特許第6245265号(P6245265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245265
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】振動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20171204BHJP
   H03H 3/007 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H03H9/24 B
   H03H3/007 M
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-537893(P2015-537893)
(86)(22)【出願日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2014074131
(87)【国際公開番号】WO2015041152
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-195502(P2013-195502)
(32)【優先日】2013年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏
(72)【発明者】
【氏名】梅田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】岸 武彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊雄
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−005024(JP,A)
【文献】 特開2009−302661(JP,A)
【文献】 特開2010−166201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−3/10,H03H9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、
前記支持部に接続されており、対向し合う第1,第2の主面を有し、縮退半導体であるn型Si層を有する振動体と、
前記振動体を励振させるように設けられており、かつ複数の電極及び圧電薄膜を有する励振部と、を備え、
前記圧電薄膜が、前記複数の電極に挟まれるように配置されており、前記励振部が前記n型Si層の前記第1の主面上に積層されており、前記n型Si層の前記第2の主面に接するように、n型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている、振動装置。
【請求項2】
前記n型Si層の前記第1の主面に接するように該第1の主面と前記励振部との間に設けられており、n型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜をさらに備える、請求項1に記載の振動装置。
【請求項3】
支持部と、
前記支持部に接続されており、対向し合う第1,第2の主面を有し、縮退半導体であるn型Si層を有する振動体と、
前記振動体を励振させるように設けられており、対向し合う第1及び第2の主面を有するn型Si層からなる複数の電極と、
を備え、
前記複数の電極は前記振動体とギャップを隔てて対向されており、前記各n型Si層の前記第1,第2の主面に接するように、n型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている、振動装置。
【請求項4】
前記縮退半導体であるn型Si層が、1×1019/cm以上のドーピング濃度を有するn型Si層である、請求項1〜のいずれか1項に記載の振動装置。
【請求項5】
前記縮退半導体であるn型Si層のドーパントがPである、請求項1〜のいずれか1項に記載の振動装置。
【請求項6】
前記励振部が前記振動体を屈曲振動させるように構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の振動装置。
【請求項7】
奇数本の前記振動体を備え、前記励振部が前記振動体を面外屈曲振動させるように構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の振動装置。
【請求項8】
偶数本の前記振動体を備え、前記励振部が前記振動体を面内屈曲振動させるように構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の振動装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の振動装置の製造方法であって、
支持部に接続されており、縮退半導体であるn型Si層からなる振動体と、前記n型Si層の第2の主面にn型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている構造体を用意する工程と、
