(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0022】
<第1実施形態>
図1〜5を参照しつつ、第1実施形態に係るモールド部付電線100について説明する。モールド部付電線100は、端子付電線1と接着剤2とモールド部材3とを備える。端子付電線1は、絶縁電線11と端子12とを備える。
【0023】
図1は、モールド部付電線100の一部切り欠き側面図である。
図1では、モールド部材3の内部及び絶縁電線11の一部の内部が切り欠かれて示されている。
図2は、モールド部付電線100の側面図である。
【0024】
モールド部付電線100は、例えば、自動車等の車両に搭載されるワイヤーハーネスの一部を構成する。本実施形態では、モールド部付電線100は、シールドシェル等の筐体5の開口部51に挿入され、筐体5内に設けられた端子台等の相手側部材52に接続されることが考えられる。このとき、モールド部付電線100のモールド部材3が、筐体5の開口部51に嵌り合うことで、モールド部付電線100の位置が決められる。なお、
図1において、筐体5、開口部51及び相手側部材52は、仮想線(二点鎖線)で示されている。
【0025】
<モールド部付電線:端子付電線>
モールド部付電線100において、端子付電線1は、絶縁電線11と端子12とを備える。絶縁電線11は、芯線112と芯線112の周囲を覆う絶縁被覆111とを含んでいる。芯線112は、例えば、銅又はアルミニウム等の金属を主成分とする部材である。絶縁被覆111は、絶縁性の樹脂部材である。
【0026】
本実施形態では、絶縁被覆111が、シリコーンゴムで形成されている。シリコーンゴムは、一般的に難接着性の部材であることが知られている。なお、絶縁被覆111が、シリコーンゴムの他に、フッ素樹脂等の難接着性の材料で形成されている場合も考えられる。また、絶縁被覆111が、例えば、ポリエチレン又は塩化ビニルなどを主成分とする合成樹脂の部材である場合も考えられる。
【0027】
端子12は、絶縁電線11の端部に接続されている。本実施形態では、端子12は、電線接続部121と相手側部材接続部122とを備える。端子12は、例えば、銅等の金属を主成分とする部材である。
【0028】
本実施形態において、電線接続部121は、絶縁電線11の芯線112に接続される部分である。電線接続部121は、絶縁被覆111から延び出た芯線112に接続されている。また、本実施形態において、電線接続部121は、絶縁電線11の絶縁被覆111から延び出た芯線112に圧着された圧着片1211を含む。なお、電線接続部121が、さらに絶縁電線11の端部の絶縁被覆111に接続される絶縁被覆111用の圧着片を含む場合も考えられる。また、絶縁電線11の芯線112が、熱溶接又は超音波溶接等の溶接によって、端子12の電線接続部121に接続されている場合も考えられる。
【0029】
また、本実施形態において、相手側部材接続部122は、相手側部材52に接続可能な部分である。本実施形態では、相手側部材接続部122には、相手側部材52(端子台)に対しボルト締結を可能にする孔1221が形成されている。
【0030】
<モールド部付電線:接着剤>
モールド部付電線100において、接着剤2は、絶縁電線11の絶縁被覆111の表面に設けられている。本実施形態では、
図1,2に示されるように、接着剤2は、絶縁被覆111の外周面に絶縁電線11の周方向に沿って設けられている。また、接着剤2は、絶縁被覆111の端部に設けられている。モールド部付電線100の止水構造を考慮すると、接着剤2は、
図1,2に示されるように、絶縁被覆111の外周面の全周に亘って設けられていることが好ましい。なお、接着剤2が、絶縁被覆111の周方向における一部に設けられている場合、例えば、絶縁被覆111の周方向に沿ってスポット状に設けられている場合等も考えられる。
【0031】
接着剤2は、例えば、シリコーン系等の樹脂材料で形成されている。接着剤2は、絶縁被覆111に接着し、後述するモールド部材3と絶縁被覆111との間の隙間を埋め、モールド部付電線100の止水構造を形成する。本実施形態では、絶縁被覆111としてシリコーンゴムが採用されているため、モールド部材3と絶縁被覆111との接着性が悪い。そのため、接着剤2は、モールド部付電線100の止水構造の性能をより向上させるために用いられている。即ち、接着剤2の樹脂材料としては、後述するモールド部材3のモールド樹脂よりも絶縁被覆111の樹脂材料(本実施形態ではシリコーンゴム)との接着性に優れる樹脂材料が採用されることが考えられる。
【0032】
<モールド部付電線:モールド部材>
モールド部付電線100において、モールド部材3は、別々にモールド成形された第一モールド部31と第二モールド部32とを含む。本実施形態は、第二モールド部32が、端子付電線1(絶縁電線11)の長手方向において、接着剤2に接した状態で覆う第一モールド部31の端子12側に設けられている場合の事例である。即ち、本実施形態では、絶縁電線11の長手方向において、第一モールド部31と第二モールド部32とが、分けて成形されている。
