(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
縮合物(A)が、チオール基含有アルコキシシラン類(a1)と共に、チオール基を有しないアルコキシシラン類(a2)を、加水分解および縮合して得られるものである請求項1に記載の表面保護コーティング用組成物。
縮合物(A)の使用割合が、縮合物(A)と多官能オレフィン類(B)および有機多官能チオール化合物(C)の合計100重量%に基づいて、5〜75重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面保護コーティング用組成物。
基材が板状であり、その表面の片面または両面に、請求項1〜3のいずれかに記載の表面保護コーティング用組成物を、塗装及び硬化してなる表面保護層が形成された積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自己修復性を持つ塗膜を形成でき、しかもその塗膜が耐キズつき性、耐ブロッキング性、耐熱黄変性に優れる、活性エネルギー線硬化性の表面保護コーティング用組成物、並びに当該表面保護コーティング用組成物を、塗装及び硬化してなる表面保護層が形成された基材(コーティングされた物品)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定のシラン化合物、特定の炭素−炭素2重結合を有する化合物を含有する組成物、或いは、特定のシラン化合物、特定の炭素−炭素2重結合を有する化合物及び特定の有機多官能チオール化合物を含有する組成物であって、得られる硬化物が、10Hzの動的粘弾性測定した際にtanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内であれば、前記課題を解決することができることを見出し、これに基づいて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下に示す、表面保護コーティング剤、および当該表面保護コーティング剤を用いて得られる表面が保護された基材を提供するものである。
【0011】
1.(A)一般式(1)
R
1Si(OR
2)
3 (1)
(式中、R
1は少なくとも1つのチオール基を有する炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基又は少なくとも1つのチオール基を有する炭素数6〜12の芳香族炭化水素基を示し、R
2は水素原子又は炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を示す。)で表されるチオール基含有アルコキシシラン類(a1)を加水分解および縮合して得られる縮合物、および
(B)多官能オレフィン類を含有する組成物であって、
得られる硬化物を10Hzの動的粘弾性測定した際にtanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内にあることを特徴とする表面保護コーティング用組成物。
【0012】
2.縮合物(A)が、チオール基含有アルコキシシラン類(a1)と共に、チオール基を有しない金属アルコキシド類(a2)を、加水分解および縮合して得られるものである上記項1に記載の表面保護コーティング用組成物。
【0013】
3.多官能オレフィン類(B)が、
多官能アリル化合物及び/又は多官能ウレタンアクリレートである上記項1又は2に記載の表面保護コーティング用組成物。
【0014】
4.さらに、(C)有機多官能チオール化合物を含有する上記項1〜3のいずれかに記載の表面保護コーティング用組成物。
【0015】
5.有機多官能チオール化合物(C)が、脂肪族エステル系多官能チオール化合物である上記項4に記載の表面保護コーティング用組成物。
【0016】
6.縮合物(A)の使用割合が、縮合物(A)と多官能オレフィン類(B)の合計100重量%に基づいて、5〜75重量%であることを特徴とする上記項1、2又は3に記載の表面保護コーティング用組成物。
【0017】
7.縮合物(A)の使用割合が、縮合物(A)と多官能オレフィン類(B)および有機多官能チオール化合物(C)の合計100重量%に基づいて、5〜75重量%であることを特徴とする上記項4又は5に記載の表面保護コーティング用組成物。
【0018】
8.基材表面の一部又は全部に、上記項1〜7のいずれかに記載の表面保護コーティング用組成物を、塗装及び硬化してなる表面保護層が形成された基材。
【0019】
9.基材が板状であり、その表面の片面又は両面に、上記項1〜7のいずれかに記載の表面保護コーティング用組成物を、塗装及び硬化してなる表面保護層が形成された積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記縮合物(A)及び多官能オレフィン類(B)、又は縮合物(A)、多官能オレフィン類(B)及び有機多官能チオール化合物(C)を含有する表面保護コーティング用組成物であって、得られる硬化物を、10Hzの動的粘弾性測定した際にtanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内であることに基づいて、以下の様な顕著な効果が奏される。
【0021】
(1)本発明の表面保護コーティング用組成物は、活性エネルギー線硬化によって、優れた自己修復性を持つ塗膜を形成することができ、しかもその塗膜が耐キズつき性、耐ブロッキング性、耐熱黄変性にも優れている。
【0022】
(2)本発明の表面保護コーティング用組成物は、各種プラスチック、金属、ガラス等の各種基材に、塗装し、活性エネルギー線硬化することによって、表面保護層が形成された基材を、容易に作製することができる。また、基材が板状である場合には、その基板表面の片面又は両面に、表面保護層が形成された積層体を、容易に作製することができる。
【0023】
(3)本発明の表面保護コーティング用組成物は、例えば、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機等の家電製品;家具等の木工製品;携帯電話、パーソナルコンピューター、ディスプレイ、タッチパネル等の情報機器;太陽電池等の電子部品;自動車、自動二輪車等の車両の内外装等の各種基材表面へのキズ付きを効果的に防止することが可能である。また、本発明により得られる積層体は、例えば、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機等の家電製品の筐体;家具等の木工製品;携帯電話の筐体;パーソナルコンピューターの筐体;ディスプレイの表面、タッチパネルの表面等の情報機器;太陽電池の表面等の電子部品;自動車、自動二輪車等の車両の内外装部品等の各種基板表面へのキズ付きを効果的に防止する場合に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
