(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の実施形態にかかる高圧放電ランプの構成を示す図、
図2はこの放電ランプの電極の構成例を示す図である。
図1に示すように、放電ランプ10の発光管は石英ガラスからなり、略楕円球形の発光部11とその両端に連設されたロッド状の封止管部12とを備えて構成される。
発光部11の内部にはタングステンよりなる一対の電極20a,20bが、極間2mm以下の間隔で対向配置されている。電極20a,20bは
図2に示すように、小電力点灯時において、先端に形成された一次突起21aと、21bと、一次突起の先端にさらに形成された二次突起22aと、22bとを有する。
なお、この実施形態にかかる放電ランプ10においては、定常点灯時は交流点灯方式で点灯されるものであり、電極20a,20bの構成は、定常点灯時における熱的設計を容易にする目的で、すべて同一の構成とされている。
発光管の両端に位置する封止管部12の各々の内部にはモリブデンよりなる帯状の金属箔13が埋設され、この金属箔13の発光部11側の端部には電極20a,20bの軸部202、202が、他方の端部には外部リード棒14、14に接続される。
【0014】
発光管部12の内部には、放電媒体としての水銀と、希ガスと、ハロゲンガスが封入され、発光空間Sが形成される。
水銀は、必要な可視光波長、例えば、波長360〜780nmという放射光を得るためのものであり、0.15mg/mm
3 以上封入されている。この封入量は、温度条件によっても異なるが、点灯時150気圧以上という極めて高い蒸気圧を形成するためのものである。また、水銀を0.20mg/mm
3 以上封入することで点灯時の水銀蒸気圧200気圧以上、300気圧以上という高い水銀蒸気圧の放電ランプを作ることができ、水銀蒸気圧が高くなるほどプロジェクタ装置に適した光源を実現することができる。
希ガスは、静圧で約10〜26kPa封入される。具体的には、アルゴンガスであり、このように希ガスを封入するのは、点灯始動性を改善するためである。
また、ハロゲンは、沃素、臭素、塩素などが水銀その他の金属との化合物の形態で封入され、ハロゲンの封入量は、10
−6〜10
−2μmol/mm
3 の範囲から選択される。
その機能は、ハロゲンサイクルを利用した長寿命化(黒化防止)もあるが、本発明の放電ランプのように極めて小型で高い内圧を有するものの場合、発光管の失透防止である。なお、発光空間Sには、更に他の放電媒体としてハロゲン化金属を封入することもできる。
【0015】
このような放電ランプについて具体的数値例を示すと、例えば、発光部11の最大外径10mm、電極間距離0.7mm、発光管の内容積80mm
3 、定格電圧65V、定格電力270Wであり、交流方式で点灯される。
また、この種の放電ランプは、小型化するプロジェクタ装置に内蔵されるものであり、装置の全体寸法が極めて小型化される一方で高い光量が要求されることから、発光部11内の熱的条件は極めて厳しいものとなり、ランプの管壁負荷値は1.5〜3.5W/mm
2 、具体的には2.9W/mm
2 となる。このような高い水銀蒸気圧や管壁負荷値を有することにより、プロジェクタ装置等のプレゼンテーション用機器に搭載された場合に演色性の良い放射光を提供することができる。
【0016】
本発明において、定格消費電力に対し平均して25〜80%の電力値で動作されるモードを「小電力点灯モード」という。
定格電力の25〜80%という小電力範囲でランプを点灯する場合、後述の点灯条件を採用することにより、二次突起の成長を円滑にし、かつ、二次突起の形状を長期間維持することができるので、安定的に点灯することができるとともに、電極の摩耗を防ぐことができる。
【0017】
図3を用いて、本発明の点灯モードの切り替えについて説明する。
この図において、横軸が時間、縦軸が点灯ランプ電力の定格ランプ電力に対する比率となっている。
時間T1までは、定格に対し100%での点灯が行われており、この期間は定常点灯モードである。時間T1において、プロジェクタなどの外部の制御部から、本点灯装置の制御部に対して点灯電力指令の信号が送信される。これを受けて、定常点灯モードから、小電力点灯モードへと点灯モードが切り替わる。
