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特許6245312非水系電解液二次電池用電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池
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  • 特許6245312-非水系電解液二次電池用電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池 図000069
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245312
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】非水系電解液二次電池用電解液及びそれを用いた非水系電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20171204BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20171204BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20171204BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20171204BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 55/07 20060101ALN20171204BHJP
   C07F 1/02 20060101ALN20171204BHJP
   C07F 7/12 20060101ALN20171204BHJP
   C07F 7/08 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01M2/16 P
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   H01M4/587
   H01M4/485
   H01M4/48
   H01M4/38 Z
   H01M4/46
   !C07C55/07
   !C07F1/02
   !C07F7/12 D
   !C07F7/08 C
【請求項の数】20
【全頁数】110
(21)【出願番号】特願2016-106911(P2016-106911)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-216040(P2017-216040A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年8月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】板橋 沙央梨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克俊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 一成
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−35820(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0342243(US,A1)
【文献】 国際公開第2017/026181(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/117279(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/117280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567、4/38
H01M 4/46
H01M 4/48
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/587
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 10/0569
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶媒と
前記非水系溶媒に溶解される電解質と
(I)一般式(1)で示されるジフルオロイオン性錯体(1)と、
(II)ジフルオロリン酸塩、モノフルオロリン酸塩、下記一般式(II−1)〜(II−8)のそれぞれで示されるイミドアニオンを有する塩、及び下記一般式(II−9)で示されるシラン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含有し、
前記ジフルオロイオン性錯体(1)のうち95モル%以上が、一般式(1−Cis)で示されるシス型の立体配座をとるジフルオロイオン性錯体(1−Cis)であることを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液。
【化1】
【化2】

一般式(1)と一般式(1−Cis)において、Aは金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。
Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。
MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)である。
Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Cis−1)〜(1−Cis−3)から選択されるいずれか1以上の構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Cis−2)の場合、Rは存在しない。
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。
Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖又は環状構造をとることもできる。
pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。]
【化3】
【化4】

[一般式(II−1)〜(II−8)中、R〜R14はそれぞれ互いに独立して、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、及び不飽和結合の少なくとも1種が存在することもできる。
〜Zは、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素数が3〜10のシクロアルキル基、シクロアルケニル基、炭素数が6〜10のアリール基、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、及び不飽和結合の少なくとも1種が存在することもできる。nは1〜8の整数を示す。B、C及びはそれぞれ互いに独立して、金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つを示し、CとDは同じでもよい
一般式(II−9)中、R15はそれぞれ互いに独立して、炭素−炭素不飽和結合を有する基を表す。R16はそれぞれ互いに独立して、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基から選択され、前記アルキル基はフッ素原子及び/又は酸素原子を有していても良い。aは2〜4である。]
【請求項2】
前記ジフルオロイオン性錯体(1)のアニオン部分及び前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)のアニオン部分において、M、X、Y、W、p、q、r、及びtの組み合わせが(Cis−a)、(Cis−b)、(Cis−c)、(Cis−d)から選ばれる少なくとも一つの組み合わせである、請求項1に記載の非水系電解液。
(Cis−a)M=P、X=O、Y=C、pt=1、r=0
(Cis−b)M=P、X=O、W=C(CF、pq=0、rt=1
(Cis−c)M=Si、X=O、Y=C、pq=1、t=2、r=0
(Cis−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、pt=1、r=0
【請求項3】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)の前記Aが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及び四級アルキルアンモニウムイオンからなる群から選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)の含有量は、非水系電解液に対して0.001質量%以上20質量%以下であり、
前記(II)に示される化合物の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上25質量%以下であり、
前記(II)に示される化合物が前記ジフルオロリン酸塩を含む場合、前記ジフルオロリン酸塩の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上3質量%以下であり、
前記(II)に示される化合物が前記モノフルオロリン酸塩を含む場合、前記モノフルオロリン酸塩の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上3質量%以下であり、
前記(II)に示される化合物が前記一般式(II−1)〜(II−8)の各々で示されるイミドアニオンを有する塩を含む場合、前記一般式(II−1)〜(II−8)の各々で示されるイミドアニオンを有する塩の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上10質量%以下であり、
前記(II)に示される化合物が前記一般式(II−9)で示されるシラン化合物を含む場合、前記一般式(II−9)で示されるシラン化合物の含有量は、非水系電解液に対して0.001質量%以上10質量%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記ジフルオロリン酸塩及びモノフルオロリン酸塩のカウンターカチオンが、リチウムカチオン又はナトリウムカチオンである、請求項1から4のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記ジフルオロイオン性錯体(1)が、さらに、(III)一般式(1−Trans)で示されるトランス型の立体配座をとるジフルオロイオン性錯体(1−Trans)を含有する、請求項1からのいずれかに記載の非水系電解液。
【化5】
【化6】

[一般式(1−Trans)において、
は金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。
Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)である。Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Trans−1)〜(1−Trans−3)から選択されるいずれか1以上の構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Trans−2)の場合、Rは存在しない。
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。
Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖又は環状構造をとることもできる。pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。]
【化7】
【請求項7】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)のアニオン部分において、M、X、Y、W、p、q、r、及びtの組み合わせが(Trans−a)、(Trans−b)、(Trans−c)、(Trans−d)から選ばれる少なくとも一つの組み合わせである、請求項に記載の非水系電解液。
(Trans−a)M=P、X=O、Y=C、pt=1、r=0
(Trans−b)M=P、X=O、W=C(CF、pq=0、rt=1
(Trans−c)M=Si、X=O、Y=C、pq=1、t=2、r=0
(Trans−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、pt=1、r=0
【請求項8】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)の前記Aが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及び四級アルキルアンモニウムイオンからなる群から選択される1以上を含む、請求項又はに記載の非水系電解液。
【請求項9】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)の前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)に対する質量比(1−Trans)/(1−Cis)が0.0001以上0.05以下である、請求項からのいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項10】
さらに、(IV)一般式(1−Tetra)で示されるテトラフルオロイオン性錯体を含有する、請求項1からのいずれかに記載の非水系電解液。
【化8】
[一般式(1−Tetra)において、Aは金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。
Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。
MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)である。
Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Tetra−1)から(1−Tetra−3)から選択される一以上の構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Tetra−2)の場合、Rは存在しない。
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。
Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1以上10以下のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖又は環状構造をとることもできる。
pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。]
【化9】
【請求項11】
前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)のアニオン部分において、M、X、Y、W、p、q、r、及びtの組み合わせが(Tetra−a)、(Tetra−b)、(Tetra−c)、(Tetra−d)から選ばれる少なくとも一つの組み合わせである、請求項10に記載の非水系電解液。
(Tetra−a)M=P、X=O、Y=C、pt=1、r=0
(Tetra−b)M=P、X=O、W=C(CF、pq=0、rt=1
(Tetra−c)M=Si、X=O、Y=C、pq=1、t=2、r=0
(Tetra−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、pt=1、r=0
【請求項12】
前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)の前記Aが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン及び四級アルキルアンモニウムイオンからなる群から選択される1以上を含む、請求項10又は11に記載の非水系電解液。
【請求項13】
前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)の前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)に対する質量比(1−Tetra)/(1−Cis)が0.02以上0.25以下である、請求項10から12のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項14】
前記非水系溶媒が、環状カーボネート及び鎖状カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から13のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項15】
前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記鎖状カーボネートが、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項14に記載の非水系電解液。
【請求項16】
前記非水系溶媒が、さらにエステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、及びスルホン類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項14又は15に記載の非水系電解液。
【請求項17】
前記非水系溶媒が、さらに、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、請求項14から16のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項18】
前記電解質が、リチウム、ナトリウム、カリウム、及び四級アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、ヘキサフルオロヒ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、(ペンタフルオロエタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、及びビス(ジフルオロホスホニル)イミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンの対からなる塩を含む、請求項1から17のいずれかに記載の非水系電解液。
【請求項19】
請求項1から18のいずれかに記載の非水系電解液と、正極と、負極と、セパレータとを備える非水系電解液二次電池。
【請求項20】
(ア)請求項1から18のいずれかに記載の非水系電解液と、
(イ)酸化物及びポリアニオン化合物の少なくとも1種を正極活物質として含む正極と、
(ウ)負極活物質を含む負極と、
(エ)ポリオレフィン又はセルロースを主成分とするセパレータとを備え、
前記正極活物質は、(A)ニッケル、マンガン、及びコバルトの少なくとも1種の金属を含有し、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、(B)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、(C)リチウム含有オリビン型リン酸塩、並びに(D)層状岩塩型構造を有するリチウム過剰層状遷移金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種以上であり、
前記負極活物質は、(E)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nm以下の炭素材料、(F)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料、(G)Si、Sn、及びAlから選ばれる1種以上の金属の酸化物、(H)Si、Sn、及びAlから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金、並びに(I)リチウムチタン酸化物からなる群から選択される少なくとも1種以上である、非水系電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温において優れた出力特性を有する非水系電解液二次電池用非水系電解液、それを用いたリチウム二次電池などの非水系電解液を用いた二次電池に関する
【背景技術】
【0002】
近年、情報関連機器、通信機器、即ちパソコン、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン等の小型、高エネルギー密度用途向けの蓄電システムに加え、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車補助電源として搭載可能な、高容量で高出力かつエネルギー密度の高い電池の要望が急拡大している。また、電力貯蔵等の大型、パワー用途向け蓄電システムでも長期間使用可能な電池の要望が高まっている。これら各種蓄電システムの候補としてリチウムイオン電池、リチウム電池、リチウムイオンキャパシタ等の非水系電解液電池が盛んに開発されている。
【0003】
リチウム二次電池は、主に正極、非水系電解液および負極から構成されている。リチウム二次電池を構成する負極としては、例えば金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物(例えば金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)、炭素材料等が知られており、特にリチウムを吸蔵・放出することが可能な、コークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。例えば天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム二次電池は、非水系電解液中の非水系溶媒が充電時に負極表面で還元分解されるため、これにより発生した分解物やガスが電池の本来の電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性が低下することが報告されている。
【0004】
また、リチウム金属やその合金、ケイ素、スズ等の金属単体や酸化物などを負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期容量は高いもののサイクル中に負極材料の微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水系溶媒の還元分解が起こりやすいことから、結果として電池の初期不可逆容量の増加に伴う1サイクル目充放電効率の低下、それに伴う電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。
1サイクル目充電時に負極にリチウムカチオンが挿入される際に、負極とリチウムカチオン、又は負極と電解液溶媒が反応し、負極表面上に酸化リチウムや炭酸リチウム、アルキル炭酸リチウムを主成分とする被膜を形成する。この電極表面上の被膜はSolid Electrolyte Interface(SEI)と呼ばれ、溶媒の還元分解を抑制し電池性能の劣化を抑える等、その性質が電池性能に大きな影響を与えている。
このように、非水系溶媒の分解物の蓄積やガスの発生、負極材料の微粉化による悪影響などにより、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、結果としてサイクル特性などの電池特性の低下が著しいという問題を有している。
【0005】
また、正極としては、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO等が知られている。これらを用いたリチウム二次電池は、充電状態で高温になった場合、正極材料と非水系電解液との界面において非水系電解液中の非水系溶媒が局部的に一部酸化分解してしまうため、これにより発生した分解物やガスが電池本来の電気化学的反応を阻害し、結果として、サイクル特性などの電池性能を低下させることが報告されている。負極と同様に正極表面上にも酸化分解物による被膜が形成され、これも溶媒の酸化分解を抑制し、電池ガス発生量を抑える等といった重要な役割を果たす事が知られている。
【0006】
以上のように、通常のリチウム二次電池は、正極上や負極上で非水系電解液が分解する際に発生する分解物やガスにより、リチウムイオンの移動を阻害したり、電池が膨れたりすることにより電池性能を低下させる原因を有していた。
【0007】
これらの課題を克服することに加え、長期耐久性や出力特性を始めとする電池性能を向上させるためには、イオン伝導性が高く、且つ電子伝導性が低く、長期に渡って安定なSEIを形成させることが重要であり、添加剤と称される化合物を電解液中に少量(通常は0.01質量%以上10質量%以下)加える事で、積極的に良好なSEIを形成させる試みが広くなされている。
【0008】
例えば、結晶度の高い黒鉛系負極を使用する二次電池において、例えばビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートや無水マレイン酸、無水フタル酸などを含有する非水系電解液にて、非水系電解液の分解を最小限に抑え、高い容量が得られることや、高温下の保存特性、サイクル特性を改善する試みがなされている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。しかしながら、未だ十分とは言えるレベルではない。例えば、エチレンカーボネートを主溶媒に用いた非水系電解液において、ビニレンカーボネートをエチレンカーボネートに対して0.01〜10.0質量%添加させた非水系電解液を用いた場合においても、高温で保存した場合に、電池の内部抵抗が増加するのを十分に抑制することができない状況であった。
【0009】
