(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持するシールリングであって、
前記環状溝における低圧側の側壁面に対して摺動するシールリングにおいて、
前記側壁面に対して摺動する摺動面側には、
前記側壁面に対して摺動する摺動領域内に収まる位置に設けられ、かつ周方向に伸びる第1溝と、
内周面から第1溝における周方向の中央の位置に進入する位置まで伸び、かつ密封対象流体を第1溝内に導くと共に、異物を内周面側に排出可能な第2溝と、
が設けられると共に、
第1溝には、第2溝が進入した部位を挟んで周方向の両側に、それぞれ溝底が周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成される一対の動圧発生用溝が設けられており、
第2溝の溝底は、前記動圧発生用溝の溝底よりも深く構成され、
前記一対の動圧発生用溝の間であって、第2溝よりも径方向外側には、一方の動圧発生用溝から他方の動圧発生用溝への密封対象流体の流れを妨げる障壁部が設けられていることを特徴とするシールリング。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施形態及び実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、これら実施形態及び実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本実施形態及び実施例に係るシールリングは、自動車用のATやCVTなどの変速機において、油圧を保持させるために、相対的に回転する軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する用途に用いられるものである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、シールリングの両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。
【0028】
(実施形態1)
図1〜
図6を参照して、本発明の実施形態1に係るシールリングについて説明する。
図1は本発明の実施形態1に係るシールリングの側面図である。
図2は本発明の実施形態1に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分の拡大図である。
図3は本発明の実施形態1に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を反対側から見た拡大図である。
図4は本発明の実施形態1に係るシールリングを外周面側から見た図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を外周面側から見た拡大図である。
図5は本発明の実施形態1に係るシールリングを内周面側から見た図の一部拡大図であり、
図1において丸で囲った部分を内周面側から見た拡大図である。
図6は本発明の実施形態1に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。
【0029】
<シールリングの構成>
本実施形態に係るシールリング100は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、相対的に回転する軸200とハウジング300(ハウジング300における軸200が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100は、流体圧力(本実施形態では油圧)が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施形態においては、
図6中のシールリング100よりも右側の領域の流体圧力が変化するように構成されている。そして、シールリング100は、シールリング100を介して図中右側の密封対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、密封対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけると密封対象領域の流体圧力は高くなる。
図6においては、左側に無負荷状態の様子を示し、右側に差圧が生じた状態(密封対象領域の流体圧力が高くなった状態)の様子を示している。
【0030】
そして、シールリング100は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100の外周面の周長はハウジング300の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、流体圧力が作用していない状態においては、シールリング100の外周面はハウジング300の内周面から離れた状態となり得る(
図6中、左側の図参照)。
【0031】
このシールリング100には、周方向の1箇所に合口部110が設けられている。また、シールリング100の摺動面側には溝部120が設けられている。なお、本実施形態に係るシールリング100は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110と複数の溝部120が形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これら合口部110及び複数の溝部120を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、これらを切削加工により得ることもできる。ただし、例えば、予め合口部110を有したものを成形した後に、複数の溝部120を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0032】
本実施形態に係る合口部110の構成について、特に、
図2〜
図5を参照して説明する。本実施形態に係る合口部110は、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング100においては、切断部を介して一方の側の外周面側には第1嵌合凸部111及び第1嵌合凹部114が設けられ、他方の側の外周面側には第1嵌合凸部111が嵌る第2嵌合凹部113と第1嵌合凹部114に嵌る第2嵌合凸部112が設けられている。なお、切断部を介して一方の側の内周面側の端面115と他方の側の内周側の端面116は互いに対向している。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング100の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、「切断部」については、切削加工により切断される場合だけでなく、成形により得られる場合も含まれる。また、ここでは合口部110の一例として、特殊ステップカットの場合を示したが、合口部110については、これに限らず、ストレートカットやバイアスカットやステップカットなども採用し得る。なお、シールリング100の材料として、低弾性の材料(PTFEなど)を採用した場合には、合口部110を設けずに、エンドレスとしてもよい。
