特許第6244911号(P6244911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6244911-癌の検出方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244911
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】癌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20171204BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20171204BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20171204BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20171204BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20171204BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171204BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20171204BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   G01N33/574 A
   G01N33/53 Y
   G01N33/48 P
   G01N33/543 545A
   A61K39/395 E
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   A61P35/02
   !C07K14/47ZNA
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-535984(P2013-535984)
(86)(22)【出願日】2013年7月19日
(86)【国際出願番号】JP2013069642
(87)【国際公開番号】WO2014014082
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-160751(P2012-160751)
(32)【優先日】2012年7月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180954
【弁理士】
【氏名又は名称】漆山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】井戸 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】岡野 文義
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/016527(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/096528(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を用いて、抗原抗体反応により、生体試料中のCAPRIN−1の発現量を測定することを含む、癌の検出方法。
【請求項2】
測定すべき前記CAPRIN−1が
(a)配列表の配列番号2〜30のうち偶数の配列番号に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は
(b)前記ポリペプチドと85%以上の配列同一性を有するポリペプチド
である、請求項1に記載の癌の検出方法。
【請求項3】
前記生体試料が、ヒト、イヌ又はネコ由来である、請求項1又は2に記載の癌の検出方法。
【請求項4】
前記生体試料がイヌ由来であり、測定すべき前記CAPRIN−1は配列番号6、8、10、12又は14に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項5】
前記生体試料がヒト由来であり、測定すべき前記CAPRIN−1は配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項6】
測定されたCAPRIN−1発現量が健常個体と比較して有意に高い場合に、癌治療薬としての前記抗体の標的となる癌の存在が示される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項7】
前記CAPRIN−1の発現量の測定は、免疫学的アッセイ法を用いて行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項8】
前記免疫学的アッセイ法が、ELISA及び/又は免疫組織化学染色法である、請求項7に記載の癌の検出方法。
【請求項9】
前記生体試料が体液、組織又は細胞である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項10】
前記癌が、乳癌、脳腫瘍、食道癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、腎臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、膵臓癌、大腸癌、皮膚癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、骨肉腫及び線維肉腫からなる群より選ばれる少なくとも1つの癌である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項11】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、配列番号70に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び71に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の癌の検出方法。
【請求項12】
配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を含むことを特徴とする、癌診断薬又はキット。
【請求項13】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、配列番号70に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び71に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である、請求項12に記載の癌診断薬又はキット。
【請求項14】
配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を用いて生体試料中のCAPRIN−1の発現量を測定し、その発現量が健常個体と比較して統計学的に有意に高い場合に、CAPRIN−1標的薬を該生体試料が由来する個体に投与するのに適した癌治療薬であることが示される、個体別癌治療薬の選択を補助する方法。
【請求項15】
前記CAPRIN−1標的薬が、CAPRIN−1と免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片であることを特徴とする、請求項14に記載の個体別癌治療薬の選択を補助する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CAPRIN−1を腫瘍マーカーとする癌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は全死亡原因の第一位を占める疾患であり、現在行われている治療は手術療法を主体に放射線療法と化学療法を組み合わせたものである。これまでの医療技術の進歩により、癌種によっては早期発見できれば治せる可能性の高い疾患となってきている。そのため、癌患者の体力的、経済的負担のない、簡便に検査できる癌の検出方法が求められている。
【0003】
最近では、腫瘍マーカー等の腫瘍生産物を測定する方法が普及してきた。腫瘍生産物とは、腫瘍に関連する抗原、酵素、特定のタンパク質、代謝産物、腫瘍遺伝子、腫瘍遺伝子生産物及び腫瘍抑制遺伝子等を指し、癌胎児性抗原CEA、糖タンパク質CA19−9、前立腺特異抗原PSA、甲状腺で産生されるペプチドホルモンであるカルシトニン等が一部の癌で腫瘍マーカーとして癌診断に活用されている。しかし、他の多くの癌種においては、癌診断に有用な腫瘍マーカーは存在しない。また、現在知られている腫瘍マーカーの大部分は、体液中にごく微量(pg/mLオーダー程度)にしか存在しないため、それらを検出するためには、高感度な測定法や特殊な技術が必要とされる。このような現状の中で、各種癌を簡便な操作で高感度に検出できる新規な癌検査手段が提供できれば、各種癌に対する診断用途が開かれると期待される。
【0004】
一方、近年の新しい手術法の開発や新たな抗癌剤の発見にも関わらず、一部の癌を除いて、多くの癌では効果的な癌診断技術が確立されていない。それ故、癌を早期に発見することができず、癌の治療成績はあまり向上していないのが現状である。
【0005】
近年、分子生物学や癌免疫学の進歩によって、癌に特異的に反応する抗体や、癌化や癌の増悪に関連する癌抗原に対する分子標的薬等、癌抗原類をターゲットにした特異的癌治療法への期待が高まっている。中でも、癌細胞上の抗原タンパク質を標的にした、癌を治療するための抗体医薬が複数上市され、癌治療に用いられている。抗体医薬は、癌特異的治療薬として一定の薬効が得られていることから注目されているが、標的となる抗原タンパク質の大部分は正常細胞にも発現するものであり、抗体投与の結果、癌細胞だけでなく、抗原が発現する正常細胞も障害されてしまい、その結果生じる副作用が問題になっている。また、癌患者によって病因は様々であるため癌治療の効果は個人差が極めて大きい。例えば、手術、化学療法あるいは放射線療法において、癌の進行段階によりその治療及び予後は大きく左右される。個体の多様性により、同じ癌治療薬に対しても個々人で異なる感受性をもつことが知られており、ある患者で有効な薬が他の患者でも有効であるとは限らない。
【0006】
そこで、予め患者の疾患関連遺伝子やタンパク質の発現を測定し、ある特定の薬物が特定の遺伝子又はタンパク質を発現している癌患者に対して有効であるかどうか評価した上で、その癌患者への治療薬の投与の決定がなされている。具体的には、ある種の癌に対する疾患関連遺伝子やタンパク質を測定する検出法を用いて、臨床現場で癌患者由来の試料、例えば血清や組織中に癌抗原が存在するか否かを検査した後に癌抗原特異的な治療薬の投与の決定がなされている。例えば、大腸癌患者の癌組織を、免疫組織化学染色EGFR検出法「EGFRpharm(DAKO社)」により評価し、大腸癌におけるアービタックスの有効性を予測した後に、アービタックスの投与を決定している。また、乳癌患者の癌組織を、免疫組織化学染色Her2検出法「ハーセプテスト」により評価し、乳癌におけるハーセプチンの有効性を予測した後に、ハーセプチンの適用を決定している。
【0007】
ところで、コンパニオンアニマルは家族の一員として飼育され、飼い主と同様の生活習慣を持っていることが多い。そのため、コンパニオンアニマルの癌罹患により、飼い主が将来癌を発症する危険性が高いことを予測することができると言われている。
【0008】
代表的なコンパニオンアニマルであるイヌは、ヒトと比べ7倍早く年を取ることが知られている。現在、イヌの飼育数は、日本では約670万頭、また米国では約1764万頭ともいわれている。狂犬病予防接種のほかに5種、7種、8種等の混合ワクチンが一般に普及し、イヌパルボウィルス感染症、イヌジステンパーウィルス感染症、イヌパラインフルエンザ(ケンネルコフ)、イヌアデノウィルス2型感染症(ケンネルコフ)、イヌ伝染性肝炎、イヌコロナウィルス感染症、及びレプトスピラ病といった致死率の高い感染症が減少した。そのため、イヌの平均寿命は延び、7歳以上の高齢犬は全飼育数の35.5%を占めている。死亡原因もヒトと同じく癌や高血圧、心臓病等が増加の一途をたどっている。米国では1年間に約400万頭のイヌが癌と診断されており、日本においても潜在的に約160万頭に何らかの腫瘍があるといわれている。しかしながら、コンパニオンアニマルは、ヒトのように健康診断が普及していないため発見が遅れ、腫瘍が大きくなって初めて飼い主が気づき、来院することが多い。その大きくなってしまった腫瘍が悪性である場合、手術等の外科的療法や抗癌剤等の投薬を行ったとしても、すでに手遅れとなる場合がほとんどである。そのため、獣医が悪性と判断した場合には手術せずに抗癌剤治療を行うのが一般的である。手術を行う場合にも、マージン確保の大きさや手術中の血液、細胞飛散対策といった手術中の対策も厳重に施す必要がある。手術後すぐに抗癌剤治療を開始し、経過観察も短い間隔で行うことが望ましい。したがって、癌に罹ったコンパニオンアニマルにおいても癌治療薬の投薬は必須であり、ある種の癌に対する疾患関連遺伝子やタンパク質を測定する検出法が存在すれば、これまでよりも効果的な治療が可能になり、飼い主にとっても獣医にとってもメリットが大きい。
【0009】
