特許第6245304号(P6245304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245304
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/07 20060101AFI20171204BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20171204BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B60C9/07
   B60C9/18 K
   B60C9/18 M
   B60C9/22 C
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-95766(P2016-95766)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-202753(P2017-202753A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年8月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
(72)【発明者】
【氏名】児玉 勇司
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/161331(WO,A1)
【文献】 特開2007−191044(JP,A)
【文献】 特開2008−126841(JP,A)
【文献】 特開2000−43505(JP,A)
【文献】 特開平9−95106(JP,A)
【文献】 特開平4−297304(JP,A)
【文献】 特開2006−256522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架されていて複数本のカーカスコードを含むカーカス層とを備え、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有する空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部の接地幅に相当する領域を踏面領域とし、前記トレッド部の接地幅の中央80%に相当する領域を踏面中央領域とし、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側の領域をサイド領域としたとき、前記カーカス層の一方の端末がタイヤ中心線を基準に反対側に位置する前記トレッド部の接地端まで延在し、前記カーカス層が、前記踏面領域でタイヤ径方向内側に位置する内側層と、前記踏面領域で前記内側層のタイヤ径方向外側に位置する外側層とを含む2層構造を有し、前記カーカス層の前記踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度が前記内側層と前記外側層のうち少なくとも一方において前記カーカス層の前記サイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度と異なっていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記カーカス層の一方の端末と他方の端末との離間距離が5mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカス層の前記踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度が前記内側層と前記外側層のうちの少なくとも一方において前記カーカス層の前記サイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層の前記内側層と前記外側層のうち少なくとも一方のタイヤ周方向に対するコード角度が前記踏面中央領域では10°〜75°の範囲にあると共に、前記カーカス層のタイヤ周方向に対するコード角度が前記サイド領域では85°〜90°の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
少なくとも前記踏面領域における前記カーカス層を構成するカーカスコードの幅50mm当たりの打ち込み本数が20本〜70本であり、前記カーカスコードの直径が0.2mm〜1.5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記踏面領域における前記カーカス層の外周側にベルト層を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ベルト層が1層であることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記空気入りタイヤが車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤであり、前記カーカス層の両端末が車両内側に配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記ベルト層のタイヤ周方