一方、一般的なLi塩であるLiPFやLiBFに代わって、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムをLi塩として用いることで、電解液の熱安定性の向上や、正極活物質に含まれる遷移金属の溶出を引き起こすフッ酸の発生の抑制によって寿命性能を改善する方法が検討されている(特許文献5)。また、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムなどのオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩と、ビニレンカーボネート,ビニルエチレンカーボネート,エチレンサルファイト,フルオロエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の被膜形成剤とを含有する非水系電解液(特許文献6)が開示されている。
【0010】
有効なSEIを形成させる添加剤として、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウムを始めとするリン、ホウ素錯体などを含有する非水系電解液が開示されており(特許文献7)、また、電解液にホスホリル基やスルホニル基を有する塩を添加する検討も行われており、例えば、特定のスルホンイミド塩やホスホリルイミド塩とオキサラト錯体とを組み合わせることで高温サイクル特性や高温貯蔵特性を向上する方法(特許文献8)、特定のフルオロリン酸塩とスルホンイミド塩とを組み合わせることでサイクル特性や出力特性を向上する方法(特許文献9)等が提案されている。
【0011】
特許文献10には、ジフルオロ(ビスオキサラト)リン酸塩とテトラフルオロ(オキサラト)リン酸塩を共に含有することにより、サイクル特性、高温保存特性とともに、0℃以下の低温特性(−20℃/25℃の放電容量比)が改善できる電解液が開示されている。
【0012】
また、特許文献11には、トリス(オキサラト)リン酸リチウムの製造方法が開示されている。
なお、特許文献12には、電気化学デバイス用電解質として用いられるジフルオロオキサラトホウ酸リチウムを始めとするリン、ホウ素錯体の製造方法も開示されている。
【0013】
非特許文献1には、シリコンなどを錯体中心としたフルオロ錯体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平08−045545号公報
【特許文献2】特開2001−006729号公報
【特許文献3】特開平5−074486号公報
【特許文献4】特開2001−057235号公報
【特許文献5】特表2002−519352号公報
【特許文献6】特開2006−196250号公報
【特許文献7】特開2002−110235号公報
【特許文献8】特開2013−051122号公報
【特許文献9】特開2013−030465号公報
【特許文献10】特開2011−222193号公報
【特許文献11】特表2003−505464(特許第4695802)号公報
【特許文献12】特開2003−137890号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Chem.Soc.(A), 1970, 15, 2569−2574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記のような非水系電解液では、高温保存特性が充分であるとは言えず、近年の電池に対する高性能化への要求を満足できるものではなく、更なる改善が望まれていた。すなわち、リチウムイオン電池を主とする非水系電解液電池は既に実用化されているものも多いものの、車載用を始め、より過酷な条件で使用される可能性のある用途においては、充分な特性を有する電解液が得られているとは言えない状況であった。
【0017】
具体的には、寒冷地においても保温、加熱による補助無しに高出力で非水系電解液電池を作動させるため、低温での出力特性が強く求められている。それを克服するために様々な電解液の提案がなされている状況にあるが、その大部分は初期における出力特性は改善されているものの、ある程度電池が使用された(充放電サイクル回数が進む、高温での貯蔵履歴が重なる)状態になると、出力特性が大幅に低下するといった課題が残るものが多い。そのため、充放電サイクルが進んだ後や高温貯蔵後においても低温にて高い出力特性を与える非水系電解液が強く求められている。また、高速な充電と大出力での放電を可能するために、充放電サイクルが進んだ後でも良好な高レート特性を示すことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シス体、トランス体を別々に添加し、その効果を比較した結果、シス体の方がサイクル耐久試験後において低温での出力特性の向上効果が高い事を明らかにした。さらに、そのシス体六配位のイオン性錯体と、II群に示す特定の化合物の両方を含有する非水系電解液二次電池用電解液とすることで、ある程度電池が使用された状態においても0℃以下の低温にて高い出力特性を発揮でき、常温にて高レートでの大きな充放電容量を示し、さらに60℃以上の高温にて貯蔵された後においても同様に低温にて十分な性能を発揮できる非水系電解液及び非水系電解液二次電池を提供するものである。
【0019】
本発明は、非水系溶媒と、前記非水系溶媒に溶解される電解質と(I)一般式(1)で示されるジフルオロイオン性錯体(1)と、(II)ジフルオロリン酸塩、モノフルオロリン酸塩、下記一般式(II−1)〜(II−8)のそれぞれで示されるイミドアニオンを有する塩、及び下記一般式(II−9)で示されるシラン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含有し、
前記ジフルオロイオン性錯体(1)のうち95モル%以上が、一般式(1−Cis)で示されるシス型の立体配座をとるジフルオロイオン性錯体(1−Cis)であることを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液。
【化1】
【化2】
一般式(1)と一般式(1−Cis)において、Aは金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。
Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。
MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)である。
Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Cis−1)〜(1−Cis−3)から選択されるいずれか1以上の構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Cis−2)の場合、Rは存在しない。
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。
Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖又は環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖又は環状構造をとることもできる。
pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。]
【化3】
【化4】
[一般式(II−1)〜(II−8)中、R〜R14はそれぞれ互いに独立して、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、及び不飽和結合の少なくとも1種が存在することもできる。
〜Zは、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素数が3〜10のシクロアルキル基、シクロアルケニル基、炭素数が6〜10のアリール基、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、及び不飽和結合の少なくとも1種が存在することもできる。nは1〜8の整数を示す。B、C及びはそれぞれ互いに独立して、金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つを示し、CとDは同じでもよい
一般式(II−9)中、R15はそれぞれ互いに独立して、炭素−炭素不飽和結合を有する基を表す。R16はそれぞれ互いに独立して、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基から選択され、前記アルキル基はフッ素原子及び/又は酸素原子を有していても良い。aは2〜4である。]
【0020】
前記ジフルオロイオン性錯体(1)のアニオン部分及び前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)のアニオン部分において、M、X、Y、W、p、q、r、及びtの組み合わせが(Cis−a)、(Cis−b)、(Cis−c)、(Cis−d)から選ばれる少なくとも一つの組み合わせであることが好ましい。
(Cis−a)M=P、X=O、Y=C、pt=1、r=0
(Cis−b)M=P、X=O、W=C(CF、pq=0、rt=1
(Cis−c)M=Si、X=O、Y=C、pq=1、t=2、r=0
(Cis−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、pt=1、r=0
【0021】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)の前記Aがリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、または四級アルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、前記(I)群のジフルオロイオン性錯体(1−Cis)の合計含有量が非水系電解液に対して0.001質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。
さらに前記(II)として記載した群(以下(II)群という)の化合物の合計含有量が非水系電解液に対して0.01質量%以上25質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0022】
前記ジフルオロリン酸塩及び前記モノフルオロリン酸塩のカウンターカチオンがリチウムカチオン又はナトリウムカチオンであることが好ましい。
【0023】
本発明の非水系電解液は、さらに、(III)一般式(1−Trans)で示される、トランス型の立体配座をとるジフルオロイオン性錯体(1−Trans)を含むことが好ましい。
【0024】
【化5】
【0025】
一般式(1−Trans)において、Aは金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)である。
Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Trans−1)〜(1−Trans−3)のような構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Trans−2)の場合、Rは存在しない。
【0026】
【化6】
【0027】
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖あるいは環状構造をとることもできる。pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。
【0028】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)のアニオン部分の各元素が(Trans−a)、(Trans−b)、(Trans−c)、(Trans−d)から選ばれる少なくとも一つの組み合わせであることが好ましい。
(Trans−a)M=P、X=O、Y=C、p、q、t=1、r=0
(Trans−b)M=P、X=O、W=C(CF、p、q=0、r、t=1
(Trans−c)M=Si、X=O、Y=C、p、q=1、t=2、r=0
(Trans−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、p、q、t=1、r=0
【0029】
前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)の前記Aがリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、または四級アルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.0001〜0.05の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の非水系電解液は、さらに、(IV)一般式(1−Tetra)で示されるテトラフルオロイオン性錯体を含むことが好ましい。
【0031】
【化7】
【0032】
一般式(1−Tetra)において、Aは金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、AsおよびSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)である。Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(1−Tetra−1)〜(1−Tetra−3)のような構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(1−Tetra−2)の場合、Rは存在しない。
【0033】
【化8】
【0034】
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖あるいは環状構造をとることもできる。pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。
【0035】
前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)のアニオン部分の各元素が(Tetra−a)、(Tetra−b)、(Tetra−c)、(Tetra−d)から選ばれるいずれかの組み合わせであることが好ましい。
(Tetra−a)M=P、X=O、Y=C、p、q、t=1、r=0
(Tetra−b)M=P、X=O、W=C(CF、p、q=0、r、t=1
(Tetra−c)M=Si、X=O、Y=C、p、q=1、t=2、r=0
(Tetra−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、p、q、t=1、r=0
【0036】
前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)の前記Aがリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は四級アルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)/前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.02〜0.25の範囲であることが好ましい。
【0037】
前記非水系溶媒が、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、さらに、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0038】
前記電解質が、リチウム、ナトリウム、カリウム、および四級アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、ヘキサフルオロヒ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、(ペンタフルオロエタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、およびビス(ジフルオロホスホニル)イミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンの対からなる塩であることが好ましい。
【0039】
更に本発明は、上記の非水系電解液と、正極と、負極と、セパレータとを備えた非水系電解液二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、ある程度電池が使用された状態においても低温にて高い出力特性を発揮でき、良好な高レート特性を示し、さらに高温にて貯蔵された後においても、同様に低温にて十分な性能を発揮できる非水系電解液二次電池用非水系電解液および非水系電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】合成例1に係る(1a−Cis)の単結晶X線構造解析の解析結果。
【発明を実施するための形態】
【0042】
<1.非水系電解液>
本発明の非水系電解液は、非水系溶媒と該非水系溶媒に溶解される電解質とを含み、さらに一般式(1−Cis)で示される、シス型の立体配座をとるジフルオロイオン性錯体(1−Cis)と、下記(II)の化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含むことを特徴とする。
【0043】
【化9】
【0044】
一般式(1−Cis)、(1−Trans)において、Aは金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つであり、MはSi、P、As及びSbからなる群から選ばれるいずれか1つである。Fはフッ素原子、Oは酸素原子である。MがSiの場合、tは2であり、MがP、As又はSbの場合、tは1である。
Xは酸素原子又は−N(R)−である。Nは窒素原子であり、Rは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)である。
Xが−N(R)−でpが0の場合、XとWは直接結合し、その際は下記一般式(2)〜(4)のような構造をとることもできる。直接結合が二重結合となる下記一般式(3)の場合、Rは存在しない。
【0045】
【化10】
【0046】
Yは炭素原子又は硫黄原子である。Yが炭素原子である場合qは1である。Yが硫黄原子である場合qは1又は2である。
Wは炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基(炭素数が3以上の場合にあっては、分岐鎖あるいは環状構造のものも使用できる)、又は−N(R)−を表す。このとき、Rは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜10のヘテロ原子やハロゲン原子を有していてもよい炭化水素基を表す。炭素数が3以上の場合にあっては、Rは分岐鎖あるいは環状構造をとることもできる。
pは0又は1、qは0〜2の整数、rは0〜2の整数をそれぞれ表す。また、p+r≧1である。
【0047】
ジフルオロイオン性錯体(1)は、二座配位子が中心元素Mに対して二分子配位し、更にフッ素(以下F)が二分子配位した六配位錯体である。中心元素M(Si、P、As、Sb)に対して酸素、または窒素を介して配位子が配位した錯体は安定であり、触媒の存在しない条件下での配位子の交換による異性化は極めて遅く、二分子のフッ素が中心元素から見て同一方向に結合したシス体(1−Cis)と、逆方向に結合したトランス体(1−Trans)の2種類の配座異性体をそれぞれ単離する事が可能である。
【0048】
特許文献12に記載された条件を改良し、過剰に反応を進行させた後に得られるジフルオロイオン性錯体(1)の反応液、または特許文献11を参考に合成された三分子配位体をフッ素化する事で得たジフルオロイオン性錯体(1)の反応液を濃縮するとシス/トランス混合物が得られる。炭酸エステルと塩素系溶媒との混合溶媒中にてこの混合物の晶析を繰り返すことで(濾液側、母液側それぞれ)、純度99.9モル%以上の(1−Cis)と(1−Trans)をそれぞれ別に得ることができる。また、(1−Cis)と(1−Trans)のそれぞれを選択的に合成して得てもよい。(1−Cis)と(1−Trans)のそれぞれの純度は、95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の非水電解液電池用電解液に加えるジフルオロイオン性錯体は、シス/トランス等量混合物ではなく、非水電解液電池用電解液に含まれるジフルオロイオン性錯体のうち、95モル%以上、好ましくは98モル%以上、より好ましくは99モル%以上が(1−Cis)であることが好ましい。すなわち、非水電解液電池用電解液に(1−Trans)を含んでも、(1−Cis)と(1−Trans)の質量比(1−Trans)/(1−Cis)は、0.05以下であることが好ましい。
【0050】
ジフルオロイオン性錯体がシス体であるかトランス体であるかにかかわらず、ジフルオロイオン性錯体(1)を構成する各元素が、以下の(1a)〜(1d)から選ばれる元素の組み合わせのうちいずれかであることが好ましい。
(1a)M=P、X=O、Y=C、p、q、t=1、r=0
(1b)M=P、X=O、W=C(CF、p、q=0、r、t=1
(1c)M=Si、X=O、Y=C、p、q=1、t=2、r=0
(1d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、p、q、t=1、r=0
【0051】
また、ジフルオロイオン性錯体(1)を構成するカチオンであるAは、金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つで、本発明の非水系電解液及び非水系電解液電池の性能を損なうものでなければ、その種類は特に制限はないが、非水系電解液電池中でのイオン伝導を助ける役割をするという観点から、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、または四級アルキルアンモニウムイオンが好ましい。四級アルキルアンモニウムイオンとしては、特に限定はされないが、例えばトリメチルプロピルアンモニウムや、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムが挙げられる。
【0052】
例えば、A=Li、M=P、X=O、Y=C、p、q、t=1、r=0であるジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(1a−Trans)は中性条件下では容易に異性化する事は無く、(1a−Cis)と(1a−Trans)をそれぞれ1:9、5:5で混合させたエチルメチルカーボネート溶液は、40℃、4時間後においてもその(1a−Cis)と(1a−Trans)の割合に変化は見られない。
【0053】
本発明の非水系電解液は、電解質と、非水系溶媒又はポリマーの混合物、そして前記一般式(1−Cis)で表されるシス配座のイオン性錯体から選ばれる1種類以上のイオン性錯体が0.001質量%以上、20質量%以下含まれることが好ましい。(1−Cis)が含まれる事により出力特性(特に充放電を繰り返した後の低温出力特性)が大きく向上する。(1−Cis)の非水系電解液への含有量は好ましくは0.01質量%以上、10質量%以下である。更に好ましくは0.1質量%以上、3.0質量%以下である。0.001質量%を下回ると非水系電解液電池の低温での出力特性を向上させる効果が十分に得られない恐れがあり、一方、20質量%を越えると電解液の粘度が上昇し過ぎるために、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられることにより、電池性能の低下を引き起こす恐れがある。
【0054】
また、(1−Cis)に対して一定量の(1−Trans)を加える事で高温貯蔵後の低温出力特性を向上させることが可能である。この時、前記ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.0001〜0.05の範囲であり、好ましくは0.001〜0.03であり、更に好ましくは0.002〜0.01である。
【0055】
本発明において、電解液中の(1−Cis)と(1−Trans)の質量比(1−Trans)/(1−Cis)の定量を行う方法として、NMR分析や液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)などが挙げられる。NMR分析においては、(1−Trans)と(1−Cis)は、NMRで異なる位置にピークを有することから、それぞれに同定されるピークの面積から質量比を定量可能である。また、LC−MSにおいては、カラムを用いて、(1−Trans)と(1−Cis)のピークを分離させることができるため、それぞれのピーク面積から質量比を定量可能である。
【0056】
更に、(1−Cis)または(1−Cis)+(1−Trans)が含まれた非水系電解液に対してFが四分子結合したテトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)を加えることで、非水系電解液を長期保存した際の容器内圧上昇を抑制することが可能である。この時、前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)/前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.02〜0.25の範囲であり、好ましくは0.05〜0.22であり、更に好ましくは0.07〜0.20である。
【0057】
また、前記(II)群の化合物は、ジフルオロリン酸塩、モノフルオロリン酸塩、少なくとも1種の下記一般式(II−1)〜(II−8)で示されるイミドアニオンを有する塩、下記一般式(II−9)で示されるシラン化合物からなることが好ましい。ジフルオロリン酸塩とモノフルオロリン酸塩のカチオンは、金属イオン、プロトン又はオニウムイオンであり、例えば、それぞれLiPOとLiPOFを用いることができる。
これらは単独でも2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【化11】
[一般式(II−1)〜(II−8)中、R〜R14はそれぞれ互いに独立して、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、不飽和結合が存在することもできる。
〜Zは、フッ素原子、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素数が3〜10のシクロアルキル基、シクロアルケニル基、炭素数が6〜10のアリール基、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、炭素数が3〜10のシクロアルコキシ基、シクロアルケニルオキシ基、及び、炭素数が6〜10のアリールオキシ基から選ばれる有機基であり、その有機基中にフッ素原子、酸素原子、不飽和結合が存在することもできる。