【0018】
小電力点灯モードでは、まず二次突起形成工程に移り、二次突起を生成する。この際、ランプ電力は一次突起のみでもフリッカが生じない電力(一次突起フリッカ安定電力、ここでは80%)まで一旦低下させる予備調光を行うと、二次突起生成工程に移った際に、明るさの差によるちらつきが生じにくく好ましい。なお、この予備調光は行わなくても良い。
【0019】
二次突起形成工程では、ランプ電力を下げながら素早く二次突起を形成していく。この際に、ランプ電力を段階的に下げながら二次突起を形成していくと、電力の差による明るさの差がちらつきとならず好適である。
【0020】
時間T2において二次突起が形成されたら、二次突起維持工程に移る。
二次突起維持工程に移るタイミング、すなわち二次突起が所望の形状に形成されたタイミングについては、種々の手段によって決定することができる。具体的には、実験に基づきT1からT2までの最も好ましい期間について求め、タイマー等によってこの期間を設定してもいいし、ランプ電流、ランプ電圧、もしくはランプ電力、またはこれらの合算パラメータによってタイミングを決定してもよい。
【0021】
T2の後は、小電力点灯モードの目標設定電力(ここでは65%)に到達し、二次突起維持工程での点灯が行われる。以後、小電力点灯モードが指示されている限り、二次突起維持工程での点灯が継続される。
【0022】
では、具体的に二次突起形成工程、および二次突起維持工程での点灯波形について説明する。
図4は本発明の実施形態1に基づく点灯波形の説明図である。以降、点灯波形は縦軸をランプ電流I
Lによる電流値、横軸を時間とする極性反転する矩形波パルスの交流電流波形を用いて説明する。
図4(a)は、定格点灯モードの波形の一例である。この点灯波形は、定常点灯モードにおける基本周波数60〜1000Hz(ここでは370Hz)である高周波で極性反転する高周波パートと、基本周波数よりも低い5〜200(ここでは30Hz)である低周波で極性反転する低周波パートとからなるサイクルの組合せで成立している。なお、低周波パートは、基本周波数どおりに極性判定しないことによって生成されている。
【0023】
これに対し、
図4(b)は、小電力点灯モードの二次突起形成工程における二次突起形成用交流電流SPFの点灯波形である。同じく極性反転する高周波交流電流であるが、二次突起形成工程における周波数は、定常点灯モードにおける基本周波数よりも高いものであり、例えば200〜2000Hz(ここでは1000Hz)である。
このように周波数を高くする理由は、交流点灯において電極の一次突起21aの先端から根元側に向かって加わる熱の範囲の長さ、すなわち熱拡散長を短くして、一次突起21aの先端のみに効率よく熱を伝えて素早く二次突起22aを形成するためである。
二次突起形成用交流電流SPFの周波数は、所定の熱拡散長、および温度変化を設定する観点から、500〜1500Hzであることがより好ましく、また600〜1100Hzであることがさらに好ましい。
【0024】
このような点灯波形とすることで、電極20aの先端に位置する一次突起21aのさらに限られた領域に効率よく熱が伝わり、一時突起21aの先端より二次突起22aが突出するように形成される。
【0025】
次に、小電力点灯モードにおける、二次突起維持工程について説明する。
図4(c)は、二次突起維持工程における二次突起維持用高周波電流と二次突起維持用低周波電流からなる二次突起維持用交流電流の点灯波形である。
二次突起形成工程と同じように、定常点灯モードにおける基本周波数よりも周波数が高い100Hz〜1500Hzの範囲から選択された周波数の二次突起維持用高周波電流SPMHを構成として備えているが、その他に二次突起維持用高周波電流SPMHよりも周波数が低い二次突起維持用低周波電流SPMLとからなる二次突起維持用交流電流SPMを備えている。
【0026】
二次突起維持用低周波電流は、簡単にいえば二次突起22aをあえて計画的に潰す電流である。
もし二次突起維持工程においても、前段の二次突起形成用電流での点灯をそのまま続けたとするならば、二次突起22aの成長が過剰になってしまい、電極材料であるタングステンのアーク熱による蒸発等による損耗が激しくなり、ハロゲンサイクルでタングステンが電極に帰還する際に、突起の先端ではない不所望な位置に帰還したり、損耗によって突起部自体のタングステン量が減少したりする。
