(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水溶性フィルム、光輝性インキ層、及び伸展抑制樹脂層を順に有し、少なくとも該伸展抑制樹脂層の光輝性インキ層の側とは反対側の面に凹凸形状を有し、該伸展抑制樹脂層を形成する樹脂がガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含む水圧転写フィルム。
前記樹脂Aが、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ニトロセルロース樹脂、及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の水圧転写フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔水圧転写フィルム〕
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1及び2は、本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。
本発明の水圧転写フィルム10は、水溶性フィルム11、光輝性インキ層12、及び伸展抑制樹脂層13を順に有し、該伸展抑制樹脂層13の光輝性インキ層12とは反対側の面に凹凸形状14を有しており、該伸展抑制樹脂層13を形成する樹脂がガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含むものである。また、伸展抑制樹脂層13は、2層以上の複層構成であることが好ましく、
図2に示される水圧転写フィルム10は、伸展抑制樹脂層a及びbの2層の伸展抑制樹脂層を有している。
【0011】
(水溶性フィルム)
水溶性フィルムは、本発明の水圧転写フィルムにおいて基材の役割を有し、水圧転写後に加飾成形品を得る際に除去されるものである。水溶性フィルムとしては、水溶性又は水膨潤性を有するものであればよく、従来水圧転写フィルムとして一般に使用されている水溶性フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
水溶性フィルムを構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどの各種水溶性ポリマーが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。なお、水溶性フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガムなどのゴム成分が添加されていてもよい。
【0012】
上記の水溶性フィルムのうち、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂フィルムが好ましい。なお、ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴムなどの添加剤を含有していてもよい。
ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴムなどの添加剤の配合量などを変えることにより、水溶性フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さなどを適宜調節することができる。
【0013】
ポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる水溶性フィルムとして好適なものは、特開昭54−92406号公報に説明されているようなものであり、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%、澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3%程度のものが好適である。
また、ポリビニルアルコール樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の印刷層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
【0014】
水溶性フィルムの厚さとしては、10〜100μmが好ましい。10μm以上であると、フィルムの均一性が良好で、かつ生産安定性が高い。一方、100μm以下であると、水に対する溶解性が適度であり、かつ印刷適性に優れる。以上の観点から、水溶性フィルムの厚さは、20〜60μmの範囲がより好ましい。
【0015】
なお、上記の水溶性フィルムは、例えば紙、不織布、布などの水浸透性を有する基材と積層して使用することもできるが、このような水浸透性を有する基材と水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムとを積層したときには、水圧転写フィルムを水面に浮かべる前に、水浸透性を有する基材を水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから分離させるか、又は水面に浮かべた後の水の作用によって水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから水浸透性を有する基材が分離するように構成しておくことが好ましい。
