(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における半導体装置10の構成を模式的に示す断面図である。半導体装置10は、トレンチゲート構造を有する窒化ガリウム(GaN)系の縦型MISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。半導体装置10は、例えば、電力制御に用いられ、パワーデバイスとも呼ばれる。
【0022】
半導体装置10は、トレンチ250と、ゲート電極100と、ソース電極143と、p−body電極144と、ドレイン電極(裏面電極)150と、絶縁体層110と、n+型半導体層(n+GaN)121と、p型半導体層(pGaN)122と、n型半導体層(nGaN)123と、GaN系の基板124と、を備えている。
【0023】
n型半導体層123は、基板124上に形成されている。p型半導体層122は、n型半導体層123上に形成されている。n+型半導体層121は、p型半導体層122上に形成されている。本実施形態において、トレンチ250は、特許請求の範囲における「溝部」に相当する。ゲート電極100は、特許請求の範囲における「電極」に相当する。以下では、n+型半導体層121と、p型半導体層122と、n型半導体層123とをまとめて「半導体層120」ともいう。この半導体層120が、特許請求の範囲における「半導体層」に相当する。
【0024】
トレンチ250は、n+型半導体層121の上面(表面)から、p型半導体層122を経て、n型半導体層123まで達する溝部である。トレンチ250は、その幅方向(
図1の左右方向)に沿った断面(横断面)が矩形状である。つまり、トレンチ250のテーパ角αは、略90°である。トレンチ250のテーパ角αとは、トレンチ250の側壁面251と、トレンチ250の底面252を延長した水平面253とのなす角である。本実施形態では、トレンチ250の幅は、1μm以下である。また、トレンチ250の深さは、幅の1〜3倍である。つまり、トレンチ250の幅に対する深さの比(アスペクト比)は、1以上3以下である。
【0025】
絶縁体層110は、n+型半導体層121の上面およびトレンチ250の内面に沿って略一定の厚みに形成された酸化シリコン(SiO
2)の層である。
【0026】
ゲート電極100は、トレンチ250内に絶縁体層110を介して形成された電極である。本実施形態では、ゲート電極100は、電気抵抗の低いアルミニウムを主成分として形成されている。ゲート電極100は、トレンチ250内に先細り状に落ち込むテーパ状の窪み103を有する。つまり、トレンチ250の内面に沿って形成されたゲート電極100の厚みは、窪み103の最上部に位置する開口部101から、窪みの底面102に向かうほど、漸増している。窪み103の底面102の幅W1は、窪み103の開口部101の幅W2よりも狭い。つまり、窪み103の底面102の幅W1に対する窪み103の開口部101の幅W2の比は、以下の式(1)によって表される。
【0028】
ソース電極143は、厚さ方向(図の上下方向)において、n+半導体層121に接して配置されている。p−body電極144は、厚さ方向において、p型半導体層122に接して配置されている。ドレイン電極150は、基板124の下面(n型半導体層123と接する面と反対の面)に接して配置されている。
【0029】
以上で説明した第1実施形態では、ゲート電極100が有する窪み103の開口部101が、窪み103の底面102よりも広く形成されている。そのため、配線工程においてゲート電極100に厚膜電極を埋め込む際に、トレンチ250(窪み103)内に空隙が生じることが抑制される。この結果、トレンチ250内に、半導体装置10の製造時に用いられる薬品やガスが残留してしまうことが抑制されるので、品質の高い半導体装置10を製造することができる。更に、本実施形態では、トレンチ250の断面が矩形状であるため、チャネル長を短くすることができる。よって、半導体装置10の電気的特性を向上させることができる。また、本実施形態では、トレンチ250の断面が矩形状であるため、半導体装置10の微細化を図ることが可能である。つまり、本実施形態によれば、ゲート電極100が有する窪み103の開口部101を、窪み103の底面102よりも広く形成することで、半導体装置10の電気的特性や微細化に影響を与えることなく、配線工程においてトレンチ250内に空隙が発生することを抑制することができる。
【0030】
B.第2実施形態:
上記第1実施形態では、縦型MISFETの構成について説明した。これに対して、第2実施形態では、横型MISFETの構成について説明する。
【0031】
