(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カーボンナノチューブは、前記パターンエッジを形成する前記パターン形成材料の外側へ糸状に伸びている部分の長さの平均が、前記赤外線吸収膜の膜厚の値より長いことを特徴とする請求項1に記載の赤外線検知装置。
前記パターンエッジ同士は対向するとともに、対向する前記パターンエッジ間に存在する前記カーボンナノチューブは、前記パターンエッジを形成する前記パターン形成材料の前記パターンエッジより外側へ糸状に伸びている部分を有する、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の赤外線検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。さらには、図面においては、本発明の趣旨を理解しやすいように、ある一部を誇張して記載するなどしたため、膜厚や長さの相対値が必ずしも現実と一致していない場合がある。
【0019】
(赤外線検知素子の基本構造)
図1および
図2を参照しながら、本実施形態による赤外線検知素子1の構造について説明する。ここで、
図1は赤外線検知素子1を有する赤外線検知装置100の平面図、
図2は
図1のA−Aで赤外線検知装置100を切断した断面図である。本実施形態による赤外線検知素子1は、基板2、絶縁膜3、赤外線検知膜5、下部電極である取り出し電極6、パッド電極7および保護膜8を備える。なお、赤外線検知装置100は、赤外線検知素子1と赤外線吸収膜9を備える。
【0020】
基板2としては、適度な機械的強度を有し、かつエッチングなどの微細加工に適した材質であれば、特に限定されるものではない。例えば、Si単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミック基板、石英基板、ガラス基板などが好適である。基板の表面および裏面には、Si酸化膜又はSi窒化膜などの絶縁膜3が形成される。
【0021】
基板2には、赤外線を感知する検知部の熱容量を小さくするために赤外線検知膜5の位置に対応して、基板2の裏面にキャビティ4を有している。基板2の一部を取り除くことにより基板2の内部にキャビティ4を形成し、キャビティ4上に存在する構造物はメンブレン10と呼ばれる。メンブレン10では熱容量が小さくなるため、微少な赤外線の変化を電気信号の変化として検出することが可能となる。赤外線検知膜5はメンブレン10に形成され、その上には外気からの影響を遮断する保護膜8が形成される。この場合、赤外線検知膜5は一対の取り出し電極6にまたがるように設けられている。保護膜8の上には、赤外線の吸収効率を向上させるために赤外線吸収膜9を設けている。また、外部との接続部にはワイヤーボンドなどで電気信号を良好に取り出すためのパッド電極7が形成される。なお、赤外線検知膜5が耐湿性を有する材料から形成される場合、赤外線検知膜5を保護する保護膜8は必須ではない。
【0022】
赤外線検知膜5としてはボロメータ、サーモパイル、サーミスタなどが用いられるが、本実施形態ではサーミスタを使用する。サーミスタとしては、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなども負の温度抵抗係数を持つ材料をスパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)などの薄膜プロセスを用いて形成する。
【0023】
また、取り出し電極6の材質としては、赤外線検知膜5の成膜工程および熱処理工程などのプロセスに耐えうる導電性物質で比較的高融点の材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。この取り出し電極6は、パッド電極7に接続されている。
【0024】
パッド電極7としてはワイヤーボンドやフリップチップボンディングなどの電気的接続が行いやすい材料、例えばアルミニウム(Al)やAuなどが好適であり必要に応じて積層してもよい。
【0025】
