特許第6245520号(P6245520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6245520-複合部材及び切削工具 図000013
  • 特許6245520-複合部材及び切削工具 図000014
  • 特許6245520-複合部材及び切削工具 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245520
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】複合部材及び切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/18 20060101AFI20171204BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20171204BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20171204BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B23B27/18
   B23B27/14 B
   B23B51/00 M
   B23C5/16
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-59529(P2014-59529)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-182161(P2015-182161A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 誠
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/144502(WO,A1)
【文献】 特開平11−320218(JP,A)
【文献】 特開2009−131917(JP,A)
【文献】 特開2012−111187(JP,A)
【文献】 特開2010−274287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/18
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 1/00 − 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金が、少なくともTi及びNiを各々10原子%以上含有する接合部材を介して接合されている複合部材であって、
(a)前記超硬合金と前記接合部材との界面には、平均層厚が0.5〜3μmのTiCを50面積%以上含有するTiC主体層が形成され、また、該TiC主体層の接合部側に隣接して平均層厚が0.3〜3μmのTi及びNiを各々30原子%以上含有するTi・Ni濃化層が形成され、
(b)前記TiC主体層の接合部側に隣接して、Ti、Ni及びCを各々10原子%以上含有し、平均幅10〜200nmであり、かつTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する各結晶粒の長軸を結んだ直線が他のTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する結晶粒を平均3結晶粒以上横切る断続的網目状組織が形成されていることを特徴とする複合部材。
【請求項2】
立方晶窒化硼素焼結体と接合部材との界面には、立方晶窒化硼素粒子に隣接して、Ti、B及びNを各々10原子%以上含有し、平均長径0.1〜3μm、平均アスペクト比5以上である針状組織が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合部材から構成されていることを特徴とする切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部の接合強度に優れた複合部材及び切削工具に関し、特に、立方晶窒化硼素(以下、cBNと称す)焼結体とWC基超硬合金とを接合した複合部材、さらには、この複合部材からなる切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等の筐体の製造に使用される金型を加工する工具として、高生産性や高寿命を発揮し、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有するcBN焼結体を切刃部に使用したインサートやエンドミルといった切削工具が提供されている。
しかしながら、cBN焼結体自体は、加工が困難で高価なうえ、焼結体形状が円板状に限られ自由に工具形状が形成できないためにその用途が制約されていた。