は1〜8の整数を示す。
、C、Dはそれぞれ互いに独立して、金属イオン、プロトンおよびオニウムイオンを示す。
一般式(II−9)中、R15はそれぞれ互いに独立して、炭素−炭素不飽和結合を有する基を表す。R16はそれぞれ互いに独立して、フッ素基、炭素数が1〜10の直鎖あるいは分岐状のアルキル基から選択され、前記アルキル基はフッ素原子及び/又は酸素原子を有していても良い。aは2〜4である。]
【0058】
(II)群の化合物の合計含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上25質量%以下であることが好ましい。(II)群の化合物が前記ジフルオロリン酸塩を含む場合、ジフルオロリン酸塩の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。(II)群の化合物が前記モノフルオロリン酸塩を含む場合、前記モノフルオロリン酸塩の含有量は、非水系電解液に対して0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。(II)群の化合物が一般式(II−1)〜(II−8)で示されるイミドアニオンを有する塩を含む場合、一般式(II−1)〜(II−8)で示されるイミドアニオンを有する塩の含有量は、非水系電解液に対してそれぞれ0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。(II)群の化合物が一般式(II−9)で示されるシラン化合物を含む場合、一般式(II−9)で示されるシラン化合物の含有量は、非水系電解液に対してそれぞれ0.001質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0059】
上記一般式(II−1)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。但し、本発明で用いられるイミドアニオンを有する塩は、以下の例示により何ら制限を受けるものではない。
【化12】
【化13】
【0060】
上記一般式(II−2)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化14】
【0061】
上記一般式(II−3)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化15】
【0062】
上記一般式(II−4)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化16】
【0063】
上記一般式(II−5)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化17】
【0064】
上記一般式(II−6)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化18】
【0065】
上記一般式(II−7)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化19】
【0066】
上記一般式(II−8)で示されるイミドアニオンを有する塩としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化20】
【0067】
上記一般式(II−9)で示されるシラン化合物としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【化21】
【化22】
【化23】
【0068】
上記一般式(II−1)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するホスホリルクロリド(P(=O)RCl)とリン酸アミド(HNP(=O)R)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0069】
上記一般式(II−2)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するホスホリルクロリド(P(=O)RCl)とスルホンアミド(HNSO)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0070】
上記一般式(II−3)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するスルホニルクロリド(ZSOCl)と、対応するスルホンアミド(HNSO)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0071】
上記一般式(II−4)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するパーフルオロアルカンジスルホニルクロリド(ClSO(CFSOCl)と、対応するアンモニア(NH)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0072】
上記一般式(II−5)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するホスホリルクロリド(P(=O)R10Cl)と、対応するリン酸アミド(HNP(=O)R11)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0073】
上記一般式(II−6)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するスルホニルクロリド(ZSOCl)と、対応するリン酸アミド(HNP(=O)R12)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0074】
上記一般式(II−7)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するホスホリルクロリド(P(=O)R1314Cl)と、スルファミン酸(HNSO)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0075】
上記一般式(II−8)で示されるイミドアニオンを有する塩は種々の方法により製造できる。製造法としては、限定されることはないが、例えば、対応するスルホニルクロリド(ZSOCl)と、対応するスルファミン酸(HNSO)を有機塩基又は無機塩基の存在下で反応させることで得ることができる。
【0076】
また、上述のような、一般式(II−1)〜(II−8)の塩の製法において、適宜カチオン交換を行ってもよい。
【0077】
上記一般式(II−9)で示されるシラン化合物は、例えば、シラノール基又は加水分解性基を有するケイ素化合物と炭素−炭素不飽和結合含有有機金属試薬とを反応させて、該ケイ素化合物中のシラノール基又は加水分解性基を炭素−炭素不飽和結合基に置換し、炭素−炭素不飽和結合含有ケイ素化合物を製造する方法により製造できる。
【0078】
非水系電解液に対する(II−9)の濃度は、下限が0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、上限が10.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。(II−9)の濃度が0.001質量%を下回ると該非水電解液を用いた非水電解液電池の高温サイクル特性や高温貯蔵特性を向上させる効果が十分に得られ難いため好ましくない。一方、(II−9)の濃度が10.0質量%を超えると、該非水電解液の粘度が高いため、該非水電解液を用いた非水電解液電池の高温サイクル特性を向上させる効果が十分に得られ難いため好ましくない。(II−9)は、10.0質量%を超えない範囲であれば一種類のシラン化合物を単独で用いても良く、二種類以上のシラン化合物を用途に合わせて任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。
【0079】
更に、(1−Cis)または(1−Cis)+(1−Trans)が含まれた非水系電解液に対してFが四分子結合したテトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)を加えることで、非水系電解液を長期保存した際の容器内圧上昇を抑制することが可能である。この時、前記テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)/前記ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.02〜0.25の範囲であり、好ましくは0.05〜0.22であり、更に好ましくは0.07〜0.20である。
【0080】
【化24】
【0081】
テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)のアニオン部分の各元素が、以下の(Tetra−a)、(Tetra−b)、(Tetra−c)、(Tetra−d)から選ばれる元素のいずれかの組み合わせであることが好ましい。
(Tetra−a)M=P、X=O、Y=C、p、q、t=1、r=0
(Tetra−b)M=P、X=O、W=C(CF、p、q=0、r、t=1
(Tetra−c)M=Si、X=O、Y=C、p、q=1、t=2、r=0
(Tetra−d)M=P、X=N(R)、Y=C、R=CH、p、q、t=1、r=0
【0082】
また、テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)を構成するカチオンであるAは、金属イオン、プロトン及びオニウムイオンからなる群から選ばれるいずれか1つで、本発明の非水系電解液及び非水系電解液電池の性能を損なうものでなければ、その種類は特に制限はないが、非水系電解液電池中でのイオン伝導を助ける役割をするという観点から、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、または四級アルキルアンモニウムイオンが好ましい。四級アルキルアンモニウムイオンとしては、特に限定はされないが、例えばトリメチルプロピルアンモニウムや、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムが挙げられる。
【0083】
なお、イオン性錯体(1−Tetra)のアニオン部分が(Tetra−a)でA=Liであるイオン性錯体(以下、(5a−Tetra)と記載する)と前記(1−Cis)のアニオン部分が(Cis−a)でA=Liであるイオン性錯体(以下、「1a−Cis」と記載する))が共に含まれる電解液を用いるとサイクル特性、高温保存特性とともに、0℃以下の低温特性(−20℃/25℃の放電容量比)が改善される。また、テトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)に配座異性体は存在しない。
【0084】
前記特許文献12に示されるように、今までにジフルオロイオン性錯体(1)の様に配位子が2種類存在し(1つはF)、シス、トランス異性体が存在し得る六配位のイオン性錯体が使用されているものの、そのシス体、トランス体それぞれの効果について詳しく検証された事は無かった。今回、シス体、トランス体を別々に添加し、その効果を比較した結果、シス体の方がサイクル耐久試験後において低温での出力特性の向上効果が高い事が明らかになった。
【0085】
ジフルオロイオン性錯体(1)のうち中心元素がPであるジフルオロリン酸錯体が含まれた非水系電解液に電圧をかけると、ジフルオロリン酸錯体が還元分解され、系中に寿命が極めて短い還元反応分解物(中間体)が発生し、それが負極表面に存在する官能基と反応する事で負極上にジフルオロリン酸誘導体と炭酸誘導体を主成分とするSEIが形成される。
【0086】
シス体とトランス体では立体的要因、電子的要因に因り、還元反応による還元反応分解物の発生から、それらの電極表面官能基との反応の選択性、速度が異なる事が推測される。
負極とジフルオロリン酸錯体(シス、トランス)の還元反応の開始について、まずは立体的要因から考察する。ジフルオロリン酸錯体が負極から電子を受け取り、還元が最初に進行する箇所はF以外の配位子部分である。(1aであればカルボニル基の炭素)そのため、還元が進行するためにはFが結合していない面から負極に接近する必要がある。トランス体はFが分子の上と下に結合しているため、必然的に右、または左から、すなわち上下180度を除いた左右の計180度の範囲の中で分子が電極に接近した場合にのみ還元反応が進行する。それに対してシス体は、Fの位置が同一方向にまとまっているため、その逆方向の200〜250度の範囲の中で接近できれば良く、還元反応が進行する確率がトランス体よりも高くなる。
【0087】
次に電子的要因から考察する。LUMO準位は、シス体の方が僅かではあるがトランス体よりも低い値となっている。そのため、シス体の方が電極から電子を受け取りやすく、より速く還元反応が進行する。
【0088】
また、分解前のジフルオロリン酸錯体は6配位のリン化合物であるが、分解後のSEIの主成分の一つとなるジフルオロリン酸誘導体は5配位のリン化合物である。ジフルオロリン酸錯体が分解して、高活性な中間体が生成し、その中間体が負極表面上の官能基と反応する際に、6配位から5配位へ変化する事になる。トランス体の場合、分解前(6配位)のF−P−Fの結合角度は180度であるが、分解後(5配位)のF−P−Fの結合角度は約100度であり、大きな構造変化を必要とする。それに対してシス体は90度(分解前、6配位)から約100度(分解後、5配位)への僅かな変化のみである。この事から還元分解反応の遷移状態のエネルギーは大きな構造変化を伴わないシス体の方が小さく、シス体の還元分解の方がトランス体の還元分解よりも有利である事が分かる。また、これは中心元素がリンに限った事ではなく、ヒ素、アンチモン、珪素の場合も同様の事が言える。
【0089】
シス体とトランス体の還元分解反応の進行に速度的な差がある事を踏まえた上で、それらから形成されるSEIの性能の違いについて考察する。
【0090】
シス体は還元分解反応の進行が速く、ジフルオロリン酸誘導体と炭酸誘導体を主成分とするSEIが素早く形成される。ジフルオロリン酸誘導体からなるSEIは電池のサイクル特性、高温貯蔵特性、出力特性を向上させる効果が優れており、炭酸誘導体からなるSEIはサイクル特性、高温貯蔵特性向上効果に優れていることがこれまでに明らかになっている。シス体と比較するとトランス体の還元分解反応は遅く、速やかにジフルオロリン酸誘導体と炭酸誘導体のみからなるSEIが形成され難い。そのため、それと平行して溶媒の還元反応も進行し、結果的にジフルオロリン酸錯体由来のジフルオロリン酸誘導体と炭酸誘導体、そして溶媒由来の炭酸とアルキル炭酸塩の混合物を主成分とするSEIが形成される事となる。(ジフルオロリン酸錯体は溶媒に比べて遥かに分解しやすいが、溶媒分子の数は膨大であり、僅かではあるが溶媒の分解も進行する。)ここに含まれるアルキル炭酸塩からなるSEIはサイクル特性、高温貯蔵特性を向上させるが、酸素の割合が低下する事により炭酸誘導体からなるSEIに比べてカチオン伝導性が低下し、出力特性を向上させる効果は限定的、または逆に低下させる場合もある。
【0091】
以上の様に、シス体とトランス体の還元分解反応の速度が異なるために、還元分解反応の選択性(溶媒の分解の有無)に変化が生じ、それによって形成されるSEIの主成分が変わり、最終的にSEIからもたらされる電池性能の向上効果に差が現れた可能性が高いと考えられる。
【0092】
前述の通り、(1−Cis)に対して一定量の(1−Trans)を加える事で高温貯蔵後の低温出力特性を向上させることが可能である。この理由を同様にシス体とトランス体由来のSEIの性質の差の点から考察する。リチウムイオン電池の場合、高温貯蔵時には、高い電位に維持された正極表面上での溶媒の酸化分解が進むと同時に、満充電状態の負極から徐々にリチウムが抜け出し溶媒と反応する。それにより、正負極上に高抵抗な分解物が堆積するだけでなく、可逆的に利用可能なリチウムが減少し、電池性能の低下(充放電レートの低下、容量の減少)を引き起こす。アルキル炭酸塩からなる負極SEIはイオン伝導度が低いため、出力特性には不利であるが、高温貯蔵時に負極からのリチウムの放出を抑制し、高温貯蔵後の容量低下を抑える事が可能である。その結果、高温貯蔵後でも高い容量を維持しており、その後に低温での高レート放電容量を比較した場合(出力特性)、低レートと比較して高レート放電時に得られる電気量の割合は(1−Cis)のみの電解液と比べて低いものの、元の容量が多いために高レート放電時において得られる電気量の絶対値は(1−Cis)に対して一定量の(1−Trans)を加えた電解液の方が(1−Cis)のみを添加した電解液よりも多くなる。
【0093】
Fが四分子結合したテトラフルオロイオン性錯体(1−Tetra)はFが二分子結合したジフルオロイオン性錯体(1)に比べて、Fの強い電子吸引効果によりF以外の配位子の電子密度が低下し、求核攻撃を受けやすい状態となっている。そのため、電解液中に微量の水が存在すると、(1)よりも(1−Tetra)の方が選択的に加水分解される事となる。例えば中心元素MがPの場合、加水分解によって(1−Tetra)を構成しているテトラフルオロリン酸部位はヘキサフルオロリン酸塩へと変換される(F以外の配位子が脱離後に不均化)。F以外の配位子部分は中心元素Pから脱離、分解し二酸化炭素、一酸化炭素を放出する。この時の二酸化炭素、一酸化炭素の放出量は、(1)に比べて1/2モル相当であり、結果として内圧上昇の原因となる二酸化炭素、一酸化炭素の発生量を大幅に減らすことが出来る。
【0094】
非水系電解液は非水系溶媒を用いれば、一般に非水電解液と呼ばれ、ポリマーを用いれば、ポリマー固体電解質と呼ばれるものになる。ポリマー固体電解質には可塑剤として非水系溶媒を含有するものも含まれる。
なお、この非水系電解液と、リチウムイオンやナトリウムイオンを始めとするアルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンが可逆的に挿入−脱離可能な負極材料と、リチウムイオンやナトリウムイオンを始めとするアルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンが可逆的に挿入−脱離可能な正極材料を用いる電気化学デバイスを非水系電解液電池と呼ぶ。
【0095】
電解質は特に限定されず、任意のカチオンとアニオンの対からなる塩を用いることができる。具体例としては、カチオンとしてリチウムイオンやナトリウムイオンを始めとするアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、四級アルキルアンモニウムイオン等が挙げられ、アニオンとして、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、過塩素酸、ヘキサフルオロヒ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、(トリフルオロメタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、(ペンタフルオロエタンスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、ビス(ジフルオロホスホニル)イミド等のアニオンが挙げられる。これらの電解質は、一種類を単独で用いても良く、二種類以上を用途に合わせて任意の組合せ、比率で混合して用いても良い。中でも、電池としてのエネルギー密度、出力特性、寿命等から考えると、カチオンはリチウム、ナトリウム、マグネシウム、四級アルキルアンモニウムのカチオンが、アニオンはヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(ジフルオロホスホニル)イミドのアニオンが好ましい。
【0096】
非水溶媒としては、本発明のイオン性錯体を溶解できる非プロトン性の溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類等が使用できる。また、単一の溶媒だけでなく、二種類以上の混合溶媒でもよい。具体例としては、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、及びγ−バレロラクトン等を挙げることができる。
【0097】
また、非水溶媒が、環状カーボネート及び鎖状カーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートを挙げることができ、鎖状カーボネートの例としては、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートを挙げることができる。
【0098】
本発明のイオン性錯体を含むポリマー固体電解質を得るために用いるポリマーとしては、該イオン性錯体や電解質を溶解できる非プロトン性のポリマーであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖又は側鎖に持つポリマー、ポリビニリデンフロライドのホモポリマー又はコポリマー、メタクリル酸エステルポリマー、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのポリマーに可塑剤を加える場合は、上記の非プロトン性非水溶媒が使用可能である。
【0099】
これらのイオン伝導体中における本発明の電解質濃度は、特に制限はないが、下限は0.5mol/L以上、好ましくは0.7mol/L以上、さらに好ましくは0.9mol/L以上であり、また、上限は5.0mol/L以下、好ましくは4.0mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下の範囲である。0.5mol/Lを下回るとイオン伝導度が低下することにより非水系電解液電池のサイクル特性、出力特性が低下し、一方、5.0mol/Lを越えると非水系電解液の粘度が上昇することにより、やはりイオン伝導を低下させ、非水系電解液電池のサイクル特性、出力特性を低下させる恐れがある。
【0100】
非水系電解液の製造時において、リチウム塩を溶解する場合に、非水系電解液の液温が40℃を越えないようにすることで、非水系電解液中のリチウム塩が系内の水分と反応、分解することによるフッ化水素(HF)などの遊離酸の生成を抑制でき、結果として非水系溶媒の分解も抑制することが可能となるため、非水系電解液の劣化防止に有効である。また、リチウム塩溶解工程では、全リチウム塩が0.5〜4.0mol/Lの濃度となるように少量ずつ加えて前記リチウム塩を溶解、調合すれば、同様にHFなどの遊離酸を生成させることを抑制することが可能となる。
例えば、非水系溶媒中にまず全リチウム塩の10〜35質量%の範囲を加えて溶解した後、次いで、更に全リチウム塩の10〜35質量%の範囲を加えて、溶解する操作を2〜9回実施し、最後に、残りのリチウム塩を徐々に加えて溶解することで、液温が40℃を越えないようにすることが好ましい。
特に、本発明の非水系電解液を調合する場合は、調合時の非水系電解液の液温上昇により、前記副反応が進行しやすくなるため、非水系電解液の液温が40℃を越えないように温度上昇を抑えることで、非水系電解液の劣化を防ぐことが可能となり、その品質を維持することが可能となる。
【0101】
さらには、本発明の要旨を損なわない限りにおいて、本発明の非水系電解液に一般に用いられる添加剤を任意の比率で添加しても良い。具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、o−ターフェニル、4−フルオロビフェニル、フルオロベンゼン、2,4−ジフルオロベンゼン、ジフルオロアニソール、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトン、メチレンメタンジスルホネート、ジメチレンメタンジスルホネート、トリメチレンメタンジスルホネート等の過充電防止効果、負極皮膜形成効果、正極保護効果を有する化合物が挙げられる。また、ポリマー電池と呼ばれる非水系電解液電池に使用される場合のように非水系電解液をゲル化剤や架橋ポリマーにより擬固体化して使用することも可能である。
【0102】
<2.非水系電解液電池>
本発明の非水系電解液電池は、(ア)上記の非水系電解液と、(イ)正極と、(ウ)負極と、(エ)セパレータとを備える。
【0103】
〔(ア)上記の非水系電解液〕
本発明の非水系電解液電池は、<1.非水系電解液>で説明した非水系電解液を備える。
【0104】
〔(イ)正極〕
(イ)正極は、少なくとも1種の酸化物及び/又はポリアニオン化合物を正極活物質として含むことが好ましい。
【0105】
[正極活物質]
非水系電解液中のカチオンがリチウム主体となるリチウムイオン二次電池の場合、(イ)正極を構成する正極活物質は、充放電が可能な種々の材料であれば特に限定されるものでないが、例えば、(A)ニッケル、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上の金属を含有し、かつ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、(B)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、(C)リチウム含有オリビン型リン酸塩、及び(D)層状岩塩型構造を有するリチウム過剰層状遷移金属酸化物から少なくとも1種を含有するものが挙げられる。
【0106】
((A)リチウム遷移金属複合酸化物)
正極活物質(A)ニッケル、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上の金属を含有し、かつ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物、リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物等が挙げられる。また、これらリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部を、Al、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、B、Ba、Y、Sn等の他の元素で置換したものを用いても良い。
【0107】
リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物の具体例としては、LiCoO、LiNiOやMg、Zr、Al、Ti等の異種元素を添加したコバルト酸リチウム(LiCo0.98Mg0.01Zr0.01、LiCo0.98Mg0.01Al0.01、LiCo0.975Mg0.01Zr0.005Al0.01等)、国際出願WO2014/034043号公報に記載の表面に希土類の化合物を固着させたコバルト酸リチウム等を用いても良い。また、特開2002−151077号公報等に記載されているように、LiCoO粒子粉末の粒子表面の一部に酸化アルミニウムが被覆したものを用いても良い。
【0108】
リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物については、一般式(1−1)で示される。
LiaNi1−b−cCo (1−1)
【0109】
式(1−1)中、MはAl、Fe、Mg、Zr、Ti、Bからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、aは0.9≦a≦1.2であり、b、cは、0.1≦b≦0.3、0≦c≦0.1の条件を満たす。
【0110】
これらは、例えば、特開2009−137834号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。具体的には、LiNi0.8Co0.2、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.87Co0.10Al0.03、LiNi0.6Co0.3Al0.1等が挙げられる。
【0111】
リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物、リチウム・ニッケル・マンガン複合酸化物の具体例としては、LiNi0.5Mn0.5、LiCo0.5Mn0.5等が挙げられる。
【0112】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物としては、一般式(1−2)で示されるリチウム含有複合酸化物が挙げられる。
LiNiMnCo (1−2)
【0113】
式(1−2)中、MはAl、Fe、Mg、Zr、Ti、B、Snからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素であり、dは0.9≦d≦1.2であり、e、f、g及びhは、e+f+g+h=1、0≦e≦0.7、0≦f≦0.5、0≦g≦0.5、及びh≧0の条件を満たす。
【0114】
リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物は、構造安定性を高め、リチウム二次電池における高温での安全性を向上させるためにマンガンを一般式(1−2)に示す範囲で含有するものが好ましく、特にリチウムイオン二次電池の高率特性を高めるためにコバルトを一般式(1−2)に示す範囲でさらに含有するものがより好ましい。
【0115】
具体的には、例えば4.3V以上に充放電領域を有する、Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3]O、Li[Ni0.45Mn0.35Co0.2]O、Li[Ni0.5Mn0.3Co0.2]O、Li[Ni0.6Mn0.2Co0.2]O、Li[Ni0.49Mn0.3Co0.2Zr0.01]O、Li[Ni0.49Mn0.3Co0.2Mg0.01]O等が挙げられる。
【0116】
((B)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物)
正極活物質(B)スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物としては、例えば、一般式(1−3)で示されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物が挙げられる。
Li(Mn−kM)O (1−3)
【0117】
式(1−2)中、MはNi、Co、Fe、Mg、Cr、Cu、Al及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素であり、jは1.05≦j≦1.15であり、kは0≦k≦0.20である。
【0118】
具体的には、例えば、LiMn、LiMn1.95Al0.05、LiMn1.9Al0.1、LiMn1.9Ni0.1、LiMn1.5Ni0.5等が挙げられる。
【0119】
((C)リチウム含有オリビン型リン酸塩)
正極活物質(C)リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば一般式(1−4)で示されるものが挙げられる。
LiFe1−nPO (1−4)
【0120】
式(1−4)中、MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、Nb、Mg、Al、Ti、W、Zr及びCdから選ばれる少なくとも1つであり、nは、0≦n≦1である。
【0121】
具体的には、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられ、中でもLiFePO及び/又はLiMnPOが好ましい。
【0122】
((D)リチウム過剰層状遷移金属酸化物)
正極活物質(D)層状岩塩型構造を有するリチウム過剰層状遷移金属酸化物としては、例えば一般式(1−5)で示されるものが挙げられる。
xLiM・(1−x)Li (1−5)
【0123】
式(1−5)中、xは、0<x<1を満たす数であり、Mは、平均酸化数が3である少なくとも1種以上の金属元素であり、Mは、平均酸化数が4である少なくとも1種以上の金属元素である。式(1−5)中、Mは、好ましくは3価のMn、Ni、Co、Fe、V、Crから選ばれてなる1種以上の金属元素であるが、2価と4価の等量の金属で平均酸化数を3価にしてもよい。
【0124】
また、式(1−5)中、Mは、好ましくはMn、Zr、Tiから選ばれてなる1種以上の金属元素である。具体的には、0.5[LiNi0.5Mn0.5]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi1/3Co1/3Mn1/3]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi0.375Co0.25Mn0.375]・0.5[LiMnO]、0.5[LiNi0.375Co0.125Fe0.125Mn0.375]・0.5[LiMnO]、0.45[LiNi0.375Co0.25Mn0.375]・0.10[LiTiO]・0.45[LiMnO]等が挙げられる。
【0125】
この一般式(1−5)で表される正極活物質(D)は、4.4V(Li基準)以上の高電圧充電で高容量を発現することが知られている(例えば、米国特許7,135,252)。
【0126】
これら正極活物質は、例えば特開2008−270201号公報、国際公開WO2013/118661号公報、特開2013−030284号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。
【0127】
正極活物質としては、上記(A)〜(D)から選ばれる少なくとも1つを主成分として含有すればよいが、それ以外に含まれるものとしては、例えばFeS、TiS、V、MoO、MoS等の遷移元素カルコゲナイド、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、及びポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、カーボン材料等が挙げられる。
【0128】
[正極集電体]
(イ)正極は、正極集電体を有する。正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はこれらの合金等を用いることができる。
【0129】
[正極活物質層]
(イ)正極は、例えば正極集電体の少なくとも一方の面に正極活物質層が形成される。正極活物質層は、例えば、前述の正極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とにより構成される。
【0130】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)樹脂等が挙げられる。
【0131】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、又は黒鉛(粒状黒鉛や燐片状黒鉛)等の炭素材料を用いることができる。正極においては、結晶性の低いアセチレンブラックやケッチェンブラックを用いることが好ましい。
【0132】
〔(ウ)負極〕
(ウ)負極は、少なくとも1種を負極活物質として含むことが好ましい。
【0133】
[負極活物質]
非水系電解液中のカチオンがリチウム主体となるリチウムイオン二次電池の場合、(ウ)負極を構成する負極活物質としては、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能なものであり、例えば(E)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nm以下の炭素材料、(F)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料、(G)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物、(H)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金、及び(I)リチウムチタン酸化物から選ばれる少なくとも1種を含有するものが挙げられる。これら負極活物質は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0134】
((E)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nm以下の炭素材料)
負極活物質(E)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nm以下の炭素材料としては、例えば熱分解炭素類、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、グラファイト類、有機高分子化合物焼成体(例えばフェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭等が挙げられ、これらは黒鉛化したものでもよい。当該炭素材料は、X線回折法で測定した(002)面の面間隔(d002)が0.340nm以下のものであり、中でも、その真密度が1.70g/cm以上である黒鉛又はそれに近い性質を有する高結晶性炭素材料が好ましい。
【0135】
((F)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料)
負極活物質(F)X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料としては、非晶質炭素が挙げられ、これは、2000℃以上の高温で熱処理してもほとんど積層秩序が変化しない炭素材料である。例えば難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、1500℃以下で焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソペーズビッチカーボンファイバー(MCF)等が例示される。株式会社クレハ製のカーボトロン(登録商標)P等は、その代表的な事例である。
【0136】
((G)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物)
負極活物質(G)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物としては、リチウムイオンのド−プ・脱ド−プが可能な、例えば酸化シリコン、酸化スズ等が挙げられる。
【0137】
Siの超微粒子がSiO中に分散した構造を持つSiO等がある。この材料を負極活物質として用いると、Liと反応するSiが超微粒子であるために充放電がスムーズに行われる一方で、前記構造を有するSiO粒子自体は表面積が小さいため、負極活物質層を形成するための組成物(ペースト)とした際の塗料性や負極合剤層の集電体に対する接着性も良好である。
【0138】
なお、SiOは充放電に伴う体積変化が大きいため、SiOと上述負極活物質(E)の黒鉛とを特定比率で負極活物質に併用することで高容量化と良好な充放電サイクル特性とを両立することができる。
【0139】
((H)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金)
負極活物質(H)Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属若しくはこれら金属を含む合金又はこれら金属若しくは合金とリチウムとの合金としては、例えばシリコン、スズ、アルミニウム等の金属、シリコン合金、スズ合金、アルミニウム合金等が挙げられ、これらの金属や合金が、充放電に伴いリチウムと合金化した材料も使用できる。
【0140】
これらの好ましい具体例としては、国際公開WO2004/100293号や特開2008−016424号等に記載される、例えばケイ素(Si)、スズ(Sn)等の金属単体(例えば粉末状のもの)、該金属合金、該金属を含有する化合物、該金属にスズ(Sn)とコバルト(Co)とを含む合金等が挙げられる。当該金属を電極に使用した場合、高い充電容量を発現することができ、かつ、充放電に伴う体積の膨張・収縮が比較的少ないことから好ましい。また、これらの金属は、これをリチウムイオン二次電池の負極に用いた場合に、充電時にLiと合金化するため、高い充電容量を発現することが知られており、この点でも好ましい。
【0141】
さらに、例えば国際公開WO2004/042851号、国際公開WO2007/083155号等に記載される、サブミクロン直径のシリコンのピラーから形成された負極活物質、シリコンで構成される繊維からなる負極活物質等を用いてもよい。
【0142】
((I)リチウムチタン酸化物)
負極活物質(I)リチウムチタン酸化物としては、例えば、スピネル構造を有するチタン酸リチウム、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム等を挙げることができる。
【0143】
スピネル構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li+αTi12(αは充放電反応により0≦α≦3の範囲内で変化する)を挙げることができる。また、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウムとしては、例えば、Li+βTi(βは充放電反応により0≦β≦3の範囲内で変化する)が挙げることができる。これら負極活物質は、例えば特開2007−018883号公報、特開2009−176752号公報等に記載される製造方法等に準じて調製することができる。
【0144】
例えば、非水電解液中のカチオンがナトリウム主体となるナトリウムイオン二次電池の場合、負極活物質としてハードカーボンやTiO、V、MoO等の酸化物等が用いられる。例えば、非水電解液中のカチオンがナトリウム主体となるナトリウムイオン二次電池の場合、正極活物質としてNaFeO、NaCrO、NaNiO、NaMnO、NaCoO等のナトリウム含有遷移金属複合酸化物、それらのナトリウム含有遷移金属複合酸化物のFe、Cr、Ni、Mn、Co等の遷移金属が複数混合したもの、それらのナトリウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の一部が他の遷移金属以外の金属に置換されたもの、NaFeP、NaCo(PO等の遷移金属のリン酸化合物、TiS、FeS等の硫化物、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、及びポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、カーボン材料等が使用される。
【0145】
[負極集電体]
(ウ)負極は、負極集電体を有する。負極集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はこれらの合金等を用いることができる。
【0146】
[負極活物質層]
(ウ)負極は、例えば負極集電体の少なくとも一方の面に負極活物質層が形成される。負極活物質層は、例えば、前述の負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とにより構成される。
【0147】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)樹脂等が挙げられる。
【0148】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、又は黒鉛(粒状黒鉛や燐片状黒鉛)等の炭素材料を用いることができる。
【0149】
〔電極((イ)正極及び(ウ)負極)の製造方法〕
電極は、例えば、活物質と、結着剤と、必要に応じて導電剤とを所定の配合量でN−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水等の溶媒中に分散混練し、得られたペーストを集電体に塗布、乾燥して活物質層を形成することで得ることができる。得られた電極は、ロールプレス等の方法により圧縮して、適当な密度の電極に調節することが好ましい。
【0150】
〔(エ)セパレータ〕
本発明の非水系電解液電池は、(エ)セパレータを備える。(イ)正極と(ウ)負極の接触を防ぐためのセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンや、セルロース、紙、又はガラス繊維等で作られた不織布や多孔質シートが使用される。これらのフィルムは、電解液がしみ込んでイオンが透過し易いように、微多孔化されているものが好ましい。
【0151】
ポリオレフィンセパレ−タとしては、例えば多孔性ポリオレフィンフィルム等の微多孔性高分子フィルムといった正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンが透過可能な膜が挙げられる。多孔性ポリオレフィンフィルムの具体例としては、例えば多孔性ポリエチレンフィルム単独、又は多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンフィルムとを重ね合わせて複層フィルムとして用いてもよい。また、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムとの複合化したフィルム等が挙げられる。
【0152】
〔外装体〕
非水系電解液電池を構成するにあたり、非水系電解液電池の外装体としては、例えばコイン型、円筒型、角型等の金属缶や、ラミネート外装体を用いることができる。金属缶材料としては、例えばニッケルメッキを施した鉄鋼板、ステンレス鋼板、ニッケルメッキを施したステンレス鋼板、アルミニウム又はその合金、ニッケル、チタン等が挙げられる。
ラミネート外装体としては、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、SUS製ラミネートフィルム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルム等を用いることができる。
【0153】
本実施形態にかかる非水系電解液電池の構成は、特に制限されるものではないが、例えば、正極及び負極が対向配置された電極素子と、非水系電解液とが、外装体に内包されている構成とすることができる。非水系電解液電池の形状は、特に限定されるものではないが、以上の各要素からコイン状、円筒状、角形、又はアルミラミネートシート型等の形状の電気化学デバイスが組み立てられる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。なお、実施例1−1〜1−41をまとめて実施例1と表すなど、枝番を持つ各実施例をまとめて表記する場合がある。実施例2以降と各比較例、電解液No.についても同様に記載する場合がある。
【0155】
以下にジフルオロイオン性錯体(シス体/トランス体)、テトラフルオロイオン性錯体の合成法を示す。ここでは特許文献12に開示された方法を使用して、または非特許文献1、特許文献11に開示された方法を応用してイオン性錯体を合成したが、これ以外の方法でも合成することは可能である。
いずれも原料や、生成物の取り扱いは露点が−50℃以下の窒素雰囲気下にて行った。また、使用する硝子製反応器は150℃で12時間以上乾燥させた後に、露点が−50℃以下の窒素気流下で室温まで冷却させたものを用いた。
【0156】
[合成例1] (1a−Cis)、(1a−Trans)の合成
特許文献11に開示された方法に従って、シュウ酸の三配位であるトリスオキサラトリン酸リチウムを得た。トリスオキサラトリン酸リチウム(30g、99.4mmol)をジメチルカーボネート(以下DMC)(120mL)に溶解させ、フッ化水素(以下HF)(11.9g、596.4mmol)を添加した。25℃にて48時間攪拌させた後、減圧にて残留するHFとDMCの除去を行った。そしてDMC(60mL)を加えて濃縮残渣を可能な限り溶解させた後に、Li塩濃度が約45質量%となるまで濃縮を行った。シュウ酸を始めとする不溶解成分をろ過にて除去した後、(1a−Cis)と(1a−Trans)とが含まれた混合物のDMC溶液49gを得た。
混合物のDMC溶液に対してジクロロメタン(以下、「CHCl」という。)を室温にて添加して12時間攪拌する事で固体が析出した。ろ過にて固体と母液に分離し、母液は減圧にて固形物が得られるまでDMCを留去した。ろ別した固体と、母液から得た固形物を別々にDMCに溶解させ、濃度約45質量%のDMC溶液を別々に調製した後にCHClを加えて固体を析出させた。ろ過にてそれぞれ固体を回収し、更に同様の手順にて数回の濃度約45質量%DMC溶液調製と固体析出を繰り返すことで、F、P純度99.9モル%(NMRより)の(1a−Cis)と(1a−Trans)が得られた。
【0157】
(1a−Cis)と(1a−Trans)を別々にアセトニトリルに溶解させ、LC/MS(ESI法、negative極性、フラグメント電圧50V)にて分子量を測定したところ、どちらもm/z244.9に親イオンが観測され、これは計算による質量数244.93(アニオン部分)と一致している。また単結晶X線構造解析により立体配座の確認を行った。図1に(1a−Cis)の解析結果を示す。(1a−Cis)は、二分子のフッ素が中心元素から見て同一方向に結合したシス体の立体配座であることを確認した。
【0158】
(1a−Cis)と(1a−Trans)は、質量が同じで、且つF−NMR、P−NMRでそれぞれ異なる位置にピークが見られることから原子組成は同じで異なる構造の化合物である事は明らかである。さらに、(1a−Trans)は、単結晶X線構造解析により、二分子のフッ素が中心元素から見て逆方向に結合したトランス体の立体配座であることを確認した。
【0159】
[合成例2] (5a−Tetra)の合成
特許文献12に記載された方法を参考に反応を実施した。20.0g(132mモル)のLiPFとジメチルカーボネート(DMC)110mL、そしてシュウ酸11.9g(132mモル)を容積500mLの硝子製フラスコに加えた。このとき、LiPFは完全に溶解したが、シュウ酸の大部分は溶け残っていた。25℃撹拌下、13.4g(79mモル)のSiClをフラスコ内へ滴下した後、撹拌を4時間継続した。続いて、減圧にてテトラフルオロシラン及び塩酸を除去し、イオン性錯体(5a−Tetra)を主成分とする粗体(純度91モル%)のDMC溶液を得た。
この溶液を、Li塩濃度が約50質量%となるまで濃縮し、濃縮液51gを得た。濾過にて不溶解成分を除去した後にCHClを攪拌しながら室温にて添加した。12時間攪拌後、ろ過にて析出した固体を回収した。再度、DMCへ溶解させてLi塩濃度約50質量%のDMC溶液を調製した後、同様の手順にてCHCl添加と、固体の析出、固体の回収を行うことでF、P純度99.9%である(5a−Tetra)を得た。
【0160】
[合成例3] (1b−Cis)、(1b−Trans)の合成
原料のシュウ酸をヘキサフルオロ−2−ヒドロキシイソ酪酸に変更した以外は合成例1と同様の手法にて、(1b−Cis)、(1b−Trans)をそれぞれ得た。
【0161】
[合成例4] (1a−Cis)、(1a−Trans)のNa体である(6a−Cis)、(6a−Trans)の合成
ダウケミカル製強酸性陽イオン交換樹脂252(以後、イオン交換樹脂)を500g量り取り、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液(2.5kg)に浸漬させ、25℃で6時間攪拌を行った。ろ過でイオン交換樹脂を回収し、洗液のpHが8以下になるまで純水で充分に洗浄した。その後、12時間の減圧乾燥(120℃、1.3kPa)にて水分を除去した。
濃度10質量%の(1a−Cis)/EMC溶液を調製し、そこに液重量の半分の重量の乾燥済み前記イオン交換樹脂を加え、25℃にて6時間攪拌を行った。その後、ろ過にてイオン交換樹脂を取り除く事で、カチオンがLiからNaへ交換された(6a−Cis)/EMC溶液(濃度約10質量%)が得られた。イオンクロマトグラフィーにてカチオンの定量を行うと、Na/Liの比率は99.5であった。
また、上述の方法にて(1a−Cis)/EMC溶液の代わりに同濃度の(1a−Trans)/EMC溶液を用いる事で同様に濃度約10質量%の(6a−Trans)/EMC溶液が得られた。
【0162】
[合成例5] (5a−Tetra)のNa体である(5b−Tetra)の合成
合成例4で使用される(1a−cis)/EMC溶液の代わりに(5a−Tetra)/EMC溶液を用いる事で、カチオンがLiからNaへ交換された濃度約10質量%の(5b−Tetra)/EMC溶液が得られた。イオンクロマトグラフィーにてカチオンの定量を行うと、Na/Liの比率は99.4であった。
【0163】
[合成例6] (1a−Cis)、(1a−Trans)のK体である(6b−Cis)、(6b−Trans)の合成
合成例4で使用される0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液(2.5kg)を0.1規定の水酸化カリウム水溶液(2.5kg)に変更する事で、カチオンがLiからKへ交換された濃度約10質量%の(6b−Cis)/EMC、(6b−Trans)/EMC溶液が得られた。イオンクロマトグラフィーにてカチオンの定量を行うと、どちらの溶液もK/Liの比率は99.6であった。
【0164】
