(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層セラミックコンデンサ用の導電ペーストの印刷適性を改善するためには、金属粉末と樹脂との構造粘性を制御し、レオロジー特性としては、フローカーブ特性、粘弾性特性およびタック性をコントロールすることがポイントと考えられる。
ところが、上述の特許文献1では、金属粉末と樹脂との相互作用による構造粘性を制御することに着目しておらず、かつ、印刷特性に必要とされると考えられる粘弾性特性およびタック性に関しては、具体的な値が述べられていない。
そのため、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品用の導電ペーストにおいて、印刷特性の向上を実現することが望まれている。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、印刷特性の向上を実現することができる、導電ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる導電ペーストは、少なくとも金属成分と樹脂成分とを含有する導電ペーストであって、
金属成分は、Ni、Ni合金、Cu、Cu合金のいずれかであり、樹脂成分は、エチルセルロースまたはセルロースアセテートブチラールであり、(a)ペーストチクソ性を示す
ものであって、レオメータを用いて、0〜1000(1/秒)のフローカーブ測定行い、式TI値=(11.4(1/秒)の粘度)/(200(1/秒)の粘度)より算出されたチクソインデックス指数TI値が1.5〜5.0であり、(b)ペースト粘弾性特性を示す
ものであって、レオメータを用いて、ひずみ量を10%に固定し、周波数が0.01Hzのときの貯蔵弾性率である貯蔵粘弾性率G’が1.0〜25.0Paであり、かつ、(c)ペーストタック性を示す
ものであって、伸張粘度計
を用いることによって、直径2mmのプレートを用いて、伸張距離が10mmで伸張時間が50msの条件でペーストの観察直径が0mmに到達する時間が0.2〜1.0秒であることを特徴とする、導電ペーストである。
この発明にかかる導電ペーストでは、
金属成分となる金属粉末の塩基点量が5〜50μmol/gであり、かつ、バインダ樹脂の酸点量が15〜100μmol/gであ
る。
【0007】
この発明にかかる導電ペーストは、例えば積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の内部電極の印刷特性の向上に対して、上述の特徴を持つことが有効であることを見出すことによって発明された。すなわち、上述の導電ペーストを形成することにより、印刷時の転写・レベリング挙動が最適化され、ひいては印刷特性の向上を実現することができていると想定される。
また、この発明にかかる導電ペーストでは、金属粉末の塩基点量が5〜50μmol/gであり、かつ、バインダ樹脂の酸点量が15〜100μmol/gであると、印刷特性の向上のためのレオロジー発現を有利にする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、印刷特性の向上を実現することができる、導電ペーストが得られる。
そのため、この発明にかかる導電ペーストを用いれば、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の内部電極の印刷特性の向上を実現することができる。
【0009】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、この発明が適用される積層セラミックコンデンサの一例を示す断面図解図である。
