(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
非特許文献1及び2では、遷移金属酸化物の粒子を被覆材で被覆するための方法として、ゾルゲル法が採用されている。しかし、本発明者の検討の結果、ゾルゲル法によって形成された被覆材で遷移金属酸化物の粒子を被覆したとしても、充放電効率が低いことが判明した。
【0014】
本開示の第1態様は、
Li
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子と、
リチウム含有遷移金属酸化物の粒子と、
前記硫化物系固体電解質の粒子と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との間に設けられ、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面に接しているSiO
2膜と、
を備え、
前記SiO
2膜と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との界面を横切る方向に沿って、透過型電子顕微鏡を用いて前記SiO
2膜と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との界面近傍の複数の位置でエネルギー分散型X線分光分析を行い、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の領域において得られる遷移金属M(MはMn、Ni、Co又はFe)のKα線のシグナル強度とKβ線のシグナル強度との合計値を前記遷移金属Mのシグナル強度と定義し、前記SiO
2膜の領域において得られるSiのKα線のシグナル強度とKβ線のシグナル強度との合計値をSiのシグナル強度と定義したとき、
前記遷移金属Mのシグナル強度の平均値である平均シグナル強度Imに対するSiのシグナル強度の最大値である最大シグナル強度Isの比率(Is/Im)が0.2以上である、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。
【0015】
第1態様によれば、固体電解質/活物質の界面のインピーダンスを低減し、全固体リチウム二次電池の充放電効率及び充放電容量を高めることができる。
【0016】
本開示の第2態様は、第1態様に加え、前記SiO
2膜は、パーヒドロポリシラザンを用いて形成されている、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。パーヒドロポリシラザンを用いて形成されたSiO
2膜は緻密である。
【0017】
本開示の第3態様は、第1又は第2態様に加え、前記SiO
2膜の厚さが18nm以下である、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。SiO
2膜の厚さを適切に制御することによって、高い初期充放電容量及び初期充放電効率を達成できる。
【0018】
本開示の第4態様は、第1〜第3態様のいずれか1つに加え、前記比率(Is/Im)が0.27以上である、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。第4態様によれば、第1態様で得られる効果をさらに高めることができる。
【0019】
本開示の第5態様は、
第1〜第4態様のいずれか1つの正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された硫化物系固体電解質と、
を備えた、全固体リチウム二次電池を提供する。
【0020】
第1〜第4態様の正極を使用すれば、高いエネルギー密度及び高い信頼性を持った全固体リチウム二次電池を提供できる。
【0021】
本開示の第6態様は、
リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上にSiO
2膜を形成する工程と、
前記SiO
2膜を有する前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子と硫化物系固体電解質の粒子とを混合する工程と、
を含み、
前記SiO
2膜と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との界面を横切る方向に沿って、透過型電子顕微鏡を用いて前記SiO
2膜と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との界面近傍の複数の位置でエネルギー分散型X線分光分析を行い、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の領域において得られる遷移金属M(MはMn、Ni、Co又はFe)のKα線のシグナル強度とKβ線のシグナル強度との合計値を前記遷移金属Mのシグナル強度と定義し、前記SiO