【0016】
(光輝性インキ層)
光輝性インキ層は、光輝性を発現する層であり、水溶性フィルムと伸展抑制樹脂層との間に設けられる層である。
【0017】
光輝性インキ層は、好ましくはバインダー樹脂と光輝性顔料を含む光輝性インキにより形成される。
バインダー樹脂としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられ、具体例としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂などのポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(例えばポリエステルウレタン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂(ブチラール樹脂)、ニトロセルロース樹脂などが好ましく挙げられ、これらを単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。本発明においては、アルキッド樹脂、ニトロセルロース樹脂が好ましく、これらを混合して用いることがより好ましい。これらのバインダー樹脂を用いると、優れた賦型性が得られる。
【0018】
光輝性顔料としては、光の干渉によって光輝性を発現しうる顔料であれば特に制限されず、例えば、金属顔料、パール顔料、蓄光性顔料などが好ましく挙げられる。
金属顔料としては、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、銅、アルミニウム、クロム、真鍮、錫などの金属や合金、あるいはこれらの金属酸化物からなるものであり、光輝性が高く、安価である点からアルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料が好ましい。また、パール顔料としては、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された鱗片形状アルミナ顔料、酸化チタン又は酸化鉄で被覆された雲母顔料などが好ましく挙げられる。
【0019】
光輝性顔料の平均粒径は、1〜20μmであることが好ましく、3〜15μmであることがより好ましい。光輝性顔料の平均粒径が上記範囲内であると、優れた光輝性が得られ、また凹凸形状との組み合わせにより高級感も得られやすい。
【0020】
また、光輝性インキ層の模様としては、下記の伸展抑制樹脂層に設けられる凹凸形状との組み合わせに応じて適宜選択すればよく、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様などがあり、これらを複合した寄木、パッチワークなどの模様などが挙げられる。また、全面に渡って一様に着色したような、いわゆるベタ印刷であってもよい。
【0021】
光輝性インキ層の厚さとしては、0.5〜5μmが好ましく、0.5〜3μmがより好ましく、0.5〜2μmがさらに好ましい。光輝性インキ層の厚さが上記範囲内であると、優れた賦型性が得られ、優れた光輝性と高級感を備える意匠性(以後、単に意匠性と称する場合がある。)が得られるとともに、優れた転写加工性(追従性)も得られる。
【0022】
(伸展抑制樹脂層)
伸展抑制樹脂層は、光輝性インキ層の上に設けられ、該光輝性インキ層の側とは反対側の面に凹凸形状を有し、かつ伸展抑制樹脂層を形成する樹脂として、ガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含むことを要する層である。このような構成の伸展抑制樹脂層を設けることにより、水圧転写フィルムの製造時に凹凸形状が良好に賦型しうる賦型性が得られ、また水圧転写時に光輝性インキ層が伸展しすぎるのを抑制し、凹凸形状に対応する凹凸感発現部を形成して凹凸感を保持することで、光輝性と高級感とを備える意匠性が得られる。なお、凹凸形状に対応する凹凸感発現部については、加飾成形品の製造方法についての説明において詳説する。
【0023】
本発明において、伸展抑制樹脂層は、樹脂成形品に転写された後の光輝性インキ層の裏面側に位置する層となり、光輝性インキ層が伸展抑制樹脂層を通して視認されることがない。よって、透明、半透明や不透明、あるいは着色の有無は問わず、所望の意匠に応じて選択することができる。また、伸展抑制樹脂層は単層構成でもよく、二層以上の複層構成であってもよい。
【0024】
本発明において、凹凸形状は、少なくとも伸展抑制樹脂層の光輝性インキ層の側とは反対側の面に存在することを要する。本発明の水圧転写フィルムは、凹凸形状を有し、かつ水圧転写時に該凹凸形状に対応する凹凸感発現部を形成して凹凸感を保持することで、光輝性に加えて高級感を発現しうる。凹凸形状は、
図1に示されるように、凹部が伸展抑制樹脂層内に留まるものであってもよいし、光輝性インキ層、さらには水溶性フィルムにまで至るものであってもよい。また、
