(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インサート座(23)は、底壁面(24)と該底壁面から屹立するように延在する側壁面(25)とを有し、該底壁面(24)と該側壁面(25)とはそれぞれ前記切削インサート(1)に当接する当接面として機能するように構成され、
該側壁面(25)は、該インサート座(23)に前記切削インサート(1)が取り付けられたとき、前記傾斜部(8a)と係合可能なように形成されている、
請求項1に記載の切削工具(21)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る、ねじ切り用の切削インサート1の斜視図である。
図2は、
図1の切削インサート1が装着された、本発明の一実施形態に係る、ねじ切り用の切削工具21の斜視図である。
図3は、
図1の切削インサート1の平面図である。
図4は、
図1の切削インサート1の正面図である。
図5は、
図1の切削インサート1の右側面図である。
図6は、
図1の切削インサート1の下面図である。
図7は、
図1の切削インサート1の背面図である。
図8は、
図2の切削工具21から切削インサート1などを取り外したインサート座を示す、
図2の切削工具の先端側の部分(刃部を含む)の部分拡大図である。
図9は、
図2の切削工具の平面図である。
図10は、
図2の切削工具の正面図である。
図11は、
図2の切削工具の左側面図である。
図12は、
図9のXII−XII線に沿った、切削工具21の拡大断面図である。
図13Aおよび
図13Bは、
図2の切削工具での切削加工の準備完了状態の一例を表す図である。
【0018】
まず、
図1、
図3〜
図7に基づいて、ねじ溝加工用のつまりねじ切り用の切削インサート1を説明する。切削インサート1は、2つの対向する端面2、3と、それらの間に延在する周側面4とを有する。この切削インサート1では、2つの端面2、3は、180°回転対称の関係にある。ここでは便宜的に2つの端面2、3のうちの(
図1において示されている)一方を上面2と呼び、他方を下面3と呼ぶ。上面2と下面3とは、周側面4によってつながれている。そして、上下面2、3の各々と周側面4との交差稜線部には、ねじ溝加工用の切れ刃5が形成される。なお、以下では、上下面2、3の位置関係にしたがい、「上」、「下」という用語を用いる。しかし、これら用語は説明および理解を容易にするべく用いられるに過ぎず、本発明を限定することを意図しない。
【0019】
切削インサート1では、上面2および下面3のそれぞれに開口する取付穴6が形成されている。上面2および下面3の各々は取付穴6の中心軸線6aに略直角に延在する平坦面として構成されているが、他の形状を有してもよい。ここで、
図1、3および6に示すように取付穴6の中心軸線6aに直交すると共に切削インサート1の周側面4を貫通するように延びる軸線6bを定める。軸線6bは、上下面2、3の間に延びる。この軸線6bに関して、切削インサート1は180°回転対称な形状を有する。したがって、上述のごとく上面2および下面3(つまり、後述される上下面2、3の2つの切れ刃5)は互いに対して180°回転対称な関係にある。なお、後述するように切削インサート1は2つの切れ刃を有するが、これら切れ刃を判別するためのマークなどがさらに付されてもよい。
【0020】
切削インサート1では、上面2または下面3に対向する方向からみたとき、つまり、
図3および
図6の各々において、ねじ切りインサート1の輪郭形状は、略扇形である。したがって、周側面4は、
図3および
図6において略円弧形状のような主側面部7と、主側面部の両脇につながる2つの副側面部8、9と、主側面部7の反対側に位置する背側面部10とを主に有する。これら側面部7〜10は(中心軸線6aを中心にして)切削インサート1の周側面4の周方向Dに並ぶ。切削インサート1では、前述の切れ刃5は、主側面部7に関して設けられている。なお、周方向Dは、周側面4の周囲に沿った方向を指し、
図3および
図6に模式的に表されていて、上面2と下面3とをつなぐ方向であるインサート厚さ方向(中心軸線6aに平行な方向)に直交するように定められる面上において定められるとよい。
【0021】
