特許第6244955号(P6244955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6244955印刷制御装置、印刷制御方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244955
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】印刷制御装置、印刷制御方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20171204BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20171204BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B41J2/01 201
   B41J2/175 119
   B41J2/01 451
   B41J2/21
   B41J2/01 501
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-23083(P2014-23083)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2015-147393(P2015-147393A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164633
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(72)【発明者】
【氏名】浅田 建也
(72)【発明者】
【氏名】中野 智之
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−290262(JP,A)
【文献】 特開2007−301891(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0284922(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを制御する印刷制御装置であって、
前記カートリッジの製造からの経過時間、又はある画像の印刷が行われてから次の画像の印刷が行われるまでの経過時間に関連する時間情報を取得し、前記カートリッジの時間情報に応じて、前記ノズル列において前記顔料インクを噴射する使用ノズルを減らすことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記使用ノズル数を減らすときにおいて、前記ノズル列において中央寄りのノズルを使用するように使用ノズルを減らすことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷制御装置であって、
前記使用ノズルの減らし方を前記顔料インクの色毎に異ならせることを特徴とする印刷制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の印刷制御装置であって、
前記顔料インクを噴射する使用ノズルを減らすときにおいて、イエローインクの使用ノズルを減らす速度は、他の色のインクの使用ノズルを減らす速度よりも遅いことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の印刷制御装置であって、
前記カートリッジは、前記顔料インクをしみこませた材料を含むことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の印刷制御装置であって、
前記カートリッジの時間情報は、前記カートリッジの製造からの経過時間、及びある画像の印刷が行われてから次の画像の印刷が行われるまでの経過時間の組み合わせに関連する時間情報であることを特徴とする印刷制御装置。
【請求項7】
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを制御する制御方法であって、
前記カートリッジの製造からの経過時間、又はある画像の印刷が行われてから次の画像の印刷が行われるまでの経過時間に関連する時間情報を取得することと、
前記時間情報に応じて、前記ノズル列において使用するノズルを減らして前記顔料インクを噴射することと、を含むことを特徴とする印刷制御方法。
【請求項8】
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを印刷制御装置に行わせるプログラムであって、
前記カートリッジの製造からの経過時間、又はある画像の印刷が行われてから次の画像の印刷が行われるまでの経過時間に関連する時間情報を取得することと、
前記時間情報に応じて、前記ノズル列において使用するノズルを減らして前記顔料インクを噴射することと、を行わせることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷制御装置、印刷制御方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクを噴射するインクジェット式のプリンターが開発されている。インクジェット式の印刷装置の中には顔料インクを使用するものもあるが、顔料インクは含まれる顔料が沈降するという問題がある。
