特許第6244882号(P6244882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000002
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000003
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000004
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000005
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000006
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000007
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000008
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000009
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000010
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000011
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000012
  • 特許6244882-直噴エンジンの制御装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244882
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】直噴エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/10 20060101AFI20171204BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F02D41/10 330Z
   F02D41/02 351
   F02D41/34 H
   F02D13/02 H
   F02D21/08 301Z
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-262178(P2013-262178)
(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公開番号】特開2015-117651(P2015-117651A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】西本 京太郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】田賀 淳一
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−172665(JP,A)
【文献】 特開2012−127197(JP,A)
【文献】 特開2000−320386(JP,A)
【文献】 特開2003−065123(JP,A)
【文献】 特開2013−227942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02B 1/00 − 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒に形成された燃焼室内に燃料を噴射可能な燃料噴射装置を有し、前記燃焼室内で燃料と空気との混合気を燃焼させてピストンを往復運動させる直噴エンジンの制御装置であって、
エンジンの運転状態を判定する判定手段と、
前記燃焼室内に既燃ガスである内部EGRガスを残存させる内部EGRを実施する内部EGR手段と、
少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い領域に設定された圧縮自着火燃焼領域での運転時に、前記内部EGR手段を駆動して内部EGRを実施しつつ、前記燃料噴射装置から噴射させた燃料と空気との混合気を前記燃焼室内で自着火により燃焼させて、圧縮自着火燃焼を実施する燃焼制御手段とを備え、
前記圧縮自着火燃焼領域において、前記燃焼室内の全ガス量に占める前記内部EGRガス量の割合である内部EGR率はエンジン負荷が高い側ほど低くなるよう設定されており、
前記燃焼制御手段は、
前記圧縮自着火燃焼領域での定常運転時において、前記燃料噴射装置に吸気行程中に燃料を噴射させ、
前記圧縮自着火燃焼領域の第1運転条件から当該第1運転条件よりも前記内部EGR率が低く設定された前記圧縮自着火燃焼領域の第2運転条件へと移行する加速時において、前記燃料噴射装置に、圧縮上死点前で前記燃焼室内に燃料を噴射するメイン噴射と、膨張行程中に前記燃焼室内に燃料を噴射するポスト噴射とを実施させるとともに、前記メイン噴射の噴射量と前記ポスト噴射の噴射量とを含む総噴射量を、前記第2運転条件における定常運転時の総噴射量よりも多くすることを特徴とする直噴エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直噴エンジンの制御装置であって、
前記燃焼制御手段は、前記第1運転条件から前記第2運転条件への加速時において、複数サイクルにわたって前記ポスト噴射を実施するとともに、前記加速直後からの経過サイクル数が多いほど、前記メイン噴射の噴射量を増大させる一方前記ポスト噴射の噴射量を減少させ、かつ、前記ポスト噴射の噴射タイミングを遅角側にすることを特徴とする直噴エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の直噴エンジンの制御装置であって、
前記燃焼制御手段は、前記第1運転条件から前記第2運転条件へと移行する加速時において、当該加速直後に前記内部EGR手段を前記内部EGR率が前記第2運転条件に対応する低い値となるように前記内部EGR手段を制御することを特徴とする直噴エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の直噴エンジンの制御装置であって、
前記内部EGR手段は、排気弁と吸気弁の少なくとも一方を駆動するものであり、
前記燃焼制御手段は、排気弁と吸気弁の少なくとも一方の開閉時期を変更することで前記内部EGR率を変更することを特徴とする直噴エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の直噴エンジンの制御装置であって、