[合成例7] (1a−Cis)、(1a−Trans)のTMPA体である(6c−Cis)、(6c−Trans)の合成
EMC 90gにトリメチルプロピルアンモニウムクロリド 5.7g(41.7mmol)と(1a−Cis) 10.0g(39.7mmol)を加え、45℃にて6時間攪拌を行った。5℃まで冷却した後に不溶解物をろ過で取り除く事でカチオンがLiからトリメチルプロピルアンモニウムカチオン(以下、TMPA)へ交換された(6c−Cis)/EMC溶液(濃度約13質量%)が得られた。
また、上述の方法にて(1a−Cis)の代わりに同重量の(1a−Trans)を用いる事で同様に濃度約13質量%の(6c−Trans)/EMC溶液が得られた。イオンクロマトグラフィーにてカチオンの定量を行うと、どちらの溶液もTMPA/Liの比率は98.5であった。
【0165】
[合成例8] (1a−Cis)、(1a−Trans)のPP13体である(6d−Cis)、(6d−Trans)の合成
EMC 90gに1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド 7.4g(41.7mmol)と(1a−Cis) 10.0g(39.7mmol)を加え、45℃にて6時間攪拌を行った。5℃まで冷却した後に不溶解物をろ過で取り除く事でカチオンがLiから1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン(以下、PP13)へ交換された(6d−Cis)/EMC溶液(濃度約15質量%)が得られた。
また、上述の方法にて(1a−Cis)の代わりに同重量の(1a−Trans)を用いる事で同様に濃度約15質量%の(6d−Trans)/EMC溶液が得られた。イオンクロマトグラフィーにてカチオンの定量を行うと、どちらの溶液もPP13/Liの比率は98.3であった。
【0166】
[合成例9] (1c−Cis)、(1c−Trans)の合成
非特許文献1に記載の方法を応用して前記(1−Cis)のアニオン部分が(Cis−c)でA=Liである(1c−Cis)、前記(1−Trans)のアニオン部分が(Trans−c)でA=Liである(1c−Trans)をそれぞれ得た。
【0167】
[非水系電解液No.1−1〜1−41、比較電解液No.1−1〜1−6の調製]
露点が−50℃以下の窒素雰囲気ドライボックス中に、予め加熱、溶解させたエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の非水溶媒(体積比1:2)に、電解質としてLiPFを濃度が1mol/リットルになるように溶解、調製した後、本発明に係る種々のイオン性錯体/EMC溶液や前述(II)群の化合物とを所定量添加することで、下記表1に示す本発明の非水系電解液No.1−1〜1−41、比較電解液No.1−1〜1−6を調製した。
【0168】
【表1】
【0169】
<NMC正極の作製>
正極活物質として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC)粉末およびアセチレンブラック(導電剤)を乾式混合し、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を予め溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、NMC合剤ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用NMC正極を得た。正極中の固形分比率は、NMC:導電剤:PVDF=85:5:10(質量比)とした。
【0170】
<黒鉛負極の作製>
負極活物質として、黒鉛粉末を、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、黒鉛合剤ペーストを調製した。このペーストを銅箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用黒鉛負極を得た。負極中の固形分比率は、黒鉛粉末:PVDF=90:10(質量比)とした。
【0171】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用黒鉛負極と、セルロース製セパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表1に記載の非水系電解液No.1−1〜1−41および比較電解液No.1−1〜1−6をそれぞれ含浸させ、実施例1−1〜1−41及び比較例1−1〜1−6に係る非水系電解液電池を得た。
【0172】
(実施例1、比較例1 − 試作セルの評価)
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
実施例1−1〜1−41、及び比較例1−1〜1−6に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、以下の評価を実施した。
まず、作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、以下の条件でコンディショニングを実施した。すなわち、初回充放電として、充電上限電圧4.3V、0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧3.0Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧4.3V、0.2Cレート(6mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧3.0Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
このコンディショニング後、60℃の環境温度での充放電試験を実施した。充電は、充電上限電圧4.3Vまで3Cレート(90mA)で定電流定電圧充電を実施し、放電は、放電終止電圧3.0Vまで3Cレート(90mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを500回繰り返した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度3.0Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電は、放電終止電圧3.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0173】
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
上述評価1にて60℃の環境温度で500サイクルを実施後、続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度3.0Vまで放電させた後に、25℃、5Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に25℃のまま、放電は、放電終止電圧3.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)とした。
【0174】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例1−1〜1−41、及び比較例1−1〜1−6に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、60℃の環境温度での貯蔵試験(4.3V充電後、10日間保存)を実施した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、3.0Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電は、放電終止電圧3.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0175】
実施例1−1〜1−41、比較例1−2〜1−6に係る各評価結果は、比較例1−1に係る評価結果を100としたときの相対値として表2に示す。
【0176】
【表2】
【0177】
(実施例1−1〜実施例1−11について)
表1、表2の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−1−1)とを含む非水系電解液電池は、(1a−Cis)と(II−1−1)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
実施例1−4と比較例1−2とを比較すると、(1a−Cis)と(II−1−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
【0178】
これは、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−1−1)などのイミドアニオンを有する塩を含有することで、これら添加剤が1サイクル目の充電時にジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−1−1)の順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。この反応被膜層が高イオン伝導性を有し、長期的に安定なSEIが負極表面を覆うことにより、負極表面で起こっていた溶媒の分解等の副反応が抑制されるため、非水系電解液電池の初期不可逆容量が抑えられるだけでなく、長期耐久性や出力特性を向上させるものと推察される。
従って、表2に示されるように、60℃長期サイクル後の放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)などで格段の特性改善が確認されたものと思われ、このジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−1−1)などのイミドアニオンを有する塩とを組み合わせるという新規な構成により、他に類を見ない特性改善効果が得られたものと思われる。
【0179】
実施例1−1〜実施例1−6を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の効果は、含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.8、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。一方、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例1−5)、1.0質量%の場合(実施例1−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例1−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0180】
実施例1−4、実施例1−7〜実施例1−11を比較すると、イミドアニオンを有する塩(II−1−1)の効果は、含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、(II−1−1)の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。一方、(II−1−1)の含有量が2.0質量%の場合(実施例1−10)、1.0質量%の場合(実施例1−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例1−11)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。
【0181】
また、実施例1−4と比較例1−5を比較すると、実施例1−4のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−1−1)とを含む非水系電解液電池の方が、比較例1−5のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とイミドアニオンを有する塩(II−1−1)とを含む非水系電解液電池よりも、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)だけでなく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させることが確認された。これは、シス配座の(1a−Cis)とトランス配座の(1a−Trans)の還元分解反応の速度が異なるために、還元分解反応の選択性(溶媒の分解の有無)に変化が生じ、それによって形成されたSEIの主成分が変わり、最終的にSEIからもたらされる電池性能の向上効果に差が現れた結果と推察される。
【0182】
(実施例1−12〜実施例1−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例1−12〜1−14の場合は、(1a−Cis)と(II−1−1)とを含む非水系電解液電池(実施例1−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0183】
(実施例1−15〜実施例1−17について)
さらに、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−1−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例1−15〜1−17の場合は、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−1−1)とを含む非水系電解液電池(実施例1−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、実施例1−16と比較例1−6とを比較すると、(1a−Cis)と(II−1−1)、(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)と(II−1−1)、(5a−Tetra)とを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
また、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0184】
(実施例1−18〜実施例1−24について)
また、実施例1−18〜実施例1−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−1−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例1−12〜1−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例1−15〜1−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例1−13、16と実施例1−21との比較)。
【0185】
(実施例1−25〜実施例1−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例1−25〜1−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0186】
(実施例1−32〜実施例1−41について)
一方、実施例1−21、32、33に示されるように、Li、Na、Kをカチオンとして有するイオン性錯体(1a−Cis)、(6a−Cis)、(6b−Cis)を比較すると、その効果に差はなく、いずれも高いサイクル後放電容量(0℃)を得られた。同様に、Li、TMPA、PP13をカチオンとして有するイオン性錯体(1a−Cis)、(6c−Cis)、(6d−Cis)を比較すると、TMPA、PP13の場合でも効果はあるものの、Liが一番優れている結果となった(実施例1−21と、実施例1−34、1−35との比較)。これは、TMPA、PP13はカチオンの分子量が大きいため、有効部位であるアニオン側の含有量が減少した事と、TMPA、PP13の一部が還元または酸化分解され、その分解残渣が高抵抗成分として電極表面上に堆積したためだと推測される。
【0187】
実施例1−36に示されるように、中心元素をPからSiに変更した(1c−Cis)は溶解度が低く、1.0質量%は充分に溶解しなかったものの、0.8質量%添加にて比較的良好な効果が見られた。また、実施例1−37〜実施例1−41に示されるように、異なるカチオン種のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(6a−Trans、6b−Trans、6c−Trans、6d−Trans)や、中心元素をPからSiに変更したトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1c−Trans)を添加した場合も同様に、比較例1−1に比べて高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0188】
[本発明の非水系電解液No.2〜No.11の調製]
本発明の非水系電解液No.2〜No.11については、前述の非水系電解液No.1−1と同様の手順にて調製した。
すなわち、露点が−50℃以下の窒素雰囲気ドライボックス中に、予め加熱、溶解させたエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の非水溶媒(体積比1:2)に、電解質としてLiPFを濃度が1mol/リットルになるように溶解、調製した後、本発明に係る種々のイオン性錯体/EMC溶液や前述(II)群の化合物とを所定量添加するか、添加しないことで、表3、5、6、9、10、13、14、17、19、21に記載の各種非水系電解液、比較電解液を調製した。
【0189】
(実施例2〜11、比較例1〜11 −非水系電解液電池の作製と評価)
前述の実施例1−1〜1−41に係る非水系電解液電池と同様の手順にて、試験用NMC正極と、試験用黒鉛負極と、セルロース製セパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表3、5、6、9、10、13、14、17、19、21に記載の各種非水系電解液、比較電解液をそれぞれ含浸させ、表4、7、8、11、12、15、16、18、20、22に記載の実施例、比較例に係る非水系電解液電池を作製した。これら非水系電解液電池については、前述の実施例1−1と同様の方法で以下の評価を実施した。
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
【0190】
これら非水系電解液電池の各種評価については、比較例1−1に係る非水系電解液電池の各種評価での結果を100としたときの相対値として表4、7、8、11、12、15、16、18に示す。
【0191】
【表3】
【0192】
【表4】
【0193】
(実施例2−1〜実施例2−11について)
表3〜表4の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、イミドアニオンを有する塩(II−2−1)とを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、イミドアニオンを有する塩(II−2−1)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0194】
実施例2−4と比較例1−2、比較例2−1とを比較すると、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−2−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみ又は(II−2−1)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、(II−2−1)の順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0195】
また、実施例2−4と比較例2−2、実施例2−16と比較例2−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−2−1)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とイミドアニオンを有する塩(II−2−1)とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0196】
また、実施例2−1〜実施例2−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−2−1)の効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0197】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例2−5)は、1.0質量%の場合(実施例2−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例2−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0198】
(実施例2−12〜実施例2−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−2−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例2−12〜2−14の場合は、(1a−Cis)と(II−2−1)とを含む非水系電解液電池(実施例2−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記において、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0199】
(実施例2−15〜実施例2−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−2−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例2−15〜2−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−2−1)とを含む非水系電解液電池(実施例2−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のにおいて、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0200】
(実施例2−18〜実施例2−24について)
また、実施例2−18〜実施例2−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−2−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例2−12〜2−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例2−15〜2−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例2−13、16と実施例2−21との比較)。
【0201】
(実施例2−25〜実施例2−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−3−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例2−25〜2−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0202】
【表5】
【0203】
【表6】
【0204】
【表7】
【0205】
【表8】
【0206】
(実施例3−1〜実施例3−11、実施例4−1〜実施例4−11について)
表7、表8の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、イミドアニオンを有する塩(II−3−1)又は(II−4−1)とを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、イミドアニオンを有する塩(II−3−1)又は(II−4−1)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
実施例3−4と比較例1−2、比較例3−1とを比較すると、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみ又は(II−3−1)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例4−4と比較例1−2とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)と(II−4−1)とを含む非水系電解液電池の方が良好な結果を示すことが確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)又は(II−4−1)を含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、(II−3−1)(もしくは(II−4−1))の順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0207】
また、実施例3−4と比較例3−2、実施例3−16と比較例3−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)とを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例4−4と比較例4−2、実施例4−16と比較例4−3とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−4−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Trans)と(II−4−1)とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0208】
また、実施例3−1〜実施例3−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−3−1)の効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0209】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例3−5)は、1.0質量%の場合(実施例3−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例3−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0210】
