【実施例】
【0015】
以下に、ブローチカッタにかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のブローチカッタ1は、
図1、
図2に示すように、軸方向Lに並ぶ複数の切刃段2,3,4によって、ワーク8の加工穴81を順次切削するために用いる。複数の切刃段2,3,4よりも切削方向Sの上流側には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための案内部12が形成されている。
【0016】
図3に示すように、複数の切刃段2のうち案内部12の切削方向Sの下流側に隣接して形成された複数の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22は、逃げ面221と平行案内面222とを有している。逃げ面221は、すくい面23と交差する位置において案内部12の半径r1よりも大きな半径r2を有している。逃げ面221は、切削方向Sの下流側に行くほど半径r2が小さくなる状態で形成されている。平行案内面222は、逃げ面221の切削方向Sの下流側に隣接して案内部12の半径r1と略同一の半径r3で形成されている。ここで、同図は、ブローチカッタ1において、案内部12と複数の初期切刃段20A,20B,20Cとが軸方向Lに並んで形成された状態を示す。
【0017】
また、
図4に示すように、平行案内面222は、すくい面23が繰り返し再研削されて逃げ面221の形成部位が削り取られた後に、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するために形成されている。ここで、同図は、ブローチカッタ1において、1段目の初期切刃段20Aと2段目の初期切刃段20Bとにおける逃げ面221の形成部位が削り取られた状態を示す。
【0018】
以下に、本例のブローチカッタ1について、
図1〜
図4を参照して詳説する。
図1に示すように、本例のブローチカッタ1は、ブローチ加工機に取り付けられ、円盤状のワーク8の中心に形成された加工穴81としての丸穴に、引抜き加工を行うために使用される。ワーク8の加工穴81に引抜き加工を行うときには、ブローチカッタ1における複数の切刃段2,3,4が、ワーク8の加工穴81を通過する。
ブローチカッタ1の両端部には、ブローチカッタ1をブローチ加工機に取り付けるためのシャンク部11が形成されている。ブローチカッタ1の切削方向(引抜き方向)Sの上流側に位置するシャンク部11の下流側に隣接する位置には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための案内部12が形成されている。なお、以下の記載において、上流側とは切削方向Sの上流側のことを示し、下流側とは切削方向Sの下流側のことを示す。
【0019】
図1、
図2に示すように、案内部12の下流側に隣接して形成された3段の初期切刃段20A,20B,20Cは、ワーク8の加工穴81を径方向Rに段階的に深く切削する。そして、初期切刃段20A,20B,20Cを含む複数の歯本体部切刃段2は、ワーク8の加工穴81に内歯82の歯本体部821の途中形状を切削する。歯本体部切刃段2は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。
図3に示すように、初期切刃段20A,20B,20Cは、案内部12に隣接して、切削方向Sの最上流側の1段目から5段目までの間に位置する、連続する少なくとも2段以上の切刃段である。本例の初期切刃段20A,20B,20Cは、切削方向Sの最上流側の1段目から3段目の切刃段である。
【0020】
図3に示すように、3段の初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の逃げ角θは互いに同じであり、また、全ての歯本体部切刃段2の逃げ面221の逃げ角θは同じである。本例の歯本体部切刃段2の逃げ角θは、2°である。この逃げ角θは、例えば、0.5〜5°の範囲内で決定することができる。なお、歯本体部切刃段2同士の間には、ワーク8に切削加工する際に生じる切粉を保持可能なポケット部24が形成されている。
3段の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22におけるすくい面23と交差する位置の半径r2、すなわち3段の初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221とすくい面23とが交差する位置の半径r2は、切削方向Sの下流側に位置する初期切刃段ほど大きい。具体的には、2段目の初期切刃段20Bの半径r2は、1段目の初期切刃段20Aの半径r2よりも大きく、3段目の初期切刃段20Cの半径r2は、2段目の初期切刃段20Bの半径r2よりも大きい。
【0021】
また、3段の初期切刃段20A,20B,20Cの軸方向Lのランド幅wにおける、逃げ面221の軸方向Lの幅w1の割合は、切削方向Sの下流側に位置する初期切刃段ほど大きい。具体的には、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221の軸方向Lの幅w1は、1段目の初期切刃段20Aの逃げ面221の軸方向Lの幅w1よりも大きく、3段目の初期切刃段20Cの逃げ面221の軸方向Lの幅w1は、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221の軸方向Lの幅w1よりも大きい。
【0022】
図2に示すように、本例のブローチカッタ1は、ワーク8の加工穴81に、周方向Cに並ぶ複数の内歯82を形成するものである。初期切刃段20A,20B,20Cを含む歯本体部切刃段2は、周方向Cに並ぶ複数の内歯82をワーク8の加工穴81に切削するための複数の切刃21を有している。複数の切刃21は、ブローチカッタ1の周方向Cに並んで形成されている。
図1に示すように、ブローチカッタ1において、複数の歯本体部切刃段2の下流側に隣接する位置には、複数の逃げ部切刃段3が形成されており、複数の逃げ部切刃段3の下流側に隣接する位置には、複数の歯先部切刃段4が形成されている。
【0023】
ここで、
図1においては、ブローチカッタ1において、複数の歯本体部切刃段2が軸方向Lに並んで形成された部分をL1で示し、複数の逃げ部切刃段3が軸方向Lに並んで形成された部分をL2で示し、複数の歯先部切刃段4が軸方向Lに並んで形成された部分をL3で示す。また、
図2においては、各切刃段2,3,4における切刃21,31,41が、ワーク8の加工穴81を段階的に深く切削して、内歯82を形成する状態を示す。
【0024】
図2に示すように、複数の逃げ部切刃段3は、周方向Cに並ぶ複数の切刃31を有しており、複数の切刃31は、ワーク8の加工穴81に、内歯82の歯本体部821から径方向Rの外周側R1に延びる逃げ部822の形成部位を切削する。逃げ部822は、歯本体部821の周方向Cの幅よりも狭い周方向Cの幅で形成される。逃げ部切刃段3は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。
