(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244827
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】中空断面形状の自動車用構造部材
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20171204BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
B62D25/04 B
B62D25/20 F
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-230147(P2013-230147)
(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公開番号】特開2015-89721(P2015-89721A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰則
(72)【発明者】
【氏名】小川 寛和
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−120758(JP,A)
【文献】
特開2009−286351(JP,A)
【文献】
特開2002−160020(JP,A)
【文献】
特開2011−038120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度鋼板からなる自動車用構造部材であって、衝突時に引張応力が発生する側面、衝突時に圧縮応力が発生する側面と、それらに挟まれた中間部材からなり、衝突時に引張応力が発生する側面をTRIP鋼板で構成し、衝突時に圧縮応力が発生する側面及び前記中間部材をDP鋼板で構成したことを特徴とする中空断面形状の自動車用構造部材。
【請求項2】
DP鋼板の引張強度が900MPa以上および/またはTRIP鋼板の引張強度が900MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の中空断面形状の自動車用構造部材。
【請求項3】
TRIP鋼板とDP鋼板とを結合した中空断面構造を有することを特徴とする請求項1または2記載の中空断面形状の自動車用構造部材。
【請求項4】
請求項3記載の自動車用構造部材であって、TRIP鋼板とDP鋼板の何れか一方または両方がハット型断面の成形品であることを特徴とする中空断面形状の自動車用構造部材。
【請求項5】
高強度鋼板からなる自動車用センターピラー構造部材であって、センターピラーインナー、センターピラーアウターと、それらに挟まれたセンターピラーリンフォースからなり、センターピラーインナーをTRIP鋼板で構成し、センターピラーアウター及びセンターピラーリンフォースをDP鋼板で構成したことを特徴とする中空断面形状の自動車用センターピラー構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
中空断面形状の自動車用構造部材に関するものであり、特にTRIP鋼板を用いた
中空断面形状の自動車用構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の自動車においては、衝突安全性・乗員保護の観点から車体の高強度化が求められており、またこれと同時に経済性・環境的配慮の観点から、車体の軽量化が求められている。そしてこれらの要求を実現するために、ハイテンと呼ばれる高強度鋼板の採用が進められてきた。
【0003】
従来の自動車用の高強度鋼板としては、特許文献1に示されるように、主としてDP鋼(複合組織鋼)が用いられてきた。DP鋼は軟質のフェライト組織と硬質のマルテンサイト組織とを鋼板中に分散させた鋼であり、延性と強度とを両立させた鋼材として広く実用化されている。しかしその実用的引張強度は概ね600MPa未満のものが多く、最近ではさらに高強度の超ハイテンと呼ばれる900MPa以上のDP鋼板を用いることにより、一層の軽量化が試みられている。
【0004】
ところがこのような超ハイテン鋼板は、従来用いられてきた実用的引張強度600MPa未満のDP鋼板よりもさらに伸びが少ないため、車両衝突時に大変形、特に引張変形が発生した場合には、伸びがほとんどないまま亀裂が入った後に破断に至ることが懸念され、自動車用構造部材として使い難いという問題があった。そこで超ハイテン鋼板を自動車用構造部材に使用する場合には、周囲に軟質で低強度の鋼板を配置してこれを変形させ、超ハイテン鋼板をなるべく変形させないようにする工夫もなされてきたが、これは自動車用構造部材の厚肉化を招くため、軽量化と相反する結果となっていた。
【0005】
なお、900MPa以上の超ハイテン鋼板として、TRIP鋼板も開発されている。これは
図1に示すようにプレス成形前には降伏応力が低く伸びが大きいため加工性が良好であり、しかも成形後に加工硬化して高強度を達成する特徴を持つ。しかしこれを自動車用構造部材に用いる場合には、ビード部や稜線に代表される局所プレス加工部において加工硬化が起こっているため、車両衝突時には従来の超ハイテン鋼板(900MPa以上のDP鋼板)と同様に加工硬化部を起点とした亀裂や破断が発生し易いという問題があった。
【0006】
また、車両衝突時のような複雑な変形進行状態によっては、一時的な変形をした後に二次的変形が発生する場合があり、この場合にもTRIP鋼板は破断が発生し易いという問題があった。衝突時に破断が発生した場合、十分な衝突エネルギー吸収を発揮することが出来ない場合が有り、また衝突エネルギーを吸収し得たとしてもロバスト性の観点から変形が不安定になる可能性があり好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−218066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、900MPa以上の超ハイテン鋼板を使用することによる軽量化が可能であり、しかも車両衝突時における亀裂や破断の発生を抑制した
中空断面形状の自動車用構造部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明者等は検討を重ねた結果、TRIP鋼板が持つプレス成形前には降伏応力が低く伸びが大きいという特性を、構造および材料の最適配置を考慮することで、TRIP鋼板のデメリットを回避しつつ、衝突時における変形性能へ活用できるのではないかとの着想に至った。すなわち、この特性はこれまでは専ら成形性の観点から利用されていたのであるが、この特性を構造および材料の最適配置を考慮して衝突時の変形吸収に活用すれば、従来にない高強度の
