(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
各種回転機器の回転支持部に、
図7に示す様なラジアル玉軸受1が組み込まれている。このラジアル玉軸受1は、単列深溝型であって、互いに同心に配置された外輪2と内輪3との間に複数個の玉4、4を設置して成る。このうちの外輪2の内周面の軸方向中間部に深溝型の外輪軌道5を、内輪3の外周面の軸方向中間部に深溝型の内輪軌道6を、それぞれ全周に亙って形成している。前記各玉4、4は、保持器7により保持された状態で、前記外輪軌道5と前記内輪軌道6との間に転動自在に配置している。そして、この構成により、前記外輪2と前記内輪3との相対回転を自在としている。
【0003】
上述の様なラジアル玉軸受1を構成する、前記外輪2や前記内輪3等の軌道輪を低コストで造る方法として、例えば特許文献1に記載された方法が知られている。この方法では、
図8(A)に示したビレット8の下端部の外径を拘束した状態でこのビレット8を軸方向に押し潰す据え込み加工を施す事により、
図8(B)に示した様な、小径部9と大径部10とから成る、第一中間素材11を形成する。次いで、このうちの小径部9に前方押出加工を施してこの小径部9を小径の第二円筒部12に加工する事により、
図8(C)に示した第二中間素材13とする。次いで、前記大径部10に後方押出加工を施して、この大径部10を大径の第一円筒部14に加工する事により、
図8(D)に示した第三中間素材15とする。次いで、この第三中間素材15に打ち抜き加工を施して、この第三中間素材15の底板部16を打ち抜き、
図8(E)に示した第四中間素材17とする。次いで、
図8(F)に示す様に、この第四中間素材17に打ち抜き加工を施して、この第四中間素材17から、前記第二円筒部12に相当する部分を打ち抜き小径円筒部材18とする。最後に、
図8(G)に示す様に、前記第一円筒部14に相当する部分から内向鍔部19を打ち抜いて、大径円筒部材20とする。これら小径、大径各円筒部材18、20は、何れも特許請求の範囲に記載した円環状の金属素材に相当する部材である。
【0004】
上述の様な工程により得られる小径、大径各円筒部材18、20は、前記外輪2又は前記内輪3の素材となるものであり、この状態では、内径寸法、外径寸法、軸方向寸法、及び内外両周面の形状が、前記外輪2又は前記内輪3の寸法及び形状となっていない。そこで、この様な小径、大径各円筒部材18、20を、前記外輪2又は前記内輪3の形状に加工する作業を、圧延転造加工により行う事が、前記特許文献1及び前記特許文献2に記載される等して従来から知られている。以下、前記小径、大径各円筒部材18、20等の金属素材を、圧延転造加工により、前記外輪2又は前記内輪3の形状に加工する作業に就いて、
図9を参照しつつ簡単に説明する。
【0005】
図9、10は、特許文献2に記載されたリング状部材の製造装置21を示している。この製造装置21は、圧延転造加工により前記小径、大径各円筒部材18、20等の金属素材26を加工後のリング状部材22{仕上げ加工(切削加工及び研削加工)前の内輪3の状態}に加工する為の装置であり、マンドレル23と、成形ロール24と、サポートロール25とを備えている。
【0006】
このうちのマンドレル23は、外周面の軸方向中間部に形成された、前記金属素材26の内周面に転造加工を施す為の第一転造面27と、この第一転造面27の軸方向両側に設けられた円筒面状の1対のマンドレル側規制面28、28とを有している。この様な第一転造面27は、軸方向中間部が軸方向に関して外径が変化しない円筒面状(断面直線状)であり、軸方向両端寄り部分が、軸方向両端に向かう程、外径が大きくなる断面円弧状に形成されている。この様なマンドレル23は、軸方向(
図9、10の上下方向)の変位、及び自身の中心軸を中心とした回転を可能な状態で受け台29に支持されている。
【0007】
又、前記成形ロール24は、円筒状であり、外周面の軸方向中間部に形成された、前記金属素材26の外周面に転造加工を施す為の第二転造面30と、この第二転造面30の軸方向両側に形成された円筒面状の1対の成形ロール側規制面31、31とを有する。このうちの第二転造面30は、軸方向両端寄り部分から軸方向両端縁に掛けての部分が軸方向に関して外径が変化しない円筒面状(断面直線状)であり、軸方向中央寄り部分(円筒面状部分の間部分)が、軸方向中央に向かう程外径が大きくなる断面半円弧状に形成されている。前記成形ロール24は、その中心軸が前記マンドレル23の中心軸と平行な状態で、前記第二転造面30を、このマンドレル23の第一転造面27と対向させている。この様な成形ロール24は、回転しながら水平方向(
図9、10の左右方向)に変位(マンドレル23に遠近動)可能である。
【0008】
又、前記サポートロール25は、軸方向に関して所定の間隔を設けて配置された1対のローラ32、32を備えている。この様なサポートロール25は、前記マンドレル23の中心軸に関して前記成形ロール24と反対側に、その中心軸がこのマンドレル23の中心軸と平行な状態に設けられている。この状態で、前記両ローラ32、32の外周面の一部と、前記両マンドレル側規制面28、28とが対向している。尚、前記成形ロール24の回転軸と、前記サポートロール25の回転軸とは、同期機構33により連結されている。従って、これら成形ロール24とサポートロール25とは、電動モータ34の回転運動に基づいて、同期して回転する事ができる。
【0009】
次に、上述の様な構成を有するリング状部材の製造装置21により、前記金属素材26に圧延転造加工を施して前記リング状部材22を造る手順に就いて、
図10を参照しつつ説明する。
先ず、
図10(A)に示す様に、前記金属素材26の内径側に前記マンドレル23を挿通した状態で、この金属素材26の円周方向一部を、このマンドレル23の第一転造面27と前記成形ロール24の第二転造面30との間に配置する。この状態で前記サポートロール25を構成する両ローラ32、32の外周面の円周方向一部を、前記マンドレル23の両マンドレル側規制面28、28に近接対向させておく。
