周波数frを合わせるよりも、3倍共振モードを用いて、上記交流電力の周波数fsの3倍の周波数(390kHz)に共振回路部73の共振周波数frを合わせた方が、共振回路部73を小型に構成することができる。また、共振回路部73の共振周波数frを高く設定しても、3倍共振モードを用いることにより、電力変換部72が出力する交流電力の周波数fsを相対的に低く設定することができる。そのため、電力変換部72による高電圧領域でのスイッチング動作を安定化させることができ、電力変換部72の負担を軽減することが可能になる。
【0039】
このように3倍共振モードで共振回路部73の共振を起こさせるときの上記交流電力の周波数fsは、共振回路部73を共振状態にする点では、共振回路部73の固有の共振周波数frと同様の技術的意味を有し、見かけ上、共振回路部73の共振周波数として取り扱うことができる。そこで、以下では、3倍共振モードで共振回路部73の共振を起こさせる電力変換部72の交流電力の周波数fsを、「共振回路部73の共振周波数fsr」または単に「共振周波数fsr」と称する。この共振周波数(第1周波数)fsrは、例えば、制御部76が備える図示しない記憶部に記憶される。
【0040】
なお、本実施形態において、3倍共振モードは必ずしも必須の要素ではなく、3倍共振モードを用いない場合、すなわち1倍共振モードを用いた場合には、共振周波数fsrは共振回路部73の固有の共振周波数frと一致する。また、本実施形態では、共振回路部73が3倍共振モードで共振する場合を例示するが、3倍共振モードに限らず、共振回路部73は、N(Nは奇数)倍共振モードを用いて共振するものとしてもよい。この場合、共振周波数fsrは、共振回路部73の固有の共振周波数frを含んだ任意のN倍共振モードで共振回路部73の共振を起こさせる周波数であって、電力変換部72から供給される交流電力の周波数または制御信号Sの周波数として定義される。
【0041】
電圧検出部74は、上述の共振回路部73を構成するコンデンサー733の端子間電圧V733を検出するためのものである。電圧検出部74は、このコンデンサー733の端子間に直列に接続された抵抗741及び抵抗742と、アナログ/デジタル(A/D:Analog/Digital)変換部743とを備えている。
抵抗741及び抵抗742は、共振回路部73のコンデンサー733の端子間電圧V733を分圧して、その抵抗比に応じた電圧V74を得るためのものである。本実施形態では、コンデンサー733の端子間電圧V733を「共振出力電圧V733」と称する。アナログ/デジタル変換部743は、分圧された電圧V74をデジタルデータに変換して出力するものである。本実施形態では、電圧V74は、共振出力電圧V733をアナログ/デジタル変換部743の入力特性に適合させるために生成される中間段階の電圧である。したがって、アナログ/デジタル変換部743が出力するデジタルデータは、共振出力電圧V733の値を表し、この電圧検出部74で検出された共振出力電圧V733は制御部76に供給される。
【0042】
点灯検出部75は、放電ランプ10の点灯/不点灯を検出するものである。点灯検出部75は、抵抗751と、コンパレーター部752とを備えている。
抵抗751は、入力端子TIN2と電力変換部72を構成するnチャネル型電界効果トランジスター723,724の各ソースとの間に接続されており、この抵抗751の端子間電圧(降下電圧)はコンパレーター部752に入力される。コンパレーター部752は、抵抗751の端子間電圧に基づいて放電ランプ10を流れる電流を検出し、この検出された電流と、放電ランプ10が点灯したときに抵抗751を流れる電流に対応する所定電圧値(図示せず)とを比較することにより、放電ランプ10の点灯/不点灯を検出する。すなわち、点灯検出部75は、例えば、抵抗751の端子間電圧が所定電圧値以上である場合、放電ランプ10の点灯を検出し、抵抗751の端子間電圧が所定電圧値を下回る場合には放電ランプ10の不点灯を検出する。点灯検出部75は、放電ランプ10の点灯を検出した場合、その旨を示す信号を制御部76に出力する。
【0043】
制御部76は、上述のダウンチョッパー部71と電力変換部72の各スイッチング動作を制御するものである。本実施形態においては、制御部76は、後述する放電ランプ10が定常点灯期間P3に至るまでの点灯始動期間P1及び電極加熱期間P2において、共振回路部73に供給される交流電力の周波数fsを制御する。
【0044】
制御部76は、点灯始動期間P1においては、共振回路部73の共振周波数fsrとは異なる基本周波数foを有する交流電力を放電ランプ10に供給する基本周波数期間Pfを挟んで、電力変換部72から共振回路部73に供給される交流電力の周波数fsを段階的に変化させるように、電力変換部72のスイッチング動作を制御する。
【0045】
