特許第6244860号(P6244860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244860
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】ブローチカッタ
(51)【国際特許分類】
   B23F 21/26 20060101AFI20171204BHJP
   B23D 43/02 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B23F21/26
   B23D43/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-248270(P2013-248270)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-104779(P2015-104779A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邊 学
(72)【発明者】
【氏名】山谷 研一
【審査官】 青山 純
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−166721(JP,U)
【文献】 特表2004−507374(JP,A)
【文献】 特開昭61−214914(JP,A)
【文献】 特開昭63−216619(JP,A)
【文献】 実公昭43−10153(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 21/26
B23D 43/02
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並ぶ複数の切刃段によって、ワークの加工穴を順次切削するためのブローチカッタであって、
上記各切刃段は、上記加工穴に内歯を形成するための、周方向に並ぶ複数の切刃を有しており、
上記複数の切刃段よりも切削方向の上流側には、上記ワークの加工穴の中心を上記ブローチカッタの中心に案内するための案内部が形成されており、
上記複数の切刃段のうち上記案内部の上記切削方向の下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段における上記切刃の外周面は、すくい面と交差する位置において上記案内部の半径よりも大きな半径を有する逃げ面と、該逃げ面の上記切削方向の下流側に隣接して上記案内部の半径と略同一の半径で形成された平行案内面とを有していることを特徴とするブローチカッタ。
【請求項2】
軸方向に並ぶ複数の切刃段によって、ワークの加工穴を順次切削するためのブローチカッタであって、
上記複数の切刃段よりも切削方向の上流側には、上記ワークの加工穴の中心を上記ブローチカッタの中心に案内するための案内部が形成されており、
上記複数の切刃段のうち上記案内部の上記切削方向の下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段の外周面は、すくい面と交差する位置において上記案内部の半径よりも大きな半径を有する逃げ面と、該逃げ面の上記切削方向の下流側に隣接して上記案内部の半径と略同一の半径で形成された平行案内面とを有しており、
上記複数の初期切刃段の上記逃げ面の逃げ角は同じであり、
上記複数の初期切刃段の上記逃げ面と上記すくい面とが交差する位置の半径は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大きく、かつ、上記複数の初期切刃段の上記軸方向のランド幅における、上記逃げ面の上記軸方向の幅の割合は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大きいことを特徴とするブローチカッタ。
【請求項3】
上記各切刃段は、上記加工穴に内歯を形成するための、周方向に並ぶ複数の切刃を有しており、
上記逃げ面及び上記平行案内面は、上記各初期切刃段における上記切刃の外周面に形成されていることを特徴とする請求項に記載のブローチカッタ。
【請求項4】
上記初期切刃段は、上記案内部に隣接して、上記切削方向の最上流側の1段目から5段目までの間に位置する、連続する少なくとも2段以上の上記切刃段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のブローチカッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの加工穴を切削するためのブローチカッタに関する。
【背景技術】
【0002】
ブローチカッタは、軸方向に並ぶ複数の切刃段によって、ワークの加工穴を順次切削して、この加工穴に内歯等を形成する。ブローチカッタは、荒切削をする複数の切刃段と、仕上げ切削をする複数の切刃段とが、切削方向に順次並ぶ状態で形成されている。荒切削においては、切刃段がワークの加工穴の径方向に順次切り込み、仕上げ切削においては、切刃段が周方向に順次切り込む。また、各切刃段の外周側に位置する逃げ面には、切削方向の上流側に位置するすくい面から、切削方向の下流側に行くほど半径が小さくなる逃げ角が形成されている。また、荒切削をする切刃段よりも切削方向の上流側には、ブローチカッタの中心とワークと中心とを合わせるための案内部が形成されている。
【0003】
