(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記筋交い部材は、一方の前記昇降シリンダの上端と、他方の前記昇降シリンダの下端とを接続するとともに、これら昇降シリンダに対して回転可能に取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の脱線復旧装置。
前記支持体は、該支持体から下方に突出して前記幅方向から前記レールに接触可能に設けられたフランジ部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の脱線復旧装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された脱線復旧装置では、車両を持ち上げる際には、昇降用シリンダからの力を受けるパッキン等の当て板が必要となる。そして、この場合、位置調整や当て板を設置する基礎部分(バラストなど)の状態確認を要するため、当て板の設置作業に時間を要してしまうという問題がある。また特に、レールの分岐位置ではレールが複数並んで設置されている。このため、このような分岐位置で脱線復旧作業を行う場合には、これら複数のレールに干渉しないように当て板を設置する必要があり、当て板が大掛かりなものとなってしまい、作業時間も要してしまう。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、脱線位置に関わらず、容易に脱線からの復旧が可能な脱線復旧装置、保守用車両、及び脱線復旧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る脱線復旧装置は、車体に設けられた車輪が転動する一対のレール上に跨るように配置可能な支持体と、前記支持体に対して前記車体の幅方向に移動可能な移動体と、前記車体における前記幅方向の両側に設けられ、該車体に対して前記移動体及び前記支持体を上下方向に相対変位させる一対の昇降シリンダと、を備え、前記車体及び前記移動体のうちの一方は、前記支持体に対して前記幅方向に移動可能に設けられた本体部と、該本体部に対して前記幅方向に移動可能に設けられたスライダと、を有し、前記一対の昇降シリンダは、一端が前記車体及び前記移動体のうちの他方に剛結されるとともに、他端が前記車体及び前記移動体のうちの一方に対して回転可能に取り付けられ、かつ、前記一対の昇降シリンダのうちの一方の該昇降シリンダにおける他端は前記スライダを介して前記車体及び前記移動体のうちの一方に取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
このような脱線復旧装置によれば、脱線が発生して車輪が脱輪した際に、まず支持体をレール上に跨るように配置し、レールから反力を受けるようにして、昇降シリンダによって移動体及び支持体を車体に対して下方に相対変位させることで車体を上昇させる。従ってこの際、昇降シリンダからの力はレールで受けるため、この力を受けるための当て板等の部材を軌道上に別途設ける必要がない。特に、分岐位置などで複数のレールが並列に設けられている位置であっても、これら複数のレールに干渉しないように別途の部材を設ける必要はないため、容易に支持体によって車体を上昇させることができる。
そして、上昇した車体は移動体によって幅方向に移動された後に、上昇時と同様にレールから反力を受けるようにして車体が昇降シリンダによって下降させられ、車輪がレール上に載置される。
ここで、一対の昇降シリンダのうちの一方はスライダを介して移動体(又は車体)に取り付けられ、また一対の昇降シリンダがともに移動体(又は車体)に回転可能に取り付けられている。このため、この一方の昇降シリンダと、他方の昇降シリンダとの伸縮量を異なるように動作させたとしても、スライダが幅方向に移動することでこのような昇降シリンダを円滑に動作させることができる。従って、軌道にカントが設けられた位置で脱線した際には、支持体がレール上に配置されると車体は鉛直方向に対して傾斜した状態となるが、このように一対の昇降シリンダの伸び量を異なるようにして動作させることで、車体を鉛直方向に上昇させることができる。この結果、脱線復旧作業中に車体を上昇させる際、車体が転倒することを防ぐことができる。
【0010】
また、前記スライダは、前記移動体に設けられ、前記一対の昇降シリンダは、一端が前記車体に剛結されるとともに、他端が前記移動体に対して回転可能に取り付けられ、かつ、前記一対の昇降シリンダのうちの一方の該昇降シリンダにおける他端は前記スライダを介して前記移動体に取り付けられていてもよい。
【0011】
このようにすることで、スライダを車体側に設ける場合と比べ、スライダの設置が容易である。
