特許第6244959号(P6244959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244959
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20171204BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F16C33/54 Z
   F16C19/36
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-24300(P2014-24300)
(22)【出願日】2014年2月12日
(65)【公開番号】特開2015-152043(P2015-152043A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲治
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241873(JP,A)
【文献】 特開2009−144762(JP,A)
【文献】 特開2008−115979(JP,A)
【文献】 特開2013−174254(JP,A)
【文献】 特開2007−239969(JP,A)
【文献】 特開2007−270948(JP,A)
【文献】 実開昭51−7549(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00− 19/56
F16C 33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方側が小径であり軸方向他方側が大径である内輪軌道面を有する内輪と、この内輪の外周側に同心状に設けられ前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に介在している複数の円すいころと、前記円すいころを収容するポケットが周方向に沿って複数形成されている環状の保持器と、を備え、
前記内輪は、前記円すいころの大端面と接触する内側面を有している大鍔部を備え、
前記保持器は、前記円すいころの前記大端面に接触することで当該保持器の軸方向一方側への移動を制限する第1位置決め部と、前記大鍔部の前記内側面に接触することで当該保持器の軸方向他方側への移動を制限する第2位置決め部と、を有し、
前記円すいころの前記大端面と前記第1位置決め部とが接触したときに、前記大鍔部の前記内側面と前記第2位置決め部との軸方向の隙間が、前記円すいころと前記ポケットとの間に形成される軸方向の隙間よりも小さいことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記保持器は、軸方向に離れて設けられている小径円環部及び大径円環部と、これら小径円環部と大径円環部とを繋ぐ複数の柱部と、を有し、周方向で隣り合う柱部の間が前記ポケットとされており、
前記第2位置決め部は、前記柱部から径方向内側に延在し前記大鍔部の前記内側面に接触する突起片からなる請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記保持器は、軸方向に離れて設けられている小径円環部及び大径円環部と、これら小径円環部と大径円環部とを繋ぐ複数の柱部と、を有し、周方向で隣り合う柱部の間が前記ポケットとされており、
前記第2位置決め部は、前記大径円環部と一体であり当該大径円環部の径方向内側に位置する中継部と、当該中継部から径方向内側に延在して前記大鍔部の前記内側面に接触する延在部と、を有しており、
前記中継部は、前記大径円環部から軸方向他方側へ突出する金属製の板片の基部を軸方向一方側へ折り返して形成した部分からなり、
前記延在部は、前記中継部の先部を径方向内側へ折り曲げて形成した部分からなる請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記保持器は、前記外輪軌道面又は前記円すいころの外周面に接触することで当該保持器の径方向への移動を制限する径方向置決め部を更に有している請求項1〜3のいずれか一項に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受は、図9に示すように、内輪101と、外輪102と、複数の円すいころ103と、これら円すいころ103を保持する環状の保持器104とを備えている(例えば、特許文献1参照)。内輪101は、軸方向一方側が小径であり軸方向他方側が大径である内輪軌道面101cを有しており、また、その軸方向両側に小鍔部101a及び大鍔部101bを有している。外輪102は、内輪101の外周側に同心状に設けられており、内輪軌道面101cに対向する外輪軌道面102cを有している。円すいころ103は、内輪軌道面101cと外輪軌道面102cとの間に介在しており、内輪101と外輪102とが相対回転すると、これら内輪軌道面101c及び外輪軌道面102cを転動する。保持器104は、環状であり、円すいころ103を収容するポケット105が周方向に沿って複数形成されている。
【0003】
このような円すいころ軸受は、軸方向荷重(軸方向に予圧)が付与された状態で用いられ、円すいころ103の大端面103bは大鍔部101bに対して滑り接触しながら、内輪軌道面101c及び外輪軌道面102cを転動する。
【0004】
また、保持器104は、軸方向に離れて設けられている小径円環部106及び大径円環部107と、これら小径円環部106と大径円環部107とを繋ぐ複数の柱部108とを有しており、両円環部106,107の間であってかつ周方向で隣り合う柱部108の間がポケット105とされている。そして、この保持器104は、径方向及び軸方向の両方向について位置決めされた状態で、内輪101と外輪102との間に設けられている。