例えば、特許文献1のブローチ加工工具においては、工具送り方向に沿って配列された複数の切れ刃の逃げ面に、この切れ刃に加わる切削抵抗の背分力を支持する隆起部が形成されている。特許文献1においては、隆起部の形成により、切削加工中に、被加工物の振動、回転、移動等を抑制することができ、安定した状態で切削加工ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−214574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のブローチカッタにおいて、ワークの加工穴の切削が繰り返し行われ、かつ各切刃段のすくい面の再研削が繰り返し行われたときには、各切刃段の軸方向のランド幅が小さくなる。このとき、各切刃段の刃先の半径(すくい面が逃げ面と交差する位置の半径)は、逃げ面の軸方向の幅が小さくなるほど小さくなる。そして、案内部の切削方向の下流側に隣接する初期切刃段の刃先の半径が、案内部の半径よりも小さくなったときには、ワークの加工穴と初期切刃段の刃先との間に隙間が生じる。このとき、ワークの加工穴に対してブローチカッタが隙間の範囲内で位置ずれし、ワークの加工穴の中心に対するブローチカッタの中心が偏心するおそれがある。特に、ワークの軸方向幅が小さい場合等には、ワークの加工穴を同時に切削する切刃段の数が少なくなり、上記偏心の発生が顕著となる。
【0006】
また、特許文献1における各切れ刃の逃げ面における隆起部は、各切れ刃に加わる切削抵抗の背分力を支持するものである。そして、各隆起部は、各切れ刃によってワークを切削するときに、各切れ刃と同時にワークに接触するものである。そのため、特許文献1によっては、上記ワークの加工穴と初期切刃段の刃先との間に隙間が生じたときの、ブローチカッタの中心とワークの加工穴の中心との偏心を抑制することはできない。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたもので、初期切刃段が繰り返し再研削された後においても、ワークが初期切刃段の外周を通過する際における、ブローチカッタの中心とワークの加工穴の中心とがほとんど偏心しないようにすることができるブローチカッタを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、軸方向に並ぶ複数の切刃段によって、ワークの加工穴を順次切削するためのブローチカッタであって、
上記各切刃段は、上記加工穴に内歯を形成するための、周方向に並ぶ複数の切刃を有しており、
上記複数の切刃段よりも切削方向の上流側には、上記ワークの加工穴の中心を上記ブローチカッタの中心に案内するための案内部が形成されており、
上記複数の切刃段のうち上記案内部の上記切削方向の下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段における上記切刃の外周面は、すくい面と交差する位置において上記案内部の半径よりも大きな半径を有する逃げ面と、該逃げ面の上記切削方向の下流側に隣接して上記案内部の半径と略同一の半径で形成された平行案内面とを有していることを特徴とするブローチカッタにある。
本発明の他の態様は、軸方向に並ぶ複数の切刃段によって、ワークの加工穴を順次切削するためのブローチカッタであって、
上記複数の切刃段よりも切削方向の上流側には、上記ワークの加工穴の中心を上記ブローチカッタの中心に案内するための案内部が形成されており、
上記複数の切刃段のうち上記案内部の上記切削方向の下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段の外周面は、すくい面と交差する位置において上記案内部の半径よりも大きな半径を有する逃げ面と、該逃げ面の上記切削方向の下流側に隣接して上記案内部の半径と略同一の半径で形成された平行案内面とを有しており、
上記複数の初期切刃段の上記逃げ面の逃げ角は同じであり、
上記複数の初期切刃段の上記逃げ面と上記すくい面とが交差する位置の半径は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大きく、かつ、上記複数の初期切刃段の上記軸方向のランド幅における、上記逃げ面の上記軸方向の幅の割合は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大きいことを特徴とするブローチカッタにある。
【発明の効果】
【0009】
上記ブローチカッタにおいては、案内部の切削方向の下流側に隣接する複数の初期切刃段の外周面の形状に工夫をしている。初期切刃段の外周面は、逃げ面の切削方向の下流側において、案内部の半径と略同一の半径で形成された平行案内面を有している。
初期切刃段は、逃げ面が形成されている状態においては、ワークの加工穴を切削する。このとき、ブローチカッタにおける案内部と、初期切刃段の刃先とがワークの加工穴に接触し、ワークが初期切刃段の外周を通過する際における、ブローチカッタの中心とワークの加工穴の中心との偏心が抑制される。
【0010】
一方、ブローチカッタによるワークの加工穴の切削が繰り返し行われ、すくい面が研削盤によって再研削されると、初期切刃段の逃げ面の形成部位が削り取られる。そして、研削盤によってすくい面が繰り返し再研削されると、初期切刃段の逃げ面の形成部位の全体がなくなる。このとき、初期切刃段の外周面には、案内部の半径と略同一の半径の平行案内面のみが残される。この再研削後の状態においては、初期切刃段は、ワークの加工穴を切削しない。そして、初期切刃段の平行案内面は、案内部とともに、ワークの加工穴の中心をブローチカッタの中心へ案内する。
【0011】
このように、各初期切刃段の刃先の半径(すくい面と逃げ面とが交差する位置の半径)が案内部の半径と同じになるときには、各初期切刃段の逃げ面の形成部位がなくなる。そして、各初期切刃段の刃先の半径が、案内部の半径よりも小さくならない範囲内でしか、各初期切刃段のすくい面が再研削されない。そのため、ワークの加工穴と各初期切刃段の刃先との間に隙間がほとんど生じない。