前記燃焼室から排出された排ガスを吸気側に還流する外部EGR手段を備え、
前記燃焼制御手段は、前記第2運転条件のエンジン負荷が予め設定された基準負荷以上の場合には、当該第2運転条件へ移行する加速時に、前記内部EGR率を減少させつつ前記外部EGR手段を駆動して前記排ガスを吸気側に還流させることを特徴とする直噴エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直噴エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃費性能の向上等を目的として、エンジン本体の気筒に形成された燃焼室内で圧縮自着火燃焼を実施することが行われている。
【0003】
圧縮自着火燃焼では、気筒内の混合気の温度を自着火可能な温度にまで高める必要がある。そのため、通常、圧縮自着火燃焼を実施する際には、内部EGRを実施して高温の既燃ガス(内部EGRガス)を燃焼室内に残存させることにより混合気が昇温されている。そして、特許文献1に示されるように、この圧縮自着火燃焼が実施される領域では、エンジン負荷が低いほど混合気の温度が低くなりやすいことから、エンジン負荷が低いほど内部EGR率が高く設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−172665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように圧縮自着火燃焼においてエンジン負荷が低いほど内部EGR率が高く設定されている場合において、エンジン負荷が低く内部EGR率が高い運転条件から内部EGR率が低い高負荷側の運転条件へと加速すると、高温の既燃ガスである内部EGRガス量が低下する上に、燃焼室内の壁面温度が即座に高負荷側の運転条件に適応した温度にまで上昇しないことから、混合気の温度が自着火可能な温度にまで適正に高められず、失火等が生じるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、圧縮自着火燃焼領域での内部EGR率が低い運転条件への加速時において、より確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる直噴エンジンの制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、気筒に形成された燃焼室内に燃料を噴射可能な燃料噴射装置を有し、前記燃焼室内で燃料と空気との混合気を燃焼させてピストンを往復運動させる直噴エンジンの制御装置であって、エンジンの運転状態を判定する判定手段と、前記燃焼室内に既燃ガスである内部EGRガスを残存させる内部EGRを実施する内部EGR手段と、少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い領域に設定された圧縮自着火燃焼領域での運転時に、前記内部EGR手段を駆動して内部EGRを実施しつつ、前記燃料噴射装置から噴射させた燃料と空気との混合気を前記燃焼室内で自着火により燃焼させて、圧縮自着火燃焼を実施する燃焼制御手段とを備え、前記圧縮自着火燃焼領域において、前記燃焼室内の全ガス量に占める前記内部EGRガス量の割合である内部EGR率はエンジン負荷が高い側ほど低くなるよう設定されており、前記燃焼制御手段は、前記圧縮自着火燃焼領域での定常運転時において、前記燃料噴射装置に吸気行程中に燃料を噴射させ、前記圧縮自着火燃焼領域の第1運転条件から当該第1運転条件よりも前記内部EGR率が低く設定された前記圧縮自着火燃焼領域の第2運転条件へと移行する加速時において、前記燃料噴射装置に、圧縮上死点前で前記燃焼室内に燃料を噴射するメイン噴射と、膨張行程中に前記燃焼室内に燃料を噴射するポスト噴射とを実施させるとともに、前記メイン噴射の噴射量と前記ポスト噴射の噴射量とを含む総噴射量を、前記第2運転条件における定常運転時の総噴射量よりも多くすることを特徴とする直噴エンジンの制御装置を提供する(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、内部EGR率の低い第2運転条件へ移行する加速時であって、内部EGR率の低下に伴う混合気温度の低下および燃焼室の壁面温度の追従遅れが生じる場合においても、より確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。
【0009】
具体的には、本発明では、前記加速時において、総噴射量を定常運転時の総噴射量よりも多くして燃焼室内で生成される熱エネルギを定常運転時よりも多くしているため、内部EGR率の低下および燃焼室の壁面温度の追従遅れに伴う混合気の温度低下をこの熱エネルギによって補って、混合気の温度を高くすることができ、加速後早期に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。特に、膨張行程中にポスト噴射を行っているため、総噴射量を増大させつつ、有効なエンジントルクが過剰に生じてトルクショックが生じるのを回避することができるとともに、排気温度ひいては内部EGRガスの温度を高めて着火性をより一層高めることができる。
【0010】
本発明において、前記燃焼制御手段は、前記第1運転条件から前記第2運転条件への加速時において、複数サイクルにわたって前記ポスト噴射を実施するとともに、前記加速直後からの経過サイクル数が多いほど、前記メイン噴射の噴射量を増大させる一方前記ポスト噴射の噴射量を減少させ、かつ、前記ポスト噴射の噴射タイミングを遅角側にするのが好ましい(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、加速時においてトルクショックが生じるのを回避しながら適正な定常状態に移行させることができる。具体的には、定常状態に移行するまでの間は、燃焼室の壁面温度および混合気の温度が上昇するに伴って、ポスト噴射により生じた燃焼エネルギがより有効なエンジントルクに変換されやすくなっていく。これに対して、本構成では、加速直後からの経過サイクルが増加して燃焼室の壁面温度等が上昇するのに合わせて、ポスト噴射の噴射量を減少するとともに噴射タイミングを遅角させてポスト噴射により生じた燃焼エネルギが有効なエンジントルクへ変換されるのを抑制しているため、定常状態に以降するまでの間に、有効なエンジントルクが過剰に生じてトルクショックが生じるのをより確実に回避することができる。
【0012】
