(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
石炭を用いる火力発電システムにおいて、石炭の燃焼によって生じる排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する脱硝装置内に配置される、Tiを含む脱硝触媒の劣化を非接触で予測する劣化評価方法であって、
前記脱硝触媒の被覆層表面側からX線分析法又は赤外分光法を用いることで、前記脱硝触媒の被覆層表面から数μm以内におけるSi量及びTi量を測定し、前記Si量及び前記Ti量から前記脱硝触媒の劣化を予測するため、前記Si量と前記脱硝触媒の脱硝率との相関関係、及び、前記Ti量と前記脱硝触媒の脱硝率との相関関係から、前記脱硝率の低下を予測する劣化評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の火力発電システムとしての石炭火力発電設備の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の石炭火力発電設備10は、
図1に示すように、石炭バンカ20と、給炭機25と、微粉炭機30と、燃焼ボイラ40と、燃焼ボイラ40の下流側に設けられた排気通路50と、この排気通路50に設けられた脱硝装置60、空気予熱器70、電気集塵装置90、ガスヒータ(熱回収用)80、誘引通風機210、脱硫装置220、ガスヒータ(再加熱用)230、脱硫通風機240、及び煙突250と、を備える。
【0021】
石炭バンカ20は、石炭サイロ(図示しない)から運炭設備によって供給された石炭を貯蔵する。給炭機25は、石炭バンカ20から供給された石炭を所定の供給スピードで微粉炭機30に供給する。
微粉炭機30としては、ローラミル、チューブミル、ボールミル、ビータミル、インペラーミル等が用いられる。
【0022】
燃焼ボイラ40は、微粉炭機30から供給された微粉炭を、強制的に供給された空気と共に燃焼する。また燃焼ボイラ40には、押込通風機75から燃焼用空気が送り込まれる。微粉炭を燃焼することによりクリンカアッシュ及びフライアッシュ等の石炭灰が生成されると共に、排ガスが発生する。
石炭灰の主成分は、シリカ(SiO
2)40〜70%、アルミナ(Al
2O
3)20〜40%であり、他に酸化鉄(Fe
2O
3)、カルシウム(CaO)、カリウム(K
2O)、マグネシウム(MgO)、ナトリウム(Na
2O)等が少量含まれる。
【0023】
排気通路50は、燃焼ボイラ40の下流側に配置され、燃焼ボイラ40で発生した排ガス及び生成された石炭灰を流通させる。この排気通路50には、上述のように、脱硝装置60、空気予熱器70、ガスヒータ(熱回収用)80、電気集塵装置90、誘引通風機210、脱硫装置220と、ガスヒータ(再加熱用)230、脱硫通風機240、及び煙突250がこの順で配置される。
【0024】
脱硝装置60は、排ガス中の窒素酸化物を除去する。本実施形態では、脱硝装置60は、比較的高温(300℃〜400℃)の排ガス中に還元剤としてアンモニアガスを注入し、脱硝触媒との作用により排ガス中の窒素酸化物を無害な窒素と水蒸気に分解する、いわゆる乾式アンモニア接触還元法により排ガス中の窒素酸化物を除去する。
【0025】
脱硝装置60は、
図2に示すように、脱硝反応器61と、この脱硝反応器61の内部に配置される複数段の脱硝触媒層62,62,62と、脱硝触媒層62の上流側に配置される整流層63と、脱硝反応器61の入口付近に配置される整流板64と、脱硝反応器61の上流側に配置されるアンモニア注入部65と、を備える。
【0026】
脱硝反応器61は、脱硝装置60における脱硝反応の場となる。
脱硝触媒層62は、脱硝反応器61の内部に、排ガスの流路に沿って所定間隔をあけて複数段(本実施形態では3段)配置される。
【0027】
脱硝触媒層62は、脱硝触媒としての複数の触媒体(図示せず)を含んで構成される。触媒体の形状としては粒状触媒、板状触媒、格子状触媒等が挙げられる。石炭火力発電プラントにおいては、排ガス中に多量のダストが含まれるため、耐ダスト性に優れ圧力損失の少ない、触媒面がガス流に対して平行に配置されたパラレルフロータイプの格子状触媒(以下、ハニカム触媒という)、又は板状触媒が好適に用いられる。なかでも、耐ダスト性に優れ圧力損失が少ないことからハニカム触媒がより好適に用いられる。