【0005】
径方向についての位置決めは、転動体案内方式と軌道輪案内方式とがある。転動体案内方式は、保持器104が有する柱部108の側面(周方向に向く側面)108aが、円すいころ103の外周面103aに摺接することで行われる案内方式であり、軌道輪案内方式は、保持器104の外周面が、軌道輪である外輪102の内周面に摺接することで行われるガイド方式である。なお、図9は、転動体案内方式の円すいころ軸受を示している。
【0006】
軸方向についての位置決めは、従来、保持器104が有する小径円環部106と大径円環部107とによって行われる。つまり、大径円環部107の側面(軸方向一方側に向く側面)107aが、円すいころ103の大端面103bに接触することで、保持器104の軸方向一方側への移動が制限され、また、小径円環部106の側面(軸方向他方に向く側面)106aが、円すいころ103の小端面103aに接触することで、保持器104の軸方向他方側への移動が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−130208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のとおり、円すいころ103の大端面103bは内輪101の大鍔部101bに対して滑り接触する。このため、大端面103bは研磨等の仕上げ加工が施されており、寸法精度が高い。これに対して、反対側の小端面103aは、内輪101(小鍔部101a)と接触しないことから仕上げ加工は不要であり鍛造加工面のままとされており、寸法精度が低い。このように、円すいころ103において、大端面103bは仕上げ加工され、小端面103aは鍛造加工面のままであるため、円すいころ103の軸方向の寸法精度が低く、全長についての寸法公差は、例えば0.3mm程度と大きくなっている。
【0009】
そして、この円すいころ103を収容する保持器104のポケット105の軸方向寸法については、円すいころ103の前記寸法公差を考慮して設定する必要があり、ポケット105と円すいころ103との間に形成される軸方向の隙間は、前記寸法公差よりも大きく設定される。
さらに、前記転動体案内方式である円すいころ軸受の場合、円すいころ103及びポケット105はテーパ形状であり、また、保持器104の柱部108が円すいころ103の軸線よりも径方向外側にあるため、大きな軸方向の隙間が円すいころ103とポケット105との間に形成されていると、保持器104は軸方向一方側へ大きく位置ずれすることができ、これにより、円すいころ103の外周面103aとポケット105との間に、大きな周方向及び径方向の隙間も形成されてしまう。
また、前記軌道輪案内方式である円すいころ軸受の場合には、大きな軸方向の隙間が円すいころ103とポケット105との間に形成され、保持器104が軸方向他方側へ大きく位置ずれすると、外輪軌道面102cと保持器104の外周面との間に、大きな径方向の隙間も形成されてしまう。
【0010】
以上より、円すいころ軸受において、ポケット105の軸方向一方側及び他方側に向く側面106a,107aは、保持器104が軸方向に移動するのを制限するための面として機能する。しかし、円すいころ103の軸方向の寸法精度が低いことから、この円すいころ103とポケット105との軸方向の隙間が大きくなると、保持器104の軸方向の遊び(位置ずれ可能幅)が大きくなり、これにより、円すいころ103の外周面103aとポケット105との間に形成される周方向及び径方向の隙間や、外輪軌道面102cと保持器104の外周面との間に形成される径方向隙間も大きくなってしまう。この結果、保持器104における各隙間が大きくなって、円すいころ軸受が回転した際に、保持器104は安定して回転することができず、保持器104に振動(自励振動)が生じるおそれがある。特に、高速回転時や貧潤滑状態では、保持器104に振動が発生しやすくなり、異音等の不具合が生じることがある。
【0011】
そこで、本発明は、保持器が安定して回転することができ、保持器の振動発生を抑制することが可能となる円すいころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の円すいころ軸受は、軸方向一方側が小径であり軸方向他方側が大径である内輪軌道面を有する内輪と、この内輪の外周側に同心状に設けられ前記内輪軌道面に対向する外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に介在している複数の円すいころと、前記円すいころを収容するポケットが周方向に沿って複数形成されている環状の保持器と、を備え、前記内輪は、前記円すいころの大端面と接触する内側面を有している大鍔部を備え、前記保持器は、前記円すいころの前記大端面に接触することで当該保持器の軸方向一方側への移動を制限する第1位置決め部と、前記大鍔部の前記内側面に接触することで当該保持器の軸方向他方側への移動を制限する第2位置決め部と、を有し、前記円すいころの前記大端面と前記第1位置決め部とが接触したときに、前記大鍔部の前記内側面と前記第2位置決め部との軸方向の隙間が、前記円すいころと前記ポケットとの間に形成される軸方向の隙間よりも小さいことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、保持器の軸方向についての移動が、円すいころの大端面と内輪が有する大鍔部の内側面とを用いて制限される。これら円すいころの大端面と大鍔部の内側面とは、円すいころ軸受が回転すると相互で接触することから両者ともに寸法精度が高く形成されており、このような寸法精度の高い面が用いられて、前記第1位置決め部及び前記第2位置決め部によって、保持器の軸方向両方向への移動が制限される。この結果、保持器は安定して回転することができ、保持器の振動発生を抑制することが可能となる。