【0010】
次いで、前記電動モータ34の回転運動に基づいて、前記成形ロール24と前記サポートロール25とを回転駆動した状態で、この成形ロール24を、前記マンドレル23に近付く方向(
図9、10の左側)に変位させる。すると、この成形ロール24が、前記金属素材26に当接して、この金属素材26が連れ回される。
次いで、この状態から更に、前記成形ロール24を、前記マンドレル23に近付く方向に変位させると、このマンドレル23が、前記金属素材26を介して押圧されて、前記サポートロール25の両ローラ32、32に当接する。すると、これら両ローラ32、32の回転に伴い、前記マンドレル23が連れ回される。尚、この状態で、前記サポートロール25は、このマンドレル23が、
図9、10の左側に変位しない様にサポートしている。
【0011】
上述の状態から更に、前記成形ロール24を、前記マンドレル23に近付く方向に変位させると、この成形ロール24と、前記サポートロール25にサポートされた前記マンドレル23との間で、前記金属素材26の円周方向一部が押圧されて、この金属素材26の内周面にこのマンドレル23の第一転造面27が、同じく外周面に前記成形ロール24の第二転造面30が、それぞれ転造される。又、これに伴い、前記金属素材26の外径寸法及び軸方向寸法が大きくなる。尚、前記成形ロール24は、前記両成形ロール側規制面31、31が、前記マンドレル23の両マンドレル側規制面28、28に当接すると、このマンドレル23に向かう方向の変位が停止されて、圧延転造加工が終了する。そして、この様にして造られたリング状部材22に対して、切削加工及び研削加工等の仕上げ加工を施す事により、前記内輪3とする。
【0012】
上述の様な製造方法によれば、前記金属素材26に鍛造加工を施して前記リング状部材22を造る場合と比べて、加工装置の小型化を図る事ができると共に、後の仕上げ加工(切削、旋削加工)の際の取り代を小さくできる為、設備コスト及び材料コストの低減を図る事ができる。但し、上述の製造方法の場合、前記リング状部材22の外径寸法(加工中の金属素材の外周面)を規制する手段が設けられていない。この為、前記金属素材26の寸法形状のばらつき、又は、転造装置へのこの金属素材26の組み付け状態のばらつき等によって、前記リング状部材22の形状(外径寸法及び軸方向寸法)にばらつきが生じる可能性がある。この様なばらつきが生じると、仕上げ加工(切削加工及び研削加工)が面倒になり、製造コストが嵩んでしまう可能性がある。
【0013】
一方、特許文献3には、マンドレルと、転造加工後のリング状部材の外径寸法及び軸方向寸法を規制する為の拘束型とを備えた金型を用いた圧延転造加工に関する技術が記載されている。この技術によれば、リング状部材の形状にばらつきが生じる事の防止を図れる。但し、使用する金属素材の体積が所定値よりも大きい場合には、成形ロールによる押圧が終了するよりも早い段階で、前記金型の成形空間が前記金属素材により満たされて、この金属素材の内部応力が高くなり過ぎてしまい、前記マンドレル又は前記拘束型に傷が生じる可能性がある。又、これら両部材が損傷しない場合でも、前記金型の成形空間内で行き場のない金属素材が歪んでしまい、加工後のリング状部材の真円度が悪化してしまう可能性がある。尚、この様な問題は、金型の温度変化に基づく、前記金属素材の体積変化によっても生じる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、マンドレル及び外径拘束型に損傷が生じる事を防止すると共に、金属素材の体積のばらつきに拘わらず、加工後のリング状部材の形状の精度の向上を図れるリング状部材の製造方法及び製造装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のリング状部材の製造方法及び製造装置のうち、請求項1に記載したリング状部材の製造装置は、それぞれの中心軸が互いに平行な状態で配置された、マンドレルと、外径拘束型とを備えている。
このうちのマンドレルは、軸方向に離隔した状態で互いに同心に設けられた1対の支持軸部と、軸方向に関してこれら両支持軸部同士の間に、これら両支持軸部と同心に設けられた転造軸部とを有している。
このうちの両支持軸部は、前記転造軸部よりも大径で、支持部に対して支持されるものである。
又、前記転造軸部は、円環状の金属素材の内周面に転造加工を施す為の第一転造面を有している。尚、この第一転造面は、前記転造軸部の外周面に直接形成されたものだけでなく、この転造軸部の外周面に外嵌固定された別体の円環状部材の外周面に形成されたものにより構成する事もできる。
前記外径拘束型は、円環状であり、その内周面に前記金属素材の外周面に転造加工を施す為の第二転造面が形成されている。この様な外径拘束型は、その内径側に前記マンドレルの転造軸部を挿通し、且つ、この第二転造面を前記第一転造面に対向した状態で配置されている。
上述の様なリング状部材の製造装置は、前記マンドレルの第一転造面と、前記外径拘束型の第二転造面と、前記両支持軸部の前記転造軸部側の端面とにより形成される成形空間に、前記金属素材の円周方向一部を配置した状態で、自身の中心軸を中心として回転する前記マンドレルの前記第一転造面と、自身の中心軸を中心として回転する前記外径拘束型の前記第二転造面との間で、この金属素材を押圧して、この金属素材の内周面及び外周面に転造加工を施す事によりリング状部材を形成するものである。
【0017】
特に本発明のリング状部材の製造装置に於いては、使用時に、前記金属素材の内周面と対向する部分に、その内径側に前記マンドレルの転造軸部のうちの前記第一転造面以外の部分を挿通した可動環状部材が設けられている。
また、この可動環状部材が、弾性支持手段により、径方向に関して弾性的に支持されている。
そして、この可動環状部材は、前記金属素材から
前記弾性支持手段の弾性力よりも大きな押圧力を受けた場合に、この押圧力の方向に変位可能である。