本発明において、前記燃焼制御手段は、前記第1運転条件から前記第2運転条件へと移行する加速時において、当該加速直後に前記内部EGR手段を前記内部EGR率が前記第2運転条件に対応する低い値となるように前記内部EGR手段を制御するのが好ましい(請求項3)。
【0013】
前述のように、本発明によれば、内部EGR率の低下を伴う加速時においても安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。そのため、本構成のように、第1運転条件から第2運転条件へ移行する加速時において、加速直後に内部EGR手段を内部EGR率が第2運転条件に設定された値となるように制御すれば、内部EGRの制御を複雑にすることなく、内部EGR率を早期に第2運転条件に設定された適正な値にすることができる。
【0014】
前記構成において、前記内部EGR手段は、排気弁と吸気弁の少なくとも一方を駆動するものであり、前記燃焼制御手段は、排気弁と吸気弁の少なくとも一方の開閉時期を変更することで前記内部EGR率を変更することで前記内部EGR率を変更するのが好ましい(請求項4)。
【0015】
このようにすれば、より早期に内部EGR率を変更することができる。
【0016】
本発明は、前記燃焼室から排出された排ガスを吸気側に還流する外部EGR手段を備え、前記燃焼制御手段は、前記第2運転条件のエンジン負荷が予め設定された基準負荷以上の場合には、当該第2運転条件へ移行する加速時に、前記内部EGR率を減少させつつ前記外部EGR手段を駆動して前記排ガスを吸気側に還流させるのが好ましい(請求項5)。
【0017】
すなわち、本発明では、前記のように、加速時にメイン噴射と膨張行程に実施するポスト噴射とを実施しており、熱発生を分割して生じさせて燃焼温度を低く抑えることができる。そのため、外部EGR手段により吸気側に還流する排ガスが応答遅れによって加速後即座に気筒内に導入されない場合であっても、燃焼温度が過剰に上昇して燃焼騒音が増大するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、圧縮自着火燃焼領域での内部EGR率が低い運転条件へ移行する加速時において、より確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムを示す概略図である。
図2図1に示すエンジンシステムの制御に係るブロック図である。
図3図1に示す燃焼室を拡大して示す断面図である。
図4】(a)通常モードにおける排気弁のリフト特性を示した図である。(b)特殊モードにおける排気弁のリフト特性を示した図である。
図5】エンジンの運転制御マップを例示する図である。
図6】エンジン負荷とEGR率の関係を示した図である。
図7】吸気行程一括噴射の噴射パターンを示した図である。
図8】加速時に生じる問題点を説明するための図である。
図9】加速時に生じる問題点を説明するための図である。
図10】(a)本発明の実施形態に係る噴射パターンを示した図である。(b)本発明の実施形態に係る噴射パターンを示した図である。
図11】本発明の実施形態に係る制御を実施した際の加速時の各パラメータの変化を示した図である。
図12】本発明の実施形態に係る制御を実施した際の加速時の各パラメータの変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る直噴エンジンの制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。エンジンシステム100は、車両に搭載されて、エンジン本体1を有する。
【0022】
エンジン本体1は、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンであり、4サイクルエンジン、すなわち、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程が順に実施されるエンジンである。エンジン本体1は、後述するように、インジェクタ(燃料噴射装置)15により燃料を気筒10(燃焼室11)内に直接噴射可能に構成された直噴エンジンである。また、エンジン本体1は、後述するように、圧縮自着火燃焼が実現されるエンジンである。
【0023】
エンジン本体1は、気筒10が形成されたシリンダブロック12とシリンダヘッド13とを有する。本実施形態では、4つの気筒10がシリンダブロック12に直列に形成されている。各気筒10内には、コンロッドを介してクランクシャフトと連結されたピストン14が往復動可能に嵌挿されている。そして、各気筒10内には、気筒10の内側面とピストン14の冠面とシリンダヘッド13とによって囲まれた燃焼室11が形成されている。
【0024】
以下、ピストン14の往復動方向を上下方向といい、シリンダブロック12に対してシリンダヘッド13が配置されている側を上側という。
【0025】
本実施形態では、熱効率の向上や圧縮自着火燃焼の安定化等を目的として、エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、15以上の比較的高い値に設定されている。エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、これに限定されるものではないが、15以上20以下程度の範囲が好ましい。
【0026】
ピストン14および燃焼室11は、図3に示すような構成を有する。ピストン14の冠面すなわち上面の径方向中央には、シリンダヘッド13および燃焼室11の天井から離間する方向すなわち下方に凹む凹状を有するキャビティ11aが形成されている。キャビティ11aは、その上端に、燃焼室11の天井向きすなわち上向きの開口部を有している。キャビティ11aの開口部の開口面積は、キャビティ11aの内部の各高さ位置での水平方向断面の面積の最大値よりも小さく設定されている。すなわち、キャビティ11aは、その開口部から所定深さまでの範囲において、上方に至るほど内径が狭くなるように上窄まり状になっている。
【0027】
シリンダヘッド13には、気筒10毎に、燃焼室11内に燃料を直接噴射するインジェクタ15が取り付けられている。インジェクタ15は、図3に示すように、その噴口がキャビティ11aの径方向中央と対向するように、燃焼室11の天井面の径方向中央から燃焼室11内に臨むように配設されている。本実施形態では、インジェクタ15は、複数の噴口を有する多噴口型であり、インジェクタ15から噴射された燃料噴霧は、燃焼室11の径方向中央から下向き放射状に広がる。インジェクタ15は、燃料供給システム(不図示)により燃料タンク(不図示)から圧送された比較的高圧の燃料を燃焼室11内に噴射する。