【0003】
特許文献1には、沈降度合いに応じてノズル毎のインクの噴出量を補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−218560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク漏れを防止するために、スポンジ状の材料に顔料インクをしみこませたインクカートリッジを使用するプリンターがある。このようなインクカートリッジを使用した場合、その不使用期間によっては、ノズル列の中央部と端部とで形成される画像の濃度が異なる濃度ムラが発生することがある。濃度ムラは、印刷品質を低下させるため、抑制することが望ましい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、濃度ムラの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを制御する印刷制御装置であって、前記カートリッジの経過時間に関する時間情報を取得し、前記カートリッジの時間情報に応じて、前記ノズル列において前記顔料インクを噴射する使用ノズルを減らすことを特徴とする印刷制御装置である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】プリンター1の斜視図である。
図2】プリンター1の全体構成ブロック図である。
図3】ヘッド41の下面に設けられるノズル配列を示す図である。
図4】フォームタイプのカートリッジ42の説明図である。
図5】各ノズルに対応した印刷濃度を説明するグラフである。
図6】第1実施形態における印刷方法を説明するフローチャートである。
図7】不使用時間(年数)と使用ノズル数の関係を説明するグラフである。
図8】使用ノズル数の減らし方の説明図である。
図9図9Aは、不使用時間と濃度との関係を説明する第1のグラフであり、図9Bは、不使用時間と濃度との関係を説明する第2のグラフである。
図10】使用ノズルに適用されるマスクパターンの説明図である。
図11】使用ノズルに適用される階調値補正の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを制御する印刷制御装置であって、前記カートリッジの経過時間に関する時間情報を取得し、前記カートリッジの時間情報に応じて、前記ノズル列において前記顔料インクを噴射する使用ノズルを減らすことを特徴とする印刷制御装置である。
カートリッジの経過時間が長くなると顔料インクの沈降が生じ、これによってノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度が異なるおそれがあるが、上記構成によれば、経過時間に応じて使用ノズル数を減らすことができるので、ノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度差を小さくすることができる。そして、濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0011】
かかる印刷制御装置であって、前記使用ノズル数を減らすときにおいて、前記ノズル列において中央寄りのノズルを使用するように使用ノズルを減らすことが望ましい。
仮に、中央寄りのノズルではなく端部側のノズルを使用するようにした場合、上端側のノズルと下端側のノズルとで顔料インクを噴射することになる。すなわち、ノズル列の1回の移動により、2つのバンドが形成されることになるが、この場合、これら2つのバンドの位置あわせ等が困難で印刷処理が複雑なものとなる。これに対し、中央寄りのノズルを使用するように使用ノズルを減らした場合には、中央寄りのノズルにより1つのバンドしか形成されないため、比較的容易に印刷処理を進めることができる。
【0012】
また、前記使用ノズルの減らし方を前記顔料インクの色毎に異ならせることが望ましい。
インクの沈降度合いで生ずるインクの濃度差はインク色毎に異なるため、使用ノズルの減らし方を顔料インクの色毎に異ならせることによって、インク色間の濃度差を小さくすることができる。
【0013】
また、前記顔料インクを噴射する使用ノズルを減らすときにおいて、イエローインクの使用ノズルを減らす速度は、他の色のインクの使用ノズルを減らす速度よりも遅いことが望ましい。
イエローインクは、インクの沈降度合いで生ずるノズル間のインクの濃度差が他のインクと比して小さいため、イエローインクの使用ノズルを減らす速度を、他の色のインクの使用ノズルを減らす速度よりも遅くすることができる。
【0014】
また、前記カートリッジは、前記顔料インクをしみこませた材料を含むことが望ましい。
このようにすることで、顔料インクの漏れ出しにくいカートリッジを利用することができる。また、このようなカートリッジにおいて、インクの沈降によるノズル間の濃度差が生じやすいが、上記のように使用するノズルを減ずることができるので、濃度差を小さくすることができる。