【0012】
また、前記スライダは、前記移動体における前記本体部に対して前記幅方向に転動可能に設けられたローラーを有していてもよい。
【0013】
このようにスライダにローラーを用いることで、一対の昇降シリンダの伸縮量を異なるようにして動作させた際には、より滑らかにスライダの動作が可能となる。よって、軌道にカントの設けられた位置で脱線した場合であっても、車体を鉛直方向に円滑に上昇させ、脱線復旧が可能となる。
【0014】
また、本発明に係る脱線復旧装置は、車体に設けられた車輪が転動する一対のレール上に跨るように配置可能な支持体と、前記支持体に対して前記車体の幅方向に移動可能な移動体と、前記車体における幅方向両側に設けられ、該車体に対して前記移動体及び前記支持体を上下方向に相対変位させる一対の昇降シリンダと、前記一対の昇降シリンダと、前記車体及び前記移動体との間の角度を保持する筋交い部材と、を備え、前記一対の昇降シリンダは、上端が前記車体に対して回転可能に取り付けられているとともに、下端が前記移動体に対して回転可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0015】
このような脱線復旧装置によれば、軌道にカントが設けられた位置で脱線した際、支持体がレール上に配置されると、車体は鉛直方向に対して傾斜した状態となる。この状態で、一対の昇降シリンダの伸び量を異なるようにして動作させると、一対の昇降シリンダは、車体に対して回転しながら伸び、支持体がレール上に配置されたまま車体を鉛直方向に上昇させることが可能となる。従って、脱線復旧作業中、車体を上昇させる際に車両が転倒することを防ぐことができる。
さらに、筋交い部材、昇降シリンダ、移動体がトラス構造を構成しており、脱線復旧装置全体が高い剛性を有し、脱線復旧装置の耐久性の向上が可能となる。
【0016】
また、前記筋交い部材は、一方の前記昇降シリンダの上端と、他方の前記昇降シリンダの下端とを接続するとともに、これら昇降シリンダに対して回転可能に取り付けられていてもよい。
【0017】
筋交い部材、昇降シリンダ、移動体がシンプルなトラス構造を構成しているため、コストを抑えつつ脱線復旧装置の耐久性の向上が可能となる。また、これら筋交い部材、昇降シリンダ、移動体がそれぞれ回転可能に取り付けられていることで、昇降シリンダが伸縮した際にそれぞれの部材にはモーメントが作用せず、この点においても耐久性の向上が可能となる。
【0018】
さらに、前記支持体は、該支持体から下方に突出して前記幅方向から前記レールに接触可能に設けられたフランジ部を有していてもよい。
【0019】
支持体がレール上に配置され、車体の昇降、及び、移動体の移動の際に幅方向への力が支持体に作用したとしても、フランジ部がレールに接触することで、支持体がレール上で滑って、レール上から逸脱しまうことを防止できる。このため、スムーズな脱線復旧作業が可能となる。
【0020】
また、本発明に係る保守用車両は、上記の脱線復旧装置と、前記脱線復旧装置が設けられた車体とを備えることを特徴とする。
【0021】
このような保守用車両によれば、分岐位置などで複数のレールが並列に設けられている位置で車両が脱線した場合であっても、これら複数のレールに干渉しないように当て板等の別途の部材を設ける必要はないため、容易に支持体によって車体を昇降させることができる。また、軌道にカントが設けられた位置で車両が脱線した際には、一対の昇降シリンダの伸び量を異なるようにして動作させることができ、車体を鉛直方向に上昇させることが可能となる。この結果、脱線復旧作業中に車体を上昇させる際、車体が転倒することを防ぐことができる。
【0022】
また、本発明に係る脱線復旧方法は、車体に設けられた車輪が転動する一対のレール上に跨るように、支持体及び該支持体に設けられた移動体を配置する配置工程と、前記車体における幅方向両側に設けられた一対の昇降シリンダによって前記車体に対して前記移動体及び前記支持体を下方に相対変位させて前記車体を上昇させる上昇工程と、前記移動体を該支持体に対して前記車体の幅方向に移動させる横送り工程と、前記車輪が前記レールの上方に位置した際に、前記一対の昇降シリンダによって前記車体に対して前記移動体及び前記支持体を上方に相対変位させて前記車体を下降させ、前記車輪を前記レールに載置する下降工程と、を備え、前記上昇工程では、前記車体に対して前記移動体及び前記支持体を下方に相対変位させた際に、前記車体を鉛直方向に移動させることを特徴とする。
また、前記上昇工程において、前記一対の昇降シリンダのうちの一方の該昇降シリンダの前記上端または前記下端を、前記支持体に対して前記幅方向に移動可能に設けられた本体部に対して前記幅方向に移動可能に設けられたスライダによって、前記車体及び前記移動体のうち一方に対して前記幅方向に移動させてもよい。
