特許第6245549号(P6245549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6245549デバイス固定装置およびこれを備えるデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245549
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】デバイス固定装置およびこれを備えるデバイス
(51)【国際特許分類】
   F16B 17/00 20060101AFI20171204BHJP
   B64G 1/64 20060101ALI20171204BHJP
   B64G 1/56 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   F16B17/00 Z
   B64G1/64 A
   !B64G1/56
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-106347(P2013-106347)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-228025(P2014-228025A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年2月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼ 刊行物名 第56回宇宙科学技術連合講演会講演集 DVD−ROM ▲2▼ 発行日 平成24年11月20日 ▲3▼ 発行所 一般社団法人 日本航空宇宙学会 ▲4▼ 該当講演番号 JSASS−2012−4074およびJSASS−2012−4076
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 洋喜
(72)【発明者】
【氏名】河本 聡美
(72)【発明者】
【氏名】仁田 工美
(72)【発明者】
【氏名】久保田 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】榎本 雅幸
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−226497(JP,A)
【文献】 特開平02−088400(JP,A)
【文献】 米国特許第06523784(US,B2)
【文献】 特開2004−330943(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065795(WO,A1)
【文献】 実開平02−018927(JP,U)
【文献】 特開2004−098959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 17/00
B64G 1/64
B64G 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間が開口よりも広い空洞部を有する任意の物体に対して、任意のデバイスを固定するデバイス固定装置であって、
前記デバイスに取り付けられ、前方向に伸展する伸展部と、
当該伸展部の前端に取り付けられ、前記物体の開口の内部に係合する係合部と、
を備え、
前記係合部は、
収納状態から伸展して棒状の突出状態に移行可能であるとともに、突出状態では、前記空洞部の開口の半径よりも長い状態で維持される、複数の突出部材と、
これら突出部材を放射状に配置した状態で前記伸展部の前端に固定する突出部材固定部材と、を備え、
前記係合部は、前記突出部材が収納状態にあるときには、前記係合部全体が前記空洞部の開口よりも小さくなるよう構成され、かつ、前記伸展部の伸展により前記空洞部の開口内に挿入された後には、前記突出部材を収納状態から突出状態に移行させるように構成されていることを特徴とする、
デバイス固定装置。
【請求項2】
前記物体が、前記空洞部としてPAF(Payload Attach Fitting)を有するスペースデブリであり、
前記デバイスがスペースデブリ除去デバイスであることを特徴とする、
請求項1に記載のデバイス固定装置。
【請求項3】
前記係合部は、前記突出部材を3つ以上備え、かつ、
突出状態にある当該突出部材同士の角度がそれぞれ等角度となるように、前記突出部材固定部材により前記伸展部の前端に固定されていることを特徴とする、
請求項1または2に記載のデバイス固定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のデバイス固定装置を備える、デバイス。
【請求項5】
前記物体がPAFを有するスペースデブリであり、前記デバイスがスペースデブリ除去デバイスであるときに、
EDT(ElectroDynamic Tether)を備えていることを特徴とする、
請求項4に記載のデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口よりも広い空洞部を有する任意の物体に任意のデバイスを固定するためのデバイス固定装置、並びに、このデバイス固定装置を備えるデバイスに関する。例えば、任意のデバイスがスペースデブリ除去デバイスであって、任意の物体がPAF(Payload Attach Fitting)を有するスペースデブリである場合であれば、このPAFに対してスペースデブリ除去デバイスを容易に固定することが可能なスペースデブリ除去デバイス固定装置と、これを備えるスペースデブリ除去デバイスとに関する。
