特許第6245394号(P6245394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6245394
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】軟磁性合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171204BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20171204BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C22C38/00 303S
   H01F1/153 108
   !C22C45/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-35387(P2017-35387)
(22)【出願日】2017年2月27日
【審査請求日】2017年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
(72)【発明者】
【氏名】堀野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 暁斗
(72)【発明者】
【氏名】米澤 祐
(72)【発明者】
【氏名】後藤 将太
(72)【発明者】
【氏名】天野 一
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6160759(JP,B1)
【文献】 特許第6160760(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とし、Cを含有する軟磁性合金であって、
前記軟磁性合金の組成FeCuSiにおいてa+b+c+d+e+f=100、0.1≦b≦3.0、1.0≦c≦10.0、0.0≦d≦17.5、6.0≦e≦13.0、0.1≦f≦4.0であり、MがNb,Ti,Zr,Hf,V,Ta,Mo,Pからなる群から選択される1種以上であり、
前記軟磁性合金の連続した測定範囲における1nm×1nm×1nmの80000個のグリッドのFe量に関し、前記軟磁性合金の平均組成よりも多い領域が繋がっているFe組成ネットワーク相からなり、
Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおけるC量の平均値が、軟磁性合金全体の平均のC量の5.0倍以上である軟磁性合金。
【請求項2】
記Fe量が平均未満であるグリッドについて前記C量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおける平均のM量が、軟磁性合金全体の平均のM量の1.2倍以上である請求項に記載の軟磁性合金。
【請求項3】
Feを主成分とし、Cを含有する軟磁性合金であって、
前記軟磁性合金の組成FeαβγΩにおいてα+β+γ+Ω=100、1.0≦β≦14.1、2.0≦γ≦20.0、0.0<Ω≦4.0であり、MがNb,Cu,Zr,Hfからなる群から選択される1種以上であり、
前記軟磁性合金の連続した測定範囲における1nm×1nm×1nmの80000個のグリッドのFe量に関し、前記軟磁性合金の平均組成よりも多い領域が繋がっているFe組成ネットワーク相からなり、
Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおけるC量の平均値が、軟磁性合金全体の平均のC量の5.0倍以上である軟磁性合金。
【請求項4】
前記Fe量が平均未満であるグリッドについて前記C量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおける平均のM量が、軟磁性合金全体の平均のM量の1.2倍以上である請求項3に記載の軟磁性合金。
【請求項5】
前記軟磁性合金全体の平均のC量が3原子%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性合金。
【請求項6】
記Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおける平均のB量が、軟磁性合金全体の平均のB量の1.2倍以上である請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・情報・通信機器等において低消費電力化および高効率化が求められている。さらに、低炭素化社会へ向け、上記の要求が一層強くなっている。そのため、電子・情報・通信機器等の電源回路にも、エネルギー損失の低減や電源効率の向上が求められている。そして、電源回路に使用させる磁器素子の磁心には透磁率の向上およびコアロス(磁心損失)の低減が求められている。コアロスを低減すれば、電力エネルギーのロスが小さくなり、高効率化および省エネルギー化が図られる。
【0003】
特許文献1には、粉末の粒子形状を変化させることにより、透磁率が大きく、コアロスが小さく、磁心に適した軟磁性合金粉末を得たことが記載されている。しかし、現在ではさらに透磁率が大きく、コアロスが小さい磁心が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−30924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁心のコアロスを低減する方法として、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することが考えられる。