図2は、第2実施形態における半導体装置10aの構成を模式的に示す断面図である。半導体装置10aは、トレンチ250aと、ゲート電極100aと、ドレイン電極145と、ソース電極146と、絶縁体層110aと、バリア層(AlGaN)126と、n型半導体層(nGaN)127と、バッファ層128(GaN/AlN)と、基板151と、を備えている。基板151としては、例えば、Si基板が用いられる。
【0032】
バッファ層128は、基板151上に形成されている。n型半導体層127は、バッファ層128上に形成されている。バリア層126は、n型半導体層127上に形成されている。n型半導体層127において、バリア層126との境界付近には、二次元電子ガス129が形成されている。以下では、n型半導体層127とバリア層126とをまとめて「半導体層120a」ともいう。この半導体層120aが、特許請求の範囲における「半導体層」に相当する。
【0033】
トレンチ250aは、バリア層126の上面(表面)から、n型半導体層127に達する溝部である。トレンチ250aの構造は、
図1に示した第1実施形態におけるトレンチ250と同じである。つまり、トレンチ250aは、半導体層120aの上面または下面に垂直な方向(図の上下方向)に沿った断面が矩形状であり、トレンチ250のテーパ角αは、略90°である。
【0034】
絶縁体層110aは、バリア層126の上面およびトレンチ250aの内面に沿って略一定の厚みに形成された酸化シリコンの層である。
【0035】
ゲート電極100aは、トレンチ250内に、絶縁体層110を介して形成されている。ゲート電極100aの構造は、
図1に示した第1実施形態におけるゲート電極100と同じである。ドレイン電極145とソース電極146とは、いずれもバリア層126に接して配置されている。
【0036】
以上で説明した第2実施形態の半導体装置10aは、第1実施形態におけるゲート電極100と同じ構造のゲート電極100aを備えている。そのため、第2実施形態の半導体装置10aは、第1実施形態の半導体装置10と同様の効果を奏する。
【0037】
C.製造方法:
図3は、第1実施形態の半導体装置10の製造方法を示すフローチャートである。半導体装置10の製造にあたっては、まず、トレンチ250が形成された半導体層120が用意される(ステップS10)。ここで用意された半導体層120の上面およびトレンチ250の内面には、ALD(Atomic Layer Deposition)成膜方法によって、略一定の厚みの絶縁体層110が形成されている。なお、半導体層120の製造方法、トレンチ250の形成方法、および、ソース電極等のゲート電極以外の電極の形成方法、については周知であるため、説明を省略する。
【0038】
続いて、トレンチ250内に、RFバイアススパッタ法によって、ゲート電極100が形成され(ステップS20)、加熱処理等が行われて半導体装置10が完成する。ステップS20のRFバイアススパッタ法は、アルゴン雰囲気において行われ、ターゲットとして、アルミニウムを放出可能な金属が用いられる。また、半導体装置10が載置されるステージには、ターゲットへ印加する電力の2〜10%の電力(バイアス電力)が印加される。このような条件によって、RFバイアススパッタを行うことにより、上述した式(1)の条件((W2/W1)>1)を満たす形状のゲート電極100を確実かつ効率的に形成することができる。RFバイアススパッタ法によって、このような形状が形成できるのは、RFバイアススパッタ法では、加速されたイオンが、ターゲットだけではなく、ステージ側に載置された半導体層120にも衝突するため、半導体層120の上面やトレンチ250の底面へのアルミニウムの成膜が遅れる。しかし、その一方で、トレンチ250内の内壁面には、徐々にアルミニウムがテーパ状に堆積していくからである。
【0039】
図4は、RFバイアススパッタ法におけるバイアス電力の範囲を決定するための実験結果を示す図である。この実験では、深さが1μm、幅が2μmのトレンチ250に対して、ALD成膜方法によってSiO
2の絶縁体層110を形成し、その後、RFバイアススパッタ法によって、半導体層120の上面における厚みが500nmになるように、アルミニウムのゲート電極100を種々のバイアス電力において成膜した。具体的には、0W、10W、25W、50W、100Wのバイアス電力によって、成膜を行った。ターゲットに対しては一律に500Wの電力を印加した。
【0040】
図4には、それぞれのバイアス電力に対する、(W2/W1)の値と、成膜速度とを示している。なお、