赤外線吸収膜9は、赤外線吸収材料であるカーボンナノチューブ11や樹脂などのパターン形成材料(図示せず)、および溶媒等を含有した赤外線吸収膜用塗料(図示ず)をスピンコートなどの方法により、保護膜8の表面に全面に塗布した後、紫外線を用いた露光および現像工程を経る、いわゆるフォトリソグラフィにより所望のパターンに形成する。この際、赤外線を吸収するカーボンナノチューブ11が、パターン形成材料を含む赤外線吸収膜9のパターンエッジを形成するパターン形成材料の周囲で、すなわち、パターンエッジを形成するパターン形成材料のパターエッジより外側へ糸状に伸びている部分を有することにより、赤外線吸収材料であるカーボンナノチューブ11に直接赤外線があたるため、赤外線吸収効果を高めることが可能となる。ここで、パターンエッジとはパターン形成材料の端部である段差部を指す。
【0026】
カーボンナノチューブ11とは、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造であるグラフェンが円筒形に巻かれた構造をしているものを指す。円筒形状が長くなることにより、外観が糸状となる。カーボンナノチューブ11は、カーボンナノファイバーと呼ばれることもある。
【0027】
赤外線吸収膜9の表面は、カーボンナノチューブ11の直径の1/10より大きいRaを示すほうが好ましい。ここでRaとは中心線表面粗さと呼ばれるものであり、粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さLで割った値である。詳細はJIS B 0601:2001に記載されている。Raの測定には例えばKLA−Tencor社の段差・表面粗さ測定装置P−6を使用することができる。またカーボンナノチューブ11の直径とは、長い円筒形で糸状のカーボンナノチューブ11の円筒を真横から垂直に輪切りにする形で切断した際に得られる円の直径の平均値である。
【0028】
また、赤外線吸収膜9は、内部に空孔20を有していることが望ましい。空孔20により、赤外線吸収膜9の熱容量が小さくなる。このため、熱量である赤外線を吸収した際に、赤外線吸収膜9の温度が上昇するが、空孔20を設けることにより、上昇する温度が大きくなる。すなわち、赤外線検知素子1が、少量の赤外線にも、敏感に反応するようになる。
【0029】
(実施例)
実施形態に基づく実施例の、赤外線検知素子1を作製し、評価を行った。実施例の具体的な製造方法について説明する。
(赤外線検知素子の製造方法)
基板2として、例えば、面方位が(100)であるSi基板を用意し、基板の表面に絶縁膜3を形成する。
図3に示すように、基板2(Si基板、誘電率:2.4、板厚250μm)の2つの主面に、熱酸化法により、厚さ0.5μmのSiO
2膜を略全面に形成し、絶縁膜3とした。絶縁膜3として、例えばSi酸化膜を形成するには、熱酸化法やCVDによる成膜法を適用すればよい。また、赤外線検知素子1を保持するためのある程度の強度があればよい。膜厚は、絶縁膜3上に形成する膜と基板2との絶縁がとれ、かつ、キャビティ4を形成する際のエッチング停止層として機能すればよい。通常0.1〜0.5μm程度が好適である。
【0030】
次に、絶縁膜3の上に、高周波マグネトロンスパッタ法などを用いて、取り出し電極6用の、膜厚が100〜600nm程度の金属膜を堆積する。取り出し電極6の材質としては、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)、イオンミリングなどの高精度なドライエッチングが可能である電導材質であることが好ましく、例えば、Ptなどが好適である。また絶縁膜3との密着性を向上させるためには、Ptの下部にはTiなどの密着層を形成するのが好ましい。
【0031】
具体的には、基板2の一方の主面上の絶縁膜3の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚さ5nmのTi金属薄膜6A、および厚さ100nmのPt金属薄膜6Bを順次、概全面に形成する。なおTi金属薄膜6Aは、Pt金属薄膜6Bと絶縁膜3とを密着させるための密着層である。形成されたPt金属薄膜6B上に、フォトリソグラフィにて櫛歯状など所望の形状のエッチングマスク14をフォトレジストで形成した後、エッチングマスク14で覆われていないPt金属薄膜6BおよびTi金属薄膜6Aを、
図3に示すように、イオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスク14を除去することにより、取り出し電極6を所望の形に形成する。
【0032】
