(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について添付図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態の車椅子用洗面台は、車椅子に搭乗する人(車椅子搭乗者という)の使い勝手を考慮した洗面台である。車椅子用洗面台は、床面からなる設置面に設置されている。本実施形態の車椅子用洗面台は、
図1に示すように、洗面台本体1と、ミラー5と、サイドキャビネット6とを備えている。
【0013】
本実施形態では、使用する状態において、洗面台本体1から車椅子搭乗者に向かう方向を前方とし、それに対向する方向を後方として定義する。また、車椅子搭乗者が洗面台本体1に向かう姿勢において、左右方向を定義する。
【0014】
洗面台本体1は、車椅子用洗面台の主体を構成する。洗面台本体1は、洗面カウンタ2と、この洗面カウンタ2を支持する一対の側板3と、幕板4とを備えている。
【0015】
洗面カウンタ2は、洗面台本体1の上面を構成する部材である。洗面カウンタ2は、洗面ボウル21と、洗面ボウル21の周囲に設けられたカウンタ部22と、カウンタ部22において洗面ボウル21の後方に位置する部分に配置された水栓24とを備えている。洗面ボウル21とカウンタ部22とは、例えば合成樹脂により一体成型されている。
【0016】
洗面ボウル21は、上方に開口した容器状に形成されており、水栓24から吐出された湯水を受けることができる。洗面ボウル21の底面には、排水口25(
図2)が設けられている。洗面ボウル21の底面は、排水口25に向かって下り傾斜している。
【0017】
カウンタ部22は、上面に物を載置できる部分であり、洗面ボウル21の上方開口部から水平面に沿ってフランジ状に突出している。カウンタ部22は、平面視略矩形状に形成されている。カウンタ部22の上面は、洗面ボウル21に向かって下り傾斜しており、洗面ボウル21の内面に連続している。
【0018】
水栓24は、カウンタ部22において、洗面ボウル21の後方に配置されている。水栓24は、湯または水(以下、湯水という)を吐出することができる。
【0019】
このような洗面カウンタ2は、一対の側板3によって支持される。一対の側板3は、カウンタ部22の左側の端部と、右側の端部とに一対一で配置されており、洗面ボウル21の左右方向の両側に配置されている。すなわち、一対の側板3は左右方向に離れており、洗面ボウル21と設置面との間にスペースを形成する。この一対の側板3の対向面の間に形成されたスペースは、車椅子搭乗者の脚部の挿入用スペースとなる(以下、脚部挿入用スペース9という)。
【0020】
一対の側板3は、互いに同じ形状に形成されている。各側板3は、少なくとも中央部から下端部にかけて、幅狭に形成されており、洗面カウンタ2の最も前側に位置する部分よりも後方に位置するように形成されている。特に、本実施形態の側板3は、上端部の幅がカウンタ部22の前後方向の長さと同じ長さに形成され、上端部よりも下方に位置する部分の幅が、側板3の上端部よりも幅狭に形成されている。
【0021】
これによって、例えば、脚部挿入用スペース9に脚部を挿入した状態の車椅子搭乗者が、左向きに90°転回した場合にも、当該脚部が側板3に衝突するのを回避することができる。
【0022】
また、洗面台本体1は、一対の側板3に掛け渡された幕板4を有している。幕板4は、左右方向に長さを有し、上下方向に幅を有している。幕板4は、正面から見た状態(以下、正面視)において、洗面ボウル21を覆う。これにより、幕板4は、洗面ボウル21の裏面が室内に露出して外観を損ねるのを防ぐことができる。
【0023】
このような構成の洗面台本体1の上方には、正面視矩形状のミラー5が配置されている。ミラー5の鏡面は正面に臨んでいる。ミラー5は、カウンタ部22の立上部23に載置された状態で、壁面に固定されている。
【0024】
ここで、立上部23は、カウンタ部22の後方側の縁部に、当該縁部の全長にわたって形成されている。立上部23は、カウンタ部22の上面から上方に突出している。立上部23は、カウンタ部22に一体成型されており、立上部23の前面はカウンタ部22の上面に連続している。
【0025】