【0033】
モールド部材3は、端子付電線1の絶縁被覆111における接着剤2が設けられた部分から絶縁電線11と端子12との接続部分に亘る部分を覆っている。即ち、モールド部材3は、絶縁電線11と端子12との接続部分を覆い、モールド部付電線100の止水構造を構成している。
【0034】
モールド部材3を形成する樹脂(モールド樹脂)としては、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂等が考えられる。
【0035】
また、本実施形態では、第一モールド部31と第二モールド部32とが、同じモールド樹脂で形成されている。このため、モールド部材3は、1種類のモールド樹脂で形成される。なお、第一モールド部31と第二モールド部32とが、異なるモールド樹脂で形成される場合も考えられる。この場合、モールド部材3は、それぞれ異なる種類のモールド樹脂で形成されたモールド部を2つ含む。
【0036】
また、モールド部材3の輪郭形状は、開口部51に嵌め合い可能な形状に形成されていることが考えられる。なお、筐体5の開口部51の形状によっては、モールド部材3の外周面に、開口部51に嵌合可能な凸部或いは凹部が形成されている場合等も考えられる。なお、開口部51に嵌められる部分は、モールド部材3における第一モールド部31である場合、第二モールド部32の場合又は第一モールド部31から第二モールド部32にまたがる部分である場合が考えられる。また、本実施形態では、第一モールド部31及び第二モールド部32の輪郭形状が、同じとなるように形成されている。即ち、第一モールド部31の外周面と第二モールド部32の外周面との間に段差が形成されていない。しかしながら、第一モールド部31の輪郭形状と第二モールド部32の輪郭形状とが異なる場合も考えられる。
【0037】
また、本実施形態では、モールド部材3は、接着剤2を覆う部分を含み絶縁被覆111の端部に形成された第一モールド部31と、絶縁電線11と端子12との接続部分を覆う部分を含み絶縁被覆111から延び出る芯線112全体を覆うように形成された第二モールド部32と、を備える。即ち、本実施形態において、第一モールド部31は、接着剤2が設けられた領域を含むように、絶縁電線11の長手方向において絶縁被覆111の端から絶縁電線11の両端の間の部分(以下、中間部分)側に向かって形成されている。また、第二モールド部32は、絶縁電線11の芯線112と端子12との接続部分を含むように、絶縁電線11の長手方向において絶縁被覆111の端から端子12側(中間部分側に対し反対側)に向かって形成されている。
【0038】
第一モールド部31は、接着剤2に接した状態で接着剤2を覆う部分を含んでいる。このため、第一モールド部31は、接着剤2の周囲を覆う環状に形成されていることが考えられる。
【0039】
また、本実施形態において、第一モールド部31は、接着剤2全体を覆うように設けられている。しかしながら、第一モールド部31が、絶縁電線11の長手方向において接着剤2の一部だけを覆っている場合も考えられる。この場合、モールド部付電線100において、接着剤2における第一モールド部31に覆われていない部分は、露出していることが考えられる。即ち、この場合、接着剤2の一部は、モールド部材3に覆われず露出することが考えられる。
【0040】
第二モールド部32は、第一モールド部31とともにモールド部材3を構成する。本実施形態では、モールド部材3は、2つのモールド部(第一モールド部31及び第二モールド部32)より構成されているため、第二モールド部32は、モールド部材3における第一モールド部31以外の部分であるともいえる。
【0041】
モールド部付電線100において、第二モールド部32は、絶縁電線11の絶縁被覆111に設けられた接着剤2に接しないように設けられている部分ともいえる。例えば、
図1,2に示されるように、第二モールド部32は、端子12と絶縁電線11との接続部分を覆う部分のみを含むことが考えられる。
【0042】
本実施形態では、第二モールド部32は、絶縁被覆111から延び出た芯線112と端子12の電線接続部121とを覆っている。第二モールド部32は、例えば、絶縁被覆111から延び出た芯線112と端子12の電線接続部121とを覆う環状に形成される。なお、本実施形態では、第二モールド部32の輪郭形状は、第一モールド部31と輪郭形状が同じとなるように形成される。
【0043】
