【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)グアニンアナログに耐性をもち、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することが可能な特性と、納豆発酵の過程で納豆中に核酸系うま味成分(アデニル酸)を産生させる特性と、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を通常の納豆と比べて劣化させることがない特性とを備えた納豆菌であって、
前記納豆菌が、Bacillus subtilis TTCC2221株(受託番号 NITE P−02380)、Bacillus subtilis TTCC2222株(受託番号 NITE P−02381)から選択された菌株であることを特徴とする納豆菌。
(2)前記(1)に記載の納豆菌を使用して核酸系うま味成分高含有納豆を製造する方法であって、
原料の大豆から蒸煮大豆を調製する工程と、納豆発酵の過程で、この蒸煮大豆に、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することが可能な納豆菌を接種して蒸煮大豆を発酵させる工程と、発酵させた蒸煮大豆を熟成させる工程とを備え、
納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を通常の納豆と比べて劣化させることなく、核酸系うま味成分(アデニル酸)によるうま味を呈する納豆を製造することを特徴とする核酸系うま味成分高含有納豆の製造方法。
(3)核酸系うま味成分(アデニル酸)が納豆に含まれている核酸系うま味成分高含有納豆であって、
前記核酸系うま味成分(アデニル酸)が納豆発酵の過程で納豆中に産生されたものであり、通常の納豆と比べて、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」の劣化がなく
、納豆発酵が、Bacillus subtilis TTCC2221株(受託番号 NITE P−02380)、Bacillus subtilis TTCC2222株(受託番号 NITE P−02381)から選択された菌株による発酵であり、
該株菌を含み、納豆に対するアデニル酸の含量が7mg/100g以上であり、該アデニル酸によるうま味を呈することを特徴とする核酸系うま味成分高含有納豆。
(4)納豆に対するアデニル酸、グアニル酸の含量が合計8mg/100g以上である、前記(3)に記載の核酸系うま味成分高含有納豆。
(5)納豆発酵の過程で納豆中に産生された核酸系うま味成分(アデニル酸)と、納豆に含まれるアミノ酸系うま味成分(グルタミン酸)とのうま味の相乗効果により増強されたうま味を呈する納豆である、前記(3)又は(4)記載の核酸系うま味成分高含有納豆。
(6)納豆発酵の過程で納豆中に産生された核酸系うま味成分(アデニル酸)
を含み、ナットウキナーゼによる血栓溶解活性
を有する、前記(3)−(5)のいずれか一項に記載の核酸系うま味成分高含有納豆。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、核酸系うま味成分高含有納豆を製造するために使用する納豆菌であって、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育可能な株を選抜して分離した選抜株であり、納豆発酵の過程で納豆中に核酸系うま味成分(アデニル酸)を産生させる特性と、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を劣化させることがない特性を備えたことを特徴とする納豆菌に係るものである。ここで、8−アザグアニン耐性をもつ納豆について説明すると、本発明では、20μg/ml8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育できる株を耐性株(選抜株)とし、生育できない株を非耐性株とした。
【0016】
本発明では、該納豆菌として、好適には、例えば、Bacillus subtilis TTCC2221株(受託番号 NITE P−02380)、TTCC2222株(受託番号 NITE P−02381)が使用される。また、本発明では、納豆菌として、これらの耐性株(選抜株)を紫外線照射や化学変異剤などで常法により変異させた前記耐性株(選抜株)から派生した変異株についても、前記耐性株(選抜株)と同様の前記特性を備えたものであれば、同様に使用することができる。本発明では、「選抜株(菌株)又はその変異株」とは、前記耐性株(選抜株)ないし該耐性株(選抜株)を上記常法により変異させた該耐性株(選抜株)から派生した変異株であることを意味する。
【0017】
また、本発明は、上記納豆菌を使用して、核酸系うま味成分高含有納豆を製造する方法であって、原料の大豆から蒸煮大豆を調製する工程と、納豆発酵の過程で、この蒸煮大豆に、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育可能な納豆菌を接種して該蒸煮大豆を発酵させる工程と、発酵させた蒸煮大豆を熟成させる工程とを備え、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を劣化させることなく、核酸系うま味成分(アデニル酸)による強いうま味を呈する納豆を製造する方法に係るものである。
【0018】
