特許第6245590号(P6245590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6245590皮膚診断装置、皮膚状態出力方法、プログラムおよび記録媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6245590
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】皮膚診断装置、皮膚状態出力方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20171204BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20171204BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   A61B5/00 MZDM
   A61B10/00 E
   A61B5/02 800D
【請求項の数】10
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-98372(P2017-98372)
(22)【出願日】2017年5月17日
【審査請求日】2017年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-121492(P2016-121492)
(32)【優先日】2016年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 壮一
(72)【発明者】
【氏名】原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 豊信
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−011935(JP,A)
【文献】 特表2007−500529(JP,A)
【文献】 幾波佑介 外2名,低コヒーレンス光干渉計を用いた皮膚組織における含水率とひずみの断層可視化法の構築,日本機械学会2011年度年次大会,日本,一般社団法人日本機械学会,2011年 9月10日,No.11−1,J022014
【文献】 佐伯壮一 外3名,吸引型Dynamic Optical Coherence Straingraphyを用いた皮膚組織における力学的特性マイクロ断層可視化法の基礎的検討,日本機械学会2014年度年次大会,日本,一般社団法人日本機械学会,2014年 9月 6日,No.14−1,J0210201
【文献】 楠本修也 外3名,1400帯低コヒーレンス光干渉計を用いたヒト皮膚における含水率分布マイクロ断層可視化システムの基礎的検討,日本機械学会第28回バイオエンジニアリング講演会,日本,一般社団法人日本機械学会,2016年 1月 8日,No.15−69,1F35
【文献】 吉川大介,高周波変調型低コヒーレンス干渉計を用いた微小循環血流速分布マイクロ断層可視化法の基礎的検討,日本機械学会2016年度年次大会,日本,一般社団法人日本機械学会,2016年 9月10日,No.16−1,S0220206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/026
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を診断するための皮膚診断装置であって、
光コヒーレンストモグラフィーを用いる光学系を含む光学ユニットと、
前記光学ユニットからの光を皮膚に導いて走査させるための光学機構と、
皮膚に対して所定の変形エネルギーを付与するための負荷装置と、
前記負荷装置および前記光学機構の駆動を制御し、それらの駆動に応じて前記光学ユニットから出力された光干渉信号を処理することにより、皮膚に関して予め定める状態値の断層分布を演算し、その断層分布に基づいて皮膚の評価値を演算する制御演算部と、
前記皮膚の評価値を表示する表示装置と、
を備え、
前記制御演算部は、前記状態値として皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算し、その力学特性と血流状態とを前記皮膚の断層位置にて対応づけることにより前記評価値を演算することを特徴とする皮膚診断装置。
【請求項2】
前記制御演算部は、前記力学特性として前記変形エネルギーの付与による力学特徴量の変化を取得し、その力学特徴量の変化に対する前記血流状態の変化の度合いに基づいて前記評価値を演算することを特徴とする請求項1に記載の皮膚診断装置。
【請求項3】
前記制御演算部は、前記血流状態の変化の度合いとして、血管網の変形度合いを演算することを特徴とする請求項2に記載の皮膚診断装置。
【請求項4】
前記制御演算部は、前記血流状態の変化の度合いとして、血流速度の変化の度合いを演算することを特徴とする請求項2又は3に記載の皮膚診断装置。
【請求項5】
前記制御演算部は、前記光干渉信号を処理することにより取得した断層画像データに基づき、皮膚の断層位置に対応した変位関連ベクトルを前記力学特徴量として演算し、その変位関連ベクトルの変化に対する前記血流状態の変化の度合いに基づいて前記評価値を演算することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の皮膚診断装置。
【請求項6】
前記制御演算部は、さらに前記変形エネルギーの付与による皮膚の含水率の変化を、その皮膚の断層位置に対応づけて演算し、前記力学特徴量の変化に対する前記血流状態および含水率の変化の度合いに基づいて前記評価値を演算することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の皮膚診断装置。
【請求項7】
皮膚を診断するための皮膚診断装置であって、
光コヒーレンストモグラフィーを用いる光学系を含む光学ユニットと、
前記光学ユニットからの光を皮膚に導いて走査させるための光学機構と、
皮膚に対して所定の押圧荷重を付与するための負荷装置と、
前記押圧荷重を検出する荷重検出部と、
前記負荷装置および前記光学機構の駆動を制御し、それらの駆動に応じて前記光学ユニットから出力された光干渉信号を処理することにより、皮膚の変形に伴う力学特徴量の変化の断層分布を演算し、その断層分布に基づいて皮膚の評価値を演算する制御演算部と、
前記皮膚の評価値を表示する表示装置と、
を備え、
前記負荷装置は、前記押圧荷重を光透過性の弾性部材を介して皮膚に付与し、
前記光学機構は、前記弾性部材を透過させるようにして光の照射および受光をし、
前記荷重検出部は、前記弾性部材に負荷される荷重を、皮膚に付与される押圧荷重として検出し、
前記制御演算部は、前記押圧荷重の付与による皮膚の力学特徴量の変化を、その皮膚の断層位置に対応づけて演算し、前記押圧荷重の変化に対する前記力学特徴量の変化の度合いに基づいて前記評価値を演算することを特徴とする皮膚診断装置。
【請求項8】
皮膚に対して所定の変形エネルギーを付与しつつ、光コヒーレンストモグラフィーにより皮膚の断層画像を取得する工程と、
前記断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する工程と、
前記力学特性と前記血流状態とを前記皮膚の断層位置にて対応づけることにより前記皮膚の状態を評価するための情報を取得し、その情報を出力する工程と、
を備えることを特徴とする皮膚状態出力方法。
【請求項9】
皮膚に対して所定の変形エネルギーが付与されたときの光コヒーレンストモグラフィーによる皮膚の断層画像を取得する機能と、
前記断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する機能と、
前記力学特性と前記血流状態とを前記皮膚の断層位置にて対応づけることにより前記皮膚を診断するための情報を取得し、その情報を出力する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項10】
皮膚に対して所定の変形エネルギーが付与されたときの光コヒーレンストモグラフィーによる皮膚の断層画像を取得する機能と、
前記断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する機能と、
前記力学特性と前記血流状態とを前記皮膚の断層位置にて対応づけることにより前記皮膚を診断するための情報を取得し、その情報を出力する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を診断するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚組織は、水分の喪失を防ぐ、外界との熱交換により体温の調節を行う、物理的な刺激から生体を保護する、触覚等の感覚を受容するといった重要な役割を担う。この皮膚組織は、表皮、真皮、皮下組織の主に三層から構成されている。加齢や紫外線などの環境変化から各層の力学特性が変化すると、しわやたるみ等の皮膚の老化現象を引き起こすと考えられる。また、皮膚組織の代謝機能を司る微小循環機能の衰えが、その老化現象の原因の一つであるとも考えられている。したがって、皮膚の力学特性や循環機能を統合的に評価することが、効果的なスキンケアやアンチエイジングに結びつくと考えられる。
【0003】
このような皮膚の診断に関し、皮膚表面の皮溝の三次元形状を計測して肌状態を解析する手法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、皮膚の特定部位を吸引・除荷し、その表面位置を検出することで皮膚の力学特性を計測する手法も知られている(例えば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−284249号公報