ところが、近年、難削材の使用量の増加に伴い工具加工が困難であるにも関わらずcBN焼結体の用途が高まっている。価格、加工性を克服するための方法として、安価で加工性にすぐれたWC基超硬合金製工具本体とcBN焼結体を素材とする切れ刃部とをろう付けすることにより、WC基超硬合金製工具本体とcBN焼結体を素材とする切刃部とを接合した切削工具が提案されている。また、cBN焼結体に限らず、WC基超硬合金製工具本体と他の材料との複合部材に関する技術もいくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、cBN焼結体が接合部を介してWC基超硬合金製工具基体上に接合された切削工具において、15〜65重量%TiまたはZrの1種または2種とCuからなる接合部を形成することにより、cBN焼結体に割れや亀裂を発生させることなく、強固にWC基超硬合金製工具基体に接合する技術が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、超硬合金部材と鋼部材とを接合層を介して接合した超硬合金部材と鋼部材の複合材料、あるいは、該複合材料の超硬合金部材に刃先加工を施したエンドミル、ドリル等の切削工具において、超硬合金部材に接する側の接合層はNiからなり、一方、鋼部材に接する側の接合層はNi−Cu合金からなり、さらに、鋼部材と接合層との接合面近傍には、該接合面から遠ざかるにしたがってCuの含有量が減少するCu拡散領域を形成することによって、超硬合金部材と鋼部材の接合強度を向上させることが提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、超硬合金からなる刃部と、炭素工具鋼からなる基体部をニッケル箔又はコバルト箔を介して接合させ、その接合部をレーザー照射し、刃部と基体部とを合金層を介して接合することによって、残留応力が小さく、かつ、接合強度が高い切断刃を得ることが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、cBN基焼結体が接合部を介してWC基超硬合金製工具基体上に接合されており、cBN基焼結体と接合材の界面に厚み10〜300nmの窒化チタン化合物層を形成すると共に、cBN基焼結体背面の接合部の厚みを、底面の接合部の厚みよりも薄くすることにより、cBN基焼結体とWC基超硬合金製工具基体間の接合強度を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−320218号公報
【特許文献2】特開2009−131971号公報
【特許文献3】特開2008−100348号公報
【特許文献4】特開2012−111187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1で提案された切削工具は、Ti系の金属を用いることで強固な接合強度が得られるとしているが、Tiが拡散し過ぎると超硬シャンクおよび刃先側の超硬合金からなる工具基体の機械特性が低下し、折損の原因になるという問題があった。
特許文献2で提案された複合材料あるいはこれからなる切削工具は、通常条件の切削加工では、ある程度の性能を発揮するが、切刃に高負荷が作用する重切削条件では、接合強度が十分であるとはいえず、接合部からの破損が発生する恐れがあった。
特許文献3で提案された切断刃は、ガラス繊維を一定の長さに切断するための工具であって、鋼や鋳鉄等の切削用工具としては使用することができないものであった。
特許文献4で提案された10〜300nmの窒化チタン化合物層を有する接合体は、接合材とcBN基焼結体との反応が適切でなく、十分な接合強度が得られないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、前記従来の複合部材およびこれからなる切削工具の問題点を解決すべく、cBN焼結体とWC基超硬合金からなる複合部材、例えば、超高圧高温焼結時にcBN焼結体の焼結と同時にWC基超硬合金基体を接合した複合焼結体またはcBN焼結体単体からなる切刃部とWC基超硬製工具台金とを接合部材を介して接合した切削工具において、その接合部の接合強度を改善する方策について鋭意研究した結果、以下の知見を得た。
【0010】
(1)cBN焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金とを、Ti−Ni積層箔あるいはTi−Ni合金箔からなる接合部材を介して接合するに際し、超硬合金と接合部材の界面に、TiCが主体である層を所定厚みで形成し、また、TiとNiを所定量以上含有する層を所定厚みで形成し、さらに、前記TiCが主体である層に隣接して断続的網目状組織を形成することにより、超硬合金と接合部材の界面の接合強度が向上することを見出した。
【0011】
(2)また、cBN焼結体と接合部材の界面については、cBN結晶粒に隣接して、Ti、B及びNを含有する針状組織を形成することにより、cBN焼結体と接合部材の界面の接合強度が向上することを見出した。
【0012】