主側面部7は2つの領域部7a、7bからなる。第1領域部7aは上面2との間に1つの切れ刃5を形成するように形付けられている。第2領域部7bは周方向において第1領域部7aに隣接し、第2領域部7bと下面3との間にもう1つの切れ刃5を形成するように形付けられている。第1領域部7aは、第2領域部7bと、軸線6bに関して180°回転対称な関係にある。上述のごとく定義される軸線6bは、
図1に表されているように、主側面部7を通過するように定められていて、第1領域部7aと第2領域部7bとの境界部7cを通過する。ただし、軸線6bは、第1領域部7aと第2領域部7bとの中間を通るとよく、第1領域部7aと第2領域部7bとは切削インサート1では連続するが、離れていてもよい。
【0022】
図3および
図6に示されるように、切削インサート1では、第1領域部7aは中心軸線6aに略平行に上下面2、3の間の全体に亘って延在し、第2領域部7bは中心軸線6bに略平行に上下面2、3の間の全体に亘って延在する。
図3に示すように、第1領域部7aは、第2領域部7bと角度αを成すように延在する。ここでは角度αをインサート内角αと称する。インサート内角αは180°未満の角度を有する。なお、インサート内角αは、(インサート厚さ方向に延びる)中心軸線6aに直交するように定められる平面(不図示)上において定められる。
【0023】
なお、ここでは、上面2に関する切れ刃5を上切れ刃5aと称し、下面3に関する切れ刃5を下切れ刃5bと称する。これら上切れ刃5aおよび下切れ刃5bは軸線6bに対して180°回転対称な関係にあるので、以下では、まず上切れ刃5aに関して説明する。
【0024】
周側面4の主側面部7の第1領域部7aは、鋸歯状に形成されている。第1領域部7aは、
図3において直線状であるベース部11a(線L1に相当)から各々が突出し、かつ、周方向において一定ピッチで並ぶ第1凸部11b、第2凸部11cおよび第3凸部11dを有する。第1から第3凸部11b〜11dはそれぞれ、中心軸線6aに直交する方向と平行に突出し、かつ、中心軸線6aに略平行に上面2と下面3との間の概ね全領域に亘って延びている(
図4参照)。第1凸部11b、第2凸部11cおよび第3凸部11dは、中心軸線6aを中心にした周方向において、第1領域部7aに隣接する副側面部9側から、順に並ぶ。3つの凸部11b〜11dにより、それらの間に、凹部11e、11fが形成される。3つの凸部11b〜11dを有することで鋸歯状である第1領域部7aと上面2との交差稜線部に、鋸歯状またはラック状の上切れ刃5aが形成される。したがって、上切れ刃5aは3つの山部5c、5d、5eを有する。なお、本明細書では、凸部11b〜11dの縁部に形成された切れ刃の3つの凸状部分をそれぞれ山部5c、5d、5eと称するが、これら山部は例えば刃凸部と称されることもできる。
【0025】
上切れ刃5aの山部は、それぞれ、この上切れ刃5aを用いた切削加工で形成される、ねじ溝に対応する形状を有する。このように、上切れ刃5aの一部はねじ溝に対応する形状を有する。
【0026】
第1領域部7aの3つの凸部11a〜11cの大きさはそれぞれ異なっている。それら凸部11a〜11cのそれぞれの大きさが異なることにより、それぞれの凸部により形成される切れ刃部分つまり山部は、仕上げ刃と、仕上げ刃に対して切削代を残す中仕上げ刃と、中仕上げ刃に対してさらに切削代を残す荒刃とされる。これらの個々の切れ刃部分が順次被加工物に作用することにより、ねじ溝が切削加工される。すなわち、被加工物に対して、まずは荒刃が切削加工し、続いて中仕上げ刃、仕上げ刃が順次切削加工することにより、加工能率の高い切削加工ができる。すなわち3回分の切削加工が1回でできるため、加工能率を3倍以上に向上できる。なお、副側面部9側の第1凸部11bによる上切れ刃5aの山部5cは荒刃とされ、第2凸部11cによる上切れ刃5aの山部5dは中仕上げ刃とされ、第3凸部11dによる上切れ刃5aの山部5eは仕上げ刃とされる。ここでは山部5eは仕上げ山部と称され得る。
【0027】
なお、第1領域部7aのベース部11aに概ね沿って延在する谷部5f、5g、5h、5iも、上切れ刃5aに含まれる。しかし谷部5f、5g、5h、5iは、切削加工時、被加工物から逃がされて上切れ刃5aとして作用しなくてもよい。なお、上切れ刃5aの両脇の部分5f、5iも、ここでは「谷部」と称している。
【0028】