【0028】
シリンダヘッド13には、燃焼室11内の混合気に強制点火する点火プラグ16が気筒10毎に取り付けられている。各点火プラグ16は、その先端に設けられた電極部分がインジェクタ15の噴口近傍に位置するように配置されている。
【0029】
シリンダヘッド13には、気筒10毎に、気筒10内に吸気を導入するための吸気ポート17および気筒10内から排気を排出するための排気ポート18がそれぞれ形成されている。吸気ポート17および排気ポート18には、これら各ポート17,18、詳細には、シリンダヘッド13に形成されたこれら各ポート17,18の開口をそれぞれ開閉する吸気弁21および排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0030】
排気弁22は、排気弁駆動機構(内部EGR手段)23によって駆動される。排気弁駆動機構23は、排気バルブリフト可変機構(以下、排気VVL(Variable Valve Lift)という)23aと、排気位相可変機構(以下、排気VVT(Variable Valve Timing)という)23bとを含む。
【0031】
排気VVL23aは、排気弁22の作動モードを図4(a)に示す通常モードと、図4(b)に示す特殊モードとに切り替える。通常モードでは、排気弁22は、主に排気行程中に開弁する(開弁開始から閉弁までの期間の大部分が排気行程と重なる)。このとき、排気弁22のバルブリフトは、開弁後徐々に増大していき、最大リフトに到達すると再び徐々に減少してゼロに至る。特殊モードでは、排気弁22のバルブリフトは、通常モードと同様に、第1の開弁期間t_1中は、開弁後徐々に増大し最大リフトに到達した後再び徐々に減少していくが、そのままゼロに至ることなく、そのリフト量すなわち第1の開弁期間t_1での最大リフトよりも低いリフトを第2の開弁期間t_2維持した後ゼロに至る。排気VVL23aは、これらのモードを実現するために、カム形状が互いに異なる第1カムと第2カムとを有する。第1カムは、図4(a)に示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を1つ有する。第2カムは、図4(b)に示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を2つ有する。排気VVL23aは、第1カムと第2カムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んでおり、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を通常モードとし、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を特殊モードとする。排気VVL23aは、例えば油圧作動式である。
【0032】
排気VVT23bは、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更して排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。なお、排気VVT23bは、通常モードおよび特殊モードの各モードで、それぞれ排気弁22の開弁期間を一定に維持したまま、排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。排気VVT23bは、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての説明は省略する。
【0033】
排気VVT23bは、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程でも開弁するように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。また、排気VVT23bは、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、第2の開弁期間t_2中に排気上死点(図4(b)のTDC)がくるように、すなわち排気上死点における排気弁22のバルブリフトが第2の開弁期間t_2中に実現される比較的小さい値となるように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。このように、本実施形態では、排気弁22の作動状態が特殊モードとされることで、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程中にも開弁する排気二度開きが実施される。特に、本実施形態では、排気弁22は、途中で閉弁することなく排気上死点を挟んで排気行程と吸気行程において連続して開弁する。ここで、このように排気弁22を排気上死点を挟んで連続して開弁させた場合には、排気弁22とピストン14とが干渉するおそれがある。これに対して、本実施形態では、前述のように、排気上死点付近での排気弁22のバルブリフト量が小さい値に抑えられるため、排気弁22とピストン14との干渉を回避することができる。排気二度開きすなわち特殊モードは、高温の既燃ガスすなわち内部EGRガスを燃焼室11内に残留させていわゆる内部EGRを行うために実施される。具体的には、排気二度開きが実施されて吸気行程中にも排気弁22が開弁していると、排気行程で一旦排気ポート18に排出された排気が吸気行程中に燃焼室11内に逆流して排気すなわち高温の既燃ガスが燃焼室11内に残留する。
【0034】
そして、本実施形態では、排気二度開きが実施された状態で、排気VVT23bにより排気弁22の閉弁時期が変更されることで、燃焼室11内の全ガス量に占める内部EGRガス量の割合である内部EGR率が変更される。具体的には、排気VVT23bは、内部EGR率を低下したい場合には、排気弁22の閉弁時期を進角させて、吸気行程のより早い段階で排気弁22を閉弁させる。このように、本実施形態では、排気VVT23bによる排気弁22の閉弁時期の変更により内部EGR率が変更されるため、内部EGR率は早期に変更される。また、ポンピングロスを小さく抑えるとともにより早期に混合気の空燃比を変更できるように、混合気の空燃比が、内部EGRガス率の変更により実施される。具体的には、排気VVT23bにより、排気弁22の閉弁時期が変更され、これにより、混合気の空燃比が適正に制御される。
【0035】
吸気弁21は、吸気弁駆動機構24によって駆動される。吸気弁駆動機構24bの具体的構成は特に限定されないが、例えば、吸気弁21のバルブリフトを変更可能な吸気VVL24aと、吸気弁21の開弁時期と閉弁時期とを変更する吸気VVT24bとを含むものが挙げられる。