(3)したがって、前記(1)、(2)の界面組織を有するcBN焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金からなる複合部材は、接合部の接合強度が向上するため、この複合部材から作製した切削工具は、切れ刃に高負荷が作用する鋼や鋳鉄の重切削加工に供した場合であっても、接合部からの破損発生を防止でき、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮することができることを見出した。
【0013】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)立方晶窒化硼素焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金が、少なくともTi及びNiを各々10原子%以上含有する接合部材を介して接合されている複合部材であって、
(a)前記超硬合金と前記接合部材との界面には、平均層厚が0.5〜3μmのTiCを50面積%以上含有するTiC主体層が形成され、また、該TiC主体層の接合部側に隣接して平均層厚が0.3〜3μmのTi及びNiを各々30原子%以上含有するTi・Ni濃化層が形成され、
(b)前記TiC主体層の接合部側に隣接して、Ti、Ni及びCを各々10原子%以上含有し、平均幅10〜200nmであり、かつTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する各結晶粒の長軸を結んだ直線が他のTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する結晶粒を平均3結晶粒以上横切る断続的網目状組織が形成されていることを特徴とする複合部材。
(2)立方晶窒化硼素焼結体と接合部材との界面には、立方晶窒化硼素粒子に隣接して、Ti、B及びNを各々10原子%以上含有し、平均長径0.1〜3μm、平均アスペクト比5以上である針状組織が形成されていることを特徴とする(1)に記載の複合部材。
(3) (1)または(2)に記載の複合部材から構成されていることを特徴とする切削工具。」
を特徴とするものである。
【0014】
以下に、本発明について、詳細に説明する。
【0015】
本発明の複合部材は、cBN焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金を、少なくともTi及びNiを各々10原子%以上含有する接合部材を介して接合することにより構成され、また、本発明の切削工具は、上記複合部材のcBN焼結体を切刃部とし、一方、WC基超硬合金を工具基体とすることにより構成される。
接合部材のTi含有量が10原子%未満である場合には、接合部材とWC基超硬合金との界面に、TiCを50面積%以上含有するTiC主体層の平均層厚が0.5μm未満となり、接合部材とWC基超硬合金との界面における接合強度向上が期待できなくなることから、接合部材のTi含有量は10原子%以上とする。
また、接合部材に含有されるNiは、接合部材とWC基超硬合金との界面の濡れ性を顕著に向上させる作用があり、これによって、接合に際し、WC基超硬合金の表面に均一に濡れ渡り、その結果、WC基超硬合金との界面に形成される前記TiC主体層が、粒状組織あるいは柱状組織とならずに、層上の組織として形成されるようになるからである。
しかし、接合部材のNi含有量が10原子%未満となると、上記の効果が得られにくくなるため、本発明では、接合部材のNi含有量は10原子%以上とする。
【0016】
図1に示すように、接合部材とWC基超硬合金との界面には、TiCを50面積%以上含有するTiC主体層が形成されるが、この層におけるTiCの含有割合が50面積%未満では、WC基超硬合金に含まれるWCとの反応が十分でなく、界面強度が十分に発揮されないため、TiCを50面積%以上とすることが必要であり、また、この層の平均層厚が0.5μm未満では、接合部材とWC基超硬合金との界面における接合強度向上効果が得られず、一方、その平均層厚が3μmを超えると、TiC主体層の脆性が発現し、TiC主体層内をクラックが伝播し、その結果十分な接合強度を示し得ないため、TiC主体層の平均層厚は0.5〜3μmと定めた。
【0017】
また、接合部材とWC基超硬合金との界面には、図1に示すように、平均層厚が0.3〜3μmのTi及びNiを各々30原子%以上含有するTi・Ni濃化層が形成されるが、このTi・Ni濃化層におけるTi含有量及びNi含有量の少なくともいずれかが30原子%未満であると、TiC主体層及び接合部材とのぬれ性が十分に発揮されず、Ti・Ni濃化層内に空隙を生じ、その空隙が剥離の起点となることから、Ti・Ni濃化層におけるTi及びNiの含有割合は、各々30原子%以上とすることが必要である。