【0006】
本発明の目的は、保磁力が低く、かつ、製造安定性が高い軟磁性合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る軟磁性合金は、
Feを主成分とし、Cを含有する軟磁性合金であって、
前記軟磁性合金の連続した測定範囲における1nm×1nm×1nmの80000個のグリッドのFe量に関し、前記軟磁性合金の平均組成よりも多い領域が繋がっているFe組成ネットワーク相からなり、
Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおけるC量の平均値が、軟磁性合金全体の平均のC量の5.0倍以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る軟磁性合金は、上記のFe組成ネットワーク相を有し、Fe量の小さいグリッドにおけるC量の分布を上記の通りとすることで、保磁力が低く、かつ、製造安定性が高くなる。
【0009】
本発明に係る軟磁性合金は、前記軟磁性合金全体の平均のC量が3原子%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る軟磁性合金は、
さらにBを含有し、
前記Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおける平均のB量が、軟磁性合金全体の平均のB量の1.2倍以上であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る軟磁性合金は、
さらにMを含有し、
前記Mが遷移金属元素であり、
前記Fe量が平均未満であるグリッドについて前記C量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおける平均のM量が、軟磁性合金全体の平均のM量の1.2倍以上であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における軟磁性合金のFe濃度分布を三次元アトムプローブで観察した写真である。
図2】本発明の一実施形態における軟磁性合金が有するネットワーク構造モデルの写真である。
図3】極大点を探索する工程の模式図である。
図4】極大点を全て結ぶ線分を生成した状態の模式図である。
図5】Fe含有量が平均値を超える領域と平均値以下の領域とに区分した状態の模式図である。
図6】Fe含有量が平均値以下の領域を通過する線分を削除した状態の模式図である。
図7】三角形内部にFe含有量が平均値以下の部分がない場合に、三角形を形成する線分のうち最も長い線分を削除した状態の模式図である。
図8】単ロール法の模式図である。
図9】炭素濃度と累計頻度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る軟磁性合金は、Feを主成分とする軟磁性合金である。「Feを主成分とする」とは、具体的には、軟磁性合金全体に占めるFeの含有量が65原子%以上である軟磁性合金を指す。
【0015】
本実施形態に係る軟磁性合金の組成は、Feを主成分とする点以外には特に制限はない。Fe−Si−M−B−Cu−C系の軟磁性合金、および、Fe−M−B−C系の軟磁性合金が例示されるが、その他の軟磁性合金でもよい。
【0016】
なお、以下の記載では、軟磁性合金の各元素の含有率について、特に母数の記載が無い場合は、軟磁性合金全体を100原子%とする。
【0017】
Fe−Si−M−B−Cu−C系の軟磁性合金を用いる場合には、Fe−Si−M−B−Cu−C系の軟磁性合金の組成をFeCuSiと表す場合に、以下の式を満たすことが好ましい。以下の式を満たすことにより、Fe組成ネットワーク相を得ることが容易になる傾向にある。さらに、保磁力が低い軟磁性合金を得ることが容易になる傾向にある。なお、下記組成からなる軟磁性合金は原材料が比較的安価となる。
【0018】
a+b+c+d+e+f=100
0.1≦b≦3.0
1.0≦c≦10.0
0.0≦d≦17.5
6.0≦e≦13.0
0.0≦f≦4.0
【0019】
Cuの含有量(b)は、0.1〜3.0原子%であることが好ましく、0.5〜1.5原子%であることがより好ましい。また、Cuの含有量が少ないほど、後述する単ロール法により軟磁性合金からなる薄帯を作製し易くなる傾向にある。Cuを上記の範囲内で添加することで保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。
【0020】
Mは遷移金属元素またはPである。好ましくは遷移金属元素であり、さらに好ましくはNb,Ti,Zr,Hf,V,Ta,Moからなる群から選択される1種以上である。また、MとしてNbを含有することがさらに好ましい。
【0021】
Mの含有量(c)は、1.0〜10.0原子%であることが好ましく、3.0〜5.0原子%であることがより好ましい。Mを上記の範囲内で添加することで保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。
【0022】