【0036】
各吸気ポート17には、吸気通路30が接続されている。具体的には、吸気通路30の下流端には気筒10に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート17とが接続されている。
【0037】
吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31、スロットル弁32、サージタンク33が配設されている。
【0038】
各排気ポート18には排気通路40が接続されている。具体的には、吸気通路30と同様に、排気通路40の上流端には気筒10に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート18とが接続されている。
【0039】
排気通路40には、排ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置が配設されている。本実施形態では、上流側から順に直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とが設けられている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42は、三元触媒を含んでいる。
【0040】
吸気通路30と排気通路40との間には、排気の一部を吸気に還流するため、すなわち、外部EGRを行うためのEGR装置(外部EGR手段)50が設けられている。EGR装置50は、EGR通路51と、EGRクーラ52とを含む。EGR通路51は、吸気通路30のうちのサージタンク33とスロットル弁32との間の部分と、排気通路40のうちの直キャタリスト41よりも上流側の部分とを接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通過するガスを冷却するためのものであり、EGR通路51に介設されている。本実施形態では、EGR通路51を通過するガスは、EGRクーラ52により必ず冷却される。EGR通路51には、このEGR通路51を通過する排気の流量を調整するEGR弁53が配設されている。以下、このEGR装置50を用いて排気の一部を吸気に還流することを、外部EGRを行うといい、このEGR装置50により吸気に還流された排気を外部EGRガスという場合がある。
【0041】
前記各装置は、パワートレイン・コントロール・モジュール(制御手段、以下、PCMという)60によって制御される。PCM60は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
【0042】
PCM60には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW11の検出信号が入力される。
【0043】
センサSW1は、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1である。センサSW2は、新気の温度を検出する吸気温度センサである。エアフローセンサSW1、吸気温度センサSW2は、吸気通路30のうちエアクリーナ31の下流側に配設されている。センサSW3は、外部EGRガスの温度を検出するためのEGRガス温センサである。EGRガス温センサSW3は、EGR通路51のうち吸気通路30との接続部分近傍に配置されている。センサSW4は気筒10内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサである。吸気ポート温度センサSW4は、吸気ポート17に取り付けられている。センサSW5は、排気温度を検出する排気温センサである。センサSW6は、排気圧を検出する排気圧センサである。排気温センサSW5、排気圧センサSW6は、排気通路40のうちEGR通路51の接続部分近傍に配置されている。センサSW7は、排気中の酸素濃度を検出するリニアOセンサである。リニアOセンサSW7は、排気通路40のうち直キャタリスト41の上流側に配置されている。センサSW8は、排気中の酸素濃度を検出するラムダOセンサである。ラムダOセンサSW8は、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されている。センサSW9は、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサである。センサSW10は、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサである。センサSW11は、車両のアクセルペダル(不図示)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサである。
【0044】
PCM60は、各センサSW1〜11の検出信号に基づいて種々の演算を行う。PCM60は、これらの検出信号に基づいてエンジン本体1や車両の運転条件を判定する。PCM60は、運転条件に応じてインジェクタ15、点火プラグ16、燃料供給システム、吸気VVT24b、吸気VVL24a、排気VVT23b、排気VVL23a、各種の弁(スロットル弁32、EGR弁53)のアクチュエータへ制御信号を出力して、これらを制御する。本実施形態では、PCM60が、エンジン回転数、エンジン負荷等からエンジンの運転状態を判定する判定手段、排気VVT23b、排気VVL23aを制御して内部EGR率を変更するとともに、インジェクタ15や、点火プラグ16等を制御して、燃焼室11内での混合気の燃焼形態を制御し、後述するように、CI燃焼領域において圧縮自着火燃焼を実現させる燃焼制御手段として機能する。また、PCM60は、EGR弁53を制御して、外部EGR率を変更する。
【0045】
PCM60による制御内容について次に説明する。
【0046】
図5は、横軸がエンジンの回転数、縦軸がエンジン負荷の制御マップである。本エンジンシステム100では、エンジン負荷が予め設定された燃焼切替負荷T1以上となる高負荷領域(SI(Spark Ignition)燃焼領域)では、圧縮自着火燃焼を実施すると燃焼騒音が問題となるため、点火プラグ25による点火を行って混合気を燃焼させる火花点火燃焼を実施する。一方、燃焼騒音が小さく抑えられるエンジン負荷が燃焼切替負荷T1未満の低負荷領域に設定されたCI(Compression Ignition)燃焼領域(圧縮自着火燃焼領域)では点火プラグ25により点火を行わずに混合気を自着火させて燃焼させる圧縮自着火燃焼を実施する。