ハニカム触媒は、長手方向に延びる複数の排ガス流通穴が形成された長尺状(直方体状)に形成される。そして、複数のハニカム触媒は、排ガス流通穴が排ガスの流路に沿うように配置される。ハニカム触媒としては、例えば、150mm×150mm×860mmの直方体形状で目開き6mm×6mmの排ガス流通穴が400個(20×20)形成されたものが用いられる。上記目開きは排ガス流速に併せて調節されており、ダストによるハニカム触媒の閉塞や摩耗が防止されている。また、一層の脱硝触媒層62には、例えば、9000本から10000本のハニカム触媒が設置される。
ハニカム触媒は、五酸化バナジウムや酸化タングステン等の触媒活性成分を酸化チタンや酸化ジルコニウム等と練り合わせた後、押出成形することで形成される。
【0028】
整流層63は、脱硝触媒層62の上流側に配置される。整流層63は、格子状に形成された複数の開口を有する金属部材等により構成され、脱硝反応器61における排ガスの流路を区画する。整流層63は、排気通路50を流通し脱硝反応器61に導入される排ガスを整流して脱硝触媒層62に均等に導く。
【0029】
整流板64は、脱硝反応器61の入口の近傍における整流層63よりも上流側に配置される。より具体的には、整流板64は、脱硝反応器61又は排気通路50の内壁における屈曲部分に配置され、内壁から内面側に突出する。整流板64は、排気通路50又は脱硝反応器61における屈曲部分における排ガスの流れを整える。
【0030】
上記整流層63及び整流板64により排ガスが整流されることで、脱硝触媒層62に導かれる偏流が小さくなり、ダストによる脱硝触媒層62の閉塞や摩耗が防止されている。
【0031】
アンモニア注入部65は、脱硝反応器61の上流側に配置され、排気通路50にアンモニアを注入する。
【0032】
以上の脱硝装置60によれば、まず、アンモニア注入部65において、排気通路50を流通する高温の排ガス(300℃〜400℃)にアンモニアが注入される。アンモニアが注入された排ガスは、整流板64及び整流層63により整流され、脱硝触媒層62に導入される。
【0033】
脱硝触媒層62においては、アンモニアを含む排ガスがハニカム触媒の排ガス流通穴を通過するときに、以下の化学反応式に従って、窒素酸化物とアンモニアとが反応し、無害な窒素と水蒸気に分解される。
4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O
NO+NO
2+2NH
3→2N
2+3H
2O
【0034】
上記方法は乾式アンモニア接触還元法と呼ばれる。上記反応において、NO
xの量に対し添加するNH
3の量が多ければ脱硝率も向上するが、排出される未反応のNH
3(以下、リークNH
3という)が増加する。リークNH
3が多いと排ガス中のSO
3と反応して酸性硫安(NH
4HSO
4)が生成し、この酸性硫安が排ガスに含まれるダストの付着を促進させ後段に設置されている空気予熱器のエレメント等の詰まりが生じる。従ってリークNH
3が一定値以下となるよう、触媒の性能管理が行われている。
【0035】
NO
xの浄化率すなわち脱硝率は、脱硝触媒の入口側及び出口側のNO
x濃度等に基づき算出される。脱硝装置全体の脱硝率は、使用開始直後は80〜90%程度であるが、脱硝触媒は使用により劣化し脱硝率が低下するため、適宜脱硝触媒の交換や再生等を行う必要がある。しかし劣化の進行は各触媒層において一様ではなく、最も劣化の進行が速いのは排ガスが最初に通過する第1層目の触媒層である。よって全体の脱硝率の低下に伴い全ての脱硝触媒を交換することとすると不経済であるため、例えば各触媒層における脱硝触媒ごとに劣化状態を評価し、劣化が進行している触媒層は交換や再生等を行う、といった方法が取られる。
【0036】
脱硝触媒の劣化の原因としては、シンタリング等の熱的劣化、触媒成分の被毒による化学的劣化、及び石炭灰が触媒表面を被覆することによる物理的劣化等であると考えられていた。そして脱硝触媒の劣化状態の評価方法としては専ら、日常管理及び点検時において脱硝触媒の入口側及び出口側のNO