図2に示されるように、伸展抑制樹脂層が二層以上の複層構成である場合、凹部は伸展抑制樹脂層b内に留まるものであってもよいし、伸展抑制樹脂層a、光輝性インキ層、さらには水溶性フィルムにまで至るものであってもよい。本発明においては、後述する凹凸形状の深さを得て、優れた賦型性や意匠性を得る観点から、凹凸形状は光輝性インキ層及び水溶性フィルムまで至るものであることが好ましい。
【0025】
凹凸形状の深さとしては、優れた賦型性や意匠性を得る観点から、水圧転写フィルムの全厚さに対して5〜80%が好ましく、より好ましくは10〜70%であり、さらに好ましくは20〜60%である。ここで、本発明において凹凸形状の深さは、凹凸形状の凹部の深さのことである。ここで、凹部の深さは、伸展抑制樹脂層の光輝性インキ層を設ける側とは反対側の面を略直線とみたときの、該直線からの深さの最大値とする。
【0026】
凹凸形状の周期幅(ピッチ)は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは20〜40μmである。凹凸形状の周期幅(ピッチ)が上記範囲内であることにより、優れた賦型性や意匠性が得られる。ここで、本発明において凹凸形状の周期幅(ピッチ)は、隣接する凸部間の離間距離のことである。
また、凹凸形状の幅は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは20〜40μmである。凹凸形状の幅が上記範囲内であることにより、優れた賦型性や意匠性が得られる。ここで、本発明において凹凸形状の幅は、凸部自体の幅のことである。
また、凹凸形状は、エンボス加工により好適に設けることができる。
【0027】
凹凸形状としては、光輝性意匠表現に応じたものとすればよく、上記の光輝性インキ層の模様との組み合わせに応じて適宜選択すればよく、例えば、万線状溝、木目導管溝、木目年輪模様、砂目模様、石目模様、金属結晶面模様、布目模様、梨地模様、皮絞模様、マット面模様、ヘアライン模様、スピン調模様、文字、記号、幾何学図形などが好ましく挙げられる。また、凹凸形状は光輝性インキ層との組合せによりホログラム効果を発揮するようにパターニングされていてもよい。
【0028】
伸展抑制樹脂層形成する樹脂としては、ガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含むことを要する。伸展抑制樹脂層を形成する樹脂がガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含まないと、優れた賦型性が得られず、また優れた意匠性も得られない。ガラス転移温度の上限については特に限定的ではないが、転写加工性(追従性)を良好とする観点から145℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明において、ガラス転移温度は以下のようにして測定したものである。
示差走査熱量計を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料を昇温速度10℃/分で測定した。軟化点より20℃以上低い温度でピークが観測される場合にはそのピークの温度を、また軟化点より20℃以上低い温度でピークが観測されずに段差が観測されるときは該段差部分の曲線の最大傾斜を示す接線と該段差の高温側のベースラインの延長線との交点の温度を、ガラス転移温度として読み取った。
【0030】
樹脂Aとしては、ガラス転移温度80℃以上であれば特に制限はないが、例えば、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ニトロセルロース樹脂、及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂などが好ましく挙げられ、なかでもアクリルポリオール樹脂が好ましい。本発明においては、これらの樹脂を単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。
また、樹脂Aとしては、水圧転写時に光輝性インキ層が過度に伸展することを抑制し、凹凸形状に対応する凹凸感発現部を良好に形成する観点から、非水溶性樹脂を用いることが好ましい。ここで、非水溶性樹脂は、一般に非水溶性を有する樹脂として知られる樹脂を称するものであり、具体的には、樹脂Aとして好ましく例示したものが挙げられる。
【0031】
また、伸展抑制樹脂層を形成する樹脂としては、上記樹脂Aを含んでいれば、他の樹脂、例えばガラス転移温度80℃未満の樹脂Bを含んでもよい。樹脂Aと組み合わせて用いる樹脂Bとしては、例えばガラス転移温度60℃以下の樹脂が好ましく、20℃以下の樹脂がより好ましく、ガラス転移温度10℃以下の樹脂がさらに好ましい。
このような樹脂Bとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、アセタール樹脂、アルキッド樹脂が好ましく挙げられ、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂が好ましい。ガラス転移温度が低い樹脂Bを組み合わせることで、優れた転写加工性(追従性)が得られる。なかでも、樹脂Aとしてアクリルポリオール樹脂を用いる場合は、ウレタン樹脂と組み合わせることが好ましく、また樹脂Aとしてニトロセルロース樹脂を用いる場合は、アルキッド樹脂と組み合わせることが好ましい。