次に、形成した取り出し電極6の表面に、スパッタ法により、赤外線検知膜5として、サーミスタ材料である複合金属酸化物材料を堆積する。赤外線検知膜5の膜厚は、目標とするサーミスタ抵抗値に応じて調整すればよく、例えば、MnNiCo系酸化物を用いて、室温での抵抗値(R25)を120kΩ程度に設定するのであれば、赤外線検知素子1の電極間の距離にもよるが、0.2〜1μm程度の膜厚に設定すればよい。
【0033】
具体的には、取り出し電極6の表面に、赤外線検知膜5として、膜厚が0.4μm、抵抗値120kΩ、取り出し電極6間距離20μmのMnNiCo系複合酸化膜を形成する。このスパッタは、基板温度600℃、成膜圧力0.5Pa、導入ガス組成がアルゴン(Ar)に対する酸素(O
2/Ar)の流量比で1%、RFパワー400Wの条件で成膜を行った。その後、BOX焼成炉を使用し、熱処理を大気雰囲気中で650℃、1時間の条件下で実施した。続いて
図4に示すように、フォトリソグラフィにより、検知部位を除く赤外線検知膜5上にフォトレジスト製のエッチングマスク15を作成した。
【0034】
続いて、
図5に示すように、エッチングマスク15を利用し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理し、検知部以外の不必要な領域である非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去した。ウェットエッチングに際し、赤外線検知膜5がMnNiCo系酸化物であれば、例えば、塩化第二鉄水溶液を用いれば、下部の膜にダメージを与えることなく、容易に不要部が除去可能である。このようにして、検知部位にのみ赤外線検知膜5を形成した。
【0035】
さらに、検知部以外の不必要な領域である非マスク領域のエッチングマスク15を除去した後に、赤外線検知膜5の全面を被覆するように、保護膜8として、テトラエトキシシラン(Tetraethl orthosilicate:TEOS)という有機金属を用いたCVD(TEOS−CVD)法により、
図6に示すように、0.3〜2μm程度の膜厚のSiO
2膜を成膜する。本実施例では、膜厚0.4μmの保護膜8を形成した。
【0036】
続いて、赤外線検知素子1上の所望の場所に、赤外線吸収膜9を形成する。まず、カーボンナノチューブ11とUV感光性を持つ樹脂であるパターン形成材料、および溶媒を混ぜて赤外線吸収膜用塗料を作製する。本実施例では、パターン形成材料としてノボラック樹脂を用いた。ノボラック樹脂とは、フェノール樹脂の一種であり、感光性樹脂として使用されることが多い樹脂である。塗料の粘度は、23℃で、6mPa・sである。カーボンナノチューブ11の長さは、無作為に抽出した100サンプルの平均で約10μm、直径は無作為に抽出した100サンプルの平均で約120nmである。次に、赤外線吸収膜用塗料をスピンコート法にて保護膜8の表面に塗布し、
図7に示すように、赤外線吸収膜前段薄膜16を形成する。赤外線吸収膜前段薄膜16を塗布後に、所定の温度と時間でプレベークを行うことにより、溶媒のほぼ全量が赤外線吸収膜前段薄膜16から脱離する。
【0037】
ここで、赤外線吸収膜前段薄膜16を所定の大きさに加工するために、所望の大きさをCr膜で描いたガラスフォトマスクを用いて、UV露光を行う。次に、現像処理を行うことにより、パターン形成材料はUV感光性を有するため、UVがあたらなかった赤外線吸収膜前段薄膜16が基板2から剥がれる。これにより、残った赤外線吸収膜前段薄膜16は、所望の形状となり、
図8に示すように、赤外線吸収膜9が形成される。その後、ポストベークとして160℃のオーブンに、30分間投入する。ポストベーク後の赤外線吸収膜9の膜厚は約2μmであった。ポストベーク後の赤外線吸収膜9を観察したところ、
図12に示すように、赤外線吸収膜9のパターンの端から、カーボンナノチューブ11が飛び出していることが確認された。
図12にYとして表される、飛び出している部分の長さYは、無作為に抽出した100サンプルの平均で7.5μm程度であった。飛び出しているカーボンナノチューブ11は、端部の一方が赤外線吸収膜9のパターン形成材料中に固定されている。なお赤外線吸収膜9のパターンエッジから飛び出しているカーボンナノチューブ11のうち、そのいくつかには、根元にパターン形成材料が付着していることが確認された。
【0038】