【0027】
そこで、二次突起22aが成長しすぎないように、成長を抑制するために溶融させて小さくする。具体的には、この低周波部分によって、一方の電極にのみ比較的長期間熱エネルギーが投入されることによって、二次突起22aの先端が溶けて消失するものと推測される。
また、それだけではなく、低周波部分は熱拡散長が長いので、根元側である一次突起21aに投入される熱エネルギーも増加し、一次突起21aが温度上昇することによって、次の二次突起22aが形成されやすくなる。
このように、二次突起22aの成長を抑制しつつ、次の二次突起22aの成長の準備をしているのであって、単に二次突起22aを潰しているというわけではない。
【0028】
しかし、二次突起22aの成長を抑制しているのみでは、二次突起22a自体が消失してしまうので、ある程度二次突起22aを成長させるフェーズが必要となる。それが、二次突起維持用高周波電流SPMHのパートである。
二次突起維持用高周波電流は、簡単に言うと、二次突起22aをほどほどに成長させるものである。そのためには、熱拡散長を短く、すなわち定常点灯モード時の基本周波数よりも高い周波数とする必要がある。なお、二次突起22aを過剰に成長させないために、二次突起維持用高周波電流の周波数を、二次突起形成用交流電流の周波数以下(SPFの周波数≧SPMHの周波数)にしてもよい。すなわち、二次突起維持用高周波電流の役割は、二次突起形成用交流電流と類似しているといえる。
【0029】
しかし、二次突起維持工程において重要なことは、二次突起維持用高周波電流と、二次突起維持用低周波電流とが交互に現れるということである。
これによって、電極20aの一次突起21aの先端に形成された二次突起22aに投入される熱エネルギーに変化が生じ、二次突起22aが縮小されまた拡大するというサイクルが実行されることによって長期的に見れば二次突起22aが所望の形状に維持されているという効果がある。
二次突起維持用高周波電流の周波数は、二次突起22aをほどほどに成長させるという目的のもと、所定の熱拡散長、および温度変化を設定する観点から300〜1000Hzであることがより好ましく、500〜800Hzであることがさらに好ましい。
【0030】
図5に、本発明の第二の実施形態を示す。
上記で述べたように、二次突起維持工程においては、二次突起22aに投入される熱エネルギーをサイクル的に変化させることが重要であるが、ランプの発光部内部の状況は時々刻々と変化するために、熱エネルギーの変化のサイクルについても適宜調整をしてバランスをとる必要がある。
具体的には、定電力制御状態で電極先端の損耗があった場合には、電極間電圧は、ガス圧と電極間距離に依存していることから、ランプ電圧が上昇し、ランプ電流が低下することとなる。ランプ電流が低下すると、電極先端での発熱量が低下するので所望の熱エネルギーを二次突起22aに対して投入できないという事態も生じる。
また、定電力制御に限らず、連続調光制御(ランプ電力が変化)を行った場合でも、ランプ電圧は一定であるとすればランプ電流が低下することになるため、やはり熱エネルギーの投入が不足する場合がある。
このように、ランプ電流、ランプ電圧、ランプ電力に変化が生じた場合には、これらの変化の状況に合わせる必要があり、そのために二次突起維持工程の点灯波形を調整することで、好適に二次突起を維持することができると考えられる。
【0031】
図5には、その二次突起維持工程での点灯波形の変化についての一例を示す。ここでは、定電力制御において電極の損耗によってランプ電圧が上昇するモデルを例として説明する。
二次突起維持工程における二次突起維持用交流電流は、前述のように二次突起維持用高周波電流SPMHと、二次突起維持用低周波電流SPMLとから構成された、矩形波パルスのサイクルを繰り返すように点灯するものである。
【0032】
ここで、何らかの理由により電極が損耗して、ランプ電圧が上昇したとする。すると、ランプ電流が低下するために、二次突起22aに伝わる熱エネルギーが減少する。