【背景技術】
【0002】
スペースデブリは年々増加の一途をたどっており、宇宙利用や宇宙開発に大きな影響を及ぼしつつある。そこで、現存するスペースデブリを積極的に除去するためにさまざまな技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、地球磁場との電磁気的な相互作用によってスペースデブリを軌道変更させる力を得る導電性のテザー(EDT)を備える、スペースデブリ軌道変換用テザー装置が開示されている。このテザー装置は、スペースデブリ除去作業を行う作業衛星に設けられ、テザーを伸展可能に保持するテザー機構、スペースデブリの構造部分を把持可能な捕獲機構、並びに、作業衛星が備えるロボットアームに結合・分離可能な取っ手等を備えている。
【0004】
作業衛星のロボットアームによってテザー装置がスペースデブリの捕獲部位に近接させられると、テザー装置は、捕獲機構によって捕獲部位を把持し、その後にテザーを伸展する。さらにその後、テザー装置は、取っ手をロボットアームから分離する。これにより、テザー装置は、作業衛星から分離されるので、スペースデブリとともに対象軌道から投棄されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3809524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の技術では、作業衛星が備えるロボットアームによって、テザー装置をスペースデブリの捕獲部位に近傍させる必要があるため、ロボットアームは、高度の位置制御や動作制御が必要となる。また、テザー装置の捕獲機構は、構造部分を把持するために開閉可能な指および指駆動部を備える構成となっているため、捕獲機構の構造は非常に複雑なものとなる。それゆえ、特許文献1に開示の技術では、テザー装置もこれを搭載する作業衛星もその構成が複雑になり、かつ、重量増加も招くおそれがある。そのため、特許文献1に開示の方法では、スペースデブリの除去が可能であっても、高コストな方法となり、技術的難度も高いものになってしまう。
【0007】
言い換えれば、テザー装置等のスペースデブリ除去デバイスをスペースデブリに固定する際に、簡素かつ軽量化可能な手法を採用することができれば、低コストでスペースデブリを除去することが可能になる。
【0008】
また、スペースデブリ除去デバイスに関わらず、空洞部を有する物体に任意のデバイスを固定する用途では、簡素かつ軽量化可能な手法を用いた低コストなデバイス固定装置が求められている。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、低コストかつ簡素な構成で、空洞部を有する物体に任意のデバイスを固定することが可能なデバイス固定装置、およびこれを備えるデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るデバイス固定装置は、前記の課題を解決するために、内部空間が開口よりも広い空洞部を有する任意の物体に対して、任意のデバイスを固定するデバイス固定装置であって、前記デバイスに取り付けられ、前方向に伸展する伸展部と、当該伸展部の前端に取り付けられ、前記物体の開口の内部に係合する係合部と、を備え、前記係合部は、収納状態から突出状態に移行可能であるとともに、突出状態では、前記空洞部の開口の半径よりも長い棒状で維持される、複数の突出部材と、これら突出部材を放射状に配置した状態で前記伸展部の前端に固定する突出部材固定部材と、を備え、前記係合部は、前記突出部材が収納状態にあるときには、前記係合部全体が前記空洞部の開口よりも小さくなるよう構成され、かつ、前記伸展部の伸展により前記空洞部の開口内に挿入された後には、前記突出部材を収納状態から突出状態に移行させるように構成されている。
【0011】
前記構成によれば、伸展部を伸展させて、任意の物体の空洞部内に係合部を挿入し、その後、係合部から放射状に複数の突出部材を突出させることになる。突出部材は、突出状態では空洞部の開口の半径よりも長い棒状で維持されるので、突出部材が突出した状態の係合部は、前記空洞部の開口よりも大きい広がりを有することになる。空洞部の内部空間は開口よりも広いため、係合部は空洞部内で抜け落ちることなく係合される。それゆえ、簡素な構成で任意のデバイスを任意の物体に容易に固定することが可能となる。
【0012】
前記構成のデバイス固定装置においては、前記物体が、前記空洞部としてPAF(Payload Attach Fitting)を有するスペースデブリであり、前記デバイスがスペースデブリ除去デバイスであってもよい。
【0013】
また、前記構成のデバイス固定装置においては、前記係合部は、前記突出部材を3つ以上備え、かつ、突出状態にある当該突出部材同士の角度がそれぞれ等角度となるように、前記突出部材固定部材により前記伸展部の前端に固定されている構成であってもよい。
【0014】
また、本発明に係るデバイスは、前記構成のデバイス固定装置を備える構成である。
【0015】
