特許第6245318号(P6245318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000002
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000003
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000004
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000005
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000006
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000007
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000008
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000009
  • 特許6245318-エンジンの制御装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6245318
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/52 20160101AFI20171204BHJP
   F02M 26/24 20160101ALI20171204BHJP
   F02M 26/25 20160101ALI20171204BHJP
   F02M 26/28 20160101ALI20171204BHJP
   F02M 26/50 20160101ALI20171204BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20171204BHJP
   F02M 26/06 20160101ALI20171204BHJP
   F01P 11/16 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   F02M26/52
   F02M26/24
   F02M26/25
   F02M26/28
   F02M26/50 321
   F02M26/05
   F02M26/06 311
   F01P11/16 E
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-127950(P2016-127950)
(22)【出願日】2016年6月28日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佳央
(72)【発明者】
【氏名】石川 直樹
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−246792(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/011767(WO,A1)
【文献】 特開2007−263034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00−11/20
F02B 47/08−47/10
F02M 26/00−26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、前記気筒に燃料を供給するための燃料供給装置と、吸気通路に設けられるコンプレッサと排気通路に設けられるタービンとを含み、前記排気通路を流通する排気ガスを利用して前記気筒に吸入される空気を過給する過給機と、前記吸気通路の前記コンプレッサよりも上流側の通路と前記排気通路の前記タービンよりも下流側の通路とを接続し、前記排気ガスの一部を前記吸気通路に再循環させるための第1排気再循環装置とを搭載したエンジンの制御装置であって、
前記第1排気再循環装置は、前記エンジンの内部に設けられる冷却水通路における前記エンジンから受熱する受熱位置よりも上流の分岐位置から分岐して流通する冷却水を用いて前記排気ガスを冷却するための第1熱交換器と、前記第1排気再循環装置内を流通する前記排気ガスの流量を調整するための調整装置とを含み、
前記制御装置は、
前記冷却水通路の出口よりも下流の予め定められた位置における冷却水の第1温度を取得するための取得部と、
前記第1温度と前記第1排気再循環装置内の冷却水の温度との温度差を算出するとともに、前記第1温度から前記温度差を減算した第2温度を用いて前記調整装置を制御するための制御部とを含み、
前記制御部は、
前記エンジンの始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、前記エンジンが始動してからの前記燃料の供給量の積算値を用いて前記温度差を算出し、
前記エンジンの始動直前の停止時間が前記予め定められた時間よりも短い場合には、予め定められた前記積算値を用いて得られる前記温度差の上限値を前記温度差として算出する、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記過給機は、前記吸気通路を流通する空気を冷却するインタークーラをさらに含み、
前記エンジンは、前記吸気通路の前記インタークーラよりも下流側の通路と、前記排気通路の前記タービンよりも上流側の通路とを接続する第2排気再循環装置をさらに含み、
前記制御部は、
前記エンジンの始動直前の停止時間が前記予め定められた時間よりも長い場合には、前記積算値を用いて前記エンジンからの受熱量を示す前記温度差の基本値を設定し、
前記エンジンの始動直前の停止時間が前記予め定められた時間よりも短い場合には、予め定められた前記積算値を用いて得られる前記基本値の上限値を前記基本値として設定し、
前記第2排気再循環装置内を流通する前記排気ガスのエネルギーの大きさに応じた前記温度差の補正係数を前記エンジンの回転数と前記燃料の供給量とを用いて算出し、
前記基本値と前記補正係数とを乗算した値を前記温度差として算出する、請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記第2排気再循環装置は、前記冷却水通路における前記受熱位置よりも上流の位置から分岐し、前記冷却水通路における前記予め定められた位置よりも上流の位置で前記冷却水通路に合流する経路を流通する冷却水を用いて前記排気ガスを冷却するための第2熱交換器と、前記第2熱交換器を経由しないで前記排気ガスを前記吸気通路に再循環させるバイパス通路と、前記第2熱交換器および前記バイパス通路のうちのいずれかに前記排気ガスが流通するように経路を切り替える切替装置とを含み、
前記制御部は、前記排気ガスが前記第2熱交換器を流通して前記吸気通路に再循環する場合には、第1の値を前記補正係数として設定し、前記排気ガスが前記バイパス通路を流通して前記吸気通路に再循環する場合には、前記第1の値と異なる第2の値を前記補正係数として設定する、請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記分岐位置から分岐して前記第1熱交換器に冷却水を導入する経路は、電気機器を冷却する経路を有し、
前記制御部は、前記電気機器で消費される電力量から前記温度差の補正値を算出する、請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、冷却水が前記分岐位置から前記第1熱交換器に到達するまでの経路長さに対応した前記冷却水の温度変化の応答遅れの要素を前記温度差に付与するためのフィルタ処理を実行する、請求項1〜4のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気再循環装置を搭載したエンジンの制御に関し、特に、排気再循環装置内の排気ガスを冷却する熱交換器を流通する冷却水の水温を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
NOxを低減したり燃費を向上させたりする目的で排気ガスを吸気通路や排気通路とは別に設けられた循環通路を経由して吸気側に循環させる排気再循環装置(以下、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置と記載する)を搭載したエンジンが公知である。このようなEGR装置では、装置内部を流通する排気ガスのガス密度を上げるためにEGRクーラ等の熱交換器を用いて排気ガスを冷却することが行なわれている。ところが、EGRクーラに流通する冷却水の温度が過度に低くなると、EGRクーラ内を流通する排気ガスの温度が露点を下回って凝縮水が発生する。この凝縮水が排気ガスの成分との化学反応により酸性化すると、EGR装置の構成部品を腐食させてしまう虞がある。そのため、EGR装置において凝縮水が発生しないように、EGRクーラに流通する冷却水の温度が過度に低くなる場合には、排気ガスのEGR装置内への流入を停止したり、EGR装置に流入する排気ガスの流入量を減少したりすることが行なわれている。