この減少した熱エネルギーを補うために、点灯波形のパターンを、パターン1からパターン2へ移行する。パターン2は、パターン1と比較すると、二次突起維持用低周波電流SPMLの、二次突起維持用高周波電流SPMHに対する時間的比率が増加している。
すなわち、二次突起維持用低周波電流SPMLの割合を増やすことにより、二次突起22aに伝達される熱エネルギーを増加させることができて、不足分を補うことができる。
【0033】
さらに、ランプ電圧が上昇した場合には、パターン2からパターン3へ移行する。パターン3も、パターン2と比較すると、二次突起維持用低周波電流SPMLの、二次突起維持用高周波電流SPMHに対する時間的比率が増加している。
このように、定電力制御状態でランプ電圧が上昇している場合には、低周波部分の割合を増やすことによって、不足分の熱エネルギーを補うことができる。逆に言い換えれば、高周波部分の時間的割合を減らすことで同様の効果を得ることができるともいえる。
これを連続調光制御状態に置き換えると、ランプ電流が低下している場合には、低周波部分の割合を増やすことによって、不足分の熱エネルギーを補うことができることとなる。
なお、低周波波形については、「擬似的な低周波」としてもよい。この「擬似的な低周波」の点灯波形の具体例については後述する。
この考え方を応用すると、低周波部分の時間的割合を増やすことの他に、以下の手段を用いることもできる。
【0034】
図6に、本発明の第三の実施形態を示す。
この図においては、
図4に示した第一の実施形態を元にして、第三の実施形態についての点灯波形を示すものであり、
図6(a)は、二次突起形成用交流電流の点灯波形を示している。
この点灯波形例では、通常ランプ電流値Inである矩形波パルスに対して、付加的に電流値を重畳させている。ここで重畳する電流をブースト電流Ibとする。
ブースト電流Ibは、その点灯波形における基本周波数の矩形波パルス(半波)であり、二次突起形成工程においては二次突起形成用交流電流の周波数(半波)である。
ブースト電流Ibを挿入する時間的頻度としては、周波数に応じて例えば0.25〜10msに1回の頻度であることが好ましい。時間的頻度については、後述するが熱エネルギーの調整という意味があり、より好ましくは0.5〜5msに1回、さらに好ましくは1〜3msに1回である。
【0035】
このようにブースト電流を挿入することで、周波数を変えずに、すなわち熱拡散長を維持したまま二次突起を形成するために投入する熱エネルギーを増加させることができ、二次突起を素早く形成することができる。
ただし、常にブースト電流を挿入すると、電流の平均値自体が大きく上昇してしまい小電力点灯の趣旨が没却されることになるし、二次突起を形成するために投入する熱エネルギーも大きければよいというものではなく、好適な範囲に限られる。
このような範囲を適切に設定するために、挿入の時間的頻度の他に、ブースト電流値Ibの通常ランプ電流値Inに対する重畳比率(ブースト比率)Ib/Inを調整することで、追加投入する熱エネルギーを調整することができる。
なお、ブーストによって生じうるちらつきは、重畳比率の変化は、目標重量比率を設定し、目標重畳比率に向けて段階的に重畳比率を変化させることによって低減することができる。
したがって、ブースト電流は必要に応じ適切な時間的頻度、および適切なブースト比率で挿入される。
【0036】
図6(b)には、
図6(a)にて示したブースト電流の挿入を二次突起維持工程に応用した点灯波形を示している。
二次突起維持工程の高周波パート(SPMH)においては、二次突起形成工程と類似した役割が必要となることから、同様にブースト電流を挿入して熱エネルギーを追加投入することによって、二次突起を素早く形成しやすくなるという効果がある。
【0037】
一方、低周波パート(SPML)においては、1回の極性反転の低周波パルス中に2回以上ブースト電流を挿入することで、タングステンを蒸発させるという従来例と同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、
図5に示したように、二次突起維持工程において、ランプ電流、ランプ電圧、ランプ電力若しくはこれらの合算パラメータが変化したときは、この変化に応じて低周波期間を増加させる代わりに、ブースト比率、または挿入頻度を変化させてもよい。
