(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンと塩素とを、1秒以上、300秒以下の接触時間、かつ、100℃以上、350℃以下の反応温度で触媒と接触させることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
触媒が、アルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデン、亜鉛、スズ、ランタンおよびアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物である、請求項1〜3の何れか一に記載の製造方法。
請求項1〜10の何れか一に記載の製造方法で得られた1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをさらに精製することを特徴とする、高純度1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
請求項11に記載の製造方法で1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンより分離された1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを回収することを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
請求項11に記載の製造方法で1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンより分離された1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料として再び用いることを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献3に記載の製造方法は、液体状態の1,2,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンに粉末状の水酸化カリウムを分散させて反応を行っているが、収率が低く(48%)、不均一反応であるため、工業的な製造方法という点で、効率的とは言い難いものであった。
【0008】
また、特許文献1に記載のように、気相中において、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン等の含塩素化合物のフッ素化反応と脱ハロゲン化反応によって、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが生成することは知られているが、工業的に十分な量の1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることは難しい。
【0009】
このように、本発明の目的物である1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを工業的規模で製造する方法の確立が望まれていた。
【0010】
そこで本発明は、気相反応において、工業的規模で実施可能な1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
炭素二重結合を有するオレフィン類は、二重結合部位が化学的に活性であるため、ハロゲンと容易に付加反応することが知られている。この知見に基づいて、オレフィン類の一つである1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1233zd)を液相中で塩素と反応させると、塩素の付加反応が進行し、二重結合部位に塩素原子が付加した1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−233da)が生成した(スキーム1、参考例1参照)。
【化1】
【0012】
ところが、本発明者らは、一般式[1]:
【化2】
【0013】
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子または臭素原子を表す。)
で表される1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを気相中において触媒存在下で塩素と反応させると、液相でのハロゲン付加反応とは異なり、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンの水素原子の一部を選択的に塩素原子に変換した化合物、すなわち、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1223xd)を高い収率で得られることを見出し、本発明に至った。反応機講は定かではないが、この化合物は、二重結合部位に塩素が付加して得られた反応中間体が、直ちに脱ハロゲン化水素して得られたものと推測される(スキーム2参照。出発原料:1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン)。
【化3】
【0014】
本発明は、以下の発明1〜18を含む。
【0015】
[発明1]
一般式[1]:
【化4】
【0016】
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子または臭素原子を表す。)
で表される1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、触媒存在下で、塩素と気相で反応させることを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0017】
[発明2]
1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンと塩素とを、1秒以上、300秒以下の接触時間、かつ、100℃以上、350℃以下の反応温度で触媒と接触させる、発明1の製造方法。
【0018】
[発明3]
前記1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである、発明1又は2の製造方法。
【0019】
[発明4]
触媒が、アルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデン、亜鉛、スズ、ランタンおよびアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物である、発明1〜3の何れか一の製造方法。
【0020】
[発明5]
前記金属化合物が、金属フッ化物である、発明4の製造方法。
【0021】
[発明6]