【0003】
たとえば、特開2012−246792号公報(特許文献1)には、エンジンの冷却水の温度が予め設定された閾値温度以上になったことを条件に、エンジンの排気通路側から吸気通路側への排気ガスの還流を許可するとともに還流排気ガスの還流量を制御する排気再循環制御装置において、露点温度に応じて閾値温度を可変設定する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−246792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、EGR装置内に凝縮水が発生しているか否かを精度高く判定するためには、EGR装置内に多数のセンサを配置すればよいが、低コストで精度良い判定を行なうためには、既存のセンサを利用してEGRクーラを流通する冷却水の温度を精度高く推定する必要がある。このような要求に対して、一般的にEGRクーラを流れる冷却水はエンジンの冷却水と共通であるため、たとえば、特許文献1のようにエンジンの冷却水の温度を測定するための既存の水温センサの測定値をそのままEGRクーラを流通する冷却水の温度に置き換えて制御することが考えられる。
【0006】
特許文献1のようにエンジン冷却水が流れる経路上にEGRクーラ冷却水の経路がある場合にはエンジンの冷却水の温度を測定する水温センサの値をEGRクーラの冷却水の温度に置き換えることができるが、たとえば、エンジン冷却水の経路とEGRクーラ冷却水の経路とがエンジンブロックの上流で分岐している場合などは、エンジンの始動直後におけるエンジン冷却水の温度とEGR冷却水の温度が同じであったとしても、その後のエンジン内部の冷却水の温度上昇の態様と、EGRクーラ内の冷却水の温度上昇の態様とは、必ずしも一致しない。また、短時間の放置後にエンジンを再始動させる場合には、冷却対象物の熱容量の違いから放置中の温度の低下量に差があるため、再始動直後のエンジン冷却水の温度とEGR冷却水の温度とは既に乖離した状態になる場合がある。このように、エンジンの冷却水の温度からEGRクーラ内を流通する冷却水の温度を一義的に推定できないという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジン冷却水経路とEGR冷却水経路とが分岐している場合においてエンジン停止後の放置時間に応じてEGRクーラ内を流通する冷却水の温度を精度高く推定するエンジンの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に係るエンジンの制御装置は、気筒と、気筒に燃料を供給するための燃料供給装置と、吸気通路に設けられるコンプレッサと排気通路に設けられるタービンとを含み、排気通路を流通する排気ガスを利用して気筒に吸入される空気を過給する過給機と、吸気通路のコンプレッサよりも上流側の通路と排気通路の前記タービンよりも下流側の通路とを接続し、排気ガスの一部を吸気通路に再循環させるための第1排気再循環装置とを搭載したエンジンの制御装置である。第1排気再循環装置は、エンジンの内部に設けられる冷却水通路におけるエンジンから受熱する受熱位置よりも上流の分岐位置から分岐して流通する冷却水を用いて排気ガスを冷却するための第1熱交換器と、第1排気再循環装置内を流通する排気ガスの流量を調整するための調整装置とを含む。制御装置は、冷却水通路の出口よりも下流の予め定められた位置における冷却水の第1温度を取得するための取得部と、第1温度と第1排気再循環装置内の冷却水の温度との温度差を算出するとともに、第1温度から温度差を減算した第2温度を用いて調整装置を制御するための制御部とを含む。制御部は、エンジンの始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、エンジンが始動してからの燃料の供給量の積算値を用いてエンジンからの受熱量を示す温度差の基本値を設定する。エンジンの始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、積算値を用いて得られる基本値の上限値を基本値として設定する。
【0009】
エンジンの始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、エンジン内部の冷却水の温度と、第1排気再循環装置内の冷却水の温度との差が十分に小さくなっている。そのため、第1温度との温度差の変化は、エンジンが始動してからの、気筒への燃料の供給量の積算値の変化が大きく寄与しているため、燃料の供給量の積算値を用いて温度差の基本値を設定することによって温度差を精度高く算出することができる。一方、エンジンの始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、エンジン内部の冷却水の温度と、第1排気再循環装置内の冷却水の温度とに乖離が発生している場合がある。そのため、積算値を用いて得られる基本値の上限値を基本値として設定することによって第2温度を低い温度に見積もり、露点との比較結果による凝縮水の発生量を多く見積もることができる。これにより、調整装置の制御をより凝縮水の発生を抑制するように実施することができる。
【0010】
好ましくは、過給機は、吸気通路を流通する空気を冷却するインタークーラをさらに含む。エンジンは、吸気通路のインタークーラよりも下流側の通路と、排気通路のタービンよりも上流側の通路とを接続する第2排気再循環装置をさらに含む。制御部は、第2排気再循環装置内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさに応じた温度差の補正係数をエンジンの回転数と燃料の供給量とを用いて算出する。制御部は、基本値と補正係数とを乗算した値を温度差として算出する。
【0011】
温度差は、第2排気再循環装置内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさに影響を受ける。第2排気再循環装置内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさは、エンジンの回転数と燃料の供給量とによって変化する。そのため、エンジンの回転数と燃料の供給量とによって排気ガスのエネルギーの大きさに応じた補正係数を算出することによって温度差をより精度高く算出することができる。
【0012】
さらに好ましくは、第2排気再循環装置は、冷却水通路における受熱位置よりも上流の位置から分岐し、冷却水通路における予め定められた位置よりも上流の位置で冷却水通路に合流する経路を流通する冷却水を用いて排気ガスを冷却するための第2熱交換器と、第2熱交換器を経由しないで排気ガスを吸気通路に再循環させるバイパス通路と、第2熱交換器およびバイパス通路のうちのいずれかに排気ガスが流通するように経路を切り替える切替装置とを含む。制御部は、排気ガスが第2熱交換器を流通して吸気通路に再循環する場合には、第1の値を補正係数として設定する。制御部は、排気ガスがバイパス通路を流通して吸気通路に再循環する場合には、第1の値と異なる第2の値を補正係数として設定する。
【0013】
排気ガスが第2熱交換器を流通するか、バイパス通路を流通するかによって、第2排気再循環装置内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさの影響が異なる。そのため、排気ガスが第2熱交換器を流通して吸気通路に再循環する場合と、バイパス通路を流通して吸気通路に再循環する場合とで補正係数を異なる値にすることによって温度差を精度高く算出することができる。
【0014】
さらに好ましくは、分岐位置から分岐して第1熱交換器に冷却水を導入する経路は、電気機器を冷却する経路を有する。制御部は、電気機器で消費される電力量から温度差の補正値を算出する。
【0015】
このようにすると、エンジンから熱交換器に冷却水を導入するまでの経路上において電気機器を冷却する場合には、第1排気再循環装置の熱交換器内の冷却水の温度は、電気機器で消費される電力量の影響を受ける。そのため、電気機器で消費される電力量から算出される補正値を考慮することによって第1排気再循環装置の熱交換器内の冷却水の温度を精度高く推定することができる。
【0016】
さらに好ましくは、制御部は、冷却水が分岐位置から第1熱交換器に到達するまでの経路長さに対応した冷却水の温度変化の応答遅れの要素を温度差に付与するためのフィルタ処理を実行する。
【0017】