ミラー5の左側の端面は、カウンタ部22の左側の端面と略面一となるように配置されている。また、ミラー5の右側の端部は、
図2に示すように、サイドキャビネット6の上方に位置している(より詳しくは、ミラー5の右側の端部はサイドキャビネット6に載置されている)。このように、本実施形態のミラー5の左右方向の長さは、洗面カウンタ2の左右方向の長さよりも長く、かつ、洗面カウンタ2とサイドキャビネット6とを合わせた左右方向の長さよりも短く形成されている。このため、本実施形態の車椅子用洗面台によれば、ミラー5の鏡面を、サイドキャビネット6から突出しない限りにおいて、できるだけ広く採ることができる。
【0026】
なお、符号51は、ミラー5の上端部に取り付けられた照明器具であり、符号52は、ミラー5の右側の端部に取り付けられたコンセントボックスである。
【0027】
サイドキャビネット6は、洗面台本体1の左右方向のうちのいずれか一方(本実施形態では洗面台本体1の右側)に隣り合って配置されており、これにより、サイドキャビネット6は脚部挿入用スペース9の側方に配置されている。具体的に、サイドキャビネット6は、一対の側板3のうちの右側の側板3に隣接配置されており、図示しない連結金具によって洗面台本体1に連結されている。
【0028】
サイドキャビネット6の上面は、水平面に形成されており、小物等を載置することができる。サイドキャビネット6の上面62aは、
図3に示すように、カウンタ部22の上面よりも上方に位置し、かつ、サイドキャビネット6におけるカウンタ部22に隣り合う側面がカウンタ部22の上面と隣接している。このサイドキャビネット6の側面とカウンタ部22の上面とでなす入隅部には、シーリング材が配置されており、これによって、サイドキャビネット6の側面とカウンタ部22の上面とが接続されている。
【0029】
このように、カウンタ部22のサイドキャビネット6側の縁部には、サイドキャビネット6の側面が立ち上がっており、当該側面が堰として機能する。このため、サイドキャビネット6の上面62aに小物を載置することで、小物を濡れないように載置することができる。
【0030】
図4には、洗面台本体1およびミラー5を省略したサイドキャビネット6の斜視図を示す。
図4に示すように、本実施形態のサイドキャビネット6は、キャビネット本体61と、前方にスライド可能な引出部7とを備えている。
【0031】
キャビネット本体61は、天面板62、一対の側面板63、奥面板64、底面板65を有しており、前方に開口した縦長の箱状に形成されている。
【0032】
引出部7は、キャビネット本体61の内部に収納可能な複数の収納棚71と、前板72とを備えている。複数の収納棚71は、上下方向に2列並んでいる。各収納棚71は、底板711と、底板711の左右方向の端部から上方に突出した一対の落下防止部712とを備えている。各収納棚71は、キャビネット本体61の一対の側面板63に対し、レールを介して取り付けられており、スライド可能に取り付けられている。
【0033】
前板72は、複数の収納棚71の前端部に取り付けられている。これにより、前板72を前方に移動させると、複数の収納棚71は同時に前方に引き出される。前板72は、左右方向に幅を有し、上下方向に長さを有している。前板72の幅方向の中央部で、かつ前板72の上端部には、取手8が取り付けられている。
【0034】
取手8は、把持部81と、把持部81を前板72に取り付ける一対の取付部82とで構成されており、側面視略U字状に形成されている。把持部81は、ユーザーが掴む(握る)部分である。把持部81は、上下方向に延びており、前板72の前方に隙間を介して離れている。把持部81は、車椅子搭乗者の手を、把持部81と前板72との間に向かって、把持部81の左右方向のいずれかの方向から挿入することで掴むことができる。
【0035】
一対の取付部82は、把持部81を、前板72に対して離れた状態で固定する。一対の取付部82は、把持部81の上下方向の両端部から後方に突出している。取付部82の後方側の端部は、前板72にねじ止めされる。
【0036】
一対の取付部82は、上下方向に離れており、対向間の隙間は、およそ10cm程度に設定されている。すなわち、