【特許文献2】特開2009−268640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法は、皮膚組織の変化の結果として現れる表面形状そのものを測定するものであり、皮膚組織のレベルで診断が行えるものではない。また、特許文献2の手法は、皮膚組織のレベルで力学特性を計測できるものの、それのみで皮膚状態を統合的に評価することは難しい。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、皮膚状態を多角的・統合的に診断するための装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は皮膚診断装置に関する。この皮膚診断装置は、光コヒーレンストモグラフィー(Optical Coherence Tomography:以下「OCT」という)を用いる光学系を含む光学ユニットと、光学ユニットからの光を皮膚に導いて走査させるための光学機構と、皮膚に対して所定の変形エネルギーを付与するための負荷装置と、負荷装置および光学機構の駆動を制御し、それらの駆動に応じて光学ユニットから出力された光干渉信号を処理することにより、皮膚に関して予め定める状態値の断層分布を演算し、その断層分布に基づいて皮膚の評価値を演算する制御演算部と、皮膚の評価値を表示する表示装置と、を備える。制御演算部は、上記状態値として皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算し、その力学特性と血流状態とを皮膚の断層位置にて対応づけることにより上記評価値を演算する。
【0008】
本発明の別の態様は皮膚診断方法に関する。この皮膚診断方法は、OCTにより皮膚のの断層画像を取得する工程と、断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する工程と、力学特性と血流状態とを皮膚の断層位置にて対応づけることにより皮膚の状態を評価するための情報を取得し、その情報を出力する工程と、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮膚状態を多角的・統合的に診断するための装置および方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例に係る皮膚診断装置の構成を概略的に表す図である。
図2】負荷装置の構成を概略的に示す図である。
図3】FFT相互相関法による処理手順を概略的に示す図である。
図4】再帰的相互相関法による処理手順を概略的に示す図である。
図5】サブピクセル解析による処理手順を概略的に示す図である。
図6】皮膚の三次元OCT断層画像を示す図である。
図7】皮膚の三次元OCT断層画像を示す図である。
図8】皮膚組織の粘弾性モデルを表す図である。
図9】力学特性に関する断層計測の結果を例示する図である。
図10】クリープ回復時間の断層分布を表す図である。
図11】血流速度模擬試験に用いられた装置の一部を表す図である。
図12】OCTにより計測された流速の断層分布を示す図である。
図13】OCTによる血管網の演算方法を表す模式図である。
図14】血管網の算出結果を表す図である。
図15】水による光吸収特性を表す図である。
図16】水の光吸収特性と含水率との関係を示す図である。
図17】OCTによる皮膚の水分量の演算過程を示す図である。
図18】制御演算部の機能ブロック図である。
図19】制御演算部により実行される皮膚診断処理の流れを示すフローチャートである。
図20図19におけるS12の力学特性演算処理を詳細に示すフローチャートである。
図21図19におけるS13の血流速度演算処理を詳細に示すフローチャートである。
図22図19におけるS14の血管網演算処理を詳細に示すフローチャートである。
図23図19におけるS15の水分量演算処理を詳細に示すフローチャートである。
図24】変形例に係る負荷装置の構成を概略的に示す図である。
図25】人の前腕内屈側部のOCT断層画像を表す図である。
図26】人の前腕内屈側部のOCT断層画像を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態は皮膚診断装置である。この皮膚診断装置は、OCTによる皮膚の断層計測を制御する機能と、その断層計測による皮膚の断層画像を取得する機能と、取得された断層画像に基づいて皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する機能と、その力学特性と血流状態とを皮膚の断層位置にて対応づけることにより皮膚を診断するための情報を取得して出力する機能と、を有する。より詳細には、皮膚の変形に伴う力学特徴量の変化および血流状態の変化の断層分布をそれぞれ演算する機能と、力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて皮膚を診断するための情報を出力する機能とを有する。
【0013】
この皮膚診断装置は、皮膚の特定部位に所定の変形エネルギー(荷重)を負荷する一方でOCTを用いてその特定部位の断層画像を撮影し、皮膚組織の力学的挙動とそれに伴う血流状態の変化に基づいて皮膚診断のための評価値を出力する。この力学的挙動は力学特性としての「力学特徴量の変化」として断層計測されてもよい。
【0014】
ここで、「力学特徴量」は、皮膚組織の変形ベクトル(移動ベクトル)の空間分布に基づいて得られるものでよい。この「力学特徴量」は、例えば変形ベクトルそのものでもよい。そして、「力学特徴量の変化」は、変形ベクトルを時間微分した変形速度ベクトルであってもよいし、変形速度ベクトルをさらに空間微分したひずみ速度テンソルであってもよい。あるいは、変形速度ベクトルやひずみ速度テンソルを「力学特徴量」とし、それらを時間微分したものを「力学特徴量の変化」としてもよい。「血流状態」は、血流速度であってもよいし、血管網の形態(形状や配置)であってもよい。また、「血行動態」として定義されてもよい。
【0015】
力学特徴量および血流状態については、評価値の演算過程で断層計測される。評価値は、皮膚組織の位置に対応づけた断層計測値として表示されてもよいし、断層計測値に基づいて皮膚の特定領域又は全体を統合的に評価した値として表示されてもよい。表示装置に評価値が表示されると、医師等がそれを見ることで皮膚診断を行うことができる。
【0016】
この皮膚診断装置は、光学ユニット、光学機構、負荷装置および制御演算部を備える。光学ユニットは、OCTの光学系を含む。光学機構は、光学ユニットからの光を皮膚に導いて走査させる。OCTによる断層計測は、マイクロスケールにて可能であるが、求められる解像度に応じてナノスケールにて実現されてもよい。負荷装置は、断層画像の取得に先立って、皮膚に対して所定の変形エネルギー(荷重)を付与する。
【0017】
負荷装置による荷重負荷方法については、測定対象(皮膚)に対して一定のひずみを与えて応力の時間変化を測定する応力緩和法に基づくものでもよい。あるいは、測定対象に対して動的ひずみを与えて応力の最大値および位相差を測定する動的粘弾性法に基づくものでもよい。あるいは、測定対象に対して一定の大きさの応力を与えてひずみの時間変化を測定するクリープ法に基づくものでもよい。この負荷装置による荷重負荷により、皮膚の力学特徴量が変化する。その力学特徴量の変化に伴って皮膚の血流状態が変化する。
【0018】
制御演算部は、負荷装置および光学機構の駆動を制御し、それらの駆動に応じて光学ユニットから出力された光干渉信号を処理することにより、皮膚に関して予め定める状態値の断層分布を演算する。ここでいう「状態値」は、上述の力学特徴量や血流状態を含んでよい。制御演算部は、例えば力学特徴量の変化および血流状態の変化を、その皮膚の断層位置に対応づけてそれぞれ演算する。そして、その力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて評価値を演算する。
【0019】
この態様によると、OCTによる断層計測結果を利用し、皮膚の力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて皮膚状態を評価するための情報が出力される。力学特性と血流特性との相関(対応関係)に基づく出力情報が得られるため、皮膚状態を多角的・統合的に診断することができる。OCTによる計測を採用するため、皮膚組織における各層のレベルで力学特徴量および血流状態を断層計測することができる。特に後者について毛細血管の情報が含まれることを考慮すると、マイクロスケールの情報が得られるOCTの採用は意義がある。
【0020】
制御演算部は、血流状態の変化の度合いとして、血管網の変形度合いを演算してもよい。例えば皮膚にひずみを与えることにより対応箇所の血管網が変化する場合、ひずみの変化に対して血管網の変形が速やかに追従すれば皮膚状態が良好とし、その良好の程度を評価値として算出してもよい。ひずみの変化に対して血管網の変形が遅れる場合、皮膚状態が不良(改善の余地あり)とし、その程度を評価値として算出してもよい。
【0021】
あるいは、制御演算部は、血流状態の変化の度合いとして、血流速度の変化の度合いを演算してもよい。例えば皮膚にひずみを与えることにより対応箇所の血流速度が変化する場合、ひずみの変化に対して血流速度の変化が速やかに追従すれば皮膚状態が良好とし、その良好の程度を評価値として算出してもよい。ひずみの変化に対して血流速度の変化が遅れる場合は皮膚状態が不良(改善の余地あり)とし、その程度を評価値として算出してもよい。表示装置は、算出された評価値を可視表示する。
【0022】
より具体的には、制御演算部は、光干渉信号を処理することにより取得した断層画像データに基づき、皮膚の断層位置に対応した変位関連ベクトルを力学特徴量として演算し、その変位関連ベクトルの変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて評価値を演算してもよい。その際、制御演算部は、変位関連ベクトルとして変形速度ベクトル、又は変形速度ベクトルを空間微分して得られるひずみ速度テンソルを演算してもよい。
【0023】
制御演算部は、さらに変形エネルギー(荷重)の付与による皮膚の含水率(水分量)の変化を、その皮膚の断層位置に対応づけて演算し、力学特徴量の変化に対する血流状態および含水率(水分量)の変化の度合いに基づいて評価値を演算してもよい。
【0024】
あるいは、血流状態に対する力学特性の良否に基づいて評価値を演算してもよい。例えば、皮膚の血管網を算出し、その血管網付近の力学特性(弾性や粘弾性)の分布に基づいて評価値を算出してもよい。具体的には、血管(毛細血管等)付近の弾性や粘弾性が予め定める基準値よりも低い場合(つまりその部分の皮膚組織が硬化している場合)、皮膚の劣化(老化)が進行していることを示す評価値を表示させることができる。