こうして、初期切刃段のすくい面の再研削を繰り返し行った後でも、ワークが初期切刃段の外周を通過する際における、ブローチカッタの中心とワークの加工穴の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。この効果は、軸方向幅が小さいワークの加工穴をブローチカッタによって切削する際に顕著に得ることができる。
【0012】
それ故、上記ブローチカッタによれば、初期切刃段が繰り返し再研削された後においても、ワークが初期切刃段の外周を通過する際における、ブローチカッタの中心とワークの加工穴の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例にかかる、ブローチカッタを示す説明図。
図2】実施例にかかる、ブローチカッタの各切刃段における切刃が、ワークの加工穴を段階的に深く切削して、内歯を形成する状態を示す説明図。
図3】実施例にかかる、ブローチカッタにおいて、案内部と複数の初期切刃段とが軸方向に並んで形成された状態を示す説明図。
図4】実施例にかかる、ブローチカッタにおいて、1段目の初期切刃段と2段目の初期切刃段とにおける逃げ面の形成部位が削り取られた状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したブローチカッタにおける好ましい実施の形態につき説明する。
上記他の態様のブローチカッタにおいては、上記複数の初期切刃段の上記逃げ面の逃げ角は同じであり、上記複数の初期切刃段の上記逃げ面と上記すくい面とが交差する位置の半径は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大きく、かつ、上記複数の初期切刃段の上記軸方向のランド幅における、上記逃げ面の上記軸方向の幅の割合は、上記切削方向の下流側に位置する上記初期切刃段ほど大き
これにより、逃げ面が形成されている状態の複数の初期切刃段によって、ワークの加工穴を段階的に深く切削することができる。また、各初期切刃段の逃げ面の逃げ角が同じであることにより、各初期切刃段に生じる逃げ面の摩耗、切削荷重等を同等にして、ワークの加工穴の切削を容易にすることができる。
【実施例】
【0015】
以下に、ブローチカッタにかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のブローチカッタ1は、図1図2に示すように、軸方向Lに並ぶ複数の切刃段2,3,4によって、ワーク8の加工穴81を順次切削するために用いる。複数の切刃段2,3,4よりも切削方向Sの上流側には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための案内部12が形成されている。
【0016】
図3に示すように、複数の切刃段2のうち案内部12の切削方向Sの下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22は、逃げ面221と平行案内面222とを有している。逃げ面221は、すくい面23と交差する位置において案内部12の半径r1よりも大きな半径r2を有している。逃げ面221は、切削方向Sの下流側に行くほど半径r2が小さくなる状態で形成されている。平行案内面222は、逃げ面221の切削方向Sの下流側に隣接して案内部12の半径r1と略同一の半径r3で形成されている。ここで、同図は、ブローチカッタ1において、案内部12と複数の初期切刃段20A,20B,20Cとが軸方向Lに並んで形成された状態を示す。
【0017】
また、図4に示すように、平行案内面222は、すくい面23が繰り返し再研削されて逃げ面221の形成部位が削り取られた後に、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するために形成されている。ここで、同図は、ブローチカッタ1において、1段目の初期切刃段20Aと2段目の初期切刃段20Bとにおける逃げ面221の形成部位が削り取られた状態を示す。
【0018】
以下に、本例のブローチカッタ1について、図1図4を参照して詳説する。
図1に示すように、本例のブローチカッタ1は、ブローチ加工機に取り付けられ、円盤状のワーク8の中心に形成された加工穴81としての丸穴に、引抜き加工を行うために使用される。ワーク8の加工穴81に引抜き加工を行うときには、ブローチカッタ1における複数の切刃段2,3,4が、ワーク8の加工穴81を通過する。
ブローチカッタ1の両端部には、ブローチカッタ1をブローチ加工機に取り付けるためのシャンク部11が形成されている。ブローチカッタ1の切削方向(引抜き方向)Sの上流側に位置するシャンク部11の下流側に隣接する位置には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための案内部12が形成されている。なお、以下の記載において、上流側とは切削方向Sの上流側のことを示し、下流側とは切削方向Sの下流側のことを示す。
【0019】
図1図2に示すように、案内部12の下流側に隣接して形成された3段の初期切刃段20A,20B,20Cは、ワーク8の加工穴81を径方向Rに段階的に深く切削する。そして、初期切刃段20A,20B,20Cを含む複数の歯本体部切刃段2は、ワーク8の加工穴81に内歯82の歯本体部821の途中形状を切削する。歯本体部切刃段2は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。図3に示すように、初期切刃段20A,20B,20Cは、案内部12に隣接して、切削方向Sの最上流側の1段目から5段目までの間に位置する、連続する少なくとも2段以上の切刃段である。本例の初期切刃段20A,20B,20Cは、切削方向Sの最上流側の1段目から3段目の切刃段である。