向に対するコード角度が15°〜45°であることを特徴とする請求項6又は7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記カーカス層と前記ベルト層の間に0.2mm〜2.0mmの厚さを有する中間ゴム層が配置されていることを特徴とする請求項6、7、9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記ベルト層のタイヤ径方向外側にベルト補強層を備えることを特徴とする請求項6、7、9、10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、踏面領域とサイド領域でカーカスコードの角度が連続的に変化する屈曲カーカス構造を採用することにより、タイヤの軽量化をしながら、踏面領域とサイド領域でそれぞれ所望の剛性を確保することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤを軽量化する手法として、タイヤにおいて体積の大きい部位であるキャップトレッドやサイド等のゴムを薄肉化することが試みられている。しかしながら、耐摩耗性や耐久性の観点から、タイヤの各部位のゴムを薄肉化するという手法で更なる軽量化を図ることは困難になっている。
【0003】
一方、タイヤを軽量化するために、従来のラジアル構造における独立のベルト層を不要にしたものが種々提案されている。例えば、特許文献1では、多数本のコードを平行に配列した内側コード層と外側コード層とを、それぞれのコード層のコード角度をサイドウォール部で80°〜90°、トレッド部センターで15°〜50°にすると共に、両コード層間で互いに逆方向に傾斜させることにより、ベルト層を不要にしながら内圧保持機能とタガ機能との両機能を兼ね備えた空気入りタイヤを得ることができる。しかしながら、1本のコードを左右のビードコア間を連続的に往復移動させて形成するという複雑な製造方法の発明であるため、実用性が低いという欠点がある。
【0004】
また、特許文献2では、一対のビード間を補強する2層以上のカーカス層を備え、カーカス層のコードが、ビードからタイヤ最大幅付近の位置までは略タイヤ半径方向に配置され、その位置から接地端にかけて周方向に対する角度を徐々に変化させ、接地端近傍では周方向に対して20〜60°の角度で、踏面部では20〜50°の角度で配置された空気入りタイヤを得ることができる。しかしながら、2層以上のカーカス層を用いて補強する場合、単一のカーカス層を用いる場合と比較して、ビードコアの廻りに巻き上げられたカーカス層の端部のように補強材として実質的に機能しない部分が多く生じてしまうため、タイヤを軽量化しながら効果的な補強を行うことができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−22537号公報
【特許文献2】特開2002−127711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、踏面領域とサイド領域でカーカスコードの角度が連続的に変化する屈曲カーカス構造を採用することにより、タイヤの軽量化をしながら、踏面領域とサイド領域でそれぞれ所望の剛性を確保することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架されていて複数本のカーカスコードを含むカーカス層とを備え、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有する空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部の接地幅に相当する領域を踏面領域とし、前記トレッド部の接地幅の中央80%に相当する領域を踏面中央領域とし、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向内側の領域をサイド領域としたとき、前記カーカス層の一方の端末がタイヤ中心線を基準に反対側に位置する前記トレッド部の接地端まで延在し、前記カーカス層が、前記踏面領域でタイヤ径方向内側に位置する内側層と、前記踏面領域で前記内側層のタイヤ径方向外側に位置する外側層とを含む2層構造を有し、前記カーカス層の前記踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度が前記内側層と前記外側層のうち少なくとも一方において前記カーカス層の前記サイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度と異なっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、カーカス層の一方の端末がタイヤ中心線を基準に反対側に位置するトレッド部の接地端まで延在し、カーカス層が、踏面領域でタイヤ径方向内側に位置する内側層と、踏面領域で内側層のタイヤ径方向外側に位置する外側層とを含む2層構造を有し、カーカス層の踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度が内側層と外側層のうち少なくとも一方においてカーカス層のサイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度と異なっていることで、踏面領域とサイド領域において互いに異なる剛性を発現させることができ、踏面領域とサイド領域でそれぞれ所望の剛性を確保することが可能となる。また、従来のように複数層のベルト層を備える空気入りタイヤと比較して、タイヤの軽量化が可能となる。更に、2層以上の単一でないカーカス層を備える空気入りタイヤと比較して、補強材として実質的に機能しない部分を少なくでき、最小限の材料でビード部間を補強することが可能となる。