このようにすると、冷却水が分岐位置から第1熱交換器に到達するまでの経路長さに対応した冷却水の温度変化の応答遅れの要素が温度差に付与されるため冷却水の温度を精度高く推定することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、エンジン冷却水経路とEGR冷却水経路とが分岐している場合においてエンジン停止後の放置時間に応じてEGRクーラ内を流通する冷却水の温度を精度高く推定するエンジンの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態におけるエンジンの概略構成を示す図である。
図2】本実施の形態におけるエンジンの冷却装置の構成の一部を示す図である。
図3】本実施の形態に係るエンジンの制御装置で実行される制御処理を示すフローチャートである。
図4】基本値ΔT1と燃料噴射量Qの積算値Qvとの関係を示す図である。
図5】エンジン回転数NEに応じて設定された補正係数Caと燃料噴射量Qとの関係を示す図である。
図6】変形例におけるエンジンの冷却装置の概略構成を示す図である。
図7】変形例に係るエンジンの制御装置で実行される制御処理を示すフローチャート(その1)である。
図8】補正値Cbとモータ電力量Whとの関係を示す図である。
図9】変形例に係るエンジンの制御装置で実行される制御処理を示すフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0021】
図1は、本実施の形態におけるエンジン1の概略構成を示す図である。本実施の形態において、エンジン1は、たとえば、コモンレール式のディーゼルエンジンを一例として説明するが、その他の形式のエンジン(たとえば、ガソリンエンジン等)であってもよい。
【0022】
エンジン1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、インタークーラ26と、吸気マニホールド28と、過給機30と、排気マニホールド50と、第1排気再循環装置(以下、第1EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置と記載する)60と、第2排気再循環装置(以下、第2EGR装置と記載する)70と、制御装置200と、IGスイッチ202と、エンジン回転数センサ206とを備える。
【0023】
エンジン本体10は、複数の気筒12と、コモンレール14と、複数のインジェクタ16とを含む。本実施の形態においては、エンジン1は、直列4気筒エンジンを一例として説明するが、その他の気筒レイアウト(たとえば、V型あるいは水平型)のエンジンであってもよい。
【0024】
複数のインジェクタ16は、複数の気筒12の各々に設けられ、その各々がコモンレール14に接続されている燃料噴射装置である。燃料タンク(図示せず)に貯留された燃料は、サプライポンプ(図示せず)によって所定圧まで加圧されてコモンレール14へ供給される。コモンレール14に供給された燃料は複数のインジェクタ16の各々から所定のタイミングで噴射される。
【0025】
エアクリーナ20は、エンジン1の外部から吸入される空気から異物を除去する。エアクリーナ20には、第1吸気管22の一方端が接続される。
【0026】
第1吸気管22の他方端には、過給機30のコンプレッサ32の入口に接続される。コンプレッサ32の出口には、第2吸気管24の一方端が接続される。コンプレッサ32は、第1吸気管22から流通する空気を過給して第2吸気管24に供給する。コンプレッサ32の詳細な動作については後述する。
【0027】
第2吸気管24の他方端には、インタークーラ26の一方端が接続される。インタークーラ26は、第2吸気管24を流通する空気を冷却する空冷式あるいは水冷式の熱交換器である。
【0028】
インタークーラ26の他方端には、第3吸気管27の一方端が接続される。第3吸気管27の他方端には、吸気マニホールド28が接続される。吸気マニホールド28は、エンジン本体10の複数の気筒の各々の吸気ポートに連結される。
【0029】
エアクリーナ20の下流近傍には、第1吸気管22を流通する空気の温度Tinを検出する吸気温度センサ208が設けられる。吸気温度センサ208は、第1吸気管22を流通する空気の温度Tinを示す信号を制御装置200に送信する。なお、吸気マニホールド28の上流には、たとえば、排気マニホールド50から第1EGR装置60を経由して還流する排気ガス(以下、吸気通路に還流される排気ガスをEGRガスとも記載する)を吸気マニホールドに流通させるための吸気絞り弁が設けられていてもよい。
【0030】
排気マニホールド50は、エンジン本体10の複数の気筒12の各々の排気ポートに連結される。排気マニホールド50には、第1排気管52の一方端が接続される。第1排気管52の他方端は、過給機30のタービン36に接続される。そのため、各気筒の排気ポートから排出される排気ガスは、排気マニホールド50に集められた後、第1排気管52を経由してタービン36に供給される。
【0031】
タービン36には、第2排気管54の一方端が接続される。第2排気管54の他方端には、DPF(Diesel Particulate Filter)やNOx触媒あるいはDPNR(Diesel Particlulate-NOx Reduction)などの排気浄化装置56が接続される。排気浄化装置56には、第3排気管58の一方端が接続される。第3排気管58の他方端には、触媒などの排気ガスから特定の成分を除去する追加の排気処理装置やマフラー等が接続される。そのため、タービン36から排出された排気ガスは、第2排気管54、排気浄化装置56、第3排気管58、各種触媒およびマフラー等を経由して車外に排出される。
【0032】
第3吸気管27と排気マニホールド50とは、エンジン本体10を経由せずに第1EGR装置60によって接続される。第1EGR装置60は、第1EGRバルブ62と、第1EGRクーラ64と、第1EGR通路66と、バイパス通路68とを含む。
【0033】
第1EGR通路66の一方端は、第3吸気管27に接続される。第1EGR通路66の一方端は、吸気マニホールド28に接続されてもよい。第1EGR通路66の他方端は、排気マニホールド50に接続される。第1EGR通路66の他方端は、第1排気管52に接続されてもよい。第1EGR通路66の途中には、第1EGRバルブ62と、第1EGRクーラ64とが設けられる。さらに、第1EGR通路66には、EGRガスが第1EGRクーラ64を経由せずに第3吸気管27に流通させるためのバイパス通路68が接続される。
【0034】
第1EGRバルブ62は、制御装置200からの制御信号に応じて、第1状態と、第2状態と、第3状態とのうちのいずれか一つの状態に切り替える切替弁である。第1状態は、たとえば、第1EGRクーラ64が設けられる通路およびバイパス通路68の各々へのEGRガスの流通を遮断して第3吸気管27へのEGRガスの流通を抑制する状態である。第2状態は、たとえば、第1EGRクーラ64が設けられる通路へのEGRガスの流通を許容しつつ、バイパス通路68へのEGRガスの流通を遮断する状態である。第3状態は、バイパス通路へのEGRガスの流通を許容しつつ、第1EGRクーラ64が設けられる通路へのEGRガスの流通を遮断する状態である。
【0035】
さらに、第1EGRバルブ62は、第2状態および第3状態の各々において、制御装置200からの制御信号に応じて通路断面積(EGR開度)を変化させることによってEGRガスの流量(以下、EGRガス量と記載する)を変化させる。
【0036】
第1EGRクーラ64は、たとえば、第1EGR通路66を流通するEGRガスを冷却する冷却水を用いた水冷式の熱交換器である。第1EGRクーラ64には、エンジン1内を流通する冷却水が導入される。
【0037】
第1EGRバルブ62が第1状態である場合には、EGRガスの流通が遮断される。第1EGRバルブ62が第2状態である場合には、排気マニホールド50に集められた排気ガスの一部がEGRガスとして第1EGR通路66に導入され、第1EGRクーラ64において冷却された後に、第1EGRバルブ62によって流量が調整されて第3吸気管27に供給される。
【0038】
一方、第1EGRバルブ62が第3状態である場合には、第1EGR通路66に導入されたEGRガスは、第1EGRクーラ64を経由せずにバイパス通路68を経由して第1EGRバルブ62によって流量が調整されて第3吸気管27に供給される。なお、本実施の形態においては、説明の便宜上、第1EGRバルブ62が第1状態と第2状態との間で制御される(すなわち、排気ガスがバイパス通路68を経由しない)ものとする。
【0039】
EGRガスが第3吸気管27に供給されることで、気筒内での燃焼温度が低下するため、NOxの生成量を低減することができる。
【0040】
第1吸気管22と第3排気管58とは、エンジン本体10を経由せずに第2EGR装置70によって接続される。第2EGR装置70は、第2EGRバルブ72と、第2EGRクーラ74と、第2EGR通路76とを含む。
【0041】
