(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0018】
[複合材料製造方法]
図1に示す複合材料製造方法は、木材を蒸解する工程(ステップS1)と、木材をすすぐ工程(ステップS2)と、木材を乾燥する工程(ステップS3)と、木材を切断する工程(ステップS4)と、木材を積層する工程(ステップS5)と、木材に樹脂を含浸する工程(ステップS6)と、木材を圧縮した状態で樹脂を硬化させる工程(ステップS7)とを備える。
【0019】
<木材>
当該複合材料製造方法に用いられる木材としては、特に限定されないが、目的とする複合材料に要求される振動特性に応じて最適な材料が選択され、広葉樹であってもよく、針葉樹であってもよい。当該複合材料製造方法は、特定の楽器の製造に用いられている木材を原料とし、その加工性を改善するために複合材料化する場合にも適用でき、スプルース、グラナディラ等を原料の木材としてもよい。また、当該複合材料製造方法により、安価な木材を原料として高価な木材を代替できる複合材料を製造してもよい。
【0020】
原料となる木材は、蒸解の程度が一定になるように、所定の大きさに切り揃えられることが好ましい。木材の幅及び長さは、蒸解装置の大きさの制約の中で目的とする複合材料が得られる十分な大きさに定められる。
【0021】
木材の厚みの下限としては、0.3mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、木材の厚みの上限としては、10mmが好ましく、5mmがより好ましい。木材の厚みが前記下限未満であると、作業中に破損しやすく、製造効率が低下するおそれがある。また、木材の厚みが前記上限を超えると、木材の表面と中心部との蒸解の進行度合いが異なり、均質な複合材料を形成することが困難となるおそれがある。
【0022】
ただし、あえて厚みの大きい木材を使用することにより、故意に中心部の蒸解を遅らせることにより、木材表面と重心部とで蒸解の程度(蒸解後のリグニン含有量)を異ならせて、最終的に得られる複合材料の組成を変化させてもよい。例えば、木管楽器の材料とする場合、木管内部の切削性を高める一方、木管外表面の強度を高めるようにしてもよい。
【0023】
<蒸解工程>
当該複合材料製造方法では、先ず、ステップS1において、原料となる木材を蒸解して、木材における繊維の配向性を保持したまま、リグニンの一部を除去する。この蒸解は、原料となる木材をアルカリ性溶液に浸漬した状態で加熱することにより効率よく行うことができる。
【0024】
具体的には、耐アルカリ性及び耐熱性を有する容器に貯留したアルカリ性溶液中に木材を浸漬し、この容器ごと圧力蒸気釜の内部に配置することによって、アルカリ性溶液及び木材を蒸気加熱する。1つの容器中に複数の木材を浸漬してもよく、木材を出し入れするための網、籠等を用いてもよい。容器の大きさは、アルカリ廃液を少なくできるように、浸漬する木材の体積に応じて選択することが好ましい。
【0025】
アルカリ性溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液が利用できる。また、アルカリ性溶液は、アントラキノン等の助剤及びその他の添加物を含んでもよい。アルカリ性溶液の使用量は、木材を完全に浸漬できる量とする。
【0026】
木材質量に対するアルカリ添加量の水酸化ナトリウム質量換算値の下限としては、10%が好ましく、15%がより好ましい。また、前記アルカリ添加量の上限としては、45%が好ましく、40%がより好ましい。アルカリ添加量が前記下限未満であると、蒸解温度を高くしたり、蒸解時間を長くしたりする必要があるので、十分にリグニンを溶出できないおそれがある。また、アルカリ添加量が前記上限を超えると、反応が早すぎ、木材の内部まで均等に蒸解することが困難となるおそれがある。
【0027】
蒸解温度は、前記アルカリ添加量にもよるが、その下限としては、120℃が好ましく、150℃がより好ましい。また、蒸解温度の上限としては、200℃が好ましく、180℃がより好ましい。蒸解温度が前記下限未満であると、反応速度が遅く、蒸解に時間がかかるおそれがある。また、蒸解温度が前記上限を超えると、設備に大きな耐圧性が要求されるためコストが過大となる。
【0028】