【0009】
本発明では、カーカス層の一方の端末と他方の端末との離間距離は5mm以上であることが好ましい。これにより、内側層と外側層からなるカーカス層の端末における耐久性を向上させることが可能となる。
【0010】
本発明では、カーカス層の踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度は、内側層と外側層のうち少なくとも一方において、カーカス層のサイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度よりも小さいことが好ましい。これにより、カーカス層にベルト層としての機能を分担させることができる。
【0011】
本発明では、カーカス層の踏面領域の内側層と外側層のうち少なくとも一方のタイヤ周方向に対するコード角度は踏面中央領域では10°〜75°の範囲にあると共に、カーカス層のタイヤ周方向に対するコード角度は前記サイド領域では85°〜90°の範囲にあることが好ましい。これにより、カーカス層にベルト層としての機能を十分に分担させることができる。また、踏面領域とサイド領域との境界付近においてカーカスコードの緩やかな角度変化が許容され、耐久性を向上させることが可能となる。より好ましくは踏面中央領域で15°〜70°、更に好ましくは15°〜65°が良い。
【0012】
本発明では、少なくとも踏面領域におけるカーカス層を構成するカーカスコードの幅50mm当たりの打ち込み本数は20本〜70本であり、そのカーカスコードの直径は0.2mm〜1.5mmであることが好ましい。これにより、カーカス層の質量の増加を抑制し、タイヤの軽量化に寄与すると共に、剛性や耐久性の低下を抑制することができる。
【0013】
本発明では、踏面領域におけるカーカス層の外周側にベルト層を備えることが好ましい。これにより、トレッド部の剛性を十分に確保し、良好な操縦安定性を発揮することができる。
【0014】
本発明では、ベルト層は1層であることが好ましい。これにより、ベルト層の質量の増加を最小限に抑えつつ、トレッド部のタガ効果を増大させることができる。
【0015】
本発明では、空気入りタイヤが車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤであり、カーカス層の両端末が車両内側に配置されていることが好ましい。これにより、カーカス層の両端末における耐久性を向上させることが可能となる。
【0016】
本発明では、ベルト層のタイヤ周方向に対するコード角度は15°〜45°であることが好ましい。これにより、ベルト層として必要なタガ機能をベルト層に対して具備させることができる。
【0017】
本発明では、カーカス層とベルト層の間に0.2〜2.0mmの厚さを有する中間ゴム層が配置されていることが好ましい。これにより、踏面領域の面外曲げ剛性低下を補完すると共に、面内曲げ剛性を向上させることができる。
【0018】
本発明では、ベルト層のタイヤ径方向外側にベルト補強層を備えることが好ましい。これにより、高速耐久性を向上させることができる。
【0019】
本発明において、トレッド部の接地領域は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに測定されるタイヤ軸方向のトレッド接地幅に基づいて特定される。接地端は、接地領域のタイヤ軸方向の最外側位置である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのカーカス層、ベルト層及びベルト補強層を抽出して示す平面図である。
図3】カーカスコードとベルトコードのコード角度を定義するために図2のカーカス層、ベルト層及びベルト補強層の一部を示す平面図である。
図4】(a)は図1のカーカス層の両端末の位置を模式的に示す説明図であり、(b),(c)は変形例を示す説明図である。
図5図1のカーカス層の各部分におけるカーカスコードの角度変化を模式的に示す説明図である。
図6】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。なお、図1,2において、CLはタイヤ中心線である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0023】
一対のビード部3,3間には単一のカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコード41を有し、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0024】