x濃度等のデータから脱硝触媒の脱硝率を算出することにより行われていた。しかし、本発明者らは、今般、石炭灰の平均的な粒径である数十μm以上百μm以下程度の範囲に比べて遥かに小さい粒径(1−2μm以下、より詳細には数十nm程度)の石炭灰に起因する堆積物が脱硝触媒の表面を被覆して被覆層を形成し、それによって、脱硝触媒の閉塞が生じていることを見出した。このような微小な粒径の石炭灰は含有量が少ないため、これまで脱硝触媒の劣化の原因とは考えられていなかった。
【0037】
上記新たな知見に基づく、本実施形態における脱硝触媒の劣化評価方法によれば、上記脱硝触媒の表面を被覆する被覆層の厚さを測定することで、脱硝触媒の劣化状態を評価することができる。よって脱硝触媒の劣化状態を従来よりも正確に評価でき、脱硝触媒の交換時期の予測等をより正確に行うことができる。従って劣化した脱硝触媒の交換や再生等の管理をより適切に行うことができる。
【0038】
空気予熱器70は、排気通路50における脱硝装置60の下流側に配置される。空気予熱器70は、脱硝装置60を通過した排ガスと燃焼用空気とを熱交換させ、排ガスを冷却すると共に、燃焼用空気を加熱する。加熱された燃焼用空気は、押込通風機75により燃焼ボイラ40に供給される。
【0039】
ガスヒータ80は、排気通路50における空気予熱器70の下流側に配置される。ガスヒータ80には、空気予熱器70において熱回収された排ガスが供給される。ガスヒータ80は、排ガスから更に熱回収する。
【0040】
電気集塵装置90は、排気通路50におけるガスヒータ80の下流側に配置される。電気集塵装置90には、ガスヒータ80において熱回収された排ガスが供給される。電気集塵装置90は、電極に電圧を印加することによって排ガス中の石炭灰(フライアッシュ)を収集する装置である。電気集塵装置90において捕集されるフライアッシュは、フライアッシュ回収装置120に回収される。
【0041】
誘引通風機210は、排気通路50における電気集塵装置90の下流側に配置される。誘引通風機210は、電気集塵装置90においてフライアッシュが除去された排ガスを、一次側から取り込んで二次側に送り出す。
【0042】
脱硫装置220は、排気通路50における誘引通風機210の下流側に配置される。脱硫装置220には、誘引通風機210から送り出された排ガスが供給される。脱硫装置220は、排ガスに石灰石と水との混合液を吹き付けることにより、排ガスに含有されている硫黄酸化物を混合液に吸収させて脱硫石膏スラリーを生成させ、この脱硫石膏スラリーを脱水処理することで脱硫石膏を生成する。脱硫装置220において生成された脱硫石膏は、この装置に接続された脱硫石膏回収装置222に回収される。
【0043】
ガスヒータ230は、排気通路50における脱硫装置220の下流側に配置される。ガスヒータ230には、脱硫装置220において硫黄酸化物が除去された排ガスが供給される。ガスヒータ230は、排ガスを加熱する。ガスヒータ80及びガスヒータ230は、排気通路50における、空気予熱器70と電気集塵装置90との間を流通する排ガスと、脱硫装置220と脱硫通風機240との間を流通する排ガスと、の間で熱交換を行うガスヒータとして構成してもよい。
【0044】
脱硫通風機240は、排気通路50におけるガスヒータ230の下流側に配置される。脱硫通風機240は、ガスヒータ230において加熱された排ガスを一次側から取り込んで二次側に送り出す。
煙突250は、排気通路50における脱硫通風機240の下流側に配置される。煙突250には、ガスヒータ230で加熱された排ガスが導入される。煙突250は、排ガスを排出する。
【0045】
<脱硝触媒の第1の劣化評価方法>
以下脱硝触媒の劣化メカニズム及びそれに伴う第1の劣化評価方法に関し、各測定画像を参照して詳細に説明する。
図3及び
図4は、上記のハニカム触媒(短手150mm×150mm×長手860mmの直方体形状で目開き6mm×6mmの排ガス流通穴が400個(20×20)形成されたもの)について、未使用の脱硝触媒の入口及び長手方向中間付近での、短手方向に沿った断面の触媒表面付近における走査型電子顕微鏡(SEM)画像である(×5000倍)。対して、