なお、上切れ刃5aにおける山部の数つまり第1領域部7aの凸部の数は3つに限定されない。一つの切れ刃5における山部の数は1つでも2つでもよく、また3つより多くても構わない。つまり、主側面部の1つの領域部における凸部の数は、3つに限定されず、1つでも2つでもよく、また3つより多くてもよい。必要とされる加工能率に応じて、適宜調整される。1つまたは複数の山部と、それらの間の谷部や切れ刃の両脇の部分(谷部)を含む一連の交差稜線部または縁部を、ここでは切れ刃5と呼ぶ。しかし、例えば切れ刃の両脇の部分は切れ刃に含まれなくてもよく、切れ刃の全体がねじ溝に対応する形状を有してもよい。
【0029】
上切れ刃5aに関しては、主側面部7の第1領域部7aが逃げ面として機能し、関連する(隣接する)端面である上面2の部分がすくい面として機能する。これに伴い、上切れ刃5aにつづく上面2には、チップブレーカ溝12が設けられている。チップブレーカ溝12は、
図3に示されるように上切れ刃5aに沿って延在している。
【0030】
以上述べたように構成される上切れ刃5aと同様に、下切れ刃5bも構成される。
図1、3〜
図7においては、下切れ刃5bに関しても、その構成要素および関連する構成要素に上切れ刃5aの説明で用いた符号を同様に付し、それらのさらなる説明を省略する。
【0031】
このように、切削インサート1は、上面2および下面3の両面の2つの切れ刃5a、5bを、順次使用することができる。つまり1つの切削インサート1は、少なくとも2回使用することができる。上切れ刃5aを作用切れ刃として使用するときは、下面3が着座面となって切削工具のインサート座の底壁面へ当接し、切削インサート1は切削工具21の工具ボデーに装着される。下切れ刃5bを作用切れ刃として使用するときは、上面2が着座面とされる。なお、切削インサート1は、上述のごとく、上下面を反転させたときに切れ刃の位置が同じになるように、180°回転対称な形状に設計されている。ただし、使用上で支障のない範囲で、本発明に係る切削インサートは非対称性を有してもよい。例えば、本発明の切削インサートは軸線6bに関して略180°回転対称な形状を有してもよい。
【0032】
上で述べたように、切れ刃5(5a、5b)は、周側面4の主側面部7に関して形成される。この主側面部7の両脇の副側面部8、9は、後述する工具ボデーのインサート座への当接係合面となるように構成されている。まず、副側面部8に関して説明する。
【0033】
副側面部8は、2つの面部分である傾斜部8aと平面部8bとを含む。傾斜部8aは、上面2から下面3側に向かうにしたがい外方に広がり、換言すると中心軸線6aに対して傾く。平面部8bは、
図3において直線状に延在し、取付穴6の中心軸線6aに略平行に延在する。傾斜部8aと平面部8bとは中心軸線6aに平行な方向において上面2から下面3に向けて順に連続し、それぞれ両脇の側面部7、10間の全体に亘って延在する。平面部8bは下面3につながり、傾斜部8aは上面2につながる。上面2に対向する側から切削インサート1をみたとき、つまり、
図3において、副側面部8は主側面部7の第1領域部7aと角度βを成すように延在する。ここでは、角度βは、インサート内角βと称され、鋭角である。
図3では、第1領域部7aのベース部11aに沿った直線L1と、傾斜部8aと上面2との交差稜線部に沿った直線L2とが表され、それらの間にインサート内角βが表されている。このように、インサート内角βは、中心軸線6aに直交するように定められる平面上において定められる。
【0034】
切削インサート1では、傾斜部8aは平面である。主側面部7側端部と背側面部10側端部とで中心軸線6aに平行な方向の傾斜部8aの幅W(
図7)が同じであるまたは変化しないように、傾斜部8aは形成されている。そして、傾斜部8aは、隣接する端面と異なるもう一方の端面である下面3と角度γを成すように延在する。角度γは鋭角である。ここでは、角度γはインサート内角γと称される。インサート内角γは、
図3において傾斜部8aと上面2との交差稜線部2aに直交するように定められる面上で定められるとよい。インサート内角γは
図12に表されている。なお、傾斜部8aの幅Wおよび傾斜部8aの下面3に対する角度γは、後述する工具ボデーのインサート座の壁面との係合を好適に成し遂げるように、設定されるとよい。また、傾斜部8aは平面である必要は無く、例えば傾斜湾曲面として構成されてもよい。
【0035】
副側面部9も、傾斜部9aと平面部9bとを含む。副側面部9の傾斜部9aと平面部9bとは、それぞれ、副側面部8の傾斜部8aと平面部8bとに対応する。副側面部9と副側面部8とは軸線6bに関して180°回転対称な関係にあり、ここでは互いに同じように構成されているので、ここでは、副側面部9のさらなる説明を省略する。