第2EGR通路76の一方端は、第1吸気管22に接続される。第2EGR通路76の他方端は、第3排気管58に接続される。第2EGR通路76の他方端は、第3排気管58よりも下流の排気管に接続されてもよい。第2EGR通路76の途中には、第2EGRバルブ72と、第2EGRクーラ74とが設けられる。
【0042】
第2EGRバルブ72は、制御装置200からの制御信号に応じて、通路を遮断してEGRガスの流通を抑制する閉状態と、第2EGR通路76においてEGRガスの流通を許容する開状態とのうちのいずれか一方の状態から他方の状態へと切り替える切替弁である。さらに、第2EGRバルブ72は、開状態において、制御装置200からの制御信号に応じて通路断面積(EGR開度)を変化させることによってEGRガス量を変化させる。第2EGRクーラ74は、たとえば、第2EGR通路76を流通するEGRガスを冷却する冷却水を用いた水冷式の熱交換器である。第2EGRクーラ74には、エンジン1内を流通する冷却水が導入される。詳細な構成については後述する。
【0043】
第2EGRバルブ72が開状態である場合には、第3排気管58を流通する排気ガスの一部がEGRガスとして第2EGR通路76に導入され、第2EGRクーラ74において冷却された後に、第2EGRバルブ72によって流量が調整されて第1吸気管22に供給される。EGRガスが第1吸気管22に供給されることで、気筒内での燃焼温度が低下するため、NOxの生成量を低減することができる。一方、第2EGRバルブ72が閉状態である場合には、EGRガスの流通が遮断される。
【0044】
過給機30は、コンプレッサ32と、タービン36とを含む。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納され、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納される。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42によって連結され、一体的に回転する。そのため、コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気ガスの排気エネルギーによって回転駆動される。
【0045】
制御装置200は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファ等とを含んで構成される。制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン1が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0046】
また、制御装置200は、タイマーを内蔵しており、エンジン1の停止時間を計測する。制御装置200は、たとえば、後述するIGスイッチ202の操作によってエンジン1が停止された時点から時間計測を開始し、IGスイッチ202の操作によってエンジン1がし始動された時点に時間計測を終了して、エンジン1の放置時間を計測する。
【0047】
IGスイッチ202は、ユーザがエンジン1を始動または停止するための操作部材である。制御装置200は、たとえば、エンジン1の作動中にユーザによりIGスイッチ202が操作された場合にはエンジン1の停止処理を開始してエンジン1を停止状態にする。停止処理は、たとえば、燃料噴射を停止する処理である。また、制御装置200は、たとえば、エンジン1の停止中にユーザによりIGスイッチ202が操作された場合には、エンジン1の起動処理を開始してエンジン1を作動状態にする。起動処理は、たとえば、スタータを用いてクランクシャフト(いずれも図示せず)を回転させるクランキング処理と、クランクシャフトの回転数(エンジン回転数NE)が始動可能しきい値を超えると燃料噴射制御と点火制御とを実行する処理とを含む。
【0048】
エンジン回転数センサ206は、エンジン1のクランクシャフトの回転数をエンジン回転数NEとして検出する。エンジン回転数センサ206は、検出したエンジン回転数NEを制御装置200に送信する。
【0049】
図2は、エンジン1を冷却する冷却装置の構成の一部を示す図である。図2に示すように、冷却装置は、電動ウォータポンプ(以下、W/Pと記載する)100と、ウォータアウトレット102と、ヒータコア104と、サーモスタット弁106と、ラジエータ108と、エンジン水温センサ204とを含む。図2の破線矢印あるいは実線矢印に示される冷却水の経路は、たとえば、配管等を用いて構成される。
【0050】
エンジン1は、エンジンヘッド2と、エンジンブロック3とを含み、その各々の内部に冷却水を流通させるための冷却水通路であるウォータジャケットが形成される。ウォータジャケットは、たとえば、エンジンヘッド2およびエンジンブロック3の各々においてエンジン1の気筒の周囲部分に形成される。
【0051】
W/P100は、エンジン1の冷却水を循環させる。W/P100は、制御装置200から受ける制御信号によって駆動および停止が制御される。制御装置200は、W/P100から吐出される冷却水の吐出量を制御信号を用いて制御する。制御装置200は、たとえば、エンジン1の始動時にW/P100を作動させる。なお、W/P100は、エンジン1の動力を用いて作動する機械式のウォータポンプであってもよい。
【0052】
W/P100が吐出する冷却水は、エンジンブロック3のウォータジャケットの入口部に導入される。エンジンブロック3のウォータジャケットに導入された冷却水は、エンジンヘッド2のウォータジャケットを流通した後にエンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部からウォータアウトレット102に導入される。冷却水がエンジンブロック3のウォータジャケットの入口部からエンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部まで流通する間に、冷却水とエンジン1との間で熱交換が行なわれることにより、エンジン1が冷却される。
【0053】
エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部から流出する冷却水は、実線矢印に示されるウォータアウトレット102に流通する経路と、途中で分岐する破線矢印に示されるサーモスタット弁106に流通する経路とに分かれて流通する。
【0054】
ウォータアウトレット102には、一方端がヒータコア104に接続される配管の他方端と、一方端がラジエータ108に接続される配管の他方端とが接続される。ウォータアウトレット102からヒータコア104に流通する冷却水は、サーモスタット弁106とW/P100とを接続する配管に導入される。一方、ラジエータ108は、配管を経由してサーモスタット弁106に接続される。
【0055】
さらに、W/P100からエンジンブロック3のウォータジャケットへの経路の途中から、第1EGRクーラ64への経路と第2EGRクーラ74への経路とがそれぞれ分岐している。第1EGRクーラ64を流通する冷却水は、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部からウォータアウトレット102への経路の途中であって、かつ、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部とエンジン水温センサ204との間の位置に戻される。第2EGRクーラ74を流通する冷却水は、ウォータアウトレット102に導入される。
【0056】
エンジン水温センサ204は、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部から流出する冷却水の温度を検出し、検出された冷却水の温度を示す信号を制御装置200に送信する。
【0057】
ラジエータ108は、ラジエータ108内を流通する冷却水と外気との間で熱交換を行うことによって冷却水の熱を放熱する。ラジエータ108には、図示しない冷却ファンが設けられる。冷却ファンは、熱交換を促進してラジエータ108内の冷却水の放熱効率を向上させるための送風を行なう。
【0058】
サーモスタット弁106は、ラジエータ108から経由する配管(以下、第1配管と記載する)と、図2の破線矢印の経路で冷却水を流通する配管(以下、第2配管と記載する)との合流位置に設けられる。サーモスタット弁106は、冷却水の温度に応じて弁体が機械的に動作することによって、第1配管からW/P100への冷却水の流量と、第2配管からW/P100への冷却水の流量との配分を調整する。すなわち、サーモスタット弁106により第1配管からの冷却水と第2配管からの冷却水の混合比率が調整されて、エンジン1に流通する冷却水の温度が適温となるように保たれる。
【0059】
冷却水の温度がしきい値(たとえば、60℃〜70℃)よりも低い場合、サーモスタット弁106の弁体の位置は、第1配管からW/P100への冷却水の流通を遮断する位置になる。そのため、第1配管からW/P100への冷却水の流れが遮断され、第2配管からW/P100への冷却水の流れが許容される。