さらに、フォトリソグラフィによって保護膜8および赤外線吸収膜9上にエッチングマスク17を形成した後、RIEによってSiO
2膜を選択エッチングし、
図9に示すように、後にパッド電極7を形成するための取り出し電極6のみを露出させる。これを開口18とする。
【0039】
続いて、形成した開口18およびエッチングマスク17上に、電子ビーム蒸着法により、厚さ1.0μmのAl金属薄膜を形成し、リフトオフ法により、開口18を充填するように形成したAlの金属薄膜以外の部位の、Alおよびマスクを除去し、
図10に示すように、パッド電極7を形成した。
【0040】
さらに、
図11に示すように、基板2の裏面、すなわち、絶縁膜3や取り出し電極6などを形成していない側の面に、フォトリソグラフィによってエッチングマスク19を形成した後、フッ化物系ガスを用いた反応性イオンエッチングによって基板2の一部を除去し、一辺が500μm程度のキャビティ4を形成した。キャビティ4の形成にはエッチングとバリア層形成を交互に行いながら垂直に加工する深堀りRIE(Deep−RIE、D−RIE)法を用いた。結果として、
図2に示すように、赤外線検知領域にキャビティ4および赤外線検知領域にキャビティ4に対応するメンブレン10を得た。
【0041】
この後、基板2を切断し、赤外線検知素子1を個片化した。切断には、ダイシングブレードやレーザーを用いたダイシング装置を用いた。メンブレン構造10の作製後、赤外線検知素子1が集積している状態で、紫外線照射により、粘着力が低下するタイプのダイシングテープに貼付した。ダイシングテープは、基板2のメンブレン10側、またはキャビティ4側のいずれに貼付することも可能である。ダイシング装置で切断した後、エクスパンド装置を用いて、ダイシングテープごとエクスパンドを施し、赤外線検知素子1同士の間隔を広めた。エクスパンド後、ダイシングテープの赤外線検知素子1が付着していない面から赤外線を照射することにより、ダイシングテープの粘着力を低下させ、赤外線検知素子1の剥離を容易にした後、剥離を行った。
【0042】
図12および
図13を用いて、前述の赤外線吸収膜9の構造について説明する。ここで、
図12は赤外吸収膜9の一部分における平面図、
図13は
図12のB−Bで赤外線吸収膜9を切断した断面図である。
図12および
図13に示すように、赤外線吸収膜9のパターンの端から、赤外線吸収膜9の表面と平行な方向に、カーボンナノチューブ11が糸状に飛び出していることが確認された。飛び出している部分の長さは、平均で7.5μm程度であった。飛び出しているカーボンナノチューブ11は、端部の一方が赤外線吸収膜9のパターン形成材料中に固定されている。また赤外線吸収膜9の表面には、カーボンナノチューブ11の形状およびパターン形成材料に起因する凹凸が生じている。表面粗さを測定したところ、Raで53nmであった。また赤外線吸収膜9の断面観察を行ったところ、空孔20が観察された。空孔20の断面形状は円形や楕円形など、さまざまであった。空孔20の大きさは、基板2の表面に垂直に切断した際の断面形状において最大で1μm程度の長さを有していた。
【0043】
(変形例1)
変形例1として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、カーボンナノチューブ11の長さを変更した。具体的には、カーボンナノチューブ11の平均的な長さを2μm、4μm、5μm、7μmの4種類とした。これにより、ポストベーク後に赤外線吸収膜9のパターンエッジからはみ出すカーボンナノチューブ11の平均値は、それぞれ、0.2μm、1.5μm、2.5μm、4.4μmとなった。なお、赤外線検知素子1について、実施例に対して他に変更点はない。
【0044】
(変形例2)
変形例2として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、パターン形成材料の粘度を変更した。なお、赤外線検知素子1について、実施例に対して他に変更点はない。結果として、赤外線吸収膜用塗料の粘度が変化した。パターン形成材料の粘度を上げた結果、赤外線吸収膜用塗料の粘度も上昇し、30mPa・s、35mPa・sおよび50mPa・sの3種類を用意した。このような赤外線吸収膜用塗料を用いて赤外線吸収膜9を作製したところ、その表面形状に変化が現れた。すなわち、赤外線吸収膜用塗料の粘度が30mPa・sの場合、ポストベーク後の赤外線吸収膜9の表面におけるRaが15nm、赤外線吸収膜用塗料の粘度が35mPa・sの場合、ポストベーク後の赤外線吸収膜9の表面におけるRaは11nm、赤外線吸収膜用塗料の粘度が50mPa・sの場合、ポストベーク後の赤外線吸収膜9の表面におけるRaは8nmとなった。