【0047】
CI燃焼領域における定常運転時の制御について次に説明する。
【0048】
(1)EGR制御
CI燃焼領域において、安定した圧縮自着火燃焼を実現するためには、混合気の温度を自着火可能な温度にまで高める必要がある。そこで、CI燃焼領域では、内部EGRを実施して高温の既燃ガスである内部EGRガスを燃焼室11内に残留させ、これにより燃焼室11内および混合気の温度を高める。具体的には、CI燃焼領域では、排気弁22の作動状態を特殊モードとして排気二度開きを実施する。ただし、CI燃焼領域のうちエンジン負荷が比較的高い運転領域(図5に示す例では、エンジン負荷が基準負荷T2以上の領域)では、混合気の温度は十分に高く内部EGRガスを過剰に導入すると熱発生が急激に生じるすなわち熱発生率の最大値が過大となり燃焼騒音が許容範囲を超えるおそれがある。そのため、本実施形態では、エンジン負荷が基準負荷T2未満の第1領域CI_1領域では内部EGRのみを実施する一方、エンジン負荷が基準負荷T2以上かつ燃焼切替負荷T1未満に設定された第2領域CI_2では、内部EGRに加えて外部EGRを実施してEGRクーラ52で冷却された外部EGRガスを導入し、混合気の温度が過剰に上昇するのを抑制する。具体的には、第2領域CI_2では、排気弁22の作動状態を特殊モードとして排気二度開きを実施するとともにEGR弁53を開弁させる。
【0049】
CI燃料領域において、内部EGR率は、エンジン負荷に応じてそれぞれ適正な値に制御される。図5のエンジン回転数NE1におけるエンジン負荷に対するEGR率の変化を図6に示す。図6は、横軸をエンジン負荷とし、縦軸を燃焼室11内に導入可能なガス量を100%として内部EGRガス、外部EGRガス、新気のそれぞれの割合を示したものである。この図6に示されるように、内部EGR率は、CI燃焼領域全体においてエンジン負荷が低いほど高く設定される。エンジン負荷が低いほど混合気の温度も低くなりやすい。そのため、このように、エンジン負荷が低いほど高温の内部EGRガスの割合を増加させれば、混合気の温度を高めて着火性を良好に確保することができる。なお、図6には、エンジン負荷が所定値よりも低くなると内部EGR率を一定とする場合を示したが、エンジン負荷全体にわたってエンジン負荷の減少に伴って内部EGR率を増加させてもよい。
【0050】
(2)空燃比制御
前記第2領域CI_2のうちエンジン負荷が予め設定されたストイキ切替負荷T3以上の比較的高負荷側の領域では、燃焼温度が高くなるため、燃焼により生成される(触媒で浄化される前の)NOxいわゆるRawNOxを十分に小さく抑えることができないおそれがある。そのため、本実施形態では、第2領域CI_2のうちエンジン負荷がストイキ切替負荷T3以上の高負荷側第2領域CI_2Bでは、混合気全体の空燃比を理論空燃比にして混合気全体の空気過剰率λをλ=1に制御して、三元触媒でのNOxの浄化を可能とする。一方、エンジン負荷がT3未満の領域では、RawNOxを十分に小さく抑えることができるため、第2領域CI_2のうちエンジン負荷がストイキ切替負荷T3未満に設定された低負荷側第2領域CI_2A、および、第1領域CI_1では、燃費性能をより高めるべく、混合気全体の空燃比を理論空燃比よりもリーンとして、混合気全体の空気過剰率λをλ>1とする。
【0051】
(3)燃料噴射制御
CI燃焼領域では、より高い燃費性能よび排気性能を得るべく、図7に示すように、燃料を吸気行程中に一括して噴射する吸気行程一括噴射を実施して、空燃比リーンの均質予混合圧縮自着火燃焼を実施する。すなわち、燃料と空気とを圧縮上死点までに予め十分に混合させて混合気全体の空燃比をほぼ均一(本実施形態ではリーン)にして、圧縮上死点近傍において自着火させる。図7には、合わせて熱発生率dQ/dθを破線で示す。
【0052】
以上のように、CI燃焼領域では、定常運転において、エンジン負荷が低いほど内部EGR率が小さくされるとともに、吸気行程一括噴射が実施される。
【0053】
ここで、前記のような定常運転時の制御は、各運転条件において定常運転がなされ、これにより燃焼室11の壁面温度が安定した状態において、安定した圧縮自着火燃焼を実現できるように設定されたものである。すなわち、エンジン負荷が高く燃焼室内での発熱量が大きいほど燃焼室内の壁面温度が高いという条件での制御である。そのため、エンジン負荷が高い領域への加速時には、燃焼室内の壁面温度が加速後の運転条件における定常状態での温度にまで即座に上昇しないため、定常運転時の制御をそのまま実施したのでは、適正な圧縮自着火燃焼が実現できなくなるという問題がある。
【0054】
この点について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0055】
図8図9は、いずれも、加速時であって、時刻t1において、定常運転時の内部EGR率が高い運転条件(第1運転条件)から定常運転時の内部EGR率が低い運転条件(第2運転条件)に移行した際に、定常運転時の制御をそのまま実施して運転条件の変化に応じて単純に制御を切り替えた場合の各パラメータの時間変化を示したものであり、上から順に、総噴射量、噴射パルス、EGR率、燃焼室の壁面温度(燃焼室壁温)、着火前温度すなわち着火前の所定タイミングにおける燃焼室内の混合気の温度を示している。図9には、合わせて、燃焼温度(燃焼時の最高温度)の変化も示している。図8は、第1CI領域CI_1内で加速した際、すなわち、内部EGRのみが実施される領域内で加速した際の変化である。図9は、第1CI領域CI_1から高負荷側第2CI領域CI_2Aへ加速した際、すなわち、外部EGRが実施されない領域から外部EGRが実施されるとともに空気過剰率λがλ=1に設定された領域へ加速した際の変化である。なお、噴射パルスのグラフでは、縦軸がクランク角度であって斜線をひいた部分が噴射パルスを示している。すなわち、斜線をひいた部分の進角側の縁が噴射開始タイミングであり、遅角側の縁が噴射停止タイミングであり、この部分の縦方向の長さがパルス幅を表している。そのため、この縦方向のパルス幅が大きいほど噴射量が大きいことをあらわす。
【0056】