前記n型Si層の第1の主面に、複数の電極と、前記複数の電極間に挟まれた圧電薄膜とを有する励振部を形成する工程とを備える、振動装置の製造方法。
【請求項10】
前記支持部に接続されており、かつ前記シリコン酸化膜が前記第2の主面に設けられている、n型Si層を有する前記構造体を用意する工程が、
1つの面に凹部を有し、Siからなる支持基板を用意する工程と
記支持基板の前記凹部を覆うように、前記シリコン酸化膜が設けられているn型Si層を積層する工程とを備える、請求項に記載の振動装置の製造方法。
【請求項11】
請求項3に記載の振動装置の製造方法であって、
支持部と、前記支持部に接続されており、対向し合う第1,第2の主面を有し、縮退半導体であるn型Si層を有する振動体と、前記振動体を励振させるように設けられており、対向し合う第1,第2の主面を有し、n型Si層からなる複数の電極を前記振動体とギャップを隔てて対向するように設ける工程と、
前記n型Si層の前記第1,第2の主面に接するように、n型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜を設ける工程とを備える、振動装置の製造方法。
【請求項12】
記シリコン酸化膜が設けられている、n型Si層を用意する工程が、熱酸化法により、n型ドーパントである不純物を含有するシリコン酸化膜を形成する工程を含む、請求項11のいずれか1項に記載の振動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持部に振動腕が接続されている振動装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Si半導体層上に圧電薄膜を含む励振部が構成されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造が知られている。例えば下記の特許文献1には、複数の振動腕の各一端が支持部に接続されている振動装置が開示されている。この振動装置では、振動腕はSi半導体層を有する。Si半導体層上に、SiO膜が設けられている。そして、SiO膜上に、順に、第1の電極、圧電薄膜及び第2の電極が積層されている。すなわち、Si半導体層上に圧電薄膜を含む励振部が構成されている。
【0003】
特許文献1に記載の振動装置は、バルク波を利用した振動装置である。そして、特許文献1に記載の振動装置では、温度特性を改善するために、2μm以上の比較的厚いSiO膜が設けられている。
【0004】
他方、下記の特許文献2には、Pがドープされているn型Si基板を用いた表面音響波半導体装置が開示されている。Pがドープされているn型Si基板を用いることにより、弾性定数や表面音響波の速度を変化させ、温度特性を改善することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献2】USP8,098,002
【特許文献3】特開昭57−162513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のバルク波を利用した振動装置では、温度特性を改善するために、上記のように2μm以上の比較的厚いSiO膜を設けなければならなかった。特許文献1にはSiO膜が熱酸化法により形成されることが記載されているが、熱酸化法では、ある一定の厚み以上にSiO膜を成膜しようとすると、SiO膜の成長速度が著しく遅くなる。従って、厚みが2μm以上のSiO膜の形成は困難であった。
【0007】
他方、スパッタリング法やCVD法によれば、厚いSiO膜を容易に形成することは可能である。しかしながら、これらの方法で形成されたSiO膜では、膜の機械的損失Qmが悪かった。よって、振動子のQ値が低下するという問題があった。
【0008】
また、上記MEMS構造を形成する際の接合は、一般的に熱接合によってなされる。従って、特許文献2のようにPがドープされているn型Si基板では、この熱接合の際発生する熱で、n型Si基板の表面から空気中にPが飛散したり、他の部材にPが移行することがあった。すなわち、n型Si基板内において、P濃度が不均一となっていた。そのため、Pがドープされているn型Si基板を、MEMS構造を有する振動装置に用いても、温度変化によって、振動装置の共振周波数にばらつきが生じることがあった。
【0009】
本発明の目的は、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる振動装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る振動装置は、支持部と、上記支持部に接続されており、かつ縮退半導体であるn型Si層を有する振動体と、上記振動体を励振させるように設けられている電極とを備え、上記n型Si層の下面に接するように、不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている。
【0011】
本発明の振動装置のある特定の局面では、上記n型Si層の上面に接するように設けられており、不純物を含有するシリコン酸化膜がさらに備えられている。
【0012】
