(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1部材と、前記第1部材に対して相対運動する第2部材と、を備え、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の部材の摺動面に、両部材の相対速度が所定以上のときいずれか一方の部材を他方の部材に対して浮揚させる摩擦低減処理が施された低摩擦層を有する、エンジンであって、
前記低摩擦層は、頂面の面粗度Raが0.1μm以下である複数の凸部であって、それぞれ同じ高さに形成された複数の凸部と、前記凸部の周囲に位置しており深さが3〜10μmである複数の凹部と、を有する、所定のコーティング層により構成され、
前記エンジンの停止動作時に、エンジン負荷を増大させるエンジン負荷増大手段及び前記摺動面に空気を供給する空気供給手段を備え、
前記空気供給手段は、エンジンの回転数が、一方の部材が他方の部材に対して浮揚状態となるエンジン回転速度に下降するタイミングで作動され、
上記一方の部材が他方の部材に対して浮遊状態となるエンジン回転速度は、アイドル運転時のエンジン回転数よりも低い値に設定されていることを特徴とするエンジン。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るエンジンについて説明する。
図1は、エンジン1の主運動系の概略構成を示すもので、エンジン1は、多気筒エンジン(
図1では1気筒分のみ示されている)であって、図示しない車両に搭載されている。
【0023】
エンジン1は、クランクシャフト10がクランクジャーナル部11において、シリンダブロック2の主軸受部3に回動可能に支持されている。クランクシャフト10のクランクピン部12には、コンロッド20の大端部21が回動可能に支持されている。コンロッド20の小端部22には、ピストン30と連結するためのピストンピン31が回動可能に支持されている。ピストン30は、周部にピストンリング32を備え、該ピストンリング32でシリンダ4の内面であるシリンダ内面4aに往復運動可能に支持されている。
【0024】
すなわち、エンジン1の主運動系は、クランクジャーナル部11及び主軸受部3によって第1摺動部41が構成され、クランクピン部12及び大端部21によって第2摺動部42が構成され、小端部22及びピストンピン31によって第3摺動部43が構成され、ピストンリング32及びシリンダ4によって第4摺動部44が構成されている。
【0025】
具体的には、第1摺動部41は、互いに対向して相対的に回転運動する、クランクジャーナル部11の外周面であるクランクジャーナル外周面11aと、主軸受部3の内周面である主軸受内周面3aと、によって、摺動面が構成されている。
【0026】
第2摺動部42は、互いに対向して相対的に回転運動する、クランクピン部12の外周面であるクランクピン外周面12aと、大端部21の内周面である大端部内周面21aと、によって、摺動面が構成されている。
【0027】
第3摺動部43は、互いに対向して相対的に回転往復運動する、小端部22の内周面である小端部内周面22aと、ピストンピン31のピストンピン外周面31aと、によって、摺動面が構成されている。なお、回転往復運動とは、一方側に相対的に回転する運動と、反対側に相対的に回転する運動と、を繰り返す運動を称する。
【0028】
第4摺動部44は、互いに対向して相対的に直線往復運動する、ピストンリング32の外周面であるピストンリング外周面32aと、シリンダ内面4aと、によって、各摺動面が構成されている。なお、直線往復運動とは、一方側に相対的に直線移動する運動と、反対側に相対的に直線移動する運動と、を繰り返す運動を称する。
【0029】
第1〜第4摺動部41〜44を構成する少なくとも一方の部材の摺動面には、所定の低摩擦処理が施された低摩擦層40が形成されている。
図2は、摺動面に形成された低摩擦層40の一例を拡大して示している。所定の低摩擦処理とは、気相合成(CVD)ダイヤモンド、人工サファイヤ、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化ケイ素、炭化チタン、酸化アルミナ、又はアルミナ等の材料でコーティングされた微少な凹凸を有する表面を、凹部40aが残留する程度に凸部40bを平滑状に研磨することであり、これによって、摺動面に低摩擦層40が形成される。
