(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。すなわち,FFCの寿命が短いのである。この理由は,FFCが湾曲されて配置されているとともに,読み取りユニットの移動により,FFCの一部の箇所で湾曲の向きが反転することにある。
【0005】
このことを
図1および
図2により説明する。
図1は,この種の読み取りユニット100の断面図である。この図では詳細は省略しているが,紙面に垂直な方向が読み取りユニット100の長手方向(主走査方向)である。そして,図中で水平な矢印Xの方向が読み取りユニット100の移動方向である。図示の範囲外となるが読み取り対象の原稿は,図中の読み取りユニット100の上方に,読み取り面を下向きにして載置されることとなる。また,読み取りユニット100にはFFC102が接続されている。FFC102は,読み取りユニット100と筺体101との間に,U字状に湾曲した状態で配置されている。
図1は,読み取りユニット100がその移動範囲の最も左寄りの位置にある状況を示している。この状態では,FFC102のうち図中の範囲Bの部分がU字状に湾曲している。その湾曲区間内のFFC102は,読み取りユニット100や筺体101に対して凸状となる向きに湾曲している。
【0006】
図1に示した状態に対して読み取りユニット100を右寄りに移動させた状態での断面図を
図2に示す。
図2では
図1に比して,読み取りユニット100が右向きに変位している。その分,FFC102が,読み取りユニット100よりも図中左側にはみ出たところで大きくU字状に湾曲している。ここで,
図2中のFFC102を子細に見ると,その範囲Cの部分では,ここまでの説明とは逆向きに湾曲していることが分かる。すなわち範囲C内のFFC102は,読み取りユニット100に対して凹状に湾曲している。もちろんこの範囲C内のFFC102も,
図1のように読み取りユニット100が左端に位置しているときには凸状に湾曲する。このためこの範囲内でのFFC102は,読み取りユニット100の移動により湾曲の向きが反転するのである。この湾曲の反転が反復することにより,FFC102が疲労して断線が生じるのである。
【0007】
特に,FFC102として,その伝送層に対して片面側にシールド層もしくはインピーダンス調整層が積層されているものを用いる場合にこの問題がより大きく現れる。このようなFFCは,その構造が厚さ方向に対して非対称になっており,伝送層が厚さ方向の中心から外れた位置に存在する。このため,湾曲の反転のたびに,伝送層が長手方向に圧縮される状態と伸長される状態との一方から他方への変化が起こるからである。
【0008】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,FFCによりスキャンユニットとの信号のやりとりを行う構成であり,かつ,FFCの寿命が長い画像読み取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様における画像読み取り装置は,原稿の画像を読み取って画像信号を取得する装置であって,原稿が載置される載置面に対向して原稿の幅方向全体にわたって設けられ,原稿の長手方向に移動しつつ,原稿に対する光の照射と原稿による反射光の受光とを行うスキャンユニットと,スキャンユニットを挟んで載置面の反対側に位置するシャシー部材と,シャシー部材におけるスキャンユニットの移動とともには移動しない位置に設けられた制御部と,スキャンユニットと制御部とを接続するFFCとを有している。そしてFFCは,一端がスキャンユニットにおけるシャシー部材側の部位に取り付けられるとともに,一端以外の位置が,シャシー部材におけるスキャンユニットの移動とともには移動しない位置に固定された固定位置とされ,固定位置よりも一端側の範囲がスキャンユニットの移動方向と平行にされており,一端から,スキャンユニットの移動方向の一方側に向かい,U字状に湾曲してスキャンユニットとシャシー部材との間に入り込んで固定位置に到達するように配置されている。さらにFFCは,スキャンユニットと制御部との間で電気信号を伝達する
複数の導線を含み両面がコーティング層で覆われている伝送層と,伝送層に対して片面側に設けられたシールド層もしくはインピーダンス調整層と,伝送層に対してシールド層もしくはインピーダンス調整層とは反対側に設けられた応力調整層とを有する構成とされている。
【0010】