2膜の領域において得られるSiのKα線のシグナル強度とKβ線のシグナル強度との合計値をSiのシグナル強度と定義したとき、
前記遷移金属Mのシグナル強度の平均値である平均シグナル強度Imに対するSiのシグナル強度の最大値である最大シグナル強度Isの比率(Is/Im)が0.2以上である、全固体リチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。
【0022】
第6態様によれば、固体電解質/活物質の界面のインピーダンスを低減し、全固体リチウム二次電池の充放電効率及び充放電容量を高めることができる。
【0023】
本開示の第7態様は、第6態様に加え、前記SiO
2膜を形成する工程において、前記SiO
2膜の原料としてパーヒドロポリシラザンを用いる、全固体リチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。パーヒドロポリシラザンを使用することによって、緻密なSiO
2膜を形成できる。
【0024】
本開示の第8態様は、第6又は第7態様に加え、前記SiO
2膜を形成する工程は、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面にパーヒドロポリシラザンを付着させる工程と、熱処理を行うことによって、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上で前記パーヒドロポリシラザンをSiO
2に転化させる工程と、を含む、全固体リチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。熱処理を行うことによって、パーヒドロポリシラザンを短時間でSiO
2に転化させることができる。
【0025】
本開示の第9態様は、第6〜第8態様のいずれか1つに加え、前記SiO
2膜の厚さが18nm以下である、全固体リチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。SiO
2膜の厚さを適切に制御することによって、高い初期充放電容量及び初期充放電効率を達成できる。
【0026】
本開示の第10態様は、第6〜第9態様のいずれか1つに加え、前記比率(Is/Im)が0.27以上である、全固体リチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。第10態様によれば、第6態様で得られる効果をさらに高めることができる。
【0027】
本開示の第11態様は、
Li
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子と、
リチウム含有遷移金属酸化物の粒子と、
前記硫化物系固体電解質の粒子と前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子との間に設けられ、前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面に接しているSiO
2膜と、
を備え、
前記SiO
2膜は、パーヒドロポリシラザンを用いて形成されている、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。
【0028】
パーヒドロポリシラザンを用いて形成されたSiO
2膜は、テトラエトキシシランなどのアルコキシドを用いて形成されたSiO
2膜よりも緻密でありうる。理由は必ずしも明らかではないが、緻密なSiO
2膜は、全固体リチウム二次電池の特性を改善するのに適している。
【0029】
本開示の第12態様は、第11態様に加え、前記SiO
2膜の厚さが18nm以下である、全固体リチウム二次電池用正極を提供する。SiO
2膜の厚さを適切に制御することによって、高い初期充放電容量及び初期充放電効率を達成できる。
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0031】
本実施形態は、大まかに次の5つの工程を含む。
工程1.リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上にSiO
2膜を形成する工程
工程2.Li
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子を調製する工程
工程3.正極合剤を調製する工程
工程4.全固体リチウム二次電池を作製する工程
工程5.全固体リチウム二次電池の初期特性を評価する工程
【0033】
[工程1.リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上にSiO
2膜を形成する工程]
まず、BET法によって比表面積を予め測定した所定量のリチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上にSiO