【0030】
凹部40aは、3〜10μmの深さとなるのが好ましく、また凸部40bは、研磨された頂面の面粗度Raが0.1μm以下となるように研磨されるのが好ましい。この低摩擦層によれば、両部材間の相対速度Uが所定の速度U0以上となる場合に、前記凹部40a内に動圧が生じて、該動圧によって一方の部材が他方の部材に対して浮揚するという浮揚効果が得られる。
【0031】
図1に示すように、本実施形態では、低摩擦層40をクロスハッチングで示しており、第1摺動部41においては主軸受内周面3aに低摩擦層40
1が形成され、第2摺動部42においては大端部内周面21aに低摩擦層40
2が形成され、第3摺動部43においてはピストンピン外周面31aに低摩擦層40
3が形成され、第4摺動部44においてはピストンリング外周面32aに低摩擦層40
4形成されている。
【0032】
つまり、第1摺動部41において、クランクジャーナル外周面11a及び主軸受内周面3a間の相対速度が所定の速度以上となる場合に、クランクジャーナル外周面11aが、主軸受内周面3aに対して非接触となる浮揚状態となる。このとき、クランクジャーナル外周面11aと主軸受内周面3aとの間に、気層からなる第1気層41aが形成される。
【0033】
同様に、第2〜第4摺動部42〜44において、摺動部を構成する両部材間の相対速度が所定の速度以上となる場合に、一方の部材が他方の部材に対して非接触となる浮揚状態となる。すなわち、第2摺動部42において、クランクピン外周面12aと大端部内周面21aとの間に気層からなる第2気層42aが形成され、第3摺動部43において、小端部内周面22aとピストンピン外周面31aとの間に気層からなる第3気層43aが形成さる。一方、第4摺動部44において、ピストンリング32はリング張力によってシリンダ内面4aに付勢されているので浮揚することはない。
【0034】
これによって、第1〜第4摺動部41〜44における、摩擦抵抗が大幅に低減されるので、本実施形態では、潤滑油による潤滑が不要とされている。なお、本明細書では、摺動の概念を、一方の部材が他方の部材に接触している場合に加えて、一方の部材が他方の部材に対して非接触となる浮揚状態も含めるものとする。
【0035】
本実施形態においては、所定の速度U0は、エンジン1の回転数NEが第1速度V1以上となる場合に、実現されるようになっている。例えば本実施形態では、エンジン1の第1速度V1は、200rpmであって、アイドル回転数(例えば600rpm)よりも低い。すなわち、第1速度V1はエンジンの常用回転域よりも低いので、エンジン1が始動された後においては、浮揚効果が各摺動部41〜44において常時得られるようになっている。逆に、エンジン1の停止動作時又はエンジン始動動作時において、エンジン1の回転数NEが、第1速度V1を下回る場合に、前記浮揚効果が弱まることになる。
【0036】
また、エンジン1は、空気ポンプ5を備え、空気ポンプ5から、各摺動部41〜44の各摺動面に空気が供給されるようになっている。シリンダブロック2は、主軸受内周面3aに形成された環状の主軸受内周溝3bと、主軸受内周溝3bと空気ポンプ5からの空気供給管5aとを連通する第1空気通路13と、を備えている。
【0037】
クランクシャフト10は、第2空気通路23を備えている。第2空気通路23は、一端部側の開口部23aがクランクジャーナル外周面11aに開口されており、他端部側の開口部23bがクランクピン外周面12aに開口されている。
【0038】
コンロッド20は、大端部内周面21aに形成された環状の大端部内周溝21bと、第3空気通路33と、を備えている。第3空気通路33は、大端部内周溝21bに開口した開口部33aと、小端部内周面22aに開口した開口部33bとを有している。
【0039】
上記構成によって、空気ポンプ5から吐出された空気は、空気供給管5a及び第1空気通路13を介して、まず主軸受内周溝3bに供給され、次いで主軸受内周溝3bから第1摺動部41の各摺動面11a,3aに供給される。
図3は
図1のIII−III線に沿った第1摺動部41の断面図であり、主軸受内周溝3bは環状に形成されているので、第2空気通路23の開口部23aは、クランクシャフト10の回転によらず、主軸受内周溝3bと常時対向することになり、空気が、第1空気通路13から第2空気通路23へ常時、効率的に供給される。