本実施形態では、上述のように、接着剤2が設けられた絶縁被覆111の部分を覆う第一モールド部31が、端子12を覆う部分を含まず、また、第二モールド部32が、絶縁被覆111を覆う部分を含まない場合が示されている。そのため、本実施形態では、第一モールド部31は、絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121の周囲を覆う環状の部分を含まない場合の事例が示され、また、第二モールド部32が、絶縁被覆111の周囲を覆う環状の部分を含まない場合の事例が示されている。しかしながら、第二モールド部32が、絶縁被覆111の周囲を覆う部分を含む場合も考えられる。また、第一モールド部31が、絶縁被覆111から延び出る芯線112の周囲を覆う部分を含む場合、或いは、端子12の周囲を覆う部分を含む場合も考えられる。
【0044】
また、第一モールド部31と第二モールド部32とは、別々にモールド成形される。このため、モールド部材3には、第一モールド部31と第二モールド部32との境界を示す境界面39が形成される場合が考えられる。本実施形態では、第一モールド部31と第二モールド部32とが絶縁電線11の長手方向に並ぶため、境界面39は、絶縁電線11の長手方向に直交する面である。また、モールド部付電線100を外側から見た際、境界面39により、モールド部材3には、絶縁電線11の周方向に沿う境界線が形成される場合も考えられる。
【0045】
<モールド部付電線の製造方法>
次に、本実施形態のモールド部付電線100の製造方法の一例について説明する。本実施形態のモールド部付電線製造方法は、第一モールド部成形工程と第二モールド部成形工程とを含む。第一モールド部成形工程は、端子付電線1における接着剤2に接した状態で接着剤を覆うように第一モールド部31を成形する工程である。第二モールド部成形工程は、第一モールド部成形工程と異時に行われ、第一モールド部31に接する位置に第二モールド部32を成形する工程である。なお、本実施形態のモールド部材電線製造方法は、さらに接着剤塗布工程も含んでいる。接着剤塗布工程は、端子付電線1の絶縁電線11の絶縁被覆111に接着剤2を設けるための工程である。
【0046】
まず、本実施形態のモールド部付電線製造方法において使用される金型7及び金型8について説明する。なお、
図3は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の第二モールド部成形工程を示す図である。
図4は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の接着剤塗布工程を示す図である。
図5は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の第一モールド部成形工程を示す図である。
【0047】
本実施形態のモールド部付電線製造方法において、金型7は、第二モールド部成形工程で使用される。
図3に示されるように、金型7は、上金型71と下金型72とを含んでいる。そして、上金型71と下金型72とは、相互に離隔すること及び接近することが可能である。また、上金型71と下金型72とが最接近した状態において、金型7には、成形空間70が形成される。成形空間70は、第二モールド部32の外周面が成す輪郭形状と同じ金型面によって囲まれる空間である。
【0048】
本実施形態のモールド部付電線製造方法において、金型8は、第一モールド部成形工程で使用される。
図5に示されるように、金型8は、上金型81と下金型82とを含んでいる。そして、上金型81と下金型82とは、相互に離隔すること及び接近することが可能である。また、上金型81と下金型82とが最接近した状態において、金型8には、成形空間80が形成される。成形空間80は、第一モールド部31及び第二モールド部32を含むモールド部材3の外周面が成す輪郭形状と同じ金型面によって囲まれる空間である。
【0049】
本実施形態のモールド部付電線製造方法では、第二モールド部成形工程、接着剤塗布工程、第一モールド部成形工程の順番で行われる。以下、この順番でモールド部付電線製造方法の各工程を説明する。また、第二モールド部成形工程の開始前には、絶縁電線11と端子12とを接続させ端子付電線1を作る端子付電線製造工程が行われる。なお、本実施形態において、端子付電線製造工程は、絶縁電線11の芯線112に端子12を圧着する圧着工程である。
【0050】
<モールド部付電線製造方法:第二モールド部成形工程>
本実施形態では、まず、第二モールド部成形工程が行われる。第二モールド部成形工程は、第一モールド部成形工程と異時に行われ、第一モールド部31に接する位置に第二モールド部32を形成する工程である。
【0051】
例えば、金型7の下金型72の所定の箇所に端子付電線1が設置され、上金型71が下金型72に近付けられる。そして、上金型71と下金型72とが最接近した状態で、端子付電線1における第二モールド部32の成形予定箇所が、成形空間70に収容される。
【0052】
