(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化膜は、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化白金、酸化イリジウム、酸化ストロンチウム・ルテニウムおよび酸化カルシウム・ルテニウムのうちの少なくとも1つから形成されている、請求項5に記載の振動ミラー素子。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜
図6を参照して、本発明の第1実施形態による振動ミラー素子100の構成について説明する。
【0020】
本発明の第1実施形態による振動ミラー素子100は、
図1および
図2に示すように、Siからなる基板10と、4つの圧電素子20a、20b、20cおよび20dとにより構成されている。なお、基板10は、Siにより形成されている。また、圧電素子20a〜20dは、本発明の「駆動部」の一例である。
【0021】
基板10は、ミラー部11と、ミラー部11に接続された一対のトーションバー12aおよび12bと、一対のトーションバー12aおよび12bにそれぞれ接続された一対の可動部13aおよび13bと、一対の可動部13aおよび13bに接続された枠体14とにより構成されている。
【0022】
ミラー部11は、圧電素子20a〜20dに周期的な電圧が印加されて可動部13aおよび13bが振動した場合に、一対のトーションバー12aおよび12bを回動軸として共振振動を行うように構成されている。
【0023】
一対の可動部13aおよび13bの上面(矢印Z1方向側の面)には、
図1〜
図3に示すように、4つの圧電素子20a〜20dが設けられている。また、4つの圧電素子20a〜20dは、
図3に示すように、それぞれ、下部駆動電極21と、圧電膜22と、上部駆動電極23とが積層された構造を有している。圧電膜22は、下部駆動電極21および上部駆動電極23に電圧が印加された場合に、Y方向に伸縮するように構成されている。この圧電膜22の膜厚は、約2μm以上10μm以下に形成されている。また、下部駆動電極21および上部駆動電極23は、いずれもPtから形成されている。また、振動ミラー素子100は、下部駆動電極21および上部駆動電極23に、約20kV/cm以上約40kV/cm以下の電界が印加されることにより、駆動するように構成されている。なお、下部駆動電極21は、本発明の「第1駆動電極」の一例である。また、上部駆動電極23は、本発明の「第2駆動電極」の一例である。
【0024】
また、圧電素子20a(20c)および圧電素子20b(20d)の上部駆動電極23および下部駆動電極21は、互いに逆位相の電圧が振動ミラー素子100の共振周波数と略等しい周波数で印加されるように構成されている。その結果、
図4および
図5に示すように、ミラー部11は、所定の回動角度により交互に共振振動するように構成されている。そして、振動ミラー素子100は、ミラー部11にレーザー光などが照射されると、ミラー部11の回動角度に応じて反射光の反射角度を変更可能に構成されている。
【0025】
次に、第1実施形態による圧電膜22を形成する材料について説明する。
【0026】
ここで、第1実施形態では、圧電膜22は、PbTiO
3およびPbZrO
3の固溶体Pb(Zr,Ti)O
3から構成されるABO
3構造の真性ペロブスカイト強誘電体と、ABO
3構造のBサイトがアクセプター原子Mn
2+およびドナー原子Nb
5+からなるPb(Mn,Nb)O
3のペロブスカイト強誘電体との固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3](以下、PMnN−PZTと記す)の薄膜から形成されている。なお、真性ペロブスカイト強誘電体およびペロブスカイト強誘電体は、いずれもABO
3構造のAサイトがPbからなる。
【0027】
要するに、第1実施形態の圧電膜22は、ぺロブスカイト構造を維持することが困難な焼結によって形成されるバルク材料のBサイトにドナー原子およびアクセプター原子を添加する構成ではない。第1実施形態の圧電膜22は、ABO
3構造のBサイトにドナー原子Nb
5+およびアクセプター原子Mn
2+を添加するペロブスカイト強誘電体のPb(Mn,Nb)O
3と、真性ペロブスカイト強誘電体(PZT)とからなる、PMnN−PZTの薄膜から形成されている。
【0028】
また、
図6のabcd領域に示すように、圧電膜22を形成するペロブスカイト強誘電体(PMnN)および真性ペロブスカイト強誘電体(PZT)に対する、ペロブスカイト強誘電体(PMnN)の組成比率xは、0%よりも大きく約25%以下である。また、真性ペロブスカイト強誘電体を構成するZrおよびTiの比率は、Zrが約30%およびTiが約70%(約30/70)から、Zrが約70%およびTiが約30%(約70/30)までの範囲である。このような材料構成により、大きな圧電係数の圧電膜22を得ることが可能である。