【0040】
図1に示すように、このとき、第1摺動部41の各摺動面11a,3aに供給された空気の一部は、第2空気通路23へ供給されず、主軸受内周面3aとクランクジャーナル外周面11aとの間の間隙(第1気層41a)を通して摺動面の外部へ噴出される。
【0041】
第2空気通路23に供給された空気は、第2摺動部42の各摺動面12a,21aへ供給される。大端部内周溝21bは環状に形成されているので、第2空気通路23の開口部23bは、クランクシャフト10の回転によらず、大端部内周溝21bに常時対向するので、第2空気通路23から大端部内周溝21bを介して、第3空気通路33へ空気が常時、効率的に供給される。
【0042】
このとき、第2摺動部42の各摺動面12a,21aに供給された空気の一部は、第3空気通路33へ供給されず、大端部内周面21aとクランクピン外周面12aとの間の間隙(第2気層42a)を通して摺動面の外部へ噴出される。
【0043】
第3空気通路33に供給された空気は、第3摺動部43の各摺動面22a,31aへ供給され、小端部内周面22aとピストンピン外周面31aとの間の間隙(第3気層43a)を通して、摺動面の外部へ噴出され、その一部はピストンピン孔30aとピストンピン外周面31aとの間を通過して、シリンダ内面4aへ噴出される。シリンダ内面4aに噴出された空気は、シリンダ内面4aに沿って、ピストンリング外周面32aに供給される。
【0044】
すなわち、少なくとも、空気供給管5aと、第1空気通路13と、主軸受内周溝3bと、第1気層41aと、第2空気通路23と、第2気層42aと、大端部内周溝21bと、第3空気通路33と、第3気層43aとによって、空気ポンプ5から各摺動面へ至る空気供給経路110が構成されている。空気供給経路110は各気筒に対応して設けられており、例えば、
図4に示すようにエンジン1が4気筒エンジンである場合には、第1〜第4気筒に対応して、空気ポンプ5から各気筒の各摺動部41〜44にそれぞれ至る第1〜第4空気供給経路111〜114が設けられている。そして、空気供給経路110と空気ポンプ5とによって本発明の空気供給手段100が構成されている。
【0045】
すなわち、空気供給手段100を作動させることによって、各摺動部41〜43に第1〜第3気層41a〜43aを形成して空気軸受を構成できるので、摺動面の相対速度Uが所定の速度U0を下回る場合でも、各摺動部41〜43を浮揚状態に維持しやく、摺動面における摩擦抵抗を大幅に低減させることができるとともに、各摺動面が接触して摺れ合うことが抑制される。
【0046】
しかも、第1摺動部41において、摺動面11a,3aから外部へ空気を噴出させることができ、第2摺動部42において、摺動面12a,21aから外部へ空気を噴出させることができ、第3摺動部43において、摺動面22a,31aから外部又はシリンダ内面4aへ空気を噴出させることができる。
【0047】
これによって、摺動面への異物の侵入が阻止され、摺動面への異物の付着が抑制される。したがって、摺動面の面性状が低摩擦処理が施された状態に維持されるので、摺動面における摩擦抵抗の増大が抑制され、よって、一方の部材を他方の部材に対して浮揚させる浮揚効果を持続させることができる。
【0048】
次に、上記主運動系を備えたエンジン1とその装備品とで構成されるエンジンシステム60について説明する。
図5は、エンジンシステム60の概略構成を示すブロック図である。エンジンシステム60は、エンジン1と、変速機61と、スタータ62と、空気ポンプ5と、空調装置(図示しない)用のエアコンコンプレッサ63と、エンジン1に冷却水を循環させるための水ポンプ64と、オルターネータ65と、点火プラグ66と、燃料噴射弁67と、排気シャットバルブ68と、を備えている。
【0049】
変速機61は、エンジン1の駆動力を所定の減速比で変速して駆動輪へ出力する変速機本体611と、変速機本体611とエンジン1とを動力伝達可能に接続するトルクコンバータ612と、を備えている。トルクコンバータ612は、ロックアップクラッチ612aを備えており、ロックアップクラッチ612aを接続させることにより、エンジン1及び変速機本体611間の動力伝達を直結状態にすることができる。
【0050】