Cytoplasmic−and proliferation−associateed protein 1(CAPRIN−1)は、休止期の正常細胞が活性化や細胞分裂を起こす際に発現し、また細胞内でRNAと細胞内ストレス顆粒を形成してmRNAの輸送、翻訳の制御に関与すること等が知られている細胞内タンパク質である。一方で、本発明者らは、乳癌細胞の膜表面にCAPRIN−1が高発現していること、CAPRIN−1に対する抗体が乳癌細胞に対して強い抗腫瘍効果を発揮することを明かにした(特許文献1)。また、細胞表面に発現しているCAPRIN−1に結合する抗体を用いて、患者に由来する試料中のCAPRIN−1の発現を測定することにより、癌の検出ならびに癌の悪性度を評価できることが報告されている(特許文献2)。すなわち、細胞膜タンパク質の1つであるCAPRIN−1は癌治療等のターゲットとなりうることが記載されている。一方、上述したように、癌患者の多様性から、CAPRIN−1を標的とした治療薬、例えば抗体の投与を決定するためには、予め癌患者由来試料中のCAPRIN−1の発現を検証する必要がある。しかし、このように特異的な治療薬を適用するためのCAPRIN−1の検出方法に関する報告はなく、また癌患者試料を用いた癌を検出する試薬は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2010/016526
【特許文献2】WO2010/016527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、癌の診断に有用な癌の検出手段を提供することである。また、癌患者に対するCAPRIN−1を標的とする治療薬の投与を決定するために、癌患者試料中のCAPRIN−1を検出し、その発現量を決定する癌の検出方法、癌診断薬及びキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、イヌ精巣由来cDNAライブラリーと担癌犬の血清を用いたSEREX法により、担癌生体由来の血清中に存在する抗体が結合するタンパク質をコードするcDNAを取得した。そのcDNAを基にして、配列番号6、8、10、12及び14で示されるアミノ酸配列を有するイヌCAPRIN−1を作製した。また、取得した遺伝子のヒト相同性遺伝子を基にして、配列番号2及び4で示されるアミノ酸配列を有するヒトCAPRIN−1を作製した。そして、CAPRIN−1をコードする遺伝子が、イヌ及びヒトの精巣ならびに悪性の癌細胞において特異的に発現すること(後述の実施例1を参照)、CAPRIN−1のアミノ酸配列を基に作製された組換えポリペプチドを抗原として作製したモノクローナル抗体が様々な癌組織中のCAPRIN−1と結合すること、及びCAPRIN−1をその表面に有する癌細胞を障害しうることを見出し、その結果、CAPRIN−1が癌治療標的になるという知見を得た。さらに、上述したモノクローナル抗体を利用して、癌患者由来試料から特異的にCAPRIN−1を検出できることを見出した。すなわち、本発明は、生体試料に対して行う癌の検出方法であり、CAPRIN−1の発現を測定することを含む方法を提供する。また、上述のモノクローナル抗体を用いた免疫学的アッセイ法、すなわち癌患者由来血清によるELISA法及び癌組織による免疫組織化学染色法等により、癌患者由来試料中のCAPRIN−1を検出し、その発現量を評価する方法を確立した。また、その方法を適用して癌由来試料を評価し、その結果からCAPRIN−1を発現し、かつその量が高い患者に対しては、CAPRIN−1を標的とする治療薬の適用が可能になることを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
本発明は、生体試料に対して行なう方法であって、該試料中のCAPRIN−1を検出し、その発現量を測定する癌の検出方法を提供する。また、CAPRIN−1に対する治療薬を癌患者に投与する前に、組織中のCAPRIN−1の発現量を測定することによって、CAPRIN−1を標的とする治療薬、例えば抗体等をその癌患者に適用できるか、その有効性を予測することによって、CAPRIN−1に対する治療薬の適用性を明らかにする診断方法を提供する。さらに、本発明は、CAPRIN−1と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片を含む癌診断薬又はキットを提供する。
【0014】
具体的には、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
(1)配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して免疫学的反応性を有する抗体を用いて、抗原抗体反応により、生体試料中のCAPRIN−1発現量を測定することを含む、癌の検出方法。
【0016】
(2)測定すべき前記CAPRIN−1が(a)配列表の配列番号2〜30のうち偶数の配列番号に示されるいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は(b)該CAPRIN−1と85%以上の配列同一性を有するポリペプチドである、上記(1)に記載の癌の検出方法。
【0017】
(3)前記生体試料が、ヒト、イヌ又はネコ由来である、上記(1)又は(2)に記載の癌の検出方法。
【0018】
(4)前記生体試料がイヌ由来であり、測定すべき前記CAPRIN−1は配列番号6、8、10、12又は14に示されるアミノ酸配列を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0019】
(5)前記生体試料がヒト由来であり、測定すべき前記CAPRIN−1は配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列を有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0020】
(6)測定されたCAPRIN−1発現量が健常個体と比較して有意に高い場合に、癌治療薬としての前記抗体の標的となる癌の存在が示される、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0021】
(7)前記CAPRIN−1の発現の測定は、免疫学的アッセイ法を利用する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0022】
(8)前記免疫学的アッセイ法が、ELISA及び/又は免疫組織化学染色法である、上記(7)に記載の癌の検出方法。
【0023】
(9)前記試料が体液、組織又は細胞である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0024】
(10)前記癌が、乳癌、脳腫瘍、食道癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、腎臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、膵臓癌、大腸癌、皮膚癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、骨肉腫、及び線維肉腫からなる群より選ばれる少なくとも一の癌である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0025】
(11)前記抗体又はその抗原結合性断片が、配列番号70に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び71に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である、上記(1)〜(10)のいずれかに記載の癌の検出方法。
【0026】
(12)配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を含むことを特徴とする癌診断薬又はキット。
【0027】
(13)前記抗体又はその抗原結合性断片が、配列番号70に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び71に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片である上記(12)に記載の癌診断薬又はキット。
【0028】
(14)配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を用いて生体試料中のCAPRIN−1の発現量を測定し、その発現量が健常個体と比較して統計学的に有意に高い場合に、CAPRIN−1標的薬を該生体試料が由来する個体に投与するのに適した癌治療薬として選択することを決定する、個体別癌治療薬の選択方法。
【0029】
(15)前記CAPRIN−1標的薬が、CAPRIN−1と免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片であることを特徴とする、上記(14)に記載の個体別癌治療薬の選択方法。
【0030】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2012-160751号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、癌患者から分離された試料中のCAPRIN−1の発現量を測定することのできる新規な癌の検出方法が提供される。後述の実施例において具体的に示されるように、CAPRIN−1(又はCaprin−1ともいう)のアミノ酸配列を基に作製した組換えポリペプチドを抗原として作製した抗体は、癌患者の血清や組織中のCAPRIN−1と特異的に反応する。また、下記実施例に記載される通り、様々な癌組織において、CAPRIN−1自体が特異的に高発現していることから、癌患者から分離した試料中のCAPRIN−1を検出し、その発現量を測定することによって、癌の検出が可能になる。また、CAPRIN−1を標的とした治療薬、例えば抗体医薬に対して感受性があるか否かを予め判定することにより、本治療薬を適用可能な患者の選抜が可能になる。すなわち、本発明を癌患者に適用し、CAPRIN−1を検出し、その発現量を予め測定することによって、抗CAPRIN−1抗体を用いたより効率的な治療の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】CAPRIN−1をコードする遺伝子の、正常組織及び腫瘍細胞株での発現パターンを示す図である。参照番号1;CAPRIN−1タンパクをコードする遺伝子の発現パターン、参照番号2;GAPDH遺伝子の発現パターンを示す。最上段のパネルはイヌ正常組織、左中段のパネルはイヌ乳癌組織、右中段のパネルはヒト乳癌細胞株、最下段のパネルは各種のヒト癌細胞株についての結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の癌の検出方法では、生体試料中のCAPRIN−1を検出し、その発現量を測定する。癌患者試料中のCAPRIN−1の発現量を測定する方法としては、例えば、抗CAPRIN−1抗体を用いた免疫学的アッセイ法により解析することができる。このような方法は、その多くが当該技術分野で公知であり、例えば、免疫組織化学的解析、ウエスタンブロット解析、免疫沈降、分子結合アッセイ、ELISA、生化学的酵素活性アッセイ等、抗体を使用する免疫学的アッセイ法が適用可能である。なお、本明細書における「発現量」は、細胞内におけるタンパク質の蓄積量及び存在量を含む。
【0034】
試料中のCAPRIN−1の発現は、実施例に示すスコア値に分類することにより区別することができる。そのスコア値が高ければ高い程、癌患者の癌組織や癌血清中に測定対象になっているCAPRIN−1が多く含まれていることを示す。なお、本発明において、「測定」という用語には、検出、定性、定量及び半定量のいずれもが包含される。
【0035】
配列番号6、8、10、12又は14に示されるアミノ酸配列は、イヌのCAPRIN−1のアミノ酸配列である。該アミノ酸配列を有するイヌCAPRIN−1は、イヌ精巣由来cDNAライブラリーと担癌犬由来の血清を用いたSEREX法により、担癌犬由来の血清中に特異的に存在する抗体と結合するポリペプチドとして同定されたものである(実施例1参照)。上記の方法によりイヌの組織中の抗原たる配列番号6、8、10、12又は14のCAPRIN−1自体を測定することで、CAPRIN−1を標的とする治療薬に対する患者の感受性の有無を診断することができる(実施例参照)。なお、本明細書で使用する「アミノ酸配列を有する」とは、アミノ酸残基がそのような順序で配列しているという意味である。したがって、例えば、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」とは、配列番号2に示されるMet Pro Ser Ala・・(中略)・・Gln Gln Val Asnのアミノ酸配列がその順序で連結してなる、709アミノ酸残基のサイズのポリペプチドを意味する。本明細書では、「配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」を「配列番号2のポリペプチド」と略記することがある。「塩基配列を有する」という表現についても同様である。この場合、「有する」という用語は、「からなる」という表現で置き換えてもよい。
【0036】
また、本明細書中で使用する「ポリペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子をいい、構成するアミノ酸数が多いポリペプチド分子のみならず、アミノ酸数が少ない低分子量の分子(オリゴペプチド)や、全長タンパク質も包含される。本発明では配列番号2〜30のうち偶数の配列番号に示すアミノ酸配列を有するCAPRIN−1の全長タンパク質もポリペプチドに包含される。
【0037】