【0032】
伸展抑制樹脂層を形成する樹脂中の樹脂Aの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%、特に好ましくは70〜85質量%である。樹脂中の樹脂Aの含有量が上記の範囲内であると、優れた賦型性や意匠性が得られるとともに、優れた転写加工性(追従性)も得られる。
【0033】
伸展抑制樹脂層は、2層以上の複層構成であることが好ましい。複層構成とすることで、賦型性や意匠性をさらに向上させることができる。賦型性や意匠性に加え、転写加工性(追従性)を考慮すると、2〜4層であることが好ましく、2〜3層であることがより好ましく、特に好ましくは2層である。また、水圧転写時の活性剤の塗布の時間を確保し、活性剤の伸展抑制樹脂層や光輝性インキ層への浸透の度合いを調整しやすく、より好適に被転写体に転写することができる。
【0034】
伸展抑制樹脂層が複層構成の場合、最表面の伸展抑制樹脂層を形成する樹脂は、アルキッド樹脂と樹脂Aとしてニトロセルロース樹脂とを含むことが好ましい。優れた賦型性や意匠性、さらには転写加工性(追従性)が得られるからである。さらに、最表面の伸展抑制樹脂層を形成する樹脂がアルキッド樹脂と樹脂Aとしてニトロセルロース樹脂とを含む場合、最表面以外の伸展抑制樹脂層を形成する樹脂は、樹脂Aとしてアクリルポリオール樹脂を含むことが好ましい。最表面の伸展抑制樹脂層と、最表面以外の伸展抑制樹脂層との組み合わせによる相乗効果により、極めて優れた賦型性や意匠性、及び転写加工性(追従性)が得られる。
【0035】
伸展抑制樹脂層の厚さとしては、0.5〜10μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましく、0.5〜2.5μmがさらに好ましい。この伸展抑制樹脂層の厚さは、伸展抑制樹脂層が複層構成の場合は、一層の伸展抑制樹脂層の厚さである。伸展抑制樹脂層の厚さが上記範囲内であれば、優れた賦型性や意匠性が得られるとともに、優れた転写加工性(追従性)も得られる。また、水圧転写時の活性剤の塗布の時間を確保し、より好適に被転写体に転写することができる。
【0036】
〔水圧転写フィルムの製造方法〕
本発明の水圧転写フィルムの製造方法は、工程(A)水溶性フィルム上に、光輝性インキ層を積層する工程、工程(B)該光輝性インキ層上に、ガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含む樹脂により形成される伸展抑制樹脂層を積層する工程、及び工程(C)該伸展抑制樹脂層の該光輝性インキ層の側とは反対側の面からエンボス加工を施し、少なくとも該伸展抑制樹脂層の該反対側の面に凹凸形状を設ける工程を順に有することを特徴とするものである。
【0037】
工程(A)において、光輝性インキ層は、バインダー樹脂と光輝性顔料とを含有する光輝性インキを用い、公知の塗布方法又は印刷方法により形成することが好ましい。
公知の塗布方法としては、グラビアコート、リバースコートなどが挙げられ、公知の印刷方法としては、グラビア印刷などが挙げられる。
【0038】
工程(B)において、伸展抑制樹脂層は、上記の光輝性インキ層の形成方法で例示した公知の塗布方法又は印刷方法のほか、光輝性インキ層を設けた水溶性フィルムとの共押出法、あるいは樹脂フィルムを光輝性インキ層を設けた水溶性フィルムの該光輝性インキ層側にラミネートすることにより光輝性インキ層の上に積層される。これらのうち、公知の塗布方法又は印刷方法によることが好ましい。
【0039】
凹凸形状を形成する工程(C)において施されるエンボス加工は、通常80〜130℃の温度で、20〜100ton/m
2、好ましくは20〜60ton/m
2の圧力を加え、1〜10分間程度のプレス時間でエンボス加工装置により、あるいはエンボスロールなどによる連続的なエンボス加工により行なわれ、所望する凹凸形状を形成する。
ここで用いられるエンボス版としては、上記の凹凸形状の深さ、周期幅(ピッチ)、及び幅を達成できる寸法を具備するものであれば特に制限はない。通常、エンボス版の凹凸形状の深さは、10〜80μm程度であり、好ましくは20〜60μm、より好ましくは30〜45μmである。
【0040】
[加飾成形品の製造方法]
本発明の加飾成形品の製造方法は、工程(a)水溶性フィルム、光輝性インキ層、及び伸展抑制樹脂層を順に有し、少なくとも該伸展抑制樹脂層の光輝性インキ層の側とは反対側の面に凹凸形状を有し、該伸展抑制樹脂層を形成する樹脂がガラス転移温度80℃以上の樹脂Aを含む水圧転写フィルムを該水溶性フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させる前又は後に、該伸展抑制樹脂層に活性剤組成物を塗布する活性剤塗布工程、工程(b)該工程(a)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該伸展抑制樹脂層を被転写体の被転写面に密着させる工程、及び工程(c)該被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する脱膜工程を順に有することを特徴とするものである。