また、Ti・Ni濃化層の平均層厚が0.3μm未満では、TiC主体層及び接合部材双方への優れた濡れ性が発揮されず、空隙を生じやすくなり、一方、3μmを超える平均層厚になるとWC基超硬合金との熱膨張率の差に起因する応力が過大となり、界面剥離を生じやすくなることから、Ti・Ni濃化層の平均層厚は0.3〜3μmと定めた。
【0018】
この発明における接合部材とWC基超硬合金との界面に形成されたTiC主体層に隣接して、図1に示すように、Ti、Ni及びCを各々10原子%以上含有し、平均幅10〜200nmであり、かつTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する各結晶粒の長軸を結んだ直線が他のTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する結晶粒を平均3結晶粒以上横切る断続的網目状組織が形成される。
上記断続的網目状組織は、網目状の組織がTi・Ni濃化層を縦断して存在することにより強固なアンカー効果を発揮する。一方、網目状組織が連続していると、母相との界面に生じる格子定数の差による歪みや、熱膨張率の差により生じる応力を緩和することが出来ず、連続的網目状組織に応力が集中することによりクラックを生じ、該クラックが剥離の起点となり十分な接合強度を発揮することが出来ない。そのため、連続的組織を断続的組織とすることにより、網目状組織に作用する応力を分散し、よって網目状組織にクラック等生じることなく、断続的網目状組織は接合部材とWC基超硬合金との接合強度を向上させる効果を有する。
ここで、上記断続的網目状組織を構成する成分であるTi、Ni及びCの含有量を各々10原子%以上としているのは、Ti及びNiの複合炭化物としての性質が、TiC主体層、Ti・Ni濃化層及び接合部材との接合強度を高めるためであり、Ti、Ni及びCの含有量が各々10原子%未満では上記効果が十分に発揮されないため、Ti、Ni及びCの含有量を各々10原子%以上と定めた。
また、上記断続的網目状組織の平均幅が10nm未満では、Ti・Ni濃化層の層厚以上の長さを有する結晶粒を形成することが難しいことから、十分なアンカー効果を期待できず、一方、上記断続的網目状組織の平均幅が200nmを超えると接合部材とWC基超硬合金との界面の接合強度が低下することから、断続的網目状組織の平均幅は10〜200nmと定めた。
上記断続的網目状組織のTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する結晶粒(以下、単に「網目状組織結晶粒)と云う)について、各網目状組織結晶粒の長軸を結んだ直線が他の網目状組織結晶粒を横切る個数(以下、単に「延長線交差粒子数」と云う)が平均3結晶粒未満では、網目状組織結晶粒を分散的に配置することによる応力の緩和が十分でなく、界面への応力集中による剥離を誘起しやすいことから、延長線交差粒子数が平均3結晶粒以上であることが必要である。
【0019】
また、図2に示すように、cBN焼結体とWC基超硬合金の場合、cBN焼結体と接合部材の界面には、cBN粒子に接して針状を呈する結晶組織(以下、単に「針状組織」ともいう)が形成されるが、この針状組織は、接合部材中のTiがcBN粒子と反応することにより形成されるTiとBとNを含有する組織である。
そして、上記針状組織は、大きなアンカー効果を発揮し、cBN焼結体と接合部材間の接合強度を向上させる。
しかし、上記針状組織の平均アスペクト比が5未満、あるいは、針状組織の平均長径が0.1μm未満では、十分なアンカー効果を発揮できず、一方、針状組織の平均長径が3μmを超えると、結晶粒が粗大化し、cBN焼結体と接合部材の界面が脆化し、強度低下を招くため、針状組織の平均アスペクト比を5以上、かつ、針状組織の平均長径は0.1〜3μmとすることが望ましい。
【0020】
本発明の複合部材における、TiC主体層、Ti・Ni濃化層については、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光器を用いて、接合部材とWC基超硬合金との界面にかけてWC基超硬合金が観察領域の5〜10%を占める視野で縦断面観察を行い、10000倍の視野で元素マッピングを行い、Ti、Ni、Cの含有割合からTi及びCを各々30原子%以上含有する相をTiC相とし、同TiC相を50面積%以上含有する層をTiC主体層として同定した。続けて、WC基超硬合金とTiC主体層の界面に垂直に直線を引き、同直線がTiC主体層を横切る長さをTiC主体層の厚さとし、10直線の平均を算出することによりTiC主体層の平均厚さを求めた。Ti・Ni濃化層については、前記WC基超硬合金とTiC主体層の界面に垂直に直線において、該直線上で組成分析を行い、Ti及びNiの含有量が30原子%以上である領域をTi・Ni濃化層として同定した。前記直線が同定したTi・Ni濃化層を横切る長さをTi・Ni濃化層の厚さとし、10直線の平均を算出することによりTi・Ni濃化層の平均厚さを求めた。