本実施形態では、第二モールド部32は、端子付電線1の絶縁電線11の絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121を覆うように形成されるため、金型7の成形空間70には、絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121が収容される。また、上記より、金型7の下金型72の所定の箇所に端子付電線1が設置されとは、下金型72における成形空間70が生じる予定の箇所に、端子付電線1における絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121が位置した状態で設置されるという意味である。
【0053】
そして、金型7の成形空間70に絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121が収容された状態で、成形空間70に第二モールド部32のモールド樹脂が射出される。モールド樹脂が硬化し、第二モールド部32が形成されると、第二モールド部32を伴う端子付電線1が、金型7から取り出される。
【0054】
なお、本実施形態では、第二モールド部32が第一モールド部31よりも先に形成される。このため、第二モールド部32の成形予定箇所は、第一モールド部31に接する位置に設けられる。即ち、本実施形態では、第二モールド部32が先に形成されるため、第一モールド部31の成形予定箇所に接するように第二モールド部32が設けられる。
【0055】
<モールド部付電線製造方法:接着剤塗布工程>
本実施形態では、第二モールド部成形工程の次に、金型7から取り出された第二モールド部32を伴う端子付電線1に対して接着剤2が塗布される接着剤塗布工程が行われる。
図4に示されるように、本実施形態では、接着剤2は、絶縁電線11の周方向に沿って絶縁被覆111の全周に亘って塗布される。これにより、第二モールド部32及び接着剤2を伴う端子付電線1を得ることができる。
【0056】
<モールド部付電線製造方法:第一モールド部成形工程>
本実施形態では、接着剤塗布工程の次に第一モールド部成形工程が行われる。より具体的には、接着剤塗布工程の後で、かつ、第二モールド部成形工程により供給された第二モールド部32のモールド樹脂が硬化し第二モールド部32が形成された後に、第一モールド部成形工程が行われる。第一モールド部成形工程は、端子付電線1における接着剤2に接した状態で接着剤2を覆うように第一モールド部31を成形する工程である。
【0057】
例えば、金型8の下金型82の所定の箇所に第二モールド部32及び接着剤2を伴う端子付電線1が設置され、上金型81が下金型82に近付けられる。そして、上金型81と下金型82とが最接近した状態で、端子付電線1における第一モールド部31の成形予定箇所及び第二モールド部32が、成形空間80に収容される。
【0058】
本実施形態では、第一モールド部31は、接着剤2が設けられた絶縁被覆111の部分を覆う。そのため、成形空間80には、第二モールド部32の他に、絶縁被覆111の端部、より具体的には、絶縁被覆111における接着剤2が設けられている部分が収容される。また、上記より、金型8の下金型82の所定の箇所に第二モールド部32及び接着剤2を伴う端子付電線1が設置されとは、下金型82における成形空間80が生じる予定の箇所に、端子付電線1における絶縁被覆111の接着剤2が設けられた部分及び第二モールド部32が位置した状態で設置されるという意味である。
【0059】
そして、金型8の成形空間80に端子付電線1における第一モールド部31の成形予定箇所が収容された状態で、成形空間80に第一モールド部31のモールド樹脂が射出される。より具体的には、成形空間80における第二モールド部32によって占有されていない空間に、第一モールド部31のモールド樹脂が射出される。なお、本実施形態では、第一モールド部31のモールド樹脂は、第二モールド部32のモールド樹脂と同じ樹脂が採用されている。
【0060】
第一モールド部31のモールド樹脂が、成形空間80内で硬化し、第一モールド部31が形成される。第一モールド部31は、既に硬化して形成された第二モールド部32の後端面に接した状態で第一モールド部31のモールド樹脂が硬化することにより形成される。なお、第二モールド部32の後端面は、第二モールド部32における絶縁被覆111側の端面であり、成形空間80における第一モールド部31のモールド樹脂が射出される空間を成す面の一部である。従って、本実施形態において、第一モールド部31は、絶縁電線11の長手方向において第二モールド部32に隣接するように形成される。
【0061】
第一モールド部31のモールド樹脂が硬化し、第一モールド部31が形成された後、第一モールド部31及び第二モールド部32を備える端子付電線1が金型8から取り出される。このとき、絶縁被覆111の表面に設けられた接着剤2には、樹脂ヒケにより絶縁被覆111から接着剤2を引き離そうとする応力が生じる。
【0062】
しかしながら、本実施形態では、接着剤2に接する第一モールド部31のモールド成形前に、予めモールド成形された第二モールド部32が行われている。そのため、第二モールド部32は、接着剤2を絶縁被覆111から引き離そうとする応力を及ぼしにくい。
