(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38;D21C1/00−11/14;D21D1/00−99/00;D21F1/00−13/12;D21G1/00−9/00;D21H11/00−27/42;D21J1/00−7/00
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
(繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法)
本発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法に関する。繊維強化プラスチック成形体用基材の製造方法は、強化繊維と熱可塑性樹脂と分散溶媒を含む分散液を得る工程と、分散液を抄造する工程を含む。ここで、分散液を得る工程は、少なくとも第1工程と第2工程とを含む。第1工程は、粘度が0.95mPa・s以下の分散溶媒に強化繊維を分散させ、第1の分散液を得る工程である。第2工程は、第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01mPa・s以上となるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液を得る工程である。第1工程の分散溶媒の粘度は、0.95mPa・s以下であればよい。また、第2工程の分散溶媒の粘度は、1.01mPa・s以上であればよい。
【0013】
第2工程は、第2工程Aと第2工程Bとを含むことが好ましい。ここで、第2工程Aは、第1の分散液を用いて分散溶媒粘度が1.01〜1.20mPa・sとなるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Aを得る工程である。第2工程Bは、第2の分散液Aを用いて分散溶媒粘度が1.30mPa・s以上となるように調液し、強化繊維をさらに分散させ、第2の分散液Bを得る工程である。分散液を得る工程は、第1工程と、第2工程Aと、第2工程Bをこの順で含むことが好ましい。
【0014】
ここで、各工程における分散溶媒とは、水を用いた水系分散溶媒や、アルコールなどの有機溶媒を用いた有機溶媒系の分散溶媒である。本発明では、分散溶媒として、安価で管理の容易な水系分散液を用いることが好ましい。水系分散溶媒は、少なくとも水を含む分散溶媒であり、水のみからなってもよいし、水系分散溶媒の安定性を損ねない限り、水以外の溶剤や界面活性剤等が含まれてもよい。分散溶媒に用いる水としては、通常の工業用水のほか、蒸留水や精製水などを用いることができる。この水には、必要に応じて界面活性剤が混合されうる。
【0015】
本発明で用いられる分散溶媒とは、具体的には、分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過して得られる濾液を分散溶媒という。すなわち、第1工程及び第2工程における分散溶媒の粘度とは、分散液から強化繊維、熱可塑性繊維、バインダー等の固形物を除去した液の粘度のことをいう。分散溶媒の粘度は、分散液を80meshのフィルター(フルイ)で濾過した濾液を採取し、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定される測定方法に従って測定することができる
【0016】
強化繊維は、通常12000〜48000本の束となるように、集束剤で集束されている。第1工程では、この集束した強化繊維の繊維間の結合を弱める。ここでは、強化繊維束が、1本ずつの強化繊維に分散してもよいが、一部に収束した強化繊維が残っていてもよい。
第2工程は、強化繊維を1本ずつの強化繊維となるようにさらに分散する工程であると同時に、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程でもある。第2工程が第2工程Aと第2工程Bを有する場合、第2工程Bは、1本ずつに分散した強化繊維の分散状態を維持する工程であることが好ましい。
【0017】
第1工程と第2工程は、1つの分散槽で行うこととしてもよい。第1工程と第2工程を1つの分散槽で行う場合、第1工程が完了した後に、同一の分散槽内において、所定の分散溶媒粘度となるように調液を行う。
また、第1工程と第2工程は、別個の分散槽で行うこととしてもよく、第1工程と第2工程Aを同一の分散槽で行い、第2工程Bのみを別の分散槽で行うこととしてもよく、第1工程、第2工程A及び第2工程Bの3工程全てを異なる分散槽で行ってもよい。
【0018】
図1には、第1工程と第2工程を別個の分散槽で行う場合の分散液を得る工程の概略図が示されている。分散液を得る工程では、少なくとも2つの分散工程(第1工程、第2工程)が設けられ、各工程は、各々の分散槽を用いて行われることが好ましい。例えば、
図1に示されているように、第1工程は、第1の分散槽10で行われ、第2工程は、第2の分散槽20で行われる。強化繊維を含む第1の分散液Pは、第1の分散槽10において、水を主成分とする分散溶媒に強化繊維を分散させることによって得られる。第1の分散槽10には、第1の撹拌機12が備え付けられており、第1の撹拌機12によって、強化繊維は分散される。また、第1の分散槽10には、強化繊維供給装置14が備え付けられており、第1の分散槽10に強化繊維供給装置14を通して強化繊維が投入される。第1の分散槽10には、粘剤等の添加剤が投入されてもよいが、強化繊維の分散性を高めるために粘剤は投入されないことが好ましい。
【0019】
第1の分散槽10と第2の分散槽20は流路18で連結されており、第1の分散液Pは、流路18を通って第2の分散槽20に移送される。第2の分散槽20には、第2の撹拌機22が備え付けられており、第2の撹拌機22によって、強化繊維はさらに分散され、第2の分散液Qが得られる。また、第2の分散槽20には、供給装置24が備え付けられており、第2の分散液Qが所定の粘度となるように、第2の分散槽20に粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される。なお、