図5に示すように、本実施形態の取付部82は、車椅子搭乗者が把持部81を掴んだ状態において、手の直ぐ上方と直ぐ下方とに配置される。これにより、車椅子搭乗者の把持部81を把持する手が、上下方向のいずれに対しても移動するのを規制することができる(つまり、本実施形態において、一対の取付部82は、移動規制部を構成する)。
【0037】
したがって、例えば、老人や障がい者等の車椅子搭乗者が、取手8を掴んだ状態で引出部7を引くに際し、力が弱い等で水平に引けなくても、引く力を効果的に引出部7に伝えることができる。ここで、仮に、一対の取付部82の上下方向の隙間が手のサイズよりも広い場合において、力の弱い車椅子搭乗者が座ったままの姿勢で引出部7を引くと、把持部81の長さ方向に沿って手が移動してしまうことがある。これに対し、上下方向に延びた把持部に移動規制部が設けられていると、これを効果的に抑制できる。
【0038】
移動規制部としては、一対の取付部82に限らず、例えば、取付部82とは別に把持部81から突出した一対の突起により構成されてもよいし、把持部81に取り付けられたゴムグリップにより構成されてもよい。
【0039】
また、仮に把持部81が水平方向に延びている場合、取手8を握る手のひらは、力を抜いた自然状態である鉛直面に沿った姿勢(垂直姿勢)から、水平姿勢に回転させる動作が必要となる。一方、把持部81が上下方向に延びている場合、取手8を握る手のひらを水平姿勢にする必要がないので、垂直姿勢のまま手のひらを上方に移動させるだけでよく、手のひらを回転させる動作は必要ない。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態の車椅子用洗面台は、洗面ボウル21と、サイドキャビネット6とを備える。洗面ボウル21の下方には、車椅子搭乗者の脚部挿入用スペース9が設けられる。サイドキャビネット6は、脚部挿入用スペース9の側方に配置されている。またサイドキャビネット6は、前面に取手8が取り付けられて前方にスライド可能な引出部7を有する。取手8は、上下方向に延びた把持部81を有する。この構成によれば、脚部挿入用スペース9に脚部を挿入した車椅子搭乗者が、車椅子に座ったままの姿勢でも、把持部81を把持しやすく、また、力を入れやすい。この結果、本実施形態の車椅子用洗面台によれば、車椅子の搭乗者に対して使い勝手を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の車椅子用洗面台は、カウンタ部22をさらに備える。カウンタ部22は、洗面ボウル21の周囲に設けられ、その上面が洗面ボウル21の内面に連続する。サイドキャビネット6は、カウンタ部22に隣り合って配置されている。サイドキャビネット6の上面がカウンタ部22の上面よりも上方に位置し、かつ、サイドキャビネット6におけるカウンタ部22に隣り合う側面とカウンタ部22の上面とでなす入隅部に止水材が配置されている。この構成によれば、カウンタ部22のサイドキャビネット6側の端部において、サイドキャビネット6の側面が堰として機能する。このため、サイドキャビネット6の上面に小物を載置することで、当該小物を濡れにくい状態で載置することができる。
【0042】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の車椅子用洗面台は、洗面ボウル21の後方でかつ上方に配置されたミラー5をさらに備える。ミラー5におけるサイドキャビネット6側の端部は、サイドキャビネット6の上方に位置している。この構成によれば、ミラー5の幅を広くとることができ、鏡面をできる限り広くすることができる。
【0043】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の車椅子用洗面台は、ミラー5のサイドキャビネット6側の端部が、サイドキャビネット6に載置されている。この構成によれば、ミラー5の安定した支持状態を、サイドキャビネット6を利用して形成することができる。
【0044】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の把持部81は、引出部7の前面における左右方向の中央部に配置されている。この構成によれば、車椅子搭乗者は、弱い力でも効果的に引出部7を引き出すことができる。