本発明の振動装置の他の特定の局面では、圧電薄膜をさらに備え、上記電極が第1,第2の電極を有し、該圧電薄膜が、上記第1,第2の電極に挟まれるように配置されており、上記圧電薄膜及び上記第1,第2の電極からなる励振部が、上記n型Si層上に設けられている。
【0013】
本発明の振動装置の他の特定の局面では、圧電薄膜をさらに備え、該圧電薄膜が、上記電極と上記n型Si層上に挟まれるように配置されている。
【0014】
本発明の振動装置のさらに他の特定の局面では、上記シリコン酸化膜が熱酸化法により形成された膜である。
【0015】
本発明に係る振動装置のさらに別の特定の局面では、上記不純物が、上記n型Si層にドープされているドーパントである。
【0016】
本発明に係る振動装置のさらに他の特定の局面では、上記縮退半導体であるn型Si層が、1×1019/cm以上のドーピング濃度を有するn型Si層である。
【0017】
本発明に係る振動装置のさらに他の特定の局面では、上記縮退半導体であるn型Si層のドーパントがPである。
【0018】
本発明に係る振動装置のさらに他の特定の局面では、上記励振部が上記振動体を屈曲振動させるように構成されている。
【0019】
本発明に係る振動装置のさらに他の特定の局面では、奇数本の上記振動体を備え、上記励振部が上記振動体を面外屈曲振動させるように構成されている。
【0020】
本発明に係る振動装置のさらに他の特定の局面では、偶数本の上記振動体を備え、上記励振部が上記振動体を面内屈曲振動させるように構成されている。
【0021】
本発明のさらに他の広い局面では、本発明に従って構成されている振動装置の製造方法が提供される。本発明の製造方法は、支持部に接続されており、かつ上面及び下面に不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられているn型Si層を有する振動体を用意する工程と、上記振動体を励振させるように設けられている電極を形成する工程とを備える。
【0022】
本発明に係る振動装置の製造方法のある特定の局面では、圧電薄膜を形成する工程をさらに備え、上記圧電薄膜が第1,第2の前記電極に挟まれるように設けられている。
【0023】
本発明に係る振動装置の製造方法の他の特定の局面では、圧電薄膜を形成する工程をさらに備え、前記圧電薄膜が前記電極と前記n型Si層に挟まれるように設けられている。
【0024】
本発明に係る振動装置の製造方法の他の特定の局面では、上記支持部に接続されており、上面及び下面に不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている、n型Si層を有する振動体を用意する工程が、1つの面に凹部を有し、Siからなる支持基板を用意する工程と、上面及び下面に不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている、n型Si層を用意する工程と、上記支持基板の上記凹部を覆うように上記シリコン酸化膜が設けられているn型Si層を積層する工程とを備える。
【0025】
本発明に係る振動装置の製造方法のさらに別の特定の局面では、上記上面及び下面に不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている、n型Si層を用意する工程が、熱酸化法により、不純物を含有するシリコン酸化膜を形成する工程である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る振動装置では、縮退半導体であるn型Si層の上面及び下面に接するように不純物を含有するシリコン酸化膜が設けられている。よって、n型Si層中のドーパントが外部に飛散し難くなるため、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる。
【0027】
また、本発明に係る振動装置の製造方法によると、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる振動装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る振動装置の外観を示す斜視図である。
図2図2は、図1中のA−A線に沿う部分の断面図である。
図3図3(a)及び図3(b)は、本発明の第1の実施形態に係る振動装置の振動姿態を説明するための各模式的斜視図である。
図4図4は、n型Si層におけるPの濃度分布を示す、SIMSプロファイルである。
図5図5(a)〜図5(d)は、本発明の第1の実施形態に係る振動装置の製造方法を説明するための各断面図である。
図6図6(a)〜図6(d)は、本発明の第1の実施形態に係る振動装置の製造方法を説明するための各断面図である。
図7図7は、本発明の第2の実施形態に係る振動装置の外観を示す斜視図である。
図8図8は、図7中のB−B線に沿う部分の断面図である。
図9図9は、本発明の第3の実施形態に係る振動装置の外観を示す斜視図である。
図10図10は、図9中のC−C線に沿う部分の断面図である。
図11図11は、本発明の第4の実施形態に係る振動装置の平面図である。
図12図12は、図11中のD−D線に沿う部分の断面図である。