【0023】
このような脱線復旧方法によれば、分岐位置などで複数のレールが並列に設けられている位置で脱線した場合であっても、これら複数のレールに干渉しないように当て板等の別途の部材を設ける必要はないため、上昇工程、下降工程では容易に支持体によって車体を昇降させることができる。また、軌道にカントが設けられた位置で脱線した際には、一対の昇降シリンダの伸び量を異なるようにして動作させることができ、上昇工程で車体を鉛直方向に上昇させることが可能となる。この結果、脱線復旧作業中に車体を上昇させる際、車体が転倒することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の脱線復旧装置、保守用車両、及び脱線復旧方法によると、支持体がレールで支持され、かつ、車体を鉛直方向に上昇させることができるので、脱線位置に関わらず、容易に脱線からの復旧が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第一実施形態〕
以下、本発明の第一実施形態に係る保守用車両1について説明する。
保守用車両1は、軌道100の軌道面100a上に設けられたレール101上を走行しながら、レール101や架線の点検、保守を行うものである。以下、保守用車両1を単に車両1とする。
図1に示すように、車両1は、レール101上を走行する走行装置3と、走行装置3を支持する車体2と、車体2の走行方向の前後の端部に一つずつ設けられた脱線復旧装置5とを備えている。
なお、
図1は、車両1が軌道100上の分岐位置を走行している様子を示しており、レール101は、軌道100の幅方向となる車両1の幅方向(以下、単に幅方向とする)に互いに離間して、二対が設けられている。
以下、
図1、
図2、
図3の紙面に向かって左側を幅方向の左側とし、紙面に向かって右側を幅方向の右側とする。
【0027】
走行装置3は、レール101上を転動する車輪4が組み付けられた輪軸を有している。なお図示しないが、走行装置3は、電動機、台車枠等、その他の構成部品を有している。
【0028】
車体2は、走行装置3の上部に設けられて、走行装置3を支持している。
【0029】
次に、脱線復旧装置5について説明する。
図1及び
図2に示すように、各々の脱線復旧装置5は、レール101上に配置可能な支持体10と、支持体10の上部に設けられた移動体11と、支持体10と移動体11との間に設けられた横行シリンダ13と、移動体11と車体2の下部との間に設けられた一対の昇降シリンダ12とを備えている。
【0030】
支持体10は、幅方向の左右に延び、複数のレール101間に跨って配置可能な寸法となっている部材である。さらに、この支持体10は、支持体10から下方に突出して幅方向からレール101に接触可能に設けられたフランジ部10aを有している。
【0031】
フランジ部10aは、幅方向に互いに離間して一対が設けられている。そして、これらフランジ部10aの幅方向の内側を向く面同士の距離が、ちょうど一対のレール101の頭部における幅方向外側を向く面同士の距離と同等になっている。これにより、支持体10がレール101上に配置された際に、一対のフランジ部10aが一対のレール101に接触して、これら一対のフランジ部10aによって一対のレール101の頭部が幅方向外側から挟まれるようになっている。
【0032】
移動体11は、支持体10に対して幅方向に移動可能な本体部21と、本体部21に対して幅方向に移動可能なスライダ22とを有している。
【0033】
本体部21は、幅方向左右に延び、支持体10に取り付けられているとともに支持体10に対して幅方向に移動可能となっている。図示はしないが、例えば、支持体10又は本体部21の一方に幅方向に延びるレールが設けられ、このレールに支持体10及び本体部21の他方が噛み合うようにして、本体部21が支持体10に対してスライド移動可能になっている。
【0034】
スライダ22は、本体部21を幅方向に直交する走行方向に貫通するようにして幅方向に延びて形成された長孔16の内部に設けられ、この長孔16の内面に対して幅方向に転動可能なローラー17を有している。
【0035】
横行シリンダ13は、例えば油圧シリンダ等であって、支持体10に固定された横行シリンダ本体13aと、横行シリンダ本体13aに対して幅方向に伸縮可能に取り付けられ、かつ、端部が移動体11に固定された横行シリンダロッド13bとを有している。そして、横行シリンダロッド13bの伸縮によって、移動体11と支持体10とが幅方向に相対移動可能となっている。
【0036】
昇降シリンダ12は、例えば油圧シリンダ等であって、一端となる上端が車体2に剛結されるとともに、他端となる下端が移動体11に対して回転可能に取り付けられている。