【0036】
これら副側面部8、9は、それぞれ、傾斜部のみから構成されてもよい。また、副側面部8、9の各々の傾斜部は、切削インサート1におけるように主側面部と背側面部との間の全体に亘って延在しなくてもよく、それらの間の一部にのみ延在してもよい。また、副側面部8、9はそれぞれ、周方向Dにおいて湾曲してもよい。この場合、インサート内角βを定義するとき、各副側面部8、9は、周方向Dにおけるその一方の端部とその他方の端部とをつなぐ平面とみなされるとよい。さらに、副側面部の傾斜部は、上下面のいずれか一方に直接的につながらなくてもよい。例えば、副側面部8の傾斜部8aは、上面2から離れて延在し、かつ、上面2側から下面3側に向かうにしたがい外方に広がるように形成されることができる。また、副側面部8の傾斜部8aは、下面3に直接的につながれてもよい。これらは副側面部9においても同様である。
【0037】
背側面部10は、平面として構成されていて、中心軸線6aに略平行に延在する。しかし、背側面部10も、副側面部8の傾斜部8aや副側面部9の傾斜部9aと同様に、上下面の一方に対して鋭角の内角を成すように傾斜する面部分を有してもよい。この場合、背側面部10の傾斜面部分の数は、切削インサートにおける切れ刃の数と等しいとよい。
【0038】
なお、切削インサート1において、上切れ刃5aは本発明の第1切れ刃に相当し、また下切れ刃5bは本発明の第2切れ刃に相当するが、これらの関係は逆であってもよい。上切れ刃5aが第1切れ刃に相当し、また下切れ刃5bが第2切れ刃に相当する場合、第1領域部7aは本発明の第1側面部分に相当し、第2領域部7bは本発明の第3側面部分に相当する。また、その場合、副側面部8は本発明の第2側面部分に相当し、副側面部9は本発明の第4側面部分に相当する。
【0039】
上記構成を有する切削インサート1が着脱自在に装着される、ねじ切り用切削工具21について、
図2、
図8〜
図13Bに基づいて説明する。切削工具21は、旋盤用の切削工具であるねじ切りバイトである。
【0040】
まず、
図2および
図8に基づいて、切削工具21の工具ボデー22について説明する。工具ボデー22は、ホルダであり、刃部22aと、シャンク部22bとを備える。刃部22aとシャンク部22bとは工具ボデー22の長手方向に連続して並び、先端側に刃部22aが位置し、後端側にシャンク部22bが位置する。
【0041】
刃部22aには、上記切削インサート1が取り付けられる(第1)インサート座23が設けられている。インサート座23は、底壁面24と、底壁面24から屹立するように延在する3つの側壁面25、26、27とを有する。3つの側壁面25、26、27は、切削工具21の送り方向Fにおいて後方側に位置する第1側壁面25と、送り方向Fにおいて前方側に位置する第2側壁面26と、第1側壁面25と第2側壁面26との間に延びる第3側壁面27とからなる。なお、送り方向Fは
図13Aにおいて示されている。
【0042】
図8に示すように、敷き板28がねじ29で固定されることで、敷き板28上にインサート座23の底壁面24が形成されている。ねじ29は、敷き板28の貫通穴28aを介して、図示しないねじ穴にねじ込まれている。
【0043】
また、
図8では、ねじ29の軸線に沿って形成されている雌ねじ穴29aに、第1固定部材であるねじ30が螺合している。ねじ30は、
図2および
図8から理解できるように、切削インサート1の取付穴6を介してねじ29の雌ねじ穴29aにねじ込まれ、これにより、切削インサート1はインサート座23に取り付けられる。
【0044】
以下理解を容易にするため、上切れ刃5aを作用切れ刃とする場合に関して、インサート座23を説明する。ここでは、作用切れ刃とは、使用可能な状態にされた切れ刃を指し、被加工物に作用し得る切れ刃である。
【0045】
上切れ刃5aを作用切れ刃とするように切削インサート1を取り付ける場合、副側面部8が第1側壁面25に当接させられる。特に、第1側壁面25は、副側面部8の傾斜部8aと当接するように底壁面24に向かって傾いている傾斜面である。なお、ここでは第1側壁面25のほぼ全部が1つの傾斜面であるが、第1側壁面25の一部のみが副側面部8の傾斜部8aと当接するように傾斜面であってもよい。第1側壁面25の傾斜角度は、副側面部8の傾斜部8bの下面3に対する傾斜角度と略同じまたは同じであり、インサート内角γに対応する。この第1側壁面25は、底壁面24と一緒になって内方へへこんだ断面略三角形状の凹部25aを区画形成する。第1側壁面25の底壁面24に対する傾斜角度(第1側壁面25と底壁面24との交差角度)δは、