図4には、それぞれのバイアス電力を、ターゲットへの印加電力に対する割合(%)として表している。この実験結果に示すように、バイアス電力が0%の場合には、(W2/W1)の値が1よりも小さくなった。つまり、窪み103の開口部101が、底面102よりも狭くなった。これに対して、バイアス電力が2%以上であれば、(W2/W1)の値が1よりも大きくなり、窪み103の開口部101が、底面102よりも広くなった。ここで、(W2/W1)の値は、2程度有れば、厚膜電極形成時に窪み103内に空隙が発生することを十分に抑制することが可能である。また、ゲート電極100の成膜速度は、できるだけ速い方が好ましい。よって、
図4に示した実験結果に基づいて、ステージに印加するバイアス電力は、ターゲットへ印加する電力の2〜10%の範囲とした。なお、厚膜電極形成時に空隙が窪み103内に形成されないようにするため、(W2/W1)の値は、1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0041】
以上、第1実施形態の半導体装置10の製造方法について説明したが、この製造方法におけるゲート電極100の形成方法は、そのまま、第2実施形態のゲート電極100aを形成する方法としても用いることが可能である。
【0042】
D.ゲート電極の他の形態:
上述した第1実施形態の半導体装置10では、ゲート電極100が、アルミニウムのみによって形成されている。これに対して、ゲート電極100は、複数種類の金属を用いた多層構造として形成することが可能である。
【0043】
図5は、ゲート電極の他の形態を示す図である。
図5に示したゲート電極100cは、主成分層としてアルミニウム層113を有しており、アルミニウム層113と絶縁体層110との間に、バリア層としての第1の窒化チタン層112を有している。また、ゲート電極100cは、アルミニウム層113の第1の窒化チタン層112とは逆側の面に、第2の窒化チタン層114を有している。つまり、ゲート電極100cは、第1の窒化チタン層112と、アルミニウム層113と、第2の窒化チタン層114とによって構成されている。
【0044】
このような形態のゲート電極100cであれば、アルミニウム層113と絶縁体層110との間に、第1の窒化チタン層112が形成されているので、ゲート電極100cの主成分であるアルミニウムが絶縁体層110に拡散することを抑制することができる。そのため、絶縁体層110の絶縁性能が低下してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0045】
ゲート電極100cは、第1の窒化チタン層112、アルミニウム層113、第2の窒化チタン層114の順で、連続成膜を行うことにより形成することができる。これらのうち、アルミニウム層113が、第1実施形態におけるゲート電極100と同じ構造であり、第1の窒化チタン層112と第2の窒化チタン層114とは、それぞれ、略一定の厚みに形成されている。なお、第2の窒化チタン層114は、省略することも可能である。
【0046】
トレンチ250の内面に沿って形成されたアルミニウム層113と第1の窒化チタン層112との厚みの比は、どの部分で測定しても、3:1から12:1の範囲内であることが好ましい。厚みの比をこのような範囲の値とすることにより、ゲート電極100cの製造時における加熱に起因して、電極表面にボイドやヒロックが発生することを抑制することができる。ボイドとは、アルミニウムが広がることにより生じる凹状の変形のことをいい、ヒロックとは、アルミニウムが凝集することにより生じる凸状の変形のことをいう。以下、これらの数値(3:1〜12:1)の根拠を実験結果に基づいて説明する。
【0047】
図6は、実験に用いる電極の試料の構造を模式的に示す断面図である。この電極100zは、
図5に示したゲート電極100cと同様に、第1の窒化チタン層112zと、アルミニウム層113zと、第2の窒化チタン層114zとが、この順序で積層された構造を有する。
【0048】
図7は、
図6に示した電極100zの製造方法を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、絶縁体層110z上に、第1の窒化チタン層112zと、アルミニウム層113zと、第2の窒化チタン層114zとを、この順序で連続成膜する(ステップS110)。次に、第2の窒化チタン層114z上にレジストパターンを形成し(ステップS115)、ドライエッチングにより電極積層体を形成する(ステップS120)。なお、ステップS110〜S120に代えて、まずレジストパターンを形成し、次に電極材を蒸着させ、その後リフトオフプロセスを行うことにより、電極積層体を形成してもよい。
【0049】