Siの含有量(d)は、0.0〜17.5原子%であることが好ましい。M=Pの場合には、0.0〜8.0原子%が好ましく、Mが遷移金属元素である場合には、11.5〜17.5原子%が好ましい。Siを上記の範囲内で添加することで保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。
【0023】
Bの含有量(e)は、6.0〜13.0原子%であることが好ましく、9.0〜11.0原子%であることがより好ましい。Bを上記の範囲内で添加することで保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。
【0024】
Cの含有量(f)は、0.1〜4.0原子%であることが好ましい。Cを上記の範囲内で添加することで保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。
【0025】
なお、Feは、いわば本実施形態にかかるFe−Si−M−B−Cu−C系の軟磁性合金の残部である。
【0026】
また、Fe−M−B−C系の軟磁性合金を用いる場合には、Fe−M−B−C系の軟磁性合金の組成をFeαβγΩと表す場合に、以下の式を満たすことが好ましい。以下の式を満たすことにより、Fe組成ネットワーク相を得ることが容易になる傾向にある。さらに、保磁力が低い軟磁性合金を得ることが容易になる傾向にある。なお、下記組成からなる軟磁性合金は原材料が比較的安価となる。
【0027】
α+β+γ+Ω=100
1.0≦β≦14.1
2.0≦γ≦20.0
0.0<Ω≦4.0
【0028】
Mは遷移金属元素である。好ましくは、Nb,Cu,Zr,Hfからなる群から選択される1種以上である。また、MとしてNb,Zr,Hfからなる群から選択される1種以上を含有することがさらに好ましい。
【0029】
Mの含有量(β)は、1.0〜14.1原子%であることが好ましく、5.0〜8.1原子%であることがさらに好ましい。
【0030】
また、Mに含まれるCuの含有量は、軟磁性合金全体を100原子%として0.0〜2.0原子%であることが好ましく、0.1〜1.0原子%であることがさらに好ましい。ただし、Mの含有量が7.0原子%未満の場合には、Cuを含まない方が好ましい場合もある。
【0031】
Bの含有量(γ)は、2.0〜20.0原子%であることが好ましい。また、MとしてNbを含む場合には4.5〜18.0原子%であることが好ましく、MとしてZrおよび/またはHfを含む場合には2.0〜8.0原子%であることが好ましい。Bの含有量が小さいほど非晶質性が低下する傾向にある。そして、Bの含有量が所定の範囲内であることにより、保磁力を低下させ、製造安定性を高めることができる。
【0032】
Cの含有量(Ω)は、0.1〜5.0原子%であることが好ましく、0.1〜3.0原子%であることが好ましく、0.5〜1.0原子%であることがさらに好ましい。Cを添加することにより非晶質性が向上する傾向にある。そして、Cの含有量が所定の範囲内であることにより、保磁力を低下させ、製造安定性を高めることができる。
【0033】
ここで、本実施形態に係る軟磁性合金が有するFe組成ネットワーク相について説明する。
【0034】
Fe組成ネットワーク相とは、軟磁性合金の平均組成よりもFeの含有量が高い相のことである。本実施形態に係る軟磁性合金のFe濃度分布を3次元アトムプローブ(以下、3DAPと表記する場合がある)を用いて厚み5nmで観察すると図1のようにFe含有量が高い部分がネットワーク状に分布している状態が観察できる。当該分布を三次元化した模式図が図2である。
【0035】
従来のFe含有軟磁性合金は複数のFe含有量が高い部分がそれぞれ球体形状または略球体形状をなし、Fe含有量が低い部分を介してバラバラに存在していた。本実施形態に係る軟磁性合金は、図2のようにFe含有量が高い部分がネットワーク状に繋がって分布していることに特徴がある。
【0036】
以下、本実施形態におけるFe組成ネットワーク相の解析手法およびFeネットワーク相の有無の判断基準について説明する。
【0037】
まず、各辺の長さが50nm×40nm×40nmの直方体を測定範囲とし、当該直方体を1辺の長さが1nmの立方体形状のグリッドごとに分割する。すなわち、一つの測定範囲にグリッドが50×40×40=80000個存在する。なお、本実施形態に係る測定範囲については、測定範囲の形状には特に制限はなく、最終的に存在する80000個のグリッドが連続して存在していればよい。
【0038】
次に、各グリッドに含まれるFe含有量を評価する。そして、全てのグリッドにおけるFe含有量の平均値を算出する。当該Fe含有量の平均値は、各軟磁性合金の平均組成から算出される値と実質的に同等な値となる。
【0039】
次に、Fe含有量が閾値を超えるグリッドであり、全ての隣接グリッドよりもFe含有量が高いグリッドを極大点とする。図3には極大点を探索する工程を示すモデルを示す。各グリッド10の内部に記載した数字が各グリッドに含まれるFe含有量を表す。隣接する全ての隣接グリッド10bのFe含有量以上のFe含有量であるグリッドを極大点10aとする。
【0040】
また、図3には、1個の極大点10aに対して8個の隣接グリッド10bが記載されているが、実際には、図3の極大点10aの手前および奥にも隣接グリッド10bが9個ずつ存在する。すなわち、1つの極大点10aに対して隣接グリッド10bが26個存在する。