また、制御部76は、電極加熱期間P2においては、電力変換部72から共振回路部73に供給される交流電力の周波数fsが、放電ランプ10の電極を短時間で効率的に加熱できる周波数である電極加熱周波数fhとなるように、電力変換部72のスイッチング動作を制御する。
【0046】
本実施形態において基本周波数foは、共振回路部73の共振周波数fsrよりも高い周波数であり、かつ、100kHz以上の周波数である。言い換えると、共振周波数fsrは、基本周波数foよりも低い周波数である。基本周波数foは、この範囲内において、任意に設定される。周波数を100kHz以上に設定すると、点灯始動期間における放電ランプ10の負荷を適切に軽減できる。
【0047】
より具体的には、基本周波数foとしては、例えば、145kHz以上、170kHz以下と設定できる。基本周波数foを145kHz以上と設定することにより、共振回路部73が共振状態(共振出力電圧V733が増大する状態)に至ることを容易に抑制できる。また、基本周波数foを170kHz以下と設定することにより、共振回路部73と電力変換部72との間のスイッチングロスを低減することができる。
【0048】
また、本実施形態において電極加熱周波数fhは、例えば、60kHzに設定される。これにより、電極に過負荷を与えない範囲で、放電ランプ10に流れる電流の値を大きくでき、電極を効率的に加熱できる。
【0049】
制御部76は、電圧制御発振器761を備えている。この電圧制御発振器761は、入力電圧(図示せず)に応じた周波数の信号を制御信号Sとして出力するものである。この電圧制御発振器761の入力電圧を規定する信号は、電力変換部72の後述のスイッチング動作が得られるように、制御部76において生成される。
【0050】
次に、本実施形態におけるプロジェクター1の放電ランプ10の点灯動作の概要について説明する。
図3(A)は、本実施形態のプロジェクター1における放電ランプ10の点灯動作の概略を説明するための図であり、放電ランプ10が安定した点灯状態となるまでの共振回路部73における共振出力電圧V733の波形を示す図である。
【0051】
図3(A)に示すように、本実施形態のプロジェクター1においては、点灯始動期間P1と電極加熱期間P2とを経て、放電ランプ10が安定した点灯状態となる定常点灯期間P3に移行する。
点灯始動期間P1は、前述したように、共振回路部73の共振周波数fsrとは異なる所定の基本周波数foを有する交流電力を放電ランプ10に供給する基本周波数期間Pfを挟んで、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを段階的に変化させるようにして、放電ランプ10に交流電力が供給される期間を含んでいる。詳しくは後述するが、この期間において、周波数fsは、共振周波数fsrと同一の周波数となるまで段階的に変化させられる。これにより、点灯始動期間P1において、共振周波数fsrと、共振周波数fsrとは異なる基本周波数foとを有する交流電力が放電ランプ10に供給される。
【0052】
なお、周波数fsが共振周波数fsrと同一の周波数になる、とは、厳密に数値が一致することを必要とせず、周波数fsが共振周波数fsrの近傍の値に設定されることを含むものとする。同様に、共振周波数fsrと基本周波数foとを有する交流電力が放電ランプ10に供給される、とは、共振周波数fsr近傍の周波数と基本周波数foとを有する交流電力が放電ランプ10に供給されることを含むものとする。
【0053】
点灯始動期間P1の長さt1は、電極間に発生する放電状態に応じて決定される。
図3(B)は、電極間の放電状態の変化を説明する図であり、
図3(A)と合わせて、電極間の放電状態の変化と、共振回路部73における共振出力電圧V733の波形との対応関係を示している。
【0054】
図3(B)に示すように、絶縁破壊が生じて未放電状態D0から放電状態へと推移した後の放電ランプ10内における電極間の放電状態は、グロー放電状態D1、混在状態D2、アーク放電状態D3の順で推移する。すなわち、放電ランプ10内における放電は、電極が加熱されるのに伴ってグロー放電からアーク放電へと移行していく。その移行する過程において、放電ランプ10内でグロー放電とアーク放電とが混在する混在状態D2が生じる。
【0055】
図4は、混在状態D2における放電ランプ10内の放電状態を示す模式図である。
図4に示すように、混在状態D2においては、電極12a,12b間にグロー放電GDとアーク放電ADとが混在する。混在状態D2においては、アーク放電ADは、放電管11の内壁11aと距離が近い電極12a,12bの後端部と、内壁11aとの間で発生しやすい。なお、
図3(A)において混在状態D2における共振出力電圧V733がプラスマイナスの両極性対称で記載されているが、実際にはアーク放電が安定していない状態であるため、一方の極性に偏った波形となることが多い。
【0056】
点灯始動期間P1の長さt1は、