【0033】
溝部120は、シールリング100における摺動面側の側面のうち合口部110付近を除く全周に亘って、等間隔に複数設けられている(
図1参照)。これら複数の溝部120は、軸200に設けられた環状溝210における低圧側(L)の側壁面211に対してシールリング100が摺動した際に動圧を発生させるために設けられている。
【0034】
そして、溝部120は、周方向に伸びる第1溝と、第1溝における周方向の中央の位置から内周面に至るまで伸び、密封対象流体を第1溝内に導く第2溝とを有している。また、第1溝は、溝底が周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成される動圧発生用溝と、溝底がこの動圧発生用溝の溝底よりも深く、異物を捕捉可能な異物捕捉用溝とを備えている。更に、第1溝は、シールリング100が低圧側(L)の側壁面211に対して摺動する摺動領域X内に収まる位置に設けられている。
【0035】
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、
図6を参照して、本実施形態に係るシールリング100の使用時のメカニズムについて説明する。エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、シールリング100は、環状溝210の低圧側(L)の側壁面211及びハウジング300の軸孔の内周面に対して密着した状態となる。
【0036】
これにより、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成された密封対象領域(高圧側(H)の領域)の流体圧力を保持することが可能となる。そして、軸200とハウジング300が相対的に回転した場合には、環状溝210の低圧側(L)の側壁面211とシールリング100との間で摺動する。そして、シールリング100の摺動面側の側面に設けられた溝部120における動圧発生用溝から密封対象流体が摺動部分に流出する際に動圧が発生する。なお、シールリング100が環状溝210に対して、
図1中時計回り方向に回転する場合には、動圧発生用溝における反時計回り方向側の端部から摺動部分に密封対象流体が流出する。また、シールリング100が環状溝210に対して、
図1中反時計回り方向に回転する場合には、動圧発生用溝における時計回り方向側の端部から摺動部分に密封対象流体が流出する。
【0037】
<本実施形態に係るシールリングの優れた点>
本実施形態に係るシールリング100によれば、溝部120内に密封対象流体が導かれるため、溝部120が設けられている範囲においては、高圧側(H)からシールリング100に対して作用する流体圧力と低圧側(L)からシールリング100に対して作用する流体圧力が相殺される。これにより、シールリング100に対する流体圧力(高圧側(H)から低圧側(L)への流体圧力)の受圧面積を減らすことができる。また、シールリング100が環状溝210における低圧側(L)の側壁面211に対して摺動する際に、動圧発生用溝から摺動部分に密封対象流体が流出することにより動圧が発生する。これにより、シールリング100に対して側壁面211から離れる方向の力が発生する。そして、動圧発生用溝の溝底は、周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成されているので、楔効果により、上記の動圧を効果的に発生させることができる。以上のように、受圧面積が減ることと、動圧によりシールリング100に対して側壁面211から離れる方向に力が発生することとが相俟って、回転トルクを効果的に低減させることが可能となる。このように、回転トルク(摺動トルク)の低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施形態に係るシールリング100を好適に用いることが可能となる。また、これに伴い、軸200の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。
【0038】
また、異物捕捉用溝により異物が捕捉されるため、異物によって動圧発生用溝による動圧発生機能が損なわれてしまうことも抑制される。すなわち、異物が動圧発生用溝と側壁面211との間に噛み込まれてしまうことを抑制することができる。これにより、動圧効果が低減されてしまうことを抑制でき、かつ摩耗が促進されてしまうことを抑制することができる。更に、第1溝は、シールリング100が側壁面に対して摺動する摺動領域X内に収まる位置に設けられているので、密封対象流体の漏れを抑制することができる。
【0039】
以下、溝部120のより具体的な例(実施例1〜実施例10)を説明する。
【0040】
(実施例1)
図7〜
図9を参照して、実施例1に係る溝部120について説明する。
図7は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
図8は本発明の実施例1に係るシールリングの模式的断面図であり、
図7中のAA断面図である。
図9は本発明の実施例1に係るシールリングの模式的断面図であり、
図7中のBB断面図である。
【0041】
上記実施形態で説明したように、シールリング100の摺動面側には溝部120が設けられている。本実施例に係る溝部120は、周方向に伸びる第1溝121と、第1溝121における周方向の中央の位置から内周面に至るまで伸び、密封対象流体を第1溝121内に導く第2溝122とから構成される。
【0042】
本実施例に係る第1溝121は、径方向の幅が一定となるように構成されている。この第1溝121は、上記実施形態で説明したように、シールリング100が環状溝210における低圧側(L)の側壁面211に対して摺動する摺動領域X内に収まる位置に設けられている。そして、第1溝121は、溝底が周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成される動圧発生用溝121aと、溝底が動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な異物捕捉用溝121bとから構成される。
【0043】