表面保護コーティング用組成物
本発明の表面保護コーティング用組成物は、縮合物(A)及び多官能オレフィン(B)、又は、縮合物(A)、多官能オレフィン類(B)及び有機多官能チオール化合物(C)を含有する表面保護コーティング用組成物であること、並びに、得られる硬化物を、10Hzの動的粘弾性測定した際にtanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内であることによって、特徴付けられる。
【0026】
縮合物(A)
本発明で用いられる縮合物(A)は、チオール基含有アルコキシシラン類(a1)を加水分解および縮合して得られる化合物である。成分(a1)の具体例としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,4−ジメルカプト−2−(トリメトキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリエトキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリプロポキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリブトキシシリル)ブタン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリメトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリエトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリプロポキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリブトキシシランなどがあげられ、該例示化合物はいずれか単独で、または適宜に組み合わせて使用できる。該例示化合物のうち、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランは、加水分解反応の反応性が高く、かつ入手が容易であるため特に好ましい。
【0027】
また、本発明で用いられる縮合物(A)は、チオール基含有アルコキシシラン類(a1)及びチオール基を有しない金属アルコキシド類(a2)の混合物を、加水分解および縮合して得られる化合物であってもよい。成分(a2)の具体例としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシランなどのトリアルキルアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン類;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類;テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウムなどのテトラアルコキシジルコニウム類などの金属アルコキシド類を使用しうる。成分(a2)は、いずれか単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、トリアルキルアルコキシシラン類、ジアルキルジアルコキシシラン類、テトラアルコキシシラン類を用いることで、成分(A)の架橋密度を調整することができる。アルキルトリアルコキシシラン類を用いることで、縮合物(A)中に含まれるチオール基の量を調整することができる。テトラアルコキシチタン類、テトラアルコキシジルコニウム類を用いることで、最終的に得られる硬化物の屈折率を高くすることができる。
【0028】
成分(a1)と成分(a2)を併用する場合は、[成分(a1)に含まれるチオール基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数](モル比:1分子あたりに含まれるチオール基の平均個数を示す)は、表面保護コーティング剤中の成分(A)の量を決定する要素となる。後述する通り、チオール基1個に対して成分(B)に含まれる炭素−炭素2重結合の量には適切な範囲が存在する。従って、当該数値が大きければチオール基の量が多くなるために対応する成分(B)の必要量が多くなり、必然的に成分(A)の含有量が低下する。逆に、小さければチオール基の量が少なくなるために対応する成分(B)の必要量が少なくなり、必然的に成分(A)の含有量が増加する。このため、必要とする成分(A)の含有量に合わせて、当該数値を任意に決定すればよい。但し、表面硬度や耐ブロッキング性の観点からは、当該数値が0.5以上であることが好ましい。0.5未満である場合、得られる成分(A)中に含まれるチオール基の数が少なくなるため、エン−チオール反応における架橋密度が低下する。このような場合、得られる塗膜がもろくなり、表面硬度や耐ブロッキング性が低下する傾向がある。また、[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数](モル比:1分子あたりに含まれるアルコキシ基の平均個数を示す)が2.5以上3.5以下であることが好ましく、2.7以上3.2以下であることがより好ましい。当該数値が2の場合、シリコーン、すなわちゴム状の物質となる。従って、2.5未満の場合、ゴム的な性質が強くなりすぎ、得られる塗膜の表面硬度が低下する傾向がある。また、3.5を超える場合、成分(A)を製造する際、ゲル化しやすくなる傾向がある。
【0029】
本発明に用いられる縮合物(A)は、成分(a1)単独やこれに成分(a2)を併用して、それらを加水分解後、縮合させて得ることができる。加水分解反応によって、成分(a1)や成分(a2)に含まれるアルコキシ基が水酸基となり、アルコールが副生する。加水分解反応に必要な水の量は、[加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.2以上1.5以下であればよい。0.2未満の場合、最終的に得られる成分(A)の分子量が低くなりすぎ、硬化性が低下する傾向がある。また、1.5を超える場合、後に行う縮合反応(脱水反応)の際に除くべき水の量が多くなるため、経済的に不利である。
【0030】
また、成分(a2)としてテトラアルコキシチタン類、テトラアルコキシジルコニウム類等、特に加水分解性および縮合反応性の高い金属アルコキシド類を併用する場合には、急速に加水分解および縮合反応が進行し、系がゲル化してしまう場合がある。この場合、成分(a1)の加水分解反応を終了させ、実質的にすべての水が消費された状態にした後、該成分(a2)を添加することによって、ゲル化を避けることができる。
【0031】