【0063】
従って、本実施形態では、主として第一モールド部31の成形時のモールド樹脂が、接着剤2を絶縁被覆111から引き離そうとする応力を生じさせる。即ち、第一モールド部31及び第二モールド部32を含むモールド部材3と同じ大きさのモールド部材を1回のモールド成形で端子付電線1に設ける場合に比べ、本実施形態では、絶縁電線11の長手方向における厚みを、第二モールド部32の長手方向における厚み分だけ低減することができる。このため、接着剤2を絶縁被覆111から引き離そうとする応力を軽減することができ、ひいては、第一モールド部31と絶縁電線11の絶縁被覆111との間に隙間が形成されることを抑制できる。これにより、モールド部付電線100の止水構造の性能を向上させることが可能となる。なお、第一モールド部成形工程を第二モールド部成形工程よりも先に行う場合も考えられる。
【0064】
<モールド部付電線>
第一モールド部31及び第二モールド部32を伴う端子付電線1が、金型8から取り出されることにより、モールド部付電線100が得られる。モールド部付電線100においては、モールド部材3に第一モールド部31と第二モールド部32との境界を示す境界面39が形成されていることが考えられる。
【0065】
本実施形態では、モールド部材3の第一モールド部31と第二モールド部32とが別々にモールド成形されている。これは、樹脂ヒケによる接着剤2の剥離を引き起こす応力が、モールド成形されたモールド部材3の厚みが厚いほど或いはモールド樹脂の樹脂量が多いほど大きくなるためである。即ち、本実施形態においては、第一モールド部31と第二モールド部32とが別々にモールド成形されることで、第一モールド部31成形時の樹脂ヒケによる接着剤2の剥離を引き起こす応力を軽減することができる。その結果、モールド部付電線100において、モールド部材3成形後に樹脂ヒケによって絶縁電線11の絶縁被覆111から接着剤2が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0066】
また、本実施形態においては、絶縁電線11の長手方向において、接着剤2を覆う第一モールド部31の端子12側に第二モールド部32が存在している。この場合、モールド部材3を絶縁電線11の長手方向において分けてモールド成形することができる。このため、第一モールド部31の絶縁電線11の長手方向における厚みを小さくしてモールド成形を行うことができる。通常、端子付電線に設けられるモールド部材においては、絶縁電線の長手方向における厚みが比較的大きい場合が多い。従って、本実施形態においては、第一モールド部31成形時の樹脂ヒケによる接着剤2の剥離を引き起こす応力をより軽減することができ、絶縁被覆111から接着剤2が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0067】
また、本実施形態においては、絶縁被覆111が、シリコーンゴムである。通常、シリコーンゴムの絶縁被覆111は、接着剤2との接着性が悪いため、本実施形態のモールド部付電線100の止水構造がより有効である。
【0068】
また、本実施形態においては、第一モールド部31と第二モールド部32とが、同じモールド樹脂で形成されているため、製造コストを抑制することができる。また、第一モールド部31と第二モールド部32とをそれぞれ異なる色で着色する場合も考えられる。また、第一モールド部31と第二モールド部32とが同じモールド樹脂で、かつ、もともとの色が異なるモールド樹脂を使用することも考えられる。
【0069】
<第2実施形態>
次に、
図6〜11を参照しつつ、第2実施形態に係るモールド部付電線200について説明する。モールド部付電線200は、モールド部付電線100のモールド部材3と異なる構造のモールド部材3Aを備える。モールド部材3Aは、第一モールド部31Aと第二モールド部32Aとを含む。
図6は、モールド部付電線200の一部切り欠き側面図である。
図7は、モールド部付電線200の側面図である。
図8は、モールド部付電線200の断面図である。
図8は、
図7のII−II平面における断面である。なお、
図6〜8において、
図1〜5に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0070】
本実施形態では、端子付電線1(絶縁電線11)の径方向において、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分の外側に第二モールド部32
Aが存在している点で第1実施形態と異なる。以下、本実施形態における第1実施形態と異なる点について説明する。
【0071】
本実施形態において、モールド部材3Aの第一モールド部31Aは、接着剤2に接した状態で接着剤2を覆う部分を含み、さらに絶縁電線11と端子12との接続部分を覆う部分を含んでいる。なお、