上記態様における画像読み取り装置では,FFCの一部にU字状に湾曲させられている部分が存在し,スキャンユニットの位置により逆湾曲部分が発生する。このため読み取り動作を行うことで,FFCの一部が正湾曲と逆湾曲との反転を反復することとなる。しかしながらFFCに応力調整層が設けられていることで,FFCの厚さ方向構造における伝送層の位置が寄り中心に近づけられている。このため,FFCの湾曲の反転が反復されても,伝送層へのストレスが小さい。よってFFCが長寿命である。
【0011】
上記態様の画像読み取り装置ではさらに,シールド層もしくはインピーダンス調整層は,FFCのU字状の湾曲における外側となる面に設けられていることが好ましい。その方が,ノイズ漏れ防止等の観点からは好都合である。
【0012】
上記態様の画像読み取り装置ではさらに,応力調整層,シールド層もしくはインピーダンス調整層を含めたFFCの全厚中における曲げ中立面が,伝送層の中にあることが望ましい。応力調整層の厚さの調節によりこのようにすることで,伝送層に掛かる湾曲の応力をより確実に軽減できる。
【0013】
上記態様の画像読み取り装置ではさらに,応力調整層は,FFCの長手方向のうち,少なくとも,スキャンユニットを移動させたときにU字状の湾曲とは逆向きに湾曲することがある区間に対して設けられていることが望ましい。この「区間」が,FFCのうち湾曲の反転が生じる領域だからである。この区間をカバーするように応力調整層を設けることが,FFCの長寿命化に有利である。
【0014】
応力調整層が設けられる区間に関してはさらにやや広げて,FFCの長手方向のうち,少なくとも,スキャンユニットを移動させたときにシャシー部材から浮き上がることがある全区間にわたって設けられていることが好ましい。このようにすると,応力調整層の長手方向端部からの剥がれが生じにくい。
【0015】
応力調整層が設けられる区間に関していえば逆に,応力調整層を設けない方がよい区間もあり得る。すなわち,FFCが固定位置にて,その長手方向を変更するように折り曲げられている場合である。この場合には応力調整層は,FFCの長手方向のうち,固定位置を含む区間には形成されていないことが好ましい。
【0016】
上記態様の画像読み取り装置ではさらに,一端がスキャンユニットに取り付けられるとともに,一端以外の部位でFFCをシャシー部材に向かって押し付ける弾性シート部材を有することが好ましい。FFCが逆湾曲しようとすると,弾性シート部材の弾力によりFFCの逆湾曲が抑制されるからである。
【0017】
弾性シート部材を有する態様の画像読み取り装置ではさらに,スキャンユニットは,FFCの一端の取り付け位置からFFCが向かう側にてシャシー部材から遠ざかる向きに切り立った後方面を有し,弾性シート部材の一端は,スキャンユニットにおける後方面に取り付けられており,弾性シート部材は,後方面に取り付けられている側の面が凸面になるようにFFCにより湾曲させられるとともに,その湾曲の反力によりFFCをシャシー部材に向かって押し付けるように配置されているものであることが好ましい。弾性シート部材のこの配置により,FFCの逆湾曲をより効果的に抑制できるからである。
【0018】
弾性シート部材を有する態様の画像読み取り装置ではまた,弾性シート部材は,FFCを通すスリットが形成されているものであり,FFCの押し付けを,一端とスリットとの間で行うとともに,スリットと他端との間の区間が,FFCにおけるU字状の湾曲の内面側に入り込んでいるものであることが望ましい。このようにすると,弾性シート部材の先端付近が,常に,FFCのU字状湾曲の内面によって規制されることとなる。このため,スキャンユニット往復移動させても,弾性シート部材の先端部が他の箇所に引っ掛かったりする等のことがないからである。
【0019】
上記各態様の画像読み取り装置ではさらに,スキャンユニットに搭載され,原稿による反射光に応じた画像信号を出力する光電変換素子を有し,FFCは,シールド層およびインピーダンス調整層をいずれも有し,FFCによりスキャンユニットから制御部へ伝送される信号に,光電変換素子が出力する画像信号が含まれることが好ましい。この場合,FFCはかなりの高周波である光電変換素子が出力する画像信号を伝送することになる。このため,シールド層やインピーダンス調整層の必要性が高い。このため,FFCの断面構造の非対称化を応力調整層により緩和する必要性がより高い。
【発明の効果】
【0020】
本構成によれば,FFCによりスキャンユニットとの信号のやりとりを行う構成であり,かつ,FFCの寿命が長い画像読み取り装置が提供されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,