加水分解反応に用いる触媒としては、特に限定はされず、従来公知の加水分解触媒を任意に用いることができる。これらのうちギ酸は、触媒活性が高く、また引き続く縮合反応の触媒としても機能するので好ましい。ギ酸の添加量は、成分(a1)および成分(a2)の合計100重量部に対して、0.1〜25重量部であることが好ましく、1〜10重量部であることがより好ましい。25重量部よりも多いと、得られる表面保護コーティング用組成物の安定性が低下する傾向があり、また後工程でギ酸を除去できるとしても該除去量が多くなる。一方、0.1重量部よりも少ないと、実質的に反応が進行しなくなったり、反応時間が長くなったりする傾向がある。反応温度、時間は、成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じて任意に設定できるが、通常0〜100℃程度、好ましくは20〜60℃程度で、1分〜2時間程度である。該加水分解反応は、溶剤の存在下または不存在下に行うことができる。溶剤の種類は特に限定されず、任意の溶剤を1種類以上選択して用いることができるが、後述の縮合反応に用いる溶剤と同一のものを用いることが好ましい。成分(a1)や成分(a2)の反応性が低い場合は、無溶剤で行うことが好ましい。
【0032】
上記方法で加水分解反応を行うが、[加水分解されてできた水酸基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.3以上になるように進行させることが好ましく、0.5以上に調整することがさらに好ましい。
【0033】
縮合反応においては、前記の水酸基間で水が副生し、また水酸基とアルコキシ基間ではアルコールが副生して、シロキサン結合を生じる。縮合反応には、従来公知の脱水縮合触媒を任意に用いることができる。前記のように、ギ酸は触媒活性が高く、加水分解反応の触媒と共用できるため好ましい。反応温度、時間は成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じてそれぞれ任意に設定できるが、通常は40〜150℃程度、好ましくは60〜100℃程度で、30分〜12時間程度である。
【0034】
上記方法で縮合反応を行うが、[未反応の水酸基および未反応のアルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)および成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.4以下になるように進行させることが好ましく、0.3以下に調整することがさらに好ましい。0.4を超える場合、得られる成分(A)の分子量が小さくなり、1分子あたりのチオール基が少なくなって架橋密度が低下し、結果として硬化物の性能を損なう傾向があるため好ましくない。
【0035】
当該縮合反応は、成分(a1)(成分(a2)を併用する場合は両者)の濃度が2〜80重量%程度になるように溶剤希釈して行うことが好ましく、15〜60重量%であることがより好ましい。縮合反応によって生成する水およびアルコールの沸点より高い沸点を有する溶剤を用いると、反応系中よりこれらを留去することができるため好ましい。該濃度が2重量%以上とすることにより、得られる表面保護コーティング剤に含まれる成分(A)の量が多くなるため、本発明の効果が顕著となるため好ましい。80重量%以下とすることにより、反応を安定に進行させることができ、また、生成する成分(A)の分子量が適当となるため、得られる表面保護コーティング剤の保存安定性が良好となる。使用する溶剤としては、任意の溶剤を1種類以上選択して用いることができる。縮合反応によって生成する水およびアルコールより高い沸点を有する溶剤を用いれば、反応系中よりこれらを留去することができるため好ましい。また、成分(B)、成分(C)も溶剤の一部として用いることができる。
【0036】
当該縮合反応の終了後、用いた触媒を除去すると、得られる表面保護コーティング剤の安定性が向上するため好ましい。除去方法は、用いた触媒に応じて公知各種の方法から適宜に選択できる。例えば、ギ酸を用いた場合は、縮合反応の終了後、該沸点以上に加熱する、減圧するなどの方法により容易に除去でき、この点からもギ酸の使用が好ましい。
【0037】
多官能オレフィン類(B)
本発明で用いられる多官能オレフィン類(B)は、特に限定されず、従来公知の炭素−炭素2重結合に係わる官能基を有する化合物を適宜用いることができる。炭素−炭素2重結合に係わる官能基としては、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基などがあげられる。
【0038】
これらのうち、炭素−炭素2重結合を有する官能基とチオール基との反応より優先して、炭素−炭素2重結合を有する官能基同士が重合する不都合が起こらないよう、エン−チオール反応の反応性が高いもの、ラジカル重合性が低いものを用いることが好ましい。このような成分(B)として、アリル基を持つものや、ウレタンアクリレート類があげられる。
【0039】
アリル基を持つ化合物としては、アリル基を2個以上、好ましくは2〜3個以上有するものを、好適に使用できる。アリル基を2個有する化合物としては、例えば、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルナフタレート、ジアリルシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ビスフェノールAジアリルエーテル、ビスフェノールFジアリルエーテル、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ジフェン酸ジアリルなどがあげられる。アリル基を3個以上含有する化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、亜リン酸トリアリルなどがあげられる。これらの化合物は、いずれか単独で、または組み合わせて使用できる。これらの中でも、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジフェン酸ジアリル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルが特に好ましい。また、アリル基を2個以上有する化合物に、アリル基を1個有する化合物を、併用することができる。アリル基を1つ含有する化合物としては、例えば、モノアリルシアヌレート、モノアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、ビスフェノールAモノアリルエーテル、ビスフェノールFモノアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテルなどがあげられる。
【0040】