図3(A),(B)に示すように、放電ランプ10の放電状態がアーク放電状態D3となるのに十分な長さに設定される。言い換えると、点灯始動期間P1の長さは、放電ランプ10がグロー放電状態D1となっている期間の長さと混在状態D2となっている期間の長さとを合わせた長さ以上となるように設定される。点灯始動期間P1としては、例えば、0.5s以上と設定できる。
【0057】
また、点灯始動期間P1における共振出力電圧V733は、グロー放電が生じるまでの期間である未放電状態D0では高電圧となっているのに対して、絶縁破壊が生じて放電ランプ10内がグロー放電状態D1に移行すると、放電ランプ10の電極間に電流が流れるため、瞬間的に低下する。そして、グロー放電状態D1から混在状態D2にかけてゆっくりと共振出力電圧V733は低下し、アーク放電状態D3へと移行すると、放電状態が安定するため、もう一段階電圧値が低下する。
【0058】
絶縁破壊が生じて放電が発生した後、すなわち、放電ランプ10内の放電状態がグロー放電状態D1、混在状態D2、アーク放電状態D3の場合においては、点灯始動期間P1において供給される交流電力は、上述したような、共振周波数fsrと基本周波数foとを有する交流電力であってもよいし、基本周波数foのみを有する交流電力であってもよい。
【0059】
電極加熱期間P2は、放電ランプ10が点灯した後に、供給電力の周波数fsを前述した電極加熱周波数fhに設定し、電極12a,12bを短時間で加熱する期間である。電極加熱期間P2において、放電ランプ10の電極を十分に加熱してから、定常点灯期間P3へと移行することによって、放電ランプ10内で生じるアーク放電ADを安定化することができる。なお、電極加熱期間P2と定常点灯期間P3の間に、立上期間として放電ランプ10全体が温まるまで電流を制限する期間を設ける場合もある。
【0060】
電極加熱期間P2においては、電極12a,12bが加熱されることによって、共振出力電圧V733の値は、徐々に低下していく。
電極加熱期間P2の長さt2は、電極12a,12bを十分に加熱できる範囲内において、特に限定されない。電極加熱期間P2の長さt2は、例えば、2.4sと設定できる。
【0061】
次に、放電ランプ10の点灯動作における、放電ランプ点灯装置70の動作について説明する。
図5は、本実施形態による放電ランプ点灯装置70の動作の概略を説明するための説明図であり、共振回路部73の共振出力電圧V733の周波数依存性(共振特性)を示している。
図5に示すように、3倍共振モードにおいて共振回路部73に供給される交流電力に含まれる高調波の周波数fが共振回路部73の共振周波数fr(390kHz)と一致したときに、共振回路部73における共振出力電圧V733がピーク電圧Vr(最大値)を示す。したがって、仮に共振周波数frが変動したとしても、共振出力電圧V733がピーク電圧Vr(最大値)を示す周波数に電力変換部72の交流電力の周波数fsを設定することにより、放電ランプ10の放電を開始させるために必要な高電圧を得ることができる。
【0062】
そこで、本実施形態では、制御部76は、共振回路部73の共振周波数fsrよりも十分に高い所定の周波数fdを開始点として、この周波数fdから共振周波数fsrに向けて減少する方向に、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを、共振回路部73の共振周波数fsrとは異なる所定の基本周波数foに設定される基本周波数期間Pfを挟んで、周波数fc、周波数fb、周波数fa、周波数fxの順に段階的に変化させる。そして、基本周波数foを除く各周波数に対する共振出力電圧V733、すなわち、電圧Vc、電圧Vb、電圧Va、電圧Vxから共振周波数fsrまたはその近傍の周波数を特定する。本実施形態では、3倍共振モードを用いているので、共振回路部73の固有の共振周波数frの約3分の1の周波数が共振周波数fsrとして特定される。
【0063】
本実施形態では、基本周波数foを除く周波数fa,fb,fc,fd,fxを「駆動周波数(第1周波数)」と称し、基本周波数foと区別する。基本周波数fo及び駆動周波数fa,fb,fc,fd,fxは、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを示すが、前述のように、この交流電力の周波数fsは制御部76から供給される制御信号Sの周波数と一致する。したがって、基本周波数fo及び駆動周波数fa,fb,fc,fd,fxは、制御部76で生成される制御信号Sの周波数を意味しており、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsは制御部76により基本周波数foまたは駆動周波数fa,fb,fc,fd,fxに設定される。ただし、この例に限定されず、駆動周波数の個数を任意に増やしてもよい。
【0064】