図6,7に示されるように、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分の絶縁電線11の径方向における厚みは、第一モールド部31Aにおける絶縁電線11と端子12との接続部分を覆う部分の上記径方向における厚みよりも薄くなるように形成されている。即ち、第一モールド部31Aは、肉厚の薄い環状の部分と肉厚の厚い環状の部分とが相互の軸心方向が一致するように隣接し連なって形成された形状に形成されている。以下、必要に応じて、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分を、薄肉部310Aと称し、第一モールド部31Aにおける絶縁電線11と端子12との接続部分を覆う部分を厚肉部311Aと称する。
【0072】
薄肉部310Aは、接着剤2の周囲を覆う環状に形成されている。薄肉部310Aの肉厚は、例えば、1mm〜2mmである場合が考えられる。
【0073】
厚肉部311Aは、絶縁電線11と端子12との接続部分の周囲を覆う環状に形成されている。より具体的には、厚肉部311Aは、絶縁被覆111から延び出る芯線112及び端子12の電線接続部121の周囲を覆う環状の部分である。
【0074】
第二モールド部32Aは、
図8に示されるように、絶縁電線11の径方向において、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分(薄肉部310A)の外側に設けられている。即ち、第二モールド部32Aは、薄肉部310Aの周囲を覆う環状に形成されている。第二モールド部32Aは、絶縁電線11の長手方向において絶縁被覆111の端よりも絶縁電線11の中間部分側に設けられている。なお、本実施形態では、第二モールド部32Aの外周面が成す輪郭形状の大きさが、厚肉部311Aの外周面が成す輪郭形状の大きさと同じになるように形成されている。
【0075】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様、モールド部材3Aには、第一モールド部31Aと第二モールド部32Aとの境界を示す境界面が形成される場合が考えられる。本実施形態では、モールド部材3Aには、絶縁電線11の長手方向に直交する境界面39とモールド部材3Aの後端側に形成され第一モールド部31Aの薄肉部310Aの輪郭に沿う境界面39Aとが形成されることが考えられる。
【0076】
<モールド部付電線製造方法>
次に、本実施形態のモールド部付電線200の製造方法の一例について説明する。本実施形態のモールド部付電線製造方法は、第1実施形態と同様、第一モールド部成形工程と第二モールド部成形工程とを含み、さらに接着剤塗布工程も含んでいる。
【0077】
本実施形態においては、モールド部材3Aの輪郭形状と、第1実施形態のモールド部材3の輪郭形状とが同じであるものとして説明する。従って、本実施形態のモールド部付電線製造方法においては、金型8及び金型9が使用される。金型8の構造は、第1実施形態と同様である。以下、はじめに金型9について説明する。なお、
図9は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の接着剤塗布工程を示す図である。
図10は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の第一モールド部成形工程を示す図である。
図11は、本実施形態のモールド部付電線製造方法の第二モールド部成形工程を示す図である。
【0078】
本実施形態のモールド部付電線製造方法において、金型9は、第一モールド部成形工程で使用される。
図10に示されるように、金型9は、上金型91と下金型92とを含んでいる。そして、上金型91と下金型92とは、相互に離隔すること及び接近することが可能である。また、上金型91と下金型92とが最接近した状態において、金型9には、成形空間90が形成される。成形空間90は、第一モールド部31Aの外周面が成す輪郭形状にと同じ金型面によって囲まれる空間である。即ち、成形空間90は、隣接した比較的径の小さい空間及び比較的径の大きい空間を含んでいる。
【0079】
本実施形態のモールド部付電線製造方法では、接着剤塗布工程、第一モールド部成形工程、第二モールド部成形工程の順番で行われる。以下、この順番でモールド部付電線製造方法の各工程を説明する。また、接着剤塗布工程の開始前には、絶縁電線11と端子12とを接続させ端子付電線1を作る端子付電線製造工程が行われる。
【0080】
<モールド部付電線製造方法:接着剤塗布工程>
本実施形態では、まず、端子付電線製造工程で得られた端子付電線1に対して接着剤2が塗布される接着剤塗布工程が行われる。
図9に示されるように、本実施形態では、接着剤2は、絶縁電線11の周方向に沿って絶縁被覆111の全周に亘って塗布される。これにより、接着剤2を伴う端子付電線1を得ることができる。
【0081】
<モールド部付電線製造方法:第一モールド部成形工程>
そして、本実施形態では、