【0020】
図3に示すように、3段の初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の逃げ角θは互いに同じであり、また、全ての歯本体部切刃段2の逃げ面221の逃げ角θは同じである。本例の歯本体部切刃段2の逃げ角θは、2°である。この逃げ角θは、例えば、0.5〜5°の範囲内で決定することができる。なお、歯本体部切刃段2同士の間には、ワーク8に切削加工する際に生じる切粉を保持可能なポケット部24が形成されている。
3段の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22におけるすくい面23と交差する位置の半径r2、すなわち3段の初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221とすくい面23とが交差する位置の半径r2は、切削方向Sの下流側に位置する初期切刃段ほど大きい。具体的には、2段目の初期切刃段20Bの半径r2は、1段目の初期切刃段20Aの半径r2よりも大きく、3段目の初期切刃段20Cの半径r2は、2段目の初期切刃段20Bの半径r2よりも大きい。
【0021】
また、3段の初期切刃段20A,20B,20Cの軸方向Lのランド幅wにおける、逃げ面221の軸方向Lの幅w1の割合は、切削方向Sの下流側に位置する初期切刃段ほど大きい。具体的には、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221の軸方向Lの幅w1は、1段目の初期切刃段20Aの逃げ面221の軸方向Lの幅w1よりも大きく、3段目の初期切刃段20Cの逃げ面221の軸方向Lの幅w1は、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221の軸方向Lの幅w1よりも大きい。
【0022】
図2に示すように、本例のブローチカッタ1は、ワーク8の加工穴81に、周方向Cに並ぶ複数の内歯82を形成するものである。初期切刃段20A,20B,20Cを含む歯本体部切刃段2は、周方向Cに並ぶ複数の内歯82をワーク8の加工穴81に切削するための複数の切刃21を有している。複数の切刃21は、ブローチカッタ1の周方向Cに並んで形成されている。
図1に示すように、ブローチカッタ1において、複数の歯本体部切刃段2の下流側に隣接する位置には、複数の逃げ部切刃段3が形成されており、複数の逃げ部切刃段3の下流側に隣接する位置には、複数の歯先部切刃段4が形成されている。
【0023】
ここで、図1においては、ブローチカッタ1において、複数の歯本体部切刃段2が軸方向Lに並んで形成された部分をL1で示し、複数の逃げ部切刃段3が軸方向Lに並んで形成された部分をL2で示し、複数の歯先部切刃段4が軸方向Lに並んで形成された部分をL3で示す。また、図2においては、各切刃段2,3,4における切刃21,31,41が、ワーク8の加工穴81を段階的に深く切削して、内歯82を形成する状態を示す。
【0024】
図2に示すように、複数の逃げ部切刃段3は、周方向Cに並ぶ複数の切刃31を有しており、複数の切刃31は、ワーク8の加工穴81に、内歯82の歯本体部821から径方向Rの外周側R1に延びる逃げ部822の形成部位を切削する。逃げ部822は、歯本体部821の周方向Cの幅よりも狭い周方向Cの幅で形成される。逃げ部切刃段3は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。
複数の歯先部切刃段4は、周方向Cに並ぶ複数の切刃41を有しており、複数の切刃41は、ワーク8の加工穴81に、内歯82における内周側歯先部823の形成部位を切削する。内周側歯先部823は、互いに隣接する歯本体部821同士の間に形成される。歯先部切刃段4は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。
【0025】
また、図1に示すように、複数の歯先部切刃段4の下流側に隣接する位置には、仕上げ切削をする切刃段として、内歯82の歯本体部821の途中形状の周方向Cに段階的に深く切り込む複数のシェル切刃段5が形成されている。複数のシェル切刃段5は、ブローチカッタ1の軸方向Lに複数並んで形成されており、周方向Cに並ぶ複数の切刃51を有している。図2に示すように、複数のシェル切刃段5における複数の切刃51によって、内歯82における歯本体部821の一対の歯面の形状が形成される。なお、シェル切刃段5の下流側に隣接する位置には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための別の案内部が形成されていてもよい。
【0026】
本例のブローチカッタ1は、インボリュート曲線に沿った歯本体部821を有するインボリュートスプライン形状の内歯82を、周方向Cに複数形成するものである。また、ブローチカッタ1によって切削する内歯82は、歯本体部821がワーク8の軸方向Lに対して捩れたヘリカル状のものである。ブローチカッタ1は、ヘリカルギヤとしての内歯82車を形成する。
【0027】
なお、ブローチカッタ1は、互いに平行な歯本体部821を有する角形スプライン形状の内歯82を、周方向Cに複数形成するものとすることもできる。また、ブローチカッタ1における各切刃段2,3,4,5の複数の切刃21,31,41,51は、周方向Cの全周に等間隔に形成されていてもよい。また、各切刃段2,3,4,5の複数の切刃21,31,41,51は、周方向Cの全周に形成されていなくてもよく、例えば、周方向Cの2〜8箇所に形成されていてもよい。