動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、これら一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって径方向の幅が徐々に拡がるように構成されている。更に、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が台形となるように構成されている。
【0044】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの内周面側と外周面側の部分に備えられている。
【0045】
更に、本実施例においては、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0046】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、動圧発生用溝121aが、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられているので、軸200に対するシールリング100の回転方向に関係なく、動圧発生用溝121aによる動圧発生機能を発揮させることができる。また、動圧発生用溝121aは、周方向の端部に向かって径方向の幅が拡がるように設けられているので、動圧発生用溝121aから摺動部分に流出させる密封対象流体の径方向の幅を広くすることができる。更に、本実施例においては、第2溝121bの溝底が、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。従って、第2溝122においても、異物を捕捉する機能が発揮され、動圧発生用溝121aに異物が侵入してしまうことをより一層抑制することができる。
【0047】
(実施例2)
図10には、本発明の実施例2が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図10は本発明の実施例2に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0048】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは径方向の幅が一定となるように構成されている。従って、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が略四角形となるように構成されている。
【0049】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの内周面側の部分に備えられている。
【0050】
更に、本実施例においても、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0051】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においても、動圧発生用溝121aが、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられているので、軸200に対するシールリング100の回転方向に関係なく、動圧発生用溝121aによる動圧発生機能を発揮させることができる。更に、本実施例においては、第2溝122の溝底が、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。従って、第2溝122においても、異物を捕捉する機能が発揮され、動圧発生用溝121aに異物が侵入してしまうことをより一層抑制することができる。
【0052】
(実施例3)
図11には、本発明の実施例3が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図11は本発明の実施例3に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0053】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは径方向の幅が一定となるように構成されている。従って、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が略四角形となるように構成されている。
【0054】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの外周面側の部分に備えられている。
【0055】
更に、本実施例においても、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0056】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施例2の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0057】
(実施例4)
図12には、本発明の実施例4が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図12は本発明の実施例4に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0058】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは径方向の幅が一定となるように構成されている。従って、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が略四角形となるように構成されている。
【0059】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの内周面側及び外周面側の部分に備えられている。
【0060】
更に、本実施例においても、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0061】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施例2,3の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
(実施例5)
図13には、本発明の実施例5が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図13は本発明の実施例5に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0063】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、これら一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって径方向の幅が徐々に拡がるように構成されている。なお、本実施例では、上記実施例1の場合とは異なり、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、外周面側に沿うように設けられている。これにより、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が三角形となるように構成されている。