2膜(SiO
2層)を形成するためのパーヒドロポリシラザン溶液(コート剤)を調製する。すなわち、SiO
2膜の原料としてパーヒドロポリシラザンを用いる。パーヒドロポリシラザンを使用することによって、緻密なSiO
2膜を形成できる。緻密なSiO
2膜は、全固体リチウム二次電池の特性を改善するのに適している。
【0034】
パーヒドロポリシラザン溶液には、所望の厚さのSiO
2膜に相当する量のパーヒドロポリシラザンが含まれる。パーヒドロポリシラザンを溶媒で希釈することによって溶液が得られる。希釈溶媒としては、キシレン、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ソルベッソ、ターペンなどが挙げられる。パーヒドロポリシラザンは、水と酸素に触れるとSiO
2に転化するため、十分に脱水された溶媒を用いることが重要である。
【0035】
パーヒドロポリシラザンを溶媒で希釈する理由は次の通りである。すなわち、ナノメートルオーダーの厚さのSiO
2膜を形成するために必要なパーヒドロポリシラザンの量は極めて微量である。リチウム含有遷移金属酸化物の粉末の全体に微量のパーヒドロポリシラザンをいきわたらせることは容易ではないので、粉末の全体を濡らすのに十分な量までパーヒドロポリシラザンを溶媒で希釈することが望ましい。そのようにすれば、パーヒドロポリシラザンをリチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面に均一に付着させることができ、ひいては、均一な膜厚のSiO
2膜を粒子の表面に形成できる。
【0036】
本実施形態では、リチウム含有遷移金属酸化物が正極活物質として使用される。リチウム含有遷移金属酸化物としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
2O
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4、LiFePO
4、LiNiPO
4、これらの化合物の遷移金属を1又は2の異種元素で置換することによって得られる化合物などが挙げられる。上記化合物の遷移金属を1又は2の異種元素で置換することによって得られる化合物としては、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
2などが挙げられる。
【0037】
次に、パーヒドロポリシラザン溶液を攪拌しながら、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子を溶液に少量ずつ加える。リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の全量を溶液に加えたのち、粒子が乾燥したことを目視で確認できるまで、ホットプレート上で溶液を攪拌しながら液体成分を蒸発させる。これにより、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面にパーヒドロポリシラザンを付着させる、詳細には、粒子をパーヒドロポリシラザンで被覆することができる。液体成分を蒸発させる際の溶液の温度(ホットプレートの設定温度)は、溶媒に応じて適宜設定できるが、溶媒の沸点以下であることが望ましい。溶媒の沸点以上で溶液を加熱すると溶液が突沸し、飛散することがある。その結果、原料の仕込み比率が変わる恐れがある。
【0038】
次に、粒子の凝集をほぐすために乳鉢などで粒子の塊を砕く。ここまでの操作は、低露点環境下、例えば、−40℃以下の露点環境下で行うことが望ましい。露点が高い雰囲気では、パーヒドロポリシラザンが空気中の水と酸素に触れて溶液中でSiO
2に転化するからである。パーヒドロポリシラザンが溶液中でSiO
2に転化すると、溶液の液相が白濁する場合もある。パーヒドロポリシラザンをなるべくSiO
2に転化させず、溶媒を蒸発及び除去させることが望ましい。
【0039】
その後、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上でパーヒドロポリシラザンをSiO
2に転化させる。リチウム含有遷移金属酸化物の粒子を熱処理することによって、パーヒドロポリシラザンを短時間でSiO
2に転化させることができる。パーヒドロポリシラザンをSiO
2に転化させるためには、水と酸素が必要なので、熱処理の際の雰囲気は、酸素と水とが存在する湿潤雰囲気であることが望ましい。湿潤雰囲気としては、大気雰囲気が挙げられる。一例において、大気雰囲気下、150〜450℃の雰囲気温度、1〜2時間の条件でリチウム含有遷移金属酸化物の粒子を熱処理する。熱処理は必須ではないが、熱処理を実施するとパーヒドロポリシラザンのSiO
2への転化が促進されるだけでなく、SiO
2膜の緻密さが増す。熱処理後、再度粒子の塊を砕いてほぐす。これにより、SiO