また、本発明は、上記納豆発酵により得られた核酸系うま味成分高含有納豆であって、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌を使用して納豆発酵を行うことにより、納豆発酵の過程で納豆中に核酸系うま味成分(アデニル酸)を産生させて、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を劣化させることなく、核酸系うま味成分を高い含有量で含有する核酸系うま味成分高含有納豆に係るものである。該納豆は、納豆に対するアデニル酸の含量が7mg/100g以上であり、該核酸系うま味成分による強いうま味を呈することを特徴とするものである。
【0019】
ここで、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を劣化させることなくとは、市販の納豆菌を含む従来の納豆菌と比べて、これらの品質特性が同等以上であり、納豆品質に遜色がないことを意味する。また、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌とは、グアニンアナログ耐性をもつ納豆菌であり、具体的には、20μg/mlの8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育可能な株を選抜して得られる耐性株(選抜株)として分離した納豆菌を意味する。
【0020】
また、本発明は、核酸系うま味成分高含有納豆であって、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌を使用して、納豆発酵を行うことにより、納豆発酵の過程で納豆中に核酸系うま味成分(アデニル酸)を産生させて、アデニル酸を7mg/100g以上、あるいは、アデニル酸、グアニル酸を合計8mg/100g以上含み、該核酸系うま味成分による強いうま味を呈することを特徴とする核酸系うま味成分高含有納豆に係るものである。
【0021】
核酸系うま味成分を含む納豆のうま味の強さについて試験をした結果、選抜株により納豆発酵の過程で納豆中に産生されるアデニル酸の量で、十分に納豆のうま味の増強効果があることが示された。また、核酸系うま味成分を含む納豆における当該うま味の増強効果は、核酸系うま味成分(アデニル酸)と、納豆に多く含まれるアミノ酸系のうま味成分(グルタミン酸)とのうま味の相乗効果によるものと考えられる。
【0022】
次に、8−アザグアニン耐性株の選抜について説明する。
本発明では、当社納豆製品使用株、自然界や各種発酵食品から分離した分離株、又はそれらを紫外線照射や化学変異剤などで変異させた変異株などを用いて、本発明の納豆製造技術に適用できる納豆菌(優良株)の選抜を行った。該優良株(候補株)の選抜条件は、次の通りとした。
【0023】
(1)第1次の優良株(候補株)の選抜
当社納豆製品使用株、自然界や各種発酵食品から分離した分離株、又はそれらを紫外線照射や化学変異剤などで変異させた変異株を使用して、これらの分離株、変異株などを、それぞれ、8−アザグアニンを含む最小寒天培地に植菌し、当該培地で増殖が見られる株を優良株(候補株)として選抜した。
【0024】
具体的には、20μg/mlの8−アザグアニンを含む最小寒天培地を調製し、この培地に、白金耳などで、納豆菌を植菌し、生育可能な株を選抜した。植菌する納豆菌は、寒天培地で純化したコロニー、液体培地などで前培養した栄養細胞、休眠誘導した胞子など、どのような生育状態でも特に構わない。前記濃度の8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することができる株を、第1次の優良株(候補株)とした。
【0025】
(2)液体培地での培養
選抜した優良株(候補株)を、液体培地で培養した。
【0026】
(3)第2次の優良株(候補株)の選抜
上記優良株(候補株)を用いて納豆を試作し、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」を劣化させることなく、従来品よりも、核酸系うま味成分によるうま味の強い納豆を製造することが可能な納豆菌を、第2次の優良株(候補株)として選抜した。
【0027】
(4)第3次の優良株(候補株)の選抜
次に、これらの優良株(候補株)を用いて試作した納豆の核酸系うま味成分(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)含量を、LC/MS/MS法によって分析し(日本ハム株式会社中央研究所に依頼)、核酸系うま味成分が顕著に含まれている納豆菌を、第3次の優良株(候補株)として選抜した。
【0028】
次に、納豆の製造工程について説明する。
本発明において、納豆の製造工程は、原料の大豆から蒸煮大豆を調製する工程と、納豆発酵の過程で、この蒸煮大豆に、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することができる納豆菌を接種して蒸煮大豆を発酵させる工程と、発酵させた蒸煮大豆を熟成させる工程とを含むことを特徴としている。本発明では、上記納豆菌として、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することができる納豆菌を接種することを特徴としている。
【0029】
また、本発明では、納豆菌として、上述のグアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することができる納豆菌を接種することを除き、通常の納豆の製造技術を任意に適用することが可能である。
【0030】