【0064】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの内周面側の部分に備えられている。
【0065】
更に、本実施例においても、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0066】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施例1の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
(実施例6)
図14には、本発明の実施例6が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図14は本発明の実施例6に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0068】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、これら一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって径方向の幅が徐々に拡がるように構成されている。なお、本実施例では、上記実施例1の場合とは異なり、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、内周面側に沿うように設けられている。これにより、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が三角形となるように構成されている。
【0069】
また、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の全領域に亘って備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内における周方向の中央の部分と、一対の動圧発生用溝121aの外周面側の部分に備えられている。
【0070】
更に、本実施例においても、第2溝122の溝底は、動圧発生用溝121aの溝底よりも深く、異物を捕捉可能な深さに設定されている。より具体的には、第2溝122の溝底の深さと、異物捕捉用溝121bの溝底の深さが同一となるように設定されている。
【0071】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施例1の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
(実施例7)
図15及び
図16には、本発明の実施例7が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図15は本発明の実施例7に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
図16は本発明の実施例7に係るシールリングの模式的断面図であり、
図16中のCC断面図である。
【0073】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは径方向の幅が一定となるように構成されている。従って、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が略四角形となるように構成されている。
【0074】
また、本実施例の場合には、実施例1〜6の場合とは異なり、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の中央のみに備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、第2溝122の延長線上にのみ設けられている。
【0075】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においても、動圧発生用溝121aが、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられているので、軸200に対するシールリング100の回転方向に関係なく、動圧発生用溝121aによる動圧発生機能を発揮させることができる。
【0076】
(実施例8)
図17及び
図18には、本発明の実施例8が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図17は本発明の実施例8に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
図18は本発明の実施例8に係るシールリングの模式的断面図であり、
図17中のDD断面図である。
【0077】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは径方向の幅が一定となるように構成されている。従って、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が略四角形となるように構成されている。
【0078】
また、本実施例の場合には、実施例1〜6の場合とは異なり、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の中央のみに備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、第2溝122の延長線上にのみ設けられている。そして、本実施例の場合には、上記実施例7の場合とは異なり、異物捕捉用溝121bの溝底は、第2溝122に向かって徐々に浅くなるように構成されている。
【0079】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においても、動圧発生用溝121aが、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられているので、軸200に対するシールリング100の回転方向に関係なく、動圧発生用溝121aによる動圧発生機能を発揮させることができる。更に、本実施例の場合には、異物捕捉用溝121bの溝底が、第2溝122に向かって徐々に浅くなるように構成されているので、第2溝122から侵入してきた異物を効率的に異物捕捉用溝121bに導くことができる。これにより、動圧発生用溝121aに異物が侵入してしまうことをより一層抑制することができる。