【0025】
また、上記技術を利用した皮膚診断方法を構築してもよい。この方法は、OCTにより皮膚の断層画像を取得する工程と、その断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する工程と、その力学特性と血流状態とを皮膚の断層位置にて対応づけることにより皮膚の状態を評価するための情報を取得し、その情報を出力する工程と、を備えるものでよい。具体的には、皮膚の変形に伴う力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて、皮膚の状態を評価するための情報を出力する工程を含むものでもよい。
【0026】
また、上記技術を利用した皮膚診断プログラムを構築してもよい。このプログラムは、OCTによる皮膚の断層画像を取得する機能と、その断層画像に基づき、皮膚の力学特性および血流状態をそれぞれ演算する機能と、その力学特性と血流状態とを皮膚の断層位置にて対応づけることにより皮膚を診断するための情報を取得し、その情報を出力する機能と、をコンピュータに実現させることができる。具体的には、皮膚の変形に伴う力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて、皮膚の状態を評価するための情報を出力する機能を実現させるものでもよい。このプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録してもよい。
【0027】
また、皮膚への変形エネルギーとして押圧荷重を負荷する場合、押圧機構と皮膚との間に光透過性の弾性部材を配置してもよい。負荷装置は、押圧荷重をその弾性部材を介して皮膚に付与する。光学機構は、弾性部材を透過させるようにして光の照射および受光をする。荷重検出部は、弾性部材に負荷される荷重を、皮膚の表面に付与される押圧荷重として検出することができる。このような構成により、皮膚の変形過程で付与される荷重の変化をリアルタイムで検出可能となり、皮膚診断のための評価をリアルタイムに精度良く実現するという課題を解決することができる。
【0028】
制御演算部は、皮膚の変形に伴う力学特徴量の変化の断層分布を演算し、その断層分布に基づいて皮膚の評価値を演算する。制御演算部は、押圧荷重の付与による皮膚の力学特徴量の変化を、その皮膚の断層位置に対応づけて演算し、押圧荷重の変化に対する力学特徴量の変化の度合いに基づいて評価値を演算する。
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態を具体化した実施例について詳細に説明する。
[実施例]
図1は、実施例に係る皮膚診断装置の構成を概略的に表す図である。本実施例の皮膚診断装置は、皮膚組織をマイクロスケールにて断層計測し、その皮膚状態の評価(肌評価など)を可能とするものである。この断層計測にOCTを利用する。
【0030】
図1に示すように、皮膚診断装置1は、OCTを用いる光学系を含む光学ユニット2、光学ユニット2に接続される光学機構4、皮膚Sに診断用負荷を与えるための負荷装置5、およびOCTにより得られた光干渉データに基づいて演算処理を行う制御演算部6を備える。図示の例では、光学ユニット2としてマッハツェンダー干渉計をベースとした光学系が示されているが、マイケルソン干渉計その他の光学系を採用することもできる。
【0031】
本実施例では、OCTとしてTD−OCT(Time Domain OCT)を用いるが、SS−OCT(Swept Source OCT)、SD−OCT(Spectral Domain OCT)その他のOCTを用いてもよい。SS−OCTは、参照ミラー走査などの機械的な光遅延走査を必要としないため、高い時間分解能と高い位置検出精度が得られる点で好ましい。
【0032】
光学ユニット2は、光源10、オブジェクトアーム12、リファレンスアーム14、および光検出装置16を備える。各光学要素は、光ファイバーにて互いに接続されている。光源10から出射された光は、カプラー18(ビームスプリッタ)にて分けられ、その一方がオブジェクトアーム12に導かれる物体光となり、他方がリファレンスアーム14に導かれる参照光となる。オブジェクトアーム12に導かれた物体光は、サーキュレータ20を介して光学機構4に導かれ、計測対象である皮膚Sに照射される。この物体光は、皮膚Sの表面および断面にて後方散乱光として反射されてサーキュレータ20に戻り、カプラー22に導かれる。
【0033】
一方、リファレンスアーム14に導かれた参照光は、サーキュレータ24を介して光学機構26に導かれる。この参照光は、光学機構26のレゾナントミラー54(Resonant mirror)にて反射されてサーキュレータ24に戻り、カプラー22に導かれる。すなわち、物体光と参照光とがカプラー22にて合波(重畳)され、その干渉光が光検出装置16により検出される。光検出装置16は、これを光干渉信号(干渉光強度を示す信号)として検出する。この光干渉信号は、A/D変換器30を介して制御演算部6に入力される。
【0034】
制御演算部6は、光学ユニット2の光学系全体の制御と、光学機構4,26等の駆動制御と、OCTによる画像出力のための演算処理を行う。制御演算部6の指令信号は、図示略のD/A変換器を介して光学機構4,26等に入力される。制御演算部6は、光学機構4,26等の駆動に基づいて光学ユニット2から出力された光干渉信号を処理し、OCTによる計測対象(皮膚S)の断層画像を取得する。そして、その断層画像データに基づき、後述の手法により計測対象内部における特定の物理量の断層分布を演算する。
【0035】
より詳細には以下のとおりである。
光源10は、皮膚の水分量を検出可能となるよう、中心波長が異なる2つの光源32,34を有する。これらの光源は、スーパールミネッセントダイオード(Super Luminessent Diode:以下「SLD」と表記する)からなる広帯域光源である。光源32は1310nm波長帯光源であり、光源34は1430nm波長帯光源である。制御演算部6は、光源32,34の双方を同時並行的に作動させることが可能であるが、計測対象とする物理量に応じて一方のみを作動させることもできる。
【0036】
光源10とカプラー18との間には、WDM方式(Wavelength Division Multiplexing)の分光素子36が設けられている。光源32,34から出射された光は、分光素子36にて合波され、カプラー18に導かれる。
【0037】
カプラー18とサーキュレータ20の間には、EOPM38(Electro‐Optic Phase Modulator)が設けられている。同様に、カプラー18とサーキュレータ24の間には、EOPM40が設けられている。これらのEOPMは、その印加電圧を線形的に変化させることで、高周波キャリア信号を発生させることができる。
【0038】
光学機構4は、オブジェクトアーム12を構成する。サーキュレータ20を経た光は、コリメータレンズ41を介して光学機構4に導かれる。光学機構4は、光学ユニット2からの光を計測対象(皮膚S)に導いて走査させる機構と、その機構を駆動するための駆動部(アクチュエータ)を備える。本実施例では、光学機構4がガルバノ装置42を含む。
【0039】
ガルバノ装置42は、固定ミラー44およびガルバノミラー46を含む。対物レンズ48は、皮膚S(計測対象)に対向配置される。カプラー18を介してオブジェクトアーム12に入射された光は、2軸のガルバノミラー46によりx軸方向やy軸方向に走査されて皮膚Sに照射される。皮膚Sからの反射光は、物体光としてサーキュレータ20に戻り、カプラー22に導かれる。
【0040】
光学機構26は、RSOD方式(Rapid Scanning Optical Delay Line)の機構であり、リファレンスアーム14を構成する。光学機構26は、回折格子50、湾曲ミラー52(Concave mirror)およびレゾナントミラー54を含む。サーキュレータ24を経た光は、コリメータレンズ56を介して光学機構26に導かれる。この光は、回折格子50によって波長ごとに分光され、湾曲ミラー52によってレゾナントミラー54上に集光される。レゾナントミラー54を微小角にて回転させることで、高速光路走査が可能となる。レゾナントミラー54からの反射光は、参照光としてサーキュレータ24に戻り、カプラー22に導かれる。そして、物体光と重畳されて干渉光として光検出装置16に送られる。
【0041】
光検出装置16は、WDM方式の分光素子58,60と、光検出器62,64を含む。カプラー22を経ることで得られた干渉光のうち、1310nm波長帯光は分光素子58に導かれ、光検出器62にて光干渉信号として検出される。この光干渉信号は、BPF(Band-Pass Filter)66およびA/D変換器30を経て制御演算部6に入力される。一方、1430nm波長帯光は分光素子60に導かれ、光検出器64にて光干渉信号(OCT干渉信号)として検出される。この光干渉信号は、BPF68およびA/D変換器30を介して制御演算部6に入力される。
【0042】
制御演算部6は、本実施例ではパーソナルコンピュータからなり、ユーザによる各種設定入力を受け付けるための入力装置70、画像処理用の演算プログラムにしたがった演算処理を実行する演算処理部72、および演算結果を表示させる表示装置74を含む。演算処理部72は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクなどを有し、これらのハードウェアおよびソフトウェアによって、光学ユニット2全体の制御と光学処理結果に基づく画像出力のための演算処理を行うことができる。
【0043】
図2は、負荷装置5の構成を概略的に示す図である。
負荷装置5は、皮膚Sの計測対象部位に吸引荷重を付与するタイプとして構成される。光学機構4の先端には皮膚診断用のプローブ80が設けられており、そのプローブ80に負荷装置5が接続されている。プローブ80の上半部が光学機構4として機能し、下半部が負荷装置5として機能する。プローブ80は、金属製のボディ82を有する。ボディ82を軸線方向に貫通するように内部通路84が形成されている。
【0044】
