【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはかかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた。
本発明者らは、pHセンサアレイを構成するpHセンサ(素子)はその特性に必ず「バラツキ」が生じていること、相互に近傍に位置する素子に接触する試料pHの値はほぼ等しいこと、及び試料は医療・生化学分野などで扱う試料は導電性であるのでその電位は一定であること、を前提とすれば、複数の素子の出力から試料の電位を正確に特定できると考えた。
【0007】
pHセンサアレイを構成する素子iを試料に接触させた際、素子iの出力Voiは、下記式(1)のように表わされる。
Voi=Si×pHi+Gi×Vrm+Ci 式(1)
ここに、素子iに接する試料のpHをpHi、電位をVrmとし、SiとGiは、素子iの出力Voiに対するpHiとVrmの感応係数で、Ciは定数である。
式(1)において、右辺第2項は試料の電位が揺らぐことに起因しており、ガラス参照電極を試料に接触させるときは試料の電位が安定するので、この第2項は定数として扱われる。換言すれば、参照電極として、ガラス参照電極を用いないときには、電位の揺らぎを考慮して右辺第2項を規定する必要がある。しかしながら、この電位を演算で特定できれば、ガラス参照電極を用いたときと同様に第2項を定数として扱うことができる。
【0008】
上記式(1)において、素子iを標準液に接触させて素子iの出力Voiを測定し、その測定結果から感応係数SiとGiと定数Ciを特定する。
次に、pHセンサアレイにおいて、相互に近傍に位置する2個の素子i1と素子i2を選択する。
センサアレイを試料に接触させて第1素子i1の出力Voi1と第2素子i2の出力Voi2を測定する。この2個の素子の出力は、
Voi1=Si1×pHi1+Gi1×Vrm+Ci1 式(2)
Voi2=Si2×pHi2+Gi2×Vrm+Ci2 式(3)
と表される。
該第1素子i1及び第2素子i2が接触する試料の各pHi1及びpHi2は等しいものとすると、試料の電位Vrmは、
Vrm={((Voi1−Ci1)/Si1)−((Voi2−Ci2)/Si2)}/(Gi1/Si1−Gi2/Si2) 式(4)
と表される。
そこで、第1素子i1及び第2素子i2の出力Voi1、Voi2、感応係数Si1、Si2、Gi1及びGi2並びに定数Ci1及びCi2を式(4)に代入することにより試料の電位Vrmを特定する。
このように特定された電位Vrm、素子iの出力Voi、並びに感応係数Si、Gi及び定数Ciより、素子iが接する試料のpHiは、
pHi=(Voi−Gi×Vrm−Ci)/Si 式(5)
と表される。
そして、このようにして得られた各素子iが接触する試料のpHiを、各素子iの位置に対応して表示させることで、センサアレイが接する試料のpH分布を表示できる。
【0009】
以上の原理に基づき、本発明の第1の局面は次のように規定される。
pHセンサアレイを構成する素子iの出力Voiより該素子iが接触する試料のpHを特定する方法であって、
前記素子iの出力Voiを次のように規定し、
Voi=Si×pHi+Gi×Vrm+Ci 式(1)
(ここに、前記素子iに接する前記試料のpHをpHi、電位をVrmとし、SiとGiは感応係数でCiは定数とする)
前記センサアレイを標準液に接触させて前記素子iの出力Voiから前記素子i固有の感応係数Si、Gi及び定数Ciを特定する検定ステップと、
前記センサアレイにおいて相互に近傍に位置する第1素子i1と第2素子i2を選択し、前記センサアレイを前記試料に接触させて前記第1素子i1の出力Voi1と前記第2素子i2の出力Voi2を測定する第1の測定ステップと、
該第1素子i1及び第2素子i2が接触する前記試料の各pHi1及びpHi2は等しいものとして、前記第1の測定ステップで測定された前記第1素子i1及び第2素子i2の出力Voi1、Voi2、並びに前記検定ステップで特定された前記第1素子i1及び第2素子i2に関する感応係数Si1、Si2、Gi1、Gi2及び定数Ci1、Ci2から前記試料の電位Vrmを特定する電位特定ステップと、
前記センサアレイを前記試料に接触させて前記素子iの出力Voiを測定する主測定ステップと、
前記電位特定ステップで特定された電位Vrm、前記主測定ステップで測定された前記素子iの出力Voi並びに前記検定ステップで特定された感応係数Si、Gi及び定数Ciから前記素子iに接する試料のpHiを求めるpH特定ステップと、
を含む試料のpHを特定する方法。
【0010】