なお、円すいころの大端面と第1位置決め部とが接触したときに、大鍔部の内側面と第2位置決め部との軸方向の隙間を、円すいころとポケットとの間に形成される軸方向の隙間よりも小さくすることにより、第2位置決め部が大鍔部の内側面に接触する前に、円すいころ(小端面及び外周面)がポケットに接触するのを防いでいる。
【0014】
(2)また、前記保持器は、軸方向に離れて設けられている小径円環部及び大径円環部と、これら小径円環部と大径円環部とを繋ぐ複数の柱部と、を有し、周方向で隣り合う柱部の間が前記ポケットとされており、前記第2位置決め部は、前記柱部から径方向内側に延在し前記大鍔部の前記内側面に接触する突起片からなる構成とすることができる。
この場合、柱部から径方向内側に延在している突起片が、内輪の大鍔部の内側面に接触することにより、保持器の軸方向他方側への移動が制限される。
【0015】
(3)また、前記(1)に記載の円すいころ軸受において、前記保持器は、軸方向に離れて設けられている小径円環部及び大径円環部と、これら小径円環部と大径円環部とを繋ぐ複数の柱部と、を有し、周方向で隣り合う柱部の間が前記ポケットとされており、前記第2位置決め部は、前記大径円環部と一体であり当該大径円環部の径方向内側に位置する中継部と、当該中継部から径方向内側に延在して前記大鍔部の前記内側面に接触する延在部と、を有しており、前記中継部は、前記大径円環部から軸方向他方側へ突出する金属製の板片の基部を軸方向一方側へ折り返して形成した部分からなり、前記延在部は、前記中継部の先部を径方向内側へ折り曲げて形成した部分からなるのが好ましい。
【0016】
この場合、大径円環部と一体である中継部から径方向内側に延在している延在部が、内輪の大鍔部の内側面に接触することにより、保持器の軸方向他方側への移動が制限される。そして、大径円環部から軸方向他方側へ突出する板片は、金属製であり塑性加工が可能であることから、この板片を折り返しかつ折り曲げ加工(塑性加工)することで、第2位置決め部を構成することが可能となる。
【0017】
(4)また、前記(1)〜(3)に記載の円すいころ軸受において、前記保持器は、前記外輪軌道面又は前記円すいころの外周面に接触することで当該保持器の径方向への移動を制限する径方向置決め部を更に有しているのが好ましい。
この場合、保持器は、外輪軌道面又は円すいころの外周面に接触することで、径方向についての位置決めがされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の円すいころ軸受によれば、寸法精度の高い円すいころの大端面及び大鍔部の内側面を用いて、第1位置決め部及び第2位置決め部によって、保持器の軸方向両方向への移動が制限されることにより、保持器は安定して回転することができ、保持器の振動発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の円すいころ軸受の実施の一形態を示す縦断面図である。
図2】円すいころ軸受の一部を軸方向他方側から見た説明図である。
図3】円すいころ軸受の軸方向他方側の一部を示す縦断面図である。
図4】保持器の縦断面図である。
図5】他の形態に係る円すいころ軸受の縦断面図である。
図6図5に示す円すいころ軸受の一部を軸方向他方側から見た説明図である。
図7】更に他の形態に係る円すいころ軸受の縦断面図である。
図8図7に示す円すいころ軸受の一部を軸方向他方側から見た説明図である。
図9】従来の円すいころ軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の円すいころ軸受の実施の一形態を示す縦断面図である。この円すいころ軸受7は、内輪11と、外輪12と、複数の円すいころ13と、これら円すいころ13を保持する環状の保持器14とを備えている。内輪11は、軸受鋼や機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材であり、軸方向一方側(図1では左側)が小径であり軸方向他方側(図1では右側)が大径である内輪軌道面21を有している。また、内輪11は、軸方向両側に環状の小鍔部22及び小鍔部22よりも外径の大きい環状の大鍔部23を有している。外輪12は、軸受鋼や機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。外輪12は、内輪11の外周側に同心状に設けられており、内輪軌道面21に対向する外輪軌道面26を有している。
【0021】
円すいころ13は、軸受鋼等を用いて形成された部材であり、内輪軌道面21と外輪軌道面26との間に介在している。内輪11と外輪12とが相対回転すると、各円すいころ13はこれら内輪軌道面21及び外輪軌道面26を転動する。円すいころ13は、軸方向一方側に小端面32を有し、軸方向他方側に直径が小端面32よりも大きい大端面31を有している。そして、円すいころ13の円錐台形状である外周面33が内輪軌道面21及び外輪軌道面26に接触する。
【0022】