【0045】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態のサイドキャビネット6は、洗面ボウル21に対し左右方向のうちのいずれか一方に配置されている。この構成によれば、本実施形態の車椅子用洗面台を壁の入隅部に配置することで、サイドキャビネット6を壁側に設置することができ、サイドキャビネット6を目立たないようにできる。
【0046】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の車椅子用洗面台は、カウンタ部22と、一対の側板3とをさらに備える。カウンタ部22は、洗面ボウル21の周囲に設けられ、その上面が前記洗面ボウル21の内面に連続する。一対の側板3は、洗面ボウル21の左右方向の両側に設けられてカウンタ部22を支持し、一対の側板3の間に脚部挿入用スペース9が形成される。一対の側板3のうち、いずれか一方の側板3には、サイドキャビネット6が隣り合って配置されている。一対の側板3のうちの他方の側板3は、少なくとも側板3の中央部から下端部にかけて、カウンタ部22において最も前側に位置する部分よりも後方に位置するように構成されている。この構成によれば、サイドキャビネット6が設けられた車椅子用洗面台であっても、脚部挿通用スペース9に脚部を挿入した状態の搭乗者が、横方向に転回することができる。
【0047】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の車椅子用洗面台は、洗面ボウル21の前方において一対の側板3に掛け渡された幕板4をさらに備えている。この構成によれば、洗面ボウル21の裏面が露出するのを防ぐことができ、部屋の外観が損なわれるのを防ぐことができる。
【0048】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の取手8は、把持部81を把持する手が、把持部81の長さ方向のうちのいずれに対しても移動するのを規制する移動規制部を有している。この構成によれば、車椅子搭乗者が把持部81を握って引出部7を引き出すに当たり、力を効果的に引出部7に伝えることができる。
【0049】
また、本実施形態の車椅子用洗面台は、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態の引出部7は、複数の収納棚71と、前板72とを備えている。複数の収納棚71は、上下方向に並んでおり、キャビネット本体61に対し前方にスライド可能に構成されている。前板72は、複数の収納棚71の前端部に取り付けられており、前面に取手8が取り付けられている。この構成によれば、車椅子の搭乗者は、どの位置の収納棚71を使用する場合でも、同一の取手8を引くことで引き出すことができ、すなわち、いつも同じ動作で引出部7を引き出すことができる。
【0050】
〔応用〕
上記実施形態の設置面は、床面により構成されたが、じゅうたんが敷かれた面であってもよく、設置面は床面に限定されない。
【0051】
上記実施形態の洗面ボウル21の形状は、例えば、椀状に形成されてもよく、本実施形態のものに限定されない。
【0052】
上記実施形態のミラー5は、板状に形成されたが、ミラーキャビネットにより構成されてもよい。また、照明器具51やコンセントボックス52は、設けられなくてもよい。
【0053】
上記実施形態の側板は、上下方向の中央部から下端部にかけて、後方に凹むように構成されていたが、下端部から上端部にかけて、上記実施形態の下端部と同じ幅に構成されてもよい。
【0054】
上記実施形態の取手は、側面視略U字状に形成されたが、上下方向に延びる把持部81を有していれば、例えば、L字状であってもよい。また、取手8は、縦長に掘り込んで形成された取手であってもよい。
【0055】
その他、上記実施形態の構成は、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、適宜設計変更を行うことができる。
【解決手段】車椅子搭乗者の脚部挿入用スペース9と、脚部挿入用スペース9の上方に配置される洗面ボウル21と、脚部挿入用スペース9の側方に配置されたサイドキャビネット6とを備える。サイドキャビネット6は、前面に取手8が設けられて前方にスライド可能な引出部7を有する。取手8は、上下方向に延びた把持部81を有する。