このように規定される本発明の第1の局面の試料のpHを特定する方法によれば、試料を測定する都度、試料の電位Vrmを特定し、特定された電位Vrmを用いてpHを演算する。従って、試料の電位に揺らぎが生じても、pHを正確に特定可能となる。これにより、試料に接触させる参照電極としてガラス参照電極以外のもの(Pt参照電極やAg/AgCl参照電極等の非ガラス参照電極)を採用可能となる。
【0011】
上記において、試料は導電性であればよく、溶液タイプの他、ゾル、ゲルその他の固体をpH特定対象とすることができる。
標準液はpHが常に一定である汎用的な標準溶液を用いることができる。
pHセンサアレイを構成する素子i(pHセンサ)の構造は特に限定されるものではないが、高密度及び高い感度を達成する見地から、特許文献に1に示す電荷蓄積型のpHセンサを用いることが好ましい。
【0012】
上記において、下記式(1)
Voi=Si×pHi+Gi×Vrm+Ci
の感応係数Si、Gi及び定数Ciを定めるには、Voi、pHi及びVrmを変数とする三元一次方程式を解けばよいことは明らかである。
そのため、例えば、第1のpHを示す第1の標準液に素子iを接触させて、第1の標準液の電位を変えて素子iの出力Voiを測定し、各電位と各電位について得られた素子iの出力Voiとから感応係数Giを求める。次に、
第2のpH(第1のpHと異なる)を示す第2の標準液を用意し、同じ電位とされた第1及び第2の標準液に素子iを接触させて、該各標準液について素子iの出力Voiを測定する。そして、上記で特定された感応係数Gi、該各標準液のpH及び素子iの出力Voiから感応係数Siを求める。
次に、既知のpHの標準液(例えば第1の標準液)を所定の電位にして得られた出力Voi、並びに上記で求められた感応係数Si及びGiより、定数Ciが求められる。
【0013】
このようにして、素子iの感応係数Si及びGi並びに定数Ciを特定した後、これら感応係数Si及びGi並びに定数Ciが所定値以上異なり、かつ相互に近傍に位置する複数の素子(第1素子i1、第2素子i2)を選択する。電位特定ステップにおいて電位Vrmを特定する際、選択された複数の素子の感応係数Si及びGi並びに定数Ciが微差であると、選択された素子の出力も微差となり、電位Vrmを求める演算に誤差が入りやすくなるためである。
第1素子il及び第2素子i2は次のようにして選択できる。
センサアレイにおいて近傍に位置する一対の素子iの組合せとその組合せにおける感応係数Si及びGi並びに定数Ciの差の一覧表を作成する。そして、感応係数Si及びGi並びに定数Ciの各差に所定の重み付けをして、当該差の和が最も大きくなる素子の組合せを採用する。
なお、異常な素子を排除するため、感応係数Si及びGi並びに定数Ciの差がそれぞれ所定値を超えて大きくなる素子の組合せは排除する。
【0014】
第1素子i1と第2素子i2の出力Voi1とVoi2は次のように表わされる。
Voi1=Si1×pHi1+Gi1×Vrm+Ci1 式(2)
Voi2=Si2×pHi2+Gi2×Vrm+Ci2 式(3)
ここに、試料の電位が揺れていたとしても、ある時刻において試料は全域で同電位であるので、右辺第2項のVrmは同じ値である。
また、相互に近傍に位置する第1素子と第2素子が接触する試料のpHは、事実上は異なる場合もあるが、pHセンサの感度からみると、実質的に等しいと仮定する。従って、式(1)において、pHi1=pHi2となる。
これにより、第1素子i1と第2素子i2の出力Voi1とVoi2を得た時刻の試料の電位Vrmは
Vrm={((Voi1−Ci1)/Si1)−((Voi2−Ci2)/Si2)}/(Gi1/Si1−Gi2/Si2) 式(4)
と表される。
【0015】
第1素子i1と第2素子i2の出力Voi1とVoi2を得た時刻において全ての素子iにつきその出力Voiを測定し、保存しておく。
上記で説明したように、測定時の試料の電位Vrmが特定されたので、その結果、各素子iが接触する試料のpHiは下記式(5)より求められる。
pHi=(Voi−Gi×Vrm−Ci)/Si 式(5)
該式(5)において、Voiは測定結果、感応係数Gi及びSi並びに定数Ciは既知、Vrmは上記で特定された値である。
【0016】
試料の電位Vrmの揺れを考慮すれば、全ての素子iの出力を同時刻に測定して上記の処理を実行することが好ましい。
ただし、ガラス参照電極以外の参照電極であっても、短時間であれば試料の電位は殆ど変化しないとみなせるので、試料の電位Vrmを特定するステップを予め実行し、その後全ての素子iの出力を測定して、そのpHを演算してもよい。
【0017】
上記の説明は、水素イオン濃度指数pHを特定するものであるが、素子iの出力が他のイオン濃度に対応するものであれば、同じ原理でそのイオン濃度を特定できることは、当業者であれば容易に理解できる。