本発明の方法では、配列番号6、8、10、12又は14で示されるイヌCAPRIN−1以外の、その他の哺乳動物のCAPRIN−1も測定対象となる。本明細書では、以下、その他の哺乳動物のCAPRIN−1をイヌCAPRIN−1に対する「相同因子」(又は「ホモログ」)ということがある。また、単に「CAPRIN−1」という場合には、イヌに限らず、他の哺乳動物由来のCAPRIN−1も包含する。本発明の方法で測定対象となるその他の哺乳動物のCAPRIN−1としては、例えば、ヒトCAPRIN−1、ネコCAPRIN−1等が挙げられるが、これらに限定されない。下記実施例に具体的に記載される通り、ヒトCAPRIN−1をコードするmRNAは、配列番号6、8、10、12又は14で示されるイヌCAPRIN−1同様、ヒトの精巣と癌細胞で有意に高発現しているが、健常ヒト体内では該抗ヒトCAPRIN−1抗体が検出されない。また、抗ネコCAPRIN−1抗体は、健常ネコ体内では検出されず、担癌ネコでのみ検出される。したがって、イヌ以外の哺乳動物におけるCAPRIN−1の発現量を測定した場合であっても、該哺乳動物へのCAPRIN−1を標的とする治療薬の適否を判定することができる。
【0038】
なお、ヒトCAPRIN−1をコードする塩基配列、及びそのアミノ酸配列は、配列表の配列番号1及び3、及び2及び4にそれぞれ示される通りである。ヒトCAPRIN−1のイヌCAPRIN−1に対する配列同一性は塩基配列で94%、アミノ酸配列で98%である。イヌとヒトのように遺伝的に遠縁な哺乳動物間であっても、それぞれのCAPRIN−1のアミノ酸配列の配列同一性は98%と非常に高いことから、ヒト以外の哺乳動物のCAPRIN−1とイヌCAPRIN−1との間でも85%程度以上の高い配列同一性を有するものと考えられる。すなわち、本発明の方法において測定対象となるCAPRIN−1は、特に限定されないが、配列番号6、8、10、12又は14に示されるイヌCAPRIN−1のアミノ酸配列と好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上の配列同一性を有する。
【0039】
通常、タンパク質等のような、複雑な構造をとる分子量の大きい抗原物質の場合、分子上に構造の異なる複数のエピトープが存在している。したがって、生体内では、そのような抗原物質に対し、複数のエピトープをそれぞれ認識して結合する複数種類の抗体が生産される。すなわち、生体内でタンパク質等の抗原物質に対して生産される抗体は、複数種類の抗体の混合物であるポリクローナル抗体である。本願発明者らが見出した、担癌に罹患した生体由来の血清中に特異的に存在し、組換えCAPRIN−1と抗原抗体反応により特異的に結合する抗体もまた、ポリクローナル抗体である。なお、本発明において「ポリクローナル抗体」といった場合には、抗原物質を体内に含む生体由来の血清中に存在する抗体であって、該抗原物質に対して該生体内で誘導された抗体を指す。
【0040】
抗原として用いるペプチドの好ましい具体例としては、配列番号2〜30のうち偶数の配列番号のポリペプチド又はその断片が挙げられる。
【0041】
なお、配列番号2〜30のうち偶数の配列番号(すなわち、配列番号2,4,6・・・28,30)のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列はそれぞれ、配列番号1〜29のうち奇数の配列番号(すなわち、配列番号1,3,5・・・27,29)に示されている。
【0042】
一般に、タンパク質抗原において、該タンパク質を構成するアミノ酸配列のうち少数のアミノ酸残基が置換され、欠失され、付加され、又は挿入された場合であっても、元のタンパク質とほぼ同じ抗原性を有している場合があることは当業者において広く知られている。したがって、CAPRIN−1のアミノ酸配列のうち少数の(好ましくは、1個もしくは数個の)アミノ酸残基が置換され、欠失され、及び/又は挿入された配列を有するポリペプチドであって、元の配列と80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有し、かつ、CAPRIN−1に対するポリクローナル抗体と抗原抗体反応により特異的に結合するポリペプチド(以下、便宜的に「特異反応性修飾ポリペプチド」ということがある)も、上記配列番号2〜30のうち偶数の配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同様に癌の検出に用いることができる。好ましい特異反応性修飾ポリペプチドは、CAPRIN−1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸残基が置換され、欠失され、付加され、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を有する。本明細書中の「数個」とは、2〜10の整数、好ましくは2〜6の整数、さらに好ましくは2〜4の整数を表す。
【0043】
本明細書中で使用する、アミノ酸配列の「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列のアミノ酸残基ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列を整列させ、一致したアミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTAL W等の周知のプログラムを用いて行なうことができる(Karlin及びAltschul, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 87:2264−2268, 1993; Altschulら, Nucleic Acids Res., 25:3389−3402, 1997)。
【0044】
なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸(Phe, Tyr, Trp, His)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換、すなわち保存的置換、であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。したがって、CAPRIN−1のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、対応抗体との結合性を維持できる可能性が高くなる。しかしながら、本発明では、上記改変体は、未改変体と同等もしくはほとんど同等の免疫誘導活性を付与する限り、非保存的置換を有していてもよい。
【0045】
本発明で用いられる上記ポリペプチドは、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる(日本生化学会編、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、化学修飾とペプチド合成、東京化学同人(日本)、1981年)。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。あるいは、公知の遺伝子工学的手法(Sambrookら, Molecular Cloning, 第2版, Current Protocols in Molecular Biology (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubelら, Short Protocols in Molecular Biology, 第3版, A compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sons等)を用いて容易に調製することができる。例えば、配列番号2のヒトCAPRIN−1又はその相同因子をコードする遺伝子を発現している組織から抽出したRNAから、該遺伝子のcDNAをRT−PCRにより調製し、該cDNAの全長又は所望の一部を発現ベクターに組み込んで、宿主細胞中に導入し、目的とするポリペプチドを得ることができる。配列番号6、8、10、12及び14のイヌCAPRIN−1をコードするcDNAの塩基配列はそれぞれ配列番号5、7、9、11及び13に、そして、そのヒト相同因子である配列番号2及び4のヒトCAPRIN−1をコードするcDNAの塩基配列はそれぞれ配列番号1及び3に示されているため、RT−PCRに用いるプライマーはこれらの塩基配列を参照して容易に設計できる。また、後述するとおり、ヒト以外の哺乳動物のCAPRIN−1をコードする遺伝子は、配列番号5〜29のうち奇数の配列番号の塩基配列を参照して設計したプライマーにより増幅し得るため、例えばネコCAPRIN−1をコードするcDNAも上記と同様の手法により容易に調製し得る。RNAの抽出、RT−PCR、ベクターへのcDNAの組み込み、ベクターの宿主細胞への導入は、例えば以下に記載するとおり、周知の方法により行なうことができる。また、用いるベクターや宿主細胞も周知であり、種々のものが市販されている。
【0046】
上記宿主細胞としては、上記ポリペプチドを発現可能な細胞であればいかなるものであってもよく、原核細胞の例としては大腸菌等、真核細胞の例としてはサル腎臓細胞COS1、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、ヒト胎児腎臓細胞株HEK293、マウス胎仔皮膚細胞株NIH3T3等の哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞等が挙げられる。
【0047】
宿主細胞として原核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、原核細胞中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、マルチクローニングサイト、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子等を有する発現ベクターを用いる。大腸菌用発現ベクターとしては、pUC系、pBluescriptII、pET発現システム、pGEX発現システム等が例示できる。上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで原核宿主細胞を形質転換した後、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを原核宿主細胞中で発現させることができる。この際、該ポリペプチドを、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。なお、上記ポリペプチドをコードするDNAは、例えば上記したようにRT−PCRによりcDNAを調製して得ることができ、また後述するように市販の核酸合成機を用いて常法により合成することもできる。なお、配列番号2及び4のCAPRIN−1をコードする遺伝子のcDNAの塩基配列は、それぞれ配列表の配列番号1及び3に示されている。
【0048】
宿主細胞として真核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターを用いる。そのような発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK−CMV、pBK−RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3、pYES2等が例示できる。上記と同様に、本発明で用いられるポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで真核宿主細胞を形質転換した後、得られた形質転換体を培養すれば、前記DNAがコードしているポリペプチドを真核宿主細胞中で発現させることができる。発現ベクターとしてpIND/V5−His、pFLAG−CMV−2、pEGFP−N1、pEGFP−C1等を用いた場合には、Hisタグ(例えば(His)6〜(His)10)、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFP等の各種タグを付加した融合タンパク質として、上記ポリペプチドを発現させることができる。
【0049】
発現ベクターの宿主細胞への導入は、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション、ウイルス感染、リポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、等の周知の方法を用いることができる。
【0050】
宿主細胞から目的のポリペプチドを単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば尿素等の変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒分別沈殿法、透析、遠心分離、限外ろ過、ゲルろ過、SDS−PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0051】
以上の方法によって得られるポリペプチドには、他の任意のタンパク質との融合タンパク質の形態にあるものも含まれる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)やHisタグとの融合タンパク質等が例示できる。さらに、形質転換細胞で発現されたポリペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。このような翻訳後修飾されたポリペプチドも、CAPRIN−1に対するポリクローナル抗体との結合性を有する限り使用可能である。このような翻訳修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化等が例示できる。