ブースト比率の上昇、また挿入頻度の上昇によって、不足分の熱エネルギーを補うことができるという効果を得ることができるからである。
【0039】
図7に、本発明の技術的範囲に含まれる点灯波形の応用例について示す。
図7(a)には、二次突起形成工程での点灯波形の応用例を示す。この図においては、ブースト電流を利用して擬似的な低周波状態を作り出している。
具体的には、期間CLT1において、3回のブースト電流の挿入によって、投入される電力が+側に偏っており、低周波期間のように一方の電極に対して一定期間連続して多目に熱エネルギーが投入された状態となっている。
この状態を、擬似的に低周波が作り出された偽装低周波期間CLT1とする。すなわち、高周波点灯でありながら低周波期間を擬似的に作り出すことができる。
【0040】
二次突起形成工程において、擬似的に低周波期間を作り出すことについては以下のような意味がある。二次突起形成工程においては、素早く二次突起を形成することが求められるため、周波数は高いまま維持することが好ましい。しかし、二次突起の種となる微小突起が一次突起の先端以外の不所望な場所に形成される場合があり、このような不所望な微小突起は排除したい。
そこで、擬似的に低周波を作り出すことで、先端よりも根元側へ熱拡散領域を延ばし、不所望な位置に形成される微小突起を溶融させてしまい、排除することができる。その間も高周波点灯が維持されるので、二次突起が素早く形成されるという効果を持続することができる。
このように、擬似的な低周波を発生させる偽装低周波期間を設けることによって、複数の熱拡散長を有する点灯波形を作り出すことができるのである。
【0041】
図7(b)は、
図7(a)をさらに応用した点灯波形を示す。
この図においては、微視的に観察すればブースト電流が2回挿入された第1の偽装低周波期間CLT11が設けてあるといえる。さらに巨視的に観察すれば、この第1の偽装低周波期間が7回含まれた第2の偽装低周波期間CLT12が設けてあるといえる。
このように、偽装低周波期間を複数設けて様々な熱拡散長を有するように調整することができる。
【0042】
図7(c)は、
図7(b)をさらに応用した点灯波形を示す。
二次突起形成工程において、定電力制御にてランプ電圧が上昇し、ランプ電流が不足して二次突起を形成するための熱エネルギーが不足する場合がある。この場合、ブースト電流を挿入することによって不足分を補うことができるが、ブースト電流を挿入してもなお熱エネルギーが不足する場合には
図7(c)のように低周波が混在した波形としてもよい。
これによって、二次突起を形成するために不足している熱エネルギーを補充することができる。しかし、周波数としては低くなるので二次突起を形成する速度がやや低下するが、これについては必要に応じて適宜採用するものである。
例えば図示の波形においては、短い熱拡散長を維持するために高周波のブースト電流を低周波パルス上に重畳させている。これによって、ある程度の高周波性が確保されているといえよう。
図7(d)も、
図7(b)をさらに応用した点灯波形である。
図7(d)では、十分に短い熱拡散長で駆動させるだけでは熱エネルギーが確保できないが場合などに、低周波を断続的に重畳させることで、熱エネルギーを確保するものである。
このように、投入する熱エネルギーを調整する手段として低周波成分を適宜挿入してもよいが、その場合は低周波パルス上に高周波成分と同じ周波数の矩形波パルスをブースト電流として重畳することで、高周波性を確保し、二次突起の成長をある程度確保することができる。
【0043】
図8には、二次突起維持工程での点灯波形の応用例を示す。
図8(a)、(b)においては、高周波時と低周波時の点灯波形をそれぞれ示す。
図8(a)の高周波パート(SPMH)では、
図6(b)に示した、一定頻度でブースト電流が挿入される高周波点灯波形となっている。
低周波パート(SPML)では、
図7(c)で示した、偽装低周波期間CLT1、CLT2を有する点灯波形となっている。このように、低周波について必ずしも厳密な低周波パルスとせずとも、実質的に低周波の機能を得ることができる偽装低周波期間を有する点灯波形としてもよい。