図1では、流路18は第1の分散槽10の底部に連結されているが、連結部位は側部や上部のいずれであってもよい。
【0020】
本発明では、上述したように、分散工程を少なくとも2工程設け、さらに、各分散工程において、分散溶媒の粘度を特定の範囲となるように制御することにより、強化繊維の分散性を高めることができる。さらに、本発明では上記の条件で強化繊維を分散させることにより、強化繊維が再凝集することを抑制することができる。ここで強化繊維の再凝集とは、一旦分散した強化繊維が再び、凝集した凝集体となることをいう。
【0021】
第2工程では、分散槽に粘剤を添加することにより、所望の粘度とすることができる。粘剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド等を挙げることができる。中でも、ポリアクリルアミドを用いることが好ましく、重量平均分子量が1000〜2400万のポリアクリルアミドを用いることがより好ましい。また、ポリアクリルアミドはアニオン性のものが特に好ましい。
【0022】
粘剤は 粉末状のものは、予め溶解し水溶液の状態で添加することが好ましい。例えば、ポリアクリルアミドを使用する場合、0.01〜0.3質量%に予め溶解して添加することが好ましい。
【0023】
第1工程では、強化繊維を分散させる分散溶媒に、ポリアクリルアミドを添加しないことが好ましい。また。第2工程では、第1の分散液に重量平均分子量が1500〜2000万のポリアクリルアミドを4〜11ppm添加することが好ましい。
【0024】
第1工程では、粘剤が2ppm未満添加されることが好ましく、粘剤は添加されないことがより好ましい。第2工程には、重量平均分子量が1500〜2000万のポリアクリルアミドを4ppm添加されることが好ましく、6ppm以上添加されることがより好ましく、11ppm以上添加されることがさらに好ましい。また、第2工程が、第2工程A及び第2工程Bを有する場合、第2工程Aでは、重量平均分子量が1500〜2000万 のポリアクリルアミドが4〜11ppm添加されることが好ましく、6〜11ppm添加されることがさらに好ましい。第2工程Bでは、重量平均分子量が1500〜2000万のポリアクリルアミドが15〜100ppm添加されることが好ましく、20〜70ppm添加されることがより好ましく、25〜50ppm添加されることがさらに好ましい。
【0025】
なお、第2工程では、熱可塑性樹脂が第2の分散槽20に投入されてもよく、別の分散槽で分散された後に強化繊維の分散液と混合されてもよい。
【0026】
分散液を得る工程は、分散工程を少なくとも2工程設ければよく、3工程以上設けることが好ましい。すなわち、分散液を得る工程では、分散槽を2槽以上設けることが好ましく、3槽以上設けることがより好ましい。
【0027】
図2には、分散槽が3槽設けられた分散工程の概略図が示されている。
図2に示されているように、分散液を得る工程では、3つの分散工程が設けられることが好ましい。
図2に示されているように、第1工程は、第1の分散槽10で行われ、第2工程Aは、第2の分散槽20で行われ、第2工程Bは、第2の分散槽30で行われる。強化繊維を含む第1の分散液Pは、第1の分散槽10において、強化繊維を分散させることによって得られる。第1の分散槽10には、第1の撹拌機12が備え付けられており、第1の撹拌機12によって、強化繊維は分散される。また、第1の分散槽10には、強化繊維供給装置14が備え付けられており、第1の分散槽10に強化繊維供給装置14を通して強化繊維が投入される。
【0028】
第1の分散槽10と第2の分散槽20は流路18で連結されており、第1の分散液Pは、流路18を通って第2の分散槽20に移送される。第2の分散槽20には、第2の撹拌機22が備え付けられており、第2の撹拌機22によって、強化繊維はさらに分散される。また、第2の分散槽20には、供給装置24が備え付けられており、分散液Q(第2の分散液A)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒が投入される。
【0029】
第2の分散槽20と第2の分散槽30は流路28で連結されており、第2の分散液Qは、流路28を通って第2の分散槽30に移送される。第2の分散槽30には、第2の撹拌機32が備え付けられており、第2の撹拌機32によって、強化繊維はさらに分散される。また、第2の分散槽30には、供給装置34が備え付けられており、分散液R(第2の分散液B)が所定の粘度となるように、第2の分散槽20に、粘剤又は、粘剤を含む分散溶媒がさらに投入される。
【0030】
複数の分散槽では、撹拌機の回転速度を各々異なる速度とすることが好ましい。具体的には、第1工程の回転速度は200〜3600rpmであることが好ましく、300〜3300rpmであることがより好ましく、350〜3000rpmであることがさらに好ましい。第2工程の回転速度は300rpm未満であることが好ましい。さらに、第2工程Aの回転速度は、200rpm以上300rpm未満であることがより好ましく、第2工程Bの回転速度は、200rpm未満であることがさらに好ましい。
本発明では、第1工程において、短時間、速い回転速度で撹拌を行い、集束した強化繊維を水になじませ、1本1本に分散しやすい状態にする。このように分散しやすい状態となった繊維を含む第1の分散液は、第2工程に移送される。また、好ましくは、第2工程Aに移送された後に、第2工程Bに移送される。第2工程Aで繊維は1本1本に分散される。ここで、1度分散した強化繊維は再凝集しやすいという性質を持つ。特に、分散液の撹拌時間が長くなる場合に再凝集が起こりやすい。しかし、本発明では、分散工程を複数工程設け、さらに各工程で分散液の粘度を規定することにより、強化繊維の再凝集を抑制することができる。