【0041】
図3は、本発明の加飾成形品の製造方法により得られる加飾成形品の構成の一例を示す概略断面図であり、
図1に示される水圧転写フィルムを用いた際の加飾成形品を示すものである。
図3に示される、本発明の加飾成形品の製造方法により得られる加飾成形品20は、被転写体21、伸展抑制樹脂層13、及び光輝性インキ層12を順に有しており、伸展抑制樹脂層13の凹凸形状14に対応する凹凸感発現部23を有することで、凹凸感が保持されており、これにより加飾成形品は優れた光輝性と高級感とを備える意匠性を有するものとなっている。また、加飾成形品には、必要に応じてトップコート層22を設けることもできる。
【0042】
凹凸形状に対応する凹凸感発現部は、水圧転写の際に、本発明の水圧転写フィルムが若干伸展することにより、凹凸形状の全体的に緩やかな形状となり形成されるものであり、視覚的にも凹凸感を保持するものである。本発明の水圧転写フィルムは、水圧転写の際に適度に伸展し、凹凸感発現部を形成することで、凹凸感を保持することとなり、優れた転写加工性(追従性)とともに、優れた意匠性をも得られる。
【0043】
(活性剤塗布工程(a))
活性剤塗布工程(a)は、水圧転写フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、伸展抑制樹脂層に活性剤組成物を塗布する工程である。この工程で、伸展抑制樹脂層に活性剤を塗布することにより、該伸展抑制樹脂層の表面が荒れ、被転写体と密着しやすくなる。
水圧転写フィルムは、水溶性フィルム側が水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルムを水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルムを、連続的に供給して浮遊させてもよい。
【0044】
活性剤組成物は、水圧転写フィルムにおける転写用の伸展抑制樹脂層を荒らすことができ、かつ後述する被転写体の表面を溶解させる機能を有する組成物であれば特に制限はなく、また、被転写体の被転写面に伸展抑制樹脂層を転写させるまで蒸発しないような性状を有することが好ましい。このような活性剤組成物としては、例えばエステル類、アセチレングリコール類、エーテル類、及び樹脂を含む組成物が好ましく挙げられる。
【0045】
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどが好ましく挙げられる。
アセチレングリコール類としては、メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが好ましく挙げられる。
エーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが好ましく挙げられる。
また、樹脂としては、アクリレート系単量体の単独又は共重合体などの熱可塑性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸アルキッド樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などが好ましく挙げられ、なかでも熱硬化性樹脂が好ましい。
【0046】
本発明で用いられる活性剤組成物の好ましい各組成の含有量は、エステル類は5〜40質量%、アセチレングリコール類は40〜80質量%、エーテル類は5〜30質量%、及び樹脂は1〜20質量%程度である。
【0047】
活性剤組成物の塗布は、スプレーコート法などにより行えばよく、その塗布量は通常1〜50g/m
2であり、好ましくは3〜30g/m
2であり、さらに好ましくは10〜20g/m
2である。
【0048】
(工程(b))
工程(b)は、工程(a)を経た、水面に浮遊している水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって伸展抑制樹脂層を被転写体の被転写面に密着させる工程である。
水圧転写フィルムを浮かべ水圧を印加するための水は、水溶性フィルムの種類などに応じ、適宣水温を調整するのがよく、好ましくは25〜50℃程度、より好ましくは25〜35℃である。
また、本発明の水圧転写フィルムと被転写体との転写時間は、20〜120秒程度が好ましく、より好ましくは30〜60秒程度である。ここで、転写時間とは、本発明の転写フィルムを水に浮遊させてから、被転写体への転写が完了するまでの時間のことである。
【0049】
(被転写体)
被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅などの金属、陶磁器、ガラス、琺瑯などのセラミックス、木材などの材料からなる構造体を使用することができる。
【0050】