2膜で被覆されたリチウム含有遷移金属酸化物の粒子が得られる。
【0040】
[工程2.Li
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子を調製する工程]
硫化リチウム(Li
2S)の粒子と五硫化ニリン(P
2S
5)の粒子とを80:20〜70:30の重量比で混合し、遊星型ボールミルを用いたメカニカルミリング法でLi
2Sを含む硫化物系固体電解質を合成する。ただし、これらの粒子の混合比率は特に限定されない。メカニカルミリング法は、200〜600rpm、5〜24時間の条件で行うことができる。これにより、Li
2S−P
2S
5ガラス固体電解質の粒子が得られる。メカニカルミリング後、不活性雰囲気下、200〜300℃、1〜10時間の条件でLi
2S−P
2S
5ガラス固体電解質の粒子をアニールする。これにより、Li
2S−P
2S
5ガラスセラミックス固体電解質の粒子が得られる。
【0041】
Li
2Sを含む他の硫化物系固体電解質としては、Li
2S−SiS
2系ガラス、Li
2S−B
2S
3系ガラス、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4、Li
10GeP
2S
12などが挙げられる。また、これらに、LiI、Li
xMO
y(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn、x、y:自然数)などを添加剤として加えたものを使用できる。
【0042】
硫化物系固体電解質を合成する方法は、メカニカルミリング法に限定されない。溶融超急冷法、封管法などの他の方法で硫化物系固体電解質を合成することもできる。溶融超急冷法とは、原料を溶融させ、溶融物を双ロールに通す又は溶融物を液体窒素に接触させることによって溶融物を急冷し、これにより、目的とする材料を得る方法である。封管法とは、原料を入れた石英管の中を減圧して封じ、熱処理を行い、これにより、目的とする材料を得る方法である。
【0043】
[工程3.正極合剤を調製する工程]
工程1.で調製したSiO
2膜で被覆されたリチウム含有遷移金属酸化物の粒子と、工程2.で調製したLi
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子とをそれぞれ所定量秤量し、十分に混合する。これにより、正極合剤が得られる。混合比率は特に限定されない。一例において、重量比にて、リチウム含有遷移金属酸化物:固体電解質=5:5〜9:1である。
【0044】
混合方法には、公知の混合方法を使用できる。例えば、乳鉢で混合する方法、ボールミル又はビーズミルで混合する方法、ジェットミルで混合する方法などが用いられる。混合方法は、乾式、湿式いずれの方法も採用可能である。湿式の混合方法では、SiO
2、リチウム含有遷移金属酸化物、及びLi
2Sを含む硫化物系固体電解質のいずれとも反応しない液体を用いる必要がある。また、湿式の混合方法に使用される液体は、水分を十分に除去したものである必要がある。そのような液体の例としては、脱水トルエンが挙げられる。ただし、上記条件に沿えば、湿式の混合方法に使用される液体は脱水トルエンに限定されない。
【0045】
[工程4.全固体リチウム二次電池を作製する工程]
図1に示すように、絶縁管3に下ダイ1を挿入する。絶縁管3の中にLi
2Sを含む硫化物系固体電解質の粒子を入れる。絶縁管3に上ダイ2を挿入し、硫化物系固体電解質の粒子を加圧して固体電解質層102を形成する。上ダイ2を外し、絶縁管3の中に正極合剤を入れる。絶縁管3に上ダイ2を再度挿入し、正極合剤を加圧して固体電解質層102の上に正極合剤層101を形成する。正極合剤層101を形成するときに正極合剤に加える圧力は、固体電解質層102を形成するときに固体電解質に加える圧力よりも高いことが望ましい。例えば、固体電解質層102を形成するときは0.2〜5MPa、正極合剤層101を形成するときは5〜50MPaの圧力を加えることによって各層を形成することが望ましい。
【0046】
正極合剤層101を形成したのち、下ダイ1を外し、円盤状に打ち抜いた金属インジウム箔103(又は金属リチウム箔)を絶縁管3の中に入れる。下ダイ1を再度挿入して、金属インジウム箔103を加圧する。これにより、発電要素10が形成される。このときの加圧力は特に限定されないが、過大な圧力を加えると金属インジウムが絶縁管3と固体電解質層102との界面を這い上がり、短絡に到ることがある。
【0047】
図2に示すように、発電要素10は、正極合剤層101(正極)、固体電解質層102及び金属インジウム箔103(負極)を備えている。固体電解質層102は、正極合剤層101と金属インジウム箔103との間に配置されている。詳細には、固体電解質層102は、正極合剤層101及び金属インジウム箔103のそれぞれに接している。正極合剤層101は、硫化物系固体電解質の粒子104とリチウム含有遷移金属酸化物の粒子106とで構成されている。各粒子106の表面はSiO