蒸解時間は、前記アルカリ添加量及び前記蒸解温度に応じて定められるが、その下限としては、15分が好ましく、30分がより好ましい。また、蒸解時間の上限としては、5時間が好ましく、3時間がより好ましい。蒸解時間が前記下限未満であると、材料の表面と中心とを均等に蒸解することが困難となるおそれがある。また、蒸解時間が前記上限を超えると、製造コストが過大となるおそれがある。
【0029】
ただし、木材の表面と中心部とで蒸解の程度を異ならせる場合には、アルカリ添加量、蒸解温度及び蒸解時間は、前述の範囲と異なるものとする方が好ましい可能性がある。
【0030】
この蒸解工程においては、木材の表面から中心部に向かって木材の繊維の配向保持したままリグニンの一部を除去する。蒸解後の木材では、繊維の周囲のリグニンの量が減少しているので、繊維同士が残存するリグニン又は水素結合によって弱く結合している。このため、蒸解後の木材は、蒸解前の天然木と比較して、繊維間の距離を少しずつ変化させるような、繊維の配向方向に垂直な方向への曲げが容易となっている。また、蒸解後の木材では、繊維自体もリグニンが減少することによって剛性が低下している。このため、蒸解後の木材は、蒸解前の天然木と比較して、繊維を屈曲させる方向への曲げも容易となっている。これらの作用に鑑みて、蒸解後の木材の変形や曲げ加工の容易性の具体的な数値指標としては、蒸解後の木材のリグニン含有量を用いることができる。
【0031】
均等に蒸解された木材のリグニン含有量の下限としては、5質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。一方、蒸解後の木材のリグニン含有量の上限としては、15質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。蒸解後のリグニン含有量が前記下限未満であると、残存するリグニンが繊維同士を十分に接合できず、繊維が離解するおそれがある。また、蒸解後のリグニン含有量が前記上限を超えると、繊維間の接合強度が高すぎて、曲げ加工性が不十分となったり、後工程において樹脂を十分に含浸できないおそれがある。
【0032】
図2に、蒸解前の木材表面を拡大した写真を示す。木材の繊維は、木の幹や枝に沿って水や栄養が流れる道管を形成している。これらの繊維は、繊維のセルロースを主成分とし、短繊維のヘミセルロース及び樹脂であるリグニンが結合して構成されている。なお、
図2の木材は、スプルースであり、各道管には、針葉樹特有の壁孔(繊維を横断する方向に水や栄養を流すための孔)が開口している。また、隣接し合う繊維(道管)同士はリグニンによって接合されており、その結合力は非常に強い。このため、天然の木材が繊維に沿って割れる場合、リグニンによって接合されている道管同士が分離するのではなく、道管が引き裂かれて繊維方向に沿って2分される。
【0033】
さらに、
図3に、蒸解後の木材表面を拡大した写真を示す。リグニンが溶出することにより、道管間の接合が弱くなり、
図3においても、部分的には導管間に隙間が生じている。蒸解後の木材では、残存するリグニンに加えて繊維間の水素結合によっても繊維の配向性が保持される。この蒸解後の木材に大きな力を加えると、残存するリグニン又は水素結合により接合された繊維同士が分離されるので、
図4の写真のように道管を分解することができる。なお、
図4では分かりやすいように繊維をばらばらに分解しているが、適度な曲げ応力を加えると、繊維の配列を概略保持したまま、繊維間に僅かなずれを生じさせて木材を曲げ変形させられる。
【0034】
<すすぎ工程>
当該複合材料製造方法では、続いて、ステップS2において、蒸解した木材をすすいでアルカリ性溶液を洗い流す。具体的には、木材を浸漬した容器からアルカリ性溶液を排出して、代わりに清浄水を注ぎ入れ、しばらく放置してから排水する工程を繰り返す。蒸解後のアルカリ性溶液は黒色であるため、新たに注ぎ入れた水の色が変化しない程度までこの工程を繰り返す。pHを測定して、アルカリの残量を確認してもよい。
【0035】
<乾燥工程>
次に、ステップS3において、蒸解後すすぎ終わった木材を乾燥させる。この乾燥は、時間短縮のために高温環境下において行ってもよい。その場合、急激な乾燥により木材に割れや変形が生じないように、複数の木材を重ねて押圧した状態で乾燥するとよい。
【0036】
<切断工程>