【0018】
本発明のリング状部材の製造装置を実施する場合には、付加的に、請求項2に記載した発明の様に、前記可動環状部材を、前記金属素材の内周面のうち、加工後に最も内径側に突出する部分に対向する様に配置する。具体的には例えば、加工対象が外輪の場合には、内周面の中央部に形成される外輪軌道と両端寄り部分に形成されるシール係止溝との間部分に対向させる事ができる。
【0019】
本発明のリング状部材の製造方法及び製造装置のうち、請求項3に記載したリング状部材の製造方法で使用するリング状部材の製造装置は、上述の様な本発明のリング状部材の製造装置である。
【0020】
特に本発明のリング状部材の製造方法に於いては、前記可動環状部材が、前記金属素材から
前記弾性支持手段の弾性力よりも大きな押圧力を受けた場合に、この可動環状部材をこの押圧力の方向に変位させる事により、前記金属素材の余肉を、前記成形空間のうちこの可動環状部材の変位により拡張した部分に逃がす様にする。
【発明の効果】
【0021】
上述した様な構成を有する本発明によれば、マンドレル及び外径拘束型に損傷が生じる事を防止すると共に、金属素材の体積のばらつきに拘わらず、加工後のリング状部材の形状の精度の向上を図れる。
即ち、本発明の場合、前記金属素材の内周面と対向する部分に、使用時にこの金属素材から所定の大きさの径方向の押圧力を受けた場合に、この押圧力の方向に変位可能な状態で支持された可動環状部材を設けている。この為、使用時に、成形空間内の金属素材の内部応力が高くなった場合でも、前記可動環状部材が前記押圧力の方向に変位して、成形空間のうちの当該変位に伴い拡張した部分に前記金属素材の余肉を逃がす事ができる。この結果、成形空間内での前記金属素材の内部応力が低くなり、前記マンドレルに加わる応力を小さくできる。
【0022】
又、上述した様に、加工中の金属素材の内部応力を解放する事ができる為、成形空間内で金属素材が歪む事を防止できる。この結果、加工後のリング状部材の真円度が悪化する事を防止できる。
尚、上述した様に、加工中に、成形空間内の金属素材の内部応力が高くなる場合とは、金属素材の体積のばらつきに基づいて、この金属素材の体積が所定の大きさ(目標とするリング状部材の体積)よりも大きい場合が考えられる。本発明は、この様な場合に、前記金属素材の内部応力を低くして、前記マンドレル及び外径拘束型に加わる応力を小さくすると共に、成形空間内で金属素材が歪む事を防止する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜3により説明する。尚、本例のリング状部材の製造方法及び製造装置の特徴は、加工中に成形空間内の金属素材26の内部応力が高くなった場合に、この金属素材26の余肉を特定の方向に逃がす事により、前記成形空間内のこの金属素材26の内部応力を下げる事ができる構造を設けた点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の
図9、10に示した従来の製造方法及び製造装置と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、本例は、本発明を、前記金属素材26に圧延転造加工を施して外輪用のリング状部材を造る為の製造方法及び製造装置に適用した例を示している。但し、本発明のリング状部材の製造方法及び製造装置は、前述した
図9、10に示した従来構造と同様に、内輪用のリング状部材を対象とする事もできる。
【0025】
本例のリング状部材の製造装置21aは、マンドレル23aと、1対の可動環状部材36a、36bと、外径拘束型37と、成形ロール24aと、サポートロール25aとを備えている。
このうちの、マンドレル23aは、軸方向に離隔した状態で互いに同心に設けられた1対の金属製(例えば、ダイス鋼、ハイス鋼、超硬合金等)の支持軸部38a、38bと、軸方向に関してこれら両支持軸部38a、38b同士の間に同心に設けられた金属製(例えば、ダイス鋼、ハイス鋼、超硬合金等)の転造軸部39とを有している。
【0026】
前記両支持軸部38a、38bのうちの一方(
図1の上方)の支持軸部38aは、その中心に軸方向両端が開口した中心孔40aを有する中空軸状である。この中心孔40aの軸方向一端部(
図1の上端部)には、ねじ孔41aが形成されている。一方、この中心孔40aの軸方向他端部(
図1の下端部)には、軸方向中間部よりも大径な嵌合孔42aが形成されている。又、前記一方の支持軸部38aの外周面のうち、軸方向一方側半部には、軸方向他方側半部よりも小径で軸方向に関して外径が変化しない小径円筒部43aが形成されている。又、本例の場合、前記一方の支持軸部38aの外周面のうち、他方側半部をマンドレル側規制面44aとしている。尚、上述の中心孔40aは、後述する転造軸部39を前記一方の支持軸部38aから取り外す際に、杆状のノックアウト治具を挿通する為に利用する事もできる。
【0027】
又、前記両支持軸部38a、38bのうちの他方(
図1の下方)の支持軸部38bは、上述した一方の支持軸部38aと
図1の上下方向に関して対称な形状としている。
即ち、前記他方の支持軸部38bは、その中心に軸方向両端に開口した中心孔40bを有する中空軸状である。又、この中心孔40bの軸方向一端部(
図1の上端部)には、軸方向中間部よりも大径な嵌合孔42bが形成されている。一方、前記中心孔40bの軸方向他端部には、ねじ孔41bが形成されている。更に、前記他方の支持軸部38bの外周面のうち、軸方向他方側半部には、軸方向一方側半部よりも小径で軸方向に関して外径が変化しない小径円筒部43bが形成されている。又、本例の場合、前記他方の支持軸部38bの外周面のうち、軸方向一方側半部をマンドレル側規制面44bとしている。
尚、上述の様な支持軸部38a、38bは、例えば、超硬合金等の様な剛性が高い金属製とするのが好ましい。又、前記両支持軸部38a、38bの外径寸法は、適宜設定する事ができる。これら両支持軸部38a、38bの外径寸法を小さくした場合には、割れ難い鋼製(例えば、ダイス鋼、ハイス鋼)とするのが好ましい。