前記金属化合物が、フッ素化アルミナまたはフッ素化クロミアである、発明4または5の製造方法。
【0022】
[発明7]
触媒が、炭素に、アルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデン、亜鉛、スズ、ランタンおよびアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物が担持された担持触媒である発明1〜3の何れか一の製造方法。
【0023】
[発明8]
前記金属化合物が、金属フッ化物である、発明7の製造方法。
【0024】
[発明9]
触媒が、アンチモン担持活性炭またはクロム担持活性炭である、発明7の製造方法。
【0025】
[発明10]
触媒が、活性炭である発明1〜3の何れか一の製造方法。
【0026】
[発明11]
発明1〜10の何れか一の製造方法で得られた1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをさらに精製することを特徴とする、高純度1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0027】
[発明12]
発明11の製造方法で1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンより分離された1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを回収することを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0028】
[発明13]
発明11の製造方法で1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンより分離された1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料として再び用いることを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0029】
[発明14]
発明1〜13の何れか一の製造方法で製造されたことを特徴とする、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン。
【0030】
[発明15]
発明1〜13の何れか一の製造方法で得られた1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをさらに精製することを特徴とする、トランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0031】
[発明16]
発明1〜13の何れか一の製造方法で得られた1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをさらに精製することを特徴とする、シス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法。
【0032】
[発明17]
発明15の製造方法で製造されたことを特徴とする、トランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン。
【0033】
[発明18]
発明16の製造方法で製造されたことを特徴とする、シス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、入手が容易な1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを原料として、一段の反応工程で塩素化と脱ハロゲン化水素の反応を連続して行い、効率的に1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを製造することができる。したがって、本発明によれば、実施が容易な方法で、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを工業的規模で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係る反応は、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、気相中において触媒存在下、塩素と反応させることを特徴とする1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの製造方法である。本発明の方法は、気相中において触媒存在下で塩素と反応させる、という一段の反応工程で、塩素化と脱ハロゲン化水素の反応を連続して行うことができることを特徴としている(スキーム2参照)。
【0036】
具体的には、反応器に触媒を充填し、所定の温度にて1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンと塩素を気相中にて触媒と接触させることにより、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む反応生成物を得ることができる。前記反応生成物をさらに精製することで高純度の1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることができる。処理形式は流通式もしくはバッチ式であってもよい。反応に関与する化学物質の沸点が低いことから、実用的には流通形式が好ましい。気相流通形式では、触媒の保持方法は、固定床型、流動床型、移動床型などいずれの形式でもかまわないが、固定床型で行うのが簡便であるので好ましい。
【0037】
本発明の出発原料として用いる式[1]で表される1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンについて説明する。1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンにおけるXは、具体的にはフッ素原子、塩素原子または臭素原子が挙げられる。1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンの具体的な化合物としては、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(1234ze)、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(1233zd)、1−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロペンが挙げられる。なお、本発明において1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを用いる場合、反応系に塩素源が存在すると熱力学的に安定な1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに収束し、最終的には1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることができる。