【0015】
また、前記カートリッジの前記経過時間は、前記カートリッジの製造からの経過時間に関連する時間であることが望ましい。
このようにすることで、カートリッジの製造からの経過時間に応じて、使用するノズルを減ずることができる。
【0016】
また、本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項も明らかとなる。
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを制御する制御方法であって、
前記カートリッジの経過時間に関する時間情報を取得することと、
前記時間情報に応じて、前記ノズル列において使用するノズルを減らして前記顔料インクを噴射することと、
を含むことを特徴とする印刷制御方法である。
カートリッジの経過時間が長くなると顔料インクの沈降が生じ、これによってノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度が異なるおそれがあるが、上記構成によれば、経過時間に応じて使用ノズル数を減らすことができるので、ノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度差を小さくすることができる。そして、濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0017】
また、本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項も明らかとなる。
カートリッジから供給される顔料インクを複数のノズルを有するノズル列から噴射することを印刷制御装置に行わせるプログラムであって、
前記カートリッジの経過時間に関する時間情報を取得することと、
前記時間情報に応じて、前記ノズル列において使用するノズルを減らして前記顔料インクを噴射することと、
を行わせることを特徴とするプログラムである。
カートリッジの経過時間が長くなると顔料インクの沈降が生じ、これによってノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度が異なるおそれがあるが、上記構成によれば、経過時間に応じて使用ノズル数を減らすことができるので、ノズル列におけるノズル間で噴射される顔料インクの濃度差を小さくすることができる。そして、濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0018】
===第1実施形態===
図1は、プリンター1の斜視図である。図2は、プリンター1の全体構成ブロック図である。コンピューター60は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるための印刷データをプリンター1に送信する。なお、コンピューター60には、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換するためのプログラム(プリンタードライバー)がインストールされている。プリンタードライバーは、CD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されていたり、インターネットを介してコンピューターにダウンロード可能であったりする。
【0019】
コンピューター60は、後述するように、カートリッジの製造年月日からの経過時間に応じてインクを噴射するノズル(使用ノズル)を制限する。このように、インクの噴射を制御するコンピューター60は、印刷制御装置に相当する。
【0020】
コントローラー10は、プリンター1の各部を制御するための制御ユニットである。インターフェース部11はコンピューター60とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU12はプリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー13はCPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。
【0021】
搬送ユニット20は、媒体Sを印刷可能な位置に送り込み、印刷時には搬送方向に所定の搬送量で媒体Sを搬送させるものである。キャリッジユニット30は、ヘッド41を搬送方向と交差する移動方向に移動させるためのものであり、キャリッジ31を有する。
【0022】
ヘッドユニット40は、媒体Sにインクを噴射するためのものであり、ヘッド41を有する。ヘッド41はキャリッジ31によって移動方向に移動する。ヘッド41の下面には、インク噴射部であるノズルが複数設けられ、各ノズルには、インクが入ったインク室(不図示)が設けられている。
【0023】
また、キャリッジ31には、ブラックインクK、イエローインクY、マゼンタインクM、および、シアンインクCのインクカートリッジ42が取り付けられている。これらのカートリッジ42から、それぞれの色のインクがヘッド41に供給される。