続いて、電極積層体が加熱され(ステップS125)、電極100zは完成する。本実施形態では、ステップS125における加熱は、摂氏300度以上、より好ましくは、摂氏350度以上の温度条件で実行される。かかる加熱は、例えば、ランプや、レーザーや、炉心管型熱処理装置など、任意の加熱装置を用いて実行することができる。前述の「温度条件」とは、加熱がランプを用いて実行される場合には、加熱対象物が配置されるチャンバ内の温度を意味する。ステップS125の処理(加熱処理)は、電極100を用いて構成される半導体装置の動作安定性を向上させることを目的の一つとしている。
【0050】
図8は、窒化チタン層の厚みに関する第1の実験の結果を示す図である。この実験では、まず、
図7に示した製造方法に基づき、7種類の電極の試料(後述の試料s2、s3、s4、s5、s6、s7およびs8)を製造した。また、比較例として、1種類の電極の試料(後述の試料s1)を製造した。
図7におけるステップS125では、いずれの試料も、窒素雰囲気下で摂氏400度に保ち、30分ほど加熱された。そして、製造後の各試料s1〜s8の外表面(第2の窒化チタン層114zにおいてアルミニウム層113zと接する面とは反対の面)を、光学顕微鏡で観察し、ボイドおよびヒロックの発生の有無を確認した。
【0051】
図8には、各試料s1〜s8の外表面の観察結果を示している。
図8では、観察結果(ボイドまたはヒロックの有無)に加えて、各試料s1〜s8について、第2の窒化チタン層114zの厚みと、アルミニウム層113zの厚みと、第1の窒化チタン層112zの厚みと、第1の窒化チタン層112zの厚みに対するアルミニウム層113zの厚みの割合(以下、「厚み割合」と呼ぶ)と、第1の窒化チタン層112zの厚みと第2の窒化チタン層114zの厚みとの合計の厚みに対するアルミニウム層113zの厚みの割合(以下、「合計厚み割合」と呼ぶ)と、を示している。観察結果における「×」は、ボイドまたはヒロックが発生したことを示している。これに対して、観察結果における「○」は、ボイドおよびヒロックのいずれも発生しなかったことを示している。
【0052】
図8に示すように、各試料s1〜s8は、第1の窒化チタン層112zの厚みと、アルミニウム層113zの厚みと、第2の窒化チタン層114zの厚みとの組み合わせが、互いに異なる。7つの試料s2〜s8の厚み割合は、いずれも3.00以上かつ12.00以下であった。これに対して、比較例の試料s1の厚み割合は、12.00よりも大きかった。なお、前述の厚みの組み合わせを除く、他の特徴(構造や製造方法)は、各試料s1〜s8において共通していた。
【0053】
図8に示すように、厚み割合が3.00以下である試料s7およびs8では、ボイドまたはヒロック(正確には、ボイド)が発生した。これは、以下の理由によるものと推測される。前述のステップS125における加熱により、アルミニウム層113zは、全体的に収縮する、いわゆる焼き締まりが起ころうとする。これに対して、第1の窒化チタン層112zの融点は、アルミニウム層113zの融点に比べて高いため、アルミニウム層113zと比べて収縮しない(焼き締まりが発生し難い)。このため、アルミニウム層113zの厚みに対する第1の窒化チタン層112zの厚みの相対的な大きさが大きい場合、換言すると、厚み割合が比較的低い場合には、アルミニウム層113zの収縮が第1の窒化チタン層112zによって阻害され、アルミニウム層113zの表面のところどころに凹状の変形(ボイド)が生じる。したがって、アルミニウム層113zと接する第2の窒化チタン層114zの表面にも、同様な変形(ボイド)が発生したものと推測される。
【0054】
また、
図8に示すように、厚み割合が12.00以上である試料s1およびs2では、ボイドまたはヒロック(正確には、ヒロック)が発生した。これは以下の理由によるものと推測される。試料s1およびs2のように、アルミニウム層113zの厚みに対する第1の窒化チタン層112zの厚みの相対的な大きさが小さい場合、換言すると、厚み割合が比較的高い場合には、アルミニウム層113zの収縮が第1の窒化チタン層112zによって阻害される可能性が低くなる。このため、アルミニウム層113zの収縮に伴い、アルミニウム層113zの表面のところどころに凸状に変形した箇所(ヒロック)が生じ、アルミニウム層113zと接する第2の窒化チタン層114zの表面にも、同様な変形(ヒロック)が発生したものと推測される。
【0055】