【0038】
これらの中でも、入手の容易さや、得られる化合物の有用性などから、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが好ましく用いられる。なお、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは工業的規模で製造されており、購入して使用することができる。
【0039】
なお、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、工業的規模で製造されており、購入して使用することもできる。例えば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、特開平9−194404号公報、特開平10−067693号公報に記載の方法により得ることができる。
【0040】
本発明において使用する触媒は、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンと塩素をその触媒と接触させることで1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに変換させ得るものであれば特に限定されない。そのようなものとして、例えば、金属を含む金属化合物、活性炭などが挙げられる。触媒は、非担持触媒であってもよく、担持触媒であってもよい。以下、本発明の触媒について詳細に説明する。
【0041】
非担持触媒としては、金属を含む金属フッ化物および、活性炭が好ましい。触媒に含まれる金属は、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、チタンおよびマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属であり、単独で使用されてもよく、二種以上の金属が複合した複合金属として使用されてもよい。これらの金属を含む金属フッ化物は、これらの金属を酸化した金属酸化物にフッ素化処理を行うことによって得られる。本明細書においては、「金属フッ化物」は、金属酸化物の酸素原子の一部又は全てがフッ素原子で置換されたものを指す。金属フッ化物を得る際に材料として用いる金属酸化物は、結晶系の異なるものがあるが、何れも使用できる。例えば、アルミナとしては、γ−アルミナは表面積が大きく好ましい。
【0042】
複合金属としては、アルミニウム、クロム、マンガン、ジルコニウム、チタンおよびマグネシウムを主成分とし、副成分としてアルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、銅、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデンおよびアンチモンなどを含むものが好ましい。
【0043】
このような複合金属としては、例えば、アルミニウムとクロム、アルミニウムとジルコニウム、アルミニウムとチタン、アルミニウムとマグネシウムの複合金属の酸化物が好ましいものとして挙げられる。より具体的にはアルミナとクロミア、アルミナとジルコニア、アルミナとチタニア、アルミナとマグネシアが好ましいものとして挙げられる。これらの複合金属の酸化物は、いずれもアルミニウムを50原子%以上含むものが好ましく、80原子%以上含むものがより好ましい。
【0044】
金属フッ化物の材料として用いられる金属酸化物は、一種以上の結晶形を取ることがあり、例えば、アルミナにはγ−アルミナとα−アルミナ、チタニアにはアナタ−ゼとルチルの結晶形のものがある。金属酸化物の結晶形はいずれであってもよいが、アルミナではγ−アルミナは表面積が大きく好ましい。
【0045】
本発明の反応において、触媒としては、金属フッ化物、活性炭を使用するが、フッ素化されていない金属酸化物を用いた場合には、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンがフッ素化剤として作用するため、金属酸化物が経時的に金属フッ化物に転化し、反応が安定しない傾向がある。そのため、触媒としては、金属酸化物を予めフッ素化処理した金属フッ化物が好ましい。金属酸化物にフッ素化処理を行うことによって生成された金属フッ化物において、酸素原子がフッ素原子に置換した比率は特に限定されず、広い範囲のものが使用できる。ここでは、金属酸化物の全ての酸素原子がフッ素原子で置換された金属フッ化物だけではなく、金属酸化物の一部の酸素原子がフッ素原子で置換された金属フッ化物が使用されてもよい。
【0046】
金属フッ化物の調製は、フッ化水素、フッ素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素などのフッ素化剤と前述した金属の酸化物または複合金属の酸化物とを接触させることにより行われる。フッ素化処理は、通常、段階的に行うのが好ましい。フッ化水素でフッ素化処理する場合、大きな発熱を伴うので、最初は希釈されたフッ酸水溶液やフッ化水素ガスにより比較的低温度で金属酸化物をフッ素化し、徐々に濃度および/または温度を高くしながら行うのが好ましい。最終段階は、所定の反応温度以上で行うのが好ましいが、この条件に加えて、反応中の経時変化を予防するために、フッ素化温度は200℃以上で行い、400℃以上、さらに好ましくは500℃以上においてフッ化水素でフッ素化処理するのが好ましい。温度の上限は特にないが、900℃を超えるのはフッ素化処理装置の耐熱性の点から困難であり、実用的には600℃以下で行うのが好ましい。このように、反応中の固体触媒の組成変化を防止するために、使用の前に所定の反応温度以上の温度で予めフッ化水素、フッ素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素などのフッ素化剤で金属酸化物をフッ素化処理した金属フッ化物を触媒として用いることが好ましい。
【0047】