図5及び
図6は、使用後の脱硝触媒の入口及び中間付近における断面の、走査型電子顕微鏡(SEM)画像である(×5000倍)。なお測定は以下の条件にて行った。
図3から6において、画像下方が脱硝触媒である。
[測定機器]電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日立ハイテクノロジーズ製、SU8020)
[測定条件]加速電圧5.0kV
【0046】
未使用の脱硝触媒(
図3及び
図4)と使用後の脱硝触媒(
図5及び
図6)を比較すると、使用後の脱硝触媒(
図5及び
図6)の表面には一定厚さの堆積物の層T1、T2(本発明における被覆層)が生じている。
【0047】
更に使用後の脱硝触媒の入口付近(
図5)と同中間付近(
図6)とを比較すると、堆積物の層の厚さは、
図5におけるT1が3μm程度であるのに対し、
図6におけるT2は1μm程度である。従って堆積物は脱硝触媒の入口付近に特に多く堆積していることが明らかである。
【0048】
図7は、入口付近における使用後の脱硝触媒の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。なお測定は以下の条件にて行った。
[測定機器]電界放出型透過電子顕微鏡(JEOL製、JEM−2100F)
[測定条件]加速電圧200kV
【0049】
図7における触媒層の上層の被覆層には、粒径が2μm又はそれ以下の微細な粒子、具体的には10nmから100nmの粒子が含まれている。この粒子は排ガス中に含まれる石炭灰由来であるものと考えられるが、石炭灰の粒径は通常数十μm以上百μm以下程度の範囲であり、上記被覆層に含まれる粒子は通常の石炭灰の粒径と比較して遥かに小さい。
この粒状の層構造は、水洗を行っても消失せず触媒層に強固に付着している。このような微細な粒子は、通常は粒径の大きな粒子と比較すると物質表面に対して付着しづらいが、付着した場合、大きな粒子よりも重力や気流等による分離力を受けにくいため表面に沈着し強固な層を形成すると考えられる。
【0050】
上記被覆層は、脱硝触媒の水洗を行うことによっては消失しないが、脱硝触媒表面の研磨を行うことによって消失し、更に研磨により未使用のものと比べて脱硝率が90〜95%程度まで回復することが明らかとなっている。従って脱硝触媒の劣化の原因は、この被覆層が触媒を閉塞させていることであると考えられるため、この被覆層の厚さを測定することで、脱硝触媒の劣化状態を正確に評価することができる。
【0051】
実際、
図5、
図6の脱硝触媒は脱硝率が50%程度に劣化していることから、例えば、脱硝率が50%以下の目安を、入口付近の被覆層3μm以下(好ましくは2μm以下)、もしくは中間付近で1μm以下(好ましくは0.5μm以下)というように基準を設けることで、触媒交換や再生の目安を、脱硝率を測定することなく予測することができる。
【0052】
図8は、
図7におけるSi元素のEDXマッピング画像である(図中の白点部がSi)。なお測定は以下の条件にて行った。
[測定機器]電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日立ハイテクノロジーズ製、SU8020)
[測定条件]加速電圧15.0kV、照射電流0.2nA
【0053】
図8から明らかなように、触媒層からはSi元素がほぼ検出されず、被覆層からはSi元素が多く検出されている。従ってSi元素を含む層の厚さを測定することで、被覆層の厚さを特定することができ、脱硝触媒の劣化状態を正確に評価することができる。
【0054】
なお、被覆層の厚さは、
図3〜
図8に示すように、脱硝触媒に対して均一にはならずに、画像の観察箇所によってばらつきが生じる。具体的には、
図7に示すように、
図7の中央付近の被覆層の厚さは、同図右端付近の被覆層の厚さよりも薄くなる。そのため、画像(例えばSEM画像、TEM画像又はEDXマッピング画像)から被覆層の厚さを直接測定せずに、画像から被覆層の断面積を測定し、被覆層の断面積から被覆層の厚さを算出してもよい。被覆層の断面積を測定することにより、画像の観察箇所による被覆層の厚さのばらつきを少なくすることができ、脱硝触媒の劣化状態を正確に評価することができる。