図1に示す積層セラミックコンデンサ10は、例えば直方体状のセラミック素子12を含む。セラミック素子12は、積層されかつ一体的に形成された多数のセラミック層14を含む。セラミック素子12には、複数の内部電極16aと複数の内部電極16bとが、セラミック層14を介して互いに対向するように配置される。また、内部電極16aの一端部と内部電極16bの一端部とは、セラミック素子12の一端面および他端面に交互に引き出される。さらに、セラミック素子12の一端部および他端部には、外部電極18aおよび18bがそれぞれ形成される。一方の外部電極18aは、一方の複数の内部電極16aに電気的に接続される。他方の外部電極18bは、他方の複数の内部電極16bに電気的に接続される。外部電極18aおよび18bは、それぞれ、例えば、内側から順に、Cu焼付電極層、Niめっき膜層およびSnめっき膜層を備えた3重構造を有している。
【0012】
この積層セラミックコンデンサ10において、セラミック素子12のセラミック層14は、ペロブスカイト構造を有する誘電体セラミックから形成されている。
【0013】
また、この積層セラミックコンデンサ10において、内部電極16aおよび16bは、それぞれ、例えばNiからなる卑金属電極を含む。この場合、内部電極16aおよび16b用の導電ペーストとして、少なくとも金属成分と樹脂成分とを含有する導電ペーストであって、(a)ペーストチクソ性を示すチクソインデックス指数TI値が1.5〜5.0であり、(b)ペースト粘弾性特性を示す貯蔵粘弾性率G’が1.0〜25.0Paであり、かつ、(c)ペーストタック性を示す伸張粘度計測定値の観察直径が0mmに到達する時間が0.2〜1.0秒であることを特徴とする、この発明にかかる導電ペーストが用いられる。
この導電ペーストでは、金属粉末の塩基点量が5〜50μmol/gであり、かつ、バインダ樹脂の酸点量が15〜100μmol/gであることが好ましい。
【0014】
上述の積層セラミックコンデンサ10では、内部電極16aおよび16b用の導電ペーストが、例えば積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の内部電極の印刷特性の向上に対して、上述の特徴を持つことが有効であることを見出すことによって発明された。すなわち、上述の導電ペーストを形成することにより、内部電極16aおよび16bの印刷時の転写・レベリング挙動が最適化され、ひいては印刷特性の向上を実現することができていると想定される。
また、この導電ペーストでは、金属粉末の塩基点量が5〜50μmol/gであり、かつ、バインダ樹脂の酸点量が15〜100μmol/gであると、内部電極16aおよび16bの印刷特性の向上のためのレオロジー発現を有利にする。
したがって、上述の積層セラミックコンデンサ10では、上述の導電ペーストを用いることによって、内部電極16aおよび16bの印刷特性の向上を実現することができる。
【0015】
次に、この発明が適用される上述の積層型セラミックコンデンサ10の製造方法の一例について説明する。
【0016】
まず、セラミック素子12のセラミック層14としての誘電体セラミック層の主成分として、BaおよびTiを含むペロブスカイト型化合物(セラミック誘電体材料)を使用した。そのセラミック誘電体材料の粉末と、有機バインダ、有機溶剤、可塑剤および分散剤とを所定の割合で混合し、セラミックスラリーを調整した。それから、このセラミックスラリーを樹脂フィルム上に、乾燥後の厚みが4.0μmになるように形成して、セラミックグリーンシートを作製した。
【0017】
次に、このセラミックグリーンシートに、焼成後のセラミック素子12の大きさ(3.2mm×1.6mm)に対応するようなパターンで、導電ペーストを乾燥後の厚みが2±0.1μmになるようにスクリーン印刷した。導電ペーストとしては、金属成分となる卑金属粉末としてNi、Ni合金、Cu、Cu合金のいずれも適宜に用いることができる。この例では、表1に示す塩基点量(Ni粉末塩基点量)を持つ平均粒径が0.3μmのNi粉末と、ブチルカルビトールに表1に示す酸点量(樹脂酸点量)を持つ表1に示す樹脂種の樹脂10重量部を溶解した樹脂溶液(その配合量は、表1の樹脂重量部になるように調整した)と、ポリカルボン酸系分散剤1重量部と、残部としてブチルカルビトールとを配合してなる、表1に示すNo.1〜11の導電ペーストを用いた。樹脂の配合比率は、Ni粉末100重量部に対して2〜8重量部となることが好ましく、特にNi粉末100重量部に対して3.5〜6.5重量部になることが好ましいが、適宜に選択することができる。