スタータ62は、クランクシャフト10を回転駆動するためのモータであり、例えば通電されると、クランクシャフト10の変速機61側の軸端部に設けたフライホィールの外周部のリングギヤ(図示しない)に係合して、クランクシャフト10を回転駆動させる。スタータ62として、駆動ベルト及びプーリを介して、クランクシャフト10を回転駆動させてもよいし、常時リングギヤに噛み合うタイプのスタータを採用してもよい。
【0051】
エアコンコンプレッサ63、水ポンプ64、及びオルターネータ65は、それぞれ補機ベルト69及び各駆動プーリ631,641,651を介して、クランクシャフト10のクランクプーリ101に動力伝達可能に連結されている。さらに、エアコンコンプレッサ63、水ポンプ64、及びオルターネータ65は、各駆動プーリ631,641,651との動力伝達を分離することができるクラッチ機構632,642,652をそれぞれ備えるようにしてもよい。
【0052】
エアコンコンプレッサ63及び水ポンプ64は、それぞれ吐出容量を調整可能な可変容量タイプである。すなわち、エアコンコンプレッサ63及び水ポンプ64は、それぞれ駆動要求が無い場合には、吐出容量を小さく又は0にしてエンジン負荷を低減させることができ、駆動要求が有る場合には、吐出容量を大きくしてエンジン負荷を増大させることができる。
【0053】
オルターネータ65は、バッテリ(図示しない)の充電状況及びエンジン1の運転状況に応じて、発電負荷を自在に調整できるようになっている。すなわち、発電負荷を小さくすることによって、発電量を抑制させてエンジン負荷を低減させることができ、発電負荷を大きくすることによって、発電量を増大させてエンジン負荷を増大させることができる。
【0054】
また、このほか、エンジン1に装備される補機として、オイルポンプや負圧ポンプを備える場合には、これらのポンプを、エアコンコンプレッサ63,水ポンプ64と同様に、吐出容量を調整可能な可変タイプを採用するとともに、補機ベルトからの動力伝達を分離するクラッチ機構を備えるようにすればよい。これにより、エンジン負荷を自在に増大させ、又は低減させることができる。
【0055】
点火プラグ66は、エンジン1の点火を行うものである。燃料噴射弁67は、エンジン1へ燃料を供給するものである。すなわち、点火プラグ66及び燃料噴射弁67を制御することで、エンジン1の燃焼が制御されるようになっている。
【0056】
排気シャットバルブ68は、エンジン1から排気ガスを排出する排気管6に設けられており、排気管6内の排気流路を開閉できるバルブである。排気シャットバルブ68を閉弁させることで、排気管6内の背圧を上昇させてエンジン回転を低減させることができる。
【0057】
すなわち、エンジンシステム60は、上記各装備品を適宜制御することによって、エンジン1の負荷を増大させ又は低減させることができるようになっている。例えば、エンジン負荷を増大させる場合、変速機61のロックアップクラッチ612aを接続してエンジン1と変速機本体611とを直結状態とさせ、エアコンコンプレッサ63及び水ポンプ64の吐出量を増大させ、オルターネータ65の発電負荷を増大させ、及び排気シャットバルブ68を閉弁させることの、少なくとも1つを行えばよい。
【0058】
逆に、エンジン負荷を低減させる場合には、変速機61のロックアップクラッチ612aを分離させ、エアコンコンプレッサ63及び水ポンプ64の吐出量を0又は低減させ、オルターネータ65の発電負荷を0又は低減させ、及び排気シャットバルブ68を開弁させることの、少なくとも1つを行えばよい。また、エアコンコンプレッサ63、水ポンプ64及びオルターネータ65がクラッチ機構632,642,652を備えている場合には、クラッチ機構632,642,652分離させることによって、エアコンコンプレッサ63,水ポンプ64及びオルターネータ65の回転抵抗分、さらにエンジン負荷を低減させることができる。
【0059】
したがって、変速機61のロックアップクラッチ612aと、エアコンコンプレッサ63と、水ポンプ64と、オルターネータ65と、排気シャットバルブ68と、によって、エンジン負荷増大手段及びエンジン負荷低減手段としての、エンジン負荷設定手段600が構成される。
【0060】