ウレタンアクリレート類としては、アクリロイル基又はメタクリロイル基を2個以上有する多官能ウレタンアクリレート類を、好適に使用できる。具体的には、例えば、ポリイソシアネート化合物と水酸基含有アクリレート化合物とを反応させて得られるもの、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び水酸基含有アクリレート化合物を反応させて得られるもの等が挙げられる。ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、カプロラクトンジオール等が挙げられる。ポリイソシアネート類としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフエニルメタン4,4−ジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。水酸基含有アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが挙げられる。これらの化合物は、いずれか単独で、または組み合わせて使用できる。
【0041】
多官能オレフィン類(B)としては、上記各種化合物を、いずれか単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
成分(B)の使用に際しては、[成分(B)に含まれる炭素−炭素2重結合のモル数]/[成分(B)のモル数](1分子あたりに含まれる炭素−炭素2重結合の平均個数を示す)が2以上であることが好ましい。2未満である場合、表面保護コーティング剤の硬化性が低くなり、かつ得られる硬化物の架橋密度が低くなるため、硬化物の表面硬度等の物性が低下する傾向がある。成分(B)として複数の種類を併用する場合、その平均として当該数値を満たせばよい。
【0043】
また、[成分(B)1分子に含まれるに含まれる炭素−炭素2重結合の数]/[成分(B)の分子量](炭素−炭素2重結合の濃度を示す)が大きい成分(B)を用いると、後述するtanδの温度を高くできる。また、当該数値が小さい成分を用いると、tanδの温度を低くできる。炭素−炭素2重結合以外の分子構造の影響もあるため一概には言えないが、tanδの温度を高くしたい場合には8ミリモル/g以上に、tanδの温度を低くしたい場合には4ミリモル/g以下にすればよい。成分(B)として複数の種類を併用することで、当該数値の調整が容易となる。
【0044】
有機多官能チオール化合物(C)
本発明で用いられる有機多官能チオール化合物(C)は、特に限定されず、従来公知のチオール基を有する化合物を適宜用いることができる。具体的には、1級のチオール基を持つものとしては、例えば、メチル−3−メルカプトプロピオネート、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、メトキシブチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパン
トリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトール
テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコール
ビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトール
ヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)のような脂肪族エステル系のチオール類や、エタンチオール、1,2−エタンジチオール、プロパンチオール、1,3−プロパンジチオール、ブタンチオール、1,4−ブタンジチオール、ヘキサンチオール、1,6−へキサンジチオール、オクタンチオール、1,8−オクタンジチオール、シクロヘキサンチオール、1,2−シクロヘキサンジチオールなどがあげられる。また、2級のチオール基を持つものとしては、例えば、ペンタエリスリトール
テトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンのような脂肪族エステル系のチオール類や、2,3−ブタンジチオール、2−ブタンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、シクロペンタンチオール、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンなどが挙げられる。成分(C)は、いずれか単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、分子中に1つのチオール基のみを有する化合物では分子間の架橋が起こらないため、硬化物の耐熱性、表面硬度等の物性についての改善効果も不充分となる傾向がある。このため、分子中に2以上のチオール基を有する化合物が好ましく、特に脂肪族エステル系のチオール類化合物は各種構造のものが市販されており、入手が容易である、特有の臭気が少ない、あるいは一般に液状のため、配合が容易であることから好ましい。なお、本発明において二級チオール基とはHS−CHXY(式中、X、YはH以外の官能基を表す。)で表される官能基のことをいう。
【0045】
本発明の表面保護コーティング剤は、前述した縮合物(A)及び多官能オレフィン類(B)を必須成分として含有し、必要に応じて有機多官能チオール化合物(C)を含有する。
【0046】
各成分の使用量は、得られる硬化物の特性に合わせて調整する必要がある。具体的には、動的粘弾性測定を10Hzで行った際に、tanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内にする必要がある。動的粘弾性測定は、JIS K 7244−4に準拠して行えばよい。当該温度が25℃未満の場合、得られる硬化物の表面硬度が低くなりすぎ、低い応力に対しても破壊が発生して永久的なキズが発生しやすい傾向がある。また当該温度が60℃を超える場合、表面硬度が高くなりすぎるために応力が緩和されず、破壊が起こって永久的なキズが発生しやすくなる傾向がある。当該温度範囲内であれば、一般に、温度が低い程自己修復性が高くなり、温度が高い程表面硬度が高くなる傾向がある。自己修復性の発現のためには、弾性的性質を示す構造と粘性的性質を示す構造とが混在していると良いとされている。その理由は明確ではないものの、縮合物(A)を含有し、かつ、tanδが最大となる温度が25〜60℃の範囲内である場合、前述の混在構造をとりやすいものと推測される。
【0047】
また、本発明の表面保護コーティング用組成物の各成分の含有量の内、塗膜の耐ブロッキング性、耐熱黄変性及び自己修復性を、いずれもバランスよく優れたものとする観点から、縮合物(A)の含有量が重要である。即ち、縮合物(A)及び多官能オレフィン類(B)の合計100重量%に基づいて、又は、縮合物(A)、多官能オレフィン類(B)および有機多官能チオール化合物(C)の合計100重量%に基づいて、縮合物(A)の含有量が、5〜75重量%程度であることが、塗膜の耐ブロッキング性、耐熱黄変性及び自己修復性が、いずれも優れることから好ましい。縮合物(A)の含有量が、5重量%未満程度である場合には、耐ブロッキング性及び耐熱黄変性が低下する傾向がある。また、75重量%程度を超える場合には、自己修復性が発現し難くなる傾向がある。