内部通路84の軸線方向中央を仕切るように、透光性のガラス86が配設されている。ガラス86の上方の空間S21にガルバノ装置42および対物レンズ48が配置されている。一方、ガラス86の下方の空間S22には、負荷装置5につながる吸引チャンバ88が連通する。ガラス86の上下にはパッキン90が設けられ、空間S21と空間S22との間のシールが確保されている。ガラス86は、OCTビームの入射窓として機能する。内部通路84の軸は、オブジェクトアーム12の光軸と一致する。内部通路84の下端開口部が、診断の際に皮膚Sに当てられる吸引口92となっている。
【0045】
負荷装置5は、真空ポンプ100、レギュレータ102、リザーバ104、圧力計106等を備える。レギュレータ102は、圧力を目標値に制御する。リザーバ104は、吸引口92の圧力変動を抑制する。
【0046】
以下、皮膚診断のための演算処理方法について説明する。
本実施例では、皮膚診断に先立って、OCTにより皮膚の力学特性、血流速度、血管網、水分量の各パラメータの断層分布をマイクロスケールで演算する。そして、それらのパラメータの演算結果を統合することにより、皮膚状態を評価するための評価値を算出する。以下、各パラメータの算出原理について説明する。
【0047】
(1)皮膚の力学特性
皮膚の力学特性の算出に先立って、皮膚の力学特徴量を演算する。その力学特徴量の算出のために、皮膚の変形に伴うひずみの断層分布を演算する。上述のように、OCTにおいて、オブジェクトアーム12を経た物体光(皮膚からの反射光)と、リファレンスアーム14を経た参照光とが合波され、光検出装置16により光干渉信号として検出される。制御演算部6は、この光干渉信号を干渉光強度に基づく計測対象(皮膚S)の断層画像として取得することができる。この断層分布は二次元で演算することもできるが、ここでは三次元での演算について説明する。
【0048】
OCTの光軸方向(奥行き方向)の分解能であるコヒーレンス長lは、光源の自己相関関数によって決定される。ここでは、コヒーレンス長lを自己相関関数の包括線の半値半幅とし、下記式(1)にて表すことができる。
【数1】
ここで、λはビームの中心波長であり、Δλはビームの半値全幅である。
【0049】
一方、光軸垂直方向(ビーム走査方向)の分解能は、集光レンズによる集光性能に基づき、ビームスポット径Dの1/2とされる。そのビームスポット径ΔΩは、下記式(2)にて表すことができる。
【数2】
ここで、dは集光レンズに入射するビーム径、fは集光レンズの焦点である。このようにOCTによる分解能には限界があるところ、本実施例では後述するサブピクセル解析の導入などにより、ひずみの断層計測をマイクロスケールにて行うことを可能にしている。以下、その詳細について説明する。
【0050】
まず、OCTを利用した三次元ひずみ分布の算出法について説明する。ここでは、計測対象の変形前後の2枚の三次元OCT断層画像にFFT相互相関法を適用して変形ベクトル分布を算出する。この変形ベクトル分布を算出する際には、繰り返し相互相関処理を実施する再帰的相互相関法(Recursive Cross-correlation method)を適用する。これは、低解像度において算出された変形ベクトルを参照し、探査領域を限定するとともに階層的に検査領域を縮小して相互相関法を適用する手法である。これにより、高解像度な変形ベクトルを取得することができる。さらに、スペックル・ノイズ低減法として、隣接検査領域の相関値分布との乗算を行う隣接相互相関乗法(Adjacent Cross-correlation Multiplication)を用いる。そして、乗算されることによって高SN化した相関値分布から最大相関値を探索する。
【0051】
また、マイクロスケールにおける微小変形解析では、変形ベクトルのサブピクセル精度が重要となる。このため、輝度勾配を利用する風上勾配法(Up-stream Gradientmethod)と、伸縮および剪断を考慮した画像変形法(Image Deformation method)の両サブピクセル解析法を併用し、変形ベクトルの高精度検出を実現する。なお、ここでいう「風上勾配法」は、勾配法(オプティカルフロー法)の一種である。このようにして得られた変形ベクトル分布を空間微分することにより、ひずみ断層分布を演算することができる。その際、移動最小二乗法(Moving Least Square Method)を用いて変形量(移動量)を平滑化するとともに、その微係数から三次元のひずみテンソルを算出する。以下、各手法について詳細に説明する。
【0052】
(FFT相互相関法)
図3は、FFT相互相関法による処理手順を概略的に示す図である。
FFT相互相関法とは、局所的なスペックルパターンの類似度を相関値Ri,j,kを用いて評価する方法であり、相関値算出にフーリエ変換を用いる。N×N×N(pixel)の検査領域を第1画像(Image1)に設定する一方、同じ大きさの探査領域を第2画像(Image2)の同じ位置に設定し、これら2つの領域間で相関計算を行う。入射光軸垂直方向及び光軸方向をそれぞれX,Y,Zとする。第1画像の検査領域および第2画像の探査領域の輝度値パターンをそれぞれf(X,Y,Z),g(X,Y,Z)とし、そのフーリエ変換をF{f(X,Y,Z)},F{g(X,Y,Z)}と表す。このとき、下記式(3)のクロススペクトルSi,j,k(ξ,η,ζ)を求め、それに逆フーリエ変換を施すことにより、下記式(4)のように相互相関関数Ri,j,k(ΔX,ΔY,ΔZ)が得られる。
【数3】
【数4】
ここで、F−1は逆フーリエ変換を表す。また、 ̄fおよび ̄gは、それぞれf(X,Y,Z),g(X,Y,Z)の検査領域内での輝度平均値を表し、平均値からの偏差を利用すると共に相関値の規格化を行っている。このようにして算出された相関値分布Ri,j,k(ΔX,ΔY,ΔZ)から最大相関値を与える座標を選択し,ピクセル精度の変形ベクトル(移動ベクトル)を決定する。
【0053】
(再帰的相互相関法)
図4は、再帰的相互相関法による処理手順を概略的に示す図である。なお、簡単のため、同図は便宜上、二次元態様で示されている。図4(A)〜(C)は、再帰的相互相関法による処理過程を示している。各図にはOCTにより撮影される前後の断層画像が示されている。左側には先の断層画像(Image1)が示され、右側には後の断層画像(Image2)が示されている。
【0054】
図4(A)に示すように、撮影された前後のOCT画像について、先の断層画像(Image1)に類似度の検査対象となる検査領域S1が設定され、後の断層画像(Image2)に類似度の探査範囲となる探査領域S2が設定される。
【0055】
本手法では、検査領域S1を縮小しながら相互相関処理を繰り返して空間解像度を高める再帰的相互相関法を採用している。なお、本実施例では解像度を上げる際に空間解像度が倍になるようにしている。図4(C)に示すように、階層的に検査領域S1及び探査領域S2をX,Y,Z方向にそれぞれ2分の1に縮小し、空間解像度を高めている。再帰的相互相関法を用いることで、高解像度において多発する過誤ベクトルの抑制を可能にしている。このような再帰的相互相関処理を施すことにより、変形ベクトルの解像度を高めることができる。
【0056】
(隣接相互相関乗法)
本実施例では、スペックルノイズの影響を受けたランダム性の強い相関値分布から正確な最大相関値を決定するために隣接相互相関乗法を導入している。この隣接相互相関乗法では、下記式(5)により、検査領域S1における相関値分布Ri,j,k(ΔX,ΔY,ΔZ)と、その検査領域S1にオーバーラップする隣接検査領域に対する相関値分布との乗算を行う。このようにして得た新たな相関値分布R'i,j,k(ΔX,ΔY,ΔZ)を用いて最大相関値を検索する。
【数5】
【0057】
これにより、相関値同士の乗算によってランダム性を低減させることが可能になる。上述した検査領域S1の縮小と共に干渉強度分布の情報量も減少するため、スペックル・ノイズを原因とする複数相関ピークの出現が計測精度の悪化を招いていると考えられる。一方、隣接境界同士の移動量には相関があるため、最大相関値座標付近では強い相関値が残存する。この隣接相互相関乗法の導入によって最大相関値ピークが明瞭化され計測精度が向上し、正確な移動座標を抽出することが可能となる。また、この隣接相互相関乗法をOCTの各ステージに導入することで、誤差伝播が抑制され、スペックル・ノイズに対するロバスト性が向上する。それにより、高空間解像度においても高精度な変形ベクトル分布(移動量分布)の算出が可能となる。
【0058】
(風上勾配法)
図5は、サブピクセル解析による処理手順を概略的に示す図である。なお、簡単のため、同図は便宜上、二次元態様で示されている。図5(A)〜(C)は、サブピクセル解析による処理過程を示している。各図にはOCTにより連続的に撮影される前後の断層画像が示されている。左側には先の断層画像(Image1)が示され、右側には後の断層画像(Image2)が示されている。
【0059】
本実施例では、サブピクセル解析のために風上勾配法と画像変形法を採用する。最終的な移動量の算出は後述の画像変形法によるが、計算の収束性の問題から、画像変形法より先に風上勾配法を適用する。検査領域サイズが小さく高空間解像度の条件において、サブピクセル移動量を高精度検出する画像変形法及び風上勾配法を適用している。画像変形法におけるサブピクセル移動量の検出が困難な場合において、風上勾配法によりサブピクセル移動量を算出する。
【0060】
サブピクセル解析では、注目点における変形前後の輝度差が各成分の輝度勾配と移動量によって表される。このため、検査領域S1内の輝度勾配データより最小二乗法を用いてサブピクセル移動量を決定することができる。本実施例では、輝度勾配を求める際に、サブピクセル変形前の風上側の輝度勾配を与える風上差分法を採用している。すなわち、サブピクセル解析は様々な手法が存在するが、本実施例では検査領域サイズが小さく高空間解像度の条件においても、サブピクセル移動量を高精度検出する勾配法を採用している。
【0061】
風上勾配法は、検査領域S1内の注目点の移動を、図5(A)に示すピクセル精度に留まらず、図5(B)に示すサブピクセル精度にて算出するものである。なお、図中の各格子は1ピクセルを表している。実際には図示の断層画像と比較して相当小さいが、説明の便宜上、大きく表記している。この風上勾配法は、微小変形前後における輝度分布の変化を輝度勾配と移動量によって定式化する手法であり、fを輝度とすると、微小変形f(x+Δx,y+Δy,z+Δz)をテイラー展開する下記式(6)として表される。