【0080】
(実施例9)
図19には、本発明の実施例9が示されている。本実施例は上記実施例1の変形例であり、動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域が実施例1と異なっている。
図19は本発明の実施例9に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、溝部120が設けられている付近を拡大した図である。
【0081】
本実施例においても、動圧発生用溝121aは、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられている。そして、一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって、徐々に浅くなるように構成されている。本実施例においても、特に図示はしないが、これら一対の動圧発生用溝121aの溝底は、平面状の傾斜面により構成されている。また、本実施例では、これら一対の動圧発生用溝121aは周方向の中心側から周方向の端部に向かって径方向の幅が徐々に拡がるように構成されている。更に、これら一対の動圧発生用溝121aは、その平面形状が台形となるように構成されている。
【0082】
また、本実施例の場合には、実施例1〜6の場合とは異なり、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、周方向の中央のみに備えられている。より具体的には、異物捕捉用溝121bは、第1溝121内において、第2溝122の延長線上にのみ設けられている。
【0083】
以上のように構成された本実施例に係る溝部120によって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においても、動圧発生用溝121aが、第1溝121内において、周方向の中心に対して両側にそれぞれ備えられているので、軸200に対するシールリング100の回転方向に関係なく、動圧発生用溝121aによる動圧発生機能を発揮させることができる。また、動圧発生用溝121aは、周方向の端部に向かって径方向の幅が拡がるように設けられているので、動圧発生用溝121aから摺動部分に流出させる密封対象流体の径方向の幅を広くすることができる。
【0084】
(実施例10)
図20には、本発明の実施例10が示されている。本実施例は上記実施例9の変形例であり、異物捕捉用溝121bの平面形状のみが異なっている。すなわち、上記実施例9では、異物捕捉用溝121bの平面形状が矩形であるのに対して、本実施例の場合には、異物捕捉用溝121bの平面形状が、矩形形状に対して外周面側が円弧状となっている。本実施例においても、上記実施例9の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
(その他)
動圧発生用溝121aと異物捕捉用溝121bの配置される領域については、上記各実施例1〜10に示したものに限られることはなく、様々な配置構成を採用し得る。また、上記各実施例1〜10では、動圧発生用溝121aの溝底が、平面状の傾斜面により構成される場合を示したが、内周面側か外周面側に膨らむような湾曲面状の傾斜面により構成してもよい。更に、溝部120については、シールリング100の片面にのみ設けても良いし、両面に設けても良い。要は、溝部120が設けられている面が摺動面となるようにすればよい。
【0086】
(実施形態2)
図21〜
図29を参照して、本発明の実施形態2に係るシールリングについて説明する。
図21は本発明の実施形態2に係るシールリングの側面図である。
図22は本発明の実施形態2に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図21において丸で囲った部分の拡大図である。
図23は本発明の実施形態2に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、
図21において丸で囲った部分を反対側から見た拡大図である。
図24は本発明の実施形態2に係るシールリングを外周面側から見た図の一部拡大図であり、
図21において丸で囲った部分を外周面側から見た拡大図である。
図25は本発明の実施形態2に係るシールリングを内周面側から見た図の一部拡大図であり、
図21において丸で囲った部分を内周面側から見た拡大図である。
図26は本発明の実施形態2に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝及び第2溝が設けられている付近を示す拡大図である。
図27は本発明の実施形態2に係るシールリングの模式的断面図であり、
図26中のAA断面図である。
図28及び
図29は本発明の実施形態2に係るシールリングの使用時の状態を示す模式的断面図である。なお、
図28は無負荷の状態を示し、
図29は差圧が生じた状態を示している。また、
図28,29中のシールリングは、
図26中のBB断面図に相当する。
【0087】
<シールリングの構成>
本実施形態に係るシールリング100Xは、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、相対的に回転する軸200とハウジング300(ハウジング300における軸200が挿通される軸孔の内周面)との間の環状隙間を封止する。これにより、シールリング100Xは、流体圧力(本実施形態では油圧)が変化するように構成された密封対象領域の流体圧力を保持する。ここで、本実施形態においては、
図28,29中のシールリング100Xよりも右側の領域の流体圧力が変化するように構成されている。そして、シールリング100Xは、シールリング100Xを介して図中右側の密封対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、密封対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけると密封対象領域の流体圧力は高くなる。また、
図29においては、図中右側の流体圧力が左側の流体圧力よりも高くなった状態を示している。以下、
図29中右側を高圧側(H)、左側を低圧側(L)と称する。
【0088】
そして、シールリング100Xは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材からなる。また、シールリング100Xの外周面の周長はハウジング300の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、流体圧力が作用していない状態においては、シールリング100Xの外周面はハウジング300の軸孔の内周面から離れた状態となり得る(