被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成形時において離型剤が付着するとともに、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの伸展抑制樹脂層を密着性よく転写させるために、予め脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
【0051】
工程(b)において、光輝性インキ層上に塗布した活性剤組成物は被転写体と接し、該被転写体の表面を溶解させることで、本発明の転写フィルムと被転写体との密着性は良好なものとなる。
【0052】
(脱膜工程(c))
脱膜工程(c)は、被転写体の被転写面に密着した水溶性フィルムを除去する工程である。
水溶性フィルムの除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。この工程(c)により、被転写面に付着している水溶性フィルムは除去される。なお、シャワー洗浄の条件は、水溶性フィルムを形成する材料などにより異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(c)の後、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体の被転写面に転写された伸展抑制樹脂層と光輝性インキ層とによって、所望の意匠が付与された樹脂成形品が得られる。
【0053】
(工程(d))
本発明の加飾成形品の製造方法は、工程(c)の後、さらに所望により、転写された光輝性インキ層上に、トップコート層を形成する工程(d)を有することができる。
工程(d)において、前記工程(c)にて被転写体の被転写面に転写された光輝性インキ層に対し、表面強度向上、表面保護、表面艶調整などのために、必要に応じてトップコート剤を塗布して、トップコート層を形成することができる。トップコート剤としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など、具体的にはウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂などを含む樹脂組成物が好ましく挙げられる。
【0054】
トップコート層は、これらの樹脂組成物を塗装し、硬化させて形成することができる。塗装方法としては、スプレー塗装、静電塗装、刷毛塗り、浸漬塗装など公知の方法を用いることができる。また、硬化させる方法としては、使用する樹脂組成物により適宜選定すればよく、熱可塑性樹脂を用いる場合は数日間養生すればよく、熱硬化性樹脂を用いる場合は熱処理を行えばよく、紫外線硬化性樹脂を用いる場合は適切な紫外線を照射して行えばよい。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(1)賦型性の評価
各例における水圧転写フィルムの光輝性インキ層にエンボス加工(エンボス条件:温度120℃、圧力40ton/m
2、プレス時間5分)を施して、エンボス版を剥がした後の、該光輝性インキ層の表面の様子を目視により観察し、下記の基準で評価した。
○:光輝性インキ層が剥がれることなく、凹凸形状が極めて良好に賦型されていた。
△:熱い状態では光輝性インキ層が若干剥がれるものの、室温まで冷やした後にエンボス版を剥がすと、光輝性インキ層は剥がれることなく、凹凸形状が実用にあたり問題が生じない程度に賦型されていた。
×:室温まで冷やした後にエンボス版を剥がしても、光輝性インキ層が剥がれてしまい、凹凸形状を賦型することができなかった。
(2)意匠性の評価
各例により得られた水圧転写フィルムの光輝性インキ層に、下記組成の活性剤組成物を3g/m
2塗布し、スムージングロールで該活性剤組成物を均一にし、光輝性インキ層の活性剤塗布工程(a)を経た後、水面に浮遊している水圧転写フィルムに被転写体を押圧し、水圧によって光輝性インキ層を被転写体の被転写面に密着させる工程(b)、及び水洗による脱膜工程(c)を経て、加飾成形品を得た。得られた加飾成形品を目視により観察し、その意匠性について以下の基準で評価した。
(活性剤組成物の組成)
フタル酸系アルキッド樹脂 6質量部
マイクロシリカ(顔料) 2質量部
フタル酸ジブチル 17質量部
溶剤(ブチルカルビトールアセテート) 60質量部
溶剤(ブチルセロソルブ) 15質量部
○:光輝性インキ層の凹凸形状に対応する凹凸感が良好に保持されており、優れた光輝性と高級感が得られた。
△:光輝性インキ層の凹凸形状に対応する凹凸感がやや低下したものの十分視認でき、実用にあたり問題が生じない程度の光輝性と高級感が得られた。
×:光輝性インキ層の凹凸形状に対応する凹凸感が消失したため、光輝性と高級感とが得られない、または水圧転写フィルムの製造の時点で凹凸形状を賦型できなかった。
(3)転写加工性(追従性)の評価
加飾成形品の製造において、被転写体として、直径35mm、長さ250mmの円柱形状の樹脂成形体を用い、その側面に水圧転写フィルムを転写させた際の水圧転写フィルムの転写加工性(追従性)について、目視による観察により、以下の基準で評価した。
◎:被転写体に良好に追従し、割れを一切生じることなく加飾成形品が得られた。