また、駆動周波数fa,fb,fc,fd,fxは、一定の周波数ステップを隔てて発生される。すなわち、制御部76は、電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを一定の周波数ステップで段階的に周波数fdから共振周波数fsrに向けて変化(減少)させる。ただし、この例に限定されず、例えば、共振周波数fsrの近傍で周波数ステップを小さく設定してもよい。
【0065】
また、交流電力の周波数fsを段階的に変化させる過程で最初に周波数fsとして設定される駆動周波数fdは、上述のように、共振周波数fsrよりも十分に高い周波数であるが、好ましくは、共振周波数fsrの変動範囲を超える値に設定される。これにより、共振回路部73の固有の共振周波数frが変動したことにより見かけ上の共振周波数fsrが変動したとしても、後述のように電力変換部72から供給される交流電力の周波数fsを段階的に変化させる過程で、共振出力電圧V733のピーク電圧Vrを検出することが可能になる。
【0066】
図6は、点灯始動期間P1における、交流電力の周波数fsを与える制御信号S(同図の上段に示す波形)と、共振回路部73における共振出力電圧V733の波形(同図の下段に示す波形)との対応関係を模式的に示す模式図である。共振出力電圧V733の波形については、放電ランプ10が未放電状態D0であるときの波形を示している。
【0067】
図6の上段に示すように、制御信号Sは、上述の基本周波数foと、段階的に減少される駆動周波数(fc,fd)を交互に含んでいる。この例では、制御信号Sの周波数fsは、最初に基本周波数foに設定され、その次に駆動周波数fdに設定され、その次に再び基本周波数foに設定され、その次に周波数fcに設定される。また、同図の下段に示すように、制御信号Sの基本周波数foに対応して共振出力電圧V733の振幅が小さくなり、段階的に減少する駆動周波数(fc,fd)に対応して共振出力電圧V733の振幅が増加している。このときの共振出力電圧V733の電圧Vc,Vdは、前述の
図5に示す駆動周波数fc,fdでの電圧Vc,Vdに対応している。
【0068】
周波数fsが基本周波数foに設定されてから駆動周波数に切り替わるまでの時間、すなわち、各基本周波数期間Pfの長さt3と、周波数fsが駆動周波数に設定されてから基本周波数foに切り替わるまでの時間、すなわち、駆動周波数を有する交流電流が放電ランプ10に供給される各期間の長さ(以下、駆動周波数期間の長さ)t4とは、それぞれ、点灯始動期間P1において放電ランプ10における電極12a,12b間に絶縁破壊が生じ、放電ランプ10が点灯する範囲内で任意に設定される。
【0069】
基本周波数期間Pfの長さt3は、例えば、6msと設定できる。駆動周波数期間の長さt4は、例えば、2msと設定できる。基本周波数期間Pfの長さt3及び駆動周波数期間の長さt4をこのように設定することにより、電力消費を低減しつつ、放電ランプ10への負荷を低減することができる。
【0070】
上述のように、交流電力の周波数fsを段階的に減少させる過程で、制御部76は、点灯検出部75により放電ランプ10の点灯が検出されるまで、基本周波数期間Pfを挟んで、交流電力の周波数fsを段階的に減少させる。そして、制御部76は、点灯検出部75により放電ランプ10の点灯が検出され、所定時間の経過により点灯始動期間P1が終了した場合には、交流電力の周波数fsを電極加熱期間P2における所定周波数に設定する。すなわち、放電ランプ10においてアーク放電が開始した後(アーク放電状態D3となった後)は、交流電力の周波数fsが電極加熱期間P2における所定周波数となるように設定され、電極12a,12bが加熱される。その後、交流電力の周波数fsは、定常点灯期間P3における周波数に設定され、放電ランプ10の定常的な点灯(放電)が維持される。
【0071】
また、上述の交流電力の周波数fsを段階的に減少させる過程で、放電ランプ10が点灯しないまま、交流電力の周波数fsが共振周波数fsrを下回り、電圧検出部74により検出される共振出力電圧V733が
図5に示すピーク電圧Vrを過ぎて上昇から下降に転じた場合、直前の段階で設定した駆動周波数に交流電力の周波数fsを設定し直す。これにより、交流電力の周波数fsを段階的に減少させる過程で、共振出力電圧V733が最も高くなる周波数、すなわち放電が開始する可能性が最も高い共振周波数fsr近傍の駆動周波数に交流電力の周波数fsを設定することができ、この設定状態で放電ランプ10の放電開始を待つ。なお、後述するように、規定の時間が経過しても放電ランプ10が放電を開始しない場合には、プロジェクター1のシステム制御部に対してエラーが出力される。
【0072】
次に、上述した放電ランプ点灯装置70の動作を踏まえて、本実施形態によるプロジェクター1における制御部76による放電ランプ点灯装置70の制御手順について説明する。