図12において示され、鋭角であり、例えば70°〜85°の間の角度であり、本実施形態では約80°である。なお、第1側壁面25の底壁面24に対する傾斜角度δは、インサート内角γよりもわずかに小さいとよい。これは、切削インサート1の副側面部8の傾斜部8aが、第1側壁面25の上方部分(底壁面からより離れた部分)とより好適に当接し、傾斜部8aがよりしっかりと第1側壁面25と係合可能にするためである。ただし、第1側壁面25の底壁面24に対する傾斜角度δがインサート内角γよりもわずかに大きいことを、これは排除するものではない。
【0046】
上切れ刃5aを作用切れ刃とするように切削インサート1を取り付ける場合、副側面部9が第2側壁面26に当接可能にされる。特に、第2側壁面26は、副側面部9の平面部9bと当接可能であるように底壁面24に対して略直角を成すように延在する。なお、副側面部9は第2側壁面26に当接しなくてもよい。
【0047】
また、上切れ刃5aを作用切れ刃とするように切削インサート1を取り付ける場合、背側面部10が第3側壁面27に当接させられる。第3側壁面27は、底壁面24に対して略直角を成すように延在する。なお、背側面部10が第3側壁面27に当接しなくてもよいが、好ましくは、当接する。
【0048】
さらに、切削インサート1をインサート座23に固定するために(第1)押え部材31が用いられる。押え部材31は、第2固定部材であり、インサート座23に対して切削インサート1を押圧して固定するように構成されている。
【0049】
押え部材31は工具ボデー22の刃部22aの取付座32に取り付けられる。取付座32は、略平坦な取付面32aを有する。取付面32aには、スロット32bと、ねじ穴32cとが形成されている。スロット32bは、ねじ穴32cよりもシャンク部22b側に位置する。スロット32bは、送り方向Fの前方側に開き、送り方向Fの後方側に閉じた形状を有する。
【0050】
押え部材31は、取付座32上に位置付けられる固定部31aと、固定部31aから延在して切削インサート1を押圧するように構成された押圧部31bとを備える。固定部31aには、ねじ穴32cにねじ込まれるねじ33が挿入される貫通穴31cと、固定部31aの下側に突出する細長い突出部31dとが設けられている。貫通穴31cは、突出部32dよりも押圧部31bの近くに位置する。突出部31dは、工具ボデー22の取付座32のスロット32bに嵌合可能に形づくられている。
【0051】
押え部材31は、突出部31dが取付座32のスロット32bに嵌合した状態で取付座32上に配置され、ねじ33を貫通穴31cを介してねじ穴32cにねじ込むことで、しっかりと固定される。この押え部材31の固定により、押え部材31の押圧部31bがインサート座23に取り付けられた切削インサート1をしっかり押圧するように、押え部材31および取付座32は形成されている。ただし、押え部材31が切削インサート1を上から押し付けることを可能にするように、インサート座23は取付座32よりも下方に凹んだ位置にある(
図8など参照)。なお、切削インサート1は所定の正の逃げ角を付与するように切削工具の長手方向先端側に下がるように傾いてインサート座23に取り付けられるので(
図10参照)、押え部材31も同様に傾いて取り付けられる。このような傾きを成し遂げるように、インサート座23および取付座32は設計されている。
【0052】
さらに、切削工具21の送り方向Fに対してインサート座23よりも前方側に、第2切削インサート34を配置するための第2インサート座35が位置付けられている。第2切削インサート34は、ここでは、被加工物の断面直径をねじ径に合わせるように荒加工するためのものである。
【0053】
第2切削インサート34は、略円盤形状の輪郭を有する。第2切削インサート34は、各々が略円形である2つの対向する端面と、この2つの端面間に延在する周側面34aとを備える。
図2では、2つの対向する端面のうち、一方の端面34bが表されている。端面34bと周側面34aとの交差稜線部は切れ刃34cを構成する。
【0054】
第2インサート座35は、工具ボデー22の長手方向先端側および送り方向Fの前方側に開くように構成され、底壁面35aと、半円筒状の側壁面35bとを備える。なお、底壁面35aは、敷き板35cにより形成されているが、敷き板35cは省略されてもよい。