【0029】
また、真性ペロブスカイト強誘電体は、ZrおよびTiの比率が50/50近傍でMPB(Morphotropic Phase Boundary)組成の近傍となる。また、一般的に、真性ペロブスカイト強誘電体のPZTは、MPB組成の近傍となる場合に、圧電係数が極めて大きくなる性質を有している。
【0030】
ここで、圧電膜22をバルク材料よりなる真性ペロブスカイト強誘電体のPZTから形成する場合を想定する。この場合には、大きい圧電係数がMPB組成の近傍に限られるため、低い駆動電圧により大きな振動変位を得るためには、ZrおよびTiの比率がMPB組成の近傍に限定される。一方、圧電膜22がPMnM−PZTの薄膜からなる場合には、上記のように、MPB組成の近傍に限られることはない。
【0031】
また、
図6のefgh領域に示すように、上記のZrおよびTiの比率を約30/70から約70/30までの範囲よりも、さらに限定してMPB組成に近い約40/60から約60/40までの範囲にするとともに、ペロブスカイト強誘電体の組成比率xを約5%よりも大きく約20%以下とすると、より大きな圧電係数の圧電膜22を得ることが可能である。
【0032】
ここで、
図6において、xPMnN−(1−x)PZTの薄膜の組成比率を0%、かつ、ZrおよびTiの比率を約50/50近傍(MPB組成近傍)となる点oと比べて、点c(25%、70/30)および点d(25%、30/70)での駆動電圧は5V低下させることが可能である。また、点e(5%、60/40)および点f(5%、40/60)での駆動電圧は5V低下させることが可能である。また、点g(20%、60/40)および点h(20%、40/60)での駆動電圧は5V低下させることが可能である。
【0033】
ここで、再び、圧電膜22をバルク材料よりなる真性ペロブスカイト強誘電体のPZTから形成する場合を想定する。この場合には、大きい圧電係数がMPB組成の近傍に限られるため、低い駆動電圧により大きな振動変位を得るためには、ZrおよびTiの比率がMPB組成の近傍に限定される。
【0034】
また、PMnNの組成比率xが約3%以上約25%以下で、圧電膜22は、所定駆動電圧に対して大きな振動変位を得られる。このような効果は、構成比率xが約10%以上約22%以下で顕著に得られる。
【0035】
次に、第1実施形態による圧電膜22の製造方法について説明する。
【0036】
まず、基板10の上面上(Z1方向側)にスパッタリング法により、導電性のヘテロ構造(110)SRO/(001)Pt/Ti(SROは導電性化合物のSrRuO
3(酸化ストロンチウム・ルテニウム)を指す)の下部駆動電極21を形成する。この際、下部駆動電極21は、基板10の温度を約650℃に設定した状態で形成される。そして、下部駆動電極21の上面上にPMnN−PZTの薄膜をスパッタリング法により付着させ、圧電膜22を形成する。この際、圧電膜22は、基板10の温度を約450℃から約650℃までの範囲に設定した状態で形成される。これにより、平滑な表面および高い結晶性を有する透明な圧電膜22を得ることが可能となる。なお、圧電膜22は、基板10の温度を約550℃から約600℃までの範囲に設定することにより、特に平滑な表面および高い結晶性を得ることが可能となる。
【0037】
上記第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0038】
第1実施形態では、上記のように、圧電膜22を、Pb(Zr,Ti)O
3から構成されるABO
3構造の真性ペロブスカイト強誘電体と、ABO
3構造のBサイトがアクセプター元素Mnおよびドナー元素NbからなるPb(Mn,Nb)O
3のペロブスカイト強誘電体との固溶体Pb(Mn,Nb)O
3−Pb(Zr,Ti)O
3の薄膜から形成する。これにより、固溶体Pb(Mn,Nb)O
3−Pb(Zr,Ti)O
3の薄膜により圧電膜22が形成されるので、薄膜ではないバルク構造のPb(Mn,Nb)O
3−Pb(Zr,Ti)O
3と比べて、所定比率以上のペロブスカイト強誘電体が添加された場合においても良質のペロブスカイト構造を維持することができる。これにより、PZT系の材料を用いて圧電係数の大きな圧電膜22を形成することができるので、駆動電圧を低電圧化することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、ペロブスカイト強誘電体を、ペロブスカイト強誘電体のAサイトをPbとし、アクセプター元素B
AをMnとするとともに、ドナー元素B
DをNbを含むPb(Mn,Nb)O
3から構成する。これにより、PZT系の材料を用いて圧電係数の大きな圧電膜22を容易に形成することができる。
【0040】
また、第1実施形態では、真性ペロブスカイト強誘電体のZr/Ti比率は、約30/70から約70/30までの範囲として、圧電膜22を、ペロブスカイト強誘電体のPb(Mn,Nb)O