前記構成のデバイスは、例えば、前記物体がPAFを有するスペースデブリであり、前記デバイスがスペースデブリ除去デバイスであるときに、EDT(ElectroDynamic Tether)を備えている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、以上の構成により、低コストかつ簡素な構成で、空洞部を有する物体に任意のデバイスを固定することが可能な、デバイス固定装置、およびこれを備えるデバイスを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係るデバイス固定装置の代表的な一例である、スペースデブリ除去デバイス固定装置の構成の一例を示す模式図である。
図2図1に示すスペースデブリ除去デバイス固定装置を備えるスペースデブリ除去デバイスの構成の一例を示す模式図である。
図3図2に示すスペースデブリ除去デバイスによるスペースデブリの除去方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、物体がスペースデブリであり、デバイスがスペースデブリ除去デバイスである場合を例示しているが、本発明はこれに限定されない。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0019】
[スペースデブリ除去デバイス固定装置の構成例]
図1に示すように、本発明に係るスペースデブリ除去デバイス固定装置10は、伸展部11および係合部12を備えており、係合部12は、突出部材13および突出部材固定部材14から構成されている。このスペースデブリ除去デバイス固定装置10は、図2に示すように、PAF101を有するスペースデブリ100に対して、スペースデブリ除去デバイス20を固定するために用いられる。なお、以下の説明では、便宜上、スペースデブリ除去デバイス固定装置10を「デバイス固定装置10」と略記し、スペースデブリ除去デバイス20を「除去デバイス20」と略記する。
【0020】
伸展部11は、除去デバイス20の前方に取り付けられ、図1上に示す収縮した状態から、図1中に示すように除去デバイス20の前方向に伸展するように構成されている。
【0021】
係合部12は、伸展部11の前端に取り付けられ、図2に示すように、スペースデブリ100が有するPAF(Payload Attach Fitting)101の内部に挿入可能となっている。PAF101は、人工衛星をロケットに固定するための機械的インターフェースであって、図2に示すように、開口102を有する略円錐形である。スペースデブリ100がロケットの一部等であれば、本体である構造体103がPAF101を備えている構成となっている。係合部12は、伸展部11の伸展により開口102からPAF101内に挿入可能となっている。このPAF101は、内部空間が開口よりも広い空洞部に相当する。
【0022】
係合部12は、突出部材13および突出部材固定部材14を備えている。突出部材13は、係合部12に複数設けられ、図1上および図1中に示すような収納状態から、図1下に示すような突出状態に移行可能に構成されている。突出部材固定部材14は、これら突出部材13を放射状に配置した状態で伸展部11の前端に固定している。また、突出部材13が突出状態にあるときには、図2に示すように、その全長がPAF101の開口102の半径よりも長い棒状に維持される。
【0023】
係合部12は、突出部材13が収納状態にあるときには、当該係合部12全体(すなわち収納状態にある突出部材13および突出部材固定部材14)がPAF101の開口102よりも小さくなるように構成されている。また、係合部12は、伸展部11の伸展によりPAF101の開口102内に挿入された後には、突出部材13を収納状態から突出状態に移行させるよう構成されている。
【0024】
係合部12が備える突出部材13の個数は特に限定されず、複数すなわち2つ以上であればよい。前記の通り、突出部材13は、開口102の半径よりも長い棒状となるように突出するので、例えば、図2の構成例Iに示すように、突出状態の突出部材13が直線状となる位置関係で突出部材固定部材14により2つ固定されていれば、少なくとも開口102の直径よりも大きくなる。そのため、係合部12がPAF101内で係合可能となるので、除去デバイス20をスペースデブリ100に固定することができる。
【0025】
また、突出部材13は、図2の構成例IIのように3つ以上設けられていることが好ましい。これにより、係合部12が突出部材13を3つ備えていれば、2つの場合(構成例I)と比較して突出状態の突出部材13が面状に広がることになる。それゆえ、係合部12によるPAF101内での係合状態をより安定化することができる。さらに、図2の構成例IIIに示すように、突出部材13は4つ設けられていてもよい。
【0026】
なお、図2下方の構成例I〜IIIは、図2上方に示すデバイス固定装置10を固定したスペースデブリ100の斜視図を、図中ブロック矢印V方向から見た状態を示す模式的な平面図に相当する。また、図2下方の構成例I〜IIIでは、開口102と構造体103と区別する便宜上、PAF101の開口102に網掛けを施している。
【0027】