ここで、試料s4と試料s8とを比較すると、互いに合計厚み割合は「2.00」で同じであり、また、アルミニウム層113zの厚みも「300ナノメートル」で同じである。しかしながら、試料s4ではボイドおよびヒロックの発生は無く、試料s8ではボイドの発生が認められた。この結果から、第1の窒化チタン層112zの厚みと第2の窒化チタン層114zの厚みとのうち、ボイドおよびヒロックの発生に関係する厚みは、第1の窒化チタン層112zの厚みであることが理解できる。これは、第1の窒化チタン層112zは、アルミニウム層113zと接する面とは反対側の面において、絶縁体層110と接しているため、アルミニウム層113zの収縮に抗い易い。これに対して、第2の窒化チタン層114zは、アルミニウム層113zと接する面とは反対側の面は開放されている。このため、アルミニウム層113zの収縮に抗い難い。したがって、第1の窒化チタン層112zの厚みが、ボイドおよびヒロックの発生に大きく影響しているものと推測される。
【0056】
上述した試料s2および試料s7であっても、ステップS125における加熱条件次第では、ボイドおよびヒロックの発生が抑制され得る。この点について、以下、説明する。
【0057】
図9は、窒化チタン層の厚みに関する第2の実験の結果を示す図である。この実験では、まず、
図7に示した製造方法によって、5種類の電極の試料(後述の試料s9、s10、s11、s12およびs13)を製造した。これらの5種類の電極の試料は、互いに厚み割合が異なる。具体的には、試料s9の厚み割合は、3.00であった。また、試料s10の厚み割合は4.00であり、試料s11の厚み割合は6.00であり、試料s12の厚み割合は8.57であり、試料s13の厚み割合は12.00であった。
【0058】
なお、各種類の試料s9〜s13の第1の窒化チタン層112zの厚み、アルミニウム層113zの厚み、および、第2の窒化チタン層114zの厚みは、以下に示す関係のように、
図8に示した各試料(試料s7、s6、s4、s3およびs2)の第1の窒化チタン層112zの厚み、アルミニウム層113zの厚み、および、第2の窒化チタン層114zの厚みと同じであった。
試料s9・・・
図8の試料s7
試料s10・・・
図8の試料s6
試料s11・・・
図8の試料s4
試料s12・・・
図8の試料s3
試料s13・・・
図8の試料s2
【0059】
各種類の試料s9〜s13について、それぞれ5つずつ試料を製造した。各種類において、5つの試料は、互いにステップS125における温度条件が異なり、他の製造手順および構成は、互いに同じであった。具体的には、各種類の試料s9〜s13について、それぞれ、摂氏300度で加熱した試料と、摂氏350度で加熱した試料と、摂氏400度で加熱した試料と、摂氏450度で加熱した試料と、摂氏500度で加熱した試料とを製造した。そして、製造された合計25個の試料の外表面を光学顕微鏡で観察し、ボイドおよびヒロックの発生の有無を確認した。
【0060】
図9には、この実験において、各試料s9〜s13の外表面を観察した結果を示している。
図9では、観察結果(ボイドおよびヒロックの有無)に加えて、各試料s9〜s13について、厚み割合を示している。
【0061】
図9に示すように、ステップS125における加熱温度が摂氏300度の場合には、いずれの試料s9〜s13においても、ボイドまたはヒロックの発生は無かった。これは、加熱温度が比較的低温であったため、アルミニウム層113zの収縮が抑制されたためであると推測される。
【0062】
ステップS125における加熱温度が摂氏350度以上かつ摂氏450度以下の場合には、試料s9においてボイドが発生し、試料s13においてヒロックが発生した。このように、厚み割合が低い試料s9においてボイドが発生し、また、厚み割合が比較的高い試料s13においてヒロックが発生した理由は、第1の実験(
図8)において説明したボイドおよびヒロックの発生理由と同様であると推測される。
【0063】
ステップS125における加熱温度が摂氏500度の場合には、試料s11を除く他の試料s9、s10、s12およびs13において、ボイドまたはヒロックが発生した。このように、厚み割合が低い試料s9およびs10と、厚み割合が比較的高い試料s12およびs13とでボイドまたはヒロックが発生した理由は、第1の実験(
図8)において説明したボイドおよびヒロックの発生理由と同様であると推測される。
【0064】
ここで、ステップS125における加熱温度が高いほど、半導体装置の動作安定性を向上する効果が大きいため、
図9に示す観察結果から、厚み割合は、4.00以上かつ8.57以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、ステップS125における加熱温度を摂氏350度以上かつ摂氏450度以下に設定できると共に、電極100zの外表面におけるボイドまたはヒロックの発生を抑制できる。