2膜105で被覆されている。粒子106の表面の一部がSiO
2膜105で被覆されていてもよいし、粒子106の表面の全部がSiO
2膜105で被覆されていてもよい。SiO
2膜105で被覆された粒子106は相対的に大きい粒径(平均粒径)を有する。粒子104は、相対的に小さい粒径(平均粒径)を有する。1つの粒子106は、複数の粒子104によって囲まれている。つまり、粒子106だけでなく、粒子104もSiO
2膜に接している。粒子104は、例えば、数十nm〜1μmの平均粒径を有する。粒子106は、例えば、1μm〜20μmの平均粒径を有する。
【0048】
また、粒子104及び106の形状は特に限定されない。典型的には、粒子104及び106の形状は球状である。粒子104及び106は、鱗片状、繊維状などの他の形状を有していてもよい。
【0049】
なお、粒子104及び106の平均粒径は、レーザー回折式粒度計によって測定された粒度分布での体積累積50%に相当する粒径(D50)を意味する。また、平均粒径は、TEM像中の粒子(例えば任意の10個)の粒径(長径)を実測し、その平均を算出することによって求めることもできる。後者の方法によって得られた値は、前者の方法によって得られた値に概ね一致する。
【0050】
発電要素10を形成したのち、下ダイ1及び上ダイ2を絶縁チューブ4、ボルト5及びナット6で固定する。これにより、全固体リチウム二次電池が得られる。全固体リチウム二次電池を作製する工程も低露点環境下(例えば、−40℃以下の露点環境下)で実施することが望ましい。
【0051】
本実施形態においては、負極活物質として金属インジウム又は金属リチウムが使用されている。ただし、負極活物質はこれらに限定されず、炭素材料、Li
4Ti
5O
12、Si、SiO、Sn、SnOなどの公知の負極活物質を使用できる。炭素材料としては、黒鉛、ハードカーボンなどが挙げられる。これらの負極活物質を用いる場合には、工程3.で説明したように、負極活物質と固体電解質とを混合することによって負極合剤を得ることができる。また、成形時の圧力に関していえば、これらの負極活物質を用いる場合には、インジウム箔又はリチウム箔を用いる場合よりも大きい圧力を加える必要がある。
【0052】
[工程5.全固体リチウム二次電池の初期特性を評価する工程]
工程4.で作製した全固体リチウム二次電池の初期の充放電特性を定電流充放電によって評価できる。例えば、正極合剤層における正極活物質(リチウム含有遷移金属酸化物)の重量から算出した理論容量の0.05Cに相当する電流値で充放電を行う。充電及び放電終止電圧は、それぞれ、3.6V及び2.4Vでありうる。放電電気量を充電電気量で割ることによって充放電効率(%)を算出できる。
【実施例】
【0053】
以下の実施例及び比較例を用いて本発明の効果を詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例に限定されるわけではない。
【0054】
(実施例1)
25μLの20%パーヒドロポリシラザン−キシレン溶液(AZマテリアルズ社製、NP110−20)を1mLの超脱水キシレン(和光純薬工業社製)で希釈した。得られた溶液に2gのコバルト酸リチウム(LiCoO
2)の粒子を攪拌しながら加えた。LiCoO
2粒子のBET比表面積は0.35m
2/gであった。LiCoO
2粒子が乾燥したことを目視で確認できるまで、60℃のホットプレート上で溶液を攪拌しながら加熱して液体成分を蒸発させた。得られた粒子をメノウ乳鉢に入れ、粒子の塊を砕いてほぐした。以上の操作は、露点−60℃のドライエア雰囲気下で行った。次に、パーヒドロポリシラザンをSiO
2に転化させるための処理を行った。具体的には、パーヒドロポリシラザンの被膜を有するLiCoO
2粒子を大気雰囲気下、150℃、1時間の条件で熱処理した。得られた粒子の塊を再度砕いてほぐした。これにより、SiO
2膜で被覆されたLiCoO
2粒子を得た。
【0055】
LiCoO
2粒子の断面だしを行い、透過型電子顕微鏡を用いてSiO
2膜の厚さを測定した。その結果、SiO
2膜の厚さは4nmであった。なお、透過型電子顕微鏡での観察に際し、画像のコントラストを高める目的で、粒子の表面をオスミウム及びカーボンで被覆した。
【0056】
また、膜厚測定とともに、SiO
2膜の厚さ方向に沿って、LiCoO
2/SiO
2の界面近傍の複数の位置でエネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS分析)を行った。対象元素は、Co及びSiであった。結果を
図4に示す。なお、測定に使用した装置及び測定条件は以下の通りである。
【0057】
(測定方法)