また、エンジンシステム60は、エンジンシステム60を操作するための操作部50と、センサ70と、制御装置90と、を備えている。制御装置90は、センサ70で検出された、操作部50への操作入力及びエンジンシステム60の運転状態に基づいて、エンジンシステム60の各種動作を制御している。
【0061】
センサ70には、例えばエンジン回転センサ71、トルクセンサ72、筒内圧力センサ73、燃圧センサ74、車速センサ77、IGセンサ78、アクセル開度センサ79、ブレーキセンサ80、及びレンジセンサ81が含まれる。
図6を併せて参照して、エンジンシステム60の制御システムについて説明する。
【0062】
エンジン1には、エンジン回転センサ71と、トルクセンサ72と、筒内圧力センサ73と、燃圧センサ74と、が設けられている。変速機61には、車速センサ77が設けられている。
【0063】
エンジン回転センサ71は、クランクシャフト10の回転を検出する。トルクセンサ72は、エンジン1の実トルクを検出する。筒内圧力センサ73はシリンダ4(
図1参照)内の燃焼圧力を検出する。燃圧センサ74は、燃料噴射弁67に供給される燃料の圧力を検出する。車速センサ77は、車両の車速を検出する。
【0064】
また、操作部50には、イグニッションスイッチ51のON/OFFを検知するIGセンサ78と、アクセルペダル装置52のペダル開度を検出するアクセル開度センサ79と、ブレーキペダル装置53のON/OFFを検出するブレーキセンサ80と、変速機61を操作するためのシフトレバー54のシフト位置を検出するレンジセンサ81と、が設けられている。
【0065】
制御装置90は、エンジン回転センサ71からの信号を受けて、エンジン1の回転速度とクランクシャフト10の回転角度とを算出し、さらにクランクシャフト10の回転角度に基づいて各気筒の燃焼行程を判定する。
【0066】
また、制御装置90は、IGセンサ78からの信号を受けて、エンジン停止要求及びエンジン始動要求を判定する。具体的には、イグニッションスイッチ51がON位置からOFF位置へ切換操作された場合、エンジン停止要求を判定し、イグニッションスイッチ51がOFF位置からON位置へ切換操作された場合、エンジン始動要求を判定する。また、エンジンシステム60がアイドルストップ機構を備えている場合、制御装置90は、アイドルストップさせるためのエンジン停止要求と、アイドルストップした状態から再始動させるためのエンジン始動要求と、を判定している。
【0067】
具体的には、制御装置90は、例えば、車速センサ77、アクセル開度センサ79、ブレーキセンサ80、及びレンジセンサ81からの信号を受けて、車速が0であり、シフトレバー54がD(ドライブ)レンジに位置しており、アクセルペダル装置52のペダル開度が0であり、ブレーキペダル装置53がON操作されている場合、アイドルストップに入るためのエンジン停止要求を判定する。
【0068】
また、例えば、制御装置90は、エンジン1がアイドルストップしている状態において、ブレーキセンサ80及びレンジセンサ81からの信号を受けて、シフトレバー54がDレンジに位置しており、ブレーキペダル装置53がON状態からOFF操作された場合、アイドルストップから再始動させるためのエンジン始動要求を判定する。
【0069】
また、制御装置90は、エンジン停止要求を判定した場合、点火プラグ66及び燃料噴射弁67を制御して、エンジン停止動作を開始させる。加えて、制御装置90は、エンジン停止動作において、エンジン負荷を増大させるようにエンジン負荷設定手段600を制御するとともに、各摺動部41〜44に空気が供給されるように空気ポンプ5を制御する。
【0070】
また、制御装置90は、エンジン回転センサ71からの信号に基づいてエンジン1が停止したことを検出した場合、エンジン負荷設定手段600によるエンジン負荷の増大を取り消すとともに、空気ポンプ5による空気の供給を停止させる。
【0071】
次に、エンジン1を停止させるときに、制御装置90によって制御されるエンジンシステム60の作動について、
図7のフローチャート及び
図8のタイムチャートを参照して説明する。
【0072】
図7に示すように、ステップS101において、制御装置90は、各種センサ70からの信号を読み込む。
【0073】
ステップS102において、制御装置90は、エンジン回転センサ71からの信号に基づいて、エンジン1が運転中か否かを判定する。
【0074】