図7は、本実施形態の制御部76による点灯動作の流れの一例を表すフローチャートである。
まず、プロジェクター1のCPU80から構成されるシステム制御部(図示せず)は、利用者による電源スイッチ(図示せず)の操作があった場合、放電ランプ点灯装置70に対して放電ランプ10の点灯を指示する。
【0073】
放電ランプ点灯装置70の制御部76は、上述のシステム制御部からの指示を受けると、制御信号S711によりダウンチョッパー部71のスイッチング動作を開始させると共に、制御信号Sの周波数fsとして上述の基本周波数foを設定し(ステップS1)、この制御信号Sにより電力変換部72のスイッチング動作を開始させる。
【0074】
続いて、制御部76は、この制御部76が備える記憶部(図示せず)に前述の共振周波数fsr、すなわち、共振周波数frに対応する共振回路部73に印可される交流電力の周波数fs(制御信号Sの周波数)が記憶されているかどうかを判定する(ステップS2)。
【0075】
ここで、本実施形態では、もし、過去に点灯動作が行われていれば、その過去の点灯動作における後述のステップS9により、放電ランプ10の放電が開始したときの駆動周波数が共振周波数fsrとして記憶部に記憶されている。この共振周波数fsrが記憶部に記憶されていれば(ステップS2;YES)、制御部76は、その記憶された共振周波数fsrに対応させて駆動周波数を設定する(ステップS3)。ここでは、過去に点灯動作は行われていないものとし、制御部76が備える記憶部には過去の点灯動作の共振周波数fsrは記憶されていないものとする(ステップS2;NO)。
【0076】
制御部76は、記憶部に過去の点灯動作の共振周波数fsrが記憶されていなければ(ステップS2;NO)、制御信号Sの周波数fsとして所定の駆動周波数fdを設定する(ステップS4)。なお、ステップS3において、共振周波数fsrが記憶部に記憶されている場合、該共振周波数fsrに対応させて駆動周波数を設定する。
そして、駆動周波数fdを有する制御信号Sに基づいて、電力変換部72はスイッチング動作を実施し、駆動周波数fdを有する交流電力を共振回路部73に供給する。駆動周波数fdの制御信号Sに対応する区間において、電圧検出部74は、共振出力電圧V733を検出する(ステップS5)。制御部76は、電圧検出部74により検出された共振出力電圧V733を記憶部に一時記憶する(ステップS6)。
【0077】
次に、制御部76は、制御信号Sの周波数fsを基本周波数foに設定し直す(ステップS7)。この基本周波数foの制御信号Sの区間において、制御部76は、検出された共振出力電圧V733が以前に検出された共振出力電圧V733以上であるかどうかを判定する(ステップS8)。ここでは、共振出力電圧V733は、最初の駆動周波数fdに対して得られた電圧であるから、以前の値は存在しない。この場合、制御部76は、以前に検出された共振出力電圧V733以上であると判定する(ステップS8;YES)。ステップS8は、制御信号Sの周波数fsが
図3に示す共振周波数fsrを過ぎたかどうかを把握するためのものである。
【0078】
なお、検出された共振出力電圧V733未満である場合(ステップS8;NO)、制御部76は、一つ前の駆動周波数、ここでは周波数fdを共振周波数として制御部76の記憶部に記憶させる(ステップS9)。
【0079】
続いて、制御部76は、制御信号Sの周波数fsとして再び基本周波数foを設定する(ステップS10)。この基本周波数foの制御信号Sの区間において、制御部76は、点灯検出部75の検出結果に基づいて、放電ランプ10が点灯したかどうかを判定する(ステップS11)。ここで、点灯していないと判定された場合(ステップS11;NO)、制御部76は、点灯動作を開始してからの動作時間を計測し(ステップS12)、この動作時間が規定の動作時間を経過したかどうかを判定する(ステップS13)。ここで、規定の動作時間を経過していない場合(ステップS13;NO)、制御部76は、制御信号Sの周波数fsを下げて駆動周波数fcに設定する(ステップS14)。この後、制御部76は、処理動作を上述のステップS1に戻し、上述のステップS11において放電ランプ10が点灯したと判定されるまで、同様のステップを繰り返し実行する。
【0080】
ここで、上述のステップS14において制御信号Sのクロック周波数が周波数fcに設定された場合に、上述のステップS11において放電ランプ10が点灯したと判定されると(ステップS11;YES)、制御部76は、制御信号Sの周波数fsを基本周波数foに設定し(ステップS15)、規定の動作時間を計測する(ステップS16)。そして、制御部76は、規定の動作時間が経過したかどうかを判定する(ステップS17)。もし、規定の動作時間が経過しなければ(ステップS17;NO)、この規定の動作時間が経過するまで、ステップS11〜S17を繰り返す。規定の動作時間が経過すると(ステップS17;YES)、制御部76は、制御信号Sの周波数fsとして電極加熱周波数fhを設定する(ステップS