薄片化:FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)法
EDS(Energy dispersive X-ray spectrometry:エネルギー分散型X線分析)法
加速電圧:200kV
(測定装置)
FIB:日立製作所社製FB2000A
TEM/STEM:日立製作所社製HF-2200
EDS:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NORAN System Seven
(特性X線)
SiとCoの特性X線の種類とその波長(eV)
Si-Kα:1.739 keV
Si-Kβ:1.836 keV
Co-Kα:8.040 keV
Co-Kβ:7.648 keV
【0058】
図4の横軸は、SiO
2膜の厚さ方向の距離(測定位置)を表している。
図4の縦軸は、ネットカウント、つまり、SiO
2膜の厚さ方向の各位置で検出された各元素に帰属されるK線のシグナル強度(ピーク強度)を表している。K線のシグナル強度は、Kα線のシグナル強度とKβ線のシグナル強度との合計値である。以下において、「シグナル強度」の語句は、「K線のシグナル強度」を意味する。
【0059】
図4に示すTEM−EDS分析の結果から、Si/Coシグナル強度比(スペクトル強度比)を算出した。Si/Coシグナル強度比は0.34であった。具体的には、LiCoO
2粒子の領域(
図4に示す領域A)において得られるCoの平均シグナル強度をIm、SiO
2膜の領域において得られるSiの最大シグナル強度をIsと定義する。Si/Coシグナル強度比は、Coの平均シグナル強度Imに対するSiの最大シグナル強度Isの比率(Is/Im)で表される。Coの平均シグナル強度Imとして、LiCoO
2が存在すると考えられる領域AにおけるCoのシグナル強度の平均値を使用した。Siのシグナル強度Isは全体的に低かった。そのため、界面近傍の最もシグナル強度が高い部分の値をSiの最大シグナル強度Isとして使用した。ここで「界面近傍」とは、SiのスペクトルとCoのスペクトルとの交差部の近傍を意味する。
【0060】
図3は、実施例1のLiCoO
2粒子の断面の透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。
図3に示すTEM像では、LiCoO
2粒子の領域とSiO
2膜の領域とのコントラストが比較的明瞭であった。
【0061】
次に、実施例1の正極活物質(ポリシラザンを用いて形成されたSiO
2膜を有する実LiCoO
2粒子)を用い、以下に説明する方法で全固体リチウム二次電池を作製し、その初期特性を評価した。
【0062】
(1)固体電解質の調製
0.8gの硫化リチウム(Li
2S)と0.2gの五硫化二リン(P
2S
5)とを遊星型ボールミル(Fritsch社製、P−7型)用ジルコニアポット(内容積45mL)に入れ、510rpm、8時間の条件でミリングを行った。ミリングによって得られた粒子を不活性雰囲気下、270℃、2時間の条件でアニールした。これにより、固体電解質の粒子を得た。得られた固体電解質の粒子のリチウムイオン伝導度は、8×10
-4S/cmであった。
【0063】
(2)正極合剤の調製
パーヒドロポリシラザンを用いて形成されたSiO
2膜を有するLiCoO
2粒子(正極活物質)と、固体電解質の粒子とをメノウ乳鉢で十分に混合し、正極合剤を得た。正極活物質と固体電解質との重量比は6:4であった。
【0064】
(3)全固体リチウム二次電池の作製
80mgの固体電解質の粒子をセル容器に入れ、2MPaの圧力を加えることで固体電解質の粒子を予備成形し、固体電解質層を得た。固体電解質層を覆うように10mgの正極合剤の粒子をセル容器に入れ、18MPaの圧力を加えることで正極合剤の粒子を成形し、正極合剤層を得た。その後、固体電解質層を挟んで正極合剤層と対向する側に金属インジウム箔(直径10mm、厚さ200μm)を配置し、2MPaの圧力を正極合剤層、固体電解質層及び金属インジウム箔に加えて、これらを一体化させた。このようにして、実施例1の全固体リチウム二次電池を得た。
【0065】
(4)全固体リチウム二次電池の初期特性の評価
全固体リチウム二次電池の初期特性を以下の方法で調べた。41μA(0.05C相当)の定電流で3.6Vまで全固体リチウム二次電池を充電し、20分間の休止の後、41μAの定電流で2.4Vまで全固体リチウム二次電池を放電させた。実施例1の全固体リチウム二次電池の充電電気量は110mAh/g、放電電気量は89mAh/g、充放電効率は80.5%であった。
【0066】
(実施例2)
SiO
2膜の厚さを変えるために、パーヒドロポリシラザンの添加量を50μLに変更したことを除き、実施例1と同じ方法で実施例2のLiCoO
2粒子を調製した。実施例2のLiCoO
2粒子において、SiO