【0019】
それから、導電ペーストをスクリーン印刷したセラミックグリーンシートを樹脂フィルムから剥離後、350枚重ねて、圧着することにより積層体を形成し、この積層体を所定の大きさにカットして、個々の未焼成のチップ(未焼成のセラミック素子12)に分割した。
【0020】
そして、個々のチップを、窒素雰囲気中において、400℃でかつ10時間の条件で脱脂処理した後、窒素−水素−水蒸気混合雰囲気中において、トップ温度が1200℃でかつ酸素分圧が10
-9〜10
-10MPaの条件で焼成した。
【0021】
次に、得られた焼成後のチップ(セラミック素子12)に、Cu粉末70重量部と、SiO
2含有量が43%であるホウケイ酸系ガラスフリット10重量部と、ブチルカルビトールにエチルセルロース20重量部を溶かした樹脂溶液20重量部とを含有する外部電極ペーストを、乾燥後の側面厚みで50μmになるようにディップ法により塗布し、乾燥させた。
【0022】
その後、窒素−Air−水蒸気混合雰囲気または窒素−水素−水蒸気混合雰囲気中において、トップ温度が790〜880℃でかつトップ温度時の酸素起電力が220〜280mVの条件で、Cu焼付電極層を形成した。
【0023】
その後、Cu焼付電極層の上に、NiめっきおよびSnめっきをその順に施してNiめっき膜層およびSnめっき膜層を形成することによって、3層構造の外部電極18aおよび18bを形成し、積層セラミックコンデンサ10を作製した。
【0024】
上述のようにして作製した積層セラミックコンデンサ10の内部電極16aおよび16bに用いた導電ペーストに関して、以下のように、Ni粉末塩基点量、樹脂重量平均分子量Mw、樹脂酸点量、チクソインデックス指数TI値、貯蔵弾性率G’、伸張粘度計の観察直径が0mmに到達する時間、印刷塗膜のにじみ、印刷塗膜のかすれおよび印刷塗膜のサドル高さについて評価した。
【0025】
Ni粉末塩基点量について
Ni粉末塩基点量については、Ni粉末試料の表面塩基点と酢酸を反応させ、酢酸の減少量をカリウムメトキシドによる中和滴定により測定して、その結果から酢酸と反応した量を算出した。
【0026】
樹脂重量平均分子量Mwについて
樹脂重量平均分子量Mwについては、樹脂をテトラヒドロフラン(THF)で溶解して抽出し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定し、得られたクロマトグラムより、重量平均分子量Mwを算出した。
【0027】
樹脂酸点量について
樹脂酸点量については、カリウムメトキシドを滴定溶媒とした中和滴定により、樹脂の酸点量を測定した。
【0028】
チクソインデックス指数TI値について
チクソインデックス指数TI値については、導電ペーストについて、レオメーターを用いて、0〜1000(1/秒)のフローカーブ測定を行い、下記の式でTI値を算出した。
TI値=(11.4(1/秒)の粘度)/(200(1/秒)の粘度)
【0029】
貯蔵弾性率G’について
貯蔵弾性率G’については、導電ペーストについて、レオメーターを用いて、ひずみ量を10%に固定し、周波数を0.01〜16Hzと変えて貯蔵弾性率を測定し、0.01Hzの貯蔵弾性率をG’と定義した。
【0030】
伸張粘度計の観察直径が0mmに到達する時間について
伸張粘度計の観察直径が0mmに到達する時間については、導電ペーストについて、伸張粘度計を用いることによって、直径2mmのプレートを用いて、伸張距離が10mmで伸張時間が50msの条件でペーストの観察直径が0mmに到達するまでの時間を測定した。
【0031】
印刷塗膜のにじみについて
印刷塗膜のにじみについては、印刷塗膜として導電ペーストを印刷して形成した電極塗膜の表面を光学顕微鏡で観察し、10個のサンプルのにじみ量を測定し、10個のサンプルのにじみ量の平均値とした。この場合、にじみ量(にじみ距離)については、
図2に示すように、導電ペーストの印刷終了側のW方向の部分のエッジからにじみ出している最大のにじみ箇所をにじみ距離と定義した。
【0032】
印刷塗膜のかすれについて