【0041】
また、測定範囲の端部に位置するグリッド10については、測定範囲の外側についてFe含有量0のグリッドが存在するとみなす。
【0042】
次に、図4に示すように、測定範囲に含まれる全極大点10a間を結ぶ線分を生成する。線分を結ぶ際には、各グリッドの中心と中心とを結ぶ。なお、図4図7においては、説明の便宜上、極大点10aを丸印で表記する。丸印の内部に記載された数字はFe含有量である。
【0043】
次に、図5に示すように、閾値よりも高いFe含有量である領域(=Fe組成ネットワーク相)20aおよび閾値以下のFe含有量である領域20bを区分けする。そして、図6に示すように、領域20bを通過する線分を削除する。
【0044】
次に、図7に示すように、線分が三角形を構成する部分であって当該三角形の内側に領域20bがない場合には、当該三角形を構成する三本の線分のうち、最も長い線分を一本削除する。最後に、極大点同士が隣接するグリッドにある場合について、その極大点同士を結ぶ線分を削除する。
【0045】
そして、各極大点10aから伸びる線分の数を各極大点10aの配位数とする。例えば、図7の場合には、Fe含有量が50である極大点10a1は配位数4、Fe含有量が41である極大点10a2は配位数2となる。
【0046】
また、50nm×40nm×40nmの測定範囲内の最表面に存在するグリッドが極大点を示す場合、当該極大点は、後述する配位数が特定の範囲内である極大点の割合の計算から除外する。
【0047】
なお、配位数が0の極大点、および、配位数が0の極大点の周囲に存在している閾値よりも高いFe含有量である領域もFe組成ネットワーク相に含まれるとする。
【0048】
以上に示す測定は、それぞれ異なる測定範囲で数回行うことで、算出される結果の精度を十分に高いものとすることができる。好ましくは、それぞれ異なる測定範囲で3回以上、測定を行う。
【0049】
本実施形態に係る軟磁性合金は、局所的にFe含有量が周囲よりも高くなるFe含有量の極大点を40万個/μm以上有し、前記Fe含有量の極大点全体に占める配位数が1以上5以下である極大点の割合が80%以上100%以下である場合に、Fe組成ネットワーク相を有するとする。
【0050】
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金について、Fe量が前記閾値未満であるグリッド(Fe量が軟磁性合金全体の平均未満のグリッド)を抜き出し、当該グリッドにおけるCの含有量を測定し、図9に示すような累計頻度関数を作成した。累計頻度90%以上のグリッド(以下、低Fe高Cグリッドと呼ぶ場合がある)におけるC量の平均値が、軟磁性合金全体の平均のC量より5.0倍以上高いことを特徴とする。また、軟磁性合金全体の平均のC量より6.0倍以上高いことが好ましく、7.0倍以上高いことがより好ましい。なお、当該低Fe高CグリッドにおけるC量の平均値に上限は特に存在しないが、通常は軟磁性合金全体の平均のC量の30倍未満である。なお、図9に示す累計頻度関数は、後述する実施例5および実施例6aの累計頻度関数である。図9では累計頻度80%未満の部分を省略している。
【0051】
本実施形態に係る軟磁性合金は、Fe組成ネットワーク相を有し、さらに上記のC量分布を有すること、すなわち、Feの含有量が小さい場所にCが偏析していることにより、保磁力を低下させ、製造安定性を向上させることができる。なお、ここでの製造安定性とは、製造条件にバラつきがあっても安定して保磁力の低い軟磁性合金が製造できる性質のことである。本実施形態に係る軟磁性合金では、後述する熱処理温度のバラツキに対する安定性が高く、特に高温での熱処理となっても低い保磁力を保つことができる。
【0052】
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金は、軟磁性合金全体の平均のC量が3原子%以下であることが好ましい。C量が3原子%以下であることによりさらに保磁力を低下させることができる。また、軟磁性合金全体の平均のC量は0.1原子%以上3原子%以下であることが好ましく、0.5原子%以上1.0原子%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金は、前記低Fe高Cグリッドにおける平均のB量が、軟磁性合金全体の平均のB量の1.20倍以上であることが好ましい。
【0054】
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金は、前記低Fe高Cグリッドにおける平均のM量が、軟磁性合金全体の平均のM量の1.20倍以上であることが好ましい。
【0055】
軟磁性合金におけるB量の分布および/またはM量の分布が上記の分布を示すこと、すなわち、Feの含有量が小さい場所にBおよび/またはMが偏析していることにより、異相の発生、特にFe原子とB原子とが結合したボライドの発生を抑制しやすくなり、保磁力を低下させやすく製造安定性が高い軟磁性合金としやすくなる。ボライドの発生が抑制されるのは、C原子とM原子(特にNb原子)とが結合しやすく、M原子(特にNb原子)とB原子とが結合しやすいためであると考えられる。すなわち、Fe原子の含有量が小さい場所にC原子が偏析し、さらにB原子およびM原子が偏析する場合には、C−M−B結合を有する部分が多くなり、Fe原子と結合してボライドとなるB原子の量が減少すると考えられるためである。