図28参照)。
【0089】
このシールリング100Xには、周方向の1箇所に合口部110Xが設けられている。また、シールリング100Xの摺動面側には、第1溝121Xと第2溝122Xとが設けられている。なお、本実施形態に係るシールリング100Xは、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110Xと複数の第1溝121Xと複数の第2溝122Xが形成された構成である。ただし、これは形状についての説明に過ぎず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、これら合口部110Xと複数の第1溝121Xと複数の第2溝122Xとを形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、これらを切削加工により得ることもできる。ただし、例えば、予め合口部110Xを有したものを成形した後に、複数の第1溝121Xと複数の第2溝122Xを切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0090】
本実施形態に係る合口部110Xの構成について、特に、
図22〜
図25を参照して説明する。本実施形態に係る合口部110Xは、外周面側及び両側壁面側のいずれから見ても階段状に切断された特殊ステップカットを採用している。これにより、シールリング100Xにおいては、切断部を介して一方の側の外周面側には第1嵌合凸部111X及び第1嵌合凹部114Xが設けられ、他方の側の外周面側には第1嵌合凸部111Xが嵌る第2嵌合凹部113Xと第1嵌合凹部114Xに嵌る第2嵌合凸部112Xが設けられている。なお、切断部を介して一方の側の内周面側の端面115Xと他方の側の内周側の端面116Xは互いに対向している。特殊ステップカットに関しては公知技術であるので、その詳細な説明は省略するが、熱膨張収縮によりシールリング100Xの周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。なお、「切断部」については、切削加工により切断される場合だけでなく、成形により得られる場合も含まれる。
【0091】
第1溝121X及び第2溝122Xは、シールリング100における摺動面側の側面のうち合口部110X付近を除く全周に亘って、等間隔に複数設けられている(
図21参照)。複数の第1溝121Xは、軸200に設けられた環状溝210における低圧側(L)の側壁面211に対してシールリング100Xが摺動した際に動圧を発生させるために設けられている。
【0092】
第1溝121Xは、周方向に伸びるように構成されている。第2溝122Xは、シールリング100Xにおける内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びるように設けられている。この第2溝122Xは、密封対象流体を第1溝121X内に導くと共に、異物をシールリング100Xの内周面側に排出する役割を担っている。第1溝121Xには、第2溝122Xが進入した部位を挟んで周方向の両側に、それぞれ溝底が周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成される一対の動圧発生用溝121Xaが設けられている(
図26及び
図27参照)。本実施形態では、この動圧発生用溝121Xaの溝底は、平面状の傾斜面によって構成されている。ただし、動圧発生用溝121Xaについては、図示の例に限らず、溝内から摺動部に密封対象流体が排出される際に動圧が発生する機能を有していれば、各種の公知技術を採用することができる。
【0093】
また、第1溝121Xは、シールリング100Xが低圧側(L)の側壁面211に対して摺動する摺動領域S内に収まる位置に設けられている(
図29参照)。従って、第1溝121Xから低圧側(L)に密封対象流体が漏れてしまうことは抑制される。そして、第2溝122Xの溝底は、動圧発生用溝121Xaの溝底よりも深く構成されている。これにより、第2溝122は、密封対象流体を第1溝121内に導くと共に、摺動部に侵入した異物をシールリング100Xの内周面側に排出する機能が発揮される。
【0094】
<シールリングの使用時のメカニズム>
特に、
図28及び
図29を参照して、本実施形態に係るシールリング100Xの使用時のメカニズムについて説明する。エンジンが停止した無負荷状態においては、
図28に示すように、左右の領域の差圧がないため、シールリング100Xは、環状溝210における図中左側の側壁面及びハウジング300の軸孔の内周面から離れた状態となり得る。
【0095】
図29は、エンジンがかかり、シールリング100Xを介して、差圧が生じている状態(図中右側の圧力が左側の圧力に比べて高くなった状態)を示している。エンジンがかかり、差圧が生じた状態においては、シールリング100Xは、環状溝210の低圧側(L)の側壁面211及びハウジング300の軸孔の内周面に対して密着した状態となる。
【0096】
これにより、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状隙間を封止して、流体圧力が変化するように構成された密封対象領域(高圧側(H)の領域)の流体圧力を保持することが可能となる。そして、軸200とハウジング300が相対的に回転した場合には、環状溝210の低圧側(L)の側壁面211とシールリング100Xとの間で摺動する。そして、シールリング100Xの摺動面側の側面に設けられた動圧発生用溝121aから密封対象流体が摺動部分に流出する際に動圧が発生する。なお、シールリング100Xが環状溝210に対して、
図21中時計回り方向に回転する場合には、動圧発生用溝121Xaにおける反時計回り方向側の端部から摺動部分に密封対象流体が流出する。また、シールリング100Xが環状溝210に対して、
図21中反時計回り方向に回転する場合には、動圧発生用溝121aにおける時計回り方向側の端部から摺動部分に密封対象流体が流出する。
【0097】
<本実施形態に係るシールリングの優れた点>