【0045】
(変形例3)
変形例3として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、ポストベークの条件を変更した。すなわち、オーブンでのポストベークに関して、120℃30分放置した後、160℃30分の熱処理を行った。なお、赤外線検知素子1について、実施例に対して他に変更点はない。この結果、実施例で観察された赤外線吸収膜9内部の空孔20がなくなった。
【0046】
(変形例4)
変形例4として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、以下の条件を変更して作製した。まず、カーボンナノチューブ11の平均的な長さを2μmとした。さらに赤外線吸収膜用塗料の粘度を50mPaとした。そして、ポストベークの条件をオーブンで、120℃30分放置した後、160℃30分の熱処理を行った。なお、赤外線検知素子1について、実施例に対して他に変更点はない。この結果、ポストベーク後に赤外線吸収膜9のパターンエッジからはみ出すカーボンナノチューブ11の平均値は、0.1μmであった。またポストベーク後の外線吸収膜9の表面におけるRaは8nmであり、赤外線吸収膜9内部の空孔20は確認されなかった。
【0047】
(変形例5)
変形例5として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、ガラスフォトマスクの形状を変更して、赤外線吸収膜9の形状を変えた。具体的には、実施例では
図1に示すように、略正方形であった赤外線吸収膜9に対して、互いに直交する幅20μmのスリットを付加した。すなわち、スリットを間に挟んだパターンエッジ同士が対向するとともに、対向するパターンエッジ間にカーボンナノチューブ11が存在するように形成した。変形例5における赤外線吸収膜9の形状を
図14に示す。スリットを付加した結果、赤外線吸収膜9は小さな略正方形が規則正しく並ぶ形状となった。ここで、正方形の一辺は、100μmである。すなわち、パターン形成材料を一辺が100μm正方形にパターニングするとともに、互いに直交する幅20μmのスリットを間に挟んで赤外線吸収膜9を小さな略正方形が規則正しく並ぶ形状とした。これにより、赤外線吸収膜9の外周部に加え、スリット部分にもカーボンナノチューブ11が飛び出していることが確認された。
【0048】
(変形例6)
変形例6として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、以下の条件を変更して作製した。赤外線吸収膜用塗料を作製する際に、パターン形成材料としてノボラック樹脂の代わりに、感光性樹脂として使用されることが多い環化ゴムを用いた。環化ゴムを用いて赤外線吸収膜用塗料を作製し、保護膜8の表面に塗布し、160℃3分間プレベークを行い赤外線吸収膜前段薄膜16を形成した。その後、赤外線吸収膜前段薄膜16を所定の大きさに加工するために、ガラスフォトマスクを用いて、UV露光を行ったのち、現像処理を行った。
【0049】
(比較例)
比較例として、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、赤外線吸収膜9を作製しない赤外線検知素子1を作製した。なお、赤外線検知素子1について他に変更点はない。
【0050】
(評価1)
上記実施例、変更例、および比較例で作製した赤外線検知素子において赤外線吸収膜の効果を確認するために赤外線検知素子の出力電圧の測定を行った。出力電圧を得るための回路は、
図15に示すような赤外線検知素子(THs)と参照素子(THr)を含むフルブリッジ回路を用いた。
図1および
図2に示すように、赤外線検知素子1上には赤外線吸収膜9が形成されており、赤外線を吸収して温度変化が生じ、その結果、赤外線検知素子1の抵抗値が変化する。
【0051】