また、本発明の複合部材における、断続的網目状組織については、前記と同じ視野で元素マッピング結果からTi、Ni及びCを各々10原子%以上含有する相で層状組織となっていない相を有する結晶を網目状組織結晶として同定し、各網目状組織結晶について、最大径を長径、それに直交する線分の最大径を結晶粒の幅とし、同視野内において長径を延長した直線が横切る他の網目状組織結晶粒の個数を求めた。図3に示すように、同視野内の各網目状組織結晶について結晶粒の幅及び延長線交差粒子数を求め、各々合計を網目状組織結晶の個数で除することにより、断続的網目状組織の平均幅及び平均延長線交差粒子数を求めた。
cBN焼結体とWC基超硬合金の場合、cBN粒子に隣接した針状組織については、接合部材とcBN焼結体との界面にかけて、cBN焼結体が観察領域の5〜10%を占める視野でcBN結晶粒に接して成長している針状組織の有無を確認した。針状組織を構成する10個の結晶粒について組成の点分析を行い、平均値を算出することにより針状組織がTi、B及びNを各々10原子%以上含有することを確認した。また、針状組織を構成する10個の結晶粒個々について、最大径を長径、それに直交する線分の最大径を短径とし、更に長径を短径で除することによりアスペクト比を求め、10個の結晶粒の平均を算出することにより平均長径及び平均アスペクト比を得ることができる。
【0021】
本発明の複合部材を作製するためには、例えば、接合部材として、Ti−Ni積層箔または合金箔、あるいはTi及びNiを含有する混合粉末を用い、これを、cBN焼結体とWC基超硬合金間、またはWC基超硬合金とWC超硬合金間に介在させ、加圧接合を行うことによって複合部材を作製することができる。
より具体的にいえば、例えば、Ti箔:1〜10μm、Ni箔:1〜10μmをTi−Ni積層箔として、これを、cBN焼結体とWC基超硬合金間、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金間に挿入介在させる。
ついで、これを、0.13kPa以下の真空中で、100〜3000kPaの荷重を加え、700〜900℃の温度範囲で5〜180分間保持することによって、作製することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、cBN焼結体とWC基超硬合金、またはWC基超硬合金とWC基超硬合金を、少なくともTi及びNiを各々10原子%以上含有する接合部材を介して接合されている複合部材であるが、WC基超硬合金と接合部材との界面には、所定層厚、所定面積率のTiC主体層が形成され、また、所定層厚のTi・Ni濃化層が形成され、さらに、TiC主体層に隣接して、Ti、Ni及びCを所定量含有する断続的網目状組織が形成されていることから、WC基超硬合金と接合部材間の接合強度が向上する。
また、cBN焼結体とWC基超硬合金の場合、cBN焼結体と接合部材との界面には、cBN粒子に隣接して針状組織が形成されていることによって、cBN焼結体と接合部材間の接合強度も向上する。
したがって、上記複合部材から構成される切削工具は、切刃に高負荷が作用する重切削加工に供した場合であっても、接合部からの破損が生じることはなく、長期の使用に亘って、すぐれた切削性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明複合部材のWC基超硬合金と接合部材の界面の断面概略模式図であり、WC基超硬合金、TiC主体層、Ti・Ni濃化層、断続的網目状組織、接合部材が示されている。
図2】cBN焼結体とWC基超硬合金の場合の本発明複合部材のcBN焼結体側の接合部の断面概略模式図であり、cBN焼結体、針状組織、接合部材が示されている。
図3】延長線交差粒子数を求める例を示した模式図であり、図中円で囲った結晶粒について長径を延長した直線を引き、同直線が横切った結晶粒を矢印で示した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
つぎに、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下に説明した実施例は、本発明の一実施態様であって、本発明の具体的な実施の形態は、これに拘束されるものではない。
【実施例】
【0025】
原料粉末として、いずれも0.5〜1μmの平均粒径を有するWC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度1400℃、保持時間1時間の条件で焼結し、表1に示される4種のWC基超硬合金焼結体(以下、単に「超硬合金」と云う)A−1〜A−4を形成した。
【0026】
【表1】
【0027】