【0028】
又、前記転造軸部39は、固定用軸部材45と、軌道形成部材46と、1対の係止溝形成部材47a、47bとを備えている。
このうちの固定用軸部材45は、上述の両支持軸部38a、38bよりも軸方向寸法が小さく、全長に亙り外径が変化しない円柱状部材である。この様な固定用軸部材45は、その軸方向両端部分を、それぞれ嵌合部48a、48bとしている。これら両嵌
合部48a、48bのうちの一方の嵌合部48aの外径寸法は、前記一方の支持軸部38aの嵌合孔42aの内径寸法よりも僅かに大きい。一方、前記両嵌合部48a、48bのうちの他方の嵌合部48bの外径寸法は、前記他方の支持軸部38bの嵌合孔42bの内径寸法よりも僅かに小さい。
【0029】
又、前記軌道形成部材46は、筒状部材であり、内周面が軸方向に関して内径が変化しない円筒面に形成されている。一方、前記軌道形成部材46の外周面は、軸方向中央ほど外径が大きくなる曲面状に形成されている。尚、この軌道形成部材46の外周面は、前記金属素材26の内周面の軸方向中央部に外輪軌道を形成する為のものである。この様な軌道形成部材46は、前記固定用軸部材45の外周面の軸方向中央部に外嵌固定されている。
【0030】
又、前記両係止溝形成部材47a、47bは、それぞれが円輪状部材である。このうちの一方の係止溝形成部材47aは、その内周面が、軸方向に関して内径が変化しない円筒面状に形成されており、前記固定用軸部材45の外周面のうち、前記軌道形成部材46よりも軸方向一方側(
図2の上方側)に、この軌道形成部材46の軸方向一端面と離隔した状態で外嵌固定されている。又、前記一方の係止溝形成部材47aの外周面は、円筒面部49aと凸部50aとにより構成されている。このうちの円筒面部49aは、前記一方の係止溝形成部材47aの外周面の軸方向一方側半部に、軸方向に関して外径が変化しない状態で形成されている。一方、前記凸部50aは、前記一方の係止溝形成部材47aの外周面の軸方向他方側半部に、全周に亙り前記円筒面部49aよりも外径側に突出した状態で形成されている。この様な凸部50aは、前記一方の係止溝形成部材47aの中心軸を通る仮想平面に関する断面形状が、外径側に向かうほど軸方向に関する寸法が小さくなる略半円状である。上述した様な前記一方の係止溝形成部材47aの外周面は、前記金属素材26の内周面の軸方向一端寄り部分にシールリングを係止する為のシール係止溝を形成する為のものである。
【0031】
又、前記両係止溝形成部材47a、47bのうちの他方の係止溝形成部材47bは、その内周面が、軸方向に関して内径が変化しない円筒面状に形成されており、前記固定用軸部材45の外周面のうち、前記軌道形成部材46よりも軸方向他方側(
図2の下方側)に、この軌道形成部材46の軸方向他端面と離隔した状態で外嵌固定されている。又、前記他方の係止溝形成部材47aの外周面は、円筒面部49bと、凸部50bとにより構成されている。このうちの円筒面部49bは、前記他方の係止溝形成部材47aの外周面の軸方向他方側半部に、軸方向に関して外径が変化しない状態で形成されている。一方、前記凸部50bは、前記他方の係止溝形成部材47aの外周面の軸方向一方側半部に、全周に亙り前記円筒面部49bよりも外径側に突出した状態で形成されている。この様な凸部50bは、前記他方の係止溝形成部材47bの中心軸を通る仮想平面に関する断面形状が、外径側に向かうほど軸方向に関する寸法が小さくなる略半円状に形成されている。上述した様な他方の係止溝形成部材47bの外周面は、前記金属素材26の内周面の軸方向他端寄り部分にシールリングを係止する為のシール係止溝を形成する為のものである。
上述した様な軌道形成部材46の外周面と、前記両係止溝形成部材47a、47bの外周面とにより、円環状の金属素材の内周面に転造加工を施す為の第一転造面51を構成している。
【0032】
以上の様な構成を有する転造軸部39は、前記一方の嵌合部48aを前記一方の支持軸部38aの嵌合孔42aに締り嵌めで内嵌する事により、この一方の支持軸部38aに対する軸方向の変位及び傾斜を規制された状態で支持固定されている。
一方、前記転造軸部39は、前記他方の嵌合部48bを前記他方の支持軸部38bの嵌合孔42bに隙間嵌めで内嵌されている。この状態で、この他方の支持軸部38bは、前記金属素材26の着脱の為に前記転造軸部39に対して軸方向に変位する事ができる。但し、加工中には、前記他方の支持軸部38bが、前記転造軸部39に対して軸方向に変位しない様に規制する。尚、前記他方の支持軸部38bに対する、前記転造軸部39の径方向のがたつき及び傾斜の大きさが最小限となる様に、前記他方の嵌合部48bの外径寸法と、前記他方の支持軸部38bの嵌合孔42bの内径寸法とを規制する。
【0033】
上述した様なマンドレル23aを構成する一方の支持軸部38aは、前記小
径円筒部43aに外嵌した複列のラジアル円すいころ軸受53aを介して、例えばハウジング等の固定部分に支持固定された固定支持部54aに回転可能な状態で支持されている。この様な固定支持部54aは、加工中以外は、前記金属素材26の着脱の為に、例えば軸方向に退避させる事ができる。又、前記ラジアル円すいころ軸受53aを構成する、内輪の軸方向他端面は、前記小径円筒部43aの軸方向他端縁と前記マンドレル側規制面44aの軸方向一端縁とを連続する段部55aに当接している。一方、前記内輪の軸方向一端面は、前記一方の支持軸部38aの軸方向一端面に固定された抑え部材56aの軸方向他端面に当接している。この様にして、前記ラジアル円すいころ軸受53aの軸方向に関する位置決めを図っている。尚、前記抑え部材56aは、円板状であり、中心部に形成された通孔57aを挿通したボルト58aを、前記一方の支持軸部38aのねじ孔41aに螺合する事により、この一方の支持軸部38aの軸方向一端面に固定されている。上述した様に、この一方の支持軸部38aを、前記ラジアル円すいころ軸受53aを介して前記固定支持部54aに支持する事により、前記一方の支持軸部38aの軸方向他端部(転造軸部39側の端部)の振れを小さくする事ができる。