印刷塗膜のかすれについては、印刷塗膜として導電ペーストを印刷して形成した電極塗膜を、光学顕微鏡を用いて、透過光観察し、10個のサンプルについて白ぬけ箇所の有無を確認し、確認した10個のサンプルの内、1つのサンプルでも白抜けがある場合、不良と判断した。
【0033】
印刷塗膜のサドル高さについて
印刷塗膜のサドル高さについては、印刷塗膜としてセラミックグリーンシート上に導電ペーストを印刷して形成した電極塗膜の表面をレーザー顕微鏡で観察し、サドル高さを算出した。この場合、サドル高さについては、
図3および
図4に示すように、電極塗膜のW方向に平行しかつL方向と直交する方向おける断面(
図4参照)において電極塗膜の電極中央部の高さおよび電極塗膜の最大高さ間の段差と定義した。
【0034】
そして、以上の結果や総合判定も表1に示した。
表1の「Ni粉末塩基点量」の欄において、「N.D.」は、検出限界未満、すなわち5μmol/g未満を示す。
また、表1の「かすれ」の欄において、上述の不良と判断しないものを「○」で示し、不良と判断したものを「×」で示した。
さらに、表1の「総合判定」の欄において、表1の「にじみ」、「かすれ」および「サドル高さ」が不良と判断しないものを「○」で示し、表1の「にじみ」、「かすれ」および「サドル高さ」の少なくとも1つが不良と判断したものを「×」で示した。
【0035】
表1の結果より、以下のように判断した。
【0036】
No.6およびNo.11は、にじみ発生が大きくなる不良と判断した。
No.7およびNo.10は、かすれが発生し、サドル高さが高くなり、不良と判断した。
No.8は、かすれが発生し、不良と判断した。
No.9は、サドル高さが高くなり、不良と判断した。
これは、No.6〜11では、金属粉末と樹脂との相互作用が適切になっておらず、その結果、所望なレオロジーが得られていないと考える。詳細は、金属粉末の塩基点量または樹脂の酸点量が少ない場合(No.6および11)は、金属粉末と樹脂との相互作用が弱くなり、逆に、金属粉末の塩基点量または樹脂の酸点量が高い場合(No.7〜10)は、金属粉末と樹脂との相互作用が強くなりすぎ、この発明にかかる導電ペーストにおける所望のレオロジー特性が得られていないと考える。
【0037】
それに対して、No.1〜5のように、少なくとも金属成分と樹脂成分とを含有する導電ペーストであって、下記のレオロジーを示すこの発明にかかる導電ペーストを用いることによって、にじみおよびサドル高さを適切量に制御でき、かすれも発生しないことを確認した。
(a)ペーストチクソ性を示すチクソインデックス指数TI値が1.5〜5.0である。
(b)ペースト粘弾性特性を示す貯蔵粘弾性率G’が1.0〜25.0Paである。
(c)ペーストタック性を示す伸張粘度計測定値の観察直径が0mmに到達する時間が0.2〜1.0秒である。
上述のレオロジーは、固形成分として使用される金属粉末の塩基点量が、5〜50μmol/gであり、かつ、バインダ樹脂の塩基点量が15〜100μmol/gである場合に発現していることを確認した。
これは、上述のペーストを設計する際に、上述のレオロジーを得るために金属粉末と樹脂との相互作用が適切になり、その結果、印刷時の転写・レベリング挙動が最適化され、ひいては印刷特性の向上を実現できていると想定している。
【0038】
なお、上述の実施の形態では、導電ペースト中の金属成分となる金属粉末として、例えばNi粉末などの卑金属粉末が用いられているが、この発明では、他の金属粉末が用いられてもよい。
【0039】
また、上述の実施の形態では、特定の厚さなどの寸法を有するが、この発明は、他の寸法を有するものにも適用され得る。
【0040】
さらに、上述の実施の形態では、外部電極が3層構造を有するが、外部電極は他の構造を有してもよい。
【0041】
また、上述の実施の形態では、この発明にかかる導電ペーストが積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられているが、この発明にかかる導電ペーストは、他の積層セラミック電子部品の内部電極に用いられてもよい。