実施例4−1〜実施例4−11を比較した場合も上述と同様にジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−4−1)のそれぞれの含有量の効果が現れていることが確認された。
【0211】
(実施例3−12〜実施例3−14、実施例4−12〜実施例4−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−3−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例3−12〜3−14の場合は、(1a−Cis)と(II−3−1)とを含む非水系電解液電池(実施例3−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−4−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例4−12〜4−14の場合も、実施例4−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0212】
(実施例3−15〜実施例3−17、実施例4−15〜実施例4−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−3−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例3−15〜3−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)とを含む非水系電解液電池(実施例3−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−4−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例4−15〜4−17の場合も、実施例4−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0213】
(実施例3−18〜実施例3−24、実施例4−18〜実施例4−24について)
また、実施例3−18〜実施例3−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−3−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例3−12〜3−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例3−15〜3−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例3−13、16と実施例3−21との比較)。
同様に、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−4−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液を用いた実施例4−18〜4−24の場合も、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例4−12〜4−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例4−15〜4−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された。
【0214】
(実施例3−25〜実施例3−31、実施例4−25〜実施例4−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)又は(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例3−25〜3−31、実施例4−25〜実施例4−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0215】
【表9】
【0216】
【表10】
【0217】
【表11】
【0218】
【表12】
【0219】
(実施例5−1〜実施例5−11、実施例6−1〜実施例6−11について)
表11、表12の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、イミドアニオンを有する塩(II−5−1)又は(II−6−1)とを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、イミドアニオンを有する塩(II−5−1)又は(II−6−1)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0220】
実施例5−4と比較例1−2、比較例5−1とを比較すると、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−5−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみ又は(II−5−1)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例6−4と比較例1−2とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)と(II−6−1)とを含む非水系電解液電池の方が良好な結果を示すことが確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−5−1)又は(II−6−1)を含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、(II−5−1)(もしくは(II−6−1))の順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0221】
また、実施例5−4と比較例5−2、実施例5−16と比較例5−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−3−1)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とイミドアニオンを有する塩(II−5−1)とを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例6−4と比較例6−2、実施例6−16と比較例6−3とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−6−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Trans)と(II−6−1)とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0222】
また、実施例5−1〜実施例5−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−5−1)の効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0223】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例5−5)は、1.0質量%の場合(実施例5−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例5−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0224】
実施例6−1〜実施例6−11を比較した場合も上述と同様にジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−6−1)のそれぞれの含有量の効果が現れていることが確認された。
【0225】
(実施例5−12〜実施例5−14、実施例6−12〜実施例6−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−5−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例5−12〜5−14の場合は、(1a−Cis)と(II−5−1)とを含む非水系電解液電池(実施例5−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−6−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例6−12〜6−14の場合も、実施例6−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0226】
(実施例5−15〜実施例5−17、実施例6−15〜実施例6−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−5−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例5−15〜5−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−5−1)とを含む非水系電解液電池(実施例5−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−6−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例6−15〜6−17の場合も、実施例6−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0227】
(実施例5−18〜実施例5−24、実施例6−18〜実施例6−24について)
また、実施例5−18〜実施例5−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−5−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例5−12〜5−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例5−15〜5−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例5−13、16と実施例5−21との比較)。
同様に、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−6−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液を用いた実施例6−18〜6−24の場合も、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例6−12〜6−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例6−15〜6−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された。
【0228】
(実施例5−25〜実施例5−31、実施例6−25〜実施例6−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例5−25〜5−31、実施例6−25〜実施例6−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0229】
【表13】
【0230】
【表14】
【0231】
【表15】
【0232】
【表16】
【0233】
(実施例7−1〜実施例7−11、実施例8−1〜実施例8−11について)
表15、表16の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、イミドアニオンを有する塩(II−7−1)又は(II−8−1)とを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、イミドアニオンを有する塩(II−7−1)又は(II−8−1)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0234】
実施例7−4と比較例1−2、比較例7−1とを比較すると、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−7−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみ、又は(II−7−1)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例8−4と比較例1−2とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)と(II−8−1)とを含む非水系電解液電池の方が良好な結果を示すことが確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−7−1)又は(II−8−1)を含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、(II−7−1)(もしくは(II−8−1))の順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0235】
また、実施例7−4と比較例7−2、実施例7−16と比較例7−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−7−1)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とイミドアニオンを有する塩(II−7−1)とを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認されており、実施例8−4と比較例8−2、実施例8−16と比較例8−3とを比較した場合も同様に、(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−8−1)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Trans)と(II−8−1)とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0236】
また、実施例7−1〜実施例7−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−7−1)の効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0237】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例7−5)は、1.0質量%の場合(実施例7−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例7−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0238】
実施例8−1〜実施例8−11を比較した場合も上述と同様にジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やイミドアニオンを有する塩(II−8−1)のそれぞれの含有量の効果が現れていることが確認された。
【0239】
(実施例7−12〜実施例7−14、実施例8−12〜実施例8−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−7−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例7−12〜7−14の場合は、(1a−Cis)と(II−7−1)とを含む非水系電解液電池(実施例7−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
同様に、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてイミドアニオンを有する塩(II−8−1)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例8−12〜8−14の場合も、実施例8−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0240】
(実施例7−15〜実施例7−17、実施例8−15〜実施例8−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−7−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例7−15〜7−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とイミドアニオンを有する塩(II−7−1)とを含む非水系電解液電池(実施例7−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−8−1)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例8−15〜8−17の場合も、実施例8−4と比較して上述と同様、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記のいずれにおいても、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0241】
(実施例7−18〜実施例7−24、実施例8−18〜実施例8−24について)
また、実施例7−18〜実施例7−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−7−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例7−12〜7−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例7−15〜7−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例7−13、16と実施例7−21との比較)。
同様に、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、イミドアニオンを有する塩(II−8−1)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液を用いた実施例8−18〜8−24の場合も、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例8−12〜8−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例8−15〜8−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された。
【0242】
(実施例7−25〜実施例7−31、実施例8−25〜実施例8−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例7−25〜7−31、実施例8−25〜実施例8−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0243】
【表17】
【0244】
【表18】
【0245】
(実施例9−1〜実施例9−11について)
表18の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、ジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、ジフルオロリン酸リチウムの両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0246】
実施例9−4と比較例9−1とを比較すると、(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池の方が、ジフルオロリン酸リチウムのみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムを含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、ジフルオロリン酸リチウムの順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0247】
また、実施例9−4と比較例9−2、実施例9−16と比較例9−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0248】
また、実施例9−1〜実施例9−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)やジフルオロリン酸リチウムの効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.5、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0249】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例9−5)は、1.0質量%の場合(実施例9−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例9−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0250】
(実施例9−12〜実施例9−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そしてジフルオロリン酸リチウムの3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例9−12〜9−14の場合は、(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池(実施例9−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記において、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0251】
(実施例9−15〜実施例9−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、ジフルオロリン酸リチウム、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例9−15〜9−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池(実施例9−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記において、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0252】
(実施例9−18〜実施例9−24について)
また、実施例9−18〜実施例9−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、ジフルオロリン酸リチウム、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例9−12〜9−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例9−15〜9−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例9−13、16と実施例9−21との比較)。
【0253】
(実施例9−25〜実施例9−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてジフルオロリン酸塩とイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例9−25〜9−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0254】
【表19】
【0255】
【表20】
【0256】
(実施例10−1〜実施例10−11について)
表20の結果から、実施例に係る合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と、シラン化合物(II−9−2)とを含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と、(II−9−2)の両方を含まない非水系電解液電池(比較例1−1)と比較して高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0257】
実施例10−4と比較例1−2、比較例10−1とを比較すると、(1a−Cis)と(II−9−2)とを含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみ又は(II−9−2)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
これは、前述の実施例1−1〜実施例1−11や実施例1−16等と同様に、本発明の非水系電解液のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−9−2)を含有することで、これら添加剤が1サイクル目充電時に(1a−Cis)、ジフルオロリン酸リチウムの順に負極上で還元分解することにより、負極表面に安定な被膜(SEI)を形成するためと思われる。
【0258】
また、実施例10−4と比較例10−2、実施例10−16と比較例10−3とを比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−9−2)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)と(II−9−2)とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0259】
また、実施例10−1〜実施例10−11を比較すると、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)や(II−9−2)の効果は、それぞれの含有量が0.05質量%である場合においても、僅かながら確認でき、イオン性錯体の含有量が0.05質量%から0.1、0.2、1.0質量%へと増えるにつれて高まることが確認された。