【0055】
さらに、第2インサート座35に配置された第2切削インサート34を押圧して固定するように構成された第2押え部材36が用いられる。第2押え部材36は工具ボデー22の刃部22aの第2取付座37に取り付けられる。第2取付座37は、略平坦な取付面37aと、取付面37aに位置付けられたスロット37bと、取付面37aに位置付けられたねじ穴37cとを備える。スロット37bは、ねじ穴37cよりもシャンク部22b側に位置する。スロット37bは、送り方向Fの前方側に開き、送り方向Fの後方側に閉じた形状を有する。このように、第2取付座37は、上記取付座32と概ね同じ構成を有する。
【0056】
第2押え部材36は、第2取付座37上に位置付けられる固定部36aと、固定部36aから延在して第2切削インサート34を押圧するように構成された押圧部36bとを備える。固定部36aには、ねじ穴37cにねじ込まれるねじ38が挿入される貫通穴36cと、固定部36aの下側に突出する細長い突出部36dとが設けられている。貫通穴36cは、突出部36dよりも押圧部36bの近くに位置する。突出部36dは、工具ボデー22の第2取付座37のスロット37bに嵌合可能に形づくられている。
【0057】
第2押え部材36は、突出部36dが第2取付座37のスロット37bに嵌合した状態で第2取付座37上に配置され、ねじ38を貫通穴36cを介してねじ穴37cにねじ込むことで、しっかりと固定される。この第2押え部材36の固定により、第2押え部材36の押圧部36bが第2インサート座34に対して第2切削インサート34を押圧して固定することができる。
【0058】
以下では、上記切削インサート1が工具ボデー22に固定された切削工具21の作用および効果に関して説明する。なお、この切削工具21には、上記第2切削インサート34も固定されている。
【0059】
図13Aおよび
図13Bでは、切削工具21で丸棒である被加工物100にねじ溝を加工し始めるところが模式的に表されている。切削工具21は上切れ刃5aを作用切れ刃とするように旋盤の刃物台(不図示)に固定されている。このとき、
図13Aにおいて、第1領域部7aのベース部11aは、送り方向Fに略平行、好ましくは平行にされる。なお、作用切れ刃でない切れ刃(非作用切れ刃)である下切れ刃5bは、このとき、上切れ刃5aに対して送り方向Fにおいて後方側に位置付けられている。被加工物100は旋盤のチャックに固定されて軸線O周りの回転方向Rに回転されている。この被加工物に対して、切削工具21は所定の切り込み方向Cにおける所定の切り込み量を有して位置付けられ、その後、所定速度で送り方向Fに動かされる。これにより、被加工物100の外周面上にねじ溝を加工して形成することができる。
【0060】
そして、この被加工物の加工時、切削インサート1は、しっかりと強固にインサート座23に固定される。切削インサート1は第1固定部材であるねじ30で固定されている。加えて、上切れ刃5aよりも送り方向Fの後方側にある副側面部8の傾斜部8aがインサート座23の第1側壁面25に当接して係合している。したがって、作用切れ刃である上切れ刃5aに大きな力が加わって、ねじ30を挟んで上切れ刃5aの反対側の部分(副側面部8側部分)が浮き上がる傾向にある場合であっても、傾斜部8aと第1側壁面25との係合により、切削インサート1のそのような浮き上がりは防止される。よって、切削インサートはインサート座にしっかりと保持される(つまりクランプされる)ので、切れ刃に欠損などの不具合が生じる可能性は確実に低減される。なお、傾斜部8aと第1側壁面25との相補的な係合構造は、そのような浮き上がりを防ぎ、切削インサート1をインサート座23の底壁面24の方向へ押さえるように設計され、種々の形状および構造であることが許容される。
【0061】
切削インサート1の輪郭形状を略扇形としたことで、上で述べたように、
図3および
図6の平面視(端面視)において、切削工具21の送り方向F、すなわちねじ溝に対応する形状を有する切れ刃5のピッチ方向(線L1に平行な方向)に対して、副側面部8は傾斜した方向(線L2方向)に形成される。このように切削工具21の送り方向Fに対して傾斜した方向に副側面部分8が形成されると、上切れ刃5aに切削により力が加わるとき、副側面部8が2方向の力に対応できる。つまり、上切れ刃5aが下がって上切れ刃5aの反対側の背側面部10側が浮き上がろうとする力と、上切れ刃5aが傾いて上切れ刃5aの反対側の第2領域部7b側が傾いて浮き上がろうとする力との、両方の力に対して1つの副側面部8は切削インサート1を押さえるように作用することができる。