18)。
【0081】
ここで、ステップS17において計測する動作時間は、放電ランプ10に電力が供給され始めてからの経過時間、すなわち、
図7における開始時点からの経過時間であり、点灯始動期間P1の長さt1に相当する。
【0082】
制御部76は、制御信号Sの周波数fsとして電極加熱周波数fhを設定した後、規定の動作時間を計測する(ステップS19)。そして、制御部76は、規定の動作時間が経過したかどうかを判定する(ステップS20)。もし、規定の動作時間が経過しなければ(ステップS20;NO)、この規定の動作時間が経過するまで、ステップS18〜S20を繰り返す。規定の動作時間が経過すると(ステップS20;YES)、制御部76は、制御信号Sの周波数fsとして通常の点灯時の所定周波数を設定し、制御信号Sとして通常のランプ点灯信号波形を出力する(ステップS21)。
【0083】
ここで、ステップS20における規定の動作時間は、点灯始動期間P1が終了してからの経過時間、すなわち電極加熱周波数fhを設定してからの経過時間である。ステップS20における規定の動作時間は、電極加熱期間P2の長さt2に相当する。
【0084】
また、上述のステップS11で、放電ランプ10が点灯しない場合(ステップS11;NO)であって、上述のステップS13で、規定の動作時間が経過した場合(ステップS13;YES)、制御部76は、ランプ不点灯エラーをプロジェクター1のシステム制御部に出力する(ステップS22)。これにより、このシステム制御部の制御の下、図示しない表示部等を介して、ランプ不点灯エラーが発生した旨が利用者に通知される。この場合、プロジェクター1のシステム制御部は、例えば、放電ランプ10を冷却するためのファンを稼働させるなど、エラーを解消するための所定の処理を実施する。また、この通知を受けた利用者では、例えば一定時間、プロジェクター1の使用を見合わせる等の対応が可能になる。
【0085】
なお、上述のステップS7における基本周波数foと、ステップS10における基本周波数foとは、例えば145kHzと160kHzのように、100kHz以上の周波数であれば異なっていてもよい。また、上述のステップS13、ステップS17及びステップS20における規定の動作時間は、同一の規定動作時間でなく、異なっていてもよい。
【0086】
また、上述の点灯動作においては、点灯が検出された後は、規定の動作時間が経過するまで周波数fsは基本周波数foに設定されるが、これに限られない。例えば、本実施形態の点灯動作においては、点灯が検出された後であっても、点灯が検出される前と同様に、規定の動作時間が経過するまで、すなわち、点灯始動期間P1が終了するまで、周波数fsは基本周波数foと駆動周波数とが交互に設定されてもよい。
【0087】
また、上述の実施形態による放電ランプ点灯装置70の動作手順を放電ランプ点灯方法として表現することもできる。この放電ランプ点灯方法は、電力変換部72により直流電力を交流電力に変換し、該交流電力を、共振回路部73を介して放電ランプ10に供給する段階と、制御部76により、放電ランプ10が定常点灯状態に至るまでの点灯始動期間P1において、共振回路部73の共振を起こさせる共振周波数frと、共振周波数frとは異なる基本周波数foとを有する交流電力を放電ランプ10に供給する段階とを含み、基本周波数foは、100kHz以上であるものとして表現することができる。
【0088】
また、本実施形態の放電ランプ点灯方法は、制御部76により、放電ランプ10が定常点灯状態に至るまでの点灯始動期間P1において、共振回路部73の共振を起こさせる共振周波数frとは異なる基本周波数foを有する交流電力を放電ランプ10に供給する基本周波数期間Pfを挟んで、上記交流電力の周波数fsを段階的に変化させる段階とを含むものとして表現することもできる。
【0089】
本実施形態によれば、点灯時に、共振回路部73に供給される交流電力の周波数fsを連続的に変化させるのではなく、共振回路部73の共振周波数fsrと異なる基本周波数foを有する交流電力を放電ランプ10に供給する基本周波数期間Pfを挟んで、交流電力の周波数fsを共振周波数fsrに向けて段階的に減少させる。これにより、共振回路部73が継続的に準共振状態または共振状態に置かれないようにしている。したがって、本実施形態によれば、基本周波数foに対応する区間で共振回路部73のリアクタンス成分が一時的に顕在化するため、共振回路部73における電圧および電流が抑制され、この共振回路部73における消費電力が抑制される。
【0090】
また、本実施形態によれば、放電ランプ10を点灯する際の放電管11の損傷を低減することができる。以下、詳細に説明する。
【0091】