次に、cBN焼結体の原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の平均粒径を有するcBN粉末、TiN粉末、TiCN粉末、TiB粉末、TiC粉末、AlN粉末、Al粉末を用意し、これら原料粉末を所定の配合組成で配合し、ボールミルで24時間アセトンを用いて湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で直径15mm×厚さ1mmの寸法をもった圧粉体にプレス成形し、ついでこの圧粉体を、超高圧発生装置を用いて、温度:1300℃、圧力:5.5GPa、時間:30分の条件で焼結し、cBN焼結体B−1、B−2を作製した。
また、超高圧高温焼結時にcBN焼結体の焼結と同時にWC基超硬合金基体(以下、単に「超硬裏打」と云う)を接合した複合焼結体(以下、単に「複合焼結体」と云う)として、前記超硬合金A−1〜A−4を直径15mm×厚さ2mmの寸法を持った焼結体とし、超硬合金上に前記cBN圧粉体を表2に示す組合せで積層し、ついでこの積層体を、超高圧発生装置を用いて、温度:1300℃、圧力:5.5GPa、時間:30分の条件で焼結し、複合焼結体B−3〜B−6を作製した。
cBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6のcBN焼結体の組成について、cBN焼結体断面研磨面のSEM観察結果の画像分析によりcBNの面積%を容量%として求めた。cBN以外の成分については、主結合相およびその他の結合相を構成している成分を確認するに止めた。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
次に、表3に示される成分組成、サイズからなる接合部材を用意した。
【0030】
次いで、超硬合金A−1〜A−4とcBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6の間に、表3に示される接合部材を挿入介在させ、表4に示す条件でcBN焼結体と超硬合金、または複合焼結体と超硬合金を加圧接合し、表7、表8に示す本発明複合部材1〜12を作製した。なお、複合焼結体はcBN焼結体が外面、超硬裏打が内面となるよう、即ち超硬裏打と超硬合金が接合部材を介し接合するように配置した。
【0031】
比較のために、表5に示される成分組成、サイズからなる接合部材を用意し、これを、超硬合金A−1〜A−4とcBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6の間に介在装入し、表6に示す条件でcBN焼結体と超硬合金、または複合焼結体と超硬合金を加圧接合し、表9、表10に示す比較例複合部材1〜12を作製した。複合焼結体の接合配置は本発明複合部材と同様とした。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
高温せん断強度測定試験:
上記で作製した本発明複合部材1〜12及び比較例複合部材1〜12について、接合部の強度を測定するためにせん断強度測定試験を行った。
試験に使用する試験片は、上記で作製した本発明複合部材1〜12及び比較例複合部材1〜12から、cBN焼結体または複合焼結体:1.5mm(W)×1.5mm(L)×0.75mm(H)、超硬合金:1.5mm(W)×4.5mm(L)×1.5mm(H)のサイズとなるように切り出してせん断強度測定用試験片とした。
試験片の上下面をクランプで把持固定し、1辺が1.5mmの超硬合金からなる角柱状の押圧片を用い、雰囲気温度を500℃として、試験片の硬質焼結片上面略中心付近に荷重を加え、硬質焼結片及び支持片が超硬合金片から破断する荷重を測定した。
表7〜表10に、測定されたせん断強度の値を示す。
【0037】
また、本発明複合部材1〜12及び比較例複合部材1〜12について、超硬合金と接合部材の界面の縦断面、cBN焼結体と接合部の界面の縦断面の組織観察と組成分析を、走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光器を用いて行った。
超硬合金と接合部材の界面について、超硬合金が観察領域の5〜10%を占める視野で縦断面観察を行い、10,000倍の視野で元素マッピングを行い、超硬合金と接合部材との界面には、TiC主体層が形成されていること、また、Ti・Ni濃化層が形成されていることを確認するとともに、10点の点分析を行い、平均値を算出することにより各層の成分組成を求めた。
また、TiC主体層に隣接して形成されている断続的網目状組織についても、10点の点分析を行い、平均値を算出することにより該組織の成分組成を求めた。
【0038】
また、TiC主体層、Ti・Ni濃化層の平均層厚については、超硬合金と接合部材との界面から、界面に直交する線分を引き、各層の界面までの長さを求め、10点計測を行った平均値を求め、各層の平均層厚とした。
断続的網目状組織の平均幅、平均延長線交差粒子数については、観察視野内の断続的網目状組織を構成する結晶粒個々について、最大径を長径、それに直交する線分の最大径を幅とし、同視野内において長径を延長した直線が横切る他の網目状組織結晶粒の個数を求めた。同視野内の各網目状組織結晶について結晶粒の幅及び延長線交差粒子数を求め、各々合計を網目状組織結晶の個数で除することにより、断続的網目状組織の平均幅及び平均延長線交差粒子数を求めた。