非担持触媒としては、炭素も使用することができる。使用する炭素は特に限定されないが、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系の活性炭、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系の活性炭、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系の活性炭または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系の活性炭がある。これら市販の炭素から選択し使用することができる。例えば、ガス精製用、触媒・触媒担体用椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ製粒状白鷺GX、SX、CX、XRC、東洋カルゴン製PCB、太平化学産業株式会社製ヤシコール、クラレコールGG、GC)等が好適に用いられる。
【0048】
非担持触媒として使用する炭素の形状としては、通常粒状のものを用いるが、用いる反応器に適合すれば、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状のものも通常の設定条件範囲の中で使用することができる。炭素の比表面積ならびに細孔容積は、市販品の規格の範囲で使用可能であるが、比表面積は、400m
2/gより大きく、細孔容積は、0.1cm
3/gより大きいことが好ましい。比表面積は、800〜3000m
2/g、細孔容積は、0.2〜1.0cm
3/gであることが特に好ましい。
【0049】
本発明においては、金属化合物を担持した担持触媒を用いてもよい。本発明で用いる金属を担持した担持触媒の担体としては、炭素または非担持触媒として前記した金属(2種以上の金属を含む複合金属を含む。)を使用してもよい。担体として用いられる金属は、金属酸化物であってもよい。例えば、アルミニウム、クロム、マンガン、ジルコニウム、チタンおよびマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む金属酸化物が、単体で担体として用いられてもよく、二種以上の金属が複合した複合金属酸化物が担体として用いられてもよい。複合金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、クロム、マンガン、ジルコニウム、チタンおよびマグネシウムの酸化物を主成分とし、副成分としてアルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、銅、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデンおよびアンチモン酸化物などを含むものが好ましい。
【0050】
前記担体として炭素を使用する場合、炭素担体としては、特に限定されない。具体的には、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系の活性炭、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系の活性炭、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系の活性炭または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系の活性炭が挙げられる。これら市販の炭素から選択し使用することができる。例えば、ガス精製用、触媒・触媒担体用椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ製粒状白鷺GX、SX、CX、XRC、東洋カルゴン製PCB、太平化学産業株式会社製ヤシコール、クラレコールGG、GC)等が好適に用いられる。
【0051】
前記担体として使用する炭素の形状としては、通常粒状のものを用いるが、用いる反応器に適合すれば、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状のものも通常の設定条件範囲の中で使用することができる。炭素の比表面積ならびに細孔容積は、市販品の規格の範囲で使用可能であるが、比表面積は、400m
2/gより大きく、細孔容積は、0.1cm
3/gより大きいことが好ましい。比表面積は、800〜3000m
2/g、細孔容積は、0.2〜1.0cm
3/gであることが特に好ましい。
【0052】
担持させる金属化合物に含まれる金属としては、アルミニウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マグネシウム、ジルコニウム、モリブデン、亜鉛、スズ、ランタンおよびアンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、アンチモンが好ましい。これらの金属はフッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、オキシフッ化塩化物等として担持され、2種以上の金属化合物を併せて担持させてもよい。
【0053】
担体および担持物を含めた触媒の全質量に対する金属の質量の割合は、0.1〜80質量%、好ましくは1〜50質量%である。0.1質量%未満では触媒効果が低く、80質量%を超えると安定に担持させることが困難であるので、それぞれ好ましくない。なお、担持物が固体金属塩である場合、触媒の全質量に対する金属の質量の割合は、0.1〜40質量%、好ましくは1〜30質量%である。
【0054】
前記担体に担持させる金属化合物としては、具体的には、硝酸クロム、三塩化クロム、重クロム酸カリウム、三塩化チタン、硝酸マンガン、塩化マンガン、塩化第二鉄、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸コバルト、塩化コバルト、五塩化アンチモン、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化銅(II)、塩化亜鉛(II)、硝酸ランタン、四塩化スズなどを用いることができる。
【0055】
担体に前述の金属化合物を担持して調製した触媒は、反応中の触媒の組成変化を防止するために、前述の金属酸化物のフッ素化処理と同様の方法により、使用の前に所定の反応温度以上の温度で予めフッ化水素、フッ素化炭化水素、フッ素化塩素化炭化水素などのフッ素化剤で処理しておくことが好ましい。
【0056】
ここで、担体が金属酸化物であり、且つ担持物である金属化合物の層が担体を全体的に覆っている場合は、フッ素化処理工程において、担体はフッ素化されずに担持物のみがフッ素化処理され、反応においても触媒として作用するのは担持物のみである。但し、担体が金属酸化物であり、担持物である金属化合物の層が担体を全体的に覆っていない場合は、フッ素化処理工程において、担持物とともに担体もフッ素化処理され、反応において、担持物とともに担体も触媒として作用することもあり得る。このように、担体が担持物とともに触媒として作用する場合は、担持触媒としてではなく、複合金属フッ化物として、非担持触媒と同様に作用することがある。
【0057】