【0048】
縮合物(A)の含有量に関して、縮合物(A)の含有量が多くなると、tanδが最大となる温度が高くなる傾向がある。このような場合、前述のとおり、成分(B)中の炭素−炭素2重結合の濃度が低いものを用いることで当該温度を低くすることができる。一方、縮合物(A)の含有量が少ない場合には、tanδが最大となる温度が低くなる傾向がある。このような場合、前述のとおり、成分(B)中の炭素−炭素2重結合の濃度が高いものを用いることで当該温度を低くすることができる。一方、縮合物(A)の使用割合が多くなると、tanδが最大となる温度が低くなっても良好な表面硬度を発現できる傾向がある。従って、具体的な配合量は、成分(A)、(B)及び(C)の種類に依存するものではあるが、当該温度はより低く、成分(A)の配合量はより多くすることが好ましい。
【0049】
更に、各成分の使用量は、[(成分(B)中に含まれる2重結合の数)]/[(成分(A)中に含まれるチオール基の数)]が0.8〜1.2程度となるように調整する必要があり、0.9〜1.1とすることが好ましい。また、成分(C)を用いる場合には、[(成分(B)中に含まれる2重結合の数)]/[(成分(A)中に含まれるチオール基の数)+(成分(C)中に含まれるチオール基の数)]が0.8〜1.2となるように調整する必要があり、0.9〜1.1とすることが好ましい。当該値が0.9未満であると、チオール基が残存し、その分解によって悪臭を発生させる場合があり、1.1を超えると、硬化後に2重結合が残存し、耐熱黄変性が低下する傾向がある。
【0050】
本発明の表面保護コーティング用組成物には、必要に応じて重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、特に限定されず、従来公知の光カチオン開始剤、光ラジカル開始剤などを任意に選択できる。光カチオン開始剤としては、活性エネルギー線の照射により酸を発生する化合物であるスルホニウム塩、ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾイントシレート等があげられ、それらの市販品としては、例えば、サイラキュアUVI−6970、同UVI−6974、同UVI−6990(いずれも米国ユニオンカーバイド社製商品名)、イルガキュア264(チバスペシャルティケミカルズ社製)、CIT−1682(日本曹達(株)製)などがある。光カチオン重合開始剤の使用量は、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常2重量%程度以下であるのが好ましく、0.01〜0.5重量%程度であるのがより好ましい。光ラジカル開始剤としては、例えば、ダロキュア1173、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(いずれもチバ・ジャパン社製 商品名)、ベンゾフェノン等があげられ、その使用量は、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常2重量%程度以下であるのが好ましく、0.01〜0.5重量%程度であるのがより好ましい。なお、得られる硬化物の耐候性低下が懸念される場合、特に高い耐候性、透明性が求められる光学部材などに用いられる場合には、光反応開始剤や光増感剤を使用しない方がよい。
【0051】
また、表面保護コーティング用組成物の安定性をより向上させるため、エン−チオール反応を抑制する化合物を配合できる。このような化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等のリン系化合物;p−メトキシフェノ−ル、ハイドロキノン、ピロガロ−ル、ナフチルアミン、tert−ブチルカテコ−ル、塩化第一銅、2,6ージ−tert−ブチル−p−クレゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノ−ル)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノ−ル)、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、ジフェニルニトロソアミン等のラジカル重合禁止剤;ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール、ジアザビシクロウンデセン等の3級アミン類;2-メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2-エチルへキシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダール等のイミダゾール類があげられる。
【0052】
リン系化合物のうち、亜リン酸トリフェニルはエン−チオール反応の抑制効果が高く、かつ室温で液状であり取り扱いが容易であるため好ましい。表面保護コーティング用組成物に配合する該化合物の量は、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常、0.1〜10重量%程度であるのが好ましい。0.1重量%に満たない場合は、エン−チオール反応を抑制する効果が不足し、また10重量%を超える場合は、得られる硬化物中の残存量が多くなり硬化物の物性が低下する傾向がある。
【0053】
ラジカル重合禁止剤のうち、ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩は少量でもエン−チオール反応の抑制効果が高く、かつ得られる硬化物の色調に優れるため好ましい。表面保護コーティング剤に配合する該化合物の量は、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常、0.0001〜0.1重量%程度であるのが好ましい。0.0001重量%に満たない場合は、エン−チオール反応を抑制する効果が不足し、また0.1重量%を超える場合は、活性エネルギー線硬化性が低下する傾向がある。
【0054】
3級アミン類のうち、ベンジルジメチルアミンは少量でもエン−チオール反応の抑制効果が高く、かつ室温で液状であり取り扱いが容易であるため好ましい。表面保護コーティング剤に配合する該化合物の量は、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常、0.001〜5重量%程度であるのが好ましい。0.001重量%に満たない場合は、エン−チオール反応を抑制する効果が不足する場合があり、また5重量%を超える場合は、成分(A)中の未反応の水酸基およびアルコキシ基が縮合反応してゲル化する傾向がある。
【0055】