図13図13は、本発明の第5の実施形態に係る振動装置の正面断面図である。
図14図14は、第5の実施形態に係る振動装置の変形例の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る振動装置1の外観を示す斜視図である。振動装置1は、支持部2と、奇数本の振動体である振動腕3a〜3cと、質量付加部4とを備える共振型振動子である。振動腕3a〜3cの各一端は、支持部2に接続されている。振動腕3a〜3cの各他端には質量付加部4が設けられている。
【0031】
振動腕3a〜3cは、平面形状が細長い矩形であり、長さ方向と幅方向とを有している。振動腕3a〜3cは、一端が固定端として支持部2に接続されており、他端が自由端として変位可能とされている。すなわち、振動腕3a〜3cは、支持部2によって片持ち梁で支持されている。奇数本の振動腕3a〜3cは互いに平行に延ばされており、同じ長さを有する。振動腕3a〜3cは、交番電界が印加されると、面外屈曲振動モードで屈曲振動する振動体である。
【0032】
支持部2は、振動腕3a〜3cの短辺に接続されている。支持部2は、振動腕3a〜3cの幅方向に延びている。なお、支持部2の両端には、振動腕3a〜3cと平行に延びるように側枠5,6が接続されている。支持部2及び側枠5,6は一体に形成されている。
【0033】
質量付加部4は、振動腕3a〜3cの各先端に設けられている。本実施形態では、質量付加部4は振動腕3a〜3cよりも幅方向の寸法が大きい矩形板状とされている。
【0034】
図2は、図1中のA−A線に沿う部分の断面図である。図2に示すように、振動腕3a〜3cは、SiO膜(シリコン酸化膜)12、n型Si層11、SiO膜13及び励振部14により構成されている。
【0035】
n型Si層11は、縮退半導体であるn型Si半導体からなる。n型Si層11は、温度変化による周波数ばらつきを抑制するために設けられている。n型Si層11におけるn型ドーパントのドーピング濃度は1×1019/cm以上であることが好ましい。上記n型ドーパントとしては、P、AsまたはSbなどの第15属元素を挙げることができる。上記のように、n型Si層11中のSiがn型ドーパントによってドープされることにより、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる。これは、Siの弾性特性がSiのキャリア濃度に大きく影響を受けるためである。なお、n型Si層11では、Q値を劣化させることなく、温度特性の改善が可能となる。
【0036】
本発明においては、n型Si層11の下面にはSiO膜12が設けられており、上面にもSiO膜13が設けられている。SiO膜12,13は、後述するように、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制するために設けられている。なお、本実施形態においては、SiO膜12,13は、n型Si層11の上面及び下面に設けられているが、n型Si層11の周囲を覆うようにSiO膜12,13を設けてもよい。
【0037】
なお、上記SiO膜12,13は、不純物を含有している。上記不純物は、上記n型Si層にドープされているドーパントであることが望ましい。上記n型ドーパントのドーピング濃度は、1×1017/cm以上であることが好ましい。この場合、SiOの弾性特性がSiO中の不純物濃度の影響を受けているため、温度変化による共振周波数のばらつきを、より一層確実に抑制することができる。
【0038】
SiO膜13上面には励振部14が設けられている。励振部14は、圧電薄膜15と、第1の電極16と、第2の電極17とを有する。第1の電極16と第2の電極17とは、圧電薄膜15を挟むように設けられている。なお、SiO膜13の上面には圧電薄膜15aが設けられており、圧電薄膜15と第2の電極17との上面には圧電薄膜15bが設けられている。圧電薄膜15aはシード層、圧電薄膜15bは保護層であり、いずれも励振部14を構成するものではない。圧電薄膜15a,15bは設けられなくてもよい。
【0039】
上記圧電薄膜15を構成する圧電材料は特に限定されず、ZnO、AlN、PZT、KNNなどを用いることができる。バルク波を利用した振動装置では、Q値が高いことが好ましい為、ScAlNが好適に用いられる。なお、Sc置換AlN(ScAlN)を用いることがより好ましい。ScAlNを用いると、共振型振動子の比帯域が広がるため、発振周波数の調整範囲がより一層広くなるためである。なお、Sc置換AlN膜(ScAlN)は、ScとAlの原子濃度を100at%とした場合、Sc濃度が0.5at%から50at%程度であることが望ましい。
【0040】
第1,第2の電極16,17は、Mo、Ru、Pt、Ti、Cr、Al、Cu、Ag、またはこれらの合金などの適宜の金属により形成することができる。
【0041】
圧電薄膜15は、厚み方向に分極している。従って、第1,第2の電極16,17間に交番電界を印加することにより、励振部14が圧電効果により励振される。その結果、振動腕3a〜3cは、図3(a)及び図3(b)に示す振動姿態をとるように屈曲振動する。
【0042】