複数の歯先部切刃段4は、周方向Cに並ぶ複数の切刃41を有しており、複数の切刃41は、ワーク8の加工穴81に、内歯82における内周側歯先部823の形成部位を切削する。内周側歯先部823は、互いに隣接する歯本体部821同士の間に形成される。歯先部切刃段4は、ワーク8の加工穴81の径方向Rに荒切削をするものである。
【0025】
また、
図1に示すように、複数の歯先部切刃段4の下流側に隣接する位置には、仕上げ切削をする切刃段として、内歯82の歯本体部821の途中形状の周方向Cに段階的に深く切り込む複数のシェル切刃段5が形成されている。複数のシェル切刃段5は、ブローチカッタ1の軸方向Lに複数並んで形成されており、周方向Cに並ぶ複数の切刃51を有している。
図2に示すように、複数のシェル切刃段5における複数の切刃51によって、内歯82における歯本体部821の一対の歯面の形状が形成される。なお、シェル切刃段5の下流側に隣接する位置には、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心に案内するための別の案内部が形成されていてもよい。
【0026】
本例のブローチカッタ1は、インボリュート曲線に沿った歯本体部821を有するインボリュートスプライン形状の内歯82を、周方向Cに複数形成するものである。また、ブローチカッタ1によって切削する内歯82は、歯本体部821がワーク8の軸方向Lに対して捩れたヘリカル状のものである。ブローチカッタ1は、ヘリカルギヤとしての内歯82車を形成する。
【0027】
なお、ブローチカッタ1は、互いに平行な歯本体部821を有する角形スプライン形状の内歯82を、周方向Cに複数形成するものとすることもできる。また、ブローチカッタ1における各切刃段2,3,4,5の複数の切刃21,31,41,51は、周方向Cの全周に等間隔に形成されていてもよい。また、各切刃段2,3,4,5の複数の切刃21,31,41,51は、周方向Cの全周に形成されていなくてもよく、例えば、周方向Cの2〜8箇所に形成されていてもよい。
【0028】
次に、本例のブローチカッタ1の作用効果について説明する。
本例のブローチカッタ1においては、案内部12の切削方向Sの下流側に隣接する3段の初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22の形状に工夫をしている。初期切刃段20A,20B,20Cの外周面22は、逃げ面221の切削方向Sの下流側において、案内部12の半径r1と略同一の半径r3で形成された平行案内面222を有している。
図3に示すように、3段の初期切刃段20A,20B,20Cは、逃げ面221が形成されている状態においては、ワーク8の加工穴81を径方向Rに段階的に深く切削する。このとき、ブローチカッタ1における案内部12と、初期切刃段20A,20B,20Cの刃先とがワーク8の加工穴81に接触し、ワーク8が初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心との偏心が抑制される。
【0029】
また、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の逃げ角θは同じであり、各初期切刃段20A,20B,20Cは、ワーク8の加工穴81を段階的に深く切削する。各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ角θが同じであることにより、各初期切刃段20A,20B,20Cに生じる逃げ面221の摩耗、切削荷重等を同等にして、ワーク8の加工穴81の切削を容易にすることができる。
【0030】
一方、ブローチカッタ1によるワーク8の加工穴81の切削が繰り返し行われ、すくい面23が研削盤によって再研削されると、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位が削り取られる。そして、研削盤によってすくい面23が繰り返し再研削されると、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位は、上流側に位置する初期切刃段から順に、全体が消耗する。
図4においては、1段目の初期切刃段20Aの逃げ面221と、2段目の初期切刃段20Bの逃げ面221との全体が消耗した状態を示す。
【0031】
同図において、1段目の初期切刃段20Aの外周面22及び2段目の初期切刃段20Bの外周面22には、案内部12の半径r1と略同一の半径r3の平行案内面222のみが残される。この再研削後の状態においては、各初期切刃段20A,20Bは、ワーク8の加工穴81を切削しない。そして、各初期切刃段20A,20Bの平行案内面222は、案内部12とともに、ワーク8の加工穴81の中心をブローチカッタ1の中心へ案内する。
【0032】
このように、各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先の半径r2(すくい面23と逃げ面221とが交差する位置の半径r2)が案内部12の半径r1と同じになるときには、各初期切刃段20A,20B,20Cの逃げ面221の形成部位がなくなる。そして、各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先の半径r2が、案内部12の半径r1よりも小さく
ならない範囲内でしか、各初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23が再研削されることがない。そのため、ワーク8の加工穴81と各初期切刃段20A,20B,20Cの刃先との間に隙間がほとんど生じない。
【0033】
こうして、各初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23の再研削を繰り返し行った後でも、ワーク8が各初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。この効果は、軸方向Lの幅が小さいワーク8の加工穴81をブローチカッタ1によって切削する際に特に顕著に得ることができる。
【0034】
また、初期切刃段20A,20B,20Cにおける逃げ面221の形成部位の全体が消耗したときには、この初期切刃段20A,20B,20Cのすくい面23の再研削は行わないようにすることができる。これにより、平行案内面222の形成部位のみが残された初期切刃段20A,20B,20Cのランド幅wが小さくなりすぎないようにすることができる。
【0035】
それ故、本例のブローチカッタ1によれば、初期切刃段20A,20B,20Cが繰り返し再研削された後においても、ワーク8が初期切刃段20A,20B,20Cの外周を通過する際における、ブローチカッタ1の中心とワーク8の加工穴81の中心とがほとんど偏心しないようにすることができる。