【0052】
本発明の方法では、生体試料中に含まれ得るCAPRIN−1が測定される。上述した通り、癌細胞において抗原であるCAPRIN−1の発現量が有意に高いことが判っている。癌細胞や癌組織中のCAPRIN−1自体を測定することによって、CAPRIN−1の発現量が高い患者に対して、CAPRIN−1を標的とする治療薬の適用できるということは、下記実施例に具体的に記載されている通りである。
【0053】
試料中のポリペプチドの測定は、周知の免疫学的アッセイ法により容易に行なうことができる。具体的には、例えば、CAPRIN−1と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片を作製し、これを用いて免疫測定を行うことにより、試料中に存在し得るCAPRIN−1を測定することができる。また、抗体には交叉反応性があるため、例えば、配列番号6のイヌCAPRIN−1と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片を用いて、配列番号6のイヌCAPRIN−1のみならず、その他の哺乳動物におけるその相同因子、例えば配列番号2又は4のヒトCAPRIN−1やネコCAPRIN−1等も測定することができる。
【0054】
免疫測定方法自体は、上述した通り周知の常法である。CAPRIN−1を認識する抗体は、当業者に周知の方法での免疫組織化学により、外科手術の間に患者から得た組織や、自然に又はトランスフェクション後にCAPRIN−1を発現する細胞系を接種した異種移植組織を担持する動物から得た組織から、パラホルムアルデヒド又はアセトン固定した凍結切片、又はパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋した組織切片を使用して、CAPRIN−1との反応性に関して試験することができる。
【0055】
免疫組織化学染色を行った後、試料中のCAPRIN−1の発現量の定量化は、染色状態を反映させたスコア値を割り出して数値化すればよい。スコア値の設定は2段階以上が好ましく、最も好ましい態様では4段階で分類である。例えば、癌細胞の細胞表面に発現するCAPRIN−1を通常の免疫組織化学染色法で染色し、その染色状態を反映させたスコア値を4段階に分類した場合の各スコアは以下のように設定される。
【0056】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、又は細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満。
【0057】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0058】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0059】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0060】
このようなスコア値の設定は、米国American Society of Clinical Oncologyにおいて定められたものであり、国内においては日本病理学会が認定している。また、癌抗原の1つであるHer2の患者試料中の存在量を定量する「ハーセプテスト」にも適用され、Her2の定量についてはASCO/CAP Her2検査ガイドラインに定められている。国内においてもトラスツマブ病理部会が本スコアの設定を含めたHer2検査ガイドを定めている。
【0061】
各スコア値に記載している、免疫組織化学染色後の癌細胞が染色される割合は、光学顕微鏡の感度を4倍、10倍又は20倍に上げて、視野に入っている細胞を最低500数え、各スコア値に記載の細胞膜に染色像を示す細胞を計測して、以下の式を利用して試算することができる。
【0062】
陽性細胞数/全細胞数(約500前後)×100
免疫組織化学染色のため、CAPRIN−1に対して反応性のある抗体を、様々な方法で染色させることができる。例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ヤギ抗マウス抗体やヤギ抗ニワトリ抗体を反応させることにより、可視化することができる。
【0063】
CAPRIN−1自体を免疫測定する際に用いられる、CAPRIN−1と抗原抗体反応する抗体又はその抗原結合性断片も、癌診断薬又はキットとして提供することができる。この場合の癌診断薬又はキットも、上記抗体又は抗原結合性断片のみから成るものであってもよく、また、該抗体又は抗原結合性断片の安定化等に有用な各種添加剤等を含んでいてもよい。また、該抗体又は抗原結合性断片は、マンガンや鉄等の金属を結合させたものであってもよい。そのような金属結合抗体又は抗原結合性断片を体内に投与すると、抗原タンパク質が存在する部位に該抗体又は抗原結合性断片がより多く集積するので、MRI等によって金属を測定すれば、抗原タンパク質を産生する癌細胞の存在を検出することができる。
【0064】
なお、CAPRIN−1は、癌細胞の表面に発現する細胞膜タンパクであることが判明した。癌患者の体内には多くのタンパク質分解酵素が含まれていることから、CAPRIN−1配列中の癌細胞の細胞外領域が分解を受けて癌細胞から分離するため、CAPRIN−1配列中の癌細胞の細胞内領域よりも血液中に多く存在する。したがって、本測定に用いられる抗CAPRIN−1抗体又はその抗原結合性断片として、CAPRIN−1の細胞外領域により強く結合するものを用いれば、スライドに固定された癌組織のみならず、癌患者の血清中に存在するCAPRIN−1を検出することができる。また、本方法は、CAPRIN−1の細胞外領域に結合する抗体を用いる検出であるため、CAPRIN−1を標的とした治療薬、特に抗CAPRIN−1抗体医薬を投与して治療効果が期待できる癌患者の正確な特定が可能になり、より効果的な癌治療を提供することができる。したがって、本発明では、CAPRIN−1のうち、癌細胞の細胞外領域に結合する抗体が好ましく用いられる。このような抗体が認識するエピトープを含むCAPRIN−1タンパク質の部分ペプチドとしては、配列表の配列番号2〜30のうち配列番号6及び配列番号18を除く偶数番号で表されるアミノ酸配列において細胞外領域に相当するペプチドが挙げられる。具体的には、配列番号2において50位〜98位又は233位〜344位の領域内の連続する7個以上のアミノ酸配列、又は配列番号4〜30のうち配列番号6及び配列番号18を除く偶数番号で表されるアミノ酸配列において前記アミノ酸位置に相同する領域内の連続する7個以上のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。より具体的には、例えば、配列番号43又は配列番号61に示されるアミノ酸配列、好ましくは配列番号61に示されるアミノ酸配列中、配列番号62に示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が挙げられる。本発明で用いられる抗体は、これらペプチドに結合する全ての抗体が含まれる。具体的には、配列番号63に結合する抗体又はその抗原結合性断片、配列番号70と71のアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片のアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が挙げられる。
【0065】
本明細書中で使用する「抗原結合性断片」とは、抗体分子中に含まれるFab断片やF(ab’)2断片のような、抗原との結合能を有する抗体断片を意味する。抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、免疫測定等のためには、再現性が高いモノクローナル抗体が好ましい。ペプチドを免疫原とするポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の調製方法は周知であり、常法により容易に行うことが出来る。例えば、CAPRIN−1をキーホールリンペットヘモシアン(KLH)、カゼイン、血清アルブミン等のキャリアタンパク質に結合させたものを免疫原とし、アジュバントと共に動物に免疫することにより、CAPRIN−1に対する抗体を誘起することができる。免疫した動物から採取した脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを作製した後、CAPRIN−1と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて、培養上清からCAPRIN−1を対応抗原とするモノクローナル抗体を得ることができる。なお、上記の方法は周知の常法である。
【0066】
本発明の対象となる癌としては、CAPRIN−1を過剰発現している癌であり、乳癌、脳腫瘍、食道癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、腎臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、膵臓癌、大腸癌、皮膚癌、卵巣癌、子宮癌(子宮頸癌及び子宮体癌)、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、骨肉腫が挙げられる。その他、頭、首の扁平上皮癌、メラノーマ、各種腺癌、肝細胞癌、基底細胞癌、勅細胞腫様歯肉腫、口腔内腫瘤、肛門周囲腺癌、肛門嚢腫瘤、肛門嚢アポクリン腺癌、セルトリ細胞腫、膣前庭癌、皮脂腺癌、皮脂腺上皮腫、脂腺腺腫、汗腺癌、鼻腔内腺癌、鼻腺癌、気管支腺癌、腺管癌、乳腺癌、複合型乳腺癌、乳腺悪性混合腫瘍、乳管内乳頭状腺癌、線維肉腫、血管周皮腫、軟骨肉腫、軟部組織肉腫、組織球肉腫、粘液肉腫、未分化肉腫、肥満細胞腫、皮膚平滑筋腫、腹腔内平滑筋腫、平滑筋腫、リンパ腫、慢性型リンパ球性白血病、消化管型リンパ腫、消化器型リンパ腫、小〜中細胞型リンパ腫、副腎髄質腫瘍、顆粒膜細胞腫、褐色細胞腫等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0067】
また、本発明の方法の対象となる生体試料は哺乳動物由来であり、ヒトやイヌ、ネコ由来が好ましい。
【0068】
本発明の方法に供する試料としては、体液、組織又は細胞が挙げられる。本明細書で「体液」とは、液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、腹水、胸水、髄液、痰、涙液、鼻汁、唾液、尿、膣液、精液等が挙げられる。生理食塩水を用いた腹腔洗浄液等を含んでいてもよい。好ましくは血清、血漿、腹水、又は胸水である。
【0069】
本発明の方法では、測定された生体試料中のCAPRIN−1発現量が健常個体と比較して高い(好ましくは統計学的に有意に高い)場合、その生体試料が由来する生体(個体)中に、その測定に用いた抗CAPRIN−1抗体が特異的に結合可能な癌(すなわち、癌治療薬としての該抗体の標的)が存在することが示される。これを利用して、癌患者由来の生体試料について、本発明の方法によりCAPRIN−1の発現量を測定し、その発現量を健常個体と比較することにより、患者の癌が、CAPRIN−1に対する治療薬を適用できる(例えば、癌治療薬としての該抗体の標的となる)癌であるか否かを判定することができる。
【0070】
したがって本発明に基づけば、CAPRIN−1を標的とした抗体をはじめとする治療薬の投与により治療効果が期待できる癌患者の特定が可能になり、より効果的な癌治療を提供することができる。
【0071】
一実施形態では、本発明は、配列番号63に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して免疫学的反応性を有する抗体を用いて、生体試料中のCAPRIN−1の発現量を測定し、その発現量が健常個体と比較して高い場合(好ましくは統計学的に有意に高い場合)に、CAPRIN−1標的薬を、好ましくはCAPRIN−1に対して免疫学的反応性を有する抗体又はその抗原結合性断片を、該生体試料が由来する個体に投与するのに適したCAPRIN−1標的癌治療薬として選択することを含む、個体別癌治療薬の選択方法に関する。個体別癌治療薬の選択により、患者個人に最適な癌治療法を適用するいわゆるオーダーメード医療が可能になる。
【0072】
本明細書において「統計学的に有意」とは、二者間の量的差異を統計学的に処理したときに有意差があることをいう。具体的には、例えば、危険率(有意水準)が5%、1%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の方法であれば、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されないものとする。
【0074】
<実施例1 各組織でのCAPRIN−1発現解析>
CAPRIN−1遺伝子のイヌ及びヒトの正常組織及び各種癌組織又は癌細胞株における発現をWO2010/016526の実施例1(4)に従ってRT−PCR法により調べた。その結果を図1に示す。健常なイヌ正常組織では精巣で強い発現が見られ、またイヌ乳癌で発現が見られた。さらに、ヒト組織での発現を併せて確認したところ、イヌCAPRIN−1遺伝子と同様、正常組織で発現が確認できたのは精巣のみだったが、癌細胞ではヒト乳癌細胞株8種(ZR75−1、MCF7、T47D、SK−BR−3、MDA−MB−157、BT−20、MDA−MB−231V、MRK−nu−1)及び脳腫瘍細胞株4種、白血病由来細胞株3種、肺癌細胞株1種、食道癌細胞株2種等、多種類の癌細胞株で発現が検出された。この結果から、CAPRIN−1は精巣以外の正常組織では発現が見られず、一方、乳癌細胞株をはじめとする多くの癌細胞株に発現していることが確認された。