【0055】
また、未使用及び使用後の脱硝触媒表面について、FT−IR−ATR法による分析を行った。なお測定は以下の条件にて行った。
[測定機器]Varian670FT−IR(Varian社製)
[測定条件]DTGS、窒素雰囲気、分解能4cm
−1
【0056】
上記FT−IR−ATR法によるピーク分析結果によると、使用後の脱硝触媒表面からは、シリカ(SiO
2・nH
2O)由来のSi−O−Si結合に起因すると思われる吸収ピーク(水洗前1071.4cm
−1及び1107.1cm
−1、水洗後1065.6cm
−1及び1067.4m
−1)が検出され、当該ピークは未使用の触媒表面からは殆ど検出されなかった。従って使用後の脱硝触媒表面にはシリカ(SiO
2・nH
2O)が多く含まれることが明らかとなった。よって、シリカ(SiO
2・nH
2O)を含む層の厚さを測定することで、被覆層の厚さを特定することができ、脱硝触媒の劣化状態を正確に評価することができる。
【0057】
更に、被覆層に含まれるシリカについて構造解析を行うため、未使用及び使用後の脱硝触媒表面、また石炭灰について、
29SiDD/MAS NMR分析を行った。なお測定は以下の条件にて行った。
[測定機器]CMX300(Chemagnetics社製)
[測定条件]DD/MAS法
【0058】
29SiDD/MAS NMRによる分析結果から、使用後の脱硝触媒表面には、未使用の脱硝触媒表面と比較し、多くのケイ素化合物が含まれることが明らかとなった。また、使用後の脱硝触媒表面と石炭灰とを比較すると、いずれもSi
*(OSi)
4由来のSi−O−Si結合を有するSi原子核に起因する強いピーク及び、(Si
*(OAl)(OSi)
3)由来のSi−O−Al結合を有するSi原子核に起因するピークが確認された。
【0059】
上記
29SiDD/MAS NMRによる分析結果から、被覆層には触媒層には殆ど含まれないSi
*(OSi)
4や、(Si
*(OAl)(OSi)
3)といったケイ素化合物が含まれることが明らかとなった。従ってこれらのケイ素化合物を含む層の厚さを測定することで、被覆層の厚さを特定することができ、脱硝触媒の劣化状態を正確に評価することができる。
【0060】
また、使用後の脱硝触媒表面の被覆層に含まれる成分は排ガス中に含まれる石炭灰の成分と同様の成分であることが明らかとなり、被覆層は排ガス中の石炭灰由来の微粒子により形成されることが明らかとなった。
【0061】
<脱硝触媒の第2の劣化評価方法>
以下脱硝触媒の劣化メカニズム及びそれに伴う第2の劣化評価方法に関し、各測定結果を参照して詳細に説明する。
第2の劣化評価方法は、石炭を用いる火力発電システムにおいて、石炭の燃焼によって生じる排ガスに含まれる窒素酸化物を除去する脱硝装置内に配置される脱硝触媒の劣化を非接触で予測する劣化評価方法であって、脱硝触媒の被覆層表面側からX線分析法又は赤外分光法を用いることで、脱硝触媒の被覆層表面付近におけるSi量又はTi量を測定し、前記Si量又は前記Ti量から脱硝触媒の劣化を予測する劣化評価方法である。
【0062】
一例として、脱硝率が70.8%となった脱硝装置内から使用後の脱硝触媒を採取し、サンプルA1とした。また、脱硝率が73.3%となった脱硝装置から採取したサンプルを、サンプルA2とした。また、脱硝率が75.1%となった脱硝装置から採取したサンプルを、サンプルA3とした。各サンプルは、脱硝装置に対して脱硝触媒の入口付近と、中間付近と、出口付近とのそれぞれから採取し、サンプルA1〜A3は同一の石炭火力発電設備の脱硝装置内から採取した。
なお、「脱硝触媒の入口付近」「中間付近」「出口付近」とは、例えば、長手方向の長さが860mmである脱硝触媒を、長手方向で3等分した、入口部/中間部/出口部について、入口部は排ガス入口側から50mmの位置で、中間部は入口部を介して排ガス入口側から387mmの位置で、出口部は排ガス出口側から50mmの位置で、サンプリングしたものである。
【0063】