2膜の厚さは9nmであった。Si/Coシグナル強度比は0.28であった。その後、実施例1と同じ方法で実施例2の全固体リチウム二次電池を作製した。実施例2の全固体リチウム二次電池の充電電気量は106mAh/g、放電電気量は84mAh/g、充放電効率は79.2%であった。
【0067】
(実施例3)
SiO
2膜の厚さを変えるために、パーヒドロポリシラザンの添加量を100μLに変更したことを除き、実施例1と同じ方法で実施例3のLiCoO
2粒子を調製した。実施例3のLiCoO
2粒子において、SiO
2膜の厚さは18nmであった。Si/Coシグナル強度比は0.27であった。その後、実施例1と同じ方法で実施例3の全固体リチウム二次電池を作製した。実施例3の全固体リチウム二次電池の充電電気量は103mAh/g、放電電気量は80mAh/g、充放電効率は78.1%であった。
【0068】
(比較例1)
SiO
2膜を有さないLiCoO
2粒子を正極合剤として用い、実施例1と同じ方法で比較例1の全固体リチウム二次電池を作製した。比較例1の全固体リチウム二次電池の充電電気量は89mAh/g、放電電気量は61mAh/g、充放電効率は68.0%であった。
【0069】
(比較例2)
パーヒドロポリシラザンに代えて、テトラエトキシシランを用いたゾルゲル法によってLiCoO
2粒子の表面上にSiO
2膜を形成した。テトラエトキシシランを用いてSiO
2膜を形成する方法を以下に示す。
【0070】
16μLのテトラエトキシシラン(高純度化学社製)を1mLの超脱水エタノール(和光純薬社製)で希釈した。得られた溶液に1μLの塩酸(和光純薬工業社製)を加え、さらに、2gのLiCoO
2粒子を攪拌しながら加えた。LiCoO
2粒子のBET比表面積は0.35m
2/gであった。LiCoO
2粒子が乾燥したことを目視で確認できるまで、30℃のホットプレート上で溶液を攪拌しながら加熱して液体成分を蒸発させた。得られた粒子をメノウ乳鉢に入れ、粒子の塊を砕いてほぐした。以上の操作は、露点−60℃のドライエア雰囲気下で行った。さらに、得られた粒子を大気雰囲気下、350℃、1時間の条件で熱処理した。得られた粒子の塊を再度砕いてほぐした。これにより、SiO
2膜で被覆されたLiCoO
2粒子を得た。
【0071】
実施例1と同じ方法で、透過型電子顕微鏡を用いてSiO
2膜の厚さを測定した。SiO
2膜の厚さは3nmであった。膜厚測定とともに、SiO
2膜の厚さ方向に沿って、LiCoO
2/SiO
2の界面近傍のTEM−EDS分析を行った。結果を
図6に示す。Si/Coシグナル強度比は0.09であった。
【0072】
図5は、比較例2のLiCoO
2粒子の断面のTEM像である。
図5に示すTEM像におけるLiCoO
2粒子の領域とSiO
2膜の領域とのコントラストは、
図3に示すTEM像におけるそれらの領域のコントラストよりも弱かった。
【0073】
次に、比較例2のLiCoO
2粒子を正極合剤の材料として用い、実施例1と同じ方法で比較例2の全固体リチウム二次電池を作製した。比較例2の全固体リチウム二次電池の充電電気量は116mAh/g、放電電気量は76mAh/g、充放電効率は65.4%であった。
【0074】
(比較例3)
SiO
2膜の厚さを変えるために、テトラエトキシシランの添加量を37μLに変更したことを除き、比較例2と同じ方法で比較例3のLiCoO
2粒子を調製した。比較例3のLiCoO
2粒子において、SiO
2膜の厚さは7nmであった。Si/Coシグナル強度比は0.09であった。その後、実施例1と同じ方法で比較例3の全固体リチウム二次電池を作製した。比較例3の全固体リチウム二次電池の充電電気量は110mAh/g、放電電気量は76mAh/g、充放電効率は68.9%であった。
【0075】
(比較例4)
SiO
2膜の厚さを変えるために、テトラエトキシシランの添加量を80μLに変更したことを除き、比較例2と同じ方法で比較例4のLiCoO
2粒子を調製した。比較例4のLiCoO
2粒子において、SiO
2膜の厚さは15nmであった。Si/Coシグナル強度比は0.07であった。その後、実施例1と同じ方法で比較例4の全固体リチウム二次電池を作製した。比較例4の全固体リチウム二次電池の充電電気量は108mAh/g、放電電気量は74mAh/g、充放電効率は68.9%であった。
【0076】
以上の結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1〜3及び比較例2〜4の電池は、比較例1の電池よりも大きい初期充電電気量及び初期放電電気量を示した。つまり、SiO
2膜をLiCoO
2粒子の表面上に形成することによって、充放電特性を改善することができた。さらに、実施例1〜3の電池は、比較例2〜4の電池よりも大きい初期放電電気量を示した。つまり、パーヒドロポリシラザンを用いてSiO
2膜を形成した場合、テトラエトキシシランを用いてSiO
2膜を形成した場合よりも優れた初期充放電効率を達成できた。