具体的には、車体2の下部の左右両端部の位置に剛結された昇降シリンダ本体12aと、昇降シリンダ本体12aに対して上下方向に伸縮可能に取り付けられた昇降シリンダロッド12bとを有している。昇降シリンダロッド12bは、走行方向に延在するピン20によって移動体11にピン結合されることで、走行方向に延びる軸線回りに回転可能に移動体11に取り付けられている。
【0037】
そして、昇降シリンダロッド12bの伸縮によって、車体2に対して移動体11及び支持体10が上下方向に相対変位可能となっている。即ち、昇降シリンダロッド12bが伸びると移動体11及び支持体10に対して車体2が上昇し、昇降シリンダロッド12bが縮むと車体2が下降するようになっている。
【0038】
さらに、一対の昇降シリンダ12のうちの左側の昇降シリンダ12における下端、即ち昇降シリンダロッド12bの端部はスライダ22におけるローラー17を介して移動体11に取り付けられている。ローラー17と昇降シリンダロッド12bとは、回転可能にピン20によって結合されており、この下端がローラー17の転動にともなって、移動体11の本体部21に対して幅方向に移動可能となっている。
【0039】
次に、
図2及び
図4を参照して、水平な軌道100上で車両1が脱線した際の脱線復旧方法について説明する。
なお
図2では、
図1に示す分岐位置とは異なり、通常の走行軌道に車両1が位置している様子を示しており、レール101は一対のみが設けられているが、
図1に示す分岐位置に車両1が位置している場合であっても同様の手順で脱線復旧作業が行われる。
【0040】
図2(a)に示すように、車輪4がレール101から脱輪して車両1が脱線すると、軌道面100a上に車輪4が配される。
この状態から
図2(b)に示すように、支持体10が一対のレール101にわたって配されるように、かつ、支持体10のフランジ部10aが各々のレール101に対して幅方向の外側から接触可能となるように、横行シリンダ13の横行シリンダロッド13bを伸ばし、移動体11に対して支持体10を幅方向の右側に向かって移動させる。
【0041】
次に、
図2(c)に示すように、昇降シリンダ12を同じ長さ分ずつ伸ばして、一対のレール101に跨るように、支持体10及び移動体11をレール101上に配置する(配置工程S1)。この際、支持体10の各フランジ部10aは、幅方向外側から各レール101の頭部に接触する。
【0042】
そして、この状態から一対の昇降シリンダ12を同じ長さ分ずつさらに伸ばし、支持体10がレール101からの反力を受けながら、車体2に対して移動体11及び支持体10を下方に相対変位させて車体2を上昇させる(上昇工程S2)。この際、車輪4がレール101に干渉しない位置まで車体2が上昇される。
【0043】
そして、
図2(d)に示すように、横行シリンダ13を縮めることで、移動体11の本体部21を支持体10に対して幅方向の右側に移動させ、車体2を幅方向の右側に移動させる(横送り工程S3)。
【0044】
最後に、
図2(e)に示すように、車輪4がレール101の上方に位置した際に、一対の昇降シリンダ12における昇降シリンダロッド12bを同じ長さ分縮め、即ち、車体2を下降させ、車輪4をレール101上に載置し(下降工程S4)、脱線復旧が完了する。
【0045】
次に、
図3及び
図4を参照して、カントが設けられた軌道100上で車両1が脱線した際の脱線復旧方法について説明する。本方法では、幅方向左側に対して右側の高さが高くなるように、軌道面100aにカントが設けられている場合について説明する。
【0046】
まず、
図3(a)に示す車両1の走行時の状態から、
図3(b)に示すように車輪4がレール101から脱輪して車両1が脱線すると、軌道面100a上に車輪4が配される。
この状態から
図3(c)に示すように、横行シリンダ13の横行シリンダロッド13bを伸ばして、移動体11に対して支持体10を幅方向の右側に向かって移動させる。
【0047】
次に、昇降シリンダ12を同じ長さ分ずつ伸ばして、一対のレール101に跨るように、支持体10及び移動体11をレール101上に配置する(配置工程S1)。
【0048】
その後、
図3(d)に示すように、一対の昇降シリンダ12の長さが互いに異なるように伸ばし、支持体10がレール101から反力を受けながら車体2を上昇させる。この際、車輪4がレール101に干渉しない位置まで車体2が上昇される(上昇工程S2)。
【0049】
具体的には、幅方向左側の昇降シリンダ12の昇降シリンダロッド12bの方が長く伸びるようにし、軌道面100aに対して車体2を右斜め上方に上昇させる。この際、車体2が鉛直方向の上方に移動するように、昇降シリンダロッド12bの伸び量が不図示の制御部等によって制御される。なお制御部を用いなくとも、目視によって昇降シリンダロッド12bの伸び量を調整してもよい。