一方、参照素子THrは、構造は赤外線検知素子1とほぼ同じであるが、参照素子THr上には、赤外線吸収膜9の代わりに赤外線反射膜を有する点のみ異なる。参照素子THrは赤外線が入射しても、赤外線反射膜で反射されるため、抵抗変化は低減される。これにより参照素子THrでは、入射する赤外線の影響が低減されており、実質的に周囲温度の変化に反応して抵抗変化が生じる。ある温度で同じ抵抗値を示す参照素子THsと赤外線検知素子THrを用意すれば、赤外線が入射すると抵抗に差が生じるため、その差により周囲温度に対する温度差として、赤外線量を検知できる。
【0052】
図15に示すフルブリッジ回路では、赤外線検知素子THsと参照素子THrの間に生じる抵抗差を検知することができる。フルブリッジ回路は、評価対象の赤外線検知素子THsおよび参照素子THrを使用し、さらに赤外線検知素子と参照素子とそれぞれ直列接続された外部の2つの基準抵抗素子R1、R2で構成される。基準抵抗素子R1、R2は赤外線検知素子THsおよび参照素子THrとある温度でほぼ同じ抵抗値を有する固定抵抗である。
【0053】
この赤外線検知用素子THsに比較例の赤外線検知素子1、または実施例および変形例の赤外線検知素子1を用い、出力を測定し比較した。なお、赤外線量に相当する出力電圧Pは、電圧P1と電圧P2の電圧の差すなわち差電圧で得られる。
図15で示すように、電圧P1と電圧P2はグランドの電位=0と電位P1、P2との電位差であり、電位P1と電位P2は電圧P1と電圧P2と等しい。Vccは基準電圧である。
【0054】
図16に、赤外線量の測定系外観を示す。測定方法としては、赤外線検知素子THsおよび参照素子THrを1つのパッケージ21に入れ、その温度を25℃に保ち、表面温度40℃に設定した測定対象である平面黒体22の表面から距離L=5cm離して設置した時の、平面黒体22の表面温度に対応する各サンプルの出力電圧を測定した。基準抵抗素子R1は120kΩ、基準電圧Vccは5Vであった。基準抵抗素子R2は、平面黒体22の表面温度を25℃にした時の出力電圧が0になるように調整してあらかじめ設置し、赤外線検知用素子THs、参照素子THrの抵抗値は、25℃において120kΩ±1kΩであった。結果を表1に示す。表1では、赤外線吸収膜9がない比較例の出力電圧を1として、実施例および各種変形例における出力電圧の比較を行った。
【0056】
実施例では、比較例に対して、3.7倍の出力が得られた。一方、変形例1では、カーボンナノチューブ11が赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出する飛び出し量により、出力がどのように変化するかを確認した。なお、飛び出し量のコントロールは、カーボンナノチューブ11の長さを変えることにより、コントロールした。また赤外線吸収膜9の膜厚やカーボンナノチューブ11のレジスト固形分中での含有量は約20%と、各試料において、変化がなかった。
【0057】
カーボンナノチューブ11の平均長さが2μmのとき、赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出する飛び出し量は0.2μmであった。この際、出力は比較例に対して、2.7倍であった。一方、カーボンナノチューブ11の平均長さが4μm、5μmおよび7μmのとき、赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出する飛び出し量はそれぞれ1.5μm、2.5μmおよび4.4μmであった。この際、比較例に対する出力比は2.8倍、3.4倍および3.5倍であった。カーボンナノチューブ11が赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出する飛び出し量が長くなると、赤外線吸収効果が増大することが確認された。
【0058】
変形例1において、赤外線吸収膜9の厚みは、パターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量に係わらず約2μmと一定であった。ここで、赤外線吸収膜9のパターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量の平均値が0.2μmおよび1.5μmと膜厚より小さな値の場合、比較例に対する出力比は2.7倍および2.8倍であった。一方、赤外線吸収膜9のパターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量の平均値が2.5μmおよび4.4μmと膜厚の値を超えると、比較例に対する出力比は3.4倍および3.5倍と格段に大きくなった。また、実施例においては、赤外線吸収膜9のパターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量の平均値が7.5μmであったが、比較例に対する出力比は3.7倍であった。