前述したように、放電ランプ10内における放電がグロー放電GDからアーク放電ADへと移行する間には、
図3(B)に示すように、グロー放電GDとアーク放電ADとが混在する混在状態D2が存在する。そして、
図4に示すように、混在状態D2におけるアーク放電ADは、放電管11の内壁11aと、内壁11aと距離が近い電極12a,12bの後端部との間で発生しやすい。
【0092】
このとき、放電ランプ10に供給されている電流値が大きいと、アーク放電ADのエネルギーが大きくなり、内壁11aが損傷を受ける場合がある。すなわち、アーク放電ADによって高熱が加えられることで、例えば、放電管11が白濁する失透が発生してしまうような場合がある。これにより、放電ランプ10内が混在状態D2の際に、放電ランプ10に供給される電流値が大きいと、放電ランプ10の寿命を縮めてしまう場合があるという問題があった。
【0093】
これに対して、本実施形態によれば、交流電力の周波数fsを共振周波数fsrに段階的に近づけていく間に、共振周波数fsrよりも高く、かつ、100kHz以上の基本周波数foを有する交流電力を供給する基本周波数期間Pfを挟んでいる。放電ランプ10に供給される電流値は、交流電力の周波数が高くなるのに従って低下するため、100kHz以上の基本周波数foとなる基本周波数期間Pfが設けられることで、放電ランプ10の点灯始動期間P1における交流電力の電流値を低減することができる。したがって、本実施形態によれば、混在状態D2におけるアーク放電ADによる放電ランプ10の損傷を低減することができ、放電ランプ10の寿命が縮められることを抑制できる。
【0094】
また、本実施形態によれば、3倍共振モードを用いており、共振周波数fsrの値は、100kHz以上となるように設定されている。これにより、駆動周波数を100kHz以上となるように設定することができる。そのため、本実施形態によれば、交流電力の周波数fsが駆動周波数に設定されている間においても、放電ランプ10へ供給される電流値の値を低減でき、放電ランプ10の損傷をより低減することができる。
【0095】
また、本実施形態によれば、点灯始動期間P1の長さt1は、放電ランプ10内がアーク放電状態D3となるのに十分な長さに設定されている。これにより、混在状態D2において、放電ランプ10に、電極加熱期間P2における電極加熱周波数fhを有する交流電力が供給されることを抑制でき、混在状態D2におけるアーク放電ADのエネルギーが増大してしまうことを抑制できる。
【0096】
また、本実施形態においては、共振周波数fsrが130kHzに設定されているため、共振周波数fsrと異なり、かつ、100kHz以上である周波数を有する基本周波数foを設定する場合において、基本周波数foを共振周波数fsrよりも低い周波数とすると、設定できる周波数の範囲が狭い。
これに対して、本実施形態によれば、基本周波数foは共振周波数fsrよりも高く設定されるため、基本周波数foとして設定できる周波数の範囲を広げることができる。
また、これにより、基本周波数foを、共振回路部73が共振状態(共振出力電圧V733が増大する状態)に至ることを抑制できる周波数に設定することが容易である。
【0097】
また、本実施形態では、交流電力の周波数fsを段階的に変化させる過程で、共振回路部73が容量性の領域で動作するので、電力変換部72が誘導性の領域で動作する場合に共振回路部73から電力変換部72に逆流する電流の発生が防止される。したがって、本実施形態によれば、この逆流電流による損失を防止することが可能になる。
【0098】
なお、本実施形態においては、下記の構成を採用することもできる。
【0099】
例えば、上述の実施形態では、電力変換部72をフルブリッジ回路により構成したが、交流電力を共振回路部73に供給することができる限度において、電力変換部72の回路形式として、ハーフブリッジ等の任意の回路形式を用いてもよい。
また、電圧検出部74および点灯検出部75の回路形式についても、上述の実施形態に限定されず、任意の回路形式を用いてもよい。
【0100】
上記説明した実施形態では、放電ランプ点灯装置70をプロジェクター1の構成要素としたが、放電ランプ点灯装置70を、プロジェクター1とは別体の装置として構成してもよい。
【0101】
また、上記説明した実施形態においては、制御部76は、共振出力電圧V733を検出することによって、周波数fsを共振周波数fsrに設定しているが、これに限られない。本実施形態においては、例えば、制御部76は、共振出力電流を検出することによって、周波数fsを共振周波数fsrに設定してもよい。
【0102】
また、上記説明した実施形態においては、制御部76は、周波数fsを駆動周波数に設定して、基本周波数foに戻す度に、放電ランプ10の点灯状態を確認する(ステップS11)ように動作するが、これに限られない。本実施形態においては、例えば、制御部76は、駆動周波数を段階的に変化させて、周波数fsを共振周波数fsrに設定した後に、放電ランプ10の点灯状態を確認するように動作してもよい。