【0034】
一方、前記マンドレル23aを構成する他方の支持軸部38bは、小径円筒部43bに外嵌した複列のラジアル円すいころ軸受53bを介して、固定支持部54bに回転可能な状態で支持されている。この様な固定支持部54bは、加工中以外は、前記金属素材26の着脱の為に、例えば軸方向に退避させる事ができる。又、前記ラジアル円すいころ軸受53bを構成する、内輪の軸方向一端面は、前記小径円筒部43bの軸方向一端縁と前記マンドレル側規制面44bの軸方向他端縁とを連続する段部55bに当接している。一方、前記内輪の軸方向他端面は、前記他方の支持軸部38bの軸方向他端面に固定された抑え部材56bの軸方向一端面に当接している。この様にして、前記ラジアル円すいころ軸受53bの軸方向に関する位置決めを図っている。尚、前記抑え部材56bは、円柱状であり、中心部に形成された段付き形状の通孔57bを挿通したボルト58bを、前記他方の支持軸部38bのねじ孔41bに螺合する事により、この他方の支持軸部38bの軸方向他端部に組み付けられている。上述した様に、この他方の支持軸部38bを、前記ラジアル円すいころ軸受53bを介して前記固定支持部54bに支持する事により、前記他方の支持軸部38bの軸方向他端部(転造軸部39側の端部)の振れを小さくする事ができる。
【0035】
又、前記両可動環状部材36a、36bは、それぞれが金属製(例えば、ダイス鋼、ハイス鋼、超硬合金等)の円輪状部材である。この様な両可動環状部材36a、36bは、同一の形状であり、その内周面は、それぞれ軸方向に関して内径寸法が変化しない円筒面状である。又、前記両可動環状部材36a、36bの内径寸法d
36は、前記固定用軸部材45の外径寸法D
45よりも大きい(d
36>D
45)。一方、前記両可動環状部材36a、36bの外周面は、それぞれ軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面状である。この様な両可動環状部材36a、36bのうちの一方の可動環状部材36aは、前記軌道形成部材46と前記一方の係止溝形成部材47aとの間に配置されている。具体的には、前記一方の可動環状部材36aの軸方向一端面のうちの後述する成形ロール24a側の円周方向一部を、前記一方の係止溝形成部材47aの軸方向他端面に当接させると共に、前記一方の可動環状部材36aの軸方向他端面のうちの後述する成形ロール24a側の円周方向一部を、前記軌道形成部材46の軸方向一端面に当接させた状態で配置されている。又、この状態で、前記一方の可動環状部材36aの外周面を、前記金属素材26の内周面のうち、加工後に外輪軌道が形成される部分と、一方のシール係止溝が形成される部分との間部分に対向させている。尚、前記金属素材26の内周面のうち、前記一方の可動環状部材36aの外周面が対向した部分は、加工後のリング状部材35の内周面のうちで最も内径側に位置する部分である。
【0036】
又、前記両可動環状部材36a、36bのうちの他方の可動環状部材36bは、前記軌道形成部材46と前記他方の係止溝形成部材47bとの間に配置されている。具体的には、前記他方の可動環状部材36bの軸方向他端面のうちの後述する成形ロール24a側の円周方向一部を、前記他方の係止溝形成部材47bの軸方向一端面に当接させると共に、前記他方の可動環状部材36bの軸方向一端面のうちの後述する成形ロール24a側の円周方向一部を、前記軌道形成部材46の軸方向他端面に当接させた状態で配置されている。又、この状態で、前記一方の可動環状部材36aの外周面を、前記金属素材26の内周面のうち、加工後に外輪軌道が形成される部分と、他方のシール係止溝が形成される部分との間部分に対向させている。尚、前記金属素材26の内周面のうち、前記一方の可動環状部材36aの外周面が対向した部分は、前記一方の可動環状部材36aが対向した部分と同様に、加工後のリング状部材35の内周面のうちで最も内径側に位置する部分である。
【0037】
又、上述した様な構成を有する両可動環状部材36a、36bと、例えばハウジング等の固定部分に支持固定された固定支持部(図示省略)との間に、前記両可動環状部材36a、36bを径方向に関して弾性的に支持する為の弾性支持手段52が設けられている。この様な弾性支持手段52は、例えばコイルバネ等の弾性部材により構成されている。
【0038】
本例の場合、
図3(a)に示す加工開始前の状態(リング状部材の製造装置21aに金属素材26を組み付けた状態)では、前記弾性支持手段52は、前記両可動環状部材36a、36bを、径方向に関して、後述する成形ロール24aに向かう方向(
図3の右方向)に付勢していない(弾性力を付与していない)。又、この様な加工開始前の状態で、前記両可動環状部材36a、36bの内周面のうちの前記成形ロール24a側部分と、前記固定用軸部材45の外周面との間には、径方向に関する隙間が存在している。又、前記弾性支持手段52は、前記両可動環状部材36a、36bに対して、前記成形ロール24aから離れる方向の所定の大きさの押圧力が加わると、自身が弾性変形する事により、前記両可動環状部材36a、36bが前記押圧力の方向(成形ロール24aから離れる方向)に変位する事を許容する。更に、
図3(b)に示す加工終了時の状態でも、前記両可動環状部材36a、36bの内周面のうちの前記成形ロール24a側部分と、前記固定用軸部材45の外周面との間には、径方向に関する隙間が存在する様に、各部の寸法を規制している。
【0039】
尚、上述の様な弾性支持手段52の弾性力は、加工条件との関係で適宜決定する。又、本例の場合、この弾性支持手段52を模式的に図示しているが、この弾性支持手段52は、前記両可動環状部材36a、36bを、径方向に関して弾性的に支持する事ができれば、その構造は単一の部材により構成されるものに限らず、複数の部材を組み合わせて構成したものであっても良い。又、前記弾性支持手段52は、機械式、油圧式、ガス圧式、又は空圧式等の各種構造を採用する事ができる。