ここで、トレッド部1の接地幅Wに相当する領域を踏面領域Rtとし、少なくともタイヤ最大幅位置Pmaxよりもタイヤ径方向内側の領域をサイド領域Rsとし、トレッド部1の接地幅Wの中央80%に相当する領域を踏面中央領域Rcとする。カーカス層4は、踏面領域Rtでタイヤ径方向内側に配置される内側層4Aと、踏面領域Rtでタイヤ径方向外側に配置される外側層4Bとを含み、踏面領域Rtでは2層構造を有する。
【0025】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には1層のベルト層7が埋設されている。このようにベルト層7を1層とすることで、ベルト層7の質量の増加を最小限に抑えつつ、トレッド部1のタガ効果を増大させることができる。ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコード71を含むように構成されている。ベルト層7のベルトコード71としては、スチールコード、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0026】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、タイヤ周方向に配向する繊維コードを含む複数層(図1では2層)のベルト補強層8を配置されている。このベルト補強層8は、例えば、少なくとも1本の繊維コードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有することができる。このベルト補強層8のタイヤ周方向に対するコード角度は5°以下、より好ましくは、3°以下である。ベルト補強層8の繊維コードとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、レーヨン、アラミド等の有機繊維コード、又は高弾性のアラミド繊維コードや高弾性のアラミド繊維と低弾性のナイロン繊維とを撚り合わせた複合コードが好適に使用される。なお、図1の態様では、タイヤ径方向内側に位置するベルト補強層8はベルト層7の全幅を覆うフルカバーを構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルト補強層8はベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。
【0027】
また、カーカス層4とベルト層7の間には中間ゴム層9が配置されている。中間ゴム層9は、そのモジュラスが10MPa以上であって、60℃のtanδが0.2以下であると良い。また、中間ゴム層9を構成するゴムシートには短繊維が配合されていても良いが、長繊維は除外される。中間ゴム層9の厚さは、0.2mm〜2.0mmの範囲となるように構成されていると良い。このように中間ゴム層9の厚さを適度に設定することで、踏面領域Rtの面外曲げ剛性低下を補完すると共に、面内曲げ剛性を向上させることができる。
【0028】
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのカーカス層4、ベルト層7及びベルト補強層8を抽出して示すものであり、Trはタイヤラジアル方向、Tcはタイヤ周方向を示している。図2に示すように、カーカス層4を構成するカーカスコード41は、踏面領域Rtではタイヤラジアル方向、即ち、タイヤ幅方向に対して傾斜している一方で、サイド領域Rsではタイヤラジアル方向に沿って延在するように配置されている。図2の態様では、内側層4Aと外側層4Bの双方のカーカスコード41が踏面領域Rtでタイヤ幅方向に対して傾斜しているが、内側層4Aと外側層4Bの一方のカーカスコード41が踏面領域Rtでタイヤ幅方向に対して傾斜し、他方の内側層4A又は外側層4Bのカーカスコード41が踏面領域Rt及びサイド領域Rsでタイヤラジアル方向に沿って延在するように配置された構造を採用することもできる。即ち、本発明では、内側層4Aと外側層4Bのうち少なくとも一方の層のカーカスコード41が踏面領域Rtでタイヤ幅方向に対して傾斜するように配置された構造を有する。
【0029】
一方、ベルト層7を構成するベルトコード71は、踏面領域Rtにおいてタイヤラジアル方向に対して同一方向に傾斜している。図2の態様では、外側層4Bのカーカスコード41がベルトコード71と互いに交差している。本発明では、踏面領域Rtにおいて、内側層4Aと外側層4Bのうち少なくとも一方の層のカーカスコード41と、ベルトコード71とが互いに交差するように配置された構造を有する。
【0030】
図3に示すように、カーカス層4のカーカスコード41のタイヤ周方向に対してなす角度をコード角度θ1とする。このコード角度θ1は、踏面中央領域Rcとサイド領域Rsにおけるそれぞれの平均角度を示す。このとき、カーカス層4の踏面中央領域Rcでのコード角度θ1は、内側層4Aと外側層4Bのうち少なくとも一方の層において、サイド領域Rsでのコード角度θ1と異なるように設定されている。また、図2の態様では、内側層4Aと外側層4Bの踏面中央領域Rcにおけるコード角度θ1が互いに異なり、それぞれのカーカスコード41が踏面中央領域Rcで直交するように配置された例を示しているが、ベルト層7を備える場合には内側層4Aと外側層4Bの踏面中央領域Rcにおけるコード角度θ1を同一とするように配置することもできる。