図10に示されるように、接着剤塗布工程の次に(第二モールド部成形工程の前に)第一モールド部成形工程が行われる。第一モールド部成形工程は、端子付電線1における接着剤2に接した状態で接着剤2を覆うように第一モールド部31Aを成形する工程である。
【0082】
例えば、金型9の下金型92の所定の箇所に接着剤2を伴う端子付電線1が設置され、上金型91が下金型92に近付けられる。そして、上金型91と下金型92とが最接近した状態で、端子付電線1における第一モールド部31Aの成形予定箇所が成形空間90に収容される。
【0083】
本実施形態では、第一モールド部31Aは、接着剤2が設けられた絶縁被覆111の部分から絶縁電線11と端子12との接続部分を覆う。そのため、成形空間90には、絶縁被覆111における接着剤2が設けられている部分から絶縁電線11と端子12との接続部分に亘る部分(第一モールド部31Aの成形予定箇所)が収容される。なお、成形空間90において、接着剤2が設けられた絶縁被覆111の部分を収容する部分では、接着剤2と金型9の金型面との距離が、絶縁電線11と端子12との接続部分と金型9の金型面との距離よりも小さくなっている。
【0084】
そして、金型9の成形空間90に端子付電線1における第一モールド部31Aの成形予定箇所が収容された状態で、成形空間90に第一モールド部31Aのモールド樹脂が射出される。第一モールド部31Aのモールド樹脂が、成形空間90内で硬化し、第一モールド部31Aが形成される。
【0085】
第一モールド部31Aのモールド樹脂が硬化し、第一モールド部31Aが形成された後、第一モールド部31Aを備える端子付電線1が金型9から取り出される。このとき、絶縁被覆111の表面に設けられた接着剤2には、樹脂ヒケにより絶縁被覆111から接着剤2を引き離そうとする応力が生じる。
【0086】
しかしながら、本実施形態では、接着剤2に接する第一モールド部31Aの絶縁電線11の径方向における厚み(薄肉部310Aの厚み)が比較的小さい。そのため、接着剤2を絶縁被覆111から絶縁電線11の径方向に引き離そうとする応力を低減することができる。このため、第一モールド部31Aと絶縁電線11の絶縁被覆111との間に隙間が形成されることを抑制でき、モールド部付電線200の止水構造の性能を向上させることが可能となる。
【0087】
<モールド部付電線製造方法:第二モールド部成形工程>
そして、本実施形態では、
図11に示されるように、第一モールド部成形工程の次に第二モールド部成形工程が行われる。第二モールド部成形工程は、第一モールド部成形工程と異時に行われ、第一モールド部31Aに接する位置に第二モールド部32Aを形成する工程である。
【0088】
例えば、金型8の下金型82の所定の箇所に第一モールド部31A及び接着剤2を伴う端子付電線1が設置され、上金型81が下金型82に近付けられる。そして、上金型81と下金型82とが最接近した状態で、端子付電線1における第二モールド部32Aの成形予定箇所及び第一モールド部31Aが成形空間80に収容される。本実施形態において、第二モールド部32Aは、絶縁電線11の径方向において、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分(薄肉部310A)の外側に設けられる。このため、第二モールド部32Aの成形予定箇所は、第一モールド部31Aの薄肉部310Aの外側の部分である。
【0089】
そして、金型8の成形空間80に第二モールド部の成形予定箇所が収容された状態で、成形空間80に第二モールド部32Aのモールド樹脂が射出される。モールド樹脂が硬化し、第二モールド部32Aが形成されると、第一モールド部31A及び第二モールド部32Aを伴う端子付電線1が、金型8から取り出される。
【0090】
なお、本実施形態では、第一モールド部31Aが第二モールド部32Aよりも先に形成される。このため、本実施形態では、第一モールド部31Aに接する位置で、第一モールド部31Aに接するように第二モールド部32Aが設けられる。
【0091】
<モールド部付電線>
第一モールド部31A及び第二モールド部32Aを伴う端子付電線1が、金型8から取り出されることにより、モールド部付電線200が得られる。モールド部付電線200においては、モールド部材3Aに第一モールド部31Aと第二モールド部32Aとの境界を示す境界面39Aが形成されていることが考えられる。
【0092】
本実施形態では、第1実施形態と同様、モールド部材3Aの第一モールド部31Aと第二モールド部32Aとが別々にモールド成形されることで、第一モールド部31A成形時の樹脂ヒケによる接着剤2の剥離を引き起こす応力を軽減することができる。その結果、モールド部付電線200において、モールド部材3A成形後に樹脂ヒケによって絶縁電線11の絶縁被覆111から接着剤2が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0093】