本実施形態に係るシールリング100Xによれば、シールリング100Xにおける摺動面側に設けられた第1溝121X及び第2溝122X内に密封対象流体が導かれる。そのため、これらが設けられている範囲においては、高圧側(H)からシールリング100Xに対して作用する流体圧力と低圧側(L)からシールリング100Xに対して作用する流体圧力が相殺される。これにより、シールリング100Xに対する流体圧力(高圧側(H)から低圧側(L)への流体圧力)の受圧面積を減らすことができる。また、シールリング100Xが環状溝210における低圧側(L)の側壁面211に対して摺動する際に、動圧発生用溝121Xaから摺動部分に密封対象流体が流出することにより動圧が発生する。これにより、シールリング100Xに対して側壁面211から離れる方向の力が発生する。そして、動圧発生用溝121Xaの溝底は、周方向の中央に比べて周方向の端部の方が浅くなるように構成されているので、楔効果により、上記の動圧を効果的に発生させることができる。
【0098】
以上のように、受圧面積が減ることと、動圧によりシールリング100Xに対して側壁面211から離れる方向に力が発生することとが相俟って、回転トルクを効果的に低減させることが可能となる。このように、回転トルク(摺動トルク)の低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下でも本実施形態に係るシールリング100Xを好適に用いることが可能となる。また、これに伴い、軸200の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。また、動圧発生用溝は、第2溝122Xが進入した部位を挟んで周方向の両側にそれぞれ設けられているので、軸200に対するシールリング100Xの回転方向に関係なく、動圧発生機能を発揮させることができる。
【0099】
また、第1溝121Xは側壁面211に対して摺動する摺動領域S内に収まる位置に設けられているので、第1溝121Xからの密封対象流体の漏れ量を抑制することができる。更に、動圧発生用溝121Xaの溝底よりも底の深い第2溝122Xが設けられており、この第2溝122Xによって摺動部に侵入した異物を内周面側に排出させることができる。従って、異物によって動圧発生用溝121Xaによる動圧発生機能が損なわれてしまうことも抑制される。すなわち、異物が動圧発生用溝121Xaと側壁面211との間に噛み込まれてしまうことを抑制することができる。これにより、動圧効果が低減されてしまうことを抑制でき、かつ摩耗が促進されてしまうことを抑制することができる。
【0100】
以下、第1溝121X及び第2溝122Xのより具体的な例(実施例11〜15)を説明する。
【0101】
(実施例11)
図30〜
図33を参照して、本発明の実施例11に係る第1溝121X及び第2溝122Xについて説明する。
図30は本発明の実施例11に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている付近を拡大した図である。
図31は本発明の実施例11に係るシールリングの模式的断面図であり、
図30中のCC断面図である。
図32は本発明の実施例11に係るシールリングの模式的断面図であり、
図30中のDD断面図である。
図33は本発明の実施例11に係るシールリングの模式的断面図であり、
図30中のEE断面図である。
【0102】
上記実施形態2で説明したように、シールリング100Xの摺動面側には、周方向に伸びる第1溝121Xと、シールリング100Xの内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びる第2溝122Xとが設けられている。本実施例においては、第1溝121Xにおける一対の動圧発生用溝121Xaは、径方向の幅が一定となるように構成されている。そして、これら一対の動圧発生用溝121Xaの間であって、第2溝122Xよりも径方向外側には、一方の動圧発生用溝121Xaから他方の動圧発生用溝121Xaへの密封対象流体の流れを妨げる障壁部123Xが設けられている。この障壁部123Xの表面は、シールリング100Xにおける側面(第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている部分を除く)と同一面となっている。
【0103】
以上のように構成された本実施例に係る第1溝121X及び第2溝122Xによって、上記実施形態2で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、一方の動圧発生用溝121Xaから他方の動圧発生用溝121Xaへの流れる流体は、障壁部123Xによって、第2溝122Xにおいて、径方向の内側に向かうように流れ易くなる。すなわち、シールリング100Xが環状溝210に対して、
図30中反時計回り方向に回転する場合には、図中左側の動圧発生用溝121Xaから右側の動圧発生用溝121Xaに流れる流体が、障壁部123Xにより妨げられて、第2溝122Xにおいて、径方向の内側に向かうように流れ易くなる。そして、シールリング100Xが環状溝210Xに対して、
図30中時計回り方向に回転する場合には、図中右側の動圧発生用溝121Xaから左側の動圧発生用溝121Xaに流れる流体が、障壁部123Xにより妨げられて、第2溝122Xにおいて、径方向の内側に向かうように流れ易くなる。これにより、摺動面に侵入した異物は積極的にシールリング100の内周面側に排出される。
【0104】
(実施例12)
図34〜
図37を参照して、本発明の実施例12に係る第1溝121X及び第2溝122Xについて説明する。
図34は本発明の実施例12に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている付近を拡大した図である。
図35は本発明の実施例12に係るシールリングの模式的断面図であり、
図34中のCC断面図である。
図36は本発明の実施例12に係るシールリングの模式的断面図であり、
図34中のDD断面図である。
図37は本発明の実施例12に係るシールリングの模式的断面図であり、
図34中のEE断面図である。
【0105】
本実施例においても、実施例11の場合と同様に、シールリング100Xの摺動面側には、周方向に伸びる第1溝121Xと、シールリング100Xの内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びる第2溝122Xとが設けられている。また、本実施例においても、第1溝121Xにおける一対の動圧発生用溝121Xaは、径方向の幅が一定となるように構成されている。そして、これら一対の動圧発生用溝121Xaの間であって、第2溝122Xよりも径方向外側には、一方の動圧発生用溝121Xaから他方の動圧発生用溝121Xaへの密封対象流体の流れを妨げる障壁部123Xa設けられている。本実施例における障壁部123Xaは、実施例11における障壁部123Xよりも高さが低くなるように構成されている。つまり、本実施例における障壁部123Xaの表面は、シールリング100Xにおける側面(第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている部分を除く)よりも少し内側の位置となっている。