【数6】
【0062】
上記式(6)は、注目点の変形前後の輝度差が変形前の輝度勾配と移動量によって表されることを示している。なお、移動量(Δx,Δz)については上記式(6)のみでは決定できないため、検査領域S1内で移動量が一定と考え、最小二乗法を適用して算出している。
【0063】
上記式(6)を用いて移動量を算出する際には、右辺の各注目点における移動前後の輝度差は一意にしか求まらない。そのため輝度勾配をどれだけ正確に算出するかが移動量の精度に直結する。輝度勾配の差分化では、一次精度風上差分を用いている。差分化において高次差分を適用すると、多くのデータが必要になり、ノイズが含まれていた際に影響を大きく受けてしまうためである。また、検査領域S1内の各点を基準とした高次差分では、検査領域S1外のデータを多く使用することとなり、検査領域S1そのものの移動量ではなくなってしまうという問題点も存在するからである。
【0064】
輝度勾配を求める際に変形前の風上側の輝度勾配が移動することによって注目点の輝度差が生まれると考えることができるので、変形前は風上側の差分を適用する。ここでいう風上は、実際の移動方向ではなく、ピクセル移動量に対するサブピクセル移動量の向きのことであり、最大相関値ピークに放物線近似を施すことによって風上側を決定する。逆に、変形後の風下側の輝度勾配が逆に移動することによって注目点の輝度差が生じると考えることができるため、変形後は風下側の差分を適用する。
【0065】
変形前の風上差分と変形後の風下差分を用いて2通りの解を求め、それらの平均をとった。さらに、実際には移動量が軸方向に沿わない場合には、変形前や変形後の輝度勾配が注目点と同一軸上に無く、ずれた位置の勾配を求める必要がある。そのため、輝度の内挿による輝度勾配の推定をすることで、精度向上を図っている。基本的には変形前(もしくは変形後)の位置を予測し、その位置での勾配を内挿により求める。
【0066】
変形前(後)の注目点の位置は、放物線近似を施した際のサブピクセル移動量(Δx,Δy,Δz)により求める。その注目点位置が囲まれる8つの座標を用い、それらの比によって輝度勾配を算出する。具体的には、下記式(7)を用いる。そのようにして算出された輝度勾配と、輝度変化を用いて最小二乗法を適用し移動量を決定した。
【数7】
【0067】
(画像変形法)
上述した風上勾配法までは検査領域S1の形状は変更せず、矩形体を保ったまま変形ベクトルの算出を行っている。しかし、現実には計測対象の変形に合わせて検査領域S1も変形していると考えられるため、検査領域S1の微小変形を考慮したアルゴリズムを導入し、変形ベクトル算出を高精度にて算出する必要がある。このため、本実施例ではサブピクセル精度での変形ベクトルの算出に画像変形法を導入している。すなわち、材料の変形前の検査領域S1と変形後の伸縮及びせん断変形を考慮した検査領域S1とで相互相関を実施し、相関値ベースの反復計算によってサブピクセル変形量を決定している。なお、検査領域S1の伸縮及びせん断変形は線形で近似している。
【0068】
より詳細には、以下の手順にて演算を実行する。まず、材料変形前のOCT断層像の輝度分布に双三次関数補間法を適用し、輝度分布の連続化を実施する。双三次関数補間法とは、sinc関数を区分的に三次関数近似した畳み込み関数を用い、輝度情報の空間連続性を再現する手法である。本来は連続的な輝度分布を画像計測する際には光学系に依存した点広がり関数が畳み込まれるため、sinc関数を用いた逆畳み込みを行うことにより、本来の連続的な輝度分布が復元される。離散的な一軸信号f(x)の補間をする場合、畳み込み関数h(x)は下記式(8)にて表される。
【数8】
【0069】
なお、OCT計測条件の違いによって輝度補間関数h(x)の形状も変更する必要がある。そこで輝度補間関数h(x)のx=1での微係数aを可変とし、aの値を変更することで輝度補間関数h(x)の形状を変更可能なアルゴリズムとした。本実施例では、擬似OCT断層像を用いた数値実験による検証結果を元にし、aの値を決定した。以上のように画像補間をすることで、伸縮及びせん断変形を考慮した検査領域S1の各点にて、OCT輝度値を求めることが可能となる。
【0070】
伸縮及びせん断変形を考慮して算出した検査領域S1は、図5(C)に示すように、移動とともに変形を伴う。皮膚組織変形前のOCT断層像におけるある検査領域S1内の整数ピクセル位置での座標(x,y,z)が変形後に座標(x,y,z)に移動すると考えると、x,y,zの値は下記式(9)にて表される。
【数9】
【0071】
ここで、u,v,wはそれぞれx,y,z方向への移動量、Δx,Δy,Δzは検査領域S1中心から座標(x,y,z)までの移動量、∂u/∂x,∂v/∂y,∂w/∂zはそれぞれx,y,z方向の垂直ひずみ、∂u/∂y,∂u/∂z,∂v/∂x,∂v/∂z,∂w/∂x,∂w/∂yはそれぞれせん断ひずみである。数値解法にはNewton-Raphson法を用い、12変数(u,v,w,∂u/∂x,∂u/∂y,∂u/∂z,∂v/∂x,∂v/∂y,∂v/∂z,∂w/∂x,∂w/∂y,∂w/∂z)での相関値微係数が0となるように、すなわち最大相関値を得るように反復計算を行う。なお、反復計算の収束性を高めるため、x,y,z方向の移動量初期値には風上勾配法で得られたサブピクセル移動量を用いる。相関値Rに対するヘッセ行列をH、相関値対するヤコビベクトルを▽Rとすると、1回の反復で得られる更新量ΔPiは下記式(10)にて表される。
【数10】
【0072】
収束の判定には、反復計算で随時得られる漸近解が収束解の近傍で十分小さくなることを用いる。しかし、スペックルパターンの変化が激しい領域においては、線形変形では追従できないために正しい収束解が得られない場合がある。その場合、本実施例では風上勾配法によって求めたサブピクセル移動量を採用している。以上のようにして、サブピクセル精度の変形ベクトル分布が得られる。
【0073】
ひずみ量の算出には移動最小二乗法を用いる。すなわち、移動最小二乗法を用いて変形量(移動量)を平滑化するとともに、その微係数からひずみテンソルを算出する。
【0074】
図6および図7は、皮膚の三次元OCT断層画像を示す。
OCTのビームは、画像上面から照射されている。図6(A)において、上部の高輝度線は皮膚表面を表し、内部の高輝度線は角層と表皮生細胞層の境界を表している。図6(B)は、OCT断層画像から皮膚表面と、角層と表皮生細胞層との境界とを抽出したものである。皮膚表面に凹凸が表れている。表面の蛇行と、角層と表皮生細胞層との境界の蛇行とが同期しており、公知の病理報告と一致している。
【0075】
図7(A)は、皮膚に吸引力を作用させたときの変形ベクトルの断層分布を示す。同図から、変形ベクトルが上向きに発生していることが分かる。吸引に伴い皮膚が上昇していることが確認できる。図7(B)は、x方向の三次元ひずみεxxを示す。このように、OCT断層計測により、皮膚の力学的挙動を把握することができる。
【0076】
ここでは、皮膚の力学特性として、皮膚の弾性および粘弾性を算出する。そのために、皮膚の計測対象部位に所定の荷重を負荷し、OCTによる断層計測を行う。本実施例ではその荷重負荷方法として、一定の大きさの応力を与えてひずみの時間変化を測定するクリープ法を採用する。すなわち、皮膚組織を粘弾性モデルとみなし、クリープ回復時間を算出する。この粘弾性モデルにおいて、クリープ回復時のひずみ速度は下記式(11)で表される。
【数11】
ここで、τ(k,c)はクリープ回復時間、kは弾性係数、cは粘性係数である。τ(k,c)はモデルが粘性的であれば大きくなり、弾性的であれば小さくなる。
【0077】
図8は、皮膚組織の粘弾性モデルを表す図である。皮膚組織を図示のような三要素モデルとみなした場合、下記式(12)(13)のように、クリープ回復時間τ(k,c)は弾性係数と粘性係数の関数で表される。このため、クリープ回復時間の断層分布τ(x,y,z)を算出することにより、皮膚組織の力学特性についての考察が可能となる。
【数12】
【0078】
図9は、力学特性に関する断層計測の結果を例示する図である。ここでは、皮膚の計測対象部位に所定の吸引荷重を負荷した後に除荷し、皮膚組織のクリープ回復過程でOCT断層計測を行った結果が示されている。図9(A)は、皮膚組織と断層画像との対応関係を示す。同図は便宜上、二次元態様で示されている。Z=450μm付近の高輝度線は皮膚表面、つまり角層を表している。皮膚表面から150μmの低輝度領域が表皮、それより下方の高輝度領域が真皮を表している。
【0079】
図9(B)および(C)は、除荷から所定時間後における変形速度ベクトルの断層分布を示す。図9(B)は0.19秒後、図9(C)は0.38秒後を示す。これらを比較すると、皮膚において表面付近の方(表皮およびその上方)のほうが、その内方(真皮よりも下方)よりも変形量の減少幅が大きいことが確認できる。
【0080】
図10は、クリープ回復時間の断層分布を表す図である。
図9に示した変形速度ベクトルを空間微分することにより、ひずみ速度テンソルを得ることができる。そのひずみ速度分布を上記式(12)および(13)に適用することにより、図10に示すクリープ回復時間の断層分布τ(x,y,z)を算出することができる。なお、同図は便宜上、二次元態様で示されている。この断層分布から、皮膚の表面付近ではクリープ回復時間が短くて弾性的な挙動を示しているのに対し、皮膚の深層では粘性的な挙動を示す領域が存在することが確認できる。以上のように、OCT断層計測により、皮膚の力学特性を把握することができる。
【0081】
(2)皮膚の血流速度
OCTによりドップラー変調信号を検出することにより、皮膚組織の血流速度分布を算出することができる。上述のように、皮膚診断装置1ではリファレンスアーム14にEOPM40を設置しており、高周波キャリア信号を発生させることができる。EOPM40にて生じた変調角周波数ωを考慮し、参照光の電場E'r(t)は下記式(14)にて表される。
【数13】
【0082】
ここで、A(t)は振幅、ωは光源の中心角周波数である。ωはRSODのレゾナントミラー54において生じるドップラー角周波数である。
【0083】
また、計測対象部位に流れ場が存在する場合、流速により生じるドップラー角周波数シフト量ωを考慮し、物体光の電場E'(t)は下記式(15)にて表される。
【数14】
【0084】