【0065】
以上説明した第1の実験の結果(
図8)および第2の実験の結果(
図9)より、第1の窒化チタン層112zの厚みに対するアルミニウム層113zの厚みの割合(厚み割合)を3.00以上かつ12.00以下とすることにより、電極100zの表面(開放された側の面)におけるボイドまたはヒロックの発生を抑制できることが確認された。また、厚み割合を4.00以上かつ8.57以下とすることにより、ステップS125における加熱温度を摂氏350度以上かつ摂氏450度以下としても、ボイドまたはヒロックの発生を抑制できることが確認された。よって、
図5に示したゲート電極100cについても、第1の窒化チタン層112の厚みに対するアルミニウム層113の厚みの割合は、トレンチ250内のどの部分で測定しても、3.00以上かつ12.00以下であることが好ましく、4.00以上かつ8.57以下であることがより好ましい。
【0066】
E.変形例:
E1.第1変形例:
図10は、第1変形例におけるゲート電極の構成を模式的に示す断面図である。本変形例のゲート電極100dは、第1の窒化チタン層112と絶縁体層110との間に、密着層として、略一定の厚みのチタン層111を備えている点において、
図5に示したゲート電極100cの構成と異なり、他の構成は同じである。
【0067】
チタン層111は、第1の窒化チタン層112と絶縁体層110との間において、第1の窒化チタン層112に接して配置されている。このチタン層111によって、第1の窒化チタン層112と絶縁体層110との密着性が効果的に向上する。なお、チタン層111の厚みは、数nm〜十数nm程度であり、第1の窒化チタン層112の厚みに比べて非常に小さい。したがって、チタン層111が追加されることによる、アルミニウム層113の収縮を防ぐ効果への影響は小さい。なお、本変形例において、第2の窒化チタン層114は、省略することも可能である。
【0068】
密着層としては、チタン以外にも、例えば、クロム(Cr)を用いることが可能である。また、密着層(チタン層111)は、絶縁体層110と第1の窒化チタン層112との間に限らず、第1の窒化チタン層112とアルミニウム層113との間や、第2の窒化チタン層114とアルミニウム層113との間、第2の窒化チタン層114のアルミニウム層113とは逆側の面上、に形成してもよい。このように、様々な層間に密着層を配置することにより、各層間の密着性を向上させることができる。
【0069】
E2.第2変形例:
図11は、第2変形例における半導体装置10bの構成を模式的に示す断面図である。半導体装置10bは、第1実施形態における半導体装置10に加えて、更に、トレンチを用いた終端構造を有する。終端構造として形成されたトレンチ250bは、半導体装置10のトレンチ250と同じ構造であり、トレンチ250b内には、絶縁体層110を介して電極100bが形成されている。電極100bは、第1実施形態におけるゲート電極100と同じ構造であり、テーパ状の窪み103bを備えている。
【0070】
このように、第1実施形態のゲート電極100の構造を、そのまま、終端構造に適用すれば、第1実施形態のゲート電極100と同様に、電極100bの窪み103b内に空隙が生じることが抑制されるので、品質の高い半導体装置10を製造することができる。また、トレンチ250bの断面は矩形状であるため、半導体装置の微細化を図ることができる。そのほか、本変形例では、終端構造に電極100bが形成されているため、電極100bをフィールドプレートとして用いることで、電界を緩和することができる。また、電極100bを高周波回路においてガード電極として用いることで、ノイズの発生を低減することができる。その他、電極100bを、半導体装置10において発生した熱を外部に逃す経路として用いることで、放熱を行うことができる。
【0071】
E3.第3変形例:
図12は、第3変形例における半導体装置10cの構成を模式的に示す断面図である。本変形例の半導体装置10cは、ショットキーバリアダイオードとして構成されている。半導体装置10cは、トレンチ250cと、ショットキー電極100fと、オーミック電極160と、n型半導体層161と、p型半導体162と、絶縁体層163と、n−型半導体基板164と、を備えている。
【0072】