【0056】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法について説明する
【0057】
本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法には特に限定はない。例えば単ロール法により本実施形態に係る軟磁性合金の薄帯を製造する方法がある。
【0058】
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
【0059】
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200〜1500℃とすることができる。
【0060】
単ロール法に用いられる装置の模式図を図8に示す。本実施形態に係る単ロール法においては、チャンバー35内部において、ノズル31から溶融金属32を矢印の方向に回転しているロール33へ噴射し供給することでロール33の回転方向へ薄帯34が製造される。なお、本実施形態ではロール33の材質には特に制限はない。例えばCuからなるロールが用いられる。
【0061】
また、図8におけるロール33の回転方向は、通常のロールの回転方向とは反対である。通常のロールの回転方向とは反対に回転させることにより、ロール33と薄帯34とが接している時間が長くなり、薄帯34をより急激に冷却することができる。
【0062】
さらに、ロール33を図8に示す方向に回転させるメリットとしては、図8に示す剥離ガス噴射装置36から噴射させる剥離ガスのガス圧を制御することでロール33による冷却の強さを制御できることがある。例えば、剥離ガスのガス圧を強くすることでロール33と薄帯34とが接している時間を短くし、冷却を弱くすることができる。逆に、剥離ガスのガス圧を弱くすることでロール33と薄帯34とが接している時間を長くし、冷却を強くすることができる。
【0063】
単ロール法においては、主にロール33の回転速度を調整することで得られる薄帯の厚さを調整することができるが、例えばノズル31とロール33との間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯の厚さを調整することができる。薄帯の厚さには特に制限はないが、例えば15〜30μmとすることができる。
【0064】
後述する熱処理前の時点では、薄帯は非晶質であることが好ましい。非晶質である薄帯に対して後述する熱処理を施すことにより、上記のFe組成ネットワーク相を得ることができる。
【0065】
なお、熱処理前の軟磁性合金の薄帯が非晶質か否かを確認する方法には特に制限はない。ここで、薄帯が非晶質であるとは、薄帯に結晶が含まれていないということである。例えば、粒径0.01〜10μm程度の結晶の有無については、通常のX線回折測定により確認することができる。本実施形態では、通常のX線回折測定により結晶が有ることが確認できる場合には、熱処理後にFe組成ネットワーク相が得られなかった。
【0066】
ロール33の温度やチャンバー35内部の蒸気圧には特に制限はない。例えば、ロール33の温度を50〜70℃とし、露点調整を行ったArガスを用いてチャンバー35内部の蒸気圧を11hPa以下としてもよい。
【0067】
従来、単ロール法においては、冷却速度を向上させ、溶融金属32を急冷させることが好ましいと考えられており、溶融金属32とロール33との温度差を広げることで冷却速度を向上させることが好ましいと考えられていた。そのため、ロール33の温度は通常、5〜30℃程度とすることが好ましいと考えられていた。しかし、本発明者らは、ロール33の温度を50〜70℃と従来の単ロール法より高温にし、さらにチャンバー35内部の蒸気圧を4hPa以下とすることで、溶融金属32が均等に冷却され、得られる軟磁性合金の熱処理前の薄帯を均一な非晶質にしやすくなることを見出した。なお、チャンバー内部の蒸気圧の下限は特に存在しない。露点調整したアルゴンを充填して蒸気圧を1hPa以下にしてもよく、真空に近い状態として蒸気圧を1hPa以下にしてもよい。
【0068】
得られた薄帯34を熱処理することで上記のFe組成ネットワーク相を得ることができる。さらに、上記のC量、B量およびM量の分布を得やすくなる。この際に薄帯34が非晶質であると上記のFe組成ネットワーク相を得やすくなる。
【0069】
熱処理条件には特に制限はない。軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。好ましい熱処理温度は概ね450〜600℃である。ただし、製造安定性を考慮した場合には、熱処理温度を高くした場合においてもボライドの生成を抑制し保磁力を低く保てることが好ましい。ただし、組成によってボライドの生成温度が異なることにより、上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理温度が存在する場合もある。
【0070】
