特許第6245621号(P6245621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6245621
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/16 20120101AFI20171204BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20171204BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20171204BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20171204BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20171204BHJP
   B60W 40/076 20120101ALI20171204BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20171204BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20171204BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20171204BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20171204BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20171204BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20171204BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20171204BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   B60W30/16
   B60W30/182
   B60W10/00 102
   B60W10/02
   B60W10/06
   B60W40/076
   F02D45/00 364M
   F02D29/02 301C
   F16D48/02 640H
   F16H59/14
   F16H59/74
   F16H61/02
   F16H63/50
   F16H59/66
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-540156(P2016-540156)
(86)(22)【出願日】2015年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2015071189
(87)【国際公開番号】WO2016021431
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2016年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-161591(P2014-161591)
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 義秋
(72)【発明者】
【氏名】堀 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 浩二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014205(JP,A)
【文献】 特開2011−183963(JP,A)
【文献】 特開2010−215171(JP,A)
【文献】 特開2010−280363(JP,A)
【文献】 特開2000−118264(JP,A)
【文献】 特開2012−047148(JP,A)
【文献】 特開昭61−287827(JP,A)
【文献】 特開2011−173475(JP,A)
【文献】 特開平08−295154(JP,A)
【文献】 特開2014−125026(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/021431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/16
B60W 10/02
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 30/182
B60W 40/076
F02D 29/02
F02D 45/00
F16D 48/02
F16H 59/14
F16H 59/66
F16H 59/74
F16H 61/02
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、燃料消費率が最も小さい第1の目標エンジントルクを算出する第1のトルク算出部と、
実車速が目標車速より小さい第1の下限車速になった場合、変速機構と差動機構との間に配置され、且つ、トルクコンバータの出力側に接続される変速機内のクラッチを締結させるとともに、前記第1のトルク算出部によって算出された前記第1の目標エンジントルクでエンジンを稼働させ、実車速が前記目標車速より大きい第1の上限車速になった場合、前記エンジンを停止させるともに、前記クラッチを解放させる第1の車速制御部と、
を備え、
前記第1の目標エンジントルクは、セーリングストップとクルーズ制御を組み合わせて走行するセーリングクルーズの実行条件を満たしていない場合、燃料消費率より目標車速達成度を優先するクルーズ制御の許容加速範囲からのトルク範囲において許容上限加速度に基づき設定した運転点のトルクであり、セーリングクルーズの実行条件を満たしている場合、目標車速達成度より燃料消費率を優先するセーリングクルーズ制御の許容加速範囲からのトルク範囲において燃料消費率に基づき設定した最も燃料消費率が小さい運転点のトルクであり、
前記第1の上限車速は、
前記変速機が変速比を変化させずに前記目標車速から到達しうる実車速の最大値であり、
前記第1の下限車速は、
前記変速機が変速比を変化させずに前記目標車速から到達しうる実車速の最小値である
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記第1のトルク算出部は、
所定の加速度範囲に対応するトルク範囲のうち、前記燃料消費率が最も小さい前記第1の目標エンジントルクを算出する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置であって、
前記所定の加速度範囲は、
車両の運転状態に応じて許容される加速度の範囲を示す許容加速範囲である
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記第1のトルク算出部は、
等燃費線に基づいて、前記第1の目標エンジントルクを算出する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
路面が下り坂であるか否かを判定する勾配判定部をさらに備え、
前記第1の車速制御部は、
前記エンジンを停止させるともに、前記クラッチを解放させた後、路面が下り坂であると判定された場合、実車速と前記目標車速との差分に応じた締結度で前記クラッチを締結させる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、前記第1の目標エンジントルクより大きい第2の目標エンジントルクを算出する第2のトルク算出部と、
実車速が前記第1の下限車速より大きく前記目標車速より小さい第2の下限車速になった場合、前記クラッチを締結させるとともに、前記第2のトルク算出部によって算出された前記第2の目標エンジントルクでエンジンを稼働させ、実車速が前記目標車速より大きく前記第1の上限車速より小さい第2の上限車速になった場合、前記エンジンを停止させるともに、前記クラッチを解放させる第2の車速制御部と、
第1のモードと第2のモードを切り替えるスイッチをさらに備え、
前記第1のトルク算出部及び前記第1の車速制御部は、
前記第1のモードが選択された場合に作動し、
前記第2のトルク算出部及び前記第2の車速制御部は、
前記第2のモードが選択された場合に作動する