【0044】
図8(b)の高周波パートでは、
図4(c)に示した、通常の矩形高周波パルスとなっている。
低周波パートでは、通常連続しているはずの低周波期間の一部を部分的に極性反転させて、その結果低周波部分に抜けが生じて断続的な極性反転となっている偽装低周波期間CLT1、CLT2を有する点灯波形を示す。
このような点灯波形とする利点は、詳しい説明については割愛するが、回路の構成、およびこの回路を構成する素子の問題として、一定期間以上低周波を連続することができないことがあり、息継ぎ的に極性反転をすることによって、例えば所定のキャパシタンスなどで充放電を行いその問題を解決することができる。その場合、厳密にいえば低周波ではないが実質的に見て低周波である偽装低周波期間CLT1、CLT2を設けることで、完全な低周波とした場合とほぼ同等の効果を得ることができる。
以上のように二次突起形成維持用交流電流として様々な波形を採用することができるが、これらの点灯波形は、前述のようにランプ電力、ランプ電圧、若しくはランプ電流、又はこれらの合算パラメータに応じて変化させてもよい。
【0045】
図9に本発明の実施形態に係る点灯装置(給電装置)の構成例を示す。
点灯装置は放電ランプと給電装置から構成される。
給電装置は、直流電圧が供給される降圧チョッパ回路U1と、降圧チョッパ回路U1の出力側に接続され、直流電圧を交流電圧に変化させて放電ランプに供給するフルブリッジ回路U2と、放電ランプ10に直列接続されたコイルL1、コンデンサC1、およびスタータ回路3と、上記フルブリッジ回路2のスイッチング素子Q1〜Q4を駆動するドライバ4と、制御部5とから構成される。 制御部5は例えばマイクロプロセッサ等の処理装置で構成することができ、ここではその機能構成をブロック図で示している。
【0046】
図9において、降圧チョッパ回路U1は、直流電圧が供給される+側電源端子に接続されたスイッチング素子QxとリアクトルLxと、スイッチング素子QxとリアクトルLxの接続点と−側電源端子間にカソード側が接続されたダイオードDxと、リアクトルLxの出力側に接続された平滑コンデンサCxと、平滑コンデンサCxの−側端子とダイオードDxのアノード側の間に接続された電流検出用の抵抗Rxから構成される。
上記スイッチング素子Qxを所定のデューティで駆動することにより、入力直流電圧Vdcをこのデューティに応じた電圧に降圧する。降圧チョッパ回路U1の出力側には、電圧検出用の抵抗R1,R2の直列回路が設けられている。
フルブリッジ回路U2は、ブリッジ状に接続したスイッチング素子Q1〜Q4から構成され、スイッチング素子Q1,Q4、スイッチング素子Q2,Q3を交互にオンにすることにより、スイッチング素子Q1,Q2の接続点と、スイッチング素子Q3,Q4の接続点間に矩形波状の交流電圧が発生する。
【0047】
スタータ回路U3は、コイルLh及びコンデンサChを備えている。放電ランプ10が始動する際に、コイルLh、コンデンサChからなるLC直列回路の共振周波数近傍の高いスイッチング周波数の交流電圧がブリッジ回路U2から印加されることにより、スタータ回路U3の出力側において放電ランプ10の始動に必要な高い電圧が生成され、これが放電ランプ10に供給される。なお、放電ランプ10が点灯した後は、フルブリッジ回路U2から定格点灯時の周波数(60Hz〜1000Hz)に移行し、通常点灯が行われる。
【0048】
上記回路において、出力電力の制御及び上記ブースト率の調整は降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxの動作デューティを調整することで達成できる。
降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxは、ゲート信号Gxのデューティに応じてオン/オフし、ランプ10に供給される電力が変化する。すなわち、電力アップならQxのデューティを上げ、電力ダウンならQxのデューティを下げるなどして、その入力された電力調整信号値に合致する電力値になるようにゲート信号Gxの制御を行う。また、ブースト時には、Qxのデューティを上げ、ベース電流値よりも大きな電流値を有するブースト電流を流す。