【0103】
また、上記説明した実施形態においては、点灯始動期間P1において、駆動周波数を共振周波数fsrに向けて段階的に変化させているが、これに限られない。
本実施形態においては、例えば、駆動周波数を最初から共振周波数fsrに設定し、変化させなくてもよい。すなわち、本実施形態においては、例えば、制御部76が、点灯始動期間P1において、共振周波数fsrと基本周波数foとを交互に有する交流電力を放電ランプ10に供給するような構成としてもよい。
【実施例】
【0104】
次に、実施例について説明する。
以下の実施例においては、放電ランプとして、定格200Wの高圧水銀ランプを用いた。
【0105】
(実施例1)
本実施例においては、電極間の電流値と、交流電力の周波数との関係について計測した。
模擬負荷を60Vと設定し、放電ランプに入力する交流電力の周波数を50kHzから180kHzまでの間で変化させ、電極間に流れる電流値を計測した。計測した結果を
図8に示す。
図8において、縦軸は電流値(A)を示し、横軸は周波数(kHz)を示している。
【0106】
図8から、周波数が高くなるに従って、電流値のピーク値及び実効値が共に減少していることが分かった。また、周波数を100kHz以上とした場合においては、ピーク値が3.5A以下になり、かつ、実効値が1.0A以下となることが分かった。実効値の変化は、約1.0Aでほぼ平坦となり、これ以上周波数を大きくしても、実効値の変化はあまり見られなかった。
これにより、基本周波数を100kHz以上に設定することによって、放電ランプに流れる電流値を効果的に低減することができ、点灯始動期間において、アーク放電による放電ランプの損傷を効果的に抑制できることが確かめられた。
【0107】
また、ピーク値の変化は、約2.0Aでほぼ平坦となり、これ以上周波数を大きくしても、ピーク値の変化はあまり見られなかった。
これにより、基本周波数を、実効値とピーク値との両方がほぼ変化しなくなる(下がらなくなる)周波数145kHz以上に設定することによって、電流値のピーク値も効果的に低減でき、より放電ランプの損傷を抑制できることが確かめられた。
【0108】
(実施例2)
本実施例においては、放電ランプに入力する電力の周波数と、電力変換部の損失との関係について計測した。
実施例1と同様に、模擬負荷を60Vとし、交流電力の周波数を155kHzから180kHzまでの間で変化させ、電力変換部の損失について計測した。ここで、電力変換部の損失とは、共振回路部と電力変換部との間のスイッチングロスである。計測した結果を
図9に示す。
図9において、縦軸は電力変換部の損失(W)を示し、横軸は周波数(kHz)を示している。
図9においては、縦軸は規格化して示している。
【0109】
図9から、周波数が高くなる程、電力変換部の損失は大きくなることが分かった。また、周波数の変化に対する電力変換部の損失の変化の割合は、周波数が高くなる程、大きくなることが分かった。これにより、基本周波数を170kHz以下となるように設定することによって、電力変換部の損失を有効に抑制できることが分かった。
【0110】
(実施例3)
本実施例においては、放電ランプを点灯させる際の電流値の変化について計測した。
用いた共振回路部の共振周波数は、390kHzであり、3倍共振モードを使用した。基本周波数を155kHzとし、駆動周波数を140kHz、135kHz、130kHzと変化させた。基本周波数期間の長さを6msとし、駆動周波数期間の長さを2msとした。
【0111】
また、本実施例においては、点灯始動期間P11を1.0s、電極加熱期間P12を2.4sにそれぞれ設定し、放電ランプを定常点灯期間P13へと移行させた。
計測した結果を
図10に示す。
図10の縦軸は、電流値(A)を示し、横軸は時間(s)を示している。
図10においては、電流値の波形の頂点を結んだ包絡線を示している。
【0112】
図10から、放電ランプ内の状態が、絶縁破壊が生じていないため電流が流れていない未放電状態D10から、絶縁破壊が生じて電流値が不規則に変動するグロー放電状態D11と、グロー放電とアーク放電が混在する混在状態D12とを経て、電流値が安定したアーク放電状態D13に推移していることが分かる。
点灯始動期間P11においては、電流値がピーク値で2.0A以下、実効値で1.0A以下に抑えられていることが確認できた。これにより、基本周波数を100kHz以上とすることにより、放電ランプの損傷を低減できることが確かめられた。
【0113】
また、点灯始動期間P11においては、約0.5sで、アーク放電状態D13に移行していることが確認できた。このことから、点灯始動期間P11を少なくとも、0.5s以上に設定することで、放電ランプに与える損傷を効果的に抑制できることが確かめられた。