3と真性ペロブスカイト強誘電体のPb(Zr,Ti)O
3との固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の薄膜により構成し、組成比率xを0%より大きく約25%以下とする。これにより、Zr/Ti比率および組成比率xが好ましい範囲に設定されるので、PZT系の材料を用いて駆動電圧をより低電圧化させることができる。
【0041】
また、第1実施形態では、真性ペロブスカイト強誘電体のZr/Ti比率を、約40/60から約60/40までの範囲とし、圧電膜22を、固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の薄膜により構成し、組成比率xを約5%以上約20%以下とする。これにより、Zr/Ti比率がよりMPB組成に近い範囲に設定されるので、Pb(Zr,Ti)O
3の圧電係数をより大きくすることができる。さらに、組成比率xがより好ましい範囲に設定されるので、駆動電圧を特に低電圧化させることができる。
【0042】
また、第1実施形態では、圧電膜22を、固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の薄膜により構成し、組成比率xを約3%以上約25%以下とする。これにより、組成比率xがより好ましい範囲に設定されるので、PZT系の材料を用いて駆動電圧をさらに低電圧化させることができる。
【0043】
また、第1実施形態では、組成比率xを約10%以上約22%以下とする。これにより、組成比率xが最適な範囲に設定されるので、駆動電圧を特に低電圧化させることができる。
【0044】
また、第1実施形態では、真性ペロブスカイト強誘電体のZr/Ti比率を、約50/50近傍とする。これにより、Zr/Ti比率がMPB組成近傍の比率に設定されるので、Pb(Zr,Ti)O
3の圧電係数をより大きくすることができる。
【0045】
また、第1実施形態では、圧電膜22を、固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の薄膜により構成し、組成比率xを約15%以上約25%以下とし、かつ、圧電膜22への印加電界を約20kV/cm以上約40kV/cm以下とする。これにより、印加電界が約20kV/cm以上約40kV/cm以下の範囲で、圧電膜22の圧電係数を大きくすることができるとともに、圧電膜22の駆動電圧に対する変位が飽和特性を示すので、駆動電圧が低電圧化した状態であっても、圧電膜22を大きく変形させることができる。
【0046】
また、第1実施形態では、圧電膜22の膜厚を、約2μm以上約10μm以下とする。これにより、圧電膜22がバルク材料とは異なるペロブスカイト構造を維持しやすい最適な薄膜状に形成されるので、確実に駆動電圧を低電圧化することができる。また、膜厚を2μm以上とすることにより、圧電膜22の両面に配置される下部駆動電極21および上部駆動電極23が近接して配置されることがないので、両電極間で短絡が生じるのを抑制することができる。また、膜厚を10μm以下とすることにより、基板10から圧電膜22が剥離するのを抑制することができる。
【0047】
次に、
図7〜
図13を参照して、本発明の上記第1実施形態の効果を確認するために行った種々の測定について説明する。
【0048】
(第1実験)
まず、
図7および
図8を参照して、X線回折(X―Ray Diffraction、XRD)装置により、圧電膜を形成する結晶の配向について測定を行った。
【0049】
このX線回折測定では、実施例1として、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜を形成する結晶の配向について測定した。また、比較例1として、市販されている真性ペロブスカイト強誘電体のPZTの薄膜についても測定を行った。
【0050】
具体的には、PZTにおけるZrおよびTiの比率をMPB組成近傍の50/50とした。また、PMnN−PZTの薄膜の中でのペロブスカイト強誘電体のPMnNの組成比率を6%および真性ペロブスカイト強誘電体のPZTの組成比率を94%とした。
【0051】
X線回折測定の結果としては、
図7に示すように、実施例1においては、ミラー指数が(001)面および(002)面において強い配向を示した。すなわち、分極軸のZ軸がほとんど単一の配向であった。一方、
図8に示すように、比較例1においては、(001)面および(002)面に加えて(101)面などにおいても強い配向を示した。
【0052】
上記のようなX線回折測定の結果から、実施例1の圧電膜は、(001)面方向に規則的な結晶性を有することが判明した。このことから、実施例1の圧電膜は電圧印加時においては、(001)面方向に特に伸縮し易いことが見出された。一方、比較例1の圧電膜は、実施例1と比べて、(001)面方向に規則的な結晶性をあまり有していないため、特に(001)面方向に伸縮し易いとは考えられない。