【0060】
この場合、ウォータアウトレット102からラジエータ108を経由する冷却水の流れが形成されることが抑制される。そのため、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部から流出する冷却水は、図2の破線に示すようにサーモスタット弁106に流通する経路と、ウォータアウトレット102からヒータコア104に流通する経路とに分かれて流通する。
【0061】
一方、冷却水の温度がしきい値以上になる場合、サーモスタット弁106の弁体の位置は、第2配管からW/P100への冷却水の流通量を減少させるとともに、第1配管からW/P100への冷却水の流通を許容する位置になる。
【0062】
この場合、ウォータアウトレット102からラジエータ108を経由する冷却水の流れが形成される。そのため、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部から流出する冷却水は、図2の破線に示すようにサーモスタット弁106を流通する経路と、ウォータアウトレット102からヒータコア104に流通する経路と、ラジエータ108を経由する経路とに分かれて流通する。
【0063】
なお、W/P100の作動中においては、サーモスタット弁106の開閉状態にかかわらず、冷却水がW/P100から第1EGRクーラ64を経由してエンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部とウォータアウトレット102との間に戻される経路と、冷却水がW/P100から第2EGRクーラ74を経由してウォータアウトレット102に流通する経路とが形成される。
【0064】
ヒータコア104は、たとえば、エンジン1が車両に搭載される場合には、車室内の暖房に用いられる。送風装置(図示せず)から放出される空気がヒータコア104に接触することで加熱され、その後に車室内に排出されることによって車室内の空気が温められる。
【0065】
以上のような構成を有する冷却装置において、第2EGR装置70を流通するEGRガスの温度は、第1EGR装置60内を流通するEGRガスの温度よりも低い傾向になる。そのため、第2EGRクーラ74を用いてEGRガスが冷却される場合には、EGRガスの温度が露点を下回りやすくなる。第2EGRクーラ74内を流通するEGRガスの温度が露点を下回って凝縮水が発生する場合がある。この凝縮水が排気ガスの成分との化学反応により酸性化すると、第2EGR装置70の構成部品を腐食させてしまう虞がある。そのため、第2EGR装置70において凝縮水が発生しないように、第2EGRクーラ74に流通する冷却水の温度が低くなる場合には、排気ガスの第2EGR装置内への流入を停止したり、第2EGR装置70に流入する排気ガスの流入量を減少したりすることが行なわれている。
【0066】
ところで、第2EGR装置70内に凝縮水が発生しているか否かを精度高く判定するためには、第2EGR装置70内に多数のセンサを配置すればよいが、低コストで精度良い判定を行なうためには、既存のセンサを利用して第2EGRクーラ74を流通する冷却水の温度を精度高く推定する必要がある。一般的にEGRクーラを流れる冷却水はエンジンの冷却水と共通であるため、たとえば、エンジンの冷却水の温度を測定するための既存の水温センサの測定値をそのまま第2EGRクーラ74を流通する冷却水の温度に置き換えて制御することが考えられる。
【0067】
しかしながら、たとえば、エンジン冷却水の経路とEGRクーラ冷却水の経路とがエンジンブロック3の上流で分岐している場合などは、エンジン1の始動直後におけるエンジン冷却水の温度とEGR冷却水の温度が同じであったとしても、その後のエンジン1内部の冷却水の温度上昇の態様と、第2EGRクーラ74内の冷却水の温度上昇の態様とは、必ずしも一致しない。また、短時間の放置後にエンジン1を再始動させる場合には、冷却対象物の熱容量の違いから放置中の温度の低下量に差があるため、再始動直後のエンジン冷却水の温度とEGR冷却水の温度とは既に乖離した状態になる場合がある。このように、エンジン1の冷却水の温度から第2EGRクーラ74内を流通する冷却水の温度を一義的に推定できないという問題がある。
【0068】
そこで、本実施の形態においては、制御装置200は、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、エンジン1が始動してからの燃料噴射量Qの積算値Qvを用いてエンジン1からの受熱量を示す基本値ΔT1を設定し、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、積算値Qvを用いて得られる基本値の上限値を基本値ΔT1として設定する。制御装置200は、設定された基本値ΔT1に基づいて、エンジンヘッド2のウォータジャケットの出口部よりも下流の冷却水の第1温度と第2EGRクーラ74の入口部よりも上流の冷却水の第2温度との温度差ΔTを算出する。
【0069】
このようにすると、停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、温度差ΔTを精度高く算出することができる。また停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、凝縮水の発生量を多く見積もることができる。そのため、凝縮水の発生量に応じた第2EGRバルブ72の制御を実行することによって、凝縮水の発生を抑制することができる。
【0070】
本実施の形態において、制御装置200は、さらに、第1EGR装置60内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさに応じた温度差ΔTの補正係数Caをエンジン回転数NEと燃料噴射量Qとを用いて算出する。制御装置200は、基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値を温度差ΔTとして算出する。
【0071】
以下に、温度差ΔTを算出するために考慮する事項と、具体的な算出方法について説明する。
【0072】
本実施の形態において、温度差ΔTは、エンジン水温センサ204が設けられる位置の冷却水の温度と第2EGRクーラ74の入口の冷却水の温度との温度差を示す。温度差ΔTは、エンジン1の内部からの受熱による影響分と、W/P100からエンジンブロック3のウォータジャケットの入口部への経路から分岐した位置から冷却水が第2EGRクーラ74の入口に到達するまでの経路の長さに対応した冷却水の温度変化の応答遅れ分とを考慮して設定される。
【0073】
エンジン1の内部からの受熱による影響分は、燃料噴射量Qの積算値Qvによる影響分と、第1EGR装置60におけるEGRガスエネルギーによる影響分とを含む。
【0074】
特に、燃料噴射量Qの積算値Qvと温度差ΔTとの間には、一定の相関関係がある。発明者らは実験によりエンジン1が始動してからの初期の期間(暖機が完了するまでの期間)においては、燃料噴射量Qの積算値Qvが増加するほど、温度差ΔTは増加する関係を有することを見出した。
【0075】
このような温度差ΔTと燃料噴射量Qの積算値Qvとの関係から、本実施の形態において、制御装置200は、燃料噴射量Qの積算値Qvをパラメータとして温度差ΔTの基本値ΔT1を設定するものとする。
【0076】
なお、エンジン回転数と燃料噴射量Qと温度差ΔTとは、エンジン回転数NEあるいは燃料噴射量Qが高くなるほど、EGRガスエネルギーは高くなることから、第1EGR装置60におけるEGRガスエネルギーによる影響分を考慮する必要がある。
【0077】
一般的に、EGRガスをエンジンの燃焼室へ流通させると燃焼温度が下がりエンジン冷却水がエンジンから受ける受熱量が低下する。従って、第1EGR装置60を介してEGRガスを流通させている場合は、EGRガスの流通が遮断されている場合に比較して温度差ΔTが小さくなる。また、EGRガスのエネルギーの大きさは、エンジン回転数NEと燃料噴射量Qとによって変化し、エンジン回転数NEまたは燃料噴射量Qが大きくなるとEGRガスのエネルギーは大きくなる。そして、EGRガスのエネルギーが大きい場合はEGRガスのエネルギーが小さい場合に比較して、温度差ΔTの低下割合が小さくなることがわかった。
【0078】
そのため、本実施の形態においては、このようなEGRガスエネルギーによる影響分を考慮し、制御装置200は、燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとをパラメータとして温度差ΔTの補正係数Caを設定するものとする。
【0079】
以下に、図3を参照して、本実施の形態において、制御装置200で実行される、温度差ΔTを算出する処理について説明する。