また、他の一例として、脱硝率が76.8%となった脱硝装置内から使用後の脱硝触媒を採取し、サンプルB1とした。また、脱硝率が79.2%となった脱硝装置から採取したサンプルを、サンプルB2とした。各サンプルは、脱硝装置に対して脱硝触媒の入口付近と、中間付近と、出口付近とのそれぞれから採取し、サンプルB1〜B2は同一の石炭火力発電設備の脱硝装置内から採取した。なお、サンプルB1〜B2を採取した石炭火力発電設備は、サンプルA1〜A3を採取した石炭火力発電設備と異なる。
【0064】
Si量及びTi量は、以下の条件にて各サンプルの入口付近と、中間付近と、出口付近とのそれぞれに対してEPMA分析を行うことにより、各サンプルの表面付近に含まれるSi量及びTi量を測定した。測定結果を表1及び
図9〜14に示す。今回のEPMAの測定条件では、測定エリアが約6mm×約20mmで任意の5点を分析、深さ方向約3μmにおけるバルク情報、又は測定エリアがФ30μm、深さ方向約3μmにおけるバルク情報が得られる。なお、EPMA又はSEMのマッピングにより含有割合を計算しても良い。
[測定機器]電子線マイクロアナライザー(EPMA)(島津製作所製、EPMA-1610)
[測定条件]加速電圧15.0kV、照射電流30nA、ビームサイズ30μm
【表1】
【0065】
図9〜
図14は、表1の値をプロットしたグラフである。具体的には、
図9〜
図11は、脱硝触媒の脱硝率¥と、入口付近、中間付近又は出口付近における脱硝触媒のSi量との関係を示すグラフである。また、
図12〜
図14は、脱硝触媒の脱硝率と、入口付近、中間付近又は出口付近における脱硝触媒のTi量との関係を示すグラフである。なお、
図9〜
図14中の点線で示す直線は、脱硝率と、Si量又はTi量との関係を、最小二乗法を用いて線形近似した直線を示し、グラフの枠外に示された一次関数及びR2値は、近似式及び相関係数を示す。
【0066】
表1及び
図9〜
図14に示すように、サンプルA1〜A3において、脱硝率が減少すると、Si量が増加し、且つ、Ti量が減少する傾向が確認された。サンプルB1〜B2においても、同様の傾向が確認された。EPMA分析では、サンプルの表面のみならず最大で深さ数μm(例えば1μmから3μm程度)のサンプルの元素情報が検出される。そのため、劣化の少ない(脱硝率の高い)脱硝触媒として例えばサンプルB2を分析対象とした場合、サンプルの表面には、被覆層は薄く形成されるため、EPMA分析によって、Si量(被覆層の元素情報)はあまり検出されない。一方で、Ti量(触媒層の元素情報)は多く検出される。これに対して、劣化の進んだ(脱硝率の減少が進んだ)脱硝触媒として例えばサンプルA1を分析対象とした場合、サンプルの表面には、被覆層が厚く形成されるため、EPMA分析によって、Si量(被覆層の元素情報)は多く検出される。一方で、Ti量(触媒層の元素情報)はあまり検出されない。従って脱硝率が減少すると、被覆層が厚く形成されるため、Si量が増加し、且つ、Ti量が減少すると考えられる。
【0067】
また、表1及び
図9〜
図14に示すように、サンプルA1〜A3とサンプルB1〜B2とを比較しても、石炭火力発電設備が異なることによる脱硝率の減少に伴うSi量の増加傾向(Ti量の減少傾向)の顕著な差異は認められなかった。そのため、石炭火力発電設備によらず、脱硝率の減少に伴うSi量の増加傾向(Ti量の減少傾向)が確認できると考えられる。
【0068】
脱硝率とSi量及びTi量との相関について、
図9〜
図14に示すように、サンプルの採取位置(入口付近、中間付近又は出口付近)に係わらず0.9以上の高い相関係数が確認された。また、脱硝率と入口付近のSi量及びTi量との相関について、0.95以上の高い相関係数が確認された。そのため、入口付近の脱硝触媒を分析することにより、安定した量のSi量又はTi量を測定できると考えられる。なお、入口付近の脱硝触媒の測定サンプルは、例えば中間付近のサンプルなど他のサンプルと比較して簡易的に採取できる。
【0069】
EPMA法以外のX線分析法として、例えば波長分散型X線分析法(WDX)を用いても触媒表面付近の元素量を特定できる。