【0053】
したがって、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜は、市販のPZTの薄膜により形成された圧電膜よりも高い圧電特性を有していると考えられる。
【0054】
(第2実験)
次に、
図9および
図10を参照して、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜の変位を測定した。
【0055】
この変位測定では、圧電膜のPMnNの組成比率xが異なる比較例2、実施例2、3および4とについて、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜を有するカンチレバーの変位を測定した。
【0056】
具体的には、
図9に示すように、壁面101に一方端が固定された矩形の平板状のカンチレバー102を作製した。このカンチレバー102は、基板110上に圧電膜122(PMnをx%添加したxPMnN−(1−x)PZTの薄膜)を形成することにより作成した。また、図示しない駆動電極を、圧電膜122の両面上の全域に形成した。
【0057】
ここで、カンチレバー102の長さLは、2000μmとした。また、カンチレバー102の圧電膜122の厚さt1を3μmとした。また、カンチレバー102の厚みt2を30μmとした。また、駆動電極に印加する電圧を30Vとした。また、PZTのZrおよびTiの比率をMPB組成近傍の50/50とした。
【0058】
ここで、比較例2では、PMnNの組成比率xを0%(PZTの構成比率100%)とした。また、実施例2では、PMnNの組成比率xを10%とした。また、実施例3では、PMnNの組成比率xを20%とした。また、実施例4では、PMnNの組成比率xを25%とした。そして、このような条件設定の下、カンチレバーの先端(自由端)における変位を測定した。
【0059】
変位測定の結果としては、
図10に示すように、PMnNの組成比率0%の比較例2においては、変位が14μmとなった。また、PMnNの組成比率10%の実施例2においては、変位が20μmとなった。また、PMnNの組成比率20%の実施例3においては、変位が19μmとなった。また、PMnNの組成比率25%の実施例4においては、変位が12μmとなった。
【0060】
上記のような変位測定の結果から、PMnNの組成比率xが0%から増加するにつれて、変位も増加することが判明した。そして、PMnNの組成比率xの15%(変位が約21μm)辺りから変位が減少に転じて、少なくとも25%まで減少し続けることが判明した。
【0061】
また、PMnNの組成比率xが25%以下で十分な変位が得られた。さらに、PMnNの組成比率xが3%以上25%以下で大きな変位を得られることが判明した。したがって、PMnNの組成比率xが3%以上25%以下で振動ミラー素子を構成するのが好ましいことが判明した。また、その中でも、PMnNの組成比率xが10%以上22%以下の範囲においては、PMnNの添加の効果が、特に大きいと判明した。すなわち、PMnNの組成比率xが12%以上20%以下の範囲では、約18μmを超える変位を得ることができるため、特に振動ミラー素子を構成するのに好ましいことが判明した。さらに、PMnNの組成比率が10%以上20%以下では、約20μmを超える変位を得ることができるため、駆動電圧をより一層低電圧化させることが可能であると判明した。また、比較例2とPMnNの組成比率が15%の場合との変位を比較することにより、PMnNの添加によって圧電係数は最大で約1.5倍になることが判明した。
【0062】
ここで、従来のバルク材料では、真性ペロブスカイト強誘電体のPZTに新たな成分のPMnNを約10%以上添加するとぺロブスカイト構造を維持することができなくなることが知られている。このため、PMnNを約10%以上添加することは、圧電特性の低下を引き起こす要因となる。一方、本発明の薄膜材料では、PMnNを25%付近まで添加したとしても大きい圧電特性を得られることが見い出された。
【0063】
このような結果は、本発明の薄膜材料では、バルク材料と異なり、PMnNを約10%以上添加したとしても、良質のぺロブスカイト構造が維持されるという、バルク材料では想像もし得ない薄膜固有の現象によりもたらされている。このような現象は、バルク材料と、本発明の薄膜材料との圧電膜122の製造方法の違いに起因していると考えられる。すなわち、バルク材料では、粒径1μm程度の原料粉末の焼結により圧電膜122が形成されるのに対して、本発明の薄膜材料では、圧電膜122が化学反応(原子レベルでの焼結)により形成されているため、結晶の規則性に差が生じ、上記のような圧電膜122の構造の違いが発生したと考えられる。
【0064】
(第3実験)
次に、
図11を参照して、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜を有する振動ミラー素子に照射されるレーザ光を所定の角度偏向させるために必要な駆動電圧を測定した。