【0075】
<実施例2:抗CAPRIN−1抗体の作製>
(1)マウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体の作製
WO2010/016526の実施例3で調製した配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトCAPRIN−1 100μgを等量のMPL+TDMアジュバント(シグマ社製)と混合し、これをマウス1匹当たりの抗原溶液とした。前記抗原溶液を6週齢のBalb/cマウス(日本SLC社製)の腹腔内に投与後、1週間毎にさらに3回投与を行った。最後の免疫から3日後に摘出した脾臓を滅菌した2枚のスライドガラスに挟んで擦り潰し、PBS(−)(日水社製)を用いて洗浄した後、1500rpmで10分間遠心して上清を除去する操作を3回繰り返して脾臓細胞を得た。得られた脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0(ATCCから購入)とを10:1の比率にて混和し、そこに37℃に加温した10%FBSを含むRPMI1640培地200μLとPEG1500(ベーリンガー社製)800μLを混和して調製したPEG溶液を加えて5分間静置して細胞融合を行った。1700rpmで5分間遠心し、上清を除去後、ギブコ社製のHAT溶液を2%当量加えた15% FBSを含むRPMI1640培地(HAT選択培地)150mLで細胞を懸濁し、96穴プレート(ヌンク社製)の1ウェル当たり100μLずつ、プレート15枚に播種した。7日間、37℃、5%CO2の条件で培養することで、脾臓細胞とミエローマ細胞が融合したハイブリドーマを得た。
【0076】
作製したハイブリドーマを、それが産生する抗体のCAPRIN−1に対する結合親和性を指標にして選抜した。上記CAPRIN−1溶液1μg/mLを96穴プレート1ウェル当たりに100μL添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% Bovine Serum Albumin(BSA)溶液(シグマ社製)を1ウェル当たり400μL添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μLのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μL添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(life technologies社製)を1ウェル当たり100μL添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μL添加して15〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μL添加して反応を停止させ、吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、吸光度値が高かった抗体を産生するハイブリドーマを目的のハイブリドーマの候補株として複数個選抜した。
【0077】
選抜したハイブリドーマを96穴プレート1ウェル当たりに0.5個となるようにプレートに添加し培養した。1週間後、ウェル中に単一のコロニーを形成しているハイブリドーマが観察された。それらウェルの細胞をさらに培養して、クローニングされたハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1に対する結合親和性を指標に、上記と同様の方法により選抜し、CAPRIN−1タンパクに反応性を示すモノクローナル抗体を産生する複数のハイブリドーマ株を得た。ハイブリドーマの培養上清を、プロテインG担体を用いて精製し、CAPRIN−1に結合するモノクローナル抗体150個を得た。
【0078】
次に上記モノクローナル抗体からCAPRIN−1が発現する乳癌細胞の細胞表面に反応性を示すものを選抜した。具体的には、10個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−231Vを1.5mL容のミクロ遠心チューブにて遠心分離し、これに上記各ハイブリドーマの上清100μLを添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1%牛胎児血清を含むPBSで500倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Invitrogen社製)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、抗体の代わりに培地を添加したものをコントロールとした。その結果、コントロールに比べて蛍光強度が強い、すなわち、乳癌細胞の細胞表面に反応するモノクローナル抗体10個(#1〜#10)を選抜した。これらモノクローナル抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域それぞれのアミノ酸配列を配列番号44〜60に示す。上記モノクローナル抗体#1は配列番号44の重鎖可変領域と配列番号45の軽鎖可変領域を含み、#2は配列番号44の重鎖可変領域と配列番号46の軽鎖可変領域を含み、#3は配列番号44の重鎖可変領域と配列番号47の軽鎖可変領域を含み、#4は配列番号44の重鎖可変領域と配列番号48の軽鎖可変領域を含み、#5は配列番号49の重鎖可変領域と配列番号50の軽鎖可変領域を含み、#6は配列番号51の重鎖可変領域と配列番号52の軽鎖可変領域を含み、#7は配列番号53の重鎖可変領域と配列番号54の軽鎖可変領域を含み、#8は配列番号55の重鎖可変領域と配列番号56の軽鎖可変領域を含み、#9は配列番号57の重鎖可変領域と配列番号58の軽鎖可変領域を含み、#10は配列番号59の重鎖可変領域と配列番号60の軽鎖可変領域を含む。
【0079】
(2)癌細胞の細胞表面に反応するマウス抗ヒトCAPRIN−1抗体が結合するCAPRIN−1中のペプチドの同定
上記で取得した、癌細胞の細胞表面に反応する#1〜#10のマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体を用いて、それらの抗体が認識するCAPRIN−1中の部分配列の同定を行った。
【0080】
まず、PBSで1μg/μLの濃度に溶解した組換えCAPRIN−1溶液100μLに、終濃度が10mMになるようにDTT(Fluka社製)を添加し、95℃、5分間反応させてCAPRIN−1内のジスルフィド結合の還元を行い、次に終濃度20mMのヨードアセトアミド(和光純薬社製)を添加し、37℃、遮光条件下にて30分間チオール基のアルキル化反応を行った。得られた還元アルキル化CAPRIN−140μgに、#1〜#10のマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体をそれぞれ50μg添加し、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)1mLにメスアップして撹拌混合しながら4℃で一晩反応させた。
【0081】
次に、トリプシン(プロメガ社製)を終濃度0.2μgとなるように添加し、37℃で1時間、2時間、4時間、及び12時間反応させた後、予め1% BSA(シグマ社製)を含むPBSでブロッキングし、PBSで洗浄したプロテインA−ガラスビーズ(GE社製)と1mM炭酸カルシウム、NP−40緩衝液(20mM リン酸緩衝液(pH7.4)、5mM EDTA、150mM NaCl、1% NP−40)中で混合し、それぞれ30分間反応させた。
【0082】
反応液を25mM炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、0.1% ギ酸100μLを用いて抗原抗体複合体を溶出し、溶出液についてQ−TOF Premier(Waters−MicroMass社製)を用いてLC−MS解析を行った。解析は機器に付属のプロトコールに従った。
【0083】
その結果、#1〜#10の全てのマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体が認識するCAPRIN−1の部分アミノ酸配列として、配列番号61のポリペプチドが同定された。さらに、モノクローナル抗体#1〜#4、#5〜#7及び#9が認識する、上記配列番号61のポリペプチド中の部分配列として配列番号62のペプチドが同定され、さらにモノクローナル抗体#10が配列番号63のペプチドを認識することが判った。
【0084】
(3)ニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体の作製
WO2010/016526の実施例3で調製した配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトCAPRIN−1 300μgを等量のフロイントの完全アジュバントと混合し、これをニワトリ1羽当たりの抗原溶液とした。抗原溶液を7週齢のニワトリの腹腔内に投与後、4週間毎に7回投与を行い、免疫を完了した。最後の免疫から4日後に摘出したそれぞれの脾臓を滅菌した2枚のスライドガラスに挟んで擦り潰し、PBS(−)(日水社製)を用いて洗浄し1500rpmで10分間遠心して上清を除去する操作を3回繰り返して脾臓細胞を得た。得られた脾臓細胞と鳥類細網内皮症ウイルスを用いてニワトリから形質転換法により樹立した、軽鎖が欠損しているニワトリミエローマ細胞とを5:1の比率にて混和し、そこに37℃に加温した10% FBSを含むIMDM培地200μLとPEG1500(ベーリンガー社製)800μLを混和して調製したPEG溶液を加えて5分間静置して細胞融合を行った。1700rpmで5分間遠心し、上清を除去後、Gibco社製のHAT溶液を2%当量加えた10% FBSを含むIMDM培地(HAT選択培地)300mLで細胞を懸濁し、96穴プレート(ヌンク社製)の1ウェル当たり100μLずつ、プレート30枚に播種した。7日間、37℃、5% CO2の条件で培養することで、脾臓細胞とニワトリミエローマ細胞が融合したハイブリドーマを得た。
【0085】
作製したハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1に対する結合親和性を指標にしてハイブリドーマを選抜した。CAPRIN−1溶液1μg/mLを96穴プレート1ウェル当たりに100μL添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% Bovine Serum Albumin(BSA)溶液(シグマ社製)を1ウェル当たり400μL添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μLのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μL添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗ニワトリIgY抗体(SIGMA社製)を1ウェル当たり100μL添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μL添加して15〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μL添加して反応を停止させ吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、吸光度値が高かった抗体を産生するハイブリドーマを目的のハイブリドーマの候補株として複数個選抜した。
【0086】
選抜したハイブリドーマを96穴プレート1ウェル当たりに0.5個となるようにプレートに添加し培養した。1週間後、ウェル中に単一のコロニーを形成しているハイブリドーマが観察された。それらウェルの細胞をさらに培養して、クローニングされたハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1に対する結合親和性を指標に、上記と同様の方法により選抜し、CAPRIN−1タンパクに反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株を複数個得た。
【0087】
次にそれらモノクローナル抗体のうち、CAPRIN−1が発現する乳癌細胞の細胞表面に反応性を示すものを選抜した。具体的には、5×10個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−231Vを1.5mL容のミクロ遠心チューブにて遠心分離し、これに上記各ハイブリドーマの培養上清100μLを添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1% FBSを含むPBSで30倍希釈したFITC標識ヤギ抗ニワトリIgG(H+L)抗体(SouthernBiotech社製)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、ハイブリドーマ培養用培地を用いて行い、コントロールのサンプルとした。その結果、コントロールに比べて蛍光強度が強い、すなわち、CAPRIN−1を発現する乳癌細胞の細胞表面に反応するモノクローナル抗体1個(ニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11)を選抜した。
【0088】