【0059】
パターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量が膜厚より大きくなると出力比が格段に大きくなる傾向は、赤外線吸収膜9の膜厚が2μmの場合に限らず、1μmや3μmの場合にも同様であった。この理由として考えられる事象を
図12を用いて説明する。赤外線吸収膜9のパターンエッジから飛び出しているカーボンナノチューブ11のうち、そのいくつかには、根元にパターン形成材料が付着していることが確認された。付着しているパターン形成材料は、赤外線吸収膜9のパターンエッジから膜厚程度の距離までであった。カーボンナノチューブ11にパターン形成材料が付着することにより、パターン形成材料の表面で赤外線が反射することから、カーボンナノチューブ11が完全に露出する場合に比べ、赤外線吸収量が低下することが考えられる。これにより、赤外線吸収膜9のパターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量の平均値が膜厚の値より小さいと、赤外線吸収効果が小さくなると考えられる。また、赤外線吸収膜9のパターンエッジからカーボンナノチューブ11が突出する飛び出し量の平均値が、膜厚値より大きくなると、露出するカーボンナノチューブ11の量が多くなるため、出力が格段に大きくなったと考えられる。
【0060】
次に、変形例2に関する出力について述べる。変形例2では、赤外線吸収膜用塗料の粘度を変えることによって、赤外線吸収膜9の表面状態に変化が生じた。具体的には、表1に記載のとおり、赤外線吸収膜用塗料の粘度が30mPa・s、35mPa・s、50mPa・sと変化したとき、赤外線吸収膜9の表面粗さRaは15nm、11nm、8nmとなった。赤外線吸収膜用塗料の粘度が上がると、赤外線吸収膜9のRaは小さくなることが確認された。赤外線吸収膜用塗料の粘度が上がると、含有するパターン形成材料が、カーボンナノチューブ11の形状に追従して形状を変化させにくくなるため、表面が滑らかになりRaが小さくなったと考えられる。なお、赤外線吸収膜用塗料の粘度を変えた場合、塗布条件をコントロールすることにより、赤外線吸収膜9の膜厚は一定に保った。
【0061】
このとき、比較例に対する出力比は、以下のとおりであった。赤外線吸収膜9の表面粗さRaが15nm、11nm、8nmのとき、比較例に対する出力比はそれぞれ3.5倍、3.1倍,3.0倍であった。赤外線吸収膜9の表面粗さRaが減少すると、出力比が小さくなった。これは、赤外線吸収膜9の表面に生じた凹凸により、赤外線が照射される表面積が増加するため、赤外線吸収膜9に吸収されると考えられるため、Raが大きいほうがその効果がより高いと推測される。
【0062】
実施例での結果も加味すると、Raが8nmと11nmでは出力比は3.0倍および3.1倍とほぼ一定であり、Raが15nmおよび53nmでは出力比3.5倍および3.6倍と、Raが8nmと11nmのときに比べて格段に大きくなった。カーボンナノチューブ11の平均直径である120nmのほぼ1/10を境に、それ以上のRaでは赤外線検知素子1の出力が格段に大きくなる。この、赤外線吸収膜9のRaがカーボンナノチューブの平均直径の1/10を超えると赤外線検知素子1の出力が大きくなる傾向は、カーボンナノチューブ11の平均直径が120nm以外の場合でも、確認された。
【0063】
変形例3では、赤外線吸収膜9をポストベークする際の条件を変更した。この際、実施例および変形例1と変形例2で生じた、赤外線吸収膜9の内部にある空孔20が生じなかった。赤外線吸収膜9の厚みや表面状態、カーボンナノチューブ11の含有量などに変更はなかった。この赤外線検知素子1の出力を比較例と比較したところ、出力比は3.1倍となった。
【0064】