光強度は電場強度の二乗の時間平均であるため、検出される干渉光強度I'(t)は下記式(16)で表される。
【数15】
【0085】
また、検出される断層干渉信号I(x,y,z)は下記式(17)で表される。
【数16】
【0086】
一方、干渉信号の角周波数はω+ω−ωとなる。この干渉信号のキャリア角周波数ω+ωを用いることにより、血流速度により生じたドップラー角周波数シフト量ωを検出する。そして、検出されたドップラー角周波数シフト量ωを用いて下記式(18)を演算することにより、血流速度vを得ることができる。
【数17】
ここで、λは光源の中心波長、θ(x,y,z)は座標(x,y,z)における流速方向とビームの入射方向とがなす角度である。nは皮膚内部の平均屈折率である。
【0087】
(隣接自己相関法)
本実施例では上述のように、RSODを用いた奥行方向(z軸方向)走査手法を採用する。その際の流速検出能の劣化を防止するために、ヒルベルト変換および隣接自己相関法を適用する。すなわち、空間的に隣接する干渉信号にヒルベルト変換を適用して得られる解析信号(複素信号)Γ(t)に対し、隣接自己相関法を適用する。それにより、任意座標における位相差Δφを求め、血流速度によるドップラー角周波数シフト量ωを検出する。
【0088】
すなわち、ヒルベルト変換を適用して得られたj,j+1番目の解析信号をそれぞれΓj,Γj+1とすると、それぞれの干渉信号は下記式(19)として表される。
【数18】
ここで、s(t)は解析信号Γ(t)の実部を表し、s^(t)は虚部を表す。ΔTはj,j+1番目の干渉信号の取得時間間隔を表し、Aは干渉信号の振幅(つまり後方散乱強度)を表す。
【0089】
物体光の電場において位相変調が生じていない場合(ω=0)、それぞれの干渉信号の位相差はゼロとなる。ΓjとΓj+1の干渉信号における位相差は、血流速度によって生じるドップラー変調による位相変化量ωΔTに相当する。すなわち、血流速度によって生じるドップラー角周波数シフト量ωは下記式(20)として表される。
【数19】
【0090】
なお,偏角Δφ=ωdΔTであるため、位相の変化量は−π〜πの範囲にて検出可能である。また、下記式(21)に従い、n本の干渉信号についてアンサンブル平均処理を施すことにより、ドップラー角周波数シフト量ωの検出能を向上させることができる。
【数20】
【0091】
以上のようにして得られたドップラー角周波数シフト量ωを上記式(18)に代入することにより、血流速度vを算出することができる。
【0092】
ここで、OCTによる血流速度計測の模擬試験およびその計測結果について説明する。
図11は、血流速度模擬試験に用いられた装置の一部を表す図である。図11(A)は斜視図、図11(B)は平面図、図11(C)は正面図(Y方向にみた図)である。図12は、OCTにより計測された流速の断層分布を示す図である。図12(A)〜(D)は、後述する赤血球浮遊液の設定平均流速Uがそれぞれ異なる場合の結果を示す。
【0093】
この模擬試験では、図11に示すマイクロ流路105を用いた。すなわち、皮膚を模した部材107にマイクロ流路105を形成し、血液を模した赤血球浮遊液(Red Blood Cells' suspension)をY方向に圧送した。マイクロ流路105の開口サイズをXZ断面にて(x×z)=(250μm×40μm)とし、Y方向長さyを20mmとした。赤血球浮遊液は、健常ヒトから採血した血液を用いて作製した。詳細には、採取した血液を回転速度3000rpmにて20分間遠心分離し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を用いて洗浄した赤血球層を抽出する行程を2度繰り返すことで赤血球のみ抽出した後、CPD(Citrate Phosphate Dextrose)液にてヒト血液と同等のヘマトクリット値40%に希釈した。
【0094】
図12の設定平均流速Uについて(A)は0.25mm/s、(B)は0.5mm/s、(C)は0.75mm/s、(D)は1.0mm/sとした場合をそれぞれ示す。同図の血流速度分布から、設定値とOCT断層計測結果が整合していることが確認できる。また、流路中央に向かうにしたがって血流速度が上昇することから、赤血球によるレオロジー特性が表れていることも確認できる。すなわち、本試験結果により、ヒト血液と同等のヘマトクリット値を有する赤血球浮遊液において赤血球のレオロジー特性を捉えた計測がOCTにより可能であることが示され、血流速度分布の計測手法として有効であることが分かる。
(3)皮膚の血管網
OCTにより連続的に撮影される断層画像の自己相関を演算することにより、血管網のネットワーク(血管形状およびその変化)を算出することができる。図13は、OCTによる血管網の演算方法を表す模式図である。同図の左側は時間tに取得される断層画像を示し、右側は時間t+1に取得される断層画像を示す。便宜上、同図は二次元態様で示されている。
【0095】
血管網の算出に際しては、連続的に取得された断層画像に検査領域Iを設定し、その領域内での自己相関ZNCCを演算する。すなわち、検査領域I内の同じ座標(i,j)における画像の変化を、下記式(22)の自己相関値Ct(i,j)として算出する。
【数21】
【0096】
そして、その自己相関値Ctが予め定める判定閾値よりも低くなった座標を血管の一部として算出する。血管内の血流により、自己相関値Ctが低くなることを利用するものである。このようにして得た血管データに対し、空間周波数フィルタやメディアンフィルタ等のノイズ低減処理を施すことにより、血管網を算出することができる。なお、このような自己相関処理を3枚以上の断層画像(時間t+2,...,t+N)について重畳的に行うことにより、血管網算出精度を向上させてもよい。
【0097】
図14は、血管網の算出結果を表す図である。図14(A)は、前腕の所定位置についての通常状態を計測した結果を示す。図14(B)は、血行促進剤を適用した場合の同位置の計測結果を示す。各図においては血管網に対応する領域、つまり自己相関の低い領域が高輝度(白)となるように表示されている。これらの図から、血行促進剤により血管網が膨張する様子が把握できる。本計測結果により、OCTにより血管網の算出が可能であることが確認された。なお、皮膚への負荷により血管網が途絶すると、その途絶箇所下流側についてOCTによる血管網の視認性が低下する。その負荷を除荷すると、OCTによる血管網の視認性が回復する。このような挙動を検出することにより、皮膚および血管の荷重応答性ひいては皮膚状態の良否を評価することもできる。
【0098】
(4)皮膚の水分量
光吸収特性が異なる2つの波長帯の光源を用いてOCT断層計測を行うことにより、皮膚組織の含水率分布を算出することができる。
図15は、水による光吸収特性を表す図である。本図は、光の波長と強度との関係、および光の波長と水の光吸収係数との関係を示す。本図から、高含水率を有する組織において、1430nm波長帯光は光吸収作用により後方散乱光強度が指数関数的に減衰するが、1310nm波長帯光の後方散乱光強度には光吸収作用の影響が現れないことが分かる。本実施例では、この2つの波長帯の光吸収特性の相異を利用して含水率分布の検出を行う。すなわち、本実施例では上述のように、水分による光吸収特性を有する1430nm波長帯光源と、水分による光吸収特性を有しない1310nm波長帯光源とが用いられる。
【0099】
ところで、皮膚の深部位置zにおける後方散乱光強度Iλcは、光源のコヒーレンス関数Gλc(z)と皮膚内部における後方反射光強度Oλc(x,y,z)の畳み込み積分となり、下記式(23)にて表される。
【数22】
ここで、Iincλcは参照ミラー及び計測対象(皮膚)への照射強度、各変数の添字λcは入射光の中心波長を示す。
【0100】
ここで、後方反射光強度Oλc(x,y,z)がコヒーレンス長に比べ緩慢に分布する場合、コヒーレンス関数Gλc(z)をデルタ関数として近似することができ、OCTにおける検出信号はIλc≒Iincλcλc(x,y,z)として表現することができる。さらに、Oλc(x,y,z)が、対物レンズによって決定する入射光強度分布Iλc(z)、組織内部のエネルギー反射率rλc、散乱減衰、および吸収減衰に依存することから、後方反射光強度Oλc(x,y,z)は下記式(24)にて近似的に定式化することができる。なお、ここでは皮膚表面のエネルギー反射率Rλcを用いて表面反射を考慮している。また、皮膚組織内部のエネルギー反射率Rλcの平均空間変化率は小さいと仮定し、散乱減衰係数μsλc(以下「散乱係数」ともいう)および吸収減衰係数μaλc(以下「吸収係数」ともいう)を主要なパラメータとした。
【数23】
【0101】
さらに、皮膚への入射光強度分布Iλc(z)が被写界深度内において一定であると仮定し、上記式(24)のOCT信号に対して自然対数をとり、奥行きz方向の空間微分を行うことにより、下記式(25),(26)を得ることができる。
【数24】
【0102】
上記式(26)に関し、1310nm波長帯における吸収係数μa1310は水のモル吸光係数が微小であるため無視でき、減衰係数μs1310から組織散乱係数分布を求めることができる。さらに、下記式(27)に示す散乱係数比κを予め算出することにより、吸収係数μa1430の分離検出が可能となる。
【数25】
【0103】
上記式(25)および(26)の左辺は、移動最小二乗法(MLSM)により算出することができる。したがって、散乱係数比κが既知であれば、μs1430=κ・μs1310の関係を上記式(25)又は(26)に代入して連立させることにより、吸収係数μa1430を算出することができる。
【0104】
図16は、水の光吸収特性と含水率との関係を示す。図16(A)は、各波長帯の減衰係数と含水率との関係を示す。同図の横軸は含水率を示し、縦軸は減衰係数を示す。図16(B)は、各波長帯の吸収係数と含水率との関係を示す。同図の横軸は含水率を示し、縦軸は吸収係数を示す。
【0105】
図16(A)に示すように、計測対象の含水率が上昇すると、1430nm波長帯光の減衰係数μs1430は大きくなるが、1310nm波長帯光の減衰係数μs1310はほとんど変化しない。これは、前者が水による光吸収特性を有するのに対し、後者はその光吸収特性を有しないためである。後者の減衰係数は、実質的に散乱減衰のみによる。
【0106】