【0260】
ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%の場合(実施例10−5)は、1.0質量%の場合(実施例10−4)に比べて効果が僅かに減少し、5.0質量%の場合(実施例10−6)、1.0質量%の場合に比べて大きく効果が減少した。これは、前述の実施例1−1〜実施例1−5と同様、ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)の含有量が3.0質量%以上に達すると、非水系電解液の粘度が高まり、非水系電解液電池内でのカチオンの移動が妨げられ、電池性能が低下し得るためと予想される。
【0261】
(実施例10−12〜実施例10−14について)
合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、そして(II−9−2)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例10−12〜10−14の場合は、(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池(実施例10−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記において、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)の割合、すなわち、ジフルオロイオン性錯体(1−Trans)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.002から0.004、0.01へと大きくなるに従って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が幾分向上する傾向が確認できた。
【0262】
(実施例10−15〜実施例10−17について)
さらに、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、(II−9−2)、そしてテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液を用いた実施例10−15〜10−17の場合は、同ジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とジフルオロリン酸リチウムとを含む非水系電解液電池(実施例10−4)に比べて、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)を低下させる事なく、さらに60℃貯蔵後放電容量(0℃)を向上させる傾向があることが確認された。
また、上記において、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)に対するテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の割合、すなわち、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)/ジフルオロイオン性錯体(1−Cis)(質量比)が0.07から、0.14、0.20へと大きくなるのに伴って、60℃長期サイクル後放電容量(0℃)に悪影響を与えることなく60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向が確認できた。
【0263】
(実施例10−18〜実施例10−24について)
また、実施例10−18〜実施例10−24に示されるように、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)、(II−9−2)、合成例1のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)、合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物を含む非水系電解液については、テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例10−12〜10−14)や、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施10−15〜10−17)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された(例えば、上記(I)群の化合物と上記(II)群の化合物の含有量がそれぞれの実施例において同程度である、実施例10−13、16と実施例10−21との比較)。
【0264】
(実施例10−25〜実施例10−31について)
(I)群化合物として合成例3のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Cis)を用いたり、(II)群化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−2−1)を併用したり、(III)群化合物として合成例3のトランス配座のジフルオロイオン性錯体(1b−Trans)を用いたり、(IV)群化合物として合成例5のテトラフルオロイオン性錯体(5b−Tetra)を用いたりした、実施例10−25〜10−31においても、上述と同様に、優れた、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)を示した。
【0265】
【表21】
【0266】
【表22】
【0267】
(実施例11−1〜実施例11−16について)
実施例11−1と、比較例11−1を比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)とシラン化合物(II−9−1)とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)と、(II−9−1)を含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。さらに、実施例11−2では、(1aーCis)と(II−9−1)と(1a−Trans)と(5a−Tetra)を含む非水系電解液電池は、より良好な結果を示すことが確認された。(II−9)に属する各種シラン化合物を使用した実施例11−3〜11−16においても、それぞれ同じ各種シラン化合物を使用した比較例11−2〜11−8に比較すると、シス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II−9)に属する各種シラン化合物とを含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)と、対応する各種シラン化合物とを含む非水系電解液電池よりも良好な結果を示すことが確認された。
【0268】
(実施例12 − 正極:NCA正極)
実施例12および比較例12については、実施例1にて用いた正極活物質(NMC)の代わりに、正極活物質(LiNi0.85Co0.10Al0.05(NCA))を用いた。
【0269】
<NCA正極の作製>
LiNi0.85Co0.10Al0.05(NCA)粉末(戸田工業製)およびアセチレンブラック(導電剤)を乾式混合し、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、NCA合剤ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用NCA正極を得た。正極中の固形分比率は、NCA:導電剤:PVDF=85:5:10(質量比)とした。
【0270】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NCA正極と、試験用黒鉛負極と、セルロース製セパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表23に記載の種々の非水系電解液および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、実施例12および比較例12に係る非水系電解液電池を得た。なお、表23は既出の電解液の組成をまとめたものである。
【0271】
【表23】
【0272】
(実施例12および比較例12 − 試作セルの評価)
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
実施例12および比較例12に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、実施例1−1に係る非水系電解液電池での評価1と同様の評価を行った。但し、25℃の環境温度でのコンディショニングの初回充放電と充放電サイクルでの充電上限電圧4.3Vを4.2Vに変更した。さらに、このコンディショニング後、60℃の環境温度で500サイクルを実施する際にて、充電上限電圧4.3Vを4.2Vに変更した。また、0℃、0.2Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電することを4.2Vまで定電流定電圧充電に変更した。この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0273】
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
実施例12、比較例12に係る非水系電解液電池のそれぞれについては、実施例1−1に係る非水系電解液電池での評価2と同様の評価を行った。但し、25℃、5Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電することを、4.2Vまで定電流定電圧充電に変更した。この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)とした。
【0274】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例12、比較例12に係る非水系電解液電池のそれぞれについては、実施例1−1に係る非水系電解液電池での評価3である60℃の環境温度での貯蔵試験(4.3V定電流定電圧充電後を4.2V定電流定電圧充電後に変更して10日間保存)を実施した。但し、0℃、0.2Cレートにて4.3Vまで定電流定電圧充電することを、4.2Vまで定電流定電圧充電に変更した。この時に得られる容量を、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0275】
実施例12、比較例12に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例12−1に係る非水系電解液電池の各種評価を100としたときの相対値として表24に示す。
【0276】
【表24】
【0277】
(実施例12−1〜12−24について)
表24の結果から、正極活物質としてNMCの代わりに、NCAを用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として、合成例1のシス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Cis)と(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)とをそれぞれ含む非水系電解液電池は、該イオン性錯体と該イミドアニオンを有する塩の両方を含まない非水系電解液電池(比較例12−1)と比較して、高い60℃長期サイクル後放電容量(0℃)、60℃長期サイクル後の5Cレート特性が得られた。
【0278】
また、実施例12−1、実施例12−5、実施例12−9、実施例12−13、実施例12−17、実施例12−21と、比較例12−2とを比較すると、(1a−Cis)と(II)群の化合物とをそれぞれ含む非水系電解液電池の方が、(1a−Cis)のみを含む非水系電解液電池よりも効果が高い事が確認された。
【0279】
さらに、実施例12−3と比較例12−4とを比較すると、(1a−Cis)と(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(IV)群の化合物として(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液電池の方が、トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans)と(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(IV)群の化合物として(5a−Tetra)の3種類の化合物を含む非水系電解液電池よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
これは、実施例12−7((II)群の化合物;イミドアニオンを有する塩(II−2−1))と比較例12−6、実施例12−11((II)群の化合物;(II−3−1))と比較例12−8、実施例12−15((II)群の化合物;(II−5−1))と比較例12−10、実施例12−19((II)群の化合物;ジフルオロリン酸塩リチウム)と比較例12−12、実施例12−23((II)群の化合物;ジフルオロリン酸塩リチウム)と比較例12−14でも同様に効果があることが確認された。
【0280】
また、実施例12−4、実施例12−8、実施例12−12、実施例12−16、実施例12−20、実施例12−24に示されるように、(1a−Cis)と(II)群の各化合物と(III)群の化合物(トランス配座のジフルオロイオン性錯体(1a−Trans))、(IV)群の化合物(テトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra))の4つの群から選ばれる化合物を所定量含む非水系電解液については、(5a−Tetra)を含まない非水系電解液(実施例12−2、実施例12−6、実施例12−10、実施例12−14、実施例12−18、実施例12−22)や、(1a−Trans)を含まない非水系電解液(実施例12−3、実施例12−7、実施例12−11、実施例12−15、実施例12−19、実施例12−23)よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)が向上する傾向があることが確認された。
【0281】
(実施例13 − 正極:LMO正極)
実施例13については、実施例12にて用いた正極活物質(LiNi0.85Co0.10Al0.05(NCA))の代わりに、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物としてLiMn1.95Al0.05(LMO)粉末を正極活物質として用いた。
【0282】
<LMO正極の作製>
LiMn1.95Al0.05(LMO)粉末およびアセチレンブラック(導電剤)を乾式混合し、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、LMO合剤ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用LMO正極を得た。正極中の固形分比率は、LMO:導電剤:PVDF=85:5:10(質量比)とした。
【0283】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用LMO正極と、試験用黒鉛負極と、セルロース製セパレータの代わりに微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表23に記載の種々の非水系電解液および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、実施例13−1〜12−24、および比較例13−1〜13−14に係る非水系電解液電池を得た。なお、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータのポリプロピレン側を正極側に配置するように介して、正極、負極を対向させて電極群としたこと以外は、実施例12−1と同様の作製方法とした。
【0284】
これら非水系電解液電池については、前述の実施例12および比較例12と同様、以下の評価を実施した。
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
【0285】
実施例13、および比較例13に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例13−1に係る非水系電解液電池の各種評価での結果を100としたときの相対値として表25に示す。
【0286】
【表25】
【0287】
(実施例13−1〜13−24について)
表25の結果から、実施例13−1〜実施例13−25については、実施例12−1〜実施例12−24と同様の傾向を示した。
すなわち、正極活物質としてNCAの代わりに、LMOを用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として、合成例1の(1a−Cis)と、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)とを併用し、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)から選ばれる化合物を含みうる非水系電解液を用いることで、比較例13−1〜比較例13−14よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0288】
(実施例14 − 正極:LFP正極)
実施例14については、実施例13にて用いた正極活物質(LiMn1.95Al0.05(LMO))の代わりに、リチウム含有オリビン型リン酸塩としてLiFePO(LFP)粉末を正極活物質として用いた。
【0289】
<LFP正極の作製>
LiFePO(LFP)粉末およびアセチレンブラック(導電剤1)と、気相法炭素繊維(昭和電工製VGCF(登録商標)−H)(導電剤2)とを乾式混合し、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、LFP合剤ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用LFP正極を得た。正極中の固形分比率は、LFP:導電剤1:導電剤2:PVDF=85:4:1:10(質量比)とした。
【0290】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用LFP正極と、試験用黒鉛負極と、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表23に記載の種々の非水系電解液および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、実施例13−1と同様の手順にて、実施例14−1〜14−24、および比較例14−1〜14−14に係る非水系電解液電池を得た。
【0291】
(実施例14および比較例14 − 試作セルの評価)
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
実施例14および比較例14に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、以下の評価を実施した。
まず、前述の通り作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、以下の条件でコンディショニングを実施した。すなわち、初回充放電として、充電上限電圧3.6V、0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.0Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧3.6V、0.2Cレート(6mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.0Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
このコンディショニング後、60℃の環境温度での充放電試験を実施した。充電は、充電上限電圧3.6Vまで3Cレート(90mA)で定電流定電圧充電を実施し、放電は、放電終止電圧2.0Vまで3Cレート(90mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを500回繰り返した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度2.0Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて3.6Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電は、放電終止電圧2.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0292】
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
上述評価1にて60℃の環境温度で500サイクルを実施後、続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度2.0Vまで放電させた後に、25℃、5Cレートにて3.6Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に25℃のまま、放電は、放電終止電圧2.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)とした。
【0293】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例14および比較例14に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、60℃の環境温度での貯蔵試験(3.6V充電後、10日間保存)を実施した。続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、2.0Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて3.6Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電は、放電終止電圧2.0Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0294】
実施例14、比較例14に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例12−1に係る非水系電解液電池の各種評価を100としたときの相対値として表26に示す。
【0295】
【表26】
【0296】
(実施例14−1〜14−24について)
表26の結果から、実施例14−1〜実施例14−24については、実施例13−1〜実施例13−24と同様の傾向を示した。
すなわち、正極活物質としてLMOの代わりに、LFPを用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として、合成例1の(1a−Cis)と、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)とを併用し、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)から選ばれる化合物を含みうる非水系電解液を用いることで、比較例14−1〜比較例14−14よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0297】
以上の結果から、正極にニッケル、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上の金属を含有し、かつ層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有オリビン型リン酸鉄塩、を用いた場合のいずれにおいても、本発明の非水系電解液は、良好な効果を示すことが確認された。
【0298】
つまり、本発明の非水系電解液及びこれを用いた電池には、特定の正極に依存せず、ある程度電池が使用された状態においても低温にて高い出力特性を発揮でき、さらに高温にて貯蔵された後においても同様に低温にて十分な性能を発揮できることは明らかである。
【0299】
(実施例15 − 負極:非晶質炭素負極)
実施例15については、実施例1にて用いた負極活物質(黒鉛粉末)の代わりに、X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料として、非晶質炭素粉末を負極活物質として用いた。
【0300】
<非晶質炭素負極の作製>
非晶質炭素粉末としては、株式会社クレハ製のカーボトロン(登録商標)Pを用い、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、非晶質炭素合剤ペーストを調製した。このペーストを銅箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用非晶質炭素負極を得た。負極中の固形分比率は、非晶質炭素粉末:PVDF=90:10(質量比)とした。
【0301】
(非水系電解液の調製)
本発明の非水系電解液No.12−1〜12−12については、非水溶媒としてFECを加えること以外は前述の非水系電解液No.1−1と同様の手順にて調製した。
すなわち、非水溶媒としてEC、EMC、FEC(体積比25:70:5 / 質量比29.7:63.6:6.7、または、同体積比20:70:10 / 質量比23.6:63.1:13.3)やFECを加えないECとEMCの非水溶媒(体積比30:70 / 質量比35.9:64.1)に、電解質としてLiPFを濃度が1.2mol/リットルになるように溶解、調製した後で、本発明に係る種々のイオン性錯体/EMC溶液や上述(II)群の化合物とを加えることで、以下の表27に示す非水系電解液No.12−1〜12−12、比較電解液12−1〜12−17をそれぞれ調製した。