また、本発明の表面保護コーティング用組成物には、必要に応じて溶剤を配合することができる。溶剤としては、従来公知のものを任意に用いることができるが、活性エネルギー線硬化前に揮発させやすいよう、揮発しやすいものを用いることが好ましい。
【0056】
また、本発明の表面保護コーティング用組成物は、さらに別の態様として、成分(a1)および任意成分(a2)をギ酸の存在下に加水分解した後、溶剤ならびに成分(B)および/または成分(C)の存在下に縮合反応させても得られる。反応温度、反応時間、溶剤種などの条件は、いずれも前記成分(A)における場合と同様である。
【0057】
さらに、本発明で用いる表面保護コーティング用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種用途での必要性に応じて、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、フィラー等を配合してもよい。
【0058】
このようにして得られた表面保護コーティング用組成物は、活性エネルギー線の照射および/または加熱により硬化させることができる。当該表面保護コーティング用組成物は、本発明の表面が保護された基材の表面保護コーティング層となる。
【0059】
本発明の表面が保護された基材は、基材上に本発明の表面保護コーティング用組成物を塗布後、硬化させることにより得られる。
【0060】
本発明の表面保護コーティング用組成物を適用できる基材としては、例えば、ガラス、シリコンなどの無機材料;アルミニウム、ステンレス、銅等の金属材料;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリノルボルネン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂等の樹脂材料;紙等の各種材料から得られる種々の形態の基材を挙げることができる。これらの基材の表面を酸化処理、酸処理、プラズマ処理、放電処理などで処理して表面保護コーティング用組成物の付着性を向上させてもよい。表面保護コーティング用組成物を適用する基材が、フィルム、シート、ボード等の板状の基板である場合、該組成物は通常その基板の表面にあるため、基板の厚さは任意に設定できる。また、表面保護コーティング用組成物と基板との間には、光反応には関与しない樹脂層等の中間層を設けてもよい。中間層としては、ガラス、金属シリコン、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が好ましい。なお、基材としては、フィルム、シート等の基板であることが、表面保護コーティング用組成物の塗布が容易になるため好ましい。
【0061】
活性エネルギー線の照射量は特に限定されず、表面保護コーティング剤で用いる化合物の種類、膜厚等に応じて適宜決定すればよいが、紫外線の場合には、たとえば、積算光量が50〜10000mJ/cm
2程度となるよう照射すればよい。また、厚膜でコーティングや充填を行った場合には、前述のように該組成物に光反応開始剤や光増感剤を添加することにより、光硬化性を向上させることが好ましい。
【0062】
硬化に用いる活性エネルギー線としては、高エネルギー電離放射線および紫外線が挙げられる。高エネルギー電離放射線源としては、例えば、コッククロフト型加速器、ハンデグラーフ型加速器、リニアアクセラレーター、ベータトロン、サイクロトロン等の加速器によって加速された電子線が工業的に最も便利且つ経済的に使用されるが、その他に放射性同位元素や原子炉等から放射されるγ線、X線、α線、中性子線、陽子線等の放射線も使用できる。紫外線源としては、例えば、紫外線螢光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、炭素アーク灯、太陽灯等が挙げられる。活性エネルギー線の照射時間は特に限定されず、公知の条件を採用することができる。表面保護コーティング用組成物が、溶剤を含有する場合には、通常、溶剤を揮発させた後に活性エネルギー線照射を行う。溶剤の揮発方法は溶剤の種類、量、膜厚等に応じて適宜決定すればよいが、40〜150℃程度、好ましくは60〜100℃程度に加熱し、常圧または減圧下で5秒〜2時間程度の条件とされる。
【0063】
また、本発明の表面保護コーティング用組成物を、各種基材に、塗装後、加熱硬化することもできる。加熱硬化する場合は、通常、60〜150℃程度で、3〜120分程度加熱することによって、硬化塗膜を形成することができる。加熱硬化を行う際には、有機過酸化物、アゾ化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アセトフェノン化合物等の熱重合開始剤を用いることもできる。これら触媒を用いる場合には、表面保護コーティング用組成物100重量%に基づいて、通常2重量%程度以下であるのが好ましく、0.01〜0.5重量%程度であるのがより好ましい。
【0064】
かくして、本発明の表面保護コーティング用組成物を、各種基材に、塗装し、活性エネルギー線硬化又は加熱硬化することによって、表面保護層が形成された基材を、容易に作製することができる。この場合、本発明組成物に基づく硬化塗膜の膜厚は、特に限定されないが、通常、5〜200μm程度とするのがよい。
【実施例】
【0065】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明について具体的に説明する。但し、本発明は、これらの各例によって限定されるものではない。尚、各例において、部及び%はいずれも重量基準である。
【0066】
製造例1(縮合物(A−1)の製造)
攪拌機、冷却管、分水器、温度計及び窒素吹き込み口を備えた反応装置に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:商品名「KBM−803」)500部、メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製「メチルトリメトキシシラン」)69.4部([成分(a1)に含まれるチオール基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=0.83、[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=3)、イオン交換水165部([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)=1.0)、95%ギ酸11.4部を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって最大30℃温度上昇した。反応後、トルエン712部を仕込み、加熱した。71℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールと、トルエンの一部が留去され始めた。2時間かけて75℃まで昇温し、縮合反応させて水を留去した。さらに1時間、75℃で反応させた後、70℃、20kPaで減圧して、残存するトルエンの一部、メタノール、水、ギ酸を留去した。さらに70℃、1kPaで減圧してトルエンを留去することで、縮合物(A−1)を377部得た。[未反応の水酸基およびアルコキシ基のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)は0.10、濃度は98.0%であった。また縮合物(A−1)のチオール基の濃度は、6.44ミリモル/gであった。