(4)マウス−ニワトリキメラ組換え抗体の作製
上記(3)で得られた、配列番号64で示されるニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の重鎖可変領域の遺伝子増幅断片の両端を制限酵素処理した後、精製し、ニワトリ抗体由来のリーダー配列とマウスIgG1のH鎖定常領域を既に挿入済みのpcDNA4/myc−His(life technologies社製)ベクターへ常法に従って挿入した。また、配列番号65で示されるニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の軽鎖可変領域の遺伝子増幅断片の両端を制限酵素処理した後精製し、ニワトリ抗体由来のリーダー配列とマウスIgG1のL鎖定常領域を既に挿入済みのpcDNA3.1/myc−His(life technologies社製)ベクターへ常法に従って挿入した。
【0089】
次に、ニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の重鎖可変領域が挿入された上記組換えベクターと、ニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の軽鎖可変領域が挿入された上記組換えベクターをCHO−K1細胞(理研セルバンクより入手)に導入した。具体的には、12穴培養プレートの1ウェル当たりに1mLの10%FBSを含むHam’sF12培地(life technologies社製)で培養された2×10個のCHO−K1細胞をPBS(−)で洗浄したのちに、1ウェル当たり1mLの10%FBSを含むHam’sF12培地を新たに加えたウェルに30μLのOptiMEM(life technologies社製)に溶解した上記各ベクター250ngとPolyfect transfection reagent(QIAGEN社製)30μLとを混合したものを添加した。上記組換えベクターを導入したCHO−K1細胞を、200μg/mLゼオシン(life technologies社製)ならびに200μg/mLジェネチシン(ロシュ社製)を添加した10%FBSを含むHam’sF12培地で培養した後、96ウェルプレートの1ウェル当たりに0.5個となるように上記組換えベクターを導入したCHO−K1細胞を播種して、ニワトリモノクローナル抗体#11の可変領域とマウスIgG1の定常領域を有するマウス−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#12を安定的に産生する細胞株を作製した。作製した細胞株を150cmフラスコを用いて5×10個/mLで血清を含まないOptiCHO培地(life technologies社製)30mLを用いて5日間培養し、#12を含む培養上清を得た。
【0090】
(5)マウス−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#12が認識するCAPRIN−1エピトープの同定
(4)で取得した、癌細胞の細胞表面に反応するマウス−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#12を用いて、認識するCAPRIN−1エピトープ領域の同定を行った。CAPRIN−1組換えタンパク質100μgをタンパク質阻害剤を含まない溶解バッファーに溶解し、モノクローナル抗体#12と反応させた。その溶液に、トリプシン又はキモトリプシン消化酵素を加え、適正温度にて消化反応を行った。反応後プロテインGセファロース担体を加えて反応させ、遠心操作により担体を沈殿させた。上清を除去した後、溶解バッファーとPBSで洗浄して0.1%の蟻酸に溶解させ、その上清を回収した。回収した上清サンプルを逆相カラム(HLB Extraction Cartridge(OASIS社))にかけて、抗体を除去したサンプル溶液を得た。得られたサンプルを逆相液体クロマトグラフィー(クロマトグラフィーナノシステム(KYA社))を用いてペプチドのみが含まれた溶液を回収し、タンデム型質量分析計quadrupole−TOF mass spectrometer(Waters−Micromass社)に導入してMS/MS解析を行い、サンプル内に含まれるペプチドを検出した。その結果、マウス−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#12が認識するCAPRIN−1の部分配列として、配列番号66のアミノ酸配列からなるペプチドが同定された。また、このペプチドは、抗体#12の可変領域を構成するニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11が認識するCAPRIN−1の部分配列でもあることを意味する。
【0091】
(6)ヒト−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1抗体の作製
上記(3)で得られた、配列番号64で示されるニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の重鎖可変領域の遺伝子増幅断片の両端を制限酵素処理した後精製し、配列番号67を含むニワトリ抗体由来のリーダー配列と配列番号68を含むヒトIgG1のH鎖定常領域を既に挿入済みのpcDNA4/myc−His(life technologies社製)ベクターへ常法に従って挿入した。また、配列番号65で示されるニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の軽鎖可変領域の遺伝子増幅断片の両端を制限酵素処理した後精製し、配列番号68を含むニワトリ抗体由来のリーダー配列と配列番号69を含むヒトIgG1のL鎖定常領域を既に挿入済みのpcDNA3.1/myc−His(life technologies社製)ベクターへ常法に従って挿入した。
【0092】
次に、上記抗体#11の重鎖可変領域が挿入された上記組換えベクターと、上記抗体#11の軽鎖可変領域が挿入された上記組換えベクターをCHO−K1細胞(理研セルバンクより入手)に導入した。具体的には、12穴培養プレートの1ウェル当たりに1mLの10%FBSを含むHam’sF12培地(life technologies社製)で培養された2×10個のCHO−K1細胞をPBS(−)で洗浄したのちに、1ウェル当たり1mLの10%FBSを含むHam’sF12培地を新たに加えたウェルに30μLのOptiMEM(life technologies社製)に溶解した上記各ベクター250ngとPolyfect transfection reagent(QIAGEN社製)30μLとを混合したものを添加した。上記組換えベクターを導入したCHO−K1細胞を、200μg/mLゼオシン(life technologies社製)ならびに200μg/mLジェネチシン(ロシュ社製)を添加した10%FBSを含むHam’sF12培地で培養した後、96ウェルプレートの1ウェル当たりに0.5個となるように上記組換えベクターを導入したCHO−K1細胞を播種して、ニワトリ抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#11の可変領域とヒトIgG1の定常領域を有するヒト−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1抗体#13を安定的に産生する細胞株を作製した。作製した細胞株を、150cmフラスコを用いて、5×10個/mLで血清を含まないOptiCHO培地(life technologies社製)30mLで5日間培養し、上記抗体#13を含む培養上清を得た。
【0093】
(7)マウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#14の作製
(1)と同様の方法で、(2)で同定した配列番号63のアミノ酸配列とキャリアタンパク質のKLH(Keyhole limpet haemocyanin)との融合タンパク質を免疫原として、等量のアジュバント剤TiterMax Gold(登録商標)(CytRx社)と混合して7日間隔でマウスの皮下に1回あたり20μg投与した。合計4回の投与を行った後、最終免疫から3日後のマウスから脾臓細胞を得て、上記(1)と同様の方法にてマウスミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製した。その後、作製したハイブリドーマの培養上清中に含まれる各抗体とWO2010/016526の実施例3で調製したCAPRIN−1溶液1μg/mL又は免疫原として用いた配列番号63のアミノ酸配列とキャリアタンパク質のKLHとの融合タンパク質との反応性を指標に抗体を選抜した。WO2010/016526の実施例3で調製したCAPRIN−1溶液1μg/mLと配列番号63のアミノ酸配列とキャリアタンパク質のBSAとの融合タンパク質30μg/mLをそれぞれ96穴プレート1ウェル当たりに100μL添加して4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル社)溶液を1ウェル当たり400μL添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、PBS−Tでウェルを洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μL添加し、室温で2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(life technologies社製)を1ウェル当たり100μL添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μL添加して5〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μL添加して反応を停止させ、吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、吸光度値が高かった抗体を産生するハイブリドーマを選抜した。
【0094】
選抜したハイブリドーマを96穴プレート1ウェル当たりに0.3個となるようにプレートに添加し培養した。1週間後、ウェル中に単一のコロニーを形成しているハイブリドーマが観察された。それらウェルの細胞をさらに培養して、クローニングされたハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1の部分配列である配列番号63のアミノ酸配列に対する結合親和性を指標に上記と同様の方法を用いて、配列番号63のアミノ酸に対する抗体を産生するハイブリドーマを得た。
【0095】
得られたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のうち、CAPRIN−1を発現する乳癌細胞の細胞表面に反応性を示すものを選抜した。具体的には、10個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−231Vを1.5mL容のミクロ遠心チューブにて遠心分離し、これに上記各ハイブリドーマの培養上清100μLを添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1%FBSを含むPBSで500倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(life technologies社製)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、抗体の代わりに何も処理していない6週齢のBalb/cマウスの血清をハイブリドーマ培養用培地で500倍希釈したものを用いたサンプル、及び二次抗体のみを反応させたサンプルを陰性コントロールとして行った。その結果、陰性コントロールに比べて蛍光強度が強い、すなわち、乳癌細胞の細胞表面に反応するマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#14を得た。上記抗体#14は配列番号70の重鎖可変領域と配列番号71の軽鎖可変領域から成る。
【0096】
得られたマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#14が免疫原であるCAPRIN−1の部分配列である配列番号63のアミノ酸配列に特異的に反応することを調べた。0.1Mの炭酸ナトリウム水溶液で30μg/mLに調製した配列番号63のアミノ酸配列を含む溶液及び配列番号63のアミノ酸配列を含まないCAPRIN−1の部分配列をそれぞれELISA用96ウェルプレートイモビライザーアミノ(ヌンク社)に100μg/mLずつ添加して、4℃にて一昼夜反応させてペプチドをウェルに結合させた。ペプチドが結合したウェルに10mMエタノールアミンを含む0.1M炭酸ナトリウム水溶液を添加して室温で1時間静置した。ウェル内の溶液を除去後、PBS−Tで洗浄したのち、ブロックエース溶液を1ウェル当たり400μL添加して室温にて3時間静置した。ウェル内の溶液を除去し、PBS−Tで洗浄後、マウスモノクローナル抗体#14を含む培養上清を1ウェルあたりに50μL添加して、室温にて1時間反応させた。その後PBS−Tで洗浄して、ブロックエース溶液で5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(life technologies社製)を1ウェル当たり50μL添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを十分に洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μL添加して5〜30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μL添加して反応を停止させ、吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定したところ、配列番号63のアミノ酸配列を含まないCAPRIN−1の部分配列には全く反応せず、配列番号63のアミノ酸のみにマウスモノクローナル抗体#14は特異的に反応した。したがって、配列番号63のポリペプチドが抗CAPRIN−1抗体#14のエピトープ領域を含んでいることが確認された。