赤外線吸収膜9が、内部に空孔20を有していると、空孔20により、赤外線吸収膜9の熱容量が小さくなる。このため、熱量である赤外線を吸収した際に、赤外線吸収膜9の温度が上昇するが、空孔20を設けることにより、上昇する温度が大きくなる。すなわち、赤外線検知素子1が、少量の赤外線にも、敏感に反応するようになると考えられる。実施例と変形例3の出力の差は、以上のことが原因と考えられる。
【0065】
変形例4は、赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出するカーボンナノチューブ11の飛び出し量は0.1nmであり、赤外線吸収膜9の表面粗さRaが8nmであり、赤外線吸収膜9の内部に空孔20がない。すなわち、赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出するカーボンナノチューブや、外線吸収膜9の表面粗さによる赤外線吸収効果がほとんど期待できず、また赤外線吸収膜9内部の空孔20により熱容量が小さくなる効果も望めない。
【0066】
このような状況でも、赤外線吸収膜9のない比較例に対しては、1.7倍の出力増加が確認された。これは、赤外線吸収膜9内に存在するカーボンナノチューブ11による、赤外線吸収効果によるものと考えられる。
【0067】
変形例5では、実施例と同じ構成の赤外線検知素子1上において、赤外線吸収膜9の形状を変えた。実施例では略正方形であった赤外線吸収膜9に対して、互いに直交する幅20μmのスリットを付加した。その結果、スリット部分にもカーボンナノチューブ11が飛び出していることが確認された。変形例5の出力比を測定したところ、比較例に対して、4.0倍の出力増加が確認された。この値は、実施例の値より大きい。スリット部分に飛び出しているカーボンナノチューブ11による赤外線吸収効果により、出力が増大したと考えられる。
【0068】
変形例6では、異なるパターン形成材料を用いて作製した赤外線吸収膜前段薄膜16について、所定の大きさに加工するために、ガラスフォトマスクを用いて、UV露光を行ったのち、現像処理を行った。表1に変形例6で記載した赤外線吸収膜9を用いて赤外線検知素子1の出力を測定した結果を示す。変形例6でも、空孔20は確認された。赤外線吸収膜用塗料の粘度、カーボンナノチューブ11のパターン端からの飛び出し量、およびお表面のRaについては、実施例と変形例6で大きな差異は確認されなかった。
【0069】
表1より、変形例6では比較例に対して3.5倍の出力増加が確認された。これに対して、実施例では、ノボラック樹脂を用いた場合、出力比は3.7倍であった。変形例6では赤外線吸収膜9の膜厚が、ノボラック樹脂を用いた実施例とほぼ同じであった。パターン形成材料をノボラック樹脂から環化ゴムに変更しても、赤外線吸収膜9によってほぼ同様の赤外線吸収効果が得られることが確認された。
【0070】
以上、赤外線吸収膜9の材料としてカーボンナノチューブ11を用いると、赤外線吸収効果が向上することが確認できた。変形例1ではカーボンナノチューブ11が赤外線吸収膜9のパターンエッジから突出することにより、その飛び出し量に応じて、赤外線吸収効果が増加することがわかった。特に、飛び出し量の平均値が、赤外線吸収膜9の膜厚より大きくなると、赤外線吸収効果が飛躍的に向上した。
【0071】
また、変形例2では赤外線吸収膜9の表面粗さが大きくなると、赤外線吸収効果が増加することが確認された。特に、赤外線吸収膜9の表面粗さRaがカーボンナノチューブ11の直径の1/10より大きくなると、赤外線吸収効果が飛躍的に向上した。
【0072】
さらには、変形例3において、赤外線吸収膜9に空孔20があると、赤外線吸収効果が増大することが確認された。また、赤外線吸収効果に寄与する赤外線吸収膜9のパターンエッジからのカーボンナノチューブの飛び出し量、赤外線吸収膜9の表面粗さ、赤外線吸収膜9中の空孔20の有無、の3つについて最適化を図った実施例においては、今回作製した実施例や変形例、比較例の中で、最も高い出力が得られることが示された。
【0073】
変形例5より、赤外線吸収膜9の内部にスリットを入れ、カーボンナノチューブ11が露出する部分を設けた方が、出力が増加することが確認された。また、変形例6より、パターン形成材料を変更しても、同程度の赤外線吸収効果が得られることが確認された。
【0074】
なお、変形例5では、スリットを互いに直交するものとしたが、これに限るものではなく、一方向のスリットでもよく、円形状のスリットを複数規則的に並べたものでもよく、形状が問われるものではない。