さらにこの際、一対の昇降シリンダ12における昇降シリンダロッド12bが移動体11との間で回転しつつ、移動体11におけるローラー17が本体部21の長孔16内で、幅方向右側から左側に向かって転動する。
【0050】
そして、
図3(e)に示すように、横行シリンダ13を縮め、車体2を幅方向の右側に移動させる(横送り工程S3)。この際、移動体11の本体部21はカントの付いた軌道面100aに平行にスライド移動する。
【0051】
最後に、
図3(f)に示すように、車輪4がレール101の上方に位置した際に、幅方向左側の昇降シリンダ12の昇降シリンダロッド12bの方が大きく縮むようにし、軌道面100aに対して車体2を左斜め下方に下降させ、車輪4をレール101上に載置することで(下降工程S4)、脱線復旧が完了する。
【0052】
この際、車体2の下面が軌道面100aに平行になるように、昇降シリンダロッド12bの縮み量が不図示の制御部、目視等によって調整される。
さらに、この際、一対の昇降シリンダ12における昇降シリンダロッド12bが移動体11との間で回転しながら、移動体11におけるローラー17が本体部21の長孔16内で、幅方向左側から右側に向かって転動する。
【0053】
このような車両1によると、脱線復旧装置5を備えることで、車輪4が脱輪して車両1が脱線した際に、まず支持体10をレール101上に跨るように配置し、レール101から反力を受けるようにして昇降シリンダ12で車体2を上昇させる。従って、昇降シリンダからの力はレールで受けるため、この力を受けるための当て板等の部材を別途軌道面100a上に設ける必要はない。
【0054】
特に、
図1に示すような分岐位置などで、複数のレール101が並列に設けられている位置で車両1が脱線した場合には、これら複数のレール101に干渉しないように昇降シリンダ12からの力を受けるための当て板等を設ける必要がなくなることで、作業時間を省くことが可能となる。このため、容易に支持体10によって車体2を上昇させることができる。
【0055】
そして、一対の昇降シリンダ12がともに移動体11に回転可能に取り付けられており、左側の昇降シリンダ12はスライダのローラー17を介して移動体11に取り付けられている。このため、一対の昇降シリンダ12の伸縮量を異なるように動作させたとしても、ローラー17が幅方向に移動することで、このような昇降シリンダ12を円滑に動作させることが可能となる。
【0056】
従って、カントが設けられた位置で車両1が脱線した際に、支持体10がレール101上に配置されると、車体2は鉛直方向に対して傾斜した状態となるが、このように一対の昇降シリンダ12の伸び量を異なるようにして動作させることで、車体2を鉛直方向に上昇させることができる。よって、脱線復旧作業で車体2を上昇させる際に、車体2が転倒してしまうことを防ぐことができる。
【0057】
また、スライダ22がローラー17を有していることで、一対の昇降シリンダ12の伸縮量を異なるようにして動作させた際には、より滑らかに昇降シリンダロッド12bの下端を幅方向に動作させることができる。よって、車両1がカントの設けられた位置で脱線した場合であっても、より円滑に車体2を鉛直方向に上昇させることができる。
【0058】
本実施形態の車両1によると、支持体10がレール101に支持され、かつ、車体2を鉛直方向に上昇させることができるので、カントが設けられた位置や分岐位置など、どのような位置で車両1が脱線した場合であっても、容易に脱線からの復旧が可能となる。
【0059】
なお、本実施形態では、スライダ22にはローラー17を用いているが、例えば、本体部21の長孔16内に設けられて、長孔16の内面との間で摺動可能なブロック状の部材等を用いてもよく、スライダ22はローラー17には限定されない。
【0060】
また、移動体11は支持体10に対して幅方向に移動可能になっているが、例えば前後方向に伸縮可能なシリンダを移動体11と支持体10との間に別途設け、移動体11を走行方向の前後に移動可能としてもよい。そしてこの場合、昇降シリンダ12と移動体11とは例えば球面軸受等を介して結合することで、移動体11を支持体10に対して二次元的に移動させることが可能となり、より様々な状態での脱線からの復旧が可能となる。
【0061】
また、
図5に示すように、スライダ22は車体2の下部に設けられ、一対の昇降シリンダ12の昇降シリンダ本体12aの端部が移動体11に剛結されるとともに、車体2に対して回転可能に取り付けられ、かつ、左側の昇降シリンダ12の昇降シリンダロッド12bの端部はスライダ22を介して車体2の下部に取り付けられていてもよい。即ち、上昇工程S2では、軌道面100aに対して垂直に昇降シリンダ12が延びたままの状態で、車両1が鉛直方向に上昇する。