なお、図3(a)及び図3(b)から明らかなように、中央の振動腕3bと、両側の振動腕3a,3cとは逆相で変位している。これは、中央の振動腕3bに印加される交番電界の位相と両側の振動腕3a,3cに印加される交番電界の位相を逆位相とすることにより達成し得る。あるいは、圧電薄膜15における分極方向を、中央の振動腕3bと、両側の振動腕3a,3cとで逆方向としてもよい。
【0043】
側枠5,6は、SiO膜20、Si基板19、SiO膜12、n型Si層11、SiO膜13及び圧電薄膜15により構成されている。支持部2も、側枠5,6と同様に構成されている。Si基板19の上面には凹部19aが形成されており、凹部19aの側壁の一部が支持部2及び側枠5,6を構成している。振動腕3a〜3cは凹部19a上に配置されている。Si基板19は支持部2及び側枠5,6を構成している支持基板である。SiO膜20は、保護膜であり、Si基板19の下面に設けられている。
【0044】
質量付加部4は、後述の製造工程から明らかなように、側枠5,6と同様に、SiO膜12、n型Si層11、SiO膜13及び圧電薄膜15からなる積層構造を有するため、本実施形態のように、上面側にのみ質量付加膜18が設けられていることが望ましい。さらに、質量付加部4は振動腕3a〜3cの先端に質量を付加する機能を有するものであるため、上記のように、振動腕3a〜3cよりも幅方向の寸法が大きいものであれば、その機能を有することになる。従って、質量付加膜18は必ずしも設けられずともよい。
【0045】
図4は、n型Si層11内におけるPの濃度分布を示す、SIMSプロファイルである。すなわち、n型Si層11の表面から深さ方向にPの濃度変化を測定したプロファイルである。図中、1E+nは、1×10を意味する。図中、破線は、n型Si層11にSiO膜12,13が設けられていない場合のプロファイルを示す。この場合、Pの濃度が表面近傍ほど、低くなっていることがわかる。他方、図中、実線は、n型Si層11に接するようにSiO膜12,13が設けられている場合のプロファイルを示す。図より、この場合、Pの濃度が表面から内部に至って均一であることがわかる。
【0046】
このように、SiO膜12,13の有無により、n型Si層11の表面近傍における、P濃度が変化する理由を以下に示す。
【0047】
n型Si層11は、後述する製造方法で示すように、Si基板19に熱接合することにより接合する。この熱接合の際発生する熱で、n型Si層11の表面から空気中にPが飛散する。あるいはSi基板19にPが移行する。そのため、SiO膜12,13が設けられていないn型Si層11では、表面近傍のP濃度が減少することになる。
【0048】
これに対して、SiO膜12,13がn型Si層11に接するように設けられている場合、SiO膜12,13により、Pが外部に飛散することを抑制することができる。この場合、n型Si層11内でPが不均一とならないため、温度変化による、周波数ばらつきが抑制される。
【0049】
(製造方法)
上記振動装置1の製造方法は特に限定されないが、一例を図5(a)〜図5(d)及び図6(a)〜図6(d)を参照して説明する。
【0050】
まず、図5(a)に示すように、Si基板19を用意する。Si基板19の上面にエッチングにより凹部19aを形成する。凹部19aの深さは10μm〜30μm程度とすればよい。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、ドーピング濃度が1×1019/cm以上でPがドープされたn型Si層11を用意し、n型Si層11の周囲を覆うように上記n型Si層にドープされているドーパントを含有するSiO膜12Xを形成する。以下、SiO膜12Xの上面をSiO膜13A、下面をSiO膜12として説明する。SiO膜12,13Aは熱酸化法により形成する。熱酸化法により形成されたSiO膜はQ値の劣化が生じ難いため好ましい。SiO膜12,13Aの厚みは、0.5μmとする。
【0052】
次に、図5(c)に示すように、Si基板19上に、SiO膜12,13Aが形成されているn型Si層11を積層する。積層に際しては、Si基板19の凹部19aが設けられている側の面に、SiO膜12を接触させる。この接合は、1100℃以上の高温で熱接合することにより行われる。
【0053】
次に、図5(d)に示すように、研磨により、SiO膜13Aを除去し、さらにn型Si層11の厚みを薄くする。それによって、n型Si層11の厚みを、10μm程度とする。
【0054】
次に、図6(a)に示すように、熱酸化法により、n型Si層11の上面にSiO膜13を形成するとともに、Si基板19の下面にSiO膜20を形成する。SiO膜13の厚みは、0.5μmとする。
【0055】
次に、図6(b)に示すように、SiO膜13の上面に、30nm〜100nm程度の厚みでAlNからなる圧電薄膜15aを形成した後に、圧電薄膜15aの上面に第1の電極16を形成する。第1の電極16は、Moからなる第1の層とAlからなる第2の層とが積層された積層電極である。
【0056】