エンジン1が運転中であると判定された場合、ステップS103において、制御装置90は、エンジン停止要求を判定する。具体的には、IGセンサ78からの信号に基づいて、又は車速センサ77、アクセル開度センサ79、ブレーキセンサ80、及びレンジセンサ81からの信号に基づいてアイドルストップさせるためのエンジン停止要求を判定する。
【0075】
エンジン停止要求が判定された場合、ステップS104において、制御装置90は、点火プラグ66及び燃料噴射弁67を制御して、エンジン1をエンジン停止動作に移行させる。
【0076】
エンジン1がエンジン停止動作に移行されたとき、ステップS105において、制御装置90は、エンジン負荷を増大させるように、エンジン負荷設定手段600を作動させる。これによって、エンジン1が停止に要する時間が短縮される。
【0077】
さらに、ステップS106において、制御装置90は、空気ポンプ5を作動させて、各摺動部41〜44に空気を供給させる。これによって、各摺動部41〜44において、空気軸受が構成される。
【0078】
ステップS107において、制御装置90は、エンジン回転センサ71からの信号に基づいて、エンジン1が停止したか否かを判定する。
【0079】
エンジン1が停止したと判定された場合、ステップS108において、制御装置90は、エンジン負荷設定手段600の作動を停止させて、エンジン負荷の増大を取り消す。
【0080】
さらに、ステップS109において、制御装置90は、空気ポンプ5の作動を停止させる。
【0081】
したがって、
図8に示すように、制御装置90は、時間t1において、エンジン停止要求を判定すると、エンジン1をエンジン停止動作に移行させながら、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5を作動させ、時間t3において、エンジン1の停止が検知されると、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5の作動を停止させる。
【0082】
上述した実施形態によれば、エンジン1の停止動作時に、エンジン負荷が増大されるので、エンジン1が停止に要する時間が短縮される。これに伴い、エンジン1の停止動作時において、エンジン1の回転数NEが、第1速度V1を下回る時間が短縮される。よって、各摺動部41〜44において、両部材が接触して摺れ合う時間が短縮される。さらに、空気ポンプ5から供給される空気によって各摺動部41〜44における浮揚状態を、エンジン停止動作時を通して維持させやすい。
【0083】
したがって、各摺動部41〜44を構成する、両部材の少なくとも一方の摺動面に形成された低摩擦層40が、摺れ合いによって損耗(摩耗、損傷)することが抑制され、各摺動部41〜44の信頼性の低下を抑制できる。
【0084】
また、空気ポンプ5は、エンジン1が停止した後に停止されるので、不必要な空気供給が防止されるので、空気ポンプを駆動させるためのエネルギの消費を抑制できる。よって、燃費の悪化を抑制できる。
【0085】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第1実施形態に対して制御装置のみ異なり、他は同一である。以下相違点について説明する。第2実施形態の制御装置200は、第1実施形態の制御装置90に対して、第1速度V1をエンジンの運転状態に応じて補正する機能をさらに備えている。
【0086】
具体的には、制御装置200は、第1速度V1を、トルクセンサ72、筒内圧力センサ73、燃圧センサ74からの入力信号に基づいて、各摺動部41〜44にかかる荷重を算出して、該荷重に抗して浮揚効果を生させるように、第1速度V1を補正する。すなわち、各摺動部41〜44にかかる荷重が高くなるにつれて、第1速度V1を増大させるように補正し、各摺動部41〜44にかかる荷重が低くなるにつれて、第1速度V1を低減させるように補正する。
【0087】
また、制御装置200は、エンジン1の回転数が第1速度V1に到達するタイミングで空気ポンプ5を作動させる機能と、エンジン1が停止した後に、空気の供給量を徐々に減少させるように、空気ポンプ5を停止させる機能と、をさらに備えている。
【0088】
次に、エンジン1を停止させるときに、制御装置200によって制御されるエンジンシステム60の作動について、