【0097】
<実施例3:CAPRIN−1検出に最適な抗体の選抜>
(1)ヒト乳癌組織を用いた抗体の選抜
パラフィン包埋されたヒト乳癌組織アレイ(MBL社製)の乳癌組織31検体を用いて免疫組織化学染色を行った。ヒト乳癌組織アレイを60℃で3時間処理後、キシレンを満たした染色瓶に入れて5分ごとにキシレンを入れ替える操作を3回行った。続いて、エタノール及びPBS−Tを用いて前記キシレンと同様の操作を行った。0.05% Tween20を含む10mM クエン酸緩衝液(pH6.0)を満たした染色瓶にヒト乳癌組織アレイを入れ、125℃で5分間処理後、室温で40分以上静置した。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲み、Peroxidase Block(DAKO社製)を適量滴下した。室温で5分間静置後、PBS−Tを満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。ブロッキング液として、10% FBSを含むPBS−T溶液を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#8又は#14をそれぞれ5% FBSを含むPBS−T溶液で10μg/mLに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内で室温にて30分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)を載せ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨て、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った。蒸留水でリンスした後、70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れ、最後にキシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。組織におけるCAPRIN−1の発現量は、以下の基準に従って判定した。陽性所見を示すスライドを選択し、CAPRIN−1染色像を確認した。まず、光学顕微鏡の4倍対物レンズを使用して、組織内の癌細胞のCAPRIN−1染色像、陽性染色の強度、陽性細胞率を観察した。次に、対物レンズを10倍又は20倍に切り替え、陽性所見が細胞膜か細胞質に局在しているかを検索した。以上の方法により検出結果を判定し、スコア0〜3に分類した。スコアの詳細は以下の通りである。
【0098】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、又は細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満である。
【0099】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0100】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0101】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0102】
検出結果がスコア2及び3であった場合にCAPRIN−1陽性の癌組織と判定する。
【0103】
その結果、いずれの抗体を用いても乳癌組織中にCAPRIN−1の発現を確認することができた。抗体#8を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が14検体、スコア3が1検体であり、CAPRIN−1陽性の検体数が15検体であったのに対して、抗体#14を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が12検体、スコア3が8検体でありCAPRIN−1陽性の検体数は20検体であった。したがって、ヒト癌組織を用いたCAPRIN−1の検出には、より感度の高い抗体#14を選択した。
【0104】
(2)抗体#14を用いた免疫組織化学染色法によるヒト各種正常組織上のCAPRIN−1の検出
ヒト正常組織アレイ(BIOMAX社製)(脳、甲状腺、肺、脾臓、腎臓、食道、胃、大腸、膵臓、筋肉、皮膚、唾液腺、卵巣、子宮、乳腺、胎盤、骨髄、精巣、前立腺子宮、前立腺の組織を含む)を用いて、免疫組織化学染色を行った。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲み、Peroxidase Block(DAKO社製)を適量滴下した。室温で5分間静置後、PBS−Tを満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。ブロッキング液として、10% FBSを含むPBS−T溶液を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#14を5% FBSを含むPBS−T溶液で10μg/mLに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内にて室温で30分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)を載せ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨て、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った。蒸留水でリンスした後、70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れ、最後にキシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。
【0105】
組織におけるCAPRIN−1の発現量は、以下の基準に従って判定した。陽性所見を示すスライドを選択し、CAPRIN−1染色像を確認した。まず、光学顕微鏡の4倍対物レンズを使用して、組織内の癌細胞のCAPRIN−1染色像、陽性染色の強度、陽性細胞率を観察した。次に、対物レンズを10倍又は20倍に切り替え、陽性所見が細胞膜か細胞質に局在しているかを検索した。以上の方法により検出結果を判定し、スコア0〜3に分類した。スコアの詳細は以下の通りである。
【0106】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、あるいは細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満である。
【0107】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0108】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0109】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0110】
検出結果がスコア2及び3であった場合にCAPRIN−1陽性の癌組織と判定する。
【0111】
子宮及び前立腺では、スコア1であったが、それ以外の組織では、全てスコア0であった。したがって、ヒト正常組織にCAPRIN−1の発現は認められなかった。
【0112】
(3)マウス抗ヒトCAPRIN−1抗体#14を用いた免疫組織化学染色法によるヒト各種癌組織上のCAPRIN−1の検出
パラフィン包埋されたヒト癌組織アレイ(BIOMAX社製)の各種癌組織を用いて、免疫組織化学染色を行った。ヒト癌組織アレイを60℃で3時間処理後、キシレンを満たした染色瓶に入れて5分ごとにキシレンを入れ替える操作を3回行った。続いて、エタノール及びPBS−Tで前記キシレンと同様の操作を行った。0.05% Tween20を含む10mM クエン酸緩衝液(pH6.0)を満たした染色瓶にヒト癌組織アレイを入れ、125℃で5分間処理後、室温で40分以上静置した。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲み、Peroxidase Block(DAKO社製)を適量滴下した。室温で5分間静置後、PBS−Tを満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。ブロッキング液として、10% FBSを含むPBS−T溶液を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したモノクローナル抗体#14を5% FBSを含むPBS−T溶液で10μg/mLに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内にて室温で30分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)を載せ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨て、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った。蒸留水でリンスした後、70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れ、最後にキシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。
【0113】
組織におけるCAPRIN−1の発現量は、以下の基準に従って判定した。陽性所見を示すスライドを選択し、CAPRIN−1染色像を確認した。まず、光学顕微鏡の4倍対物レンズを使用して、組織内の癌細胞のCAPRIN−1染色像、陽性染色の強度、陽性細胞率を観察した。次に、対物レンズを10倍又は20倍に切り替え、陽性所見が細胞膜か細胞質に局在しているかを検索した。以上の方法により検出結果を判定し、スコア0〜3に分類した。スコアの詳細は以下の通りである。
【0114】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、あるいは細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満である。
【0115】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0116】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0117】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0118】
検出結果がスコア2及び3であった場合にCAPRIN−1陽性の癌組織と判定する。
【0119】
その結果、CAPRIN−1は、脳腫瘍組織22検体の内16検体(64%)で、肺癌組織32検体の内19検体(59%)で、子宮癌組織21検体の内18検体(86%)で、食道癌組織16検体の内10検体(63%)で、腎臓癌組織30検体の内27検体(90%)で、肝臓癌組織17検体の内14検体(82%)で、甲状腺癌組織15検体の内11検体(73%)で、胃癌組織14検体の内10検体(71%)で、膵臓癌組織19検体の内17検体(89%)で、前立腺癌組織13検体中13検体(100%)で、膀胱癌組織14検体中12検体(86%)で、大腸癌組織14検体の内11検体(79%)で、皮膚癌組織30検体の内24検体(80%)及び乳癌組織21検体の内16検体(76%)でそれぞれ陽性であることが認められた。
【0120】
(4)マウス抗ヒトCAPRIN−1抗体#14を用いた免疫組織化学染色法によるイヌ乳癌組織上のCAPRIN−1の検出