【0067】
製造例2(縮合物(A−2)の製造)
製造例1と同様の反応装置に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン500部、イオン交換水138部([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)=1.0)、95%ギ酸10.0部を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって最大19℃温度上昇した。反応後、トルエン625部を仕込み、加熱した。72℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールとトルエンの一部が留去され始めた。1時間かけて75℃まで昇温し、縮合反応させて水を留去した。さらに1時間、75℃で反応させた後、70℃、20kPaで減圧して、残存するトルエンの一部、メタノール、水、ギ酸を留去した。さらに70℃、1kPaで減圧してトルエンを留去することで、縮合物(A−2)を341部得た。[未反応の水酸基およびアルコキシ基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)は0.12、濃度は99.1%であった。また縮合物(A−2)のチオール基の濃度は、7.47ミリモル/gであった。
【0068】
製造例3(縮合物(A−3)の製造)
製造例1と同様の反応装置に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン500部、メチルトリメトキシシラン173部([成分(a1)に含まれるチオール基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=0.67、[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=3)、イオン交換水206部([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)=1.0)、95%ギ酸13.5部を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって最大37℃温度上昇した。反応後、トルエン842部を仕込み、加熱した。71℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールとトルエンの一部が留去され始めた。1時間かけて75℃まで昇温し、縮合反応させて水を留去した。さらに1時間、75℃で反応させた後、70℃、20kPaで減圧して、残存するトルエンの一部、メタノール、水、ギ酸を留去した。さらに70℃、0.7kPaで減圧してトルエンを留去することで、縮合物(A−3)を599部得た。[未反応の水酸基およびアルコキシ基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)は0.11、濃度は98.9%であった。また、縮合物(A−3)のチオール基の濃度は、4.25ミリモル/gであった。
【0069】
製造例4(縮合物(A−4)の製造)
製造例1と同様の反応装置に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン500部、メチルトリメトキシシラン69.4部([成分(a1)に含まれるチオール基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=0.83、[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数]=3)、イオン交換水248部([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)=1.5)、95%ギ酸11.4部を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって最大27℃温度上昇した。反応後、トルエン712部を仕込み、加熱した。71℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールと、トルエンの一部が留去され始めた。2時間かけて75℃まで昇温し、縮合反応させて水を留去した。さらに1時間、75℃で反応させた後、70℃、20kPaで減圧して、残存するトルエンの一部、メタノール、水、ギ酸を留去した。さらに70℃、1kPaで減圧してトルエンを留去することで、縮合物(A−4)を374部得た。[未反応の水酸基およびアルコキシ基のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)は0.04、濃度は99.1%であった。また縮合物(A−4)のチオール基の濃度は、6.50ミリモル/gであった。
【0070】
実施例1〜10(表面保護コーティング用組成物の調製)
製造例1で得られた縮合物(A−1)4.90部に対し、成分(B)としてジフェン酸ジアリル(以下DAD、日本蒸溜工業(株)製:商品名「DAD」、炭素−炭素二重結合の濃度は6.21ミリモル/g)5.10部([成分(B)に含まれる炭素−炭素2重結合のモル数]/[成分(A)に含まれるチオール基のモル数](モル比)=1.00)、光硬化用触媒としてヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ジャパン(株):商品名「イルガキュア184」、以下、Irg184という)0.05部を配合し表面保護コーティング用組成物(D−1)とした。同様に、製造例1〜4で得られた縮合物(A−1〜4)を用い、表1に従って表面保護コーティング用組成物(D−2〜10)とした。表1中、550B:3官能ウレタンアクリレート(荒川化学工業(株)製:商品名「ビームセット550B」、炭素−炭素二重結合の濃度は2.25ミリモル/g、TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製:商品名「タイク」)、炭素−炭素二重結合の濃度は12.0ミリモル/g、TMMP:トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(以下TMMP、SC有機化学(株)製:商品名(TMMP)、チオール基の濃度は7.52ミリモル/g)である。