また、熱処理時間にも特に制限はない。好ましい熱処理時間は10分〜180分、さらに好ましくは60分〜180分となる。しかし、組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理時間が存在する場合もある。熱処理時間を上記の範囲内に制御することにより、Feの含有量が小さい場所にB原子およびM原子が偏析し易くなり、保磁力を低下させ製造安定性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る軟磁性合金を得る方法として、上記した単ロール法以外にも、例えば水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により本実施形態に係る軟磁性合金の粉体を得る方法がある。以下、ガスアトマイズ法について説明する。
【0072】
ガスアトマイズ法では、上記した単ロール法と同様にして1200〜1500℃の溶融合金を得る。その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、粉体を作製する。
【0073】
このとき、ガス噴射温度を50〜100℃とし、チャンバー内の蒸気圧4hPa以下とすることで、最終的に上記の好ましいFe組成ネットワーク相を得やすくなる。
【0074】
ガスアトマイズ法で粉体を作製した後に、550〜650℃で10〜180分、熱処理を行うことで、各粉体同士が焼結し粉体が粗大化することを防ぎつつ元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させることができ、歪や応力を除去することができ、Fe組成ネットワーク相を得やすくなる。そして、特に高周波領域において良好な軟磁性特性を有する軟磁性合金粉末を得ることができる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0076】
本実施形態に係る軟磁性合金の形状には特に制限はない。上記した通り、薄帯形状や粉末形状が例示されるが、それ以外にもブロック形状等も考えられる。
【0077】
本実施形態に係る軟磁性合金の用途には特に制限はない。例えば、磁心が挙げられる。インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁心として好適に用いることができる。本実施形態に係る軟磁性合金は、磁心の他にも薄膜インダクタ、磁気ヘッド、変圧トランスにも好適に用いることができる。
【0078】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金から磁心およびインダクタを得る方法について説明するが、本実施形態に係る軟磁性合金から磁心およびインダクタを得る方法は下記の方法に限定されない。
【0079】
薄帯形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、薄帯形状の軟磁性合金を巻き回す方法や積層する方法が挙げられる。薄帯形状の軟磁性合金を積層する際に絶縁体を介して積層する場合には、さらに特性を向上させた磁芯を得ることができる。
【0080】
粉末形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、適宜バインダと混合した後、金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、バインダと混合する前に、粉末表面に酸化処理や絶縁被膜等を施すことにより、比抵抗が向上し、より高周波帯域に適合した磁心となる。
【0081】
成形方法に特に制限はなく、金型を用いる成形やモールド成形などが例示される。バインダの種類に特に制限はなく、シリコーン樹脂が例示される。軟磁性合金粉末とバインダとの混合比率にも特に制限はない。例えば軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜10質量%のバインダを混合させる。
【0082】
例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜5質量%のバインダを混合させ、金型を用いて圧縮成形することで、占積率(粉末充填率)が70%以上、1.6×10A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.4T以上、かつ比抵抗が1Ω・cm以上である磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的なフェライト磁心よりも優れた特性である。
【0083】
また、例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜3質量%のバインダを混合させ、バインダの軟化点以上の温度条件下の金型で圧縮成形することで、占積率が80%以上、1.6×10A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.9T以上、かつ比抵抗が0.1Ω・cm以上である圧粉磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的な圧粉磁心よりも優れた特性である。
【0084】
さらに、上記の磁心を成す成形体に対し、歪取り熱処理として成形後に熱処理することで、さらにコアロスが低下し、有用性が高まる。
【0085】
また、上記磁心に巻線を施すことでインダクタンス部品が得られる。巻線の施し方およびインダクタンス部品の製造方法には特に制限はない。例えば、上記の方法で製造した磁心に巻線を少なくとも1ターン以上巻き回す方法が挙げられる。