【0065】
この印加電圧測定では、圧電膜のPMnNの組成比率xが異なる比較例3と実施例5、6および7との振動ミラー素子について、駆動電圧を測定した。
【0066】
具体的には、ミラー素子100に対して、照射されるレーザ光を20度偏向させるのに必要な駆動電圧を測定した。また、PZTのZrおよびTiの比率をMPB組成近傍の50/50とした。
【0067】
ここで、比較例3では、PMnNの組成比率xを0%とした。また、実施例5では、PMnNの組成比率xを10%とした。また、実施例6では、PMnNの組成比率xを20%とした。また、実施例7では、PMnNの組成比率xを25%とした。そして、このような条件設定の下、レーザ光を所定の角度20度偏向させるのに必要な駆動電圧を測定した。なお、測定は、上記第2実験と同様のPMnNの組成比率0%、10%、20%および25%について行った。
【0068】
変位測定の結果としては、
図11に示すように、PMnNの組成比率0%の比較例3においては、印加電圧が30Vとなった。また、PMnNの組成比率10%の実施例5においては、駆動電圧が15Vとなった。また、PMnNの組成比率20%の実施例6においては、駆動電圧が12Vとなった。また、PMnNの組成比率25%の実施例7においては、駆動電圧が30Vとなった。
【0069】
上記のような駆動電圧測定の結果から、PMnNの組成比率xが0%から増加するにつれて、駆動電圧は減少することが判明した。そして、PMnNの組成比率xの17%辺り(駆動電圧が約10V辺り)から変位が増加することが判明した。
【0070】
また、比較例3と比較した場合、PMnNの組成比率xが3%以上25%以下とすることにより、駆動電圧を約15%から約60%程度低下することが判明した。したがって、PMnNの組成比率xを3%以上25%以下として、振動ミラー素子の圧電膜を構成することが好ましいと判明した。
【0071】
また、その中でも、PMnNの組成比率xが10%以上22%以下の範囲においては、比較例3に対して、駆動電圧を約50%から約60%程度低下することが判明した。したがって、PMnNの組成比率xを10%以上22%以下の範囲として、特に振動ミラー素子の圧電膜を構成することが好ましいと判明した。
【0072】
また、PMnNの組成比率xが20%以上となる場合には、駆動電圧が急激に増加していくことが判明した。このことからも、PMnNの組成比率xを10%以上20%以下の範囲として、振動ミラー素子の圧電膜を構成するのが特に好ましい。なお、本第3実験では、好ましいPMnNの組成比率xについて、上記第2実験の結果と概ね対応する結果が得られた。
【0073】
(第4実験)
次に、
図12を参照して、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜122を用いて、駆動電圧に対する圧電膜122の変位を測定した。
【0074】
この変位測定では、圧電膜122のPMnNの組成比率xが異なる比較例4と実施例8、9、10および11の振動ミラー素子について、駆動電圧を変えることにより、PMnN−PZTの薄膜により形成された圧電膜122を有するカンチレバー102の変位を測定した。なお、カンチレバー102の形状は、
図9に示す上記第2実験と同一である。また、ZrおよびTiの比率をMPB組成近傍の50/50とした。
【0075】
ここで、比較例4では、PMnNの組成比率xを0%とした。また、実施例8では、PMnNの組成比率xを10%とした。また、実施例9では、PMnNの組成比率xを15%とした。また、実施例10では、PMnNの組成比率xを20%とした。また、実施例11では、PMnNの組成比率xを25%とした。
【0076】
変位測定の結果としては、
図12に示すように、比較例4では、駆動電圧と変位との関係が2次曲線状となり、実施例8では、1次曲線状となり、実施例9、10および11では、飽和曲線状となった。つまり、実施例9〜11では、駆動電圧が大きくなるに従い変位の変化量が小さくなった。
【0077】
上記のような変位測定の結果から、PMnNの組成比率が増加するにつれて、変位の変化量が大きくなることが判明した。また、PMnNの組成比率が20%付近で、駆動電圧に対する変位の変化量が徐々に変わらなくなることが判明した。また、PMnNの添加量を異ならせることにより駆動電圧を制御可能であることが判明した。
【0078】
(第5実験)
次に、
図13を参照して、圧電膜のPMnNの組成比率xを20%として、飽和状態(上記第4実験の飽和曲線を描く状態)の圧電膜に加えられる印加電界に対する圧電係数(圧電応力係数、電界に対する応力値)を測定した。また、ZrおよびTiの比率をMPB組成近傍の50/50とした。
【0079】