【0031】
複数の分散槽では、撹拌羽を備える撹拌機を用いて撹拌を行う。ここで、第2工程Bで用いる撹拌羽の形状は、第1工程で用いる撹拌羽の形状及び第2工程Aで用いる撹拌羽の形状のいずれとも異なることが好ましい。同一の形状の攪拌羽を使用する場合には、第2工程A及び第2工程Bにおける回転数を下げることが好ましく、第2工程Bの回転数を第1工程及び第2工程Aよりも下げることがより好ましい。
【0032】
第1工程及び第2工程Aでは強攪拌を行い、せん断力を発生させられる攪拌羽を用いることが好ましい。このような観点から、製紙用のパルプや古紙等を離解するためのパルパーも好ましく用いることができる。また、プロペラ型やタービン型も好ましく使用することができる。
第2工程Bでは、繊維の沈降防止及び分散状態の維持のために攪拌するので、第1工程及び第2工程Aほどの強い攪拌力は不要である。一方、この工程では長時間攪拌され続けるため、ポリアクリルアミド等の分子鎖が切断されて粘性が経時で低下するという問題が生じやすい。かかる観点から、せん断力が弱いアジテータが好ましく、ダブルリボン型、スクリュー型、ゲートパドル型等が好ましく使用される。また、プロペラ型も使用することができるが、この場合は回転数を第1工程及び第2工程Aよりも低くすることが好ましい。
【0033】
各分散工程で用いられる分散槽には、さらに分散剤、バインダー成分、顔料、着色剤、填量等が添加されてもよい。
分散剤としては、一般的に使用されている界面活性剤が使用でき、ポリエーテル系、ポリエステル系、アルキルベタイン系、ステアリン酸系などを挙げることができる。
バインダー成分としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、変性ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂等が使用できる。なお、これらのバインダー成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
分散槽10には、分散液Pの全質量に対して、強化繊維を0.1〜2.0質量%となるように添加することが好ましい。また、熱可塑性樹脂は、0.1〜2.0質量%となるように添加することが好ましい。なお、強化繊維及び熱可塑性樹脂の含有率は、分散液Q及び分散液Rにおいては上記範囲内であってもよいが、より好ましくは強化繊維及び熱可塑性樹脂の含有量は各々0.1〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0035】
分散槽10における撹拌時間は、10〜300秒であることが好ましく、分散槽20における撹拌時間は、10〜300秒であることが好ましい。また、分散層30では120分以上良好な分散状態を維持できる。このため、安定して連続生産ができる。
また、全ての分散工程における撹拌時間は、10時間以内であることが好ましく、5時間以内であることが好ましい。本発明では、分散工程に2時間以上の時間を要した場合であっても、強化繊維の再凝集を起こすことがなく、強化繊維の分散性を良孔に保つことができる。
【0036】
(強化繊維)
強化繊維供給装置14は、強化繊維を分散槽10に供給する。強化繊維としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維を挙げることができる。中でも、炭素繊維は好ましく用いられる。なお、これらの無機繊維は、1種を使用してもよく、複数種を使用してもよい。さらに、本発明では、強化繊維は、このような無機繊維の他に、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
【0037】
強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、強化繊維を均一に混合することができる。また、繊維強化プラスチック成形体の生産効率を高めることができる。強化繊維を一定の長さにカットする場合には、強化繊維は集束剤によって、幅10〜100mm程度の束状にした状態でカットすることが好ましい。これにより、カット長を均一にすることができ、チョップドストランドの生産効率を高めることができる。
集束剤は、エポキシ系、PVA系等一般的なものが使用でき、好ましい添加量は強化繊維の全質量に対して2質量%以下である。
【0038】
強化繊維の繊維長は、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがさらに好ましく、50mm以上であることがよりさらに好ましい。このように本発明では、繊維長の長い強化繊維を用いることが可能であり、このような強化繊維についても分散性を高めることができる。
【0039】
強化繊維の繊維径としては、特に限定されるものではないが、3〜25μmが好ましい。強化繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、製造工程あるいは使用中に人体に取り込まれることを防ぐことができ、かつ十分な強度を得ることが可能となる。
【0040】
強化繊維が炭素繊維の場合、炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
【0041】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、繊維強化プラスチック成形体用基材の加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を成形するものである。
【0042】