また、本実施形態においては、絶縁電線11の径方向において、第一モールド部31Aにおける接着剤2を覆う部分の外側に第二モールド部32Aが存在している。この場合、モールド部材3Aを絶縁電線11の径方向において分けてモールド成形することができる。このため、第一モールド部31Aの絶縁電線11の径方向における厚みを小さくしてモールド成形を行うことができ、絶縁被覆111から接着剤2が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0094】
また、第一モールド部31Aの薄肉部310Aの外側に第二モールド部32Aを設けることで、第一モールド部31Aの薄肉部310Aの部分における強度が向上する。また、第一モールド部31Aの薄肉部310Aの外側に第二モールド部32Aを設けることで、第一モールド部31Aの薄肉部310Aの部分における絶縁性能も向上する。
【0095】
<第3実施形態>
次に、
図12を参照しつつ、第3実施形態に係るモールド部付電線300について説明する。モールド部付電線300は、モールド部付電線100のモールド部材3及びモールド部付電線200のモールド部材3Aと異なる構造のモールド部材3Bを備える。モールド部材3Bは、第一モールド部31Bと第二モールド部32Bとを含む。
図12は、モールド部付電線300の一部切り欠き側面図である。なお、
図12において、
図1〜11に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0096】
本実施形態では、絶縁電線11の径方向において、第一モールド部31Bにおける接着剤2を覆う部分の外側に第二モールド部32Bが存在している点で第1実施形態と異なる。また、第二モールド部32Bが、さらに絶縁電線11と端子12との接続部分を覆っている点で第2実施形態と異なる。即ち、本実施形態は、絶縁電線11の長手方向において接着剤2を覆う第一モールド部31Bの端子12側に第二モールド部32Bが存在し、かつ、絶縁電線11の径方向において第一モールド部31Bにおける接着剤2を覆う部分の外側に第二モールド部32Bが存在している場合の事例である。以下、本実施形態における第1実施形態及び第2実施形態と異なる点について説明する。
【0097】
第一モールド部31Bは、接着剤2の周囲を覆う環状に形成されている。第一モールド部31Bの肉厚は、例えば、1mm〜2mmである場合が考えられる。
【0098】
第二モールド部32Bは、絶縁電線11の径方向において、第一モールド部31Bにおける接着剤2を覆う部分(第一モールド部31B全体)の外側に設けられた環状の部分と、絶縁電線11と端子12との接続部分の周囲を覆う環状に形成されている部分と、を含む。このため、第二モールド部32Bには、第一モールド部31Bの輪郭形状に応じた凹部329Bが形成されていることが考えられる。モールド部材3Bにおいて、凹部329Bには、第一モールド部31Bが収容されている。
【0099】
また、本実施形態においても、モールド部材3Bには、第一モールド部31Bと第二モールド部32Bとの境界を示す境界面が形成される場合が考えられる。本実施形態では、この境界面は、モールド部材3Bの後端側に形成される第一モールド部31Bの輪郭に沿う境界面であることが考えられる。
【0100】
本実施形態においても、モールド部材3Bの第一モールド部31Bと第二モールド部32Bとが別々にモールド成形されるため、第一モールド部31B成形時の樹脂ヒケによる接着剤の剥離を引き起こす応力を軽減することができる。
【0101】
また、本実施形態においては、絶縁電線11の長手方向において、接着剤2を覆う第一モールド部31Bの端子12側に第二モールド部32Bが存在し、また、絶縁電線11の径方向においても、第一モールド部31Bにおける接着剤2を覆う部分の外側に第二モールド部32Bが存在している。この場合、モールド部材3Bを絶縁電線11の長手方向において及び径方向において分けてモールド成形することができる。このため、第一モールド部31Bの絶縁電線11の長手方向及び径方向における厚みを小さくしてモールド成形を行うことができる。これにより、第一モールド部31B成形時の樹脂ヒケによる接着剤2の剥離を引き起こす応力を軽減することができ、絶縁被覆111から接着剤2が剥がれてしまうことを抑制できる。
【0102】
<応用例>
モールド部材3が、第一モールド部31と複数種類の第二モールド部32とを含む場合も考えられる。即ち、モールド部材3が、3回以上に別々に行われたモールド成形によって形成された3つ以上のモールド部を備える場合が考えられる。モールド部材3A,3Bにおいても同様である。
【0103】
なお、本発明に係るモールド部付電線及びモールド部付電線製造方法は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは、各実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。