【0080】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置200は、エンジン1の始動直前におけるエンジン1のソーク条件が成立したか否かを判定する。ソーク条件は、エンジン1の放置時間についての条件であって、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間以上であるという条件である。
【0081】
制御装置200は、たとえば、IGスイッチ202が操作されてエンジン1の停止処理が実行された時点からの経過時間をタイマー等を用いて計測する。制御装置200は、IGスイッチ202が操作されてエンジン1の起動処理が実行されたときに経過時間がしきい値よりも大きいか否かを判定する。しきい値は、エンジン1が停止してから、エンジン1内の冷却水の温度と第2EGR装置70内の冷却水の温度とが同程度の温度になるまでの時間が設定され、たとえば、数時間から十数時間程度の時間である。
【0082】
S102にて、制御装置200は、燃料噴射量Qの積算値Qvを取得する。制御装置200は、燃料噴射が行なわれる毎に燃料噴射量Qを取得する。制御装置200は、たとえば、エンジン1の状態に基づいて決定される燃料噴射時間を換算して燃料噴射量Qを取得する。制御装置200は、前回までの積算値に取得した燃料噴射量Qを加算することによって今回の燃料噴射量Qの積算値Qvを算出する。
【0083】
S104にて、制御装置200は、取得された燃料噴射量Qの積算値Qvに基づいて温度差ΔTの基本値ΔT1を算出する。たとえば、燃料噴射量の積算値Qvと温度差ΔTとの関係からマップを予め作成しておき、制御装置200のメモリに記憶しておく。制御装置200は、作成されたマップと燃料噴射量Qの積算値Qvとから温度差ΔTの基本値ΔT1を算出する。
【0084】
図4に、燃料噴射量Qの積算値Qvから温度差ΔTの基本値ΔT1を決定するためのマップの一例を示す。図4の横軸は、燃料噴射量Qの積算値Qvを示す。図4の縦軸は、温度差ΔTの基本値ΔT1を示す。
【0085】
図4に示すマップは、燃料噴射量Qの積算値Qvが大きくなるほど、温度差ΔTの基本値ΔT1が大きくなるように設定される。さらに、図4に示すマップは、燃料噴射量Qの積算値Qvが大きくなるほど基本値ΔT1が収束値ΔT1maxに収束するように設定される。
【0086】
制御装置200は、たとえば、燃料噴射量Qの積算値Qvの値がQv(0)である場合には、図4に示すマップから温度差ΔTの基本値ΔT1としてΔT1(0)を設定する。
【0087】
図3に戻って、エンジン1のソーク条件が成立していないと判定する場合(S100にてNO)、S106にて、制御装置200は、予め定められた値を温度差ΔTの基本値ΔT1として設定する。予め定められた値として、たとえば、積算値Qvを用いて得られる基本値ΔT1の上限値が設定される。すなわち、予め定められた値として、たとえば、収束値ΔT1maxが設定される。
【0088】
S108にて、制御装置200は、燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとを取得する。制御装置200は、エンジン回転数センサ206からエンジン回転数NEを取得する。燃料噴射量Qの取得方法については上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0089】
S110にて、制御装置200は、取得された燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとに基づいて温度差ΔTの補正係数Caを算出する。制御装置200は、たとえば、上述したような燃料噴射量Qとエンジン回転数NEと温度差ΔT1との関係からマップを予め作成しておき、制御装置200のメモリに記憶しておく。制御装置200は、作成されたマップと燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとから温度差ΔTの補正係数Caを算出する。
【0090】
図5に、燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとから補正係数Caを決定するためのマップの一例を示す。図5の横軸は、燃料噴射量Qを示す。図5の縦軸は、補正係数Caを示す。
【0091】
図5に示すマップは、エンジン回転数NEが第1回転数である場合の燃料噴射量Qと補正係数Caとの関係と、エンジン回転数NEが第1回転数よりも大きい第2回転数である場合の燃料噴射量Qと補正係数Caとの関係と、エンジン回転数NEが第2回転数よりも大きい第3回転数である場合の燃料噴射量Qと補正係数Caとの関係を示す。
【0092】
図5に示すマップは、各エンジン回転数NEにおいて、燃料噴射量Qが大きくなるほど補正係数Caが大きくなるように設定される。さらに、図5に示すマップは、エンジン回転数NEが低い場合、エンジン回転数NEが高い場合と比較して、燃料噴射量Qが小さい領域において補正係数Caが小さくなるように設定され、燃料噴射量Qが大きい領域において異なるエンジン回転数NE間での補正係数Caが差が小さくなるように設定される。
【0093】
制御装置200は、たとえば、取得したエンジン回転数NEと、燃料噴射量Qとに対応した補正係数Caを図5のマップから線形補間等を用いて算出する。
【0094】
S112にて、制御装置200は、算出された基本値ΔT1と、補正係数Caとを乗算して温度差ΔTを算出する。
【0095】
S114にて、制御装置200は、S112にて算出された今回の温度差ΔT1に対してフィルタ処理を実行する。フィルタ処理は、冷却水が、W/P100とエンジンブロック3との間の経路から分岐する分岐位置から第2EGRクーラ74に到達するまでの経路長さに対応した冷却水の温度変化の応答遅れの要素を温度差ΔTに付与するための処理である。具体的には、フィルタ処理は、今回の温度差ΔT1が前回の温度差ΔTからの変化が緩やかになるようにする補正する処理である。フィルタ処理としては、たとえば、なまし処理、一次遅れ処理、二次遅れ処理あるいはn次遅れ処理などを含む。
【0096】
たとえば、フィルタ処理としてなまし処理を実行する場合、制御装置200は、たとえば、前回算出された温度差ΔTと、今回算出された温度差ΔTとの差分を算出する。制御装置200は、今回算出された温度差ΔTが前回算出された温度差ΔTよりも所定値以上小さくなる場合になまし処理を実行する。すなわち、制御装置200は、前回算出された温度差ΔTからの下げ幅が所定値よりも大きい場合には、前回算出された温度差ΔTから所定値を減算した値が今回の温度差ΔTとして設定される。一方、制御装置200は、前回算出された温度差ΔTからの下げ幅が所定値以下である場合には、S112にて算出された基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値が今回の温度差ΔTとして設定される。
【0097】
なお、制御装置200は、基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値が前回算出された温度差ΔTよりも大きくなる場合には、なまし処理を実行しない。
【0098】
以上のような構造およびフローチャートに基づく制御装置200の動作について説明する。以下の説明は、たとえば、エンジン1が停止後予め定められた時間以上放置された後に、ユーザのIGスイッチ202への操作によってエンジン1が始動された場合であって、かつ、サーモスタット弁106が閉弁状態(すなわち、ラジエータ108を経由した冷却水がW/P100に流通しない状態)である場合を想定する。
【0099】
エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間以上である場合にはソーク条件が成立していると判定されるため(S100にてYES)、燃料噴射量Qの積算値Qvが取得され(S102)、取得された積算値Qvと図6に示すマップとを用いて温度差ΔTの基本値ΔT1が算出される(S104)。
【0100】
なお、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間以上でない場合にはソーク条件が成立していないと判定されるため(S100にてNO)、この場合には、予め定められた値ΔT1maxが温度差ΔTの基本値ΔT1として設定される(S106)。
【0101】
そして、エンジン回転数NEと、燃料噴射量Qとが取得され(S108)、取得されたエンジン回転数NEと燃料噴射量Qと図5に示すマップとに基づいて補正係数Caが算出される(S110)。算出された基本値ΔT1と補正係数Caとが乗算されることによって温度差ΔTが算出され(S112)、算出された温度差ΔTにフィルタ処理が実行されることによって、今回の温度差ΔTが算出される(S114)。
【0102】