ステップS4では、乾燥した木材を、最終的に得ようとする複合材料の長さ及び幅に合わせて切り揃える。前記蒸解工程、すすぎ工程及び乾燥工程を経た木材は、当初の大きさよりもやや小さく収縮しており、特に厚み方向には乾燥時に大きく圧縮され得る。また、その収縮率は原料のばらつきにより一定ではないため、このステップS4において、改めて木材を所定の大きさに切り揃える。
【0037】
<積層工程>
ステップS5では、切り揃えた薄板状の木材を積層することにより、得ようとする複合材料に必要な厚みを形成する。ただし、後述する圧縮及び樹脂硬化工程における圧縮率を考慮した厚みとする。このとき、木材の繊維の向きを揃えて積層することによって、天然木に近い振動特性を有する複合材料を形成できる。また、必要に応じて、木材の繊維の向きを変えて積層することにより、天然木にはない振動特性を付与することもできる。また、木材に樹脂を含浸させる前に積層することで、木材と木材との間に空気の層を残さないようにできる。
【0038】
<樹脂含浸工程>
ステップS6では、積層した木材に樹脂を含浸させる。これらの木材は、ステップS1でリグニンが除去されることにより隙間が形成されているため、道管や繊維の隙間に樹脂が含浸しやすい。特に、木材全体のリグニンが均等かつ十分に除去されていれば、木材全体に均等に樹脂を含浸させられる。含浸する樹脂は、含浸時に低粘度であり、硬化が容易であることが好ましい。このため、含浸する樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、低粘度のエポキシ樹脂やポリエステル樹脂が好適である。また、この含浸工程は、減圧しながら行うことにより、木材内の空気を排出して木材の内部に樹脂を浸透させることが好ましい。また、木材の積層体に合わせた形状の容器を使用して樹脂を含浸すれば樹脂の使用量を低減できる。
【0039】
<圧縮及び樹脂硬化工程>
ステップS7では、樹脂を含浸した木材の積層体を積層方向に圧縮した状態で樹脂を硬化させる。ここで木材を圧縮することにより、過剰な樹脂を排出して木材同士を密着させると共に、天然木よりも繊維の密度(単位断面積あたりの本数)を大きくすることによって、繊維の配向による振動特性を顕著に発現させられる。このとき、木材から樹脂が滲出するので、滲出した樹脂によって、木材の積層体と木材を圧縮するための治具とが接着されたり、隣接して圧縮されている木材の積層体同士が互いに接着されないよう、木材の積層体をそれぞれ離形フィルムで覆うとよい。
【0040】
この圧縮及び樹脂硬化工程における木材の体積圧縮率、つまりステップS5で積層した木材の体積に対する圧縮前後の木材の体積の比率の下限としては、30%が好ましく、50%がより好ましく、70%がさらに好ましい。一方、木材の体積圧縮率の上限としては、90%が好ましく、85%がより好ましい。木材の体積圧縮率が前記下限未満であると、複合材料における繊維の密度が低くなり、天然木のように十分な異方性のある振動特性を実現できないおそれがある。また、木材の体積圧縮率が前記上限を超えると、複合材料における繊維の密度が高すぎて、やはり天然木と異なる振動特性となるおそれがある。
【0041】
なお、これらの木材は、ステップS1でリグニンが除去されて各繊維の強度及び繊維間の接合強度が弱められているため、この圧縮及び樹脂硬化工程において残留応力を生じる成型歪み(残留歪み)の生成が抑制される。
【0042】
さらに、最終的に得られる複合材料における木材の含有量の下限としては、30質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。一方、複合材料における木材の含有量の上限としては、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。木材の含有量が前記下限未満であると、天然木のように十分な異方性のある振動特性が得られないおそれがある。また、木材の含有量が前記上限を超えると、樹脂が不足して木材中の繊維を十分に結合できないことにより強度が不足するおそれがある。
【0043】
また、このステップS7では、前記のように木材を圧縮した状態で樹脂を硬化させる。樹脂の硬化方法は、樹脂の種類に応じて定められるが、熱硬化性樹脂を用いた場合には加熱することで行われる。加熱温度及び加熱時間は、樹脂の種類、利用可能な設備、製造する複合材料の大きさ等に応じて適宜定められる。
【0044】
[複合材料]