ここで、係合部12が突出部材13を3つ以上備えている場合には、突出状態の突出部材13同士で形成される角度がそれぞれ等角度となるように構成されていることが好ましい。例えば、図2の構成例IIでは、突出部材13が3つ設けられているので、これら突出部材13はそれぞれ120°をなすように、突出部材固定部材14により固定されていればよい。また、図2の構成例IIIでは、突出部材13が4つ設けられているので、これら突出部材13はそれぞれ90°をなすように、突出部材固定部材14により固定されていればよい。
【0028】
言い換えれば、係合部12が突出部材13を3つ以上備えていれば、突出状態にある突出部材13の先端を結んだ多角形が正多角形となるように、それぞれの突出部材13の位置が突出部材固定部材14によって規定されていることが好ましい。これにより、突出状態にある突出部材13がPAF101の開口102内で均等な方向に広がることになるので、PAF101内での係合状態をより安定化することができる。
【0029】
伸展部11および係合部12の具体的な構成は特に限定されない。例えば、伸展部11および係合部12は一つの伸展式ロボットアームとして構成されてもよい。この場合、伸展部11は大型の伸展式アームであり、係合部12が備える突出部材13は、伸展部11に比べて小型の伸展式アームであればよく、突出部材固定部材14は、小型の伸展式アームを大型の伸展式アームに固定する部材であればよい。
【0030】
また、伸展部11および突出部材13が伸展式アームであれば、これらを伸展駆動させる駆動部は、公知の構成を採用することができる。また、伸展部11を伸展させる駆動部は除去デバイス20近傍または内部に設けられていればよく、突出部材13を伸展させる駆動部は突出部材固定部材14に一体的に設けられていればよい。
【0031】
あるいは、伸展部11および突出部材13は、それぞれ公知の伸展型のアクチュエータまたは公知の機械的な伸展部材等で構成されてもよい。機械的な伸展部材としては、例えば、筒状に収納された状態から棒状の伸展状態に変化可能な伸展バネを挙げることができる。このとき、突出部材固定部材14は、複数の突出部材13となるアクチュエータまたは伸展部材等を放射状に固定する部材として構成されればよい。
【0032】
また、伸展部11および突出部材13は、いずれも同様の構成であってもよいが、異なる構成であってもよい(例えば、伸展部11が伸展式アームで複数の突出部材13がアクチュエータであってもよい)。伸展部11は、突出部材13および突出部材固定部材14を備える係合部12を除去デバイス20の前方に移動させるように伸展できる構成であればよく、また、突出部材13は、突出状態でPAF101内に十分に係合できる程度の剛性を発揮できる構成であればよい。
【0033】
[スペースデブリ除去デバイスの構成例]
本発明に係るデバイス固定装置10は、公知の除去デバイス20に適用することができる。本実施の形態では、除去デバイス20は、図2に示すように、EDT(ElectroDynamic Tether)21を備えており、図示しないが、例えば除去デバイス20内に巻き取られた状態で収容されている。また、このEDT21の先端は、デバイス固定装置10に連結されている。このような除去デバイス20は、公知の構成のスペースデブリ除去衛星30に取り付けられている。
【0034】
EDT21は、導電性を有するテザーであり、デバイス固定装置10がスペースデブリ100のPAF101に係合することで、当該スペースデブリ100に固定される。スペースデブリ100が地球を周回する軌道上を進行するに伴ってEDT21が地球磁場中を移動すると、当該EDT21に誘導起電力およびローレンツ力が生じる。その結果、スペースデブリ100に対しては、その進行方向とは逆方向に推進力が生じるので、当該スペースデブリ100の推進速度を低減させることができる。推進速度が低減すれば、スペースデブリ100の高度も徐々に低下するので、最終的にスペースデブリ100は軌道上から離脱して大気圏に突入することになる。
【0035】
なお、本実施の形態の除去デバイス20は、EDT21を備える構成に限定されず、公知の他の構成であってもよい。例えば、公知のスラスタを備える構成を挙げることができる。このようなスラスタを備える除去デバイス20は、デバイス固定装置10に直接連結されてもよいが、EDT21のようなテザーを介してデバイス固定装置10に連結されてもよい。
【0036】
次に、デバイス固定装置10を備える除去デバイス20の固定動作について、図3を参照して具体的に説明する。
【0037】
まず、除去デバイス20はスペースデブリ除去衛星30の前方に設けられており、図3のブロック矢印M1に示すように、スペースデブリ100のPAF101に向かって接近する。次に、デバイス固定装置10による固定動作が可能な距離までスペースデブリ除去衛星30が接近すれば、デバイス固定装置10の伸展部11が伸展し、これにより係合部12がPAF101の開口102内に挿入される。なお、この時点では、突出部材13は収納状態にある。
【0038】
次に、係合部12は突出部材13(図3では係合部12を模式的に示しているので、突出部材13および突出部材固定部材14については符号を付していない)を突出させる。これにより、突出状態となった突出部材13は、PAF101内で開口102よりも大きな広がりを有することになる。それゆえ、係合部12は、開口102から脱離しないでPAF101内に係合され、結果として、除去デバイス20はデバイス固定装置10を介してスペースデブリ100のPAF101に固定される。