病理診断で悪性乳癌と診断されたイヌの凍結された乳癌組織100検体を用いて、免疫組織化学染色を行った。凍結イヌ乳癌組織をクライオスタット(LEICA社製)を用いて10〜20μmに薄切し、スライドガラスに載せ、スライドガラスごとヘアードライアーで30分間風乾し、薄切組織が載ったスライドガラス作製した。次にPBS−T(0.05% Tween20を含む生理食塩水)を満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲んだ後、ブロッキング液として、10%牛胎児血清を含むPBS−T溶液を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#8又は#14をそれぞれブロッキング液で10μg/mLに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃下で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、ブロッキング液で250倍に希釈したMOMビオチン標識抗IgG抗体(VECTASTAIN社製)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、アビジンービオチンABC試薬(VECTASTAIN社製)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で5分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAB 10mg+30% H2210μL/0.05M Tris−HCl(pH7.6)50mL)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で30分間静置した。蒸留水でリンスし、ヘマトキシリン試薬(DAKO社製)を載せて室温で1分間静置後、蒸留水でリンスした。70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、最後にキシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。組織におけるCAPRIN−1の発現量は、以下の基準に従って判定した。陽性所見を示すスライドを選択し、CAPRIN−1染色像を確認した。まず、光学顕微鏡の4倍対物レンズを使用して、組織内の癌細胞のCAPRIN−1染色像、陽性染色の強度、陽性細胞率を観察した。次に、対物レンズを10倍又は20倍に切り替え、陽性所見が細胞膜か細胞質に局在しているかを検索した。以上の方法により検出結果を判定し、スコア0〜3に分類した。スコアの詳細は以下の通りである。
【0121】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、あるいは細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満である。
【0122】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0123】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0124】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0125】
検出結果がスコア2及び3であった場合に陽性とし、CAPRIN−1に対する治療薬投与による有効な治療効果の得られる担癌犬組織と判定した。
【0126】
その結果、いずれの抗体を用いてもイヌ乳癌組織中にCAPRIN−1の発現を確認することができた。具体的には、抗体#8を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が69検体、スコア3が11検体でありCAPRIN−1陽性の検体数は80検体(80%)であったのに対して、抗体#14を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が50検体、スコア3が32検体でありCAPRIN−1陽性の検体数は82検体(82%)であった。
【0127】
(5)マウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#14を用いた免疫組織化学染色法によるネコ乳癌組織上のCAPRIN−1の検出
病理診断で悪性乳癌と診断されたネコの凍結された乳癌組織30検体を用いて、免疫組織化学染色を行った。凍結ネコ癌組織をクライオスタット(LEICA社製)を用いて10〜20μmに薄切し、スライドガラスに載せ、スライドガラスごとヘアードライアーで30分間風乾し、薄切組織がのったスライドガラス作製した。次にPBS−T(0.05% Tween20を含む生理食塩水)を満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲んだ後、ブロッキング液として、10%牛胎児血清を含むPBS−T溶液を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#8又は#14をそれぞれブロッキング液で10μg/mlに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃下で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、ブロッキング液で250倍に希釈したMOMビオチン標識抗IgG抗体(VECTASTAIN社製)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、アビジンービオチンABC試薬(VECTASTAIN社製)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で5分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAB 10mg+30% H2210μl/0.05M Tris−HCl(pH7.6)50ml)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で30分間静置した。蒸留水でリンスし、ヘマトキシリン試薬(DAKO社製)を載せて室温で1分間静置後、蒸留水でリンスした。70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、最後にキシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。組織におけるCAPRIN−1の発現量は、以下の基準に従って判定した。陽性所見を示すスライドを選択し、CAPRIN−1染色像を確認した。まず、光学顕微鏡の4倍対物レンズを使用して、組織内の癌細胞のCAPRIN−1染色像、陽性染色の強度、陽性細胞率を観察した。次に、対物レンズを10倍又は20倍に切り替え、陽性所見が細胞膜か細胞質に局在しているかを検索した。以上の方法により検出結果を判定し、スコア0〜3に分類した。スコアの詳細は以下の通りである。
【0128】
・スコア0(CAPRIN−1過剰発現なし):細胞膜に陽性染色なし、あるいは細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%未満である。
【0129】
・スコア1(CAPRIN−1過剰発現なし):ほとんど識別できないほどのかすかな細胞膜の染色がある癌細胞が10%以上であり、癌細胞は細胞膜のみが部分的に染色されている。
【0130】
・スコア2(CAPRIN−1過剰発現あり):弱〜中程度の完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上、又は強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が10%以上30%以下である。
【0131】
・スコア3(CAPRIN−1過剰発現あり):強い完全な細胞膜の陽性染色がある癌細胞が30%以上である。
【0132】
検出結果がスコア2及び3であった場合に陽性とし、CAPRIN−1に対する治療薬投与による有効な治療効果の得られる担癌猫組織と判定した。
【0133】
その結果、いずれの抗体を用いてもネコ乳癌組織中にCAPRIN−1の発現を確認することができた。具体的には、抗体#8を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が20検体、スコア3が4検体でありCAPRIN−1陽性の検体数は24検体(80%)であるのに対して、抗体#14を用いた免疫組織化学染色の結果では、スコア2が21検体、スコア3が6検体でありCAPRIN−1陽性の検体数は27検体(90%)であった。
【0134】
<実施例4:癌の試料を用いたCAPRIN−1の発現評価と抗CAPRIN−1抗体による抗腫瘍効果の相関性>
(1)免疫組織化学染色法によるマウス癌細胞を移植した担癌マウス由来癌組織を用いたCAPRIN−1の検出
26匹のBalb/cマウス(日本SLC社製)の背部皮下に、マウス由来の癌細胞2種(B16F10,EMT−6)をそれぞれ5匹ずつ移植し、腫瘍が直径7mm程度の大きさになるまで成長させた。癌細胞2種を移植したマウスの2つの群から各3匹ずつ選抜し、腫瘍塊を切り出して、PBS中で腫瘍塊を切り開き、4% paraformaldehyde(PFA)を含む0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)で一晩還流固定した。還流液を捨て、PBSで各臓器の組織表面をすすぎ、10%ショ糖を含むPBS溶液を50mL容の遠心チューブに入れ、その中に癌組織を入れて4℃で2時間ローターを用いて振とうした。20%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、4℃で癌組織が沈むまで静置後、30%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、再び4℃で癌組織が沈むまで静置した。癌組織を取り出し、必要な部分を手術用メスで切り出した。次に、OCTコンパウンド(Tissue Tek社製)をかけて組織表面になじませた後、クライオモルドに組織を配置した。ドライアイスの上にクライオモルドを置いて急速凍結させた後、クライオスタット(LEICA社製)を用いて10〜20μmに薄切し、スライドガラスごとヘアードライアーで30分間風乾し、薄切組織がのったスライドガラス作製した。翌日、PBS(−)で3回洗浄した。ブロッキング液として、5% ヤギ血清を含むPBS(−)を載せ、モイストチャンバー内にて室温で1時間静置した。次に実施例2で作製したマウス抗ヒトCAPRIN−1モノクローナル抗体#8又は#14を含むPBS(−)溶液で10μg/mLに調製した溶液を載せ、モイストチャンバー内にて4℃で一晩静置した。PBS(−)で5分間5回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内にて室温で30分間静置した。PBS−Tで5分間6回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)を載せ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨てた。PBS(−)で5分間3回洗浄を行った後、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。実施例3に記載の通り、スコア分類したところ、抗体#8を用いた免疫組織化学染色の結果、メラノーマ由来癌細胞B16F10及び乳癌由来細胞EMT−6は、共にスコア1であり、CAPRIN−1発現は検出されなかった。一方、抗体#14を用いた結果では、癌細胞B16F10に対しては、抗体#8と同じくスコア1であったが、癌細胞EMT−6に対してはスコア3であった。
【0135】
(2)抗CAPRIN−1抗体による抗腫瘍効果
ヒト−ニワトリキメラ抗ヒトCAPRIN−1抗体#13を用いて、上記(1)で作製した担癌マウスを用いた抗腫瘍効果を検討した。B16F10及びEMT−6の各癌細胞を移植した担癌マウス10匹のうち、各5匹に対して、抗体#13を1匹あたり200μg(200μL)ずつ腹腔内投与した。その後、2日間計3回、同量の抗体を腹腔に投与し、これを検討群として、毎日腫瘍の大きさを計測し、#13抗体による抗腫瘍効果を観察した。一方、各担癌マウスの残り5匹に対しては、抗体の代わりにPBS(−)を投与し、これをコントロール群とした。
【0136】
抗腫瘍効果の観察の結果、抗体#13を投与したB16F10移植検討群では、腫瘍体積が抗体投与開始時を100%とした場合に、4日目、6日目、8日目、11日目で、それぞれ、約150%、200%、370%、630%に増大した。一方、抗体#13を投与したEMT−6移植検討群では、腫瘍体積が抗体投与開始時を100%とした場合に、4日目には51%にまで退縮し、6日目には31%程度、8日目には9%%にまで腫瘍が退縮し、10〜14日目までには腫瘍はほぼ完全に退縮した。なお、PBS(−)を投与したコントロール群では、B16F10移植検討群及びEMT−6移植検討群のいずれも4日目、6日目、8日目、11日目にはそれぞれ、約230%、290%、470%、800%にまで腫瘍が増大した。
【0137】
以上の結果から、抗体#8を用いた場合、CAPRIN−1の検出結果と、当該抗体の抗腫瘍活性による癌治療効果には相関が見られなかったが、抗体#14を用いた場合には、CAPRIN−1の検出結果と、当該抗体の抗腫瘍活性による癌治療効果には相関性が見られた。すなわち、EMT−6を移植した癌組織での抗体#14によるCAPRIN−1の検出結果はスコア3であったことからCAPRIN−1の過剰発現が認められ、かつ当該抗体の投与による抗腫瘍活性に基づく薬理効果も確認された。
【0138】
一方、B16F10を移植した癌組織での抗体#14によるCAPRIN−1の発現の検出結果はスコア1で、CAPRIN−1の発現が検出されず、また抗腫瘍活性を有する抗体#13を、B16F10を移植した担癌マウスに投与しても薬理効果は得られなかった。
【0139】
以上の結果から、本発明のCAPRIN−1に特異的に結合する抗体である#14を用いて癌組織中のCAPRIN−1を検出し、その発現量が高いと判定された癌又は個体に抗腫瘍効果を有する抗CAPRIN−1抗体を投与すれば、高い治療効果が得られることが予測可能である。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、癌の診断のために産業上有用である。
【0141】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0142】
配列番号31〜36、38〜42:プライマー
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]