図1の製造方法により製造される当該複合材料は、リグニンの一部が除去され、かつ繊維の配向性を保持している木材と、この木材に含浸した樹脂とを備える。また、当該複合材料の好ましいが必須ではない構成は、前述の製造方法の説明から自明である。
【0045】
<スピーカー用振動板>
当該複合材料製造方法により製造した当該複合材料の一実施形態は、そのままスピーカー用振動板として好適に使用できる。このスピーカー用振動板は、前記切断工程において、
図5に示すように、円錐台面を展開した形状に木材10を切断し、前記樹脂含浸工程において樹脂を含浸した後、前記圧縮及び樹脂硬化工程において、円錐台状の合わせ型の間に配置して圧縮した状態で加熱して樹脂を硬化させることにより、円錐台状に形成される。このスピーカー用振動板は、複数の木材10を積層することなく製造される。また。このスピーカー用振動板において、木材10の張り合わせ部11は、木材10に含浸させた樹脂によって互いに接合される。また、この木材10の繊維12は、図示するような向きに配向されている。
【0046】
また、
図6に示すように、扇形に切断した2枚の木材20の両端の張り合わせ部21を互いに接合することで1つのスピーカー用振動板を形成してもよい。また、
図6の楕円扇形の木材20を使用すると、楕円形のスピーカー用振動板が形成される。この木材20は、図示するように、その繊維22の向きが長径方向に配向されている。つまり、この木材20を張り合わせて形成されるスピーカー用振動板は、短径方向と長径方向とで振動伝達特性が異なる。
【0047】
スピーカー用振動板を形成する木材の枚数及び繊維の向きは任意に選択できる。また、2枚以上の木材を積層し、積層した木材に含浸した樹脂を硬化することによって1枚のスピーカー用振動板を形成してもよい。また、スピーカー用振動板は軽いことが望ましい。そのため木材に含浸する樹脂に水性エマルジョンを含ませてもよい。水性エマルジョンを使用すれば、ステップS7の圧縮及び樹脂硬化工程において、積層した木材に含浸された水性エマルジョンの水分が蒸発してそこに空孔が形成される。それによって樹脂含浸がされながら軽いスピーカー用振動板を得ることができる。
【0048】
<筒状材料>
さらに、2つ割り円筒状の外型と、円柱状のコアとを有する金型セットを用いて、円柱状のコアに樹脂を含浸した木材を巻き付け、外型で圧縮した状態で樹脂を硬化すれば、筒状の複合材料を形成することも可能である。この場合は、繊維の配向方向に垂直な方向に木材を湾曲させること、つまり得られる筒状の複合材料成形体においてその中心軸と平行に木材の繊維が配向されていることが好ましい。
【0049】
<利点>
当該複合材料製造方法により製造される当該複合材料は、木材特有の配向性を有する繊維を含み、かつそれらの繊維が樹脂で接合されている。この樹脂の働きにより、当該複合材料は、天然木のように繊維に沿って容易に割れることがないので、加工性に優れる。また当該複合材料は、配向性を有する繊維を備えるので、天然木とよく似た振動特性を有し得る。このため、当該複合材料は、音響機器に使用されている天然木を代替する音響材として利用でき、安価で均質な音響機器の提供を可能にする。また、当該複合材料製造方法では、蒸解の程度、樹脂の含浸量、木材の圧縮率等により、加工性及び振動特性を調整できるので、原料木のばらつきを補償し、品質が一定な複合材料として提供できる。
【0050】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前述の実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0051】
当該複合材料製造方法において、厚さの大きいブロック状の木材を積層せずに使用してもよい。この場合、ブロック状の木材の表面は蒸解されるが、内部は無垢の木材となる。詳しくは、ブロック状の木材を用いた複合材料は、外表面においてリグニン含有が小さく、内側に向かってリグニン含有量が増大するように蒸解される。このように蒸解した木材に樹脂を含浸すると、外表面において樹脂の含浸量が多く、内側では樹脂の含浸量が少なくなる。条件によっては、複合材料の中心部には樹脂が含浸しない。このようにリグニン及び樹脂の含有量が一定でないものも、本願発明の権利範囲に含まれる。
【0052】