【0031】
図4(a)は、図1のカーカス層4の両端末40A,40Bの位置を模式的に示している。図4(a)に示す端末40Aはサイドウォール部2近傍まで延在し、他方の端末40Bはタイヤ中心線CLを基準に反対側に位置するトレッド部1の接地端まで延在している。図4(a)の態様では、カーカス層4の両端末40A,40Bが互いに重なることなく離間している構造を有するが、カーカス層4の両端末40A,40Bが互いに重なる構造(後述の図4(c)に示す構造)を有することもできる。いずれの構造を有する場合であっても、カーカス層4の両端末40A,40Bの間の直線距離である、図1に示す離間距離Dを5mm以上とすることで、カーカス層4の端末40A,40Bの耐久性の向上に好適となる。
【0032】
図4(b),(c)は図4(a)の変形例である。図4(b),(c)に示す端末40Aはいずれの場合もサイドウォール部2近傍まで延在している。他方、図4(b)に示す端末40Bは、タイヤ中心線CLを基準に反対側に位置するトレッド部1の接地端を越えて、トレッド部1のショルダー部付近まで延在している場合である。また、図4(c)に示す端末40Bは、タイヤ中心線CLを基準に反対側に位置するビードフィラー6の近傍まで延在している場合である。
【0033】
図5図1のカーカス層4の各部分におけるカーカスコード41の角度変化を模式的に示すものである。即ち、単一のカーカス層4の全体を一部材として平面視した際に、一方の端末40Aから他方の端末40Bまでの間で、カーカス層4を構成するカーカスコード41のコード角度θ1の変化を連続的に示すものである。カーカスコード41が、タイヤラジアル方向に平行であればコード角度θ1が90°であり、傾斜していればコード角度θ1が90°以外(図5では45°)であることを示している。カーカス層4は、主にターンナップ部分Pu、サイド部分Ps、踏面部分Ptの3つの部分を含んでいる。図5に示すように、踏面部分Ptではコード角度θ1が45°、ターンナップ部分Pu及びサイド部分Psではコード角度θ1が90°となっており、タイヤ上ではカーカス層4が折り返されて、図1に示すように、内側層4Aと外側層4Bのカーカスコード41が直交するように配置される。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4の一方の端末がタイヤ中心線CLを基準に反対側に位置するトレッド部1の接地端まで延在し、カーカス層4が、踏面領域Rtでタイヤ径方向内側に位置する内側層4Aと、踏面領域Rtで内側層4Aのタイヤ径方向外側に位置する外側層4Bとを含む2層構造を有し、カーカス層4の踏面中央領域Rcでのタイヤ周方向に対するコード角度θ1が内側層4Aと外側層4Bのうち少なくとも一方の層においてカーカス層4のサイド領域Rsでのタイヤ周方向に対するコード角度θ1と異なっていることで、踏面領域Rtとサイド領域Rsにおいて互いに異なる剛性を発現させることができ、踏面領域Rtとサイド領域Rsでそれぞれ所望の剛性を確保することが可能となる。また、従来のように複数層のベルト層を備える空気入りタイヤと比較して、タイヤの軽量化が可能となる。更に、2層以上の単一でないカーカス層を備える空気入りタイヤと比較して、補強材として実質的に機能しない部分を少なくでき、最小限の材料でビード部3間を補強することが可能となる。
【0035】
特に、カーカス層4の踏面中央領域Rcでのタイヤ周方向に対するコード角度θ1は、内側層4Aと外側層4Bのうち少なくとも一方の層において、カーカス層4のサイド領域Rsでのタイヤ周方向に対するコード角度θ1よりも小さいことが好ましい。このように踏面中央領域Rcとサイド領域Rsにおけるコード角度θ1を適度に設定することで、カーカス層4にベルト層としての機能を分担させることが可能となる。
【0036】
また、コード角度θ1は、踏面中央領域Rcでは10°〜75°の範囲にあると共に、ベルト層7の端部よりもタイヤ幅方向外側に向かうにつれて漸増し、サイド領域Rsでは85°〜90°の範囲となるように構成すると良い。特に、コード角度θ1は、踏面中央領域Rcでより好ましくは15°〜70°、更に好ましくは15°〜65°の範囲となるように構成すると良い。このようにコード角度θ1を適度に設定することで、カーカス層4にベルト層としての機能を十分に分担させることができる。また、踏面領域Rtとサイド領域Rsとの間でカーカスコード41の緩やかな角度変化が許容され、耐久性を向上させることが可能となる。
【0037】
更に、図3に示すように、ベルト層7を構成するベルトコード71のタイヤ周方向に対する角度をコード角度θ2とする。コード角度θ2は、15°〜45°の範囲となるように構成すると良い。このようにコード角度θ2を適度に設定することで、ベルト層7として必要なタガ機能をベルト層7に対して具備させることができる。
【0038】
本発明では、少なくとも踏面領域Rtにおけるカーカスコード41の幅50mm当たりの打ち込み本数は20本〜70本であり、カーカスコード41の直径は0.2mm〜1.5mmとなるように構成する良い。このようにカーカスコード41の寸法を適度に設定することで、カーカス層4の質量の増加を抑制し、タイヤの軽量化に寄与すると共に、剛性や耐久性の低下を抑制することができる。