図3に示す画像読み取り装置1に本発明を適用したものである。画像読み取り装置1は,筺体10と,
スキャンユニット11とを有している。筺体10は,全体が略長方形状で上側が開口した容器状の部材である。この筺体の長方形の短辺方向Yが読み取り対象の原稿の幅方向に該当し,長辺方向Xが原稿の長手方向に該当する。ただし,ここでいう原稿の幅方向,長手方向は便宜的なものであり,幅方向寸法が長手方向寸法より長いことがあってもよい。
【0023】
スキャンユニット11は,原稿の最大の幅方向寸法の全体にわたって設けられた長尺状の部材である。スキャンユニット11の内部には,
図4の概略断面図に示されるように,LED発光素子12,反射鏡13,14,CCD受光素子15が配置されている。すなわち本形態では,CCD受光素子15がスキャンユニット11に搭載されている。また,スキャンユニット11の上面にはスリット16が形成されている。なお,
図3の短辺方向Yは,
図4では紙面に垂直な方向に相当する。
【0024】
図3に戻って筺体10には,長辺方向Xと平行なレール17,18が設けられている。スキャンユニット11は,レール17,18に対して摺動可能に設けられている。すなわちスキャンユニット11は,長辺方向Xに移動可能である。筺体10にはさらにモーター19とベルト20とが設けられている。これにより,スキャンユニット11を長辺方向Xに駆動するようになっている。また,筺体10の底面21(シャシー部材)上には,FFC22が配置されている。また,筺体10の外部に制御基板23が設けられている。FFC22により,スキャンユニット11と制御基板23とが接続されている。
【0025】
上記の画像読み取り装置1は,コピー機の読み取り部に搭載される。あるいはスキャナー機に搭載される。これらの機器に画像読み取り装置1が搭載された状態では,
図4に示されるように,スキャンユニット11の上方に原稿台ガラス24が位置する。そして,原稿台ガラス24の上に載置された原稿25の
図4中下向きの面が読み取り対象面となる。すなわち,LED発光素子12から発射され原稿25の読み取り対象面で反射された光に基づき,CCD受光素子15が画像信号を出力するのである。この画像信号はむろん,FFC22を経由してスキャンユニット11から制御基板23へ送られる。一方,制御基板23からFFC22を経由して,LED発光素子12の発光状況を操作する信号がスキャンユニット11へ送られる。
【0026】
図3中に示されるように,FFC22における途中の位置には,折り曲げ箇所26がある。折り曲げ箇所26では,FFC22が斜めに折り曲げられて,その長手方向が変更させられている。
図3中の折り曲げ箇所26では,FFC22の長手方向が90°変更させられている。
図3中には3箇所の折り曲げ箇所が見られるが,1箇所だけの構成も可能である。この折り曲げ箇所26では,FFC22は底面21に固定されている。また,折り曲げ箇所26とスキャンユニット11との間の区間におけるFFC22は,その長手方向が長辺方向Xと平行となるように配置されている。ただし,FFC22のうち折り曲げ箇所26よりもスキャンユニット11寄りの部分は,底面21上を這う配置になってはいるが,底面21に固定されている訳ではない。
【0027】
図5の拡大断面図に,スキャンユニット11と底面21との間の箇所におけるFFC22の状況を示す。
図5では,スキャンユニット11の上部や内部構成物を省略して示している。
図5に示されるように,FFC22の一端は,スキャンユニット11の下部,すなわち底面21側の部位に設けられたコネクタ27に取り付けられている。FFC22はコネクタ27に対しで抜き差し可能である。またコネクタ27は,LED発光素子12やCCD受光素子15と接続されている。なお
図5は,前述の
図1と同様に,スキャンユニット11がその移動範囲の最も左寄りの位置にある状況を示している。
【0028】
FFC22は,コネクタ27から,長辺方向Xの左方側に向かい(
図5ではやや斜め上向きになっているが,上方から見れば長辺方向Xの左方側に向かう),範囲BにてU字状に湾曲し,さらにスキャンユニット11と底面21との間を通って,底面21上を這いつつ,前述の折り曲げ箇所26へ向かう配置となっている。
【0029】
さらに,スキャンユニット11の一部に,後方面28が形成されている。後方面28は,スキャンユニット11における,FFC22がコネクタ27から向かう側にて,底面21から遠ざかる向きに切り立った面である。その後方面28の外面には,弾性シート部材29が取り付けられている。弾性シート部材29は,弾力のある樹脂製フィルム(例えば「マイラー」の商品名で供給されているもの等)であり,