【0086】
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、巻線コイルが磁性体に内蔵されている状態で加圧成形し一体化することでインダクタンス部品を製造する方法がある。この場合には高周波かつ大電流に対応したインダクタンス部品を得やすい。
【0087】
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、軟磁性合金粒子にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した軟磁性合金ペースト、および、コイル用の導体金属にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した導体ペーストを交互に印刷積層した後に加熱焼成することで、インダクタンス部品を得ることができる。あるいは、軟磁性合金ペーストを用いて軟磁性合金シートを作製し、軟磁性合金シートの表面に導体ペーストを印刷し、これらを積層し焼成することで、コイルが磁性体に内蔵されたインダクタンス部品を得ることができる。
【0088】
ここで、軟磁性合金粒子を用いてインダクタンス部品を製造する場合には、最大粒径が篩径で45μm以下、中心粒径(D50)が30μm以下の軟磁性合金粉末を用いることが、優れたQ特性を得る上で好ましい。最大粒径を篩径で45μm以下とするために、目開き45μmの篩を用い、篩を通過する軟磁性合金粉末のみを用いてもよい。
【0089】
最大粒径が大きな軟磁性合金粉末を用いるほど高周波領域でのQ値が低下する傾向があり、特に最大粒径が篩径で45μmを超える軟磁性合金粉末を用いる場合には、高周波領域でのQ値が大きく低下する場合がある。ただし、高周波領域でのQ値を重視しない場合には、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を使用可能である。バラツキの大きな軟磁性合金粉末は比較的安価で製造できるため、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を用いる場合には、コストを低減することが可能である。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0091】
(実験1)
表1に示す各試料の組成の母合金が得られるように純金属材料をそれぞれ秤量した。そして、チャンバー内で真空引きした後、高周波加熱にて溶解し母合金を作製した。
【0092】
その後、作製した母合金50gを加熱して溶融させ、1300℃の溶融状態の金属とした後に、規定ロール温度及び規定蒸気圧下で図8に示す単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。ロールの材質はCuとした。単ロール法はAr雰囲気下、ロールの回転速度25m/s、差圧105kPa、ノズル径5mmスリット、流化量50g、ロール径φ300mmとすることで得られる薄帯の厚さを20〜30μm、幅を4〜5mm、長さを数十mとした。次に、作製した各薄帯に対して熱処理を行い、単板状の試料を得た。
【0093】
差圧とは、ロール33の近傍(チャンバー35の内部)における圧力とノズル31の内部における圧力との差のことである。当該差圧が存在することにより、溶湯がノズル31からロール33へ噴射される。
【0094】
実験1では、ロールの温度を50℃、蒸気圧を4hPaとし、熱処理時間を60分とした上で、剥離噴射圧力(急冷能力),Cの含有量および熱処理時の熱処理温度を変化させて表1〜表4に示す各試料を作製した。なお、露点調整を行ったArガスを用いることで蒸気圧を調整した。
【0095】
また、熱処理前の各薄帯に対してX線回折測定を行い、結晶の有無を確認した。さらに、透過電子顕微鏡を用いて制限視野回折像および30万倍で明視野像を観察し微結晶の有無を確認した。その結果、各実施例の薄帯には結晶および微結晶が存在せず非晶質であることを確認した。
【0096】
そして、各薄帯を熱処理した後の各試料について、各試料について3DAP(3次元アトムプローブ)を用いて、各試料がFe組成ネットワーク相からなることを確認した。さらに、軟磁性合金全体の平均C量に対する低Fe高Cグリッドにおける平均C量を測定した。さらに、保磁力Hcを測定した。結果を表1〜表4に示す。なお、保磁力Hcは550℃および600℃で熱処理を行った場合に15A/m以下であり、650℃で熱処理を行った場合に25A/m以下である場合を良好とした。また、550℃〜650℃の範囲内で常に保磁力Hcが15A/m以下となる場合が好ましく、550℃〜650℃の範囲内で常に保磁力Hcが10A/m以下となる場合がさらに好ましい。
【0097】
【表1】
【0098】
600℃で熱処理した場合における低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍以上である実施例は、全て保磁力Hcが熱処理温度に関わらず良好な値となった。これに対し、低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍未満である比較例は、いずれも保磁力Hcが良好な値とはならなかった。また、軟磁性合金全体の平均C量が3.0原子%以下である実施例1〜7は、軟磁性合金全体の平均C量が3.0原子%超である実施例8と比較して保磁力Hcがさらに良好であった。