熱可塑性樹脂は、繊維状であることが好ましい。この熱可塑性樹脂繊維は、繊維強化プラスチック成形体用基材に加熱加圧処理が行われるまでは繊維形態を維持しており、これにより基材中には空隙が存在することが好ましい。このような繊維強化プラスチック成形体用基材は、しなやかでドレープ性を有しており、巻き取り形態での保管・輸送が可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアミド、ポリプロピレン等を例示することができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、これら熱可塑性樹脂の中でも、高強度の繊維強化プラスチック成形体を得るために、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレンを用いることが好ましい。さらに、熱可塑性樹脂は繊維であることが好ましく、繊維分散性が良好なポリカーボネート繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリプロピレン繊維を用いることが好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂が繊維の場合、熱可塑性繊維の繊維長は、2〜100mmであることが好ましく、5〜50mmであることがより好ましく、10〜25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材から熱可塑性繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、曲げ強度と耐衝撃性に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
熱可塑性繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。熱可塑性繊維は、このような形態であることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材中に均一に混合することができる。また、繊維の断面形状は円形に限定されず、楕円形等、異形断面のものも使用できる。
【0045】
(繊維強化プラスチック成形体用基材)
上記のような製造方法で製造された繊維強化プラスチック成形体用基材においては、強化繊維が均一に分散している。また、上記のような製造方法を用いた場合、分散工程において強化繊維が良好に分散され、かつ分散状態が維持されているため、繊維強化プラスチック成形体用基材に強化繊維を均一に分散させることができる。このため、このような繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体は優れた強度を有する。
【0046】
本発明の製造方法で得られる繊維強化プラスチック成形体用基材には、強化繊維の繊維長が10mm以上、好ましくは50mm以上の繊維を含有させることができる。このような繊維長を有する強化繊維を含有させることにより、繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体の強度をより高めることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0048】
(実施例1)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した(第1工程)。
【0049】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)1kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、プロペラ型アジテータの回転数を250rpmとして攪拌を続けた(第2工程)。そして、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m
2の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0050】
(実施例2)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌し、攪拌を停止した(第1工程)。
【0051】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)0.96kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、プロペラ型アジテータの回転数を250rpmで20秒攪拌した(第2工程A)。
【0052】
その後、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を4kg添加し、回転数を100rpmでの攪拌を続けながら(第2工程B)、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m
2の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0053】
(実施例3)
プロペラ型アジテータを備えた古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を2.5kg投入した。さらに、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を2.5kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した(第1工程)。
【0054】
次いで、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を1.0kg投入し、60秒間攪拌した(第2工程A)。そして、パルパー内の分散液を全て、プロペラ型アジテータを有する2800Lの容器に移送した。
【0055】