保持器14は、環状であり、円すいころ13を収容するポケット15が周方向に沿って複数形成されている。具体的に説明すると、保持器14は、軸方向に離れて設けられている小径円環部16及び大径円環部17と、これら小径円環部16と大径円環部17とを繋ぐ複数の柱部18とを有している。そして、両円環部16,17の間であってかつ周方向で隣り合う柱部18の間が、一つの円すいころ13を取り囲んで収容するポケット15とされている(図1図2参照)。なお、図2は、円すいころ軸受7の一部を軸方向他方側から見た説明図である。保持器14は、射出成形によって形成された合成樹脂製の部材であってもよく、金属材料をプレス加工で所定形状とした部材であってもよい。なお、図1に示す保持器14は合成樹脂製である。そして、この保持器14は、径方向及び軸方向の両方向について位置決めされた状態で、内輪11と外輪12との間に設けられている。この位置決めのための構成については後に説明する。
【0023】
以上の構成を有する円すいころ軸受7は(図1参照)、軸方向荷重(軸方向の予圧)が付与された状態で用いられ、円すいころ13の大端面31は大鍔部23の内側面24に対して滑り接触しながら、内輪軌道面21及び外輪軌道面26を転動する。このため、大端面31及び内側面24は、共に研磨等の仕上げ加工が施されており、寸法精度が高く、滑らかな面とされている。これに対して、小端面32は、使用状態で小鍔部22に接触しないことから、仕上げ加工が施されておらず鍛造加工面のままとされており、大端面31よりも寸法精度は低く粗面となっている。なお、大鍔部23の内側面24は、軸方向一方側へ向く(臨む)面である。
【0024】
保持器14の径方向及び軸方向についての位置決めに関して説明する。
先ず、径方向の位置決めに関して説明する。図2において、保持器14が有している各柱部18は、その周方向両側の側面に、円すいころ13の外周面33の一部と接触可能である接触面36を有している。接触面36は、外周面33の内、円すいころ13の中心線C0よりも径方向外側の領域と接触する。更に、接触面36は、保持器14の径方向に対して傾斜した面であり、径方向外側から内側に向かって斜めに接触する。
【0025】
例えば、図2の中央に示す円すいころ13及びこの円すいころ13を保持しているポケット15に着目すると、中央の円すいころ13の左側に位置する柱部18の右側面における第1の接触面36と、中央の円すいころ13の右側に位置する柱部18の左側面における第2の接触面36とが、その中央の円すいころ13の外周面33に二点で接触可能である。したがって、これら接触面36が円すいころ13に接触することによって、保持器14の径方向内側への移動(変位)が制限(規制)される。そして、この中央の円すいころ13以外の他の円すいころ13及び当該他の円すいころ13を保持しているポケット15についても、同様の構成であることから、保持器14は、全周にわたって径方向内側への変位が制限される。つまり、径方向の位置決めが円すいころ13によって行われており、転動体案内(円すいころ案内)となっている。
【0026】
以上のように、保持器14は、円すいころ13の外周面33に接触(摺接)することで当該保持器14の径方向への移動を制限する「径方向置決め部」として、接触面36を有している。この柱部18の一部である接触面36が円すいころ13の外周面33に接触することで、保持器14は径方向について位置決めされる。
【0027】
次に、軸方向の位置決めに関して説明する。
前記のとおり(図1図2参照)、保持器14の小径円環部16と大径円環部17との間であってかつ周方向で隣り合う柱部18の間が、一つの円すいころ13を取り囲んで収容するポケット15とされている。このポケット15の内周面は、小径円環部16の軸方向他方側に向かう(臨む)側面16aと、周方向で隣り合う一対の柱部18それぞれの周方向に向かう(臨む)側面18aと、大径円環部17の軸方向一方側に向かう(臨む)側面17aとの四面によって構成されている。
【0028】
そして、図3に示すように、このポケット15の内周面の内の大径円環部17の側面17a(以下、ポケット側面17aという。)は、円すいころ13の大端面31に接触可能となる面であり、保持器14が軸方向一方側へ移動(変位)しても、このポケット側面17aが大端面31に接触することによって、この移動(変位)が制限(規制)される。なお、図3は、円すいころ軸受7の軸方向他方側の一部を示す縦断面図である。
このように、保持器14が軸方向一方側へ移動しても、この保持器14は、ポケット15の内周面の内の、円すいころ13の大端面31側に、この大端面31に接触することで当該保持器14の軸方向一方側への移動を制限する「第1位置決め部」として、大径円環部17のポケット側面17aを有している。
【0029】
更に、図4に示すように、保持器14は、柱部18から径方向内側に延在している突起片19を有している。本実施形態では、突起片19は、柱部18のほぼ全長にわたってこの柱部18から径方向内側に延在して設けられている。そして、図2図3に示すように、この突起片19の一部(軸方向他方側の面19a)は、大鍔部23の内側面24に接触可能であり、保持器14が軸方向他方側へ移動(変位)しても、この突起片19の一部(面19a)が内側面24に接触することによって、この移動(変位)が制限(規制)される。なお、以下において、この面19aを接触面19aという。
このように、保持器14が軸方向他方側へ移動しても、この保持器14は、その径方向内側に、大鍔部23の内側面24に接触することで当該保持器14の軸方向他方側への移動を制限する「第2位置決め部」として、突起片19(接触面19a)を有している。
【0030】