【0040】
前記外径拘束型37は、金属製(例えば、ダイス鋼、ハイス鋼、超硬合金等)の円環状部材であり、外周面が、軸方向に関して外径が変化しない円筒面状である。一方、前記外径拘束型37の内周面には、前記金属素材26の外周面に転造加工を施す為の第二転造面59が形成されている。本例の場合、この第二転造面59は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面状としている。又、前記外径拘束型37は、加工後のリング状部材35の外径寸法に等しい内径寸法を有している。この様な外径拘束型37は、内径側に前記マンドレル23aの転造軸部39を挿通した状態で、前記第二転造面59を前記第一転造面51に対向させている。尚、この状態で、前記外径拘束型37の中心軸は、前記マンドレル23aの中心軸と平行である。
【0041】
又、前記成形ロール24aは、1個の金属製のローラ60と、このローラ60の中心孔に挿通された回転軸61とから成り、この回転軸61(ローラ60の中心軸)が前記マンドレル23a及び前記外径拘束型37の中心軸と平行となる状態で、この外径拘束型37の外径側に配置されている。この様な成形ロール24aは、前述した
図9、10に示した従来構造と同様に、電動モータ34(
図9参照)の回転により回転駆動された状態で、図示しない油圧シリンダ等のアクチュエータにより、前記外径拘束型37に対する遠近動{水平方向(
図1の左右方向)の変位}を可能としている。
【0042】
又、前記サポートロール25aは、前述した
図9、10に示した従来構造と同様に、1対の金属製のローラ62a、62bと、これら両ローラ62a、62bの中心孔に挿通された回転軸63とから成る。この様なサポートロール25aは、この回転軸63(両ローラ62a、62bの中心軸)が前記マンドレル23a、前記外径拘束型37、及び前記成形ロール24aの中心軸と平行な状態で、前記マンドレル23aの中心軸に関して、この成形ロール24aと反対側に配置されている。又、前記サポートロール25aは、前記電動モータ34の回転に基づいて、前記成形ロール24aと同期して回転駆動される。この様なサポートロール25aは、加工中に、前記両ローラ62a、62bの外周面の一部を、それぞれ前記マンドレル23aのマンドレル側規制面44a、44bに当接させる事により、このマンドレル23aの前記サポートロール25a側への変位を規制する為のものである。尚、本例の場合、このサポートロール25aは、加工中に、水平方向に変位しない様に規制されている。従って、このサポートロール25aが、前記マンドレル23aを前記成形ロール24a側に押圧する事はない。但し、加工中に、前記サポートロール25aを、この成形ロール24a側に変位する様に構成して、前記マンドレル23aをこの成形ロール24a側に押圧する事もできる。この様な構成を採用した場合には、上述した様にこの成形ロール24aが水平方向に変位する構成としても良いし、水平方向に変位しない構成とする事もできる。
【0043】
以下、上述した様な構成を有するリング状部材の製造装置21aを使用して、前記金属素材26に圧延転造加工を施して、前記リング状部材35を造る手順に就いて説明する。
先ず、
図3(a)に示す様に、前記金属素材26を、内径側に前記マンドレル23aを挿通した状態で、この金属素材26の円周方向一部を、このマンドレル23aの第一転造面51と、前記両可動環状部材36a、36bの外周面と、前記外径拘束型37の第二転造面59と、前記両支持軸部38a、38bの前記転造軸部39側の端面との間に形成された成形空間内に配置する。尚、この状態では、前記両可動環状部材36a、36bの外周面と、前記金属素材26の内周面との間には所定の隙間が存在している。
【0044】
この状態で、前記サポートロール25aを回転駆動すると共に、このサポートロール25aの両ローラ62a、62bの外周面の一部を、前記マンドレル23aの各マンドレル側規制面44a、44bに近接対向させておく。
次いで、前記成形ロール24aを、前記サポートロール25aと同期して回転駆動しながら、前記外径拘束型37に近付く様に水平方向に変位させて、前記成形ロール24aのローラ60の外周面を、前記外径拘束型37の外周面に当接させる。すると、前記成形ロール24aの回転に伴い、この外径拘束型37が連れ回る。
【0045】
この状態から更に、前記成形ロール24aを前記外径拘束型37に向けて変位(押圧)させると、この外径拘束型37及び前記金属素材26を介して前記マンドレル23aが
図1の左側に向けて押圧されて、前記サポートロール25aの両ローラ62a、62bの外周面が、前記マンドレル23aの両マンドレル側規制面44a、44bに強く当接する。すると、前記サポートロール25aの両ローラ62a、62bの回転に伴い、前記マンドレル23aが連れ回る。又、この状態では、前記外径拘束型37とこのマンドレル23aとが、同期して回転しており、これら両部材37、23aの回転に伴い、前記金属素材26が回転する。
【0046】
この状態から更に、前記成形ロール24aを前記外径拘束型37に向けて変位(押圧)させると、先ず、前記金属素材26の軸方向両端面が、前記両支持軸部38a、38bの前記転造軸部39側の端面に当接するまで、前記金属素材26の軸方向寸法が大きくなる様に塑性変形する。そして、この金属素材26の軸方向両端面が、前記両支持軸部38a、38bの前記転造軸部39側の端面に当接すると、前記金属素材26の外周面が、前記外径拘束型37の内周面に全周に亙り当接するまで、外径が大きくなる様に塑性変形する。この状態では、前記成形空間が、前記金属素材26により満たされた状態となる。この時点で、この金属素材26の内周面が、前記両可動環状部材36a、36bの外周面とも当接する。
【0047】