ここで、実施例12では、印加電界を20kV/cmとした。また、実施例13では、印加電界を40kV/cmとした。また、実施例14では、印加電界を70kV/cmとした。また、実施例15では、印加電界を100kV/cmとした。
【0080】
圧電係数測定の結果としては、
図13に示すように、実施例12および実施例13では、圧電係数が−28C/m
2となった。また、実施例14では、圧電係数が−24C/m
2となった。また、実施例15では、圧電係数が−20C/m
2となった。
【0081】
上記のような圧電係数測定の結果から、圧電係数は、低い印加電界で大きくなることが判明した。したがって、PMnNの添加量を20%に増加させた場合には、大きい圧電係数が小さい電圧(印加電界)で得られるため、駆動電圧をより低下させることが可能となることが判明した。また、本出願人は、鋭意検討した結果、駆動電圧を低下させるための最適化条件は、固溶体PMnN−PZTの薄膜において、PMnNの組成比率xが15%以上25%以下(飽和特性)、PZTのZrとTiとの比率が30/70から70/30までの範囲、かつ、印加電界が20kV/cm以上40kV/cm以下であることを見い出した。また、第4実施例で用いた圧電膜では、圧電歪定数(電界に対する歪値)が、−248×10
-12C/Nになった。この値は、市販のPZT薄膜の圧電歪定数(−200×10
-12C/N)よりも大きい。この結果、高温環境下であっても、安定して駆動させることが可能であると判明した。
【0082】
(
参考例)
図3を参照して
、参考例による振動ミラー素子200の構成について説明する。
【0083】
この
参考例では、圧電膜22を固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の薄膜から形成した上記第1実施形態とは異なり、圧電膜222を固溶体[xPb(Mg,Nb)O
3・(1−x)PbTiO
3]の薄膜から形成した例について説明する。
【0084】
ここで、
参考例では、
図3に示す圧電膜222は、PbTiO
3から構成されるABO
3構造の真性ペロブスカイト強誘電体と、ABO
3構造のBサイトがアクセプター原子Mgおよびドナー原子NbからなるPb(Mg,Nb)O
3のペロブスカイト強誘電体との固溶体[xPb(Mg,Nb)O
3・(1−x)PbTiO
3](以下、PMgN−PTと記す)の薄膜から形成されている。なお、真性ペロブスカイト強誘電体およびペロブスカイト強誘電体はともに、AサイトがPbからなる。
【0085】
また、圧電膜222を形成するペロブスカイト強誘電体および真性ペロブスカイト強誘電体に対する、ペロブスカイト強誘電体の組成比率xは、約10%以上約50%以下である。組成比率xを約10%以上約50%以下とすることにより、圧電膜222の駆動電圧に対する変位が飽和特性を示し、その結果、圧電膜222の圧電特性の向上を図ることが可能に構成である。なお、組成比率が約10%未満となった場合には、振動ミラー素子200の動作特性が不安定になる。
【0086】
なお、
参考例のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0087】
上記
参考例では、以下のような効果を得ることができる。
【0088】
参考例では、上記のように、圧電膜222を、PbTiO
3から構成されるABO
3構造の真性ペロブスカイト強誘電体と、ABO
3構造のBサイトがアクセプター元素Mgおよびドナー元素NbからなるPb(Mg,Nb)O
3のペロブスカイト強誘電体との固溶体Pb(Mg,Nb)O
3−PbTiO
3の薄膜から形成する。これにより、駆動電圧を低電圧化することができる。
【0089】
また、
参考例では、圧電膜222を、ペロブスカイト強誘電体のPb(Mg,Nb)O
3と真性ペロブスカイト強誘電体のPbTiO
3との固溶体[xPb(Mg,Nb)O
3・(1−x)PbTiO
3]の薄膜により構成し、組成比率xを10%以上50%以下とする。これにより、固溶体[xPb(Mg,Nb)O
3・(1−x)PbTiO
3]の薄膜により圧電膜222が形成されるので、良質のペロブスカイト構造を維持することができる。その結果、PZT系の材料を用いて圧電係数(圧電特性)の大きな圧電膜を形成することができるので、駆動電圧を低電圧化することができる。また、圧電膜222の駆動電圧に対する変位が飽和特性を示すので、駆動電圧が低電圧化した状態であっても、圧電膜222を大きく変形させることができる。
【0090】
なお、
参考例のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0091】
(
第2実施形態)
図14を参照して、本発明の第2実施形態による振動ミラー素子300の構成について説明する。なお、
図14は、上記第1実施形態における
図3に対応する部分の断面図である。
【0092】
この
第2実施形態では、圧電膜22と下部駆動電極21および上部駆動電極23とが接するように形成される上記第1実施形態とは異なり、圧電膜22と下部駆動電極21および上部駆動電極23との界面325に金属酸化膜324が形成される例について説明する。