本発明に用いる触媒としては、アンチモン担持活性炭、クロム担持活性炭、活性炭、フッ素化アルミナ、フッ素化クロミアを好ましい具体例として挙げられ、アンチモン担持活性炭、クロム担持活性炭が特に好ましい。これらの触媒は反応の前に予めフッ素化処理をしておくことが好ましいが、アンチモン担持活性炭の場合、フッ素化処理を実施しなくても安定した反応活性が得られる。また、非担持触媒である活性炭の場合も、フッ素化処理を実施しなくても活性炭単独で目的生成物を得ることができる(実施例1参照)。
【0058】
反応領域へ供給する塩素の量は、1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペン1モルに対して、通常0.1〜2.0モルであり、0.5〜1.2モルが好ましい。0.1モル未満では目的生成物の生産性が低く好ましくない。2.0モル超では過塩素化物の生成が増えるため好ましくない。
【0059】
本発明に係る反応を行う温度は、通常100℃〜350℃であり、150℃〜300℃がさらに好ましい。100℃未満では反応がほとんど進行しないか、反応が極めて遅く好ましくない。また、350℃以上では分解反応、過塩素化反応等が進行し、副生成物が多く混入する場合があり、好ましくない。この副生成物としては、CF
3CCl=CCl
2(1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:1213xa)、CF
3CCl
2CCl
3(1,1,1,2,2−ペンタクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン:213ab)などの過塩素化物が挙げられる。
【0060】
反応温度が100℃〜350℃の範囲においては、本発明に係る反応生成物中における副生成物の生成を低減することができる。さらに、目的物である1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと沸点の近接した副生成物が生成しないことから、得られた反応生成物から1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを蒸留等の操作によって容易に精製することができる。この温度範囲で反応を行うことは、経済的に有利であり、環境負荷も小さい。
【0061】
本明細書において、本発明に係る反応の「接触時間」を次のように定義する。すなわち「充填材(触媒)の容積をAと表記する。一方、「毎秒あたり、反応器に導入される原料気体の容積」をBと表記する。Bの値は、原料気体を理想気体と考え、毎秒あたりに導入される原料のモル数と圧力、温度から算出する。この時、AをBで割った値(=A/B)を「接触時間」とする。反応器中では、目的物以外の他のガスの副生があり、モル数の変化が起こるが、これらは「接触時間」の計算に際しては考慮しないものとする。
【0062】
接触時間に関しては、本発明に用いる反応器の温度(反応温度)、形状、充填材(触媒)の種類に依存するため、設定した温度、反応器の形状と充填材(触媒)の種類ごとに、反応原料の供給速度(接触時間)を 適宜調節し、最適の値を決定することが望ましい。通常は、未反応原料の回収、再利用の観点から25%以上の原料転化率が得られる接触時間の採用が好ましく、更に好ましくは50%以上の転化率となるように接触時間が最適化される。
【0063】
本発明の反応において、反応温度と接触時間との適切な組み合わせが重要な要素であり、反応温度が、100℃以上、350℃以下の場合、接触時間は、1秒以上、300秒以下とすることが好ましく、20秒以上、150秒以下とすることがさらに好ましい。一方、接触時間が300秒を超えると副反応が生じやすく、接触時間が1秒を下回ると転化率が低く、好ましくない。1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを100℃〜350℃に加熱された触媒を充填した反応器に、接触時間が1〜300秒で通過させることは、好ましい態様の一つである。
【0064】
本発明に係る反応は、圧力については特に限定されない。すなわち、大気圧より低い、大気圧下または大気圧より高い場合でも実施可能である。一般に大気圧下が好ましい。
【0065】
本発明に係る反応は、窒素やアルゴンのような本発明に係る反応において安定な不活性ガスの存在下でも行なうことができる。
【0066】
本発明に係る塩素化−脱ハロゲン化水素反応は、一般的な化学工学装置を使用して気相中で行い、温度の調節された触媒が充填された反応領域へ1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンと塩素を導入することで行われる。反応器は通常、管状であって、反応管、関連する原料導入系、流出系および関連するユニットは塩化水素に対して強い材料が用いられる。材質として典型的なものとしては、特にオーステナイトタイプなどのステンレス鋼材、またはモネル(TM)、ハステロイ(TM)、およびインコネル(TM)のような高ニッケル合金および銅クラッド鋼を例示できるが、これらに限定されるものではない。反応器は空塔でも良いが、熱交換効率を向上させるため、上記材質の充填物を用いても良い。
【0067】
本発明に係る反応で得られた反応生成物から1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを精製する方法は特に限定されない。公知の精製方法を採用することができる。例えば、反応生成物を冷却したコンデンサーに流通させて凝縮させ、水または/およびアルカリ性溶液で洗浄して塩素成分、酸などを除去し、ゼオライト、活性炭等の乾燥剤で乾燥後、通常の蒸留操作によって、高純度の1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることができる。反応生成物中に1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンが未反応原料として存在する場合、通常の蒸留操作によって1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンを反応生成物中から分離して回収することができる。分離された1−ハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、再度、本発明に係る反応の原料として用いることができる。
【0068】