【0079】
また、実施例1〜3の電池の充放電効率は、比較例2〜4の電池の充放電効率よりも高かった。実施例1〜3におけるSiO
2膜と比較例2〜4におけるSiO
2膜との違いとして、TEM像におけるSiO
2膜とLiCoO
2粒子とのコントラストの違いが挙げられる。
図3に示すように、実施例1のLiCoO
2粒子のTEM像におけるSiO
2膜とLiCoO
2粒子とのコントラストは相対的に強かった。
図5に示すように、比較例2のLiCoO
2粒子のTEM像におけるSiO
2膜とLiCoO
2粒子とのコントラストは相対的に弱かった。TEM像におけるコントラストの強さは、電子密度の高さを反映している。つまり、
図3及び
図5のTEM像から、実施例1〜3のSiO
2膜は、比較例2〜4のSiO
2膜よりも緻密であるといえる。
【0080】
また、SiO
2膜の緻密さは、EDS分析のSi/Coシグナル強度比から知ることもできる。
図6に示すように、テトラエトキシシランを用いて形成されたSiO
2膜のSiシグナルはきわめて弱かった。このことから、比較例2のSiO
2膜は、Siの原子密度が低い、すなわち、SiO
2の密度が低い膜であるといえる。
【0081】
実施例1〜3の結果から、Si/Coシグナル強度比が0.20以上である場合に、固体電解質/活物質の界面のインピーダンスが十分に低く、初期充放電効率に優れた電池が得られるといえる。すなわち、均一で緻密な膜質のSiO
2膜をリチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上に形成することが全固体リチウム二次電池の特性の改善にとって重要である。
【0082】
表1に示す結果は、LiCoO
2粒子の表面上にSi/Coシグナル強度比が高いSiO
2膜を形成することによって、高い初期充放電効率を達成できることを示している。Si/Coシグナル強度比は、望ましくは0.20以上、より望ましくは0.27以上である。Si/Coシグナル強度比が高い緻密な膜質のSiO
2膜は、パーヒドロポリシラザンを使用することによって形成できた。以上の通り、本明細書に開示された技術は、全固体リチウム二次電池の初期充放電電気量を向上させるとともに、充放電効率を高めることにも有効に寄与する。なお、Si/Coシグナル強度比の上限は特に限定されない。実施例の結果から、Si/Coシグナル強度比の上限として「1」を例示できるが、SiO
2膜の緻密さが増すとSi/Coシグナル強度比も増加するので、Si/Coシグナル強度比が1を超える可能性も否定できない。
【0083】
また、パーヒドロポリシラザンを使用する場合、室温〜300℃までの低い温度範囲でSiO
2膜を形成できる。そのため、活物質の粒子と被膜(SiO
2膜又はその前駆体を含む膜)との界面における元素の相互拡散が起こりにくい。
【0084】
ゾルゲル法においては、テトラエトキシシラン(Si(OC
2H
5)
4)などのケイ素のアルコキシドを含むゾル溶液を用いて被膜を形成する。被膜に含まれたアルコキシドを加水分解させ、加水分解物を重合させる。得られたゲル膜の熱処理を行うことによって、SiO
2膜が得られる。一連の反応は縮合反応なので、膜の収縮が起こり、膜にマイクロクラックが入りやすい。そのため、ゾルゲル法で緻密なSiO
2膜を得ることは難しい。一方、パーヒドロポリシラザンのSiO
2への転化反応は、窒素と酸素との置換反応であるから、膜の収縮が起こりにくい。そのため、緻密なSiO
2膜を比較的容易に得ることができる。
【0085】
実施例1〜3の結果が示すように、パーヒドロポリシラザンを用いて形成されたSiO
2膜の厚さが増えるにつれて、初期充放電容量及び初期充放電効率が低下する傾向が見られた。この傾向は、SiO
2膜の厚さが増加するにつれてSiO
2膜の抵抗値が上がることを示している。つまり、高い初期充放電容量及び初期充放電効率を得るためには、SiO
2膜の厚さが適切に制御されることが望ましい。SiO
2膜の厚さの上限は、例えば20nmであり、望ましくは18nmである。SiO
2膜の厚さの下限は、例えば3nmであり、望ましくは7nmである。
【0086】
なお、LiCoO
2以外の他のリチウム含有遷移金属酸化物を使用したとしても、他のリチウム含有遷移金属酸化物に含まれた遷移金属M(MはMn、Ni、Co又はFe)のK線の平均シグナル強度Imに対するSiのK線の最大シグナル強度Isの比率(Is/Im)は、LiCoO
2の場合と同じ傾向を示すと推測される。すなわち、リチウム含有遷移金属酸化物の組成にかかわらず、Si/Mシグナル強度比は、0.20以上であることが望ましく、0.27以上であることがより望ましい。
【0087】
また、リチウム含有遷移金属酸化物の組成にかかわらず、パーヒドロポリシラザンを用いてリチウム含有遷移金属酸化物の粒子の表面上にSiO
2膜を表面に形成することで、良好な初回充放電効率が得られる。