【0028】
次に、本例のブローチカッタ1の作用効果について説明する。
本例のブローチカッタ1においては、案内部12の切削方向Sの下流側に隣接する3段の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22の形状に工夫をしている。初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22は、逃げ面221の切削方向Sの下流側において、案内部12の半径r1と略同一の半径r3で形成された平行案内面222を有している。
図3に示すように、3段の初期切刃段20A,20B,20Cは、逃げ面221が形成されている状態においては、ワーク8の加工穴81を径方向Rに段階的に深く切削する。このとき、ブローチカッタ1における案内部12と、初期切刃段20A,20B,20Cの刃先とがワーク8の加工穴81に接触し、ワーク8が初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心との偏心が抑制される。
【0029】
また、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の逃げ角θは同じであり、各初期切刃段20A,20B,20Cは、ワーク8の加工穴81を段階的に深く切削する。各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ角θが同じであることにより、各初期切刃段20A,20B,20Cに生じる逃げ面221の摩耗、切削荷重等を同等にして、ワーク8の加工穴81の切削を容易にすることができる。
【0030】
一方、ブローチカッタ1によるワーク8の加工穴81の切削が繰り返し行われ、すくい面23が研削盤によって再研削されると、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位が削り取られる。そして、研削盤によってすくい面23が繰り返し再研削されると、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位は、上流側に位置する初期切刃段から順に、全体が消耗する。図4においては、1段目の初期切刃段20Aの逃げ面221と、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221との全体が消耗した状態を示す。
【0031】
同図において、1段目の初期切刃段20Aの外周面22及び2段目の初期切刃段20Bの外周面22には、案内部12の半径r1と略同一の半径r3の平行案内面222のみが残される。この再研削後の状態においては、各初期切刃段20A,20Bは、ワーク8の加工穴81を切削しない。そして、各初期切刃段20A,20Bの平行案内面222は、案内部12とともに、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心へ案内する。
【0032】
このように、各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先の半径r2(すくい面23と逃げ面221とが交差する位置の半径r2)が案内部12の半径r1と同じになるときには、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位がなくなる。そして、各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先の半径r2が、案内部12の半径r1よりも小さくならない範囲内でしか、各初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23が再研削されることがない。そのため、ワーク8の加工穴81と各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先との間に隙間がほとんど生じない。
【0033】
こうして、各初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23の再研削を繰り返し行った後でも、ワーク8が各初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。この効果は、軸方向Lの幅が小さいワーク8の加工穴81をブローチカッタ1によって切削する際に特に顕著に得ることができる。
【0034】
また、初期切刃段20A,20B,20Cにおける逃げ面221の形成部位の全体が消耗したときには、この初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23の再研削は行わないようにすることができる。これにより、平行案内面222の形成部位のみが残された初期切刃段20A,20B,20Cのランド幅wが小さくなりすぎないようにすることができる。
【0035】
それ故、本例のブローチカッタ1によれば、初期切刃段20A,20B,20Cが繰り返し再研削された後においても、ワーク8が初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ブローチカッタ
2 歯本体部切刃段
20A,20B,20C 初期切刃段
21 切刃
22 外周面
221 逃げ面
222 平行案内面
23 すくい面
8 ワーク
81 加工穴
82 内歯
821 歯本体部
822 逃げ部
823 内周側歯先部
S 切削方向
図1
図2
図3
図4