制御装置200は、エンジン水温センサ204によって検出されるエンジン1の冷却水の温度から算出された温度差ΔTを減算することによって第2EGRクーラ74の入口における冷却水の温度を算出する。制御装置200は、算出された冷却水の温度までEGRガスが低下していると仮定して、冷却水の温度が露点よりも高いか否かを判定する。制御装置200は、冷却水の温度が露点よりも低い場合には、たとえば、第2EGRバルブ72を閉状態あるいは開度を小さくすることによってEGRガスの流通量を減らすことによって第2EGR装置70内での凝縮水の発生を抑制する。
【0103】
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンの制御装置によると、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間以上である場合には、エンジン1の冷却水の温度と、第2EGR装置70内の冷却水の温度との差が十分に小さくなっている。そのため、エンジン1の冷却水の温度との温度差の変化は、エンジン1が始動してからの、気筒への燃料の供給量の積算値の変化が大きく寄与しているため、燃料噴射量Qの積算値Qvを用いて温度差ΔTの基本値ΔT1を設定することによって温度差ΔTを精度高く算出することができる。一方、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、エンジン内部の冷却水の温度と、第2EGR装置70内の冷却水の温度とに乖離が発生している場合がある。そのため、エンジン1の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、燃料噴射量Qの積算値Qvを用いて得られる基本値ΔT1の上限値(すなわち、収束値ΔT1max)が基本値ΔT1として設定されることによって第2EGR装置70の入口の冷却水の温度を低い温度に見積もり、露点との比較結果による凝縮水の発生量を多く見積もることができる。これにより、第2EGRバルブ72の制御をより凝縮水の発生を抑制するように実施することができる。したがって、エンジン冷却水経路とEGR冷却水経路とが分岐している場合においてエンジン停止後の放置時間に応じてEGRクーラ内を流通する冷却水の温度を精度高く推定するエンジンの制御装置を提供することができる。
【0104】
さらに、温度差ΔTは、第1EGR装置60を流通するエネルギーの大きさに影響を受ける。このエネルギーの大きさは、エンジン回転数NEと燃料噴射量Qとによって変化する。そのため、エンジン回転数NEと燃料噴射量Qとによって排気ガスのエネルギーの大きさに応じた補正係数Caを算出することによって温度差ΔTをさらに精度高く算出することができる。
【0105】
さらに、冷却水が分岐位置から第2EGRクーラ74に到達するまでの経路長さに対応した冷却水の温度変化の応答遅れの要素がフィルタ処理によって温度差に付与されることにより、冷却水の温度を精度高く推定することができる。
【0106】
以下、変形例について説明する。
上述した実施の形態においては、第2EGRクーラ74への冷却水の経路がW/P100とエンジン1に流通する経路から分岐する分岐位置が、エンジンブロック3の内部に設けられる冷却水通路の入口部よりも上流の位置であるものとして説明したが、分岐位置は、冷却水通路におけるエンジン1から受熱する受熱位置よりも上流の位置であればよく、特に入口部よりも上流の位置に限定されるものではなく、入口部よりも下流の位置であってもよい。
【0107】
上述した実施の形態においては、第1EGRクーラ64への冷却水の経路がW/P100とエンジン1に流通する経路から分岐する分岐位置が、第2EGRクーラ74への冷却水の経路の分岐位置と同じ位置であるものとして説明したが、第1EGRクーラ64への冷却水の経路の分岐位置は、エンジンブロック3の内部に設けられる冷却水通路におけるエンジン1から受熱する受熱位置よりも上流の位置であればよく、第2EGRクーラ74への冷却水の経路の分岐位置と異なる位置であってもよい。
【0108】
上述した実施の形態においては、第1EGRバルブ62が第1状態と第2状態との間で制御される(EGRガスがバイパス通路68を経由しない)ものとし、燃料噴射量Qとエンジン回転数NEと図5に示すマップとに基づいて補正係数Caを算出するものとして説明したが、制御装置200は、排気ガスが第1EGRクーラ64を流通して第3吸気管27に再循環する場合には、第1の値を補正係数Caとして設定し、排気ガスがバイパス通路68を流通して第3吸気管27に再循環する場合には、第1の値と異なる第2の値を補正係数Caとして設定するようにしてもよい。排気ガスが第1EGRクーラ64を通過する場合、第1EGRクーラを流通する冷却水が排気ガスからの熱を受けるので、エンジン水温センサ204によって検出されるエンジン1の冷却水の温度と第2EGRクーラ74の入口の冷却水の温度との温度差ΔTは、排気ガスがバイパス通路68を通過する場合よりも大きくなる。従って、温度差ΔTを補正する補正係数は、第1の値を基本値ΔT1に乗算した値が第2の値を基本値ΔT1に乗算した値よりも大きくなるように設定される。
【0109】
たとえば、第1EGRバルブ62が第3状態である場合に対応した燃料噴射量Qとエンジン回転数NEと補正係数Caとの関係を示す、図5に示すマップとは異なるマップを予め設定しておき、制御装置200が、第1EGRバルブ62の状態に応じて対応したマップを選択して燃料噴射量Qとエンジン回転数NEとに基づいて補正係数Caを設定してもよい。
【0110】
排気ガスが第1EGRクーラ64を流通するか、バイパス通路68を流通するかによって、第1EGR装置60内を流通する排気ガスのエネルギーの大きさの影響が異なる。そのため、排気ガスが第1EGRクーラ64を流通して第3吸気管27に再循環する場合と、バイパス通路68を流通して第3吸気管27に再循環する場合とで補正係数Caを異なる値にすることによって温度差を精度高く算出することができる。
【0111】
上述した実施の形態においては、分岐位置から第2EGRクーラ74に冷却水を流通する配管には、他の発熱体が設けられない場合を前提として説明したが、当該配管を用いた冷却水の経路として第2EGRクーラ74よりも上流に他の発熱体である電気機器を冷却する経路が含まれる場合でも温度差ΔT1算出は可能である。
【0112】
この場合、制御装置200は、たとえば、電気機器で消費される電力量Whから温度差ΔTの補正値Cbを算出し、基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値に補正値Cbを加算した値を温度差ΔTとして算出する。
【0113】
以下に、エンジン1が車両に搭載される場合であって、かつ、電気機器が車両を駆動するための駆動用モータである場合を一例として温度差ΔTの算出方法の変形例について図6〜8を用いて説明する。
【0114】
図6は、変形例におけるエンジン1の冷却装置の構成の一部を示す図である。なお、図6に示す冷却装置の構成は、図2に示す冷却装置の構成と比較してエンジンブロック3と第2EGRクーラ74とを接続する配管にモータ110を冷却するための経路が設定される点が異なる。そのため、同じ構成部品については同じ参照符号が付与されており、それらの詳細な説明については繰り返さない。
【0115】
モータ110は、駆動用モータであって、制御装置200からの制御信号に基づいて駆動するインバータ等の駆動回路(図示せず)から電力が供給されることによって作動する。モータ110の筐体には、ウォータジャケットが形成されており、このウォータジャケットによってモータ110を冷却するための経路が設定される。エンジンブロック3から供給される冷却水は、モータ110のウォータジャケットを流通した後、第2EGRクーラ74に流通する。
【0116】
以上のような構成を有する冷却装置において、制御装置200は、モータ110における発熱量の影響を考慮した補正値Cbを用いて基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値を補正する。具体的には、制御装置200は、モータ110で消費される電力量Whから温度差ΔTの補正値Cbを算出し、基本値ΔT1に補正係数Caを乗算した値に補正値Cbを加算して今回の温度差ΔTを算出する。
【0117】
以下に、図7を参照して、本変形例において、制御装置200で実行される、補正値Cbを用いて温度差ΔTを算出する処理について説明する。なお、図7のフローチャートの処理において、図3を用いて説明したフローチャートの処理と同じ処理については同じステップ番号を付与している。そのため、図3のフローチャートと同じ処理について詳細な説明を繰り返さない。
【0118】