【0071】
比較例1〜4(表面保護コーティング用組成物の調製)
製造例1で得られた縮合物(A−3)6.51部に対し、成分(B)としてTAIC 3.49部([成分(B)に含まれる炭素−炭素2重結合のモル数]/[成分(A)に含まれるチオール基のモル数](モル比)=1.00)、Irg184 0.05部を配合し表面保護コーティング用組成物(d−1)とした。同様に、表1に従って表面保護コーティング用組成物(d−2〜4)とした。
【0072】
表1に、各実施例及び各比較例の表面保護コーティング用組成物の成分配合を示した。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例11〜20及び比較例5〜8(積層体の調製)
表面保護コーティング用組成物(D−1)をガラス基板上に硬化膜厚が100μmとなるようコーティングし、紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製:商品名「UV−152」)を用いて365nmの検出器で積算光量が500mJ/cm
2となるよう紫外線を照射することで、表面保護層が形成された積層体(E−1)を得た。同様にして、実施例2〜10の表面保護コーティング用組成物(D−2〜10)を用いて、表面保護層が形成された積層体(E−2〜10)を、比較1〜4の表面保護コーティング用組成物(d−1〜4)を用いて、表面保護層が形成された積層体(e−1〜4)を、それぞれ得た。
【0075】
自己修復性の評価
実施例11で得られた積層体(E−1)の塗膜面に対し、温度23℃の環境下で真鍮製のワイヤーブラシ(TIGER チャンネルブラシ真鍮線ST #147)に100gの荷重をかけながら10往復こすりつけ、塗膜面のキズの自己修復性を以下の基準で判定した。結果を表2に示す。同様に、実施例12〜20で得られた積層体(E−2〜10)、比較例4〜6で得られた積層体(e−1〜4)でも評価を行った。結果を表2に示す。
○:23℃の環境で、5分以内にキズが消失した。
△:60℃に設定した循風乾燥機中で、10秒以内にキズが消失した。
×:60℃に設定した循風乾燥機中で、キズの消失に15秒以上かかる、もしくは消失しない。
【0076】
表面硬度の評価
実施例11で得られた積層体(E−1)の塗膜面に対し、JIS K5600に準拠し、荷重250gにおいて、塗膜が破壊されて修復されなくなる鉛筆の硬度を求めた。結果を表2に示す。同様に、実施例12〜20で得られた積層体(E−2〜10)、比較例1〜4で得られた積層体(e−1〜4)でも評価を行った。評価は2Bから8Hの鉛筆(三菱鉛筆(株)製:商品名「ユニ」)を用いて、下記基準で行った。
2B〜8H:2B〜8Hで破壊されることを示す。
>8H:8Hでも破壊されないことを示す。
【0077】
動的粘弾性の測定
表面保護コーティング用組成物(D−1)をアルミカップに膜厚80μmとなるよう流し込み、紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製:商品名「UV−152」)を用いて365nmの検出器で積算光量が350mJ/cm
2となるよう紫外線を照射し、硬化物を得た。同様に、表面保護コーティング用組成物(D−2〜10)及び(d−1〜4)を用い、硬化物を得た。得られた硬化物をそれぞれ5mm×30mmにカットし、粘弾性測定器(セイコーインスツル(株)製、商品名「DMS6100」、測定条件:振動数10Hz、スロープ3℃/分)を用いてtanδを測定し、評価した。測定結果を表2に示す。
【0078】
硬化膜の耐熱性
実施例11で得られた積層体(E−1)を180℃で2時間加熱し、加熱後の塗膜の着色の程度を目視評価した。評価基準は次の通りである。同様に、実施例12〜20で得られた積層体(E−2〜10)、比較例5〜8で得られた積層体(e−1〜4)でも評価を行った。結果を表2に示す。
◎:ほとんど着色なし。
○:わずかに着色。
△:少し着色あり(やや黄色)。
×:濃い着色あり(黄色〜茶色)。
【0079】
耐ブロッキング性の評価
実施例10で得られた積層体(E−1)を5cm×5cmに切断し、その塗膜面に対してPETフィルムを重ね、50℃下で1kgの荷重を1分間掛けた。その後、重ねたPETフィルムをはがして塗膜面を観察した。評価基準は次の通りである。同様に、実施例12〜20で得られた積層体(E−2〜10)、比較例5〜8で得られた積層体(e−1〜4)でも評価を行った。結果を表2に示す。
○:跡が残らない。
△:はがす際にタックがあり、部分的に跡が残る。
×:強いタックがあり、全面的に跡が残る。
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果により、tanδが最大となる時の温度が25〜60℃の範囲内であって、縮合物(A)を含む各実施例は、良好な表面硬度と自己修復性が両立された上、耐熱黄変性、耐ブロッキング性に優れるものとなっていたことが明らかである。特に縮合物(A)の含有量の多い実施例11〜15の硬化物は、より耐熱黄変性に優れていた。一方、比較例6及び7の硬化物は縮合物(A)を含まないため、表面硬度、耐熱黄変性、耐ブロッキング性に劣るものであった。比較例5及び8の硬化物は、tanδが最大となる時の温度が60℃を超えるため、十分な自己修復性を示さないものであった。また比較例7の硬化物は、tanδが最大となる時の温度が25℃未満のため、表面が破壊されるために自己修復性を示さないものであった。
【0082】
表面観察
原子間力顕微鏡(AFM)の位相モードによって、相対的な表面硬度の分布を微小領域で観察することができる。AFMの観察には島津製作所製SPM-9600を用い、Tappingモードにて測定を行った。プローブには東陽テクニカ社のSSS−NCH-10を用いた。
【0083】
図1に実施例16で得られた積層体(E−6)の塗膜面のAFM位相像の写真を示した。また、
図2に、比較例8で得られた積層体(e―4)の塗膜面のAFM位相像の写真を示した。積層体(E−6)の場合では、
図1から明部および暗部の各領域が10〜数十nm程度のスケールでドメインを形成していることがわかった。ここでは、明部は相対的に柔らかい部分、暗部は相対的に硬い部分に対応している。このことから、柔らかい成分が豊富な領域(明部)と、縮合物(A)由来と思われる硬い成分の豊富な領域(暗部)とが上記の長さスケールで表面に混在していると考えられる。硬い領域と負荷を緩和できる柔らかい領域とが適度な長さスケールでドメインを形成することにより、自己修復性が得られたものと推測される。これに対し、積層体(e―4)の場合では、明暗のコントラストが小さく、明部および暗部の領域が積層体(E−6)に比べて、それぞれ緻密化していることがわかった。これは塗膜表面で各成分が分子レベルでより均一に相溶化していることを示唆している。そのため、力学的負荷に対する緩和の効果が得られにくいため自己修復性が得られなかったと推測される。