図9のフローチャート及び
図10のタイムチャートを参照して説明する。
【0089】
図9に示すように、第1実施形態のステップS101〜S105と同様に、ステップS201〜S205において、エンジン1の運転時に、エンジン停止要求が判定された場合、制御装置200は、エンジン1を停止動作に移行させるとともに、エンジン負荷設定手段600を作動させる。
【0090】
このとき、制御装置200は、エンジンの運転状態から第1速度V1を補正する。そして、エンジン1の回転数が前記補正された第1速度V1に到達するタイミングで、空気ポンプ5による空気の供給が開始されるように、所定のタイミングで空気ポンプ5を作動させる。すなわち、
図10に示すように、時間t1においてエンジン1の停止要求が判定されたタイミングから、時間差をもった時間t2で、エンジン1の回転数が補正された第1速度V1に到達するとともに、空気ポンプ5よる空気の供給が開始される。
【0091】
図9に示すように、ステップS208において、制御装置200は、エンジン回転センサ71からの信号に基づいて、エンジン1が停止したか否かを判定する。エンジン1が停止したと判定された場合、ステップS209において、制御装置200は、エンジン負荷設定手段600の作動を停止させて、エンジン負荷の増大を取消す。
【0092】
さらに、ステップS210において、制御装置200は、空気の供給量が徐々に低減されるように空気ポンプ5の作動を制御して停止させる。すなわち、
図10に示すように、制御装置200は、エンジン1が停止した時間t3から、徐々に空気の供給量を低減させて時間t4において停止させるように、空気ポンプ5を制御する。
【0093】
第2実施形態によれば、エンジン1の停止動作時において、エンジン1の回転数が第1速度V1を上回る場合には、各摺動部41〜44における浮揚状態が維持されるために、空気軸受を構成する必要がなく、このタイミングで無駄に空気ポンプ5を作動させることを防止できる。さらに、エンジン停止時において、各摺動部41〜44を構成する一方の部材を他方の部材に、浮揚状態から徐々に接触させることができるので、両部材が接触するときの衝撃を緩和できる。
【0094】
また、第1速度V1を、各摺動部41〜44に作用する荷重に応じて、適宜補正して適切なタイミングで空気ポンプ5を作動させることで、各摺動部41〜44の浮揚状態を、精度よく維持できる。
【0095】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態では、第1実施形態に対して制御装置のみ異なり、他は同一である。以下相違点について説明する。第3実施形態の制御装置300は、第1実施形態の制御装置90に対して、エンジン始動動作時において、エンジン負荷を低減させる機能をさらに備えている。
【0096】
具体的には、制御装置300は、停止状態にあるエンジン1のエンジン始動要求を判定した場合、点火プラグ66、燃料噴射弁67、及びスタータ62によって、エンジン始動動作を開始させる。加えて、制御装置300は、エンジン1の始動動作において、エンジン負荷を低減させるように、エンジン負荷設定手段600を制御する。
【0097】
また、制御装置300は、エンジン始動動作において、各摺動部41〜44に空気が供給されるように空気ポンプ5を制御する機能を、さらに備えている。
【0098】
次に、エンジン1を停止させた後にエンジン1を再始動させるときに、制御装置300によって制御されるエンジンシステム60の作動について、
図11のフローチャート及び
図12のタイムチャートを参照して説明する。
【0099】
図11に示すように、第1実施形態のステップS101〜S109と同様に、ステップS301〜S309において、エンジン1の運転時に、エンジン停止要求が判定された場合、制御装置300は、エンジン1を停止動作に移行させるとともに、エンジン負荷設定手段600を作動させてエンジン負荷を増大させるとともに、及び空気ポンプ5を作動させて、各摺動部41〜44における浮揚状態を維持させたまま、エンジン1を短時間で停止させる。
【0100】
次に、ステップS310において、制御装置300は、エンジン始動要求を判定する。具体的には、IGセンサ78からの信号に基づいて、又はアイドルストップ中である場合には、ブレーキセンサ80及びレンジセンサ81からの信号に基づいて再始動要求を判定する。