【0062】
また、傾斜部を有する副側面部分8(または9)は、関連する主側面部の領域部7a(または7b)と、周方向において異なる領域に、特に離れた領域に形成される。加えて、切削インサート1では、1つの切れ刃に関して、副側面部と主側面部7の関連する領域部との間に取付穴が実質的に位置する。したがって、より適切に、副側面部の係合により、切削インサートの浮き上がりを防ぐことができる。
【0063】
さらに、切削インサート1は、第2固定部材である押え部材31によって、インサート座23に押圧される。押え部材31は、取付穴6のねじ30を挟んで傾斜部8aと第1側壁面25との係合箇所の反対側に位置する。上で述べたように切削インサート1の送り方向の後方の部分(後方部1b)は、傾斜部8bと第1側壁面25との係合により浮き上がることは防がれ得るが、切削インサート1の送り方向の前方側の部分(前方部1a)は浮き上がる可能性が残る。これに対して、切削インサート1の前方部1aに対して押え部材31による押圧力が作用するので、切削インサート1の前方部1aの浮き上がりもより適切に防止できる。なお、押え部材31は、いわゆる押え駒などの部材であることができる。
【0064】
図13Aの切削工具21のように、作用切れ刃5aに隣接しない副側面部8は、切削インサート1の取付穴6より、送り方向の後方に配置されるとよい。逆に、切削インサートの着座面と異なる端面2と当接する押さえ駒などの押え部材31は、切削インサートの取付穴6よりも送り方向の前方に配置されるとよい。そして、切削インサート1取付用の第1固定部材としてのねじ30は、送り方向において、作用切れ刃5aの近くに配置され、切削インサート1の浮き上がりを押さえるように構成された副側面部8は、作用切れ刃5aから送り方向の後方側、好ましくはより遠くに配置されるとよい。このように配置されると、切削インサート1が浮き上がる虞がある際、副側面部の傾斜部の係合で、切削インサートを最も効果的に押さえることができる。そのため、切削インサートのクランプ能力が高まり、切れ刃の欠損などの不具合を最も効果的に防ぐことができるまたは抑制できる。
【0065】
また、切削インサート1では、切れ刃5に沿って関連する端面にチップブレーカ溝12が形成される。これに対して、作用切れ刃の直下に位置する端面の部分には、チップブレーカ溝が延在しないので、作用切れ刃に作用する力はよりしっかりと切削インサートの端面とインサート座の底壁面との当接により受け止めることができる。具体的には、作用切れ刃として上切れ刃5aが用いられるとき、着座面となる下面3には非作用切れ刃である下切れ刃5bに関するチップブレーカ溝12が延在する。この下切れ刃5bのチップブレーカ溝12は、
図3および
図6から明らかなように、上切れ刃5aの山部を形成する3つの凸部と切削インサートの周方向Dにおいて重ならない。つまり、この下切れ刃5bのチップブレーカ溝12は上切れ刃5aの全ての山部から周方向Dにおいてずらされている。したがって、上切れ刃5aの山部を形成する凸部は着座面である下面3とほぼ同じ平面上にまで延在することができる。これは、下切れ刃5bにおいても同様である。したがって、
図4に示されるように、上切れ刃5aが作用切れ刃であるとき、上切れ刃5aの山部を形成する凸部は着座面である下面3とほぼ同じ平面上にまで延在しているので、切削インサート1の着座性が大幅に向上する。すなわち、切削インサート1のクランプ性能が向上し、切削中に切削インサート1が動く(例えば振動する)ことをよりしっかりと防止できる。
【0066】
この被加工物の加工時、作用切れ刃でない切れ刃(非作用切れ刃)である下切れ刃5bは、上切れ刃5aでの切削に干渉しない。これは、切削インサート1において、下切れ刃5bが縁部に形成された第2領域部7bは、上切れ刃5aが縁部に形成された第1領域部7aとインサート内角αを形成するように延在するからである(
図3および
図13A参照)。インサート内角αは180°未満の角度を有するが、非作用切れ刃が作用切れ刃の切削に干渉しないように設定されるとよい。インサート内角αは、90°以上180°未満の角度であり得るが、例えば120°以上170°以下の角度であることができる。