この状態から更に、前記成形ロール24aを前記外径拘束型37に向けて変位(押圧)させると、前記金属素材26の内部応力が高まり、前記成形空間を構成する、周囲の部材(マンドレル23a、外径拘束型37、両可動環状部材36a、36b、及び両支持軸部38a、38b)を押圧する。そして、前記金属素材26の押圧力のうち、前記両可動環状部材36a、36bの外周面に加わる、前記成形ロール24aから離れる方向の押圧力が、所定の値(弾性支持手段52の弾性力)を超えると、前記両可動環状部材36a、36bが、
図3(b)に矢印αで示す様に、前記弾性支持手段52の弾性力に抗して、前記成形ロール24aから離れる方向(
図1〜3の左方向)に向けて変位する。この様にして、前記成形空間のうちの前記両可動環状部材36a、36bの変位により拡張した部分64、64{
図3(b)に斜格子で示す部分}に、前記金属素材26の余肉を逃がす事ができる。尚、上述の圧延転造加工により得られるリング状部材35に、必要に応じて切削加工、研削加工等の仕上げ加工を施して外輪とする。
【0048】
上述した様に構成される本例のリング状部材の製造方法及び製造装置によれば、前記マンドレル23a及び前記外径拘束型37に損傷が生じる事を防止すると共に、加工後のリング状部材35の形状の精度の向上を図れる。
即ち、本例の場合、前記金属素材26の内周面と対向する状態で、前記成形ロール24aから離れる方向の押圧力が加わった場合に、この押圧力の方向に変位可能に支持された、前記両可動環状部材36a、36bを設けている。この為、使用時に、成形空間内の前記金属素材26の内部応力が高くなった場合でも、前記両可動環状部材36a、36bが前記押圧力の方向に変位して、前記成形空間のうちの当該変位に伴い拡張した部分に前記金属素材の余肉を逃がす事ができる。この結果、成形空間内での前記金属素材26の内部応力が低くなり、前記マンドレル23aに加わる応力を小さくできる。
又、上述の様に、加工中の前記金属素材26の内部応力を解放する事ができる為、成形空間内でこの金属素材26が歪む事を防止できる。この結果、加工後のリング状部材35の真円度が悪化する事を防止できる。
【0049】
又、本例の場合、前記両可動環状部材36a、36bの外周面を、前記金属素材26の内周面のうち、加工後に最も内径側に位置する部分に対向させている。この為、当該部分に余肉が形成された場合でも、この余肉を取り除くための切削加工を容易に行う事ができる。又、前記両可動環状部材36a、36bの外周面が対向している部分は、前記リング状部材35の外輪軌道とシール係止溝との間部分であって、機能的に重要度が低い部分でもある。この為、要求される寸法精度が他の部分と比べて低い為、余肉を取り除く加工を省略する事ができるか、或いは施す場合でも簡単に済ます事ができる。
更に、本例の場合、加工の終盤で、金属素材26の外周面、軸方向両端面、及び内周面(両可動環状部材36a、36bの外周面と対向した部分を除く)を、それぞれ対向する各部材(外径拘束型37の第二転造面59、両支持軸部38a、38b、マンドレル23aの第一転造面51)により拘束する事ができる。この為、加工後のリング状部材35のうち、拘束されていた部分には切削加工を施さなくて済むか、或いは施す場合でも僅かな加工で済む。この様に、本例の場合、切削加工の工程を短くしたり、切削加工を施す位置を限定して、生産効率の向上を図れる。尚、製品によっては、仕上げ加工を施す事なく、本例の製造方法により製造されたリング状部材35が、最終製品となる場合もある。
【0050】
又、本例の場合、前記マンドレル23aを、それぞれ別体に設けた前記両支持軸部38a、38bと、前記転造軸部39とにより構成している。この為、この転造軸部39が損傷した場合に、この転造軸部39のみの交換で済む。この結果、修理コストを抑える事ができる。尚、本例の場合、前記転造軸部39を、前記固定用軸部材45と、前記軌道形成部材46と、前記両係止溝形成部材47a、47bとにより構成している為、これら各部材が損傷した場合には、損傷した部材毎の交換で済ませる事も可能である。
又、本例の様に、短い転造軸部39の軸方向両端部を、剛性の高い前記両支持軸部38a、38bにより支持する構成は、前記転造軸部39を支持する位置が、前記金属素材26に近くなる為、この金属素材26から加わる曲げ応力を低減する事ができる。この結果、前記マンドレル23aの耐久性の向上を図れる。
【0051】
又、本例の場合、上述した様な圧延転造加工により、前記リング状部材35の外周面、軸方向両端面、及び内周面(両可動環状部材36a、36bの外周面と対向した部分を除く)を、同時に仕上げる事ができる。この為、前記リング状部材35の軸方向両端面から、外輪軌道及びシール係止溝までの軸方向距離の精度の向上を図れる。この結果、前記リング状部材35の軸方向端面を基準として行う仕上げ加工(研削加工)の前準備としての切削加工を不要にするか、或いは切削加工を行う場合でも簡単に済ませる事ができる。
【0052】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図4、5により説明する。本例は、リング状部材の製造装置を構成する弾性支持手段52aの具体的構造を示すものである。尚、この弾性支持手段52a以外の構造は、前述した実施の形態の第1例と同様である。
本例のリング状部材の製造装置21bを構成する弾性支持手段52aは、前述した実施の形態の第1例と同様に両可動環状部材36a、36bを、径方向に関して弾性的に支持する為のものであり、マンドレル23aの中心軸に関して成形ロール24aと反対側に設けられている。
【0053】
前記弾性支持手段52aは、弾性部材65と、伝達部材66とを備えている。
このうちの弾性部材65は、例えばコイルバネ等から成り、一端(成形ロール24aと反対側端部)を例えばハウジング等の固定部分に支持固定された固定支持部54cに支持されると共に、他端(成形ロール24a側端部)を前記伝達部材66に支持された状態で設けられている。尚、前記弾性部材65は、機械式のものに限らず、油圧式、ガス圧式、又は空圧式等の各種構造を採用する事ができる。