図8において、時刻t1での加速に伴い総噴射量は増大される。具体的には、加速前後においていずれも吸気行程一括噴射が実施されるとともに、加速に伴い噴射開始タイミングが同一のまま噴射パルス幅が大きくされる。そして、時刻t1において内部EGR率が低くされる。前述のように、本実施形態では、内部EGR率は、排気VVT23bによる排気弁22の閉弁タイミングの変更により早期に変更される。そのため、内部EGR率は加速後即座に加速先の運転条件に対して設定された適正な値となる。一方、燃焼室の壁面温度は、加速後ゆるやかにしか上昇せず、加速直後では、ほぼ加速前の温度のままであって加速後の運転条件の定常状態における適正温度よりも低い温度となる。このように、燃焼室の壁面温度が適正温度よりも低く、さらに、内部EGR率が早期に低下することで、加速直後において、着火前温度は、加速後の運転条件の定常状態における適正温度および混合気が自着火可能な温度(自着火可能温度)を下回ってしまう。
【0057】
このように、定常運転時の制御をそのまま実施した場合には、加速後の着火前温度が混合気の自着火が可能な温度を下回り、これに伴い、安定した圧縮自着火燃焼が実現されなくなる。詳細には、混合気が自着火せず失火する、あるいは、失火に伴い発生した多量の未燃燃料が内部EGRガスとして残留して次サイクルで急激に燃焼して燃焼変動が生じてしまう。
【0058】
図9においても、加速に伴い内部EGR率が低下する一方、燃焼室壁温の上昇が遅れるために、時刻t3において着荷前温度が自着火可能な温度を下回ってしまい、失火等が生じる。図9に示した場合では、さらに、加速先の運転条件において外部EGRが実施されるよう設定されていることで、燃焼騒音が増大してしまうという問題が生じる。具体的には、時刻t1での加速に伴い、EGR弁53は開弁され外部EGRが開始される。しかしながら、外部EGRガスは、排気通路40、EGR通路51および吸気通路30を経て初めて燃焼室11に導入される。そのため、外部EGRガスの導入には遅れが生じ、外部EGR率は加速後徐々にしか増加しない。そのため、図9に示すように、時刻t2までの間およびその後しばらくの間、燃焼温度が非常に高くなってしまい、燃焼騒音が許容値を超えてしまう。なお、図9に示す例では、加速先の運転条件において空気過剰率λがλ=1に設定されている。そして、前述のように、本実施形態では、内部EGR率の変更によって混合気の空燃比が制御される。そのため、この例では、時刻t1から時刻t3までの間は、外部EGRガスの導入が遅れることに伴って内部EGRガスが多めに導入され、これに伴い時刻t2までは着火前温度は混合気の自着火が可能な温度以上に維持され、時刻t2以降で失火が生じる。そして、内部EGR率が加速先の運転条件における本来の値になる時刻t3くらいから、燃焼室11の壁面温度および内部EGRガスの温度は徐々に高くなるが、時刻t4までは、着火前温度が十分に高くならず、失火あるいは燃焼変動等が生じる。
【0059】
前記の問題を解決するべく、本エンジンシステム100では、CI燃焼領域内における内部EGR率が高い運転領域から低い運転領域への加速時において、燃焼室11内に噴射する総噴射量を加速先の運転条件における定常運転時の総噴射量よりも多くするとともに、図10(a)に示すように、この総噴射量の一部のみを、吸気行程で噴射させ、残りを膨張行程で噴射させる。すなわち、吸気行程でメイン噴射させるとともに、膨張行程でポスト噴射を行う。なお、図10(a)には、実線で噴射パルスを示すとともに破線で熱発生率を示している。
【0060】
そして、加速後からの経過サイクル数が増加するにしたがって、総噴射量を減量していく。このとき、図10(b)に示すように、メイン噴射の噴射量を増大させつつ、ポスト噴射の噴射量を減少させていく。なお、図10(b)には、実線で噴射パルスを示すとともに破線で熱発生率を示している。
【0061】
詳細には、本実施形態では、メイン噴射の噴射量は、加速前の運転条件における総噴射量よりも多くされる。また、メイン噴射の噴射開始タイミングは、加速後の運転条件の定常運転時におけるタイミングと同一とされる。ここで、本実施形態では、吸気行程での噴射の噴射開始タイミングは一定とされており、加速前後においてメイン噴射の噴射開始タイミングは同じタイミングに維持される。そして、経過サイクル数が増加するに従って、メイン噴射の噴射パルス幅が増大されていく。
【0062】
また、ポスト噴射の噴射タイミングは、ポスト噴射された燃料が確実に燃焼するタイミングに設定される。例えば、ポスト噴射の噴射開始タイミングは、加速直後において圧縮上死点後20°〜圧縮上死点後50°CA程度に設定される。そして、経過サイクル数が増加するに従って、ポスト噴射の噴射開始タイミングが遅角され、かつ、ポスト噴射の噴射パルス幅が減少されていく。本実施形態では、ポスト噴射の噴射終了タイミングは一定に維持される。
【0063】
このようなメイン噴射とポスト噴射とが実施されることで、図10(a)、(b)に示すように、2つに分割された熱発生が生じる。
【0064】
以上の制御が実施された際の、総噴射量、噴射パルス、EGR率、燃焼室の壁面温度、着火前温度の時間変化を図11図12に示す。図11は、図8に示した例と同じ加速条件での変化であり、第1CI領域CI_1内で加速した際、すなわち、内部EGRのみが実施される領域内で加速した際に、前記制御を実施した際の変化である。図12は、図9に示した例と同じ加速条件での変化であり、第1CI領域CI_1から高負荷側第2CI領域CI_2Aへ加速した際、すなわち、外部EGRが実施されない領域から外部EGRが実施されるとともに空気過剰率λがλ=1に設定された領域へ加速した際の変化である。図11、12には、それぞれ、対応する図8図9の各変化を破線で示している。
【0065】
図11において、時刻t1での加速に伴い総噴射量は増大されるとともに、吸気行程中のメイン噴射と膨張行程中のポスト噴射とが実施される。このとき、総噴射量は、定常運転時の総噴射量すなわち破線で示した図8に示した例での総噴射量よりも増大される。詳細には、メイン噴射量は、加速前の条件よりも多い一方定常運転時の量よりも少ない量とされ、ポスト噴射量は、メイン噴射量よりも多い量とされる。メイン噴射の噴射開始タイミングは、加速前および加速後の定常運転時のタイミングと同じ値に維持される。そして、時間が経過するほど、すなわち、加速直後からの経過サイクルが増加するほど、メイン噴射量は徐々に増大され、ポスト噴射量は徐々に減少されていく。図11に示す例では、1サイクル進む毎に噴射量は一定量ずつ増減される。このとき、メイン噴射は、その噴射開始タイミングが一定に維持された状態でその噴射パルスが増大されていく。一方、ポスト噴射は、その噴射終了タイミングが一定に維持された状態でその噴射パルスが減少されていく。すなわち、ポスト噴射の開始タイミングは、徐々に遅角されていく。図11に示す例では、1サイクル進む毎にポスト噴射の噴射開始タイミングすなわち噴射タイミングは一定量ずつ増減される。そして、所定時間が経過すると、メイン噴射とポスト噴射とを停止して、定常運転時の噴射制御すなわち吸気一括噴射を実施する。図11に示す例では、燃焼室の壁面温度が定常運転時の温度付近になると、吸気行程一括噴射に切り替える。なお、吸気行程一括噴射に切り替えるタイミングはこれに限らず、加速直後からの経過時間あるいは経過サイクル数に応じてこの噴射制御を切り替えてもよい。