図6に示すように短冊形状のシートである。弾性シート部材29の一端が,後方面28への貼り付け箇所30である。また,弾性シート部材29における貼り付け箇所30とは反対側の端部付近にはスリット31が形成されている。これにより弾性シート部材29は,中腹部32と先端部33とに区画されている。スリット31は,FFC22を通すための形状である。このため
図5で見ると,弾性シート部材29のうち先端部33は,FFC22の湾曲形状の内面側に位置している。
【0030】
上記のようなスキャンユニット11を
図5中に示される位置から右向きに移動させると,
図7に示される状態となる。
図7は,前述の
図2に相当する状態を示している。
図7の
図2に対する主要な相違点はむろん,弾性シート部材29の存在にある。
図7では,弾性シート部材29の存在により,
図2に範囲Cとして示した箇所の逆湾曲が緩和されている。この点につき説明する。
図7では
図5と比較して,スキャンユニット11が右向きに移動した分,FFC22がスキャンユニット11よりも大きく左側に張り出してそこでU字状に湾曲している。このため,弾性シート部材29が湾曲させられている。すなわち
図7での弾性シート部材29は,後方面28に貼り付けられている側の面が凸となるように湾曲させられている。この湾曲の反力により弾性シート部材29は,その中腹部32でFFC22を,底面21に向かって押し付けている。これにより
図7では,
図2に示されたようなFFC22の逆湾曲が緩和されているのである。
【0031】
なお
図7では,
図5と比較して,FFC22のうちより多くの部分が底面21から浮き上がっている。すなわち
図7中に矢印Dで示す位置よりもコネクタ27側の部分は,底面21から浮き上がっている。矢印Dで示す位置よりも折り曲げ箇所26寄りの部分のFFC22は,底面21に這う状態となっている。スキャンユニット11が右に移動すればするほど,矢印Dの位置も右に移動する。
【0032】
また,
図7の状態からスキャンユニット11を左向きに移動させると,自然に
図5の状態に戻る。すなわち,弾性シート部材29の先端部33が他の箇所に挟まってしまうようなことがない。これはむろん,スリット31により先端部33がFFC22の内面側に入り込んでいるからである。
【0033】
さらに,実はFFC22自体も,
図1,
図2に示したFFC102とは異なる物である。本形態の画像読み取り装置1に使用しているFFC22の幅方向断面図を
図8に示す。
図8に示すように,FFC22は多層構造のものである。F
FCの厚さ方向のほぼ中心に,伝送部34が位置している。伝送部34には,多数の導線35が,FFC22の幅方向に互いに間隔を置いて配置されている。また,伝送部34は,各導線35間を絶縁する充填樹脂36を有している。伝送部34の両面は,コーティング層37で覆われている。この伝送部34が本来のFFCである。この例では,導線35の厚みTが35μm程度,幅Wが320μm程度,ピッチPが500μm程度である。
【0034】
FFC22では,その片面側(U字湾曲の外向き側)に,インピーダンス調整層38とシールド層39とを有している。インピーダンス調整層38は,FFC22のインピーダンスを調整するための層であり,CCD受光素子15から出力される画像信号のような高BPSの信号(1〜2GBPS程度)を高効率で伝送するための層である。シールド層39は,FFC22から外部にノイズが漏れるのを防止するための層である。インピーダンス調整層38,シールド層39自体はいずれも公知のものである。この例では,インピーダンス調整層38と伝送部34との間に接着層40が,シールド層39の表面にコーティング層41が,それぞれ設けられている。
【0035】
一方,伝送部34におけるもう片面側(U字湾曲の内向き側)には,PET層42が設けられている。PET層42は,単なるPET樹脂の層ではあるが,FFC22全体としての曲げ中立面の位置を調整するための層である。すなわち,PET層42の存在により,曲げ中立面Nが,導線35のある範囲内となるようにしている。このようにすることで,FFC42が湾曲した場合でも,導線35にはあまり応力(引っ張りまたは圧縮)が掛からないようにしている。このため,湾曲の反転が反復された場合でも導線35の断線が生じにくく長寿命なのである。
【0036】
なお,従来のFFC102(
図1,
図2)の断面は,
図9に示される構造となっている。これは,PET層42を有していない点で