S200にて、制御装置200は、モータ110で消費される電力量Whから補正値Cbを算出する。制御装置200は、たとえば、モータ110に供給される電流や電圧等を用いてモータ110で消費される電力量Whを取得する。そして、たとえば、モータ110で消費される電力量Whと温度差ΔTの補正値Cbとの関係を考慮したマップを予め作成しておき、制御装置200のメモリに記憶しておく。制御装置200は、作成されたマップと、取得したモータ110で消費される電力量Whとから温度差ΔTの補正値Cbを算出する。
【0119】
図8は、モータ110で消費される電力量Whから温度差ΔTの補正値Cbを決定するためのマップの一例を示す図である。図8の横軸は、モータ110で消費される電力量Whを示す。図8の縦軸は、補正値Cbを示す。
【0120】
図8に示すマップは、モータ110で消費される電力量Whが大きくなるほど温度差ΔTの補正値Cbが大きくなるように設定される。さらに、図8に示すマップは、モータ110で消費される電力量Whと温度差ΔTの補正値Cbとが比例関係になるように設定される。
【0121】
以上のような構造およびフローチャートに基づいて制御装置200の動作について説明する。なお、エンジン1が始動した後、温度差ΔTの基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算するまでの動作については、上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0122】
制御装置200は、モータ110で消費される電力量Whを取得し、取得されたモータ110で消費される電力量Whから補正値Cbを算出する(S200)。算出された補正値Cbが基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値に加算されて温度差ΔTが算出される(S202)。算出された温度差ΔTに対してフィルタ処理が実行されて、今回の温度差ΔTが算出される(S114)。
【0123】
このようにすると、エンジン1と第2EGRクーラ74とを接続する配管にモータ110を冷却するための経路が設けられる場合には、モータ110で消費される電力量Whから算出される補正値Cbを考慮することによって第2EGRクーラ74の入口の冷却水の温度を精度高く判定することができる。そのため、凝縮水の発生をより確実に抑制することができる。なお、電気機器としては、上述したようなモータ110に限定されるものではなく、たとえば、インバータやコンバータ等の発熱素子を含む電気機器であってもよい。
【0124】
上述した実施の形態においては、第1EGRクーラ64が設けられることを前提とし、補正係数Caの算出、および、フィルタ処理の実施を行なうことを前提として説明したが、第1EGR装置60およびこれらの動作を省略した構成であってもよい。
【0125】
以下に、図9を参照して、本変形例において、制御装置200で実行される、上述の構成を省略して温度差ΔTを算出する処理について説明する。なお、図9のフローチャートの処理において、図3を用いて説明したフローチャートの処理と同じ処理については同じステップ番号を付与している。そのため、図3のフローチャートと同じ処理について詳細な説明を繰り返さない。
【0126】
S102の処理の後のS300にて、制御装置200は、燃料噴射量Qの積算値Qvと図4に示すマップとに基づいて設定される基本値ΔT1を温度差ΔTとして設定する。エンジン1のソーク条件が成立しない場合(S100にてNO)、制御装置200は、S302にて、予め定められた値(たとえば、収束値ΔT1max)を温度差ΔTとして算出する。
【0127】
このようにしても、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも短い場合には、温度差ΔTを精度高く算出できるとともに、エンジン1の始動直前の停止時間が予め定められた時間よりも長い場合には、凝縮水の発生量を多く見積もることで、第2EGRバルブ72の制御をより凝縮水の発生を抑制するように実施することができる。
【0128】
上述した実施の形態において、第1EGR装置60と比較して、比較的圧力の低い排気ガスを吸気通路に再循環させる第2EGR装置70の第2EGRクーラ74の入口の冷却水の温度を推定するものとして説明したが、たとえば、第1EGR装置60の第1EGRクーラ64の入口の冷却水の温度を推定してもよい。
【0129】
上述した実施の形態において、第1EGR装置60の第1EGRクーラ64に対してエンジン1の冷却水が常時供給されるものとして説明したが、第1EGRクーラ64に対する冷却水の供給の有無を選択することが可能な場合には、第1EGRクーラ64に対して冷却水が供給される場合と、第1EGRクーラ64に冷却水が供給されない場合とで、燃料噴射量Qの積算値Qvから温度差ΔTの基本値ΔT1を決定するマップとして異なるマップを設定してもよい。このようにすると、基本値ΔT1の推定精度を高くすることができる。たとえば、第1EGRクーラ64に冷却水が流通しない場合には、第1EGRクーラ64に冷却水が流通する場合よりも温度差ΔTの基本値ΔT1が所定量だけ小さくなるように設定してもよい。
【0130】
上述した実施の形態において、温度差ΔTの算出に環境補正係数を考慮せずに説明したが、環境補正係数を考慮して温度差ΔTを算出してもよい。環境補正係数は、たとえば、基本値ΔT1と補正係数Caとを乗算した値および補正値Cbの各々を補正するための補正係数であって、外気温、気圧およびエンジン水温センサ204を用いて検出される冷却水の温度等をパラメータとして設定される補正係数である。たとえば、環境補正係数と、外気温と気圧と冷却水の水温との関係を示すマップを予め作成しておき、制御装置200のメモリに記憶しておく。制御装置200は、作成されたマップと、外気温と大気圧と冷却水の水温とから環境補正係数を算出する。
【0131】
上述した実施の形態において、複数のインジェクタ16が気筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射装置である場合を一例として説明したが、たとえば、エンジン1がガソリンエンジン等である場合に、複数のインジェクタ16は、吸気通路内に燃料を噴射することにより気筒内に燃料を供給する燃料噴射装置であってもよい。
【0132】
上述した実施の形態において、エンジン1の停止時間を計測して、ソーク条件が成立するか否かを判定するものとして説明したが、たとえば、放置時間の計測に代えてIGスイッチ202の操作に基づくエンジン1の停止時における吸気温度とIGスイッチ202の操作に基づくエンジン1の起動時における吸気温度との差がしきい値以上である場合にソーク条件が成立したと判定するようにしてもよい。あるいは、IGスイッチ202の操作に基づくエンジン1の停止時におけるエンジン水温センサ204によって検出される冷却水の温度と、IGスイッチ202の操作に基づくエンジン1の起動時における冷却水の温度との差がしきい値以上である場合にソーク条件が成立したと判定するようにしてもよい。
【0133】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0134】
1 エンジン、2 エンジンヘッド、3 エンジンブロック、10 エンジン本体、12 気筒、14 コモンレール、16 インジェクタ、20 エアクリーナ、22,24,27 吸気管、26 インタークーラ、28 吸気マニホールド、30 過給機、32 コンプレッサ、34 コンプレッサホイール、36 タービン、38 タービンホイール、42 連結軸、50 排気マニホールド、52,54,58 排気管、60,70 EGR装置、62,72 EGRバルブ、64,74 EGRクーラ、66,76 EGR通路、68 バイパス通路、102 ウォータアウトレット、104 ヒータコア、106 サーモスタット弁、108 ラジエータ、110 モータ、200 制御装置、202 IGスイッチ、204 エンジン水温センサ、206 エンジン回転数センサ、208 吸気温度センサ。
【要約】
【課題】エンジン冷却水経路とEGR冷却水経路とが分岐している場合においてエンジン停止後の放置時間に応じてEGRクーラ内を流通する冷却水の温度を精度高く推定する。
【解決手段】制御装置は、エンジンのソーク条件が成立すると判定される場合(S100にてYES)、燃料噴射量Qの積算値Qvを取得するステップ(S102)と、取得された積算値Qvから基本値ΔT1を算出するステップ(S104)と、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量Qを取得するステップ(S106)と、補正係数Caを算出するステップ(S110)と、基本値ΔT1に補正係数Caを乗算して温度差ΔTを算出するステップ(S112)と、算出された温度差ΔTにフィルタ処理を実行するステップ(S114)とを含む、制御処理を実行する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9