なお、ポケット側面17aと円すいころ13の大端面31との間には隙間δ1(図3参照)が生じるように、ポケット15は形成されており、また、接触面19aと大鍔部23の内側面24との間には隙間δ2(図3参照)が生じるように、突起片19(接触面19a)は形成されている。
そして、ポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触した状態(つまり、隙間δ1=0)で、前記隙間δ2は、円すいころ13の小端面32と小径円環部16の側面(ポケット側面)16aとの隙間δ3(図1参照)よりも十分に小さく設定されている。より厳密に説明すると、ポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触したときに、大鍔部23の内側面24と突起片19(接触面19a)との軸方向の隙間(前記δ2で示す隙間の軸方向成分)を、円すいころ13の小端面32とポケット側面16aとの間に形成される軸方向の隙間(前記δ3で示す隙間の軸方向成分)よりも小さく設定している。これにより、接触面19aが内側面24に接触する前に小端面32とポケット側面16aとが接触するのを防いでいる。
更に、ポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触したときに、大鍔部23の内側面24と突起片19(接触面19a)との軸方向の隙間(前記δ2で示す隙間の軸方向成分)を、円すいころ13の外周面(転送面)33と保持器14の柱部18の側面18aとの間に形成される隙間の軸方向成分よりも小さく設定している。これにより、接触面19aが内側面24に接触する前に円すいころ13の外周面33と柱部18の側面18aとが接触するのを防いでいる。
なお、ここでいう「軸方向」とは、軸受本体(内輪11、外輪12)の軸線に平行な方向であり、「軸方向成分」は前記軸線に平行な方向の寸法成分をいう。
【0031】
以上より、図3に示すように、大径円環部17のポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触すること、及び、柱部18から延在している突起片19の接触面19aが大鍔部23の内側面24に接触することによって、保持器14は、軸方向両方向について位置決めされる。
【0032】
このように本実施形態の円すいころ軸受7では、保持器14は、円すいころ13の大端面31に接触することで当該保持器14の軸方向一方側への移動を制限するために、ポケット15においてポケット側面17a(第1位置決め部)を有しており、更に、大鍔部23の内側面24に接触することで当該保持器14の軸方向他方側への移動を制限するために、その保持器14の径方向内側において突起片19の接触面19a(第2位置決め部)を有している。
【0033】
この円すいころ軸受7によれば、保持器14の軸方向両方向についての移動が、円すいころ13の大端面31と内輪11が有する大鍔部23の内側面24とを用いて制限される。これら大端面31と内側面24とは、前記のとおり、円すいころ軸受7が回転すると相互で接触することから両者ともに研磨等の仕上げ加工が施されて寸法精度が高く形成されている。そこで、このような寸法精度の高い面(大端面31と内側面24)が用いられて、大径円環部17のポケット側面17a(第1位置決め部)及び突起片19の接触面19a(第2位置決め部)によって、保持器14の軸方向両方向への移動が制限される。この結果、保持器14は安定して回転することができ、保持器14の振動発生を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態の場合、保持器14は、その全体が射出成形により成型されており、第2位置決め部となる接触面19aを有する突起片19は、柱部18と一体で成型されている。つまり、突起片19も、柱部18及び円環部16,17と共に、樹脂材料により一体成型されており、第2位置決め部を容易に得ることができる。
更に、軸方向についての位置決め部となる大径円環部17のポケット側面17a、及び突起片19の接触面19aは、金型により成型されることから、寸法精度を高くすることができる。また、これら面17a,19aは、滑らかな面とすることができるため、二次加工(仕上げ加工)が不要である。
【0035】
また、金型により成型することから、ポケット側面17aと接触面19aとの相対位置の精度を高めることが容易である。このため、円すいころ13の大端面31とポケット側面17aとの隙間δ1と、この大端面31に接触する大鍔部23の内側面24と接触面19aとの隙間δ2とを、共に小さく設定することが容易である。例えば、突起片19の接触面19aが大鍔部23の内側面24に接触した状態(つまり、隙間δ2=0)で、隙間δ1を小さく設定することができる。隙間δ1を例えば0.1mm以下に設定できる。
このように隙間δ1,δ2を小さく設定することができるため、保持器14の軸方向の移動が制限される。したがって、本実施形態のような転動体案内方式の円すいころ軸受7の場合、テーパになっている円すいころ13の外周面33と柱部18の側面18aとの間に形成されている周方向及び径方向の隙間の変化も小さくなる。この結果、回転中の保持器14の位置は安定する。つまり、保持器14は安定して回転することができ、保持器14の振動発生を抑制することが可能となる。
【0036】
〔他の形態の保持器14を備えている円すいころ軸受について〕
図5は、他の形態に係る円すいころ軸受7の縦断面図である。この図5に示す円すいころ軸受と、図1に示す円すいころ軸受とを比べると、保持器14の径方向の位置決めを行うための構成が異なるが、その他については同じである。なお、図5では、説明のために外輪12を正規位置よりも径方向外側に記載しており、また、外輪12を二点鎖線により示している。