【0066】
以上の噴射制御が実施されることで、内部EGR率が加速後即座に低下するにも関わらず、燃焼室の壁面温度は加速直後から急速に上昇するとともに、着火前温度は、混合気が自着火可能な温度以上に維持される。このようにして、失火等が生じることなく加速前後において安定した圧縮自着火燃焼が継続される。
【0067】
このように、本エンジンシステム100の噴射制御では、総噴射量を増大させて燃焼室11内で発生する熱エネルギを多くしているため、燃焼室の壁面温度を早期に上昇させることができる。そして、図11には示していないが、熱エネルギを多くすることで排気温度を上昇させて内部EGRガスの温度を上昇させることができ、これら燃焼室の壁面温度の上昇およびこの内部EGRガス温度の上昇によって、混合気の温度を高く維持して安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。特に、本エンジンシステム100では、総噴射量を増大させつつ、その一部を膨張行程でのポスト噴射により噴射している。そのため、総噴射量を増大させつつエンジントルクが過剰に生じてトルクショックが生じるという事態を確実に回避することができる。すなわち、膨張行程で噴射された燃料の燃焼エネルギは有効なエンジントルクに変換されにくい。そのため、総噴射量を増大させて燃焼エネルギを増大させつつエンジントルクを適正な値に維持することができる。また、膨張行程でポスト噴射を実施すれば排ガスの温度を効果的に高めることができため、本エンジンシステム100では、混合気の着火性をより確実に高めることができる。
【0068】
また、経過サイクル数が増大するほど、メイン噴射の噴射量を増大させ、かつ、ポスト噴射の噴射量を減少させつつ、総噴射量を減少させているとともに、経過サイクル数が増大するほどポスト噴射の噴射タイミング(噴射開始タイミング)を遅角させており、よりスムーズに吸気行程一括噴射に移行できるとともに、トルクショックが生じるのを回避することができる。すなわち、加速後、燃焼室の壁面温度および混合気の温度が上昇するに伴って、ポスト噴射により生じた燃焼エネルギはより有効なエンジントルクに変換されやすくなっていくが、前記のように制御することで、ポスト噴射により生じた燃焼エネルギが有効なエンジントルクに変換されて過剰なエンジントルクが生じるのを回避することができる。
【0069】
図12においても、図11に示した場合と同様に時刻t1の加速後、総噴射量が増大され、吸気行程でのメイン噴射と膨張行程でのポスト噴射が実施されるとともに、メイン噴射の噴射量が徐々に増大されていき、ポスト噴射の噴射量が徐々に減少される。また、ポスト噴射の噴射タイミングが徐々に遅角されていく。そして、時刻t3付近の、EGR率が適正に制御され内部EGR率が低下し外部EGR率が適正な値にされ、かつ、燃焼室の壁面温度が十分に上昇していない状態においても、着火前温度が混合気が自着火可能な温度以上に維持され失火等が回避される。
【0070】
さらに、図12においては、燃焼温度が許容温度以下に抑えられており、燃焼騒音が生じるのが回避される。すなわち、図9について前述したように、第1CI領域CI_1から高負荷側第2CI領域CI_2Aへ加速した際、すなわち、外部EGRが実施されない領域から外部EGRが実施される領域へ加速した際において加速前後で吸気行程一括噴射を実施した場合には、外部EGRガスの導入遅れに伴い燃焼温度が過剰に高まり燃焼騒音が許容値を超えるという問題があったが、本エンジンシステムでは、この問題が解決される。
【0071】
これは、加速後に、吸気行程中のメイン噴射とポスト噴射とが実施されることで、図10(a)(b)に示したように、熱発生率が分割されて、熱発生率の最大値が小さく抑えられたことによる。
【0072】
以上のように、本実施形態に係るエンジンシステム100では、CI燃焼領域において、内部EGR率が低く設定された運転条件への加速時において、圧縮上死点前のメイン噴射と、有効なエンジントルクに変換されにくい膨張行程でのポスト噴射とを実施しつつ、総噴射量を定常運転時の総噴射量よりも多くしているため、過剰なエンジントルクが生じるのを回避しながら燃焼室内で生成される熱エネルギを定常運転時よりも多くして内部EGR率の低下および燃焼室の壁面温度の追従遅れに伴う混合気の温度低下をこの熱エネルギによって補うことができ、トルクショックを回避しつつ、失火等を回避してより確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。また、外部EGRが実施される運転条件への加速時においては、熱発生を分割して生じさせることがで燃焼温度を低く抑えることができ、外部EGRの遅れに伴う燃焼騒音の増大をも抑制することができる。
【0073】
特に、加速直後からの経過サイクル数が増大するほど、総噴射量を少なくし、メイン噴射の噴射量を多くする一方ポスト噴射の噴射量を少なくするとともに、ポスト噴射の噴射タイミングを遅角側としているので、加速途中にトルクショックが生じるのを回避しつつ定常運転時の制御にスムーズに移行することができる。
【0074】
ここで、前記実施形態では、経過サイクル数が1つ増える毎に噴射量、噴射タイミングを一定量ずつ増減する場合について示したが、増減方法はこれに限らない。
【0075】
また、前記実施形態では、内部EGRを排気二度開きにより実施する場合について示したが、内部EGRを実施するための具体的手段はこれに限らない。例えば、圧縮上死点を挟んで排気弁22と吸気弁21とを閉弁させて、圧縮上死点付近においてこれら両弁が閉弁しているネガティブオーバーラップ期間を設けるようにしてもよい。この場合には、このネガティブオーバーラップ期間の期間を変更することで内部EGR率を変更させればよい。このように内部EGR率を、排気弁22あるいは吸気弁21の開弁時期を異ならせることで変更すれば、内部EGR率をより早期に適正な値に変更することができる。
【0076】
1 エンジン(エンジン本体)
10 気筒
11 燃焼室
15 インジェクタ(燃料噴射装置)
23 排気弁駆動機構(内部EGR手段)
50 EGR装置(外部EGR手段)
60 PCM(判定手段、燃焼制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12