【0054】
又、前記伝達部材66は、前記弾性部材65と両可動環状部材36a、36bとの間に設けられており、基部67と、1対の腕部68a、68bと、保持部材69とを備えている。
このうちの基部67は、直方体状であり、長手方向がマンドレルの中心軸に対して直交する方向となる様に配置されている。
又、前記両腕部68a、68bは、前記基部67の一側面(
図4の手前側面)の前記成形ロール24a側端部のうち、前記マンドレル23aの軸方向に離隔した2箇所位置に、前記一側面から突出した状態で形成されている。
又、前記保持部材69は、部分円筒状であり、その内径が前記両可動環状部材36a、36bの外径とほぼ等しい。又、前記保持部材69の軸方向寸法は、一方の可動環状部材36aの軸方向一側面(
図4の上側面)と、他方の可動環状部材36bの軸方向他側面(
図4の下側面)との軸方向に関する距離よりも大きい。この様な保持部材69は、その外周面を前記両腕部68a、68bに支持固定された状態で、その内周面を、前記両可動環状部材36a、36bの外周面のうちの前記成形ロール24aと反対側部分に当接させている。
【0055】
以上の様な構成を有する弾性支持手段52aは、加工開始前の状態{
図3(a)参照}では、前記両可動環状部材36a、36bを、径方向に関して、前記成形ロール24aに向かう方向に付勢していない(弾性力を付与していない)。そして、前記弾性支持手段52aは、前記両可動環状部材36a、36bに対して、前記成形ロール24aから離れる方向の所定の大きさの押圧力が加わると、前記弾性部材65が弾性変形する事により、前記両可動環状部材36a、36bが前記押圧力の方向(成形ロール24aから離れる方向)に変位する事を許容する。この点に就いては、前述した実施の形態の第1例と同様である。その他の構成及び作用効果に就いても、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0056】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例に就いて、
図6により説明する。本例のリング状部材の製造装置は、弾性支持手段52bとして、前述した実施の形態の第1例及び第2例と異なる構造を採用している。又、両可動環状部材36c、36dの構造も、前記実施の形態の第1例及び第2例の両可動環状部材36a、36bと異ならせている。
具体的には、本例の場合、前記両可動環状部材36c、36dの外径寸法を、軌道形成部材46及び両係止溝形成部材47a、47bの外径寸法よりも小さくしている。この様な可動環状部材36c、36dは、マンドレル23a、軌道形成部材46、及び両係止溝形成部材47a、47bと同心に配置されている。尚、この様な両可動環状部材36c、36dの軸方向に関する配置態様に関しては、前記実施の形態の第1例及び第2例と同様である。
【0057】
又、本例の場合、前記両可動環状部材36c、36dの内周面と、固定用軸部材45の外周面との間に、それぞれ円環状の弾性部材70、70を設けている。この様な弾性部材70、70は、例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム等の様に伸縮性を有するものを使用する事ができる。この様な弾性部材70、70は、加工中にワークに供給される潤滑油に対する耐熱性及び耐薬品性、加工時の発熱に対する耐熱性、並びに、加工時に加わる荷重に対する機械的強度を考慮して適宜決定する。例えば、前記ウレタンゴムは、耐熱性及び耐油性に優れており、前記フッ素ゴムは、耐油性及び耐薬品性に優れている。又、前記ニトリルゴム(NBR)は安価であり、耐油性及び耐薬品性に優れている。
【0058】
本例の場合、上述した様な状態で前記各弾性部材70、70を設ける事により、前記両可動環状部材36c、36dを、径方向に関して弾性的に支持している。即ち、前記各弾性部材70、70は、前記両可動環状部材36c、36dに対して、成形ロール24aから離れる方向の所定の大きさの押圧力が加わると、自身が弾性変形(収縮)する事により、前記両可動環状部材36c、36dが前記押圧力の方向(成形ロール24aから離れる方向)に変位する事を許容する。
【0059】
上述した様な構成を有する本例のリング状部材の製造装置を使用して、金属素材26{
図3(a)参照}に圧延転造加工を施して、リング状部材35を造る手順に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合とほぼ同様であるので、以下、簡単に説明する。
加工が進み、前記金属素材26の外周面が、外径拘束型37の内周面に全周に亙り当接するまで、外径が大きくなる様に塑性変形すると、成形空間が、前記金属素材26により満たされた状態となる。この時点で、この金属素材26の内周面が、前記両可動環状部材36c、36dの外周面とも当接する。
【0060】
この状態から更に、前記成形ロール24aを前記外径拘束型37に向けて変位(押圧)させると、前記金属素材26の内部応力が高まり、前記成形空間を構成する、周囲の部材(マンドレル23a、外径拘束型37、両可動環状部材36c、36d、及び両支持軸部38a、38b)を押圧する。そして、前記金属素材26の押圧力のうち、前記両可動環状部材36c、36dの外周面に加わる、前記成形ロール24aから離れる方向の押圧力が、所定の値を超えると、前記両可動環状部材36c、36dが、前記弾性部材70を収縮させながら、前記成形ロール24aから離れる方向(
図6に矢印βで示す方向)に向けて変位する。この様にして、前記成形空間のうちの前記両可動環状部材36c、36dの変位により拡張した部分64、64(
図6に斜格子で示す部分)に、前記金属素材26の余肉を逃がす事ができる。その他の構成及び作用効果に就いては、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。