【0101】
エンジン始動要求が判定された場合、ステップS311において、制御装置300は、空気ポンプ5を始動させて、各摺動部41〜44に空気の供給を開始させる。
【0102】
次に、ステップS312において、制御装置300は、点火プラグ66、燃料噴射弁67、及びスタータ62を制御して、エンジン1を始動動作に移行させる。
【0103】
エンジン1が始動動作に移行されたとき、ステップS313において、制御装置300は、エンジン負荷を低減させるように、エンジン負荷設定手段600を作動させる。これによって、エンジン1が始動に要する時間が短縮される。
【0104】
さらに、ステップS314において、空気ポンプ5による空気の供給が開始され、各摺動部41〜44に空気軸受が構成される。
【0105】
ステップS315において、制御装置300は、エンジン回転センサ71からの信号に基づいて、エンジン1が始動したか否かを判定する。
【0106】
エンジン1が始動したと判定された場合、ステップS316において、制御装置300は、エンジン負荷設定手段600の作動を停止させて、エンジン負荷の低減を取り消す。
【0107】
さらに、ステップS317において、制御装置300は、空気ポンプ5の作動を停止させる。
【0108】
したがって、
図12に示すように、制御装置300は、時間t1において、エンジン停止要求を判定すると、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5を作動させ、時間t3において、エンジン1の停止が検知されると、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5の作動を停止させる。また、時間t5において、エンジン始動要求を判定すると、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5を作動させ、時間t6において、エンジン1の始動が検知されると、エンジン負荷設定手段600及び空気ポンプ5の作動を停止させる。
【0109】
第3実施形態によれば、第1実施形態におけるエンジン停止時の作用効果に加えて加えて、次の効果を奏する。すなわち、エンジン1の始動動作時に、エンジン負荷が低減されるので、エンジン1が始動に要する時間が短縮される。これに伴い、エンジン1の始動動作時において、エンジン1の回転数NEが、第1速度V1を下回る時間が短縮される。よって、各摺動部41〜44において、両部材が接触して摺れ合う時間が短縮される。さらに、空気ポンプ5から供給される空気によって各摺動部41〜44における浮揚状態を、エンジン始動動作時を通して維持させやすい。
【0110】
したがって、各摺動部41〜44を構成する、両部材の少なくとも一方の摺動面に形成された低摩擦層40が、摺れ合いによって損耗(摩耗、損傷)することが抑制され、各摺動部41〜44の信頼性の低下を抑制できる。
【0111】
また、上記の各実施形態において、エンジン負荷設定手段600を制御して、エンジン停止時に、エンジン負荷の増大を徐々に低減させてもよい。これにより、エンジン1を緩やかに停止させることができるので、各摺動部41〜44を構成する両部材を浮揚状態から徐々に接触させることができる。
【0112】
また、上記の各実施形態では、エンジン負荷設定手段600によるエンジン負荷の調整に加えて、空気ポンプ5による空気の供給を行っているが、どちらか一方のみ実施してもよい。すなわち、エンジン負荷設定手段600を作動させた場合には、エンジン1の始動動作及び停止動作に要する時間を短縮させることができ、空気ポンプ5を作動させた場合には、各摺動部41〜44における浮揚状態を、第1速度V1を下回るエンジン1の運転領域においても実現できる。
【0113】
また、上記の実施形態では、エンジン1の主運動系の摺動部に摩擦低減処理を施した場合を例にとり説明したが、エンジン1の動弁系や、変速機61等、様々な摺動部に適用することができる。また、上記の各実施形態では、無潤滑とした場合を例にとり説明したが、潤滑を併用してもよい。
【0114】
なお、本発明は、以上の実施形態に示すものに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、各種変形および変更を行うことも可能である。