n型半導体層161は、基板164上に形成されている。基板164の下面には、n型半導体層161にオーミック接触するオーミック電極160が形成されている。オーミック電極160は、例えば、Ti/Alにより形成され、このうち、Tiが半導体と接する。n型半導体層161には、その上面から複数のトレンチ250cが形成されている。それぞれのトレンチ250cの構造は、第1実施形態のトレンチ250と同じである。トレンチ250cの内面には、それぞれ、p型半導体162が形成されている。n型半導体層161の上面の、トレンチ250cが形成されている領域を除いた領域には、酸化シリコンや窒化シリコンによって絶縁体層163が形成されている。ショットキー電極100fは、n型半導体層161にショットキー接合する電極であり、n型半導体層161の上面と、トレンチ250c内に形成されたp型半導体162の表面と、絶縁体層163の上面と、に亘って形成されている。ショットキー電極100fは、例えば、Ni、Pt、Pdなどにより形成される。ショットキー電極100fのトレンチ250c内における構造は、第1実施形態のゲート電極100の構造と同じである。ショットキー電極100fの上面には、配線工程においてコンタクト用の厚膜電極が形成される。
【0073】
以上で説明した第3変形例おいても、ショットキー電極100fの構造は第1実施形態におけるゲート電極100の構造と同じである。そのため、第3変形例の半導体装置10cについても、第1実施形態の半導体装置10と同様の効果を奏する。なお、
図12には、トレンチ250cが3つ形成されている例を示しているが、トレンチ250cの数は3つに限られず、任意である。
【0074】
E4.第4変形例:
上述した各実施形態における電極の材料(アルミニウム)は一例であり、他の材料を用いることも可能である。例えば、アルミニウム合金によって電極を形成してもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al−Si合金や、Al−Cu合金を用いることができる。また、電極は、銅(Cu)や銀(Ag)、によって形成してもよいし、アルミニウム、銅、銀のうちの1種以上を含む合金によって形成してもよい。
【0075】
E5.第5変形例:
上述した各実施形態におけるバリア層の材料(窒化チタン)は一例であり、他の材料を用いることも可能である、例えば、金属窒化物である窒化タンタル(TaN)や、窒化タングステン(WN)によってバリア層を形成してもよいし、金属炭化物である炭化チタン(TiC)や、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)によってバリア層を形成してもよい。
【0076】
E6.第6変形例:
上述した各実施形態における半導体層の材料(窒化ガリウム)は一例であり、他の材料を用いることも可能である。例えば、シリコン(Si)や、炭化ケイ素(SiC)、酸化亜鉛(ZnO)、ヒ化ガリウム(GaAs)等によって半導体層を形成してもよい。
【0077】
E7.第7変形例:
上述した各実施形態における絶縁体層の材料(酸化シリコン)は一例であり、他の材料を用いることも可能である。例えば、Si
3N
4、HfO
2、ZrO
2、La
2O
3、Al
2O
3などの高誘電率絶縁体によって絶縁体層を形成してもよい。あるいは、これらの酸窒化物によって絶縁体層を形成してもよい。
【0078】
E8.第8変形例:
上述した各実施形態では、トレンチのテーパ角αは、略90°としている。この「略90°」の範囲には、84°以上90°以下の範囲が含まれてもよい。下限値を84°としたのは、例えば、深さが1μmのトレンチ250において、オーバハングが0.1μm発生した場合に、テーパ角αが84°以上であると、オーバハングが生じている開口部の幅よりもトレンチ250の底部の幅が広くなる。そのため、上述した各実施形態の電極の構造を採用しない場合には、トレンチ250内に空隙が発生する可能性があるからである。
【0079】
F.配線工程における厚膜電極の形成方法:
以下では、上述した実施形態や変形例で示したゲート電極100(
図1),100a(
図2),100c(
図5),100d(
図10)、電極100b(
図11)、および、ショットキー電極100f(
図12)上に、厚膜電極を形成する方法について説明する。厚膜電極は、コンタクト用の電極であり、ワイヤボンディング等が行われる電極である。ゲート電極100,100a,100c,100d、電極100b、および、ショットキー電極100f上に、厚膜電極を形成する方法は、すべて共通であるため、以下では、代表して、第1実施形態のゲート電極100に対して厚膜電極を形成する方法を説明する。厚膜電極の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、これらのうちの1種以上含む合金などを用いることが可能である。また、厚膜電極の厚みは、0.5〜4.0μmである。厚膜電極300の厚みは、ワイヤボンディングの接合強度等に応じて決定される。