交流駆動周波数の調整は、フルブリッジ回路U2のスイッチング素子Q1〜Q4のスイッチング周期を調整することで実現される。
【0049】
制御部5は、駆動信号発生部51とコントローラ52から構成される。
駆動信号発生部51は、例えば、プロセッサなどから構成され、フルブリッジ回路2のスイッチング素子Q1〜Q4を駆動するための駆動信号を発生する。
コントローラ52は、ランプ10の点灯動作を制御する点灯動作制御部52aと、駆動信号発生部51の出力を制御する駆動信号選択部52bと、外部からの点灯電力指令に応じて、降圧チョッパ回路1のスイッチング素子Qxを設定されたデューティで駆動し、ランプ電力を制御する電力制御部52cを備える。
【0050】
電力制御部52cは、電流検出用の抵抗Rxの両端電圧と、電圧検出用の抵抗R1,R2により検出された電圧から、ランプ電流I、ランプ電圧Vを求めてランプ電力を演算し、この電力が点灯電力指令に一致するように降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxのデューティを制御する。また、点灯電力指令の値から定格点灯か、小電力点灯かを判別し、判別結果を駆動信号選択部52bに送出する。
電力制御部52cは、また、点灯電力指令信号が小電力点灯モードに切り替わると、その小電力点灯信号を駆動信号選択部52bに送信する。駆動信号選択部52bは、その小電力信号に応じた駆動信号選択信号を、駆動信号発生部51に送信する。
駆動信号発生部51は、駆動信号選択信号に応じて、駆動信号を発生し、ドライバ4に送信する。
例えば、定格点灯時、小電力点灯時には、それに対応した周波数の駆動信号が出力され、ブースト時にはブースト信号に対応した駆動信号が出力される。
フルブリッジ回路U2は、ドライバ4からのドライブ信号に応じた極性反転動作を行う。 また、駆動信号選択部52bは、ブースト時にブースト信号を、電力制御部52cに送信し、電力制御部52cはブースト信号が出力される期間、出力電力を前述ししたようにブーストする。
【0051】
以下、本実施例の点灯装置の動作について説明する。
点灯指令が与えられると、ランプ10への給電が開始されると共に、コントローラ52の点灯動作制御部52aは、始動回路駆動信号を発生し、スタータ回路U3によってランプ10を点灯させる。
ランプ10が点灯すると、電力制御部52cにおいて、分圧抵抗R1、R2により検出される電圧値Vと、抵抗Rxにより検出される電流値Iにより点灯電力が演算される。
コントローラ52の電力制御部52cは、点灯電力指令信号と、上記演算された電力備に基き、降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxを制御して、点灯電力を制御する。
すなわち、降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxは、ゲート信号Gxのデューティに応じて変化し、外部から点灯電力指令(電力調整信号)が入力されると電力アップならスイッチング素子Qxのデューティを上げ、電力ダウンならスイッチング素子Qxのデューティを下げるなどして、その入力された点灯電力指令に合致する電力値(電力調整信号値)になるようにゲート信号Gxの制御を行う。
【0052】
点灯電力指令値が大きい(ランプの定格電力の80%より大きい)の定常点灯時には、コントローラ52の駆動信号選択部52bは、駆動信号発生部51から定常点灯時に対応した予め決められた駆動信号を出力させ、ドライバ4を駆動する。また、電力制御部52cは駆動信号選択部52bからの定常点灯信号に応じて、出力電力を定常点灯電力に設定する。
これにより、フルブリッジ回路2は、ドライバ4からのドライブ信号に応じた極性反転動作を行い、ランプ10は、定常点灯モードの波形で点灯する。その時の点灯周波数は60Hz〜1000Hzで駆動され、合わせて5〜200Hzで駆動される低周波が挿入されている。
また、点灯電力指令値が小さい、すなわち定格電力の80%以下(実用的には25〜80%)である小電力点灯時には、コントローラ52の駆動信号選択部52bは、駆動信号発生部51から、小電力点灯時に対応した予め決められた駆動信号を出力させ、ドライバ4を駆動する。また、電力制御部52cは駆動信号選択部52bからの小電力点灯信号に応じて、出力電力を小電力点灯電力に設定する。