本発明の納豆製造工程では、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌として、Bacillus subtilis TTCC2221株(受託番号 NITE P−02380)、Bacillus subtilis TTCC2222株、(受託番号 NITE P−02381)を好適に使用することができる。また、これらの菌株は、ナットウキナーゼ活性について試験をした結果、90FU/g以上のナットウキナーゼ活性を有するナットウキナーゼ産生能力をもつ納豆菌であることが判明した。
【0031】
本発明では、納豆菌として、例えば、上述のように、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高く、8−アザグアニンを含む最小寒天培地で生育することができる納豆菌であれば適宜使用することができる。納豆発酵の過程で納豆中に産生された核酸系うま味成分の分析は、日本ハム株式会社中央研究所に依頼し、LC/MS/MS法によって行った。
【0032】
従来の納豆には、核酸系うま味成分は、ほとんど含まれないが、本発明の納豆には、該納豆に対するアデニル酸の含量は、7mg/100g以上であり、好ましくはアデニル酸、グアニル酸の合計が8mg/100g以上、あるいは核酸系うま味成分3種(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)の合計が8mg/100g以上である。例えば、TTCC2221株は、納豆に対するアデニル酸含量は7.1mg/100gであった。
【0033】
本発明の核酸系うま味成分高含有納豆は、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌を使用して納豆発酵を行うことにより、納豆に対するアデニル酸の含量が7mg/100g以上であり、該アデニル酸による強いうま味を呈することを特徴としている。また、本発明は、それ以外の態様として、アデニル酸、グアニル酸の合計が8mg/100g以上、あるいは核酸系うま味成分3種(アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸)を合計8mg/100g以上含み、核酸系うま味成分による強いうま味を呈する納豆であるとともに、90FU/g以上のナットウキナーゼによる血栓溶解活性をもつ納豆菌によるナットウキナーゼ高含有納豆であることを特徴とする納豆も本発明の対象としている。本発明では、核酸系うま味成分(アデニル酸)と、ナットウキナーゼによる血栓溶解活性を共に有するナットウキナーゼを内包する納豆製品も、本発明に係る「核酸系うま味成分高含有納豆」の範疇に含まれるものとする。
【0034】
次に、本発明では、従来菌と、TTCC2221株、TTCC2222株で発酵させた納豆との官能特性の比較を行った。得られた納豆菌で発酵させた納豆の官能特性の比較は、次の通りに行った。すなわち、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」と、「うま味の強さ」について、採点法によって官能評価を行い、官能特性の比較を行った。尺度は、従来菌1で発酵させた納豆をゼロとして、非常に強いから非常に弱いまでの両極7点の相対尺度(+3非常に強い、+2強い、+1少し強い、0差がない、−1少し弱い、−2弱い、−3非常に弱い)を使用した。
【0035】
評価は、官能評価士テキスト(日本官能評価学会編)に記載された方法に従って、基本五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)の識別が可能なパネラーを社内から選抜し、かつ、半年以上の納豆評価のトレーニングを繰り返し行った専門評価員によって行った。数値は、n=12の評価結果の平均値として示した。得られた結果について、平均値の差の検討を行った。
【0036】
その結果、8−アザグアニン耐性選抜株として選抜されたTTCC2221株、及びTTCC2222株で発酵させた納豆は、従来菌と比べて、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」が同等以上であり、納豆品質に遜色がないことが示された。また、TTCC2221株、TTCC2222株で発酵させた納豆は、従来菌と比べて、核酸系うま味成分による強いうま味を呈する納豆であることが示された。
【0037】
このように、上記選抜株を用いて、納豆の試作を行い、納豆の官能特性について、納豆の官能評価に精通した専門評価員で評価(官能評価)した結果、従来菌と比べて、核酸系うま味成分によるうま味が有意に高い評価を得ると同時に、納豆の基本的な品質特性である「被りの厚さ」、「糸の弾力」も同等以上であり、納豆品質に遜色がない納豆を製造することが可能であることが分かった。
【0038】
本発明では、グアニンアナログ耐性をもつ能力が市販の納豆菌を含む従来の納豆菌よりも高い納豆菌として、8−アザグアニンを含む最小培地で生育することができる納豆菌が使用される。これらのうち、本発明では、Bacillus subtilis TTCC2221株(受託番号 NITE P−02380)、Bacillus subtilis TTCC2222株(受託番号 NITE P−02381)が好適に使用される。これらの納豆菌株(優良株)のTTCC2221株、TTCC2222株は、公的寄託機関である、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2016年11月30日に寄託されている。選抜した優良株は、後記する表2〜4に示すような菌学的性質を有し、納豆菌であることが確認されている。