【0037】
図5に示す円すいころ軸受7の保持器14は、外輪12の内周面(外輪軌道面26)に接触可能である外周接触面37を有している。本実施形態では、保持器14が有する各柱部18の径方向外側面が、前記外周接触面37となっている(図5図6参照)。各外周接触面37は、外輪軌道面26よりも僅かに直径が小さい仮想の円錐面に沿って形成された面であり、この外周接触面37が外輪軌道面26に接触することによって、保持器14の径方向の移動(変位)が制限(規制)される。つまり、径方向の位置決めが外輪12によって行われており、軌道輪案内となっている。なお、図6は、図5に示す円すいころ軸受7の一部を軸方向他方側から見た説明図である。
【0038】
以上より、保持器14は、外輪軌道面26に接触(摺接)することで当該保持器14の径方向への移動を制限する「径方向置決め部」として、外周接触面37を有しており、この外周接触面37が外輪軌道面26に接触することで、保持器14は、径方向について位置決めされる。
【0039】
なお、図5図6に示す実施形態において、保持器14の軸方向の位置決めのための構成は、図1に示す実施形態の構成と同じであり、保持器14の軸方向一方側への移動を制限する「第1位置決め部」として、大径円環部17のポケット側面17aを有しており、また、保持器14の軸方向他方側への移動を制限する「第2位置決め部」として、突起片19(接触面19a)を有している。
このため、図1に示す円すいころ軸受7の場合と同様に、保持器14の軸方向の移動が制限される。したがって、本実施形態のような軌道輪案内方式の円すいころ軸受7の場合、テーパになっている外輪軌道面26と保持器14の外周面14c(外周接触面37)との間に形成されている径方向の隙間の変化も小さくなる。この結果、回転中の保持器14の位置は安定する。つまり、保持器14は安定して回転することができ、保持器14の振動発生を抑制することが可能となる。なお、図5に示す保持器14についても、その全体を射出成形により成型することができる。
【0040】
〔更に他の形態の保持器14を備えている円すいころ軸受について〕
図7は、更に他の形態に係る円すいころ軸受7の縦断面図である。なお、この図7では、円すいころ13を二点鎖線(仮想線)で示している。この図7に示す円すいころ軸受7と、図1に示す円すいころ軸受7とを比べると、保持器14の軸方向の位置決めを行うための構成が異なるが、その他については同じである。また、図7に示す保持器14は、冷間圧延鋼板・鋼帯(SPCC)等の薄肉の炭素鋼からなる。又はステンレス鋼や銅合金等の金属製であってもよい。
【0041】
図7に示す円すいころ軸受7の保持器14は、前記各形態と同様に、軸方向に離れて設けられている小径円環部16及び大径円環部17と、これら小径円環部16と大径円環部17とを繋ぐ複数の柱部18とを有している。そして、両円環部16,17の間であってかつ周方向で隣り合う柱部18の間が、一つの円すいころ13を取り囲んで収容するポケット15とされている(図7図8参照)。なお、図8は、図7に示す円すいころ軸受7の一部を軸方向他方側から見た説明図である。
【0042】
この保持器14は、図7に示すように、円すいころ13の大端面31に接触することで当該保持器14の軸方向一方側への移動を制限する第1位置決め部として、ポケット15にポケット側面17aを有している。更に、この保持器14は、その径方向内側に、内輪11の大鍔部23の内側面24に接触することで当該保持器14の軸方向他方側への移動を制限する第2位置決め部を有している。前記第1位置決め部の具体的構成は、図1及び図5に示す実施形態の構成と同じであるが、第2位置決め部の具体的構成が異なる。
【0043】
すなわち、図7図8に示す実施形態における第2位置決め部は、保持器14が有している大径円環部17と一体であってこの大径円環部17の径方向内側に位置する中継部41と、この中継部41から径方向内側に延在している延在部42とを有して構成されている。
更に説明すると、保持器14は、大径円環部17と同じ部材から形成されかつこの大径円環部17から軸方向他方側へ突出している板片40を有している。そして、この保持器14(板片40を含む大径円環部17)は金属製であることから、板片40は塑性変形が可能である。また、板片40は、柱部18と同じ周方向ピッチで設けられており(図8参照)、しかも、柱部18の軸方向の延長線に沿って板片40は設けられている(図7参照)。そこで、前記中継部41は、図7に示すように、この板片40の基部40aを(180度)軸方向一方側へ折り返して形成した部分からなり、また、前記延在部42は、この中継部41の先部41a(板片40の先部)を径方向内側へ折り曲げて形成した部分からなる。
【0044】
そして、この延在部42の一部(面42a)が、大鍔部23の内側面24に接触可能であり、この面42aが大鍔部23の内側面24に接触することによって、保持器14の軸方向他方側への移動(変位)が制限(規制)される。なお、以下において、この面42aを接触面42aという。また、本実施形態では、中継部41から板片40の先端側はU字状に曲げられており、板片40の先端面40bが、接触面42aとなっている。
【0045】