【0093】
圧電膜22は、
図14に示すように、一方面側に形成された上部駆動電極23との界面325に、導電性の金属酸化膜324が形成されている。また、圧電膜22は、他方面側に形成された下部駆動電極21との界面325に、導電性の金属酸化膜324が形成されている。
【0094】
また、金属酸化膜324は、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化白金、酸化イリジウム、酸化ストロンチウム・ルテニウムおよび酸化カルシウム・ルテニウムのうちの少なくとも1つから形成されている。また、このような材料からなる金属酸化膜324が圧電膜22と下部駆動電極21および上部駆動電極23との間に形成されることにより、圧電膜22は、振動時における耐電圧を高めることが可能なように構成されている。その結果、振動ミラー素子300の寿命を延ばすことが可能である。
【0095】
また、金属酸化膜324は、膜厚が約5μm以上約200μm以下の均質かつ平坦な表面に形成されている。これにより、金属酸化膜324は、上記の耐電圧を高める効果を発揮することが可能なように構成されている。
【0096】
なお、
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0097】
上記
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0098】
第2実施形態では、上記のように、圧電膜22を、Pb(Zr,Ti)O
3から構成されるABO
3構造の真性ペロブスカイト強誘電体と、ABO
3構造のBサイトがアクセプター元素Mnおよびドナー元素NbからなるPb(Mn,Nb)O
3のペロブスカイト強誘電体との固溶体Pb(Mn,Nb)O
3−Pb(Zr,Ti)O
3の薄膜から形成する。これにより、駆動電圧を低電圧化することができる。
【0099】
また、
第2実施形態では、圧電素子20a〜20dに圧電膜22の一方表面上に形成された下部駆動電極21と、他方表面上に形成された上部駆動電極23とを設け、下部駆動電極21および上部駆動電極23と圧電膜22との界面に、導電性の金属酸化膜324を形成する。これにより、圧電膜22の耐電圧を高めることができるので、リーク電流が急増する駆動電圧を高めることができる。その結果、リーク電流の急増に伴う発熱により圧電膜22が損傷するのを抑制することができ、圧電膜22の寿命を伸長させることができる。
【0100】
また、
第2実施形態では、金属酸化膜324を、酸化マンガン、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化白金、酸化イリジウム、酸化ストロンチウム・ルテニウムおよび酸化カルシウム・ルテニウムのうちの少なくとも1つから形成する。これにより、圧電膜2の耐電圧をより高めることができるので、圧電膜22の寿命をより伸長させることができる。
【0101】
また、
第2実施形態では、金属酸化膜324の膜厚を、5nm以上200nm以下とする。これにより、金属酸化膜324の表面を均一でかつ平坦な表面にすることができるとともに、振動(駆動)時に、圧電膜22に歪が発生するのを抑制することができる。
【0102】
なお、
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0103】
(第6実験)
次に、
図15を参照して、上記した本発明の上記
第2実施形態の効果を確認するために行ったリーク電流測定について説明する。
【0104】
このリーク電流測定では、実施例16、17および18として、下部駆動電極および下部駆動電極における単位面積あたりのリーク電流測定を行った。
【0105】
ここで、実施例16では、圧電膜と下部駆動電極および下部駆動電極との界面に金属酸化膜として酸化マンガンを形成した。また、実施例17では、圧電膜と下部駆動電極および下部駆動電極との界面に金属酸化膜として酸化ストロンチウム・ルテニウムを形成した。実施例18では、圧電膜と下部駆動電極および下部駆動電極との界面に金属酸化膜を形成しなかった。
【0106】
そして、上記した実施例16、17および18における下部駆動電極および下部駆動電極に、低電圧を印加することによりリーク電流の測定を行った。そして、電圧を徐々に増加させていき、リーク電圧が急に増大する結果が得られるまで測定を繰り返した。
【0107】
リーク電流測定の結果としては、
図15に示すように、実施例16においては、印加電圧が35Vでリーク電流が急増した。また、実施例17においては、印加電圧が40Vでリーク電流が急増した。また、実施例18においては、印加電圧が24Vでリーク電流が急増した。
【0108】