中空断面形状の自動車用構造部材が得られることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、高強度鋼板からなる自動車用構造部材であって、衝突時に引張応力が発生する側面、衝突時に圧縮応力が発生する側面と、それらに挟まれた中間部材からなり、衝突時に引張応力が発生する側面をTRIP鋼板で構成し、衝突時に圧縮応力が発生する側面及び前記中間部材をDP鋼板で構成したことを特徴とする
中空断面形状の自動車用構造部材である。
【0011】
なお請求項2のように、DP鋼板の引張強度が900MPa以上および/またはTRIP鋼板の引張強度が900MPa以上であることが好ましい。また請求項3のように、TRIP鋼板とDP鋼板とを結合した中空断面構造を有する自動車用構造部材とすることが好ましく、請求項4のように、TRIP鋼板とDP鋼板の何れか一方または両方がハット型断面の成形品であることが好ましい。さらに本発明は請求項5のように、センターピラーインナー、センターピラーアウターと、それらに挟まれたセンターピラーリンフォースからなり、センターピラーインナーをTRIP鋼板で構成し、センターピラーアウター及びセンターピラーリンフォースをDP鋼板で構成したことを特徴とする
中空断面形状の自動車用センターピラー構造部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の
中空断面形状の自動車用構造部材は、衝突時に引張応力が発生する側面をTRIP鋼板で構成したものであるから、TRIP鋼板の伸びが大きいという特性を生かすことができ、従来は使用できなかった箇所への高強度鋼板の使用が可能となった。また衝突時に引張応力が発生する側面の反対面には圧縮応力が発生することが多いが、この部分には圧縮特性に優れたDP鋼板を採用したため、全体として高強度で軽量であり、しかも車両衝突時における亀裂や破断の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の実施形態のひとつで、TRIP鋼板とDP鋼板の両方がハット型断面の成形品で構成された自動車用構造部材を示す模式図である。
【
図3】本発明の自動車用構造部材の使用可能位置を示す説明図である。
【
図4】本発明をBピラーに適用した場合の、破断判定を含んだ荷重と変位の関係を示すグラフおよび状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図2は本発明の実施形態の自動車用構造部材を示す模式図であり、ハット型断面に加工された2枚の鋼板1,2がフランジ部3で接合され、中空断面形状の自動車用構造部材を構成している。鋼板1はTRIP鋼板であり、鋼板2はDP鋼板である。
【0015】
TRIP鋼板は衝突時に引張応力が発生する側面、すなわち車体内側となる側面として配置されるものであり、DP鋼板は衝突時に圧縮応力が発生する側面、すなわち車体外側となる側面として配置されるものである。これらTRIP鋼板、DP鋼板は900MPa以上の引張強度を持つものであることが好ましい。
【0016】
前記したようにDP鋼板は軟質のフェライト組織と硬質のマルテンサイト組織とを鋼板中に分散させた鋼であり、強度が600MPa未満のDP鋼板は
図1に示したように伸びが大きい。しかし900MPa以上のDP鋼板は延びが小さく、引張り側に用いると破断のおそれがある。しかし圧縮側に使用すれば破断のおそれがなく、高強度の特性を十分に発揮することができる。
【0017】
一方、TRIP鋼板は
図1に示すように破断に至るまでの伸びが大きいので、特に引張強度が900MPa以上である場合に引張り側に使用すれば破断しにくく、しかも高強度の特性を十分に発揮することができる。なお、この特性を生かすためにTRIP鋼板1は成形段階においてできるだけ局所プレス加工を回避し、加工硬化を抑制しておく必要がある。また、一次的変形による局所硬化の発生後に、二次的変形による破断が生じないようにするため、二次的変形が起こらない部位に使用することが好ましい。さらに、伸び変形が予測される引張り方向と垂直な方向への局所的加工部、例えば折れビード等を設けることは、加工硬化を避けるために好ましくない。
【0018】
このように、本発明の自動車用構造部材は衝突時に引張応力が発生する側面を引張強度がTRIP鋼板1(好ましくは引張強度が900MPa以上)で構成し、その反対側をDP鋼板(必要に応じ好ましくは引張強度が900MPa以上)で構成したので、表裏両面ともに超ハイテン鋼板製とすることができ、軽量化を図ることができる。しかもTRIP鋼板の伸びが大きいという特性を生かすことができ、車両衝突時における亀裂や破断の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の自動車用構造部材は、車両側面衝突に対しては、センターピラー(Bピラー)インナー、サイドシルインナー等に使用することができる。また車両前面衝突に対しては、ダッシュクロスメンバー、ダッシュロア、フロントバンパーリンフォース等に使用することができる。また車両後面衝突に対して、リアエンドクロスメンバーインナー、リアバンパーリンフォース等に使用することができる。これらの使用部位を
図3に示した。
図3には破線で囲って示したように、センターピラーインナーをTRIP鋼板で構成し、センターピラーアウター及びセンターピラーリンフォースをDP鋼板で構成した自動車用センターピラー構造部材が示されている。なお、使用部位によって衝突時に引張応力が発生する側面であるか、圧縮応力が発生する側面であるかはほとんどの場合、予測可能である。
【0020】
上記した
図2の実施形態では、強度を確保するためTRIP鋼板とDP鋼板の両方がハット型断面に加工された2枚の鋼板1,2を接合した中空断面構造としたが、断面形状は必ずしもこの実施形態に限定されるものではなく、例えば一方が板状であったり、一方もしくは両方の断面が半円形状の2枚の鋼板1,2を接合しても差し支えない。またその断面形状を自動車用構造部材の長手方向に連続的に、あるいは非連続的に変化させることもできる。さらに各種の取付け部材を、溶接その他の方法により接合一体化したり、穴開け加工等もできることはいうまでもない。
【0021】
図4に本発明をBピラーに適用した場合の、破断判定を含んだ荷重と変位の関係を示す。引張応力が発生するインナー側にTRIP鋼板を配置した場合は破断が発生しなかったが、インナー側にDP鋼板を配置した場合は破断が発生している。
【0022】
以上に説明したように、本発明の
中空断面形状の自動車用構造部材は、性質の異なる2種類の高強度鋼板を組み合わせることによって、軽量化が可能であり、しかも車両衝突時における亀裂や破断の発生を抑制することができる利点がある。
【符号の説明】
【0023】
1 鋼板(TRIP鋼板)
2 鋼板(DP鋼板)
3 フランジ部