このように、保持器14は、その径方向内側に、大鍔部23の内側面24に接触することで当該保持器14の軸方向他方側への移動を制限する「第2位置決め部」として、中継部41及び延在部42を有している。なお、延在部42の接触面42aと大鍔部23の内側面24との間には隙間δ2が生じるように、延在部42(接触面42a)は形成されている。また、ポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触した状態(つまり、隙間δ1=0)で、前記隙間δ2は、円すいころ13の小端面32と小径円環部16の側面(ポケット側面)16aとの隙間δ3よりも十分に小さく設定されている。これにより、接触面42aが内側面24に接触する前に小端面32とポケット側面16aとが接触するのを防ぐことができる。
【0046】
以上より、大径円環部17のポケット側面17aが円すいころ13の大端面31に接触すること、及び、大径円環部17から中継部41を介して設けられている延在部42の接触面42aが大鍔部23の内側面24に接触することによって、保持器14は、軸方向両方向について位置決めされる。
【0047】
このように本実施形態の円すいころ軸受7では、保持器14は、円すいころ13の大端面31に接触することで当該保持器14の軸方向一方側への移動を制限するために、ポケット15においてポケット側面17a(第1位置決め部)を有しており、更に、大鍔部23の内側面24に接触することで当該保持器14の軸方向他方側への移動を制限するために、その保持器14の径方向内側において中継部41及び延在部42(第2位置決め部)を有している。そして、円すいころ13の大端面31とポケット側面17aとが接触したときに、大鍔部23の内側面24と延在部42の接触面42aとの軸方向の隙間が、円すいころ13(の小端面32、外周面33)とポケット15(ポケット側面16a、側面18a)との間に形成される軸方向の隙間よりも小さい。
【0048】
この円すいころ軸受7によれば、保持器14の軸方向両方向についての移動が、円すいころ13の大端面31と内輪11が有する大鍔部23の内側面24とを用いて制限される。これら大端面31と内側面24とは、前記のとおり、円すいころ軸受7が回転すると相互で接触することから両者ともに研磨等の仕上げ加工が施されて寸法精度が高く形成されている。そこで、このような寸法精度の高い面(大端面31と内側面24)が用いられて、大径円環部17のポケット側面17a(第1位置決め部)及び延在部42の接触面42a(第2位置決め部)によって、保持器14の軸方向両方向への移動が制限される。したがって、転動体案内の円すいころ軸受7の場合、テーパになっている円すいころ13の外周面33と柱部18の側面18aとの隙間の変化も小さくなる。なお、軌道輪案内の円すいころ軸受7とする場合、テーパになっている外輪軌道面26と保持器14の外周面14cとの隙間の変化が小さくなる。
この結果、回転中の保持器14の位置は安定する。つまり、保持器14は安定して回転することができ、保持器14の振動発生を抑制することが可能となる。
【0049】
さらに、本実施形態の場合、大径円環部17から軸方向他方側へ突出する板片40を折り返しかつ折り曲げ加工(塑性加工)することで、第2位置決め部として中継部41及び延在部42を構成することが可能であり、第2位置決め部を容易に得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、金属材料をプレス加工することで所定形状の保持器14を作製しているが、ポケット側面17aと延在部42の接触面42aとの内の一方又は双方に対して、仕上げ加工を施さなくてもよいが、研磨等の仕上げ加工を施してもよい。仕上げ加工を施す場合、ポケット側面17aと接触面42aとの相対位置の精度を高めることが可能となる。この結果、円すいころ13の大端面31とポケット側面17aとの隙間δ1と、この大端面31に接触する大鍔部23の内側面24と接触面42aとの隙間δ2とを、共に小さく設定することができる。例えば、延在部42の接触面42aが大鍔部23の内側面24に接触した状態(つまり、隙間δ2=0)で、隙間δ1を極めて小さく設定することが可能となる。
【0051】
図7及び図8に示す保持器14の変形例として、図示しないが、中継部41と延在部42とは一体であるが、これらが、大径円環部17と別体(別部材)であってもよい。この場合、大径円環部17に対して中継部41を接着や溶接(スポット溶接)等によって取り付ければよい。なお、大径円環部17に対する中継部41の取り付け位置は、柱部18と同じ周方向ピッチであり、しかも、柱部18の周方向位置と同じ周方向位置である。また、特に、大径円環部17に対して中継部41を別途取り付ける場合、中継部41と延在部42との部材を、全ての柱部18に対応させて取り付けなくてもよい。つまり、周方向に複数並ぶ柱部18に対して中継部41と延在部42とを間欠的に設ければよい。なお、大径円環部17と一体である板片40から中継部41と延在部42とを形成する場合においても、全ての柱部18の延長線上に板片40が存在していなくてもよく、周方向に複数並ぶ柱部18に対して板片40(中継部41と延在部42と)を間欠的に設ければよい。
更に、図1及び図5に示す保持器14の場合においても、突起片19を全ての柱部18に設けなくてもよく、間欠的であってもよい。
【0052】
また、図7及び図8に示す円すいころ軸受7の変形例として、図5に示す円すいころ軸受7のように、各柱部18の径方向外側面を、外輪軌道面26に接触可能である外周接触面37とし、保持器14の径方向の位置決めをこの外周接触面37によって行ってもよい。つまり、径方向の位置決めを軌道輪案内としてもよい。
【0053】
また、図7に示すように、保持器14の小径円環部16の横断面形状は矩形(ストレート形)であるが、これに限らず、例えば断面L字形であってよい。つまり、図示しないが、小径円環部16は、横断面が矩形である円筒部と、この円筒部の軸方向一方側から径方向内側に折れ曲がっている円環部とを有する構成であってもよい。