【0302】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用非晶質炭素負極と、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表27に記載の種々の非水系電解液および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、実施例15および比較例15に係る非水系電解液電池を得た。
【0303】
【表27】
【0304】
(実施例15および比較例15 − 試作セルの評価)
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
実施例15および比較例15に係る非水系電解液電池のそれぞれについては、実施例12に係る非水系電解液電池での評価1と同様に、以下の条件でコンディショニングと評価を実施した。
すなわち、作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、初回充放電として、充電上限電圧4.2V 0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.7Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧4.2V、0.2Cレート(6mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.7Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
このコンディショニング後、60℃の環境温度で500サイクルを実施する際にて、放電終止電圧3.0Vを2.7Vに変更したこと、0℃、0.2Cレートにて4.2Vまで定電流定電圧充電し、更に0℃のまま放電の際、放電終止電圧3.0Vを2.7Vに変更し、5Cレート(150mA)での定電流で放電に変更したこと以外は、同様の評価とした。この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0305】
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
実施例15および比較例15に係る非水系電解液電池のそれぞれについては、実施例12に係る非水系電解液電池での評価2と同様の評価を行った。但し、25℃5Cレートでの放電の際、放電終止電圧3.0Vを2.7Vに変更した。この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)とした。
【0306】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例15および比較例15に係る非水系電解液電池のそれぞれについては、実施例12に係る非水系電解液電池での評価3である60℃の環境温度での貯蔵試験(4.2V定電流定電圧充電後、10日間保存)を実施した。但し、0℃5Cレートでの放電の際、放電終止電圧3.0Vを2.7Vに変更した。この時に得られる容量を、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0307】
実施例15および比較例15に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例15−1に係る非水系電解液電池の各種評価を100としたときの相対値として表28に示す。
【0308】
【表28】
【0309】
(実施例15−1〜15−12について)
表28の結果から、実施例15−1〜15−12については、負極活物質として黒鉛粉末の代わりに、非晶質炭素粉末(カーボトロン(登録商標)P)を用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として合成例1の(1a−Cis)と、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)とを併用し、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして、(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)から選ばれる化合物を含みうる非水系電解液を用いることで、比較例15−1〜比較例15−17よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0310】
(実施例16 − 負極:(人造黒鉛+天然黒鉛混合)負極)
実施例16については、実施例15にて用いた負極活物質(非晶質炭素粉末)の代わりに、人造黒鉛負極と天然黒鉛とを混合した負極活物質を用いた。
【0311】
<試験用(人造黒鉛+天然黒鉛混合)負極の作製>
人造黒鉛としては、昭和電工(株)製SCMG(登録商標)−AR粉末、天然黒鉛として関西熱化学(株)製天然黒鉛粒子(平均粒子径25μm)を用い、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、(人造黒鉛+天然黒鉛)混合の合剤ペーストを調製した。このペーストを銅箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用(人造黒鉛+天然黒鉛混合)負極を得た。負極中の固形分比率は、人造黒鉛粉末:天然黒鉛粉末:PVDF=72:18:10(質量比)とした。
【0312】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用(人造黒鉛+天然黒鉛混合)負極と、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表27に記載の種々の非水系電解液、および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、前述の実施例15と同様の手順にて、実施例16−1〜16−12、および比較例16−1〜16−17に係る非水系電解液電池を得た。
【0313】
<非水系電解液電池の評価>
これら非水系電解液電池については、前述の実施例1と同様、それぞれ前述の以下の評価を実施した。
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
【0314】
実施例16および比較例16に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例16−1に係る非水系電解液電池の各種評価での結果を100としたときの相対値として表29に示す。
【0315】
【表29】
【0316】
(実施例16−1〜16−12について)
表29の結果から、実施例16−1〜実施例16−12については、実施例15−1〜実施例15−12と同様の傾向を示した。
すなわち、負極活物質として人造黒鉛と天然黒鉛とを混合した粉末を用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として合成例1の(1a−Cis)と、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)とを併用し、さらに、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)から選ばれる化合物を含みうる非水系電解液を用いることで、比較例16−1〜比較例16−17よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0317】
(実施例17 − 負極:SiO負極)
実施例17については、実施例16に係る非水系電解液電池にて用いた負極活物質(人造黒鉛と天然黒鉛とを混合した粉末)の代わりに、ケイ素酸化物粉末と塊状人造黒鉛粉末の混合粉末を負極活物質として用いた。
【0318】
<SiO負極の作製>
ケイ素酸化物粉末としては、熱処理により不均化されたケイ素酸化物粉末(シグマアルドリッチジャパン株式会社製SiO(xは0.3〜1.6)、平均粒径5μm)、塊状人造黒鉛粉末として日立化成工業製MAG−D(粒径20μm以下)の混合粉末を用い、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、さらにケッチェンブラック(導電剤)を加えて混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、SiO合剤ペーストを調製した。
このペーストを銅箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用SiO負極を得た。負極中の固形分比率は、SiO:MAG―D:導電剤:PVDF=35:47:8:10(質量比)とした。
なお、SiO負極の充電容量がNMC正極の充電容量よりも大きくなるように、NMC正極活物質とSiO粉末との量を調節し、充電の途中でSiO負極にリチウム金属が析出しないように塗布量も調節した。
【0319】
(非水系電解液の調製)
本発明の非水系電解液No.13−1〜13−5、比較電解液No.13−1〜13−8については、非水溶媒としてFECを加えること以外は前述の非水系電解液No.1−1、比較電解液No.1−1と同様の手順にて調製した。
すなわち、非水溶媒としてEC、EMC、FEC(体積比15:70:15 / 質量比17.5:62.6:19.9)に、電解質としてLiPFを濃度が1.2mol/リットルになるように溶解、調製した後で、本発明に係る種々のイオン性錯体/EMC溶液や上述(II)群の化合物とを加えることで、以下の表30に示す非水系電解液No.13−1〜13−5、比較電解液No.13−1〜13−8をそれぞれ調製した。
【0320】
【表30】
【0321】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用SiO負極と、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表27、および30に記載の種々の非水系電解液、および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、前述の実施例16および比較例16と同様の手順にて、実施例17−1〜17−12、および比較例17−1〜17−16に係る非水系電解液電池を得た。
【0322】
<非水系電解液電池の評価>
<評価1> 60℃200サイクル後の低温特性(0℃)
実施例17および比較例17に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、以下の評価を実施した。
まず、作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、初回充放電として、充電上限電圧4.2V、0.05Cレート(1.5mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.5Vまで0.1Cレート(3mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧4.2V、0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.5Vまで0.1Cレート(3mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを5回繰り返し、コンディショニングを実施した。
このコンディショニング後、25℃の環境温度で、充電上限電圧4.2V、0.2Cレート(6mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧2.5Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
その後、60℃の環境温度での充放電試験を実施した。充電は、充電上限電圧4.2Vまで1Cレート(30mA)で定電流定電圧充電を実施し、放電は、放電終止電圧2.5Vまで2Cレート(60mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを200回繰り返した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度2.5Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて4.2Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電終止電圧2.5Vまで3Cレート(90mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0323】
<評価2> 60℃200サイクル後の3Cレート特性
上述評価1にて60℃の環境温度で200サイクルを実施後、続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度2.5Vまで放電させた後に、25℃、0.1Cレートにて4.2Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に25℃のまま、放電は、放電終止電圧2.5Vまで3Cレート(90mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の3Cレート特性(25℃)とした。
【0324】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例17および比較例17に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、60℃の環境温度での貯蔵試験(4.2V充電後、10日間保存)を実施した。続いて、25℃まで非水系電解液電池を冷却し、2.5Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて4.2Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電は、放電終止電圧2.5Vまで3Cレート(90mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0325】
実施例17および比較例17に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例17−1に係る非水系電解液電池の各種評価を100としたときの相対値として表31に示す。
【0326】
【表31】
【0327】
(実施例17−1〜17−12について)
負極活物質として人造黒鉛と天然黒鉛とを混合した粉末の代わりに、ケイ素酸化物粉末と塊状人造黒鉛粉末の混合粉末を用いた実施例17−1〜実施例17−12については、表31の結果から、以下のことが確認された。
すなわち、実施例に係る(I)群の化合物として合成例1の(1a−Cis)、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして、(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物をそれぞれ含む非水系電解液を用いることで、比較例17−1〜比較例17−16よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や3Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0328】
(実施例18 − 負極:Si負極)
実施例18について、実施例17に係る非水系電解液電池にて用いた負極活物質(ケイ素酸化物粉末と塊状人造黒鉛粉末の混合粉末)の代わりに、Si粉末を負極活物質として用いた。
【0329】
<試験用Si負極の作製>
Si粉末としては、Si粉末(平均粒子径:10μm/6μm=質量比9/1の混合粉末)を用い、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、さらにケッチェンブラック(導電剤1)と気相法炭素繊維(昭和電工製VGCF(登録商標)−H)(導電剤2)とを加えて混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、Si合剤ペーストを調製した。
このペーストを銅箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用Si負極を得た。負極中の固形分比率は、Si粉末:導電剤1:導電剤2:PVDF=78:7:3:12(質量比)とした。なお、Si負極の充電容量がNMC正極の充電容量よりも大きくなるように、NMC正極活物質とSi粉末との量を調節し、充電の途中でSi負極にリチウム金属が析出しないように塗布量を調節した。
【0330】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用Si負極と、微多孔性ポリプロピレン−ポリエチレン2層フィルムからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表27、および30に記載の種々の非水系電解液、および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、前述の実施例17と同様の手順にて、実施例18および比較例18に係る非水系電解液電池を得た。
【0331】
(実施例18および比較例18 −非水系電解液電池の評価)
前述の実施例17に係る非水系電解液電池と同様、それぞれ前述の以下の評価を実施した。
<評価1> 60℃200サイクル後の低温特性(0℃)
<評価2> 60℃200サイクル後の3Cレート特性
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
【0332】
実施例18および比較例18に係る非水系電解液電池の各種評価については、比較例18−1に係る非水系電解液電池の各種評価での結果を100としたときの相対値として表32に示す。
【0333】
【表32】
【0334】
(実施例18−1〜18−12について)
表32の結果から、負極活物質として、Si粉末を用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として合成例1の(1a−Cis)、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウムや(II−9−2)、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして、(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)の4つの群から選ばれる化合物をそれぞれ含む非水系電解液を用いることで、比較例18−1〜比較例18−16よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や3Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0335】
(実施例19および比較例19 − 負極:LTO負極)
実施例19においては、実施例18にて用いた負極活物質(Si粉末)の代わりに、LiTi12(LTO)粉末を負極活物質として用いた。
【0336】
<試験用LTO負極の作製>
LiTi12(LTO)粉末としては、LTO粉末(平均粒子径:0.90μm/3.40μm=質量比9/1の混合粉末)を用い、結着剤であるPVDFを予め溶解させたNMP中に均一に分散させ、さらにケッチェンブラック(導電剤1)と気相法炭素繊維(昭和電工製VGCF(登録商標)−H)(導電剤2)を加えて混合し、さらに粘度調整用NMPを加え、LTO合剤ペーストを調製した。
このペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布して、乾燥、加圧を行った後に、所定のサイズに加工した試験用LTO負極を得た。
負極中の固形分比率は、LTO粉末:導電剤1:導電剤2:PVDF=83:5:2:10(質量比)とした。
【0337】
(非水系電解液の調製)
[非水系電解液No.12−1〜12−20、比較電解液No.12−1〜12−12の調製]
露点が−50℃以下の窒素雰囲気ドライボックス中に、PCとEMCの非水溶媒(体積比30:70 / 質量比33.8:66.2)に、電解質としてLiPFと、LiBFの濃度がそれぞれ1.1mol/リットル、0.4mol/リットルになるように溶解、調製した後、本発明に係る種々のイオン性錯体/EMC溶液や前述(II)群の化合物とを加えることで、表33に示される非水系電解液No.14−1〜14−24、および比較電解液No.14−1〜14−14を調製した。
【0338】
なお、これら調製の際には、液温が40℃を超えないように冷却しながら、先ず、所定量のEMC中に全LiPFの30質量%を加えて溶解した後、次いで全LiPFの30質量%を加えて、溶解する操作を2回繰り返し、残りの10質量%のLiPFを加えて溶解するという操作を実施した後、最後にLiBFを加えて溶解し、PCとEMCとを所定量加えて、混合した後、下記表33に記載の種々のイオン性錯体/EMC溶液や前述(II)群の化合物とを加え、PCとEMCの体積比が前述の所定の比率となるように最終調整し、1時間撹拌するという手順にて行った。
【0339】
【表33】
【0340】
<非水系電解液電池の作製>
上記の試験用NMC正極と、試験用LTO負極と、セルロースからなるセパレータとを備えるアルミラミネート外装セル(容量30mAh)に、表33に記載の種々の非水系電解液、および種々の比較電解液をそれぞれ含浸させ、前述の実施例18と同様の手順にて、実施例19−1〜19−24および比較例19−1〜19−14に係る非水系電解液電池を得た。
【0341】
<非水系電解液電池の評価>
<評価1> 60℃500サイクル後の低温特性(0℃)
実施例19および比較例19に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、以下の評価を実施した。
まず、25℃の環境温度で、以下の条件でコンディショニングを実施した。
すなわち、作製したセルを用いて、25℃の環境温度で、初回充放電として、充電上限電圧2.8V、0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧1.5Vまで0.1Cレート(3mA)定電流で放電を行い、その後、充電上限電圧2.8V、0.1Cレート(3mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧1.5Vまで0.1Cレート(3mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
このコンディショニング後、25℃の環境温度で、充電上限電圧2.8V、0.2Cレート(6mA)で定電流定電圧充電し、放電終止電圧1.5Vまで0.2Cレート(6mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを3回繰り返した。
その後、60℃の環境温度での充放電試験を実施した。充電は、充電上限電圧2.8Vまで2Cレート(30mA)で定電流定電圧充電を実施し、放電終止電圧1.5Vまで2Cレート(60mA)定電流で放電を行う充放電サイクルを500回繰り返した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度1.5Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて2.8Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電終止電圧1.5Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の低温特性(0℃)とした。
【0342】
<評価2> 60℃500サイクル後の5Cレート特性
上述評価1にて60℃の環境温度で500サイクルを実施後、続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、再度1.5Vまで放電させた後に、25℃、0.1Cレートにて2.8Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に25℃のまま、放電終止電圧1.5Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を、60℃長期サイクル後の5Cレート特性(25℃)とした。
【0343】
<評価3> 60℃貯蔵後の低温特性(0℃)
実施例19および比較例19に係る非水系電解液電池のそれぞれについて、60℃の環境温度での貯蔵試験(2.8V充電後、10日間保存)を実施した。
続いて25℃まで非水系電解液電池を冷却し、1.5Vまで放電させた後に、0℃、0.2Cレートにて2.8Vまで定電流定電圧充電を実施した。更に0℃のまま、放電終止電圧1.5Vまで5Cレート(150mA)での定電流で放電を行い、この時に得られる容量を60℃貯蔵後の低温特性(0℃)とした。
【0344】
実施例19比較例19に係る非水系電解液電池の各種評価は、比較例19−1に係る非水系電解液電池の各種評価を100としたときの相対値として表34に示す。
【0345】
【表34】
【0346】
(実施例19−1〜19−24について)
表34の結果から、負極活物質としてLTOを用いた場合においても、実施例に係る(I)群の化合物として合成例1の(1a−Cis)と、(II)群の化合物としてイミドアニオンを有する塩(II−1−1)、(II−2−1)、(II−3−1)、(II−5−1)、ジフルオロリン酸リチウム、(II−9−2)とを併用し、さらに、(III)群の化合物として合成例1の(1a−Trans)、そして(IV)群の化合物として合成例2に示されるテトラフルオロイオン性錯体(5a−Tetra)から選ばれる化合物を含みうる非水系電解液を用いることで、比較例19−1〜比較例19−14よりも60℃長期サイクル後放電容量(0℃)や5Cレート特性(25℃)や60℃貯蔵後放電容量(0℃)のいずれも向上することが確認された。
【0347】
以上の通り、負極に、X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nmを超える炭素材料、X線回折における格子面(002面)のd値が0.340nm以下の炭素材料、Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属の酸化物、Si、Sn、Alから選ばれる1種以上の金属やこれら金属を含む合金又はこれら金属や合金とリチウムとの合金、リチウムチタン酸化物を用いた場合のいずれにおいても、本発明の非水系電解液は、実施例1−1〜1−41と同様な効果を示すことが分かる。
つまり、本発明の非水系電解液およびこれを用いた電池には、前述の正極と同様、特定の負極に依存せずにサイクル特性の改善効果が生じることは明らかである。
図1