○:水圧転写フィルムの伸展性が若干悪く、割れや付き回り性に若干劣るものの、意匠性にほとんど影響を与えることなく転写加工を行うことができた。
△:水圧転写フィルムの伸展性が若干悪く、割れや付き回り性に劣るものの、意匠感への影響は実用にあたり問題が生じない程度のものであった。
×:水圧転写フィルムの伸展性が悪く、割れが著しい加飾成形品となった、あるいは水圧転写時に水圧転写フィルムが割れるなどして被転写体に転写することができなかった。
【0056】
実施例1
水溶性フィルムとして、PVAフィルム(厚さ30μm)を用い、その片面に光輝性インキ(光輝性顔料:アルミペースト(種類など),平均粒径:10μm,バインダー樹脂:ニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂とを質量比50:20で混合した混合物)を、塗布量2g/m
2でグラビアコートして、厚さ1μmの光輝性インキ層を形成した。次に、第1表に記載の伸展抑制樹脂層を形成する樹脂を塗布量3g/m
2で、グラビアコートし、厚さ1μmの伸展抑制樹脂層を設けた。次いで、エンボス加工装置を用いて、圧力40ton/m
2、温度120℃で伸展抑制樹脂層の表面側からエンボス加工して、深さ20μmの凹凸形状を形成して水圧転写フィルムを得た。得られた水圧転写フィルムについての賦型性の評価、該水圧転写フィルムを用いて得られた加飾成形品の意匠性の評価、及び転写加工性(追従性)の評価結果を第1表に示す。
【0057】
実施例2〜6、比較例1及び2
実施例1において、伸展抑制樹脂層を形成する樹脂を第1表に示される樹脂とした以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルムを得た。得られた水圧転写フィルムについての賦型性の評価、該水圧転写フィルムを用いて得られた加飾成形品の意匠性の評価、及び転写加工性(追従性)の評価結果を第1表に示す。
【0058】
比較例3
実施例1において、伸展抑制樹脂層を設けず、光輝性インキ層にエンボス加工を施した以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルムを得た。得られた水圧転写フィルムについての賦型性の評価、該水圧転写フィルムを用いて得られた加飾成形品の意匠性の評価、及び転写加工性(追従性)の評価結果を第1表に示す。
【0059】
【表1】
*1,カッコ内のTgはガラス転移温度を示す。
*2,アクリルポリオール樹脂とウレタン樹脂との混合比(質量比)は80:20である。
*3,ニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂との混合比(質量比)は20:10である。
*4,アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂との混合比(質量比)は50:50である。
【0060】
実施例7
水溶性フィルムとして、PVAフィルム(厚さ30μm)を用い、その片面に光輝性インキ(光輝性顔料:アルミペースト(種類など),平均粒径:10μm,バインダー樹脂:ニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂とを質量比50:20で混合した混合物)を、塗布量2g/m
2で、グラビアコートでベタ印刷を有する、厚さ1μmの光輝性インキ層を形成した。次に、第2表に記載の伸展抑制樹脂層を形成する樹脂を塗布量3g/m
2で、グラビアコートし、厚さ1μmの伸展抑制樹脂層aを設け、さらにニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂との混合物(ニトロセルロース樹脂のガラス転移温度Tg:90℃,ニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂との混合比(質量比)は20:10である。)を塗布量3g/m
2で、グラビアコートし、厚さ1μmの伸展抑制樹脂層bを設けた。次いで、エンボス加工装置を用いて、圧力40ton/m
2、温度120℃で伸展抑制樹脂層の表面側からエンボス加工して、深さ20μmの凹凸形状を形成して水圧転写フィルムを得た。得られた水圧転写フィルムについての賦型性の評価、該水圧転写フィルムを用いて得られた加飾成形品の意匠性の評価、及び転写加工性(追従性)の評価結果を第2表に示す。
【0061】
実施例8〜12、比較例4及び5
実施例7において、伸展抑制樹脂層aを形成する樹脂を第2表に示される樹脂とした以外は、実施例7と同様にして水圧転写フィルムを得た。得られた水圧転写フィルムについての賦型性の評価、該水圧転写フィルムを用いて得られた加飾成形品の意匠性の評価、及び転写加工性(追従性)の評価結果を第2表に示す。
【0062】
【表2】
*1,カッコ内のTgはガラス転移温度を示す。
*2,アクリルポリオール樹脂とウレタン樹脂との混合比(質量比)は80:20である。
*3,ニトロセルロース樹脂とアルキッド樹脂との混合比(質量比)は20:10である。
*4,アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂との混合比(質量比)は50:50である。