木材の表面のみを蒸解する場合、蒸解された木材表面のリグニン含有量が、上述の薄板状の木材全体を蒸解する場合における好ましいリグニン含有量と同じ範囲内になるようにするとよい。具体的には、蒸解後の木材表面におけるリグニン含有量の下限としては、5質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。一方、蒸解後の木材表面のリグニン含有量の上限としては、15質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。また、木材の表面全体が均等なリグニン含有量を有するよう、表面を均等に蒸解することが好ましい。
【0053】
なお、ブロック状の木材とは全体が蒸解されない程度に厚いものを意味し、球状、円錐状、円柱、角柱等のものを含む。このような形状の木材を使用する場合には、ステップS7の圧縮及び樹脂硬化工程において、金型等を用いて樹脂を含浸した木材を圧縮することよって、不要な樹脂を滲出させて繊維密度を大きくできる。このように木材の少なくとも表面においてリグニンを除去して樹脂含浸をすることによって、音響効果に優れた表面特性と木材そのものの特性を兼ね備えた音響材を得ることができる。具体的にはピアノの響板、ギターの響板、スピーカー用振動板、スピーカーの筐体などが考えられる。また、樹脂含浸した表面は木目が美しく見えるため、家具や内装向けの意匠材としても用いることができる。
【0054】
このように、木材の表面のリグニンを除去して形成した複合材料は、リグニンが除去されなかった中心部をくり抜いて木管楽器等を製造するために好適に利用できる。このように、木材の表層のみを蒸解処理して樹脂を含浸することで、内部には原料木の性質をそのまま残し、音響効果に特に影響が大きい表面部の振動特性を改善した複合材料を形成できる。また、このように表面が樹脂で補強されている複合材料は、内部をくり抜く際の割れを抑制することもできる。また、このように木材の表面のみに樹脂を含浸することによって樹脂の使用量を少なくできるので、振動特性に優れると共に加工性が高い複合材料を安価に提供できる。
【0055】
また、当該複合材料製造方法では、内部まで均等にリグニンが除去された1枚の薄板状の木材を積層せずに使用して、均等に樹脂が含浸した板状又はシート状の複合材料を製造することもできる。
【0056】
また、当該複合材料製造方法において、樹脂含浸工程と積層工程との順番を入れ替えてもよい。つまり、各板材に個別に樹脂を含浸してから、樹脂を含浸した板材を積層し、この積層体を圧縮した状態で含浸した樹脂を硬化させてもよい。
【0057】
また、当該複合材料製造方法の圧縮及び樹脂硬化工程において、所望の形状を有する合わせ型により木材を圧縮することにより、木材を所望の形状に変形させてもよい。これにより、所望の形状の複合材料を製造できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0059】
[実施例1]
図1の製造方法に従って、
図7に示す実施例1の複合材料を製造した。この角柱状の複合材料の詳細な製造条件を以下に説明する
【0060】
<木材>
図7の複合材料の原料として使用した木材は、スプルースからなり、長さ232mm×幅42mm×厚さ2mmの薄板状に切り揃えられた複数の木材である。
【0061】
<蒸解工程>
蒸解に使用したアルカリ性溶液は、総質量227.5gの前記複数の原料木材を浸漬するために必要な1150gの水に、原料木材の質量の35%に相当する79.6gの水酸化ナトリウムと、原料木材の質量の0.12%に相当する0.273gのアントラキノンとを溶解したものである。
【0062】
蒸解は、蒸気釜を使用して行い、蒸解温度を170℃、蒸解時間(蒸解温度を保持する時間)を1時間とした。なお、昇温に要した時間は5分、冷却に要した時間は3分であった。
【0063】
<すすぎ工程>
蒸解した木材は、約2時間の浸漬と水の交換とを8回繰り返すことにより、浸漬した水の色が変わらない程度にアルカリ性溶液が取り除かれた。
【0064】
<乾燥工程>
よくすすいで脱アルカリされた木材は、割れや反りを防止するために、複数を積層してプレスした状態で、約120℃の乾燥室内に放置して十分に乾燥した。乾燥後の木材は、厚さが1mmから1.2mmに圧縮されていた。
【0065】
<切断工程>
乾燥した前記木材を、長さ110mm×幅35mmに切り揃えた。
【0066】
<積層工程>