【0039】
cBN焼結体と接合部材との界面における、cBN粒子に隣接するTi、B、Nを含有する針状組織についても、前記と同様な方法で、Ti、B、Nの含有量を求めた。
また、針状組織についても、観察視野内10個の針状組織を構成する結晶粒個々について、最大径を長径、それに直交する線分の最大径を幅とし、長径を幅で除することによりアスペクト比を求め、10個の結晶粒の平均を算出することにより平均長径、平均アスペクト比とした。
表7〜表10に、その結果を示す。
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
【表9】

【0043】
【表10】

【0044】
次に、本発明複合部材1〜12及び比較例複合部材1〜12からなる切削工具を作製し、切削加工における破断発生の有無を調査した。
複合部材からなる切削工具は、以下のように作製した。
前記で作製したcBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6を、平面形状:開き角80°の一辺が4mmの二等辺三角形×厚さ:2mmの寸法に切断した。続いて、前記超硬合金A−1〜A−4を、平面形状:12.7mmの内接円で開き角80°の菱形×厚さ:4.76mmの寸法の焼結体とし、この焼結体の上下平行面の内、何れかの面の1角を、研削盤を用いて上記cBN焼結体及び複合焼結体の形状に対応した大きさの切欠きを形成した。この切欠きの底面の面積は2.96mmであり、側面の面積は4.89mmである。次いで、超硬合金A−1〜A−4とcBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6の間に、表3に示される接合部材を挿入介在させ、表4に示す条件でcBN焼結体と超硬合金、または複合焼結体と超硬合金を加圧接合し、この複合部材を外周研磨加工後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNGA120408のインサート形状を有する、本発明切削工具1〜12を作製した。なお、複合焼結体はcBN焼結体が外面、超硬裏打が内面となるよう、即ち超硬裏打と超硬合金が接合部材を介し接合するように配置した。また、これら本発明切削工具1〜12の接合部は表7、表8に示す本発明複合部材1〜12と実質的に同様であることを確認した。
同様に、前記で作製したcBN焼結体及び複合焼結体B−1〜B−6と、前記で作製した超硬合金A−1〜A−4の間に、表5に示す接合部材を挿入介在させ、表6に示す条件で加圧接合し、比較例切削工具1〜12を作製した。また、これら比較例切削工具1〜12の接合部は表9、表10に示す比較例複合部材1〜12と実質的に同様であることを確認した。
【0045】
つぎに、前記各種の切削工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明切削工具1〜12、比較例切削工具1〜12について、以下に示す浸炭焼き入れ鋼の乾式高速連続切削試験を行い、刃先脱落および破断部の場所を観察した。
被削材:JIS・SCM415(硬さ:58HRc)の丸棒、
切削速度:200m/min.、
切り込み:0.2mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:40分、
(通常の切削速度は、100m/min)、
表11に、切削試験結果を示す。
【0046】
【表11】
【0047】
表7〜表10に示されるせん断強度の値から、本発明複合部材1〜12は、比較例複合部材1〜12に比して、すぐれた接合強度を有することが分かる。
また、表11に示される結果から、本発明複合部材1〜12によって構成される本発明切削工具1〜12は、刃先の脱落もなく、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するのに対して、比較例複合部材1〜12から構成される比較例切削工具1〜12は、切削中に接合部から刃先脱落が生じ、早期に工具寿命に至ることが分かる。
【0048】
なお、本実施例においては、インサートを例にとって具体的に説明したが、本発明は、インサートに限られることなく、ドリル、エンドミルなど切刃部と工具本体との接合部をもつすべての切削工具に適用可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の複合部材は、その接合強度が大であり、この複合部材から作製した切削工具は、各種の鋼や鋳鉄、Al−SiC複合材料などの高負荷切削加工に使用することができ、しまも、長期に亘って安定した切削性能を発揮するものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。






図1
図2
図3