【0039】
次に、スペースデブリ除去衛星30は、図3のブロック矢印M2に示すように、スペースデブリ100から離脱する方向に移動する。これに伴い、除去デバイス20内に収容されていたEDT21が引き出される。EDT21が十分に引き出されれば、スペースデブリ除去衛星30は、除去デバイス20を切り離す。その後は、EDT21の作用によってスペースデブリ100の推進速度が低減し、地球周回軌道からデオービットされる。
【0040】
このように、本発明に係るデバイス固定装置10は、伸展部11を伸展させて、スペースデブリ100のPAF101内に係合部12を挿入し、その後、係合部12から放射状に複数の突出部材13を突出させる。突出部材13は、突出状態ではPAF101の開口102の半径よりも長い棒状で維持されるので、この状態の係合部12は、PAF101の開口102よりも大きい広がりを有することになる。PAF101の内部は一般に開口102よりも広いものが多いため、複数の突出部材13が突出した係合部12はPAF101内で抜け落ちることなく係合される。それゆえ、簡素な構成で除去デバイス20をスペースデブリ100に容易に固定することが可能となる。
【0041】
しかも、PAF101は、人工衛星をロケットに固定するための機械的インターフェースであって、その構成は基本的に規格化されている。それゆえ、係合部12の構成に合わせて規格化することが可能となる。加えて、PAF101の開口102の直径は相対的に大きいため、係合部12をPAF101の開口102よりも小さくなるように構成しやすくなる。それゆえ、伸展部11によってPAF101内に係合部12を挿入する際にも、高精度な位置制御を行う必要性がない。
【0042】
また、係合部12がPAF101内に挿入されれば、突出部材13を突出させるだけでデバイス固定装置10をPAF101に係合させることができる。それゆえ、デバイス固定装置10の制御構成の簡素なものとすることができる。
【0043】
このように、本発明に係るスペースデブリ除去デバイス固定装置は、PAFを有するスペースデブリに対して、スペースデブリ除去デバイスを固定するデバイス固定装置であって、前記スペースデブリ除去デバイスに取り付けられ、前方向に伸展する伸展部と、当該伸展部の前端に取り付けられ、前記スペースデブリが備える前記PAFの内部に係合する係合部と、を備え、前記係合部は、収納状態から突出状態に移行可能であるとともに、突出状態では、前記PAFの開口の半径よりも長い棒状で維持される、複数の突出部材と、これら突出部材を放射状に配置した状態で前記伸展部の前端に固定する突出部材固定部材と、を備え、前記係合部は、前記突出部材が収納状態にあるときには、前記係合部全体が前記PAFの開口よりも小さく構成され、かつ、前記伸展部の伸展により前記PAFの開口内に挿入された後には、前記突出部材を収納状態から突出状態に移行させるよう構成されていればよい。
【0044】
前記構成によれば、伸展部を伸展させて、スペースデブリのPAF内に係合部を挿入し、その後、係合部から放射状に複数の突出部材を突出させることになる。突出部材は、突出状態ではPAFの開口の半径よりも長い棒状で維持されるので、突出部材が突出した状態の係合部は、前記PAFの開口よりも大きい広がりを有することになる。PAFの内部は一般に開口よりも広いものが多いため、係合部はPAF内で抜け落ちることなく係合される。それゆえ、簡素な構成でスペースデブリ除去デバイスをスペースデブリに容易に固定することが可能となる。
【0045】
しかも、PAFは、人工衛星をロケットに固定するための機械的インターフェースであって、その構成は基本的に規格化されている。それゆえ、係合部の構成に合わせて規格化することが可能となる。
【0046】
加えて、PAFの開口の直径は相対的に大きいため、係合部をPAFの開口よりも小さくなるように構成しやすくなる。それゆえ、伸展部によってPAF内に係合部を挿入する際にも、高精度な位置制御を行う必要性がない。
【0047】
また、係合部がPAF内に挿入されれば、突出部材を突出させるだけでデバイス固定装置をPAFに係合させることができる。それゆえ、デバイス固定装置の制御構成の簡素なものとすることができる。
【0048】
なお、前記の通り、本実施の形態では、内部空間が開口よりも広い空洞部を有する物体として、PAFを有するスペースデブリを例示し、物体に固定されるデバイスとして、スペースデブリ除去デバイスを例示しているが、本発明はこれに限定されず、空洞部を有する物体に任意のデバイスを固定する分野に広く適用できることは言うまでもない。
【0049】
また、本発明は本実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、内部空間が開口よりも広い空洞部を有する物体に任意のデバイスを固定する分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 デバイス固定装置
11 伸展部
12 係合部
13 突出部材
14 突出部材固定部材
20 スペースデブリ除去デバイス(デバイス)
21 EDT
30 スペースデブリ除去衛星
100 スペースデブリ
101 PAF(空洞部)
102 PAFの開口
103 構造体(スペースデブリの一部)

図1
図2
図3