上記式(27)の散乱係数比κが既知であるため、図16(A)に示す減衰係数と含水率との関係に基づいて、図16(B)に示す吸収係数と含水率との関係を導くことができる。したがって、上述のように算出された吸収係数μa1430を用いて図16(B)の関係を参照することにより、計測対象である皮膚の含水率分布を算出することが可能となる。
【0107】
図17は、OCTによる皮膚の水分量の演算過程を示す図である。図17(A)は1310nm波長帯の断層画像を示し、図17(B)は1430nm波長帯の断層画像を示す。図17(C)は両断層画像に基づいて算出された含水率分布を示す。各図は便宜上、二次元態様で示されている。また、図17(C)において、SN比が低い箇所については便宜上、その含水率分布表示を省略している。
【0108】
図17(A)および(B)において、z=600μm付近の高輝度線は皮膚の表面を示し、z=900μm付近の高輝度線は角層と表皮生細胞層の境界を示していると考えられる。両図を比較することにより、1430nm波長帯の断層画像が、1310nm波長帯の断層画像よりも奥行き方向の減衰量が大きいことが分かる。この減衰量の相違は、1430nm波長帯に存在する水分子の光吸収のためであると考えられる。
【0109】
図17(C)によれば、x方向に含水率の分布が存在することが分かる。また、高含水率領域では汗腺が存在することにより含水率が高くなっていると考えられ、低含水率領域では汗腺が存在しないことにより含水率が低くなっていると考えられる。また、角層の含水率は表皮生細胞層よりも低く、深部になるにつれて含水率が上昇する傾向にあることが分かる。
【0110】
制御演算部6は、以上のようにして得られた皮膚の力学特性、血流速度、血管網、水分量の各パラメータに基づいて、皮膚診断のための情報を出力する。つまり、皮膚の評価値を算出し、表示装置74に表示する。評価値は、例えば現在の皮膚状態の良否をレベル分けするものとしてもよい。例えばレベルを5段階に設定し、レベルA(極めて良好、ハリが抜群、肌年齢10代以下)、レベルB(良好、ハリも良好、肌年齢20代)、レベルC(普通、ハリも問題なし、肌年齢30代)、レベルD(やや加齢変化あり、たるみがみられる、肌年齢40代)、レベルE(老化がみられる、たるみが目立つ、肌年齢50代以上)などと設定することができる。
【0111】
この皮膚診断に際し、これらのパラメータを如何に用いるかについては種々の選択が可能である。これらのパラメータの全てを用いて評価値を決定してもよいし、いずれかの組み合わせから評価値を決定してもよい。例えば、皮膚における血管網の位置および形状を算出し、その血管網の位置における力学特性(弾性、粘性)が予め定める基準値(標準値)よりも低下していれば(ひずみ速度が予め定める閾値よりも低下していれば)、皮膚の劣化(老化)が進んでいると評価してもよい。紫外線照射の影響や老化により皮膚が劣化すると、血管の弾力性が失われ、代謝が低下していると考えられる。このことをOCT断層計測に基づいて評価することができる。
【0112】
また、皮膚に荷重を負荷したときに血流が途絶し、荷重を緩めると血流が戻る現象も考えられる。その際、皮膚組織が良好であれば、力学特徴量の変化に対応して血管網も速やかに変化するが、皮膚組織が劣化していれば、その変化が遅延する(追従性が低下する)と考えられる。この力学特徴量の変化は力学特性に関係する。このような知見に基づき、力学特徴量の変化に対する血流状態の変化の度合いに基づいて評価値を演算してもよい。
【0113】
また、皮膚組織が劣化すると、血管網における血流速度も低下すると考えられる。このため、上述した皮膚組織の血流速度を併せて考慮することで、より効果的な評価が可能となる。さらに、皮膚組織が劣化すると、毛細血管の管構造に異常が生じることで血漿成分(体液)の漏出が異常に亢進されるとともに、毛細血管自体の数が減少し、その結果として、正常とは異なる含水率の分布が生じると考えられる。このため、皮膚組織の含水量を併せて評価することで、皮膚の劣化(老化)をより正確に評価することが可能となる。
【0114】
具体的には、血管網およびその周辺の皮膚状態について、力学特性(弾性、粘性)について5ポイント(弾性・粘弾性が高いほどポイントを高く評価)、血流速度について5ポイント(血流速度が高いほどポイントを高く評価)、含水率について5ポイント(含水率が高いほどポイントを高く評価)などとし、合計15ポイントとしてもよい。そして、12〜15ポイント:レベルA、9〜11ポイント:レベルB、6〜8ポイント:レベルC、5〜7ポイント:レベルD、6ポイント以下:レベルEなどとし、総括的に皮膚の良否(劣化)を評価するための評価値を設定してもよい。
【0115】
あるいは、血管網と力学特性のみにより評価値を算出してもよい。血管網、力学特性および水分量により評価値を算出してもよい。あるいは、力学特徴量(ひずみ速度)の変化と血管網(血管形状等)の変化に基づいて評価値を算出してもよい。例えば、アトピー皮疹部やニキビ、シミの部位などで異常な構造をもった血管網が観察されることがある。その場合、皮膚に付与する負荷に対して血管網が正常な場合よりも大きく変形することが考えられる。そのような知見のもと、評価値を設定してもよい。
【0116】
以上のようにして算出した評価値は、皮膚の断層分布として画面に表示させてもよい。あるいは、レベルの平均値などを皮膚全体の評価値としてコメント表示させてもよい。
【0117】
図18は、制御演算部6の機能ブロック図である。
制御演算部6は、制御部110、データ処理部120、データ格納部130およびインタフェース部(I/F部)140を備える。各部がソフトウェア上で連携し、OCT計測による皮膚診断のための処理を実行する。
【0118】
制御部110は、光源制御部111、光学機構制御部112、負荷制御部113および表示制御部114を含む。制御部110は、光学ユニット2を駆動制御するためのプログラムをデータ格納部130から読み出して実行し、各装置および機構を制御する。光源制御部111は、光源10の駆動を制御する。光学機構制御部112は、光学機構4および26の駆動を制御する。負荷制御部113は、負荷装置5の駆動を制御する。表示制御部114は、表示装置74の表示処理を行う。
【0119】
データ処理部120は、力学特徴量演算部121、力学特性演算部122、血流速度演算部123、血管網演算部124、水分量演算部125および皮膚評価演算部126を含む。データ処理部120は、皮膚診断に用いる評価値を演算するためのプログラムをデータ格納部130から読み出して実行し、所定の演算処理を実行する。
【0120】
力学特徴量演算部121は、OCTにより得られた断層画像を用いて上述した皮膚の力学特徴量を演算する。力学特性演算部122は、算出された力学特徴量を用いて上述した皮膚の力学特性を演算する。血流速度演算部123は、OCT信号を用いて上述した皮膚の血流速度を演算する。血管網演算部124は、OCT信号を用いて上述した皮膚の血管網を演算する。水分量演算部125は、OCT信号を用いて上述した皮膚の水分量(含水率)を演算する。皮膚評価演算部126は、以上のようにして得られた力学特徴量、力学特性、血流速度、血管網および水分量の各パラメータの変化等に基づいて、皮膚診断のための評価値を演算する。
【0121】
データ格納部130は、診断プログラム格納部131、力学特徴量格納部132、力学特性情報格納部133、血流速度情報格納部134、血管網情報格納部135および水分量情報格納部136を含む。診断プログラム格納部131は、光学ユニット2の各部を制御するための制御プログラムや、皮膚状態の評価のための演算プログラムを格納する。
【0122】
力学特徴量格納部132は、力学特徴量演算部121により算出された力学特徴量に関するデータを一時的に格納する。力学特性情報格納部133は、力学特性演算部122により算出された力学特性に関するデータを一時的に格納する。血流速度情報格納部134は、血流速度演算部123により算出された血流速度に関するデータを一時的に格納する。血管網情報格納部135は、血管網演算部124により算出された血管網に関するデータを一時的に格納する。水分量情報格納部136は、水分量演算部125により算出された水分量(含水率)に関するデータを一時的に格納する。
【0123】
IF部140は、入力部141および出力部142を含む。入力部141は、光学ユニット2から送られる検出データ、およびユーザが入力装置70を介して入力した指示コマンド等を受け付け、制御部110やデータ処理部120へ送る。出力部142は、制御部110により演算された制御指令信号を光学ユニット2に向けて出力する。出力部142は、また、データ処理部120により演算された結果を表示させるためのデータを表示装置74に向けて出力する。
【0124】
次に、制御演算部6が実行する具体的処理の流れについて説明する。
図19は、制御演算部6により実行される皮膚診断処理の流れを示すフローチャートである。制御演算部6は、まず、光学ユニット2を駆動する(S10)。負荷制御部113が負荷装置5を駆動して皮膚Sに付与する荷重を制御する一方、光源制御部111が光源10からの光の出射を制御し、光学機構制御部112が光学機構4,26の作動を制御する。制御演算部6は、皮膚Sに荷重が負荷される過程でOCTの光干渉信号を連続的に取得する(S11)。続いて、その光干渉信号を用いることにより、皮膚Sに関して上述の各パラメータの断層分布を演算する。
【0125】
すなわち、力学特徴量演算部121が皮膚組織の変形ベクトルを演算し、力学特性演算部122が力学特性の断層分布を演算する(S12)。血流速度演算部123が血流速度の断層分布を演算し(S13)、血管網演算部124が血管網を演算し(S14)、水分量演算部125が含水率の断層分布を演算する(S15)。そして、皮膚評価演算部126がこれらのパラメータの演算結果を皮膚Sの断層位置にて対応づけ、皮膚状態の評価値を演算する(S16)。この評価値の算出については、既に述べたとおりである。表示制御部114が、その評価値を画面に表示する。
【0126】