上述した第1工程及び第2工程Aとは別に、上記の古紙離解用パルパーに再度500Lの水を投入し、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)2.4kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.1kgを投入した。そして、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を2.5kg添加し、プロペラ型アジテータの回転数を600rpmとし90秒間攪拌した。そして、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液をパルパーに1.0kg投入し、60秒間攪拌した。その後、このポリカーボネート繊維等を含む分散液を、上記のプロペラ型アジテータを有する2800Lの容器に移送した。この時点で2800L容器には炭素繊維及びポリアクリルアミド系粘剤の分散液と、ポリカーボネート繊維及びPVA繊維の分散液が投入されている状態である。
次に、この2800Lの容器に水を加えて2500Lとして、分散液固形分濃度0.2質量%の分散液を得た。
【0056】
さらに、得られた分散液にポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を40kg添加し、回転数300rpmでの攪拌を続けながら(第2工程B)、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m
2の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0057】
(実施例4)
実施例3における第2工程2Bで用いたアジテータをパドル型に変更した以外は、実施例3と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0058】
(比較例1)
ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー社製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を添加しない以外は、実施例1と同様に繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0059】
(比較例2)
古紙離解用パルパー(相川鉄工社製、容量600L)に500Lの水を投入し、繊維長12mmの炭素繊維(台湾プラスチック社製 CS815)を1.0kg投入した。次いで、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)の0.5%水溶液を1kg添加し、ポリアクリルアミド系粘剤(MTアクアポリマー製 FA−40、重量平均分子量1700万)の0.2%溶液を2.5kg投入した。その後、90秒間600rpmで攪拌し、攪拌を停止した。
更に、ポリカーボネート繊維(ダイワボウポリテック社製、繊維径30μ、繊維長15mm)0.96kgと、バインダーであるPVA繊維(クラレ社製 VPB105-2)0.04kgを予め60Lの水に漬けたものを、パルパーに投入した。そして、回転数を100rpmで20分攪拌した。
その後、粘剤を添加せずに、回転数を100rpmでの攪拌を続けながら、10分経過時、60分経過時及び120分経過時に、それぞれこの繊維分散液を5.5L/minの速度で傾斜ワイヤー型抄紙機に供給し、幅50cm、坪量22g/m
2の繊維強化プラスチック成形体用基材を得た。
【0060】
(粘度測定)
各工程における分散溶媒の粘度測定は、以下のように行った。
まず、各工程における分散液を500g採取し、80メッシュのフルイで濾過し、濾液を採取した。次にこの濾液の粘度を、JIS−Z8803:2011液体の粘度測定方法に準拠して、キャノン・フェンスケ粘度計にて測定した。
【0061】
(スラリー濃度)
各工程におけるスラリー濃度は、分散液中の繊維分の濃度である。具体的には、分散液中に含まれる固形分(強化繊維、熱可塑性繊維、バインダー繊維等)の合計の濃度をスラリー濃度とした。
スラリー濃度(質量%)=固形分の乾燥質量/分散液の質量×100
【0062】
(評価)
各撹拌時間の分散液を用いて形成された繊維強化プラスチック成形体用基材の、10cm角中に存在する幅0.5mm以上の繊維束を目視でカウントした。繊維束の幅とは、繊維束の長さ方向を除く2つの長さ(幅方向及び厚み方向の長さ)のうち、長い方(同じ場合は任意の1つの長さ)の長さとする。
A:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が0個〜10個含まれるもの
B:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が11個〜80個含まれるもの
C:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が81個〜150個含まれるもの
D:基材中に、幅0.5mm以上の繊維束が151個以上含まれるもの
表1に評価結果を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、各分散工程においてそれぞれ所定の粘度に調整することで、炭素繊維が良好に分散され、炭素繊維の凝集が防止され、炭素繊維が良好に分散された分散液を得ることができる。また、分散開始後に長時間経過した分散液においても、炭素繊維の分散状態が良好に維持されていることがわかる。このような分散液を用いて抄紙すると、炭素繊維が均一に分散した繊維強化プラスチック成形体用基材を得ることができる。この繊維強化プラスチック成形体用基材を加熱加圧すると、強度と外観に優れた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。