本発明に係る製造方法で得られた1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、常温、常圧で液体として存在する。なお、生成する1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、シス体およびトランス体の立体異性体の混合物として得られるが、蒸留などの精製操作によりこれらの立体異性体をそれぞれ分離することができる。これにより、高純度のシス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよびトランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。
【0070】
[調製例1](アンチモン/活性炭の調製)
乾燥活性炭(日本エンバイロケミカルズ(株)製粒状白鷺 G2X:4/6−1)に五塩化アンチモン48質量%担持した触媒50mlを、電気炉を備えた内径2.7cm長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に充填し、窒素を20〜30ml/minの流量で流しながら150℃まで昇温し焼成し、触媒を調製した。
【0071】
[調製例2](クロム/活性炭の調製)
市販の試薬の40質量%CrCl
3水溶液を希釈して20質量%水溶液を調製した。粒状活性炭(日本エンバイロケミカルズ、粒状白鷺G2X)100gを先に調製した20質量%CrCl
3水溶液156gに浸漬し、一昼夜放置した。次に濾過して活性炭を取り出し、熱風循環式乾燥器中で100℃に保ち、さらに一昼夜乾燥した。
【0072】
電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に得られたクロム担持活性炭50mlを充填し、窒素ガスを流しながら300℃まで昇温した。水の排出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させその濃度を徐々に高め、その状態を1時間保ち触媒の調製を行った。
【0073】
[調製例3](フッ素化アルミナの調製)
電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に粒状γ−アルミナ(住化アルケム、KHS−46)50mlを充填し、窒素ガスを流しながら200℃まで昇温し、水の流出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素(HF)を同伴させその濃度を徐々に高めた。充填されたアルミナのフッ素化によるホットスポットが反応管出口端に達したところで反応器温度を300℃に上げ、その状態を1時間保ち触媒反応の触媒の調製を行った。
【0074】
[実施例1](触媒:活性炭)
あらかじめ乾燥した粒状活性炭(白鷺G2X:日本エンバイロケミカルズ株式会社製)50mlを、電気炉を備えた内径2.7cm、長さ40cmの円筒形ステンレス鋼(SUS316L)製反応管に充填し、窒素を10ml/minの速度で流しながら、昇温した。反応管の温度が150℃に達したところで、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを気化させ、約0.29 g/min、塩素を約0.16g/minの流量で供給し(モル比1:1、接触時間約30秒)、流量が安定したところで窒素の供給を停止した。反応器から流出する生成ガスを氷水浴中で冷却した10質量%NaOH水溶液入りのフッ素樹脂製ガス洗浄瓶に通し、未反応の塩素および塩化水素を吸収し、反応生成物を捕集した。捕集した反応生成物をガスクロマトグラフで分析したところ、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFC−1223xd)の収率は30.3 %であった。なお、ここでいう収率はガスクロマトグラフ分析による収率(「GC収率」と呼ぶことがある。以下同じ。)を表し、目的化合物を単離せずに求めた収率である。
【0075】
[実施例2](触媒:アンチモン/活性炭)
調製例1で調製した触媒50mlを用いた以外は実施例1と同様に反応を実施した。その結果、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの収率は46.4%であった。なお、ここでいう収率はGC収率を表す。
【0076】
[実施例3](触媒:クロム/活性炭)
調製例2で調製した触媒50mlを用いた以外は実施例1と同様に反応を実施した。その結果、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの収率は、45.3%であった。なお、ここでいう収率はGC収率を表す。
【0077】
[実施例4](触媒:フッ素化アルミナ)
調製例3で調製した触媒50mlを用いた以外は実施例1と同様に反応を実施した。その結果、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの収率は、35.2%であった。なお、ここでいう収率はGC収率を表す。
【0078】
[実施例5]
反応生成物(トランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:78.18%、シス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:16.19%)2282gをガラス製精密蒸留装置で精製し、純度99.97%のトランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン 1587gを得た。
【0079】
[参考例1]
ガス導入口を備えた1000mlガラス製反応器を0℃の氷水浴で冷却し、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン554.1g(4.24モル)を仕込んだ。0℃の氷水浴で冷却しながら、塩素を0.83g/minで反応器内へ導入し、反応器の外側から高圧水銀灯による光照射を行った。反応器内の原料有機物および塩素はマグネチックスターラーにて撹拌した。6時間の塩素導入後、高圧水銀灯の光照射を停止し、反応を終了した。反応終了後、反応器内の有機物を水、弱アルカリ水溶液および飽和食塩水で洗浄し、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン(HCFC−233da)を含む組成物836.3gを得た。
【0080】
得られた組成物をガスクロマトグラフで分析したところ、組成は、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンが96.2%であり、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン収率は94.1%であった。なお、ここで、組成分析値の「%」とは、反応生成物をガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。