【0039】
図6は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示すものであり、INはタイヤの車両装着時において車両に対してタイヤ中心線CLよりも内側(以下、車両内側という)を示し、OUTはタイヤ中心線CLよりも外側(以下、車両外側という)を示している。本発明を車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤに適用する場合、カーカス層4の両端末40A,40Bを車両内側に配置するように構成すると良い。このように両端末40A,40Bを配置することで、カーカス層4の両端末40A,40Bにおける耐久性を向上させることが可能となる。
【実施例】
【0040】
タイヤサイズ235/40R18で、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部と、該一対のビード部間に装架されていて複数本のカーカスコードを含むカーカス層とを備え、該カーカス層が各ビード部のビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有する空気入りタイヤにおいて、カーカス層の一方の端末がタイヤ中心線を基準に反対側に位置するトレッド部の接地端まで延在し、カーカス層が、踏面領域でタイヤ径方向内側に位置する内側層と、踏面領域で内側層のタイヤ径方向外側に位置する外側層とを含む2層構造を有し、カーカス層の踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度が前記内側層と前記外側層のうち少なくとも一方において前記カーカス層のサイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度と異なっている構造を有する実施例1〜7のタイヤを製作した。
【0041】
実施例1〜7において、内側層の踏面中央領域でのコード角度、内側層のサイド領域でのコード角度、外側層の踏面中央領域でのコード角度、外側層のサイド領域でのコード角度、ベルト層のコード角度、カーカス層の両端末の位置及び中間ゴム層の有無を表1のように設定した。これらコード角度はいずれもタイヤ周方向に対する傾斜角度である。
【0042】
なお、中間ゴム層の有無において、中間ゴム層を備える実施例7のタイヤには厚さが1mmのゴムシートを使用した。
【0043】
比較のため、カーカスコードがタイヤラジアル方向に配向した2層のカーカス層と2層のベルト層と備えた従来例のタイヤを用意した。従来例において、内側ベルト層と外側ベルト層のコード角度はそれぞれ24°、−24°とした。
【0044】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤ重量、転がり抵抗及び操縦安定性に関する評価を実施し、その結果を表1に併せて示した。
【0045】
タイヤ重量:
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどタイヤ重量が軽いことを意味する。
【0046】
転がり抵抗:
各試験タイヤをリムサイズ18×8.5Jのホイールに組み付けて、空気圧230kPaを充填し、ISOの規定に準拠して、ドラム径2000mmのドラム試験機を用いて転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0047】
操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ18×8.5Jのホイールに組み付けて排気量2400ccの車両に装着し、空気圧230kPaの条件下で、操縦安定性についてパネラーによる官能評価を実施した。評価結果は、基準点を5として10段階評価にて示した。この評価値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から判るように、カーカス層の一方の端末がタイヤ中心線を基準に反対側に位置するトレッド部の接地端まで延在し、カーカス層が、踏面領域でタイヤ径方向内側に位置する内側層と、踏面領域で内側層のタイヤ径方向外側に位置する外側層とを含む2層構造を有し、カーカス層の踏面中央領域でのタイヤ周方向に対するコード角度がカーカス層のサイド領域でのタイヤ周方向に対するコード角度と異なっていることで、実施例1〜7のタイヤは従来例と同等の操縦安定性を維持しながら、タイヤ重量が低減され、しかも転がり抵抗が改善されていた。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
4A 内側層
4B 外側層
40A,40B カーカス層の端末
41 カーカスコード
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
71 ベルトコード
Rt 踏面領域
Rc 踏面中央領域
Rs サイド領域
W 接地幅
max タイヤ最大幅位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6