【0054】
〔前記各実施形態について〕
前記各実施形態において、円すいころ13の大端面31は研磨等による仕上げ加工面であるが、小端面32は鍛造加工面のままであることから寸法精度が低く、円すいころ13全体における軸方向についての寸法公差は、例えば0.3mm程度と大きくなっている。したがって、この円すいころ13を収容する保持器14のポケット15の軸方向寸法については、円すいころ13の前記寸法公差を考慮して設定する必要があり、ポケット15と円すいころ13との間に形成される軸方向の隙間全体は、前記寸法公差よりも大きく設定されている。
【0055】
したがって、従来(図9参照)では、ポケット105の軸方向一方側及び他方側に向く側面106a,107aは、保持器104が軸方向に移動するのを制限するための面として機能するが、円すいころ103の大きな寸法公差の影響を受けることにより、ポケット105と円すいころ103との間の隙間が大きくなり、この結果、円すいころ軸受が回転した際に、保持器104は安定して回転することができない場合があり、保持器104に振動(自励振動)が生じるおそれがあった。
しかし、本発明の前記各実施形態によれば、例えば、突起片19の接触面19a(図3参照)が大鍔部23の内側面24に接触した状態(つまり、隙間δ2=0)で、円すいころ13の前記寸法公差と関係なく(この寸法公差の影響を受けないで)隙間δ1を小さく設定することができる。つまり、接触面19a(42a)とポケット側面17aとを(向きは異なるが)共通する面上に形成することも可能である。このため、保持器14の軸方向の移動が制限され、転動体案内の円すいころ軸受7の場合、テーパになっている円すいころ13の外周面33と柱部18の側面18aとの隙間の変化も小さくなる。なお、軌道輪案内の円すいころ軸受7の場合、テーパになっている外輪軌道面26と保持器14の外周面14cとの隙間の変化も小さくなる。この結果、回転中の保持器14の位置は安定する。つまり、保持器14は安定して回転することができ、保持器14の振動発生を抑制することが可能となる。
【0056】
また、前記各実施形態において、保持器14の軸方向他方側への移動を制限する第2位置決め部として、突起片19(図1図5の形態)が設けられ、中継部41及び延在部42(図7の形態)が設けられている。そして、これら突起片19の接触面19a、延在部42の接触面42aが、内輪11の大鍔部23の内側面24に接触するが、この接触は、面接触であってもよく、点接触であってもよい。面接触の場合、円すいころ軸受7の潤滑油による油膜が接触面間に形成され、耐摩耗性が向上する。点接触とする場合、例えば接触面19a(42a)に微小な突起を形成すればよい。
【0057】
また、図1及び図5に示すように、保持器14を樹脂製とする場合は特に、小径円環部16の横断面を径方向に拡大させ、内輪11(小鍔部22)の外周面との径方向隙間、及び外輪12の内周面との径方向隙間を狭くするのが好ましい。これは、円すいころ13が存在している軸受内部に流入する潤滑油が必要以上に多くなると、潤滑油の撹拌抵抗や粘性抵抗によって円すいころ軸受7の回転トルクを増加させるおそれがあるが、前記のように径方向隙間を狭くすることにより、潤滑油の軸受内部への流入量を制限して回転トルクを低減させるためである。
【0058】
また、前記のとおり、円すいころ13の大端面31と大鍔部23の内側面24とは転がり滑り接触するため、潤滑油が少ない環境である場合は特に、油膜切れによる焼き付きの問題がある。更に、高速回転時では、回転トルクの低減を目的として潤滑油の軸受内部への流入を制限していることから、前記のような焼き付きの対策が特に必要となる。そして、内輪11が回転するとその遠心力によって、例えば、大鍔部23の内側面24(図1参照)及びその周囲に存在する潤滑油は、径方向外側へ飛散してしまう。
しかし、前記各実施形態の保持器14によれば、突起片19及び延在部42が、内輪軌道面21と大鍔部23の内側面24との境界の領域を径方向外側から部分的に覆っているため、前記のような潤滑油の飛散を抑制することができる。これにより、円すいころ13の大端面31と大鍔部23の内側面24との間における油膜切れによる焼き付きを抑制することが可能となる。
【0059】
また、本発明の円すいころ軸受7は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、図1図5)に示す保持器14において、突起片19を柱部18のほぼ全長にわたって形成せず、軸方向他方側にのみ(部分的に)形成してもよい。また、前記各実施形態の保持器14に関して、材質を樹脂製として説明したものについても金属製であってもよく、また、金属製として説明したものについても樹脂製であってもよい。また、前記各実施形態では、保持器14の径方向についての位置決めを、外輪12によって行う場合について説明したが、内輪11によって行われる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
7:円すいころ軸受 11:内輪 12:外輪
13:円すいころ 14:保持器 15:ポケット
16:小径円環部 17:大径円環部 17a:ポケット側面(第1位置決め部)
18:柱部 19:突起片(第2位置決め部) 19a:接触面
21:内輪軌道面 23:大鍔部 24:内側面
26:外輪軌道面 31:大端面 36:接触面(径方向位置決め部)
37:外周接触面(径方向位置決め部) 40:板片
41:中継部 42:延在部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9