図20は、図19におけるS12の力学特性演算処理を詳細に示すフローチャートである。力学特徴量演算部121は、OCTにて取得した変形前後の断層画像に基づき、再帰的相互相関法による処理を実行する。ここではまず、最小解像度(最大サイズの検査領域)での相互相関処理を実行し、相関係数分布を求める(S20)。続いて、隣接相互相関乗法により、隣接する相関係数分布の積を演算する(S22)。このとき、標準偏差フィルタ等の空間フィルタにより過誤ベクトルの除去をし(S24)、最小二乗法等により除去ベクトルの内挿補間を実行する(S26)。続いて、検査領域を小さくすることによって解像度を上げて相互相関処理を継続する(S28)。すなわち、低解像度での参照ベクトルを基に相互相関処理を実行する。このときの解像度が予め定める最高解像度でなければ(S30のN)、S22に戻る。
【0127】
力学特徴量演算部121は、S22〜S28の処理を繰り返し、最高解像度での相互相関処理が完了すると(S30のY)、サブピクセル解析を実行する。すなわち、最高解像度(最小サイズの検査領域)での変形ベクトルの分布に基づき、風上勾配法によるサブピクセル移動量を演算する(S32)。そして、このとき算出されたサブピクセル移動量に基づき、画像変形法によるサブピクセル変形量を演算する(S34)。続いて、最大相互相関値によるフィルタ処理により過誤ベクトルの除去をし(S36)、最小二乗法等により除去ベクトルの内挿補間を実行する(S38)。そして、このようにして得られた変形ベクトルの時間微分を行い、その断層画像について変形速度ベクトルの断層分布を算出する。そして、その変形速度ベクトルに対して空間微分をすることにより、ひずみ速度分布を算出する(S40)。力学特性演算部122は、このひずみ速度分布に基づいて力学特性(弾性や粘弾性)の断層分布を演算する(S42)。
【0128】
図21は、図19におけるS13の血流速度演算処理を詳細に示すフローチャートである。血流速度演算部123は、OCT干渉信号を取得し(S50)、フーリエ変換(FFT)を実行する(S52)。続いて、キャリア周波数を基準としてバンドパスフィルタリング処理を実行して信号SN比を向上させた後(S54)、ヒルベルト変換を実行する(S56)。このヒルベルト変換によって得られた解析信号を用いて隣接自己相関処理を施して位相差を求め(S58)、ドップラー周波数を得る(S60)。得られたドップラー周波数をピクセルサイズにて空間平均処理し(S62)、血流速度の断層分布を算出する(S64)。
【0129】
図22は、図19におけるS14の血管網演算処理を詳細に示すフローチャートである。血管網演算部124は、OCTによる同一位置の光干渉信号を取得し(S70)、自己相関処理を実行する(S72)。続いて、空間周波数フィルタ等のノイズ除去処理をし(S74)、血管網の断層分布を算出する(S76)。
【0130】
図23は、図19におけるS15の水分量演算処理を詳細に示すフローチャートである。水分量演算部125は、複数の光源32,34によるOCT干渉信号を取得する(S80)。既に述べたように、光源32は光吸収特性を有しない1310nm波長帯光源であり、光源34は光吸収特性を有する1430nm波長帯光源である。そして、そのOCT信号に対して自然対数をとり(S82)、空間微分を行う。続いて、上述のように移動最小二乗法により減衰係数を算出し(S84)、吸収係数を分離し(S86)、含水率の断層分布を算出する(S88)。
【0131】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はその特定の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0132】
上記実施例では、皮膚に所定の変形エネルギー(負荷)を付与するための負荷装置として、真空ポンプによる吸引式の荷重機構を例示した。変形例においては、圧電素子等の接触により応力を付与する荷重機構を採用してもよい。
【0133】
図24は、変形例に係る負荷装置の構成を概略的に示す図である。なお、同図において上記実施例とほぼ同様の構成については同一の符号を付している。
負荷装置205は、皮膚Sの計測対象部位に押圧荷重を付与するタイプとして構成される。光学機構4の先端には皮膚診断用のプローブ280が設けられる。プローブ280の上半部が光学機構4として機能し、下半部が負荷装置205として機能する。プローブ280のボディ282を軸線方向に貫通するように内部通路284が形成され、その軸線上に対物レンズ48が配置されている。負荷装置205は、ボディ282に組み付けられた圧電素子210(ピエゾ素子)および圧子212を備える。圧電素子210と圧子212は、いずれも円筒状をなし、ボディ282に対して同軸状に配置される。圧子212の下端開口部に平行平面基板214が配設され、さらにその下面にエラストマー216が配設されている。平行平面基板214は、合成石英材からなり、耐熱性および耐衝撃性に優れている。エラストマー216は、材料定数が既知の光透過性の弾性部材であり、圧電素子210からの押圧荷重を皮膚Sに伝達可能である。
【0134】
エラストマー216には圧電センサ(「荷重検出部」として機能する)が装着されており、その変形により、圧電素子210から付与される荷重を検出可能である。すなわち、エラストマー216の変形によって検出される荷重が、皮膚Sの表面に付与される荷重(圧力)として検出可能となっている。図中矢印にて示されるように、光学ユニット2からの物体光は、対物レンズ48、平行平面基板214およびエラストマー216を透過して皮膚Sへ照射され、その反射光が逆の経路を通って光学ユニット2へ戻る。
【0135】
このような構成により、皮膚Sの変形過程で付与される荷重の変化をリアルタイムで検出可能であり、その荷重変化に対応した力学特徴量,血流状態を同時に算出することができる。その算出結果に基づいて皮膚診断のための評価値を演算してもよい。
【0136】
上記実施例では述べなかったが、図20のS40にて算出されたひずみ速度分布を表示装置74に断層可視化してもよい。同様に、図21のS64にて算出された血流速度分布を表示装置74に断層可視化してもよい。
【0137】
上記実施例では、OCTによる断層画像を三次元で取得する例を示したが、二次元で取得してもよい。すなわち、変位関連ベクトルとしての変形ベクトルあるいは変形速度ベクトルを二次元データとして処理してもよいことは言うまでもない。
【0138】
上記実施例では述べなかったが、「力学特徴量」として、ひずみ速度の振幅値やひずみ速度の時間遅れ(位相遅れ)を採用してもよい。すなわち、動的粘弾性法を例に挙げると、応力の負荷および緩和を繰り返す過程でひずみ速度が正の値と負の値を行き来するように変動する。この負荷の変動に追従するように、ひずみ速度も変動するようになる。この点につき、その負荷変動に対する、ひずみ速度の変動の大きさ(振幅値)とひずみ速度変動の追従性(応答性)が、皮膚状態に対応して変化する傾向がある。そこで、そのひずみ速度の振幅値や時間遅れ(位相遅れ)について断層分布を演算してもよい。
【0139】
あるいは、「力学特徴量」として、ひずみ速度の周期的な変動の中央値を採用してもよい。すなわち、上述した動的粘弾性法を例に挙げると、応力の負荷および緩和を繰り返す過程でひずみ速度が正の値と負の値を行き来するように変動する。そのひずみ速度の変動の中心は、粘性力と弾性力との釣り合いから、ゼロからややずれる傾向がある。そして、そのずれ量が、皮膚状態に対応して変化する傾向がある。そこで、ひずみ速度の変動中心(中央値)のゼロからのずれ量について断層分布を演算してもよい。
【0140】
上記実施例では、皮膚に所定の変形エネルギー(負荷)を付与するための負荷装置として、真空ポンプによる吸引式の荷重機構を例示した。変形例においては、超音波(音圧)、光音響波、電磁波等によって非接触にて皮膚に負荷(加振力)を付与する負荷装置を採用してもよい。
【0141】
上記実施例では述べなかったが、図18に示した制御部110とデータ処理部120とを個別の装置(パーソナルコンピュータ等)に設けてもよい。
【0142】
図25および図26は、人の前腕内屈側部のOCT断層画像を表す図である。図25は通常状態での断層計測結果を示し、図26は駆血帯使用時の断層計測結果を示す。各図の(A)はOCT断層画像を示す。(B)は(A)に所定時間における血流速度の最大値を重畳表示したものであり、(C)は血流速度の時間平均を表示したものである。Z=1000μm付近が皮膚表面、つまり角層を表している。
【0143】
これらの断層計測結果より、図26に示す駆血状態では、図25に示す正常状態と比較して真皮上層から表皮直下に上昇してくる血流速度が低下していることが確認できる。駆血すると、毛細血管の先端まで血液が行きわたり難くなることが示されており、実態に沿った計測結果と評価できる。
【0144】
なお、本発明は上記実施例や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施例や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施例や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0145】
1 皮膚診断装置、2 光学ユニット、4 光学機構、5 負荷装置、6 制御演算部、10 光源、12 オブジェクトアーム、14 リファレンスアーム、16 光検出装置、26 光学機構、32 光源、34 光源、48 対物レンズ、54 レゾナントミラー、70 入力装置、72 演算処理部、74 表示装置、110 制御部、120 データ処理部、130 データ格納部、131 診断プログラム格納部、140 IF部、214 平行平面基板、216 エラストマー。
【要約】
【課題】皮膚状態を多角的・統合的に診断するための装置および方法を提供する。
【解決手段】ある態様の皮膚診断装置1は、OCTを用いる光学系を含む光学ユニット2と、光学ユニット2からの光を皮膚Sに導いて走査させるための光学機構4と、皮膚Sに対して変形エネルギーを付与するための負荷装置5と、負荷装置5および光学機構4の駆動を制御し、それらの駆動に応じて光学ユニット2から出力された光干渉信号を処理することにより、皮膚Sに関して予め定める状態値の断層分布を演算し、その断層分布に基づいて皮膚Sの評価値を演算する制御演算部6と、皮膚Sの評価値を表示する表示装置74と、を備える。制御演算部6は、上記状態値として皮膚Sの力学特性および血流状態をそれぞれ演算し、その力学特性と血流状態とを皮膚Sの断層位置にて対応づけることにより評価値を演算する。
【選択図】図2
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