図8と異なる。このため,FFC102全体としての曲げ中立面Mが,導線35から完全に外れたところに位置するのである。このため,湾曲時に導線35に応力が掛かりやすいのである。
【0037】
なお,本実施の形態において,前述のPET層42は,FFC22の長手方向の全域にわたって設けられている必要がある訳ではない。この点につき説明する。PET層42を設ける必要性が最も高いのは,上記から明らかなように,湾曲の反転が生じる領域である。すなわち,
図2に範囲Cとして示した逆湾曲状態となることがある領域である。さらにいえば,スキャンユニット11をその可動範囲の全域にわたって移動させたときに,一度でも逆湾曲状態になる箇所は,湾曲の反転が生じる領域であるというべきである。よって,PET層42をこのような領域の全体をカバーするように設けることが望ましい。おおざっぱにいえば,FFC22のコネクタ27から折り曲げ箇所26までの区間のうち,コネクタ27寄りの35%の区間をカバーするようにPET層42を設ければ,これを満たすことができる。ただし,当該範囲のうち常時スキャンユニット11の下部にある部分は除外してもよい。
【0038】
さらに,PET層42を上記よりもう少し折り曲げ箇所26側に向かって延長して設けてもよい。具体的には,スキャンユニット11を
図5中で最も右向きに動かした状態で,
図7中に矢印Dで示す状態となる位置までカバーするようにPET層42を設けるとよりよい。PET層42をこのように設けると,PET層42の折り曲げ箇所26側の端部は,スキャンユニット11をその可動範囲全体にわたって移動させても,底面21から浮き上がることがない。このためPET層42が,耐久使用によりその折り曲げ箇所26側の端部から剥がれてくるようなことがない。おおざっぱにいえば,FFC22のコネクタ27から折り曲げ箇所26までの区間のうち,コネクタ27側寄りの65%の区間(ただし常時スキャンユニット11の下部にある部分は除く。)をカバーするようにPET層42を設ければ,これを満たすことができる。
【0039】
一方,PET層42を設けない方がよい区間もある。折り曲げ箇所26そのものには,PET層42を設けない方がよい。FFC22にPET層42が設けられていると,その箇所は折り曲げにくいからである。なお,折り曲げ箇所26そのものは,一端折り曲げ箇所26として形成されればその後変形状況が変更されることはないので,変形の反復を考慮する必要はない。折り曲げ箇所から制御基板23までの区間についても,特に可動に配置される装置構成でない限り,PET層42を設ける必要性はない。ただし,この区間にPET層42を設けてはならないということではない。
【0040】
続いて,PET層42を設けたことによる効果の実証試験の結果を説明する。この試験では,伝送部34として,厚さが約130μm,その充填樹脂36(PET/HM)の比誘電率が3.0程度のものとした。インピーダンス調整層38およびシールド層39としては,次の2通りとした。
[第1の例]
インピーダンス調整層38:厚さ約120μm,比誘電率約2.1
シールド層39:厚さ約29μm,銀蒸着SN/HMタイプ
[第2の例]
インピーダンス調整層38:厚さ約110μm,比誘電率約2.3
シールド層39:厚さ約45μm,アルミソリッドシールド(導電性粘着材)
【0041】
PET層42としては厚さ50μmのものを用い,折り曲げ箇所26よりコネクタ27側の全体にPET層42を設けた。ただし折り曲げ箇所26自体にはPET層42を設けなかった。これらの試験例の構成において,CAE解析により曲げ中立面の位置を確認したところ,いずれも導線35の範囲内にあった。これらのいずれでも,14000千枚以上の読み取りが可能であった。PET層42も弾性シート部材29も用いないもの(比較例)は140千枚程度で伝送部34の断線が発生したので,2桁程度の向上が見られたことになる。また,通常の要求仕様は380千枚程度であるので,これを十分にクリアする結果であった。
【0042】
図10は,比較例と実施例とで,FFC22に掛かる最大応力を比較する試験を行った結果を示すグラフである。比較例とは,PET層42も弾性シート部材29も用いないものである。実施例とは,PET層42も弾性シート部材29も用いたものである。いずれも,インピーダンス調整層38およびシールド層39としては前述の第1の例のようにした。
【0043】
図10の試験では,FFC22に歪みゲージを装着した状態でスキャンユニット11を移動させ,その移動量による応力値の変遷をグラフ化した。応力値は歪みゲージによった。グラフ中で「ホーム」とあるのは,横軸についてのことであり,スキャンユニット11が折り曲げ箇所26から最も遠い位置にある状態(