これにより、フルブリッジ回路U2は、ドライバ4からのドライブ信号に応じた極性反転動作を行い、ランプ10は、
図4等に示した小電力点灯モードの波形で点灯する。
【0053】
上記ブースト点灯動作についても簡単に説明する。
小電力点灯時、点灯動作制御部52aは、所定の周期でブースト信号を出力する。駆動信号選択部52bは、ブースト信号に応じて、駆動信号発生部51から駆動信号を出力させる。
一方、上記ブースト信号は電力制御部52cに与えられ、電力制御部52cはブースト信号に応じて、降圧チョッパ回路U1のスイッチング素子Qxのデューティを上げ、ベース電流値よりも大きなブースト電流を供給する。
これにより、ブースト信号が出力される毎に、放電ランプには、通常ランプ電流値Inよりも大きな電流値を有するブースト電流が供給される。
【実施例】
【0054】
図10に、本発明の実施例として、効果を検証した実験結果を以下に示す。
本発明の実施例として
図4に示した点灯波形による点灯を、従来例として
図11に示した点灯波形よる点灯を、
図3に示した点灯モードの切り替えを行ってフリッカの発生状況を評価することにより、二次突起の形成および維持についての本発明の効果を検証した。
本発明では、小電力点灯モードの二次突起形成工程における二次突起形成用交流電流の周波数を1000Hz、二次突起維持工程における二次突起維持用高周波電流の周波数を720Hz、二次突起維持用低周波電流の周波数を120Hzとした。
従来例では、小電力点灯モードを2つの工程に分けることなく常に740Hzの高周波電流と、92.5Hzの低周波電流からなる点灯波形パターンにて点灯を行った。
【0055】
本発明、従来例ともに評価に用いた放電ランプの定格電力は270Wであり、小電力点灯モードでの電力を定格電力に対して63%、すなわち170Wとした。
フリッカの発生は、投影面における照度変動率によって判定した。具体的には照度計を用いて100ms間隔で照度を測定し、その最大変化量による照度変動率が2.0%未満である場合を○(良好)、3.0%未満である場合を△(やや良好)、3.0%以上である場合を×(目標未達)とした。照度変動率が3.0%以上となると、人間の目によってフリッカとして視認されるからである。
【0056】
比較対照としての従来例では、目標小電力(調光比率63%)においても、工程を分けることなく一定の点灯波形によって点灯した。その結果、
図10の表に示すとおり、二次突起が形成されるのに時間がかかるためか、二次突起が形成されてフリッカが△(やや良好)となるまで3分間を要した。以後、二次突起形成の試験として1時間点灯継続しフリッカが○(良好)となって安定することが確認された。
さらにそのまま点灯試験を継続し、同じ点灯波形にて点灯していたところ、点灯開始から50時間の時点で突如照度変動率が上昇し、△(やや良好)まで低下した。そして、100時間経過した時点において3%を超えて×(目標未達)となった。
以上の結果から、従来例では十分に時間をかければ二次突起を形成可能であるが、そのまま連続的に点灯すると、二次突起が消滅し、長時間での小電力点灯に影響があることがわかった。
【0057】
本発明の実施例では、小電力モードに切換えてから1時間は二次突起形成の試験を行うために、二次突起形成工程の点灯波形で点灯を行った。その1時間が経過した後は、二次突起維持の試験を行うために、二次突起維持工程の点灯波形で点灯を行った。
その結果、本発明では小電力点灯モード開始1分でフリッカが○(良好)となって安定し、素早く二次突起が形成されたということがわかる。さらにそのまま点灯しても、フリッカが悪化することはなかった。
1時間経過し、二次突起維持工程に移った後も、フリッカは安定していた。そのまま100時間経過してもフリッカは安定していたので、この時点で試験終了とした。
以上のように、本発明は従来例と異なり、小電力点灯モードにおいて、二次突起の形成と、二次突起の維持という工程に分け、それぞれに最適化した点灯波形とすることで、小電力点灯において発生しやすいフリッカの問題を解決することができた。