また、赤外分光法として、例えば反射ATR法を用いても、深さ数μm程度(例えば1μmから3μm程度)のバルクの元素情報を知ることができるので、わざわざ触媒を切断することなく、触媒表面付近の元素量を特定できる。すなわち、所定の反射ATR条件におけるSi量又はTi量を測定することで、被覆層の厚さ、すなわち触媒の劣化程度を予測することもできる。脱硝触媒の第2の劣化評価方法は、脱硝触媒の切断も不要とする点で、極めて簡便に脱硝率の低下を評価できる点において極めて有効な手法である。
【0070】
以上本実施形態の石炭火力発電設備10における脱硝触媒の劣化評価方法によれば、以下のような効果を奏する。
【0071】
(1)脱硝触媒の第1の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面に堆積した被覆層には、粒径が2μm以下の微細な粒子が含まれる。従って粒径2μm以下の粒子を含む前記被覆層の厚さを測定することで、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0072】
(2)脱硝触媒の第1の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面に堆積した被覆層には、触媒層には含まれない元素が含まれる。従って被覆層の元素情報を測定することで、前記被覆層の厚さを特定することができ、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0073】
(3)脱硝触媒の第1の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面に堆積した被覆層には、触媒層には含まれないSi元素が含まれる。従ってSiの元素情報を測定することで、前記被覆層の厚さを特定することができ、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0074】
(4)脱硝触媒の第1の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面に堆積した被覆層には、詳しくは粒径1μm以下の粒子が含まれる。従って粒径1μm以下の粒子を含む前記被覆層の厚さを測定することで、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0075】
(5)脱硝触媒の第1の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面に堆積した被覆層には、更に詳しくは粒径0.1μm以下の粒子が含まれる。従って粒径1μm以下の粒子を含む前記被覆層の厚さを測定することで、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0076】
(6)脱硝触媒の第2の劣化評価方法において、脱硝触媒の表面付近には、Si元素又はTi元素が含まれるため、エネルギー分散型X線分析法(EDX法)や波長分散型X線分析法(WDX)等のX線分析法又は反射型赤外分光法(反射ATR法)等の赤外分光法を用いて、前記脱硝触媒の表面付近におけるSi量又はTi量を非接触で測定し、前記Si量又は前記Ti量から被覆層の厚さ、すなわち触媒の劣化程度を予測することができる。この方法は、脱硝触媒の切断も不要とする点で、極めて簡便に脱硝率の低下を評価できる。
【0077】
(7)脱硝触媒の第2の劣化評価方法において、脱硝触媒の測定サンプルは、脱硝装置に対して脱硝触媒の入口付近から採取される。従って簡易的にしかも精度よく脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。
【0078】
(8)脱硝触媒の第2の劣化評価方法において、脱硝率の低下は、Si量と脱硝触媒の脱硝率との相関関係、又は、Ti量と脱硝触媒の脱硝率との相関関係から予測される。従って脱硝触媒の脱硝率を測定することなく、Si量又はTi量を測定することにより、脱硝触媒の劣化を予測することができる。
【0079】
上記以外にも、シリカ等、触媒には殆どあるいは少量しか含まれない元素や化合物を含む層の厚さを測定することで前記被覆層の厚さを特定でき、脱硝触媒の劣化を正確に評価することができる。