【0106】
以上のように構成された本実施例に係る第1溝121X及び第2溝122Xにおいても、上記実施例11の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0107】
(実施例13)
図38を参照して、本発明の実施例13に係る第1溝121X及び第2溝122Xについて説明する。
図38は本発明の実施例13に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている付近を拡大した図である。
【0108】
本実施例においても、実施例11の場合と同様に、シールリング100Xの摺動面側には、周方向に伸びる第1溝121Xと、シールリング100Xの内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びる第2溝122Xとが設けられている。また、本実施例においても、第1溝121Xにおける一対の動圧発生用溝121Xaは、径方向の幅が一定となるように構成されている。そして、これら一対の動圧発生用溝121Xaの間であって、第2溝122Xよりも径方向外側には、一方の動圧発生用溝121Xaから他方の動圧発生用溝121Xaへの密封対象流体の流れを妨げる障壁部123Xbが設けられている。本実施例における障壁部123Xbにおいては、障壁部123Xbの内周面側が湾曲面により構成されている。このように、障壁部123Xbの内周面側が湾曲面により構成されている点のみが、上記実施例11に示す構成と異なっている。
【0109】
以上のように構成された本実施例に係る第1溝121X及び第2溝122Xにおいても、上記実施例11の場合と同様の作用効果を得ることができる。なお、障壁部123Xbの内周面側が湾曲面により構成されているため、動圧発生用溝121Xaから第2溝122Xへの流体の流れをスムーズにさせることができる。
【0110】
(実施例14)
図39〜
図42を参照して、本発明の実施例14に係る第1溝121X及び第2溝122Xについて説明する。
図39は本発明の実施例14に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている付近を拡大した図である。
図40は本発明の実施例14に係るシールリングの模式的断面図であり、
図39中のCC断面図である。
図41は本発明の実施例14に係るシールリングの模式的断面図であり、
図39中のDD断面図である。
図42は本発明の実施例14に係るシールリングの模式的断面図であり、
図39中のEE断面図である。
【0111】
上記実施形態2で説明したように、シールリング100Xの摺動面側には、周方向に伸びる第1溝121Xと、シールリング100Xの内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びる第2溝122Xとが設けられている。本実施例においては、第1溝121Xにおける一対の動圧発生用溝121Xaは、径方向の幅が一定となるように構成されている。そして、本実施例に係る第2溝122Xの溝底は、径方向の外側から内側に向かって溝深さが深くなる階段状の段差面により構成されている。より具体的には、第2溝122Xの溝底は、径方向内側の溝底面122Xaと径方向外側の溝底面122Xbとからなる2段の段差面により構成されている。そして、径方向内側の溝底面122aの方が、径方向外側の溝底面122Xbよりも溝底が深くなるように構成されている。なお、本実施例では、第2溝122Xの溝底が、2段の段差面により構成される場合を示したが、3段以上の段差面により構成することも可能である。
【0112】
以上のように構成された本実施例に係る第1溝121X及び第2溝122Xによって、上記実施形態で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、第2溝122Xの溝底は、径方向の外側から内側に向かって溝深さが深くなる階段状の段差面により構成されているので、第2溝122X内に進入した異物を積極的にシールリング100Xの内周面側に排出させることができる。
【0113】
(実施例15)
図43〜
図46を参照して、本発明の実施例15に係る第1溝121X及び第2溝122Xについて説明する。
図43は本発明の実施例15に係るシールリングの側面図の一部拡大図であり、第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている付近を拡大した図である。
図44は本発明の実施例15に係るシールリングの模式的断面図であり、
図43中のCC断面図である。
図45は本発明の実施例15に係るシールリングの模式的断面図であり、
図43中のEE断面図である。
図46は本発明の実施例15の変形例に係るシールリングの模式的断面図である。
【0114】
上記実施形態2で説明したように、シールリング100Xの摺動面側には、周方向に伸びる第1溝121Xと、シールリング100Xの内周面から第1溝121Xにおける周方向の中央の位置に進入する位置まで伸びる第2溝122Xとが設けられている。本実施例においては、第1溝121Xにおける一対の動圧発生用溝121Xaは、径方向の幅が一定となるように構成されている。そして、本実施例に係る第2溝122Xの溝底は、径方向の外側から内側に向かって溝深さが深くなる傾斜面122Xcにより構成されている。
【0115】
以上のように構成された本実施例に係る第1溝121X及び第2溝122Xによって、上記実施形態2で説明した作用効果を得ることができる。また、本実施例においては、第2溝122Xの溝底は、径方向の外側から内側に向かって溝深さが深くなる傾斜面122Xcにより構成されているので、第2溝122X内に進入した異物を積極的にシールリング100Xの内周面側に排出させることができる。
【0116】
なお、本実施例では、第2溝122Xの溝底全体が傾斜面で構成される場合を示したが、例えば、
図46に示す変形例のように、第2溝122Xの溝底面のうち、径方向外側を平面で構成し、径方向内側を径方向の外側から内側に向かって溝深さが深くなる傾斜面122Xdにより構成することもできる。この場合でも、同様の効果を得ることができる。
【0117】
(その他)
上記各実施例11〜14では、動圧発生用溝121Xaの溝底が、平面状の傾斜面により構成される場合を示したが、内周面側か外周面側に膨らむような湾曲面状の傾斜面により構成してもよい。また、第1溝121X及び第2溝122Xについては、シールリング100Xの片面にのみ設けても良いし、両面に設けても良い。要は、これらの第1溝121X及び第2溝122Xが設けられている面が摺動面となるようにすればよい。