【0062】
具体的には、
図5(a)に示すように、カントが設けられた軌道100で脱線した状態から、
図5(b)に示すように、幅方向左側の昇降シリンダ12の昇降シリンダロッド12bの方が長く伸びるようにし、軌道面100aに対して車体2を鉛直方向に上昇させる。この際、一対の昇降シリンダ12における昇降シリンダロッド12bが車体2との間で回転しながら、車体2の下部のローラー17が車体2の下部に形成された長孔16内で、幅方向右側から左側に向かって転動する。
【0063】
〔第二実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態に係る車両1Aについて説明する。
図6に示すように、車両1Aは、脱線復旧装置5Aとして、支持体10、移動体11、一対の昇降シリンダ12に加え、車体2と移動体11との間にわたって配された筋交い部材31をさらに備えている点で、第一実施形態の車両1とは異なっている。また本実施形態では、移動体11の本体部21には長孔16は形成されておらず、スライダ22も設けられていない。
【0064】
さらに、本実施形態では、一対の昇降シリンダ12の下端となる昇降シリンダロッド12bが移動体11に対してピン20により結合されていることに加え、上端となる昇降シリンダ本体12aの端部が車体2に走行方向に延在するピン20によって結合され、車体2に対して走行方向に延びる軸線回りに回転可能に取り付けられている。
【0065】
筋交い部材31は、左側の昇降シリンダ12の上端と、右側の昇降シリンダ12の下端とを接続しており、左側の昇降シリンダ12の上端の上記ピン20を共有するようにピン結合され、右側の昇降シリンダ12の下端の上記ピン20を共有するようにピン結合されている。このようにして筋交い部材31は、走行方向に延びる軸線回りに、一対の昇降シリンダ12、車体2、移動体11に対して回転可能に取り付けられている。
【0066】
本実施形態の車両1Aによると、脱線復旧装置5Aを備えることで、車両1Aがカントの設けられた位置で脱線した際に支持体10がレール101上に配置されると、
図6(a)に示すように、車体2は鉛直方向に対して傾斜した状態となる。
【0067】
そして、
図6(b)に示すように、一対の昇降シリンダ12の伸び量を異なるようにして動作させると、一対の昇降シリンダ12は、車体2に対して回転しながら伸び、車体2を鉛直方向に上昇させることが可能となる。従って、脱線復旧作業中、車体2を上昇させる際に車体2が転倒することを防ぐことができる。
【0068】
さらに、筋交い部材31を設けたことで、一対の昇降シリンダ12と、車体2及び移動体11との間の角度を保持する。そして、筋交い部材31、昇降シリンダ12、移動体11によってシンプルなトラス構造が構成され、脱線復旧装置5A全体が高い剛性を有し、耐久性の向上が可能となる。また、車体2、筋交い部材31、昇降シリンダ12、移動体11が互いに回転可能に取り付けられていることで、昇降シリンダ12の伸縮にともなって、それぞれの部材にはモーメントが作用せず、この点においても脱線復旧装置5Aの耐久性の向上が可能となる。
【0069】
ここで、
図7に示すように、筋交い部材41を設けてもよい。即ち、筋交い部材41は、車体2の下部において、一対の昇降シリンダ12が車体2に接続された位置よりも幅方向の内側で車体2に回転可能にピン20で結合されて、一対が設けられている。
【0070】
さらに、これら一対の筋交い部材41は、車体2の下部から下方に向かうに従って、互いに離間するように幅方向外側に向かって延び、対応する昇降シリンダロッド12bに回転可能にピン20によって結合されている。
【0071】
そして、これら一対の筋交い部材は41、昇降シリンダ12と同様の油圧シリンダ等であり、車体2と昇降シリンダロッド12bとの間で伸縮可能になっている。
【0072】
このように、伸縮可能な一対の筋交い部材41を設けることによっても、筋交い部材41、昇降シリンダ12、移動体11がトラス構造を構成でき、耐久性の向上が可能となる。
【0073】
なお、筋交い部材41の本数、設置位置は上述の実施形態に限定されない。例えば、
図7に示すものでは、車体2と昇降シリンダロッド12bとに筋交い部材41を接続しているが、このような場合に限定されず、例えば、車体2の下部と昇降シリンダ12の下端とを接続するように設けてもよい。また筋交い部材41は、いずれか一つのみを設けてもよい。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。