【0024】
図3は、ヘッド41の下面に設けられるノズルの配列を示す図である。なお、図3はヘッド41の上面から透過的にノズルを見た図である。ヘッド41の下面には、ヘッド41の移動方向について2列のノズル列が形成されている。一方のノズル列は、ブラックインクKを噴射するためのノズル列であって、180個のノズルが搬送方向に所定の間隔で並ぶ。これに対し、他方のノズル列は、シアンインクC、マゼンタインクM、および、イエローインクYを噴射するためのノズル列である。
【0025】
シアンインクCのノズル列、マゼンタインクMのノズル列、および、イエローインクYのノズル列は、それぞれ48個のノズルを有する。そして、それぞれのノズル列は、同一列上に並ぶ。それぞれのノズル列のノズルは、ブラックインクKと同じ所定の間隔で並ぶ。ただし、シアンインクCのノズル列、マゼンタインクMのノズル列、および、イエローインクYのノズル列は、それぞれ、搬送方向について若干の間隔をあけて並ぶ。
【0026】
それぞれのインクのノズル列には、搬送方向の下流側のノズルから順に小さい番号が付され、これらはノズル番号とされる。
【0027】
このようなプリンター1では、移動方向に沿って移動するヘッド41からインク滴を断続的に噴射させて媒体上にドットを形成するドット形成処理と、媒体をヘッド41に対して搬送方向に搬送する搬送処理とが繰り返される。そうすることで、先のドット形成処理により形成されたドットの位置とは異なる媒体上の位置に、後のドット形成処理にてドットを形成することができ、媒体上に二次元の画像を印刷することができる。
【0028】
図4は、フォームタイプのカートリッジ42の説明図である。カートリッジ42は、フォーム421とケース422と蓋423とラベル424とフィルタ426とIC427を備える。
【0029】
ケース422内には、フォーム421が挿入される。フォーム421は、スポンジや多孔質材であって、インクがしみこまれている。ケース422と蓋423とが溶着される。そして、これらの内部が密封される。
【0030】
ケース422の下部には、供給孔425が設けられ、この供給孔425を介してヘッド41にインクが供給される。また、蓋423には空気孔428が設けられており、供給口425を介したインクの供給を円滑にする。また、フォーム421と供給孔425との間にはフィルタ426が設けられており、ゴミ等がヘッド41に供給されないようにされる。
【0031】
なお、使用前のカートリッジ42には、蓋423の上面にラベル424が接着されており、使用時において蓋423からラベル424が剥がされることになる。そして、空気孔428からの空気の流入を可能とすることで、カートリッジ42内の気圧を大気圧に保ち、インクを供給孔425か流出可能とする。
【0032】
また、カートリッジ42には、IC427が固着される。IC427には、少なくともカートリッジ42の製造年月日が記録される。そして、カートリッジ42がキャリッッジ31に取り付けられたときにおいて、プリンター1側でカートリッジ42の製造年月日を読み出し可能となっている。
【0033】
このように、カートリッジ42内にインクがしみこまされたフォーム421が挿入されているのは、インクの漏れを防止するためである。これは、例えば、プリンター1が高頻度の持ち運びを許容するモバイル型プリンターである場合、フォーム421を挿入せず単にインクをカートリッジ42内に貯留させたとすれば、プリンター1の移動中にインク漏れが生ずる恐れがあるためである。
【0034】
しかしながら、このようなフォームタイプのカートリッジ42を採用した場合、顔料インクがカートリッジ42内で沈降すると、フォーム421が障害となってその沈降が分散しにくいという問題がある。特に、沈降した顔料インクは粘度が高いため、沈降は分散しにくいこともある。
【0035】
フォームタイプのカートリッジ42に沈降が生じた場合において、ヘッド41からインクを噴射すると、ノズル列の中央部のインクが淡く、ノズル列の端部のインクが濃くなるという現象が発生することがある。
【0036】
図5は、各ノズルに対応した印刷濃度を説明するグラフである。図5には、上述のように、フォームタイプのカートリッジ42に沈降が生じた場合において、各ノズルからインクを噴射させ、これらを測色した場合の濃度が示されている。なお、ここで濃度が高いとは、「濃い」ことを表し、濃度が低いとは「淡い」ことを表す。
【0037】
ブラックインクKに着目すると、ノズル列の上流側(ノズル#1側)および下流側(ノズル#180側)のインクの濃度が高く、ノズル列の中央部(ノズル#90前後)のインクの濃度が低い。
【0038】
このことは、他のインク色のノズル列についても共通しており、ノズル列の上流側(ノズル#1)および下流側(ノズル#48)のインクの濃度が高く、ノズル列の中央部(ノズル#24前後)のインクの濃度が低い。なお、カートリッジ42内における沈降がヘッド41から噴射されるインクの濃度に影響を与えるメカニズムについては、現時点では不明である。
【0039】