乾燥された前記木材を30枚積層した。この積層体の積層方向の高さは35mmであり、その総重量は、62.9gであった。
【0067】
<樹脂含浸工程>
【0068】
前記木材の積層体をポリエチレン製の袋の中に入れ、そこに前記エポキシ樹脂を注ぎ入れた。これを真空乾燥機の中に配置し、60℃で1時間減圧することにより、木材を脱気して樹脂を含浸させた。
【0069】
使用したエポキシ樹脂は、ハンツマン・アドバンスド・マテリアル社製の「アラルダイトLY1564(商標)」を主剤とし、株式会社T&K TOKA社製の「フジキュアー7000(商標)」を硬化剤とし、主剤100質量部に対して助剤1.5質量部を混合したものである。
【0070】
<圧縮及び樹脂硬化工程>
樹脂を含浸した木材の積層体を、離形フィルムで包み、アルミ板で挟み込んで万力により積層方向に圧縮した。30枚の木材の積層体は、高さ28.3mmまで圧縮され、その体積圧縮率は約81%であった。
【0071】
このように万力で圧縮した状態の木材の積層体をオーブンに入れ、120℃で16時間、さらに180℃で1.5時間加熱することにより、木材に含浸しているエポキシ樹脂を硬化させた。
【0072】
このようにして製造された
図7の複合材料は、長さ(図示した向きにおける横方向の長さ)110mm×幅(図示した向きにおける上面の奥行)35mm×高さ(図示した向きにおける上下高さ)28.3mmである。この複合材料は、高さ方向に30枚の木材が積層されて形成されている。
【0073】
この角柱状の複合材料の質量は、146.5gであり、樹脂を含浸する前の木材の質量の比として算出される複合材料中の木材の比率は43%であった。
【0074】
図8は、
図7の角柱状の複合材料の端部を長さ方向に垂直に切断した切断面を示す。図では、上下方向に木材が積層さている。原料の木材の各層内にはそれぞれ年輪が確認でき、切断面に見える板材の積層方向に対して傾斜した線は鋸による切断跡である。
【0075】
この切断により、実施例1の複合材料は、木材と同様の切削性を有すること、及び容易に割れが生じないことが確認できた。
【0076】
[実施例2]
また、
図1の製造方法に従って、
図8に示す実施例2の複合材料を製造した。この板状の複合材料は、
図7の角柱状の複合材料の大きさ及び積層枚数が異なるだけであり、他は同じ条件で製造された。ただし、木材の積層枚数の差、原料のばらつき等により、
図9の板状の複合材料は、寸法以外にも
図7の角柱状の複合材料と僅かに差異がある。以下に、
図9の板状の複合材料と
図7の角柱状の複合材料との差異点のみを説明し、重複する説明は省略する。
【0077】
図9の板状の複合材料は、長さ約230mm×幅約35mm×高さ(厚さ)6mmであり、重量74.7gである。このため、切断工程では木材を長さ230mm×幅35mmに切り揃えた。また、
図9の板状の複合材料は木材を7枚積層したものであり、樹脂を含浸する前の木材の積層体は、高さが8mmで、総重量が30.7gであった。従って、
図9の板状の複合材料の製造における体積圧縮率は75%であり、
図9の板状の複合材料における木材の含有量は41質量%であった。
【0078】
そして、
図9の板状の複合材料については、
図10に示すタッピング試験装置を用いてその振動特性を確認した。このタッピング試験装置は、板状の複合材料の一端(図では右端)をハンマーにより打撃し、その振動をモニタリングすることで、振動の伝達を確認するものである。このタッピング試験装置を用いた測定したデータをモード解析することにより、板材中の音速、損失係数(tanδ)等が導出されるが、振動現象のモード解析は公知の手法であるため、その詳細な手順の説明は省略する。特定用途の音響材としての適性は、特に、1次振動モードでの損失係数(tanδ)が所定の範囲に入っているか否かによって判別できる。
【0079】
図9の板状の複合材料は、グラナディラの代替材料として試作されたものである。グラナディラの1次振動モードでの代表的な損失係数は、7×10
−3であり、試作した複合材料はこの値を目標値とする。
図9の板状の複合材料及び
図9の複合材料と共に同一条件で製造した別の複合材料の1次振動モードでの損失係数は、7.5×10
−3及び8×10
−3であった。複合材料の1次振動モードでの損失係数は、目標値との差が±2×10
−3であれば許容範囲とされる。従って、これらの複合材料の実施例は、十分にグラナディラの代替材料として使用可能である。