【0080】
F1.第1の厚膜電極形成方法:
図13は、第1の厚膜電極形成方法を示す説明図である。この第1の厚膜電極形成方法では、
図3のステップS20において、トレンチ250内にゲート電極100がテーパ状に形成された後に、
図13(A),(B)に示すように、ゲート電極100上に、電子ビーム蒸着法によって厚膜電極300が形成される。具体的には、電子ビームによって蒸発源310(厚膜電極の材料)を加熱して蒸発させることにより、蒸発した材料をゲート電極100上に堆積させ、厚膜電極300を形成する。なお、
図13(A)では、図示の都合上、ゲート電極100の上側に蒸発源310を示しているが、一般的に、蒸発源310は、ゲート電極100の鉛直下方にゲート電極100と対向するように配置される。そのため、
図13(A)は、図の下側が鉛直上方であり、上側が鉛直下方である。
【0081】
電子ビーム蒸着法は、成膜時の雰囲気圧力が低いため、蒸発源310から飛来する材料が、気体分子によって散乱される可能性が低く、直進性が高いという特徴がある。そのため、ゲート電極100に対してその垂直真下方向から(
図13では、上方向から)蒸着を行えば、その垂直真下方向から見たときに観察される面にのみ厚膜電極材料が堆積する。従って、第1の厚膜電極形成方法によれば、トレンチ250内に空隙を生じさせることなく、RFバイアススパッタ法によって形成したゲート電極100と同様の窪みを有する厚膜電極300をゲート電極100上に形成することができる。また、例えば、
図14に示すように、トレンチ250の深さよりも厚い厚膜電極300を成膜する場合であっても、蒸発材料の直進性が高いため、成膜の途中で、ゲート電極100の窪み103の上部にオーバハングが形成される可能性が低い。従って、トレンチ250内に空隙を生じさせることなく、良好に厚膜電極300を形成することができる。
【0082】
F2.第2の厚膜電極形成方法:
図15は、第2の厚膜電極形成方法を示す説明図である。この第2の厚膜電極形成方法では、まず、
図15(A)に示すように、上述の第1の厚膜電極形成方法を用いることにより、
図14に示した厚膜電極300よりも更に厚い厚膜電極300が形成される。そして、
図15(B)に示すように、厚膜電極300の表面がレジスト320で被膜される。その後、レジスト320の表面全体からドライエッチングが行われることで、レジスト320と厚膜電極300との不要な部分が除去され、
図15(C)に示すように、平坦な表面を有する厚膜電極300が形成される。ドライエッチングにおけるレジストと厚膜電極材料との選択比は、エッチングガスの成分を調整することで、1:1〜1:6程度で調整することができる。
図15に示した例では、レジストと厚膜電極材料との選択比は、1:1である。この第2の厚膜電極形成方法によれば、厚膜電極300の表面を平坦にすることができるので、厚膜電極300に対してワイヤボンディング等の配線を良好に行うことが可能になる。なお、レジストに対して厚膜電極材料の選択比を高くすれば、厚膜電極300の表面側に凸状の突起部を形成することが可能である。
【0083】
F3.第3の厚膜電極形成方法:
上述した第1および第2の厚膜電極形成方法では、電子ビーム蒸着法によって厚膜電極を形成している。これに対して、第3の厚膜電極形成方法では、めっき法によって厚膜電極が形成される。具体的には、
図3のステップS20において、トレンチ250内にゲート電極100がテーパ状に形成された後に、めっき法によって、厚膜電極材料をゲート電極100上に堆積させることによって、厚膜電極300が形成される。めっき法としては、無電解めっき法または電解めっき法を用いることができる。めっき法では、ゲート電極100内の窪み130に対して、等方的に厚膜電極材料の堆積が進むので、窪み130を埋め込むために必要な厚膜電極300の厚みを小さくすることができる。また、上述の実施形態や変形例では、ゲート電極100の窪み130がテーパ状に形成されているので、等方的に、つまり、窪み103の形状に沿って、厚膜電極300が形成されるめっき法であっても、トレンチ250に空隙を生じさせることなく、良好に厚膜電極300を形成することができる。
【0084】
以上、厚膜電極300の形成方法について説明したが、厚膜電極300は、上述した電子ビーム蒸着法やめっき法に限らず、スパッタ法やCVD法などの他の成膜方法によって形成してもよい。
【0085】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態や変形例の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。