図5に示した状態)を意味している。ここからスキャンユニット11を
図5中で右向きに移動させていくと,あるところで応力が伸び側から縮み側に反転した。これは,歪みゲージの箇所が上記の逆湾曲範囲に入ったためと考えられる。そして,縮み応力値がピークを示した。その後は縮み応力値が漸減した。縮み応力値のピーク同士を比較すると,実施例では比較例に対し,約43%と,半分未満に低減した。
【0044】
また,上記の最大応力値が種々の値になるように条件を振って,断線に至るまでの応力反転の反復回数を比較した。その結果,
図11のようなグラフが得られた。このグラフを見ると,最大応力値を下げるほど反復回数が多くなっていることが分かる。そして前述の比較例および実施例も,この傾向の上に乗っている。これより,FFC22に湾曲により掛かる応力を低減することで,耐久性の向上に繋がることが確認できる。
【0045】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,スキャンユニット11を移動させることで,載置された原稿の画像を読み取る画像読み取り装置1において,FFC22の湾曲の反転により生じる応力を低減する措置を行っている。具体的には,F
FC22における,インピーダンス調整層38やシールド層39とは反対側の面に,PET層42を設けている。これにより,FFC102の曲げ中立面Nを導線35に近づけている。さらにいえば曲げ中立面Nが導線35の範囲内に位置するようにしている。また,スキャンユニット11に弾性シート部材29を設けている。これにより,FFC22の逆湾曲自体を抑制することとしている。これにより,FFC22を湾曲させつつ読み取りを行う形式であって,かつFFC22の寿命が長い画像読み取り装置1が実現されている。
【0046】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,PET層42の材質は,PET以外の別の樹脂で置き替えたものであってもよい。また,PET層42の厚さについて前述の例では,曲げ中立面Nが導線35のある範囲内に位置するように定めたが,必ずしもこれに限らない。これより若干広がるが,充填樹脂36の範囲内,あるいは伝送部34の範囲内に曲げ中立面Nが位置するようにしても,ある程度の効果はある。また,曲げ中立面Nに注目する代わりに,FFC22の全厚(インピーダンス調整層38やシールド層39,PET層42を含む)の中心が導線35のある範囲内に位置するようにしたものであっても,ある程度の効果はある。
【0047】
また,弾性シート部材29の取り付け方についても変形が考えられる。前述の例では,
図7に示されるように,スキャンユニット11の後方面28に弾性シート部材29を設けたが,それ以外に,スキャンユニット11の下面に弾性シート部材29を取り付けることが考えられる。この場合の弾性シート部材29は,スキャンユニット11の下面とFFC22に挟まれて位置し,中腹部32では前述と同様にFFC22のU字湾曲の外側に位置することとなる。スリット31の役割も前述と同様となる。この場合,FFC22が逆湾曲しようとすると,弾性シート部材29も同様の向きに湾曲することとなる。このためその反力により,逆湾曲が抑制されることとなる。また,さらにコネクタ27の下面に弾性シート部材29を取り付けることも考えられる。この場合には弾性シート部材29に2箇所のスリットを設け,弾性シート部材29が一旦FFC22の外側へ出てから先端部33で再び内側へ戻るように配置することとなる。
【0048】
さらにいえば,弾性シート部材29を有さず,PET層42のみによりFFC22の応力緩和を行う構成であっても,ある程度の効果は得られる。また,FFC22のU字湾曲において,前述と逆に,PET層42が湾曲の外側に位置するような配置でもよい。ただし,外部へのノイズ漏れ防止という観点からは,シールド層39がU字湾曲の外側である方が良い。
【0049】
また,FFC22において,インピーダンス調整層38とシールド層39とのうちいずれか一方のみを有する構成としたものであっても,PET層42や弾性シート部材29を設けることによる効果はある。例えば,CCD受光素子15をスキャンユニット11に搭載せず筺体10に固定配置する場合,FFCにインピーダンス調整層38を設ける必要性はさほど高くない。FFCで画像信号の伝送をしないからである。このような場合でも本発明の適用は可能である。