【0099】
なお、低Fe高Cグリッドにおける平均C量と軟磁性合金全体の平均C量との比は、550℃で熱処理した場合および650℃で熱処理した場合においても、600℃で熱処理した場合から大きな変化はなかった。
【0100】
(実験2)
母合金の組成は実施例5と同一とし、熱処理時間のみを1分〜180分の範囲で変化させて各実施例を作成した。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2より、低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍以上である各実施例は保磁力Hcが良好であった。低Fe高Cグリッドにおける平均B量が軟磁性合金全体の平均B量の1.20倍以上である実施例は保磁力Hcがさらに良好であった。また、低Fe高Cグリッドにおける平均M量が軟磁性合金全体の平均M量の1.20倍以上である実施例は保磁力Hcがさらに良好であった。
【0103】
(実験3)
軟磁性合金の組成を変化させた点以外は実験1と同様の条件で試験を行った。熱処理温度を550℃〜650℃の間において50℃刻みで変化させて実験を行った。熱処理温度の変化に伴う保磁力の変化を表3に示す。また600℃の時の低Fe高Cグリッドにおける各元素の倍率を表3に示す。また表4においては450℃〜650℃まで50℃刻みで実験を行い、保磁力が最小となる温度を適正温度としそのプラスマイナス50℃の保磁力と適正温度での低Fe高Cグリッドにおける各元素の倍率を示す。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
表3および表4より、組成を適正な範囲内で変化させ、適正温度で熱処理された軟磁性合金は低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍以上となった。低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍以上となった実施例は、全て保磁力が良好であった。
【0107】
(実験4)
Fe:73.5原子%、Si:13.5原子%、B:8.0原子%、Nb:3.0原子%、Cu:1.0原子%、C:1.0原子%の組成の母合金が得られるように純金属材料をそれぞれ秤量した。そして、チャンバー内で真空引きした後、高周波加熱にて溶解し母合金を作製した。
【0108】
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1300℃の溶融状態の金属としたのちガスアトマイズ法により下表5に示す組成条件下で前記金属を噴射させ、粉体を作成した。実験5では、ガス噴射温度を100℃とし、チャンバー内の蒸気圧4hPaとして試料を作製した。蒸気圧調整は露点調整をおこなったArガスを用いることで行った。
【0109】
熱処理前の各粉体に対してX線回折測定を行い、結晶の有無を確認した。その結果、各粉体には結晶が存在せず完全な非晶質であることを確認した。
【0110】
そして、得られた各粉体を熱処理した後に保磁力Hcを測定した。そして、Fe組成ネットワーク及び低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量について測定を行った。熱処理の温度はFe−Si−M−B−Cu−C系組成の試料(比較例80および実施例81)では550℃を適正温度とし、Fe−M−B−C系組成の試料(比較例82および実施例83)では600℃を適正温度とした。熱処理の時間は1時間とした。実験4では、Fe−Si−M−B−Cu−C系組成では適正温度からプラスマイナス50℃における保磁力Hcが50A/m以下の場合を良好とした。Fe−M−B−C系組成では適正温度からプラスマイナス50℃における保磁力Hcが100A/m以下の場合を良好とした。
【0111】
【表5】
【0112】
表5で示す比較例及び実施例を比較すると非晶質である軟磁性合金粉末に熱処理をすることで薄帯の場合と同様にFe組成ネットワーク構造が得られ、保磁力が最小となる熱処理温度を適正温度としそのプラスマイナス50℃の保磁力Hcと適正温度での低Fe高Cグリッドにおける平均C量が軟磁性合金全体の平均C量の5.0倍以上であるとき、実験1〜3の薄帯と同様に保磁力Hcが小さくなる傾向を示した。
【符号の説明】
【0113】
10… グリッド
10a… 極大点
10b… 隣接グリッド
20a…閾値よりも高いFe含有量である領域
20b…閾値以下のFe含有量である領域
31… ノズル
32… 溶融金属
33… ロール
34… 薄帯
35… チャンバー
36… 剥離ガス噴射装置
【要約】      (修正有)
【課題】保磁力が低く、かつ、製造安定性が高い軟磁性合金を提供する。
【解決手段】Feを主成分とし、Cを含有する軟磁性合金である。軟磁性合金の連続した測定範囲における1nm×1nm×1nmの80000個のグリッドのFe量に関し、軟磁性合金の平均組成よりも多い領域が繋がっているFe組成ネットワーク相からなる。Fe量が平均未満であるグリッドについてC量が低いほうから累計頻度90%以上のグリッドにおけるC量の平均値が、軟磁性合金全体の平均のC量の5.0倍以上である。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9