このように、カートリッジ42内のインクに沈降が生じた場合には、濃度差が生ずることから、このまま印刷に使用すれば濃度ムラが発生することになる。濃度ムラの発生は、印刷品質を低下させることになるから、抑制することが望ましい。以下に、このような濃度ムラの発生を抑制する印刷方法について説明する。
【0040】
図6は、第1実施形態における印刷方法を説明するフローチャートである。プリンター1は、カートリッジ42のIC427からカートリッジ42の不使用時間(経過時間に相当し、経過時間ということもある)を取得する。そして、この不使用時間は、コンピューター60に送られる(S102)。ここで、カートリッジ42の不使用時間とは、カートリッジ42の製造年月日から、当該カートリッジ42がプリンター1に装着され、最初の印刷が行われるまでの時間である。この不使用時間は、カートリッジ42がプリンター1に装着され、最初の印刷が行われるとともに、カートリッジ42のIC427に記録されるものとする。
【0041】
そして、コンピューター60は、不使用時間が所定の年数を超えているか否かについて判定する(S104)。ここでは、所定の年数として、1.5年を採用しているが、年数はカートリッジ42の種類によって異ならせることができる。
【0042】
不使用時間が1.5年を超えていない場合には、特段の補正を行わず、送られた印刷データに基づいて印刷を行うこととする(S108)。そのため、コンピューター60は、通常通り印刷データを生成することになる。
【0043】
一方、不使用時間が1.5年を超えていた場合には、次に説明するように、使用するノズルを特定のノズル(使用ノズル)に限定する補正を行う(S106)。
【0044】
図7は、不使用時間(年数)と使用ノズル数の関係を説明するグラフである。図7のグラフにおいて、横軸はカートリッジ42の製造年月日からカートリッジ42が最初に使用されるまでの経過年数であり、縦軸はそれに対応して印刷に使用される使用ノズルである。なお、このグラフは、ブラックインクKに対応するグラフであり、このグラフのデータは、コンピューター60に記憶されている。なお、このグラフのデータは、プリンター1のメモリー13に記憶されていることとし、プリンター1からコンピューター60が取得することとしてもよい。また、印刷制御装置がプリンター1のコントローラー10である場合にも、グラフのデータは、プリンター1のメモリー13に記憶される。
【0045】
前述のように、不使用時間が1.5年を超えていない場合には、前述のように全てのノズル、すなわち180個のノズルを使用ノズルとして印刷が行われることになる。一方、不使用時間が1.5年を超えている場合には、その不使用時間に対応させて使用ノズル数が減らされる。カートリッジ42の不使用時間は、顔料インクの沈降度合いと相関関係がある。そのため、カートリッジ42の不使用時間に対応させて使用ノズル数を減らすことは、カートリッジ42における顔料インクの沈降度合いに応じて使用ノズル数を減らすことに相当する。ここでは、1.5年経過から3年経過までの間に、使用ノズル数を比例的に130ノズル減らすようにする。すなわち、不使用時間が3年の時点では50ノズルで印刷が行われることになる。3年経過後は、さらに年数が経過した場合でも50ノズルで印刷が行われるようにされる。
【0046】
使用ノズルの減らし方であるが、コンピューター60が、画像データから印刷データを生成する際、使用ノズルのみにドットを形成させ、不使用ノズルにはドットを形成しないように印刷データを補正する(S106)。そして、このように補正された印刷データに基づいて、コンピューター60は、プリンター1に画像の印刷を行わせる(S108)。
【0047】
なお、ここでは、1.5年経過から3年経過までの間に使用ノズル数を130ノズル減らすものとして説明したが、使用ノズルを減らす速度はこれよりも速くても遅くてもよい。また、使用ノズル数を減らし始める年数も1.5年に限られず、使用ノズル数を維持することにする年数も3年に限られない。また、使用ノズルを減らす速度は比例的なものでなくてもよい。図7に示される使用ノズル数の減り方は、インクの沈降年数と、図5の濃度との関係に応じて決めることができる。
【0048】
図8は、使用ノズル数の減らし方の説明図である。図8の左側には、不使用の年数が0年から1.5年以内のときのブラックインクの使用ノズルが示されている。また、図8の右側には、不使用の年数が3年を超えたときの使用ノズルが示されている。このように、使用ノズル数を減らす際、ノズル列の端部のノズルから順に上下対称となるように徐々に減らされることになる。
【0049】
図9Aは、不使用時間と濃度との関係を説明する第1のグラフであり、図9Bは、不使用時間と濃度との関係を説明する第2のグラフである。図9Aでは、不使用時間が1.5年であるときの各ノズルに対応する濃度が示されており、図9Bでは、不使用時間が3年であるときの各ノズルに対応する濃度が示されている。
【0050】
図9Aに示される中央部のノズルと端部のノズルとの間の濃度差は、プリンター1において許容される濃度差の限界値である。不使用の年数が、これを超えると濃度差がより大きくなり、許容できる濃度差の限界値を超える。