圧電薄膜15aはシード層であり、圧電薄膜15aが設けられていることにより、第1の電極16におけるMoからなる第1の層が高い配向性で形成される。そして、図6(c)に示すように、圧電薄膜15aと第1の電極16との上面にAlNからなる圧電薄膜15を形成した後に、圧電薄膜15の上面に第2の電極17を形成する。第2の電極17は、Moからなる第1の層とAlからなる第2の層とが積層された積層電極である。第1の電極16と第2の電極17とは、例えば、スパッタリング法を用いたリフトオフ・プロセスにより形成する。
【0057】
しかる後、図6(d)に示すように、圧電薄膜15と第2の電極17との上面に、30nm〜100nm程度の厚みでAlNからなる圧電薄膜15bを形成する。そして、圧電薄膜15の上面であって質量付加部4が形成される領域に、Auからなる質量付加膜18を形成する。
【0058】
最後に、ドライエッチングまたはウェットエッチングにより、図1に示した複数の振動腕3a〜3c及び質量付加部分4が残存するように加工する。このようにして、振動装置1を得ることができる。
【0059】
(第2の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る振動装置1は、面外屈曲振動を利用している共振振動子であったが、図7に斜視図で示す第2の実施形態の振動装置21のように、面内屈曲振動を利用している共振振動子であってもよい。上記振動装置21は、支持部22と偶数本の振動体である振動腕23とを備える。なお、本実施形態においては、振動体として2本の振動腕23a,23bが備えられている。
【0060】
振動腕23a,23bは、平面形状が細長い矩形であり、長さ方向と幅方向とを有している。振動腕23a,23bは、それぞれ、一端が支持部22に接続されて固定端とされており、他端が自由端として変位可能とされている。2本の振動腕23a,23bは互いに平行に延びており、同じ長さである。振動腕23a,23bは、交番電界が印加されると、面内屈曲振動モードで屈曲振動する振動体である。
【0061】
支持部22は、振動腕23a,23bの短辺に接続されている。支持部22は、振動腕23a,23bの幅方向に延びている。支持部22は、振動腕23a,23bを、片持ち梁で支持している。
【0062】
図8は、図7中のB−B線に沿う部分の断面図である。図8に示すように、振動腕23a,23bは、第1の実施形態に係る振動装置1と同様に、SiO膜(シリコン酸化膜)12、n型Si層11、SiO膜13、励振部14によりにより構成されている。上記励振部14は、圧電薄膜15と、第1の電極16と、第2の電極17とを有する。第1の電極16と第2の電極17とは、圧電薄膜15を挟むように設けられている。
【0063】
第2の実施形態においても、n型Si層11の上面及び下面に接するように、SiO膜12,13が設けられている。従って、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる。
【0064】
(第3の実施形態)
第1,第2の実施形態においては、音叉型の振動装置を示したが、図9に斜視図で示す第3の実施形態の振動装置31のように、幅拡がり振動を利用する共振振動子であってもよい。振動装置31は、支持部32a,32bと、振動体としての振動板33と、連結部34a,34bとを備える、幅拡がり振動を利用している共振子である。
【0065】
振動板33は矩形板状であり、長さ方向と幅方向とを有している。振動板33は、連結部34a,34bを介して、支持部32a,32bに接続されている。すなわち、振動板33は、支持部32a,32bにより支持されている。振動板33は、交番電界が印加されると、幅拡がり振動モードで幅方向に振動する振動体である。
【0066】
連結部34a,34bの一端は、振動板33の短辺側の側面中央に接続されている。上記振動板33の短辺側の側面中央は、幅拡がり振動のノードとなっている。
【0067】
支持部32a,32bは、連結部34a,34bの他端に接続されている。支持部32a,32bは、連結部34a,34bの両側に延びている。支持部32a,32bの長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、振動板33の短辺と同じ長さである。
【0068】
図10は、図9中のC−C線に沿う部分の断面図である。図10に示すように、振動板33は、シリコン酸化膜(SiO膜)12、n型Si層11、SiO膜13、第1,第2の電極16,17及び圧電薄膜15により構成されている。
【0069】
より具体的には、n型Si層11上に、圧電薄膜15が設けられている。第1,第2の電極16,17は、圧電薄膜15を挟むように設けられている。
【0070】
なお、第3の実施形態においても、n型Si層11の上面及び下面に接するように、SiO膜12,13が設けられている。従って、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる。
【0071】
(第4の実施形態)
本発明の振動装置は、静電MEMS構造を有していてもよい。図11は、本発明の第4の実施形態に係る振動装置の平面図である。また、図12は、図11中のD−D線に沿う部分の断面図である。
【0072】