上記のようなリーク電流測定の結果から、金属酸化膜を圧電膜と電極との界面に形成した場合には、リーク電流が急増する印加(駆動)電圧が高くなることが判明した。すなわち、圧電膜の耐電圧が向上することが判明した。
【0109】
なお、今回開示された実施形態および実験は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実験の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0110】
たとえば、上記第1および
第2実施形態では、圧電膜の材料としてPbTiO
3およびPbZrO
3の固溶体Pb(Zr,Ti)O
3から構成される真性ペロブスカイト強誘電体を用い、上記
参考例では、圧電膜の材料としてPbTiO
3から構成される真性ペロブスカイト強誘電体を用いる例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、圧電膜の材料である真性ペロブスカイト強誘電体をPbTiO
3、PbZrO
3、および、PbTiO
3およびPbZrO
3の固溶体Pb(Zr,Ti)O
3のうちいずれか1つから構成すればよい。
【0111】
また、上記第1および
第2実施形態では、圧電膜の材料であるペロブスカイト強誘電体のA(B
A,B
D)O
3のアクセプター元素B
AにMnを用い、上記
参考例では、アクセプター元素B
AにMgを用いる例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、アクセプター元素B
Aに価数が4よりも小さいFe、Sn、Al、CrおよびNiなどを用いてもよい。
【0112】
また、上記第1〜
第2実施形態では、圧電膜の材料であるペロブスカイト強誘電体のA(B
A,B
D)O
3のドナー元素B
DにNbを用いる例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、ドナー元素B
Dに価数が4よりも大きいTa、W、BiおよびLaなどを用いてもよい。
【0113】
また、上記第1〜
第2実施形態では、基板を、Siから形成する例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、基板を、表面にSi層が設けられたヘテロ構造のSOI基板から形成してもよい。また、サファイア、アルミナ、チタニア、マグネシアおよびジルコニアなどから形成してもよい。また、サファイア、アルミナ、チタニア、マグネシアおよびジルコニアなどの固溶体から形成してもよい。また、PZT系の圧電薄膜の形成が可能なチタン金属板やステンレス金属板などの導電性金属材料から形成してもよい。なお、上記例示した中でも、SOI基板およびサファイアは振動ミラー素子を集積化するのに特に有効である。また、チタンやステンレスなどの金属板により基板を形成した場合には、圧電薄膜の下部駆動電極が不要となるので、製造プロセスを簡素化させることができる。
【0114】
また、上記第1〜
第2実施形態では、圧電膜の膜厚を約2μm以上約10μm以下とする例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、圧電膜の薄膜構造が保持される範囲で、膜厚を約2μm未満約10μmよりも大きくしてもよい。
【0115】
また、上記第1および
第2実施形態では、真性ペロブスカイト強誘電体のZr/Ti比率が約30/70から約70/30までの範囲である例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、真性ペロブスカイト強誘電体のZr/Ti比率を約25/75としてもよい。
【0116】
また、上記第1および
第2実施形態では、固溶体[xPb(Mn,Nb)O
3・(1−x)Pb(Zr,Ti)O
3]の組成比率xが0%より大きく約25%以下である例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、組成比率xが約30%であってもよい。
【0117】
また、上記
第2実施形態では、圧電膜と下部駆動電極および下部駆動電極との界面に金属酸化膜を形成する例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、結晶性のよいぺロブスカイト構造の厚さ数nmの薄膜を、圧電膜と電極との界面に挿入してもよい。
【0118】
また、上記
第2実施形態では、圧電膜の下部駆動電極側および下部駆動電極側のいずれにも金属酸化膜を形成する例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、圧電膜の下部駆動電極側にのみ金属酸化膜を形成してもよい。
【0119】
また、上記
第2実施形態では、金属酸化膜の膜厚を約5nm以上約200nmとする例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、金属酸化膜の膜厚を約5nm未満約200nmよりも大きくしてもよい。