【0067】
また、周側面4のうち、傾斜部8a、9a以外の部分は、上面2および下面3に対して、略直角な面とされている。つまり、逃げ面を構成する主側面部7などは、上面2および下面3に対して、略直角な面とされる。これは、切削インサート1を軸線6bに関して180°回転対称な形状を有するように作製されることを容易にする。しかし、傾斜部以外の周側面の部分が傾斜面とされることを、これは排除しない。
【0068】
切削インサート1のように、作用切れ刃である上切れ刃5aと対向する下面3の部分に別の切れ刃5bが形成されないと、それらの切れ刃5に関係する主側面部が長くなる傾向がある。これにより、切削インサートの配置スペースが大きくなるという問題がある。しかし、前述のように、切削インサート1の輪郭形状を略扇形とすることで、切れ刃に関係する主側面部の長さを十分に確保しながら、他の側面部の周方向の長さを短くすることができる。このため、切削工具21のインサート座の大きさが小さく抑えられ、切削工具21への切削インサート1の配置の自由度を向上できる。
【0069】
さらに、この実施形態の切削工具21では、切削インサート1に加えて、第2切削インサート20を配置することができる。したがって、この実施形態の切削工具21は、ねじ外周の荒加工から、ねじ溝の仕上げ加工までを一度の切削加工で行うことができて、加工能率が高い。本実施形態の第2切削インサート34は端面が丸い輪郭形状を有し、欠けにくく、荒加工に適している。しかし、第2切削インサートの形状はこのような円盤形状に限定されない。また、この第2切削インサート34の用途は、荒加工にも限定されない。ねじの径方向寸法の仕上げ加工用のものとして切削インサート34は用いられても、あるいは構成されてもよい。あるいは、第2切削インサート34は、例えばねじ切りの前処理用のインサートとして構成されてもよい。
【0070】
上記切削インサート1では、切れ刃5が複数の凸部により形作られた。このようなねじ切りインサート1は、チェザーなどとも呼ばれる。主側面部の凸部は、少なくとも1つの仕上げ刃を形成するとよい。つまり、複数の凸部は、加工されるねじ溝のピッチで配置され、切削工具の送り方向の前方の凸部から被加工物に順に作用し、最後の凸部による刃がねじ溝を仕上げ切削加工するように構成されるとよい。この場合、仕上げ刃から他の凸部である中仕上げ刃や荒刃に向かう方向が、送り方向Fの前方側である。
【0071】
上記切削インサート1は、様々な切削工具に適用されて、その切削工具が工作機械に装着されることにより、金属材や管材などのねじの切削加工に利用できる。なお実施形態の切削工具21は旋盤用の切削工具とされたが、本発明の切削インサートの用途はこれに限定されない。例えば、本発明に係る切削インサートは回転切削工具にも適用可能である。ねじ溝の切削加工用の回転切削工具は、ねじ切りカッタなどと呼ばれる。
【0072】
本発明に係る切削インサート、工具ボデーおよび切削工具は、以上に説明した実施形態などに限定されるものではない。例えば、本発明に係る切削インサートは、切れ刃5を4つまたは6つ有する略平行四辺形または略三角形などの多角形端面形状のねじ切り用切削インサートとされても構わない。これに伴い、上記切削インサート1ではその端面視での輪郭形状が略扇形であるので、第1側面部分である第1領域部7aと第2側面部分である副側面部8との間のインサート内角βは鋭角であったが、第1側面部分と第2側面部分との間のインサート内角βは(0°より大きく)180°未満の任意の値に設定され得る。つまり、第1側面部分と第2側面部分とは、同一平面上に延在する以外の任意の相対的位置関係を有することができる。切削インサートの第2側面部分とインサート座の側壁面との係合による切削インサートのクランプ性能の観点から、好ましくはインサート内角βの上限は、150°以下、好ましくは120°以下、さらに好ましくは90°未満に設定されるとよい。インサート内角βの下限は、切削インサートの強度の観点から設定されるとよく、45°以上、さらに好ましくは60°以上であるとよい。また被加工物は金属に限定されない。
【0073】
以上、本発明に係る実施形態などをある程度まで詳細に説明したが、様々な変更および修正を施すことができることを理解すべきである。本発明には、請求の範囲によって規定される本発明の要旨に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。