振動装置41は、支持部42a,42bと、振動体としての振動板43と、連結部44a,44bと、第1,第2の電極45a,45bとを備える、幅拡がり振動を利用している共振振動子である。
【0073】
振動板43は矩形板状であり、長さ方向と幅方向とを有している。振動板43は、連結部44a,44bを介して、支持部42a,42bに接続されている。すなわち、振動板43は、支持部42a,42bにより支持されている。振動板43は、交流電圧が印加されることにより、幅拡がり振動モードで幅方向に振動する振動体である。なお、図12に示すように、振動板43は、SiO膜(シリコン酸化膜)12、n型Si層11及びSiO膜13により構成されている。
【0074】
連結部44a,44bの一端は、振動板43の短辺側の側面中央に接続されている。上記振動板43の短辺側の側面中央は、幅拡がり振動のノードとなっている。
【0075】
支持部42a,42bは、連結部44a,44bの他端に接続されている。支持部42a,42bは、連結部44a,44bの両側に延びている。支持部42a,42bの振動板43の長さ方向に沿う寸法は、特に限定されないが、本実施形態においては、振動板43の短辺より長い。
【0076】
第1,第2の電極45a,45bは、矩形板状である。第1,第2の電極45a,45bは、n型Si層11と同じ材料で構成されている。第1,第2の電極45a,45bは、振動板43の幅方向において、振動板43とギャップを隔てて対向している。すなわち、第1,第2の電極45a,45bの振動板43側の長辺が、振動板43の長辺と対向している。
【0077】
また、図12に示すように、第1,第2の電極45a,45bの上面及び下面には、SiO膜12及びSiO膜13がそれぞれ形成されている。もっとも、n型Si層11には、SiO膜12,13が設けられる必要があるが、第1,第2の電極45a,45bには、SiO膜12,13は、設けられていなくともよい。
【0078】
上記のように、第4の実施形態においても、n型Si層11の上面及び下面に接するように、SiO膜12,13が設けられている。従って、第4の実施形態に係る振動装置においても、温度変化による共振周波数のばらつきが抑制されている。
【0079】
図13は、本発明の第5の実施形態に係る振動装置の正面断面図である。
【0080】
振動装置51は、n型Si層11の上面にSiO膜13が設けられていない点で、第1の実施形態の振動装置1と異なる。第5の実施形態においても、温度変化による共振周波数のばらつきが抑制されている。この理由を、以下に説明する。
【0081】
振動装置51の製造方法は、図6(a)に示したSiO膜13の形成を行わない点以外は、第1の実施形態の振動装置1の製造方法と同様である。すなわち、n型Si層11の上面及び下面にSiO膜12,13Aが設けられた状態で、n型Si層11をSi基板19に熱接合する。よって、n型Si層11にドープされたPが外部に飛散することを抑制し得る。従って、n型Si層11内でPが不均一とならないため、温度変化による共振周波数のばらつきを抑制することができる。また、圧電薄膜15とn型Si層11との間に熱伝導率が低いSiO膜13が形成されていないため、熱弾性損失を低減できる。従って、Q値が高い共振子を形成することができる。
【0082】
図14に示す第5の実施形態の変形例のように、振動装置61は第1の電極16を有していなくともよい。n型Si層11の上面にSiO膜13が設けられていない場合、第2の電極17と圧電薄膜15を挟んで対向する電極として、n型Si層11を用いることができる。よって、第1の電極16を形成する工程を省くことができるため、生産性を高めることができる。また、圧電薄膜15とn型Si層11との間に熱伝導率が低いSiO膜13が形成されていないため、熱弾性損失を低減できる。よって、Q値が高い共振子が形成することができる。加えて、AlNやSiよりも機械的弾性損失が大きなMoを省くことによって、さらにQ値が高い共振子を形成することができる。
【0083】
n型Si層11は、図5(b)に示したような、SiO膜が表面に形成された状態で用意される必要はない。n型Si層11をSi基板19に熱接合する工程においては、例えば、大気中で仮接合を行う。しかる後、高温の炉の中で熱接合を行う。高温の炉において熱接合を行うに際して、n型Si層11の上面及び下面にSiO膜12,13Aを熱酸化により形成してもよい。それによって、n型Si層11にドープされたPが外部に飛散することを抑制し得る。
【符号の説明】
【0084】
1,21,31,41,51,61…振動装置
2,22,32a,32b,42a,42b…支持部
3a,3b,3c,23,23a,23b…振動腕
4…質量付加部
5,6…側枠
11…n型Si層
12,12X,13,13A…SiO膜(シリコン酸化膜)
14…励振部
15…圧電薄膜
15a,15b…圧電薄膜
16…第1の電極
17…第2の電極
18…質量付加膜
19…Si基板
19a…凹部
20…SiO
33,43…振動板
34a,34b,44a,44b…連結部
45a,45b…第1,第2の電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14