【0051】
図9Bにおける不使用時間は3年である。そのため、中央部のノズルと端部のノズルとの間の濃度差がより大きくなっている。そのため、使用ノズルを図9Bの実線に対応するノズルに限る。すなわち、端部のノズルから徐々に使用ノズルを減らしていく。このようにすることで、使用ノズルにおける濃度差を許容される濃度差の範囲内に納めることができるのである。
【0052】
以上、ブラックインクを例に説明を行ったが、他の色のインクを噴射するノズルについてもほぼ同様に使用ノズルが減らされる。ただし、ノズル数がブラックインクノズル列とは異なることから、1.5年経過から3年経過までの間に使用ノズル数を48ノズルから13ノズルへ減らすようにすることができる。
【0053】
また、インク色毎に、使用ノズルの減らし方を異ならせることができる。前述の図5を参照すると、ブラックインク以外のインクは、ブラックインクと比較して濃度の変化量が少ない。そのため、ブラックインクノズルよりもシアンインクノズルの使用ノズルの減らし方をより緩やかなものとすることができる。また、マゼンタインクノズルの使用ノズルの減らし方を、シアンインクノズルの減らし方よりもより緩やかなものとすることができる。また、イエローインクノズルの使用ノズルの減らし方を、マゼンタインクノズルの使用ノズルの減らし偏りもより緩やかなものとすることができる。
【0054】
また、不使用時間に対して最も濃度差の生じにくいイエローインクについては、不使用時間にかかわらず使用ノズルを減じないこととしてもよい。
【0055】
また、それぞれのインク色の使用ノズルの減らしはじめの不使用時間と減らし終わりの不使用時間をそれぞれ異なる年数とすることもできる。
【0056】
このようにすることで、使用ノズルから噴射された最も濃いインクと最も淡いインクとの濃度差を小さくすることができる。そして、濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0057】
===第2実施形態===
前述の第1実施形態では、使用ノズル数を減ずることとした。しかしながら、このように使用ノズル数を減じた場合であっても、使用ノズル間で形成する画像の濃度に若干の差が生じてしまう場合がある。よって、使用ノズルに対応するデータについて濃度補正を行って印刷をおこなうこともできる。以下、ブラックインクノズルを例に、濃度補正の説明を行う。
【0058】
濃度補正の手法としては、印刷データの段階で印刷データにマスキングを行って濃度補正を行う方法と、画像データの段階で階調値の補正を行って濃度補正を行う方法がある。
【0059】
印刷データの段階で印刷データにマスキングを行って濃度補正を行う方法について説明する。
図10は、使用ノズルに適用されるマスクパターンの説明図である。図10には、使用ノズルと不使用ノズルの範囲が示されている。ここでは、ノズル#1〜#81およびノズル#100〜#180が不使用ノズルとされ、ノズル#82〜#99が使用ノズルとされている。
【0060】
印刷データは、各印刷画素にどのインク色でどのサイズのドットを形成するかを示すデータである。また、各印刷画素へのインクの吐出をどのノズルが受け持つかの関連づけもなされている。プリンター1は、印刷データに基づいて、印刷画素に対応するドットを形成すべくインクを吐出する。
【0061】
しかしながら、濃度補正を行わずに印刷を行ったとすれば、前述のように、端部寄りのノズルによる印刷画像の濃度は、中央寄りのノズルによる印刷画像の濃度よりも高くなる。よって、図10に示されるようなマスクが印刷データに適用される。
【0062】
図10に示される各セルは、使用ノズルによって印刷がされる各画素に対応する。斜線が施されているセルはインクの噴射が許可される印刷画素であり、斜線の施されていないセルはインクの噴射が許可されない印刷画素である。
【0063】
図10を参照すると分かるとおり、使用ノズルに対応づけられた各セルのうち中央寄りのセルの方が、端部寄りのセルよりも斜線が施される割合が多い。すなわち、中央寄りの印刷画素では、多くの割合でインクの噴射が許可されることとなり、端部寄りの印刷画素では、これよりも少ない割合でインクの噴射が許可される。
【0064】
すなわち、このマスクを印刷データに適用することで、使用ノズルのうち中央寄りの印刷画像の濃度を高くする(濃くする)ことができ、使用ノズルのうち端部寄りの印刷画像の濃度を低くする(淡くする)ことができる。
【0065】
次に、画像データの段階で階調値を補正することによって濃度補正を行う方法ついて説明する。
図11は、使用ノズルに適用される階調値補正の説明図である。図11には、使用ノズルと不使用ノズルの範囲が示されているほか、使用ノズルに適用される濃度補正係数が示されている。ここで示される濃度補正係数は、後述する画像データの階調値に乗ぜられる百分率の値である。
【0066】
前述のように、使用ノズルにおいても、その中で若干のインクの濃度差が生じており、濃度補正を行わずに印刷を行ったとすれば、端部寄りのノズルによる印刷画像の濃度は、中央寄りのノズルによる画像の印刷濃度よりも高く(濃い)なる。よって、端部寄りのノズルによる印刷画像の濃度が低くなるように濃度補正を行う。
【0067】
画像データは、256階調の濃度値で表されている。この画像データに対して、図11に示される濃度補正係数が乗ぜられる。図11に示される濃度補正係数は、使用ノズルにおいて、中央寄りのノズルよりも端部寄りのノズルに対応する画像の濃度が低くなるように設定されている。そして、画像データが印刷データに変換されたときにおいて、中央寄りのノズルよりも端部寄りのノズルに対応する印刷画像の濃度が低くなるようにされている。
【0068】
このような濃度補正係数を画像データに適用するために、画像データにおける画素と、印刷データにおける印刷画素との対応関係が求められる。印刷画素には、その印刷画素にインクを吐出する使用ノズルの対応付けがなされている。そのため、画像データにおけるどの画素が印刷データにおいてどの使用ノズルによって形成されることになるのかを求めることができる。すなわち、画像データにおける画素とノズルとの対応付けを求めることができる。
【0069】
次に、各画素の濃度値について、対応する使用ノズルの濃度補正係数が乗ぜられ、補正した濃度値が求められる。そして、補正した濃度値を含む画像データが印刷データに変換され、これに基づいて印刷が行われる。
【0070】
以上のような濃度補正を行うことにより、使用ノズルにおける濃度差を低減することができる。なお、上記のような濃度補正を行うと、全体的に印刷される画像の濃度が低くなる。よって、事前に対応する画像データの濃度値を高く設定した後に、上記の濃度補正を行うこととしてもよい。
【0071】
===その他の実施の形態===
以上のように、カートリッジ42からカートリッジ42の不使用時間を取得したが、カートリッジ42の出荷時には、IC427にはカートリッジ42の製造年月日に関する情報が記録されている。そして、カートリッジ42がプリンター1に装着され、最初の印刷が開始された時点で、カートリッジ42の製造年月日および最初の印刷の開始時刻に基づいて、不使用時間が求められる。そして、不使用時間がカートリッジ42に記録される。
【0072】
また、上記のような不使用時間を経過時間に相当するものとして説明したが、カートリッジ42が装着されて最初の印刷が行われてから次の印刷までの時間を経過時間に相当するものとすることもできる。また、ある印刷が行われてから次の印刷が行われるまでの時間を経過時間に相当するものとすることもできるし、さらに、これらの累積時間を経過時間に相当するものとすることもできる。また、これらの組み合わせを経過時間に相当するものとすることもできる。なお、ある印刷が行われてから次の印刷が行われるまでの時間を経過時間とするように経過時間が変化するものである場合には、印刷時刻情報をカートリッジ42のIC427に記録することとする。
【0073】
また、プリンター1のコントローラー10を印刷制御装置としてもよい。このようにすることで、プリンター1をコンピューター60を用いないモバイルプリンターとして利用することができる。これは、例えば、メモリーカードをプリンター1のスロットに挿入して使用する場合や、スマートフォンから取得した画像をプリンター1に送って印刷をする場合などに利点がある。
【0074】
また、コンピューター60とコントローラー10とを印刷制御装置とすることもできる。このように、コンピューター60とコントローラー10とを印刷制御装置とした場合には、経過年数の算出および濃度補正係数の算出をプリンター1側で行い、印刷データや画像データの補正をコンピューター60側で行うことができる。
【0075】
上述の実施形態では、印刷制御装置に制御される対象としてプリンター1が説明されていたが、これに限られるものではなくインク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする液体吐出装置に具現化することもできる。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、気体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の装置に、上述の実施形態と同様の技術を適用してもよい。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【0076】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0077】
1 プリンター、
10 コントローラー、11 インターフェース部、12 CPU、13 メモリー、
20 搬送ユニット、30 キャリッジユニット、31 キャリッッジ、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、42 カートリッジ、
421 フォーム、422 ケース、423 蓋、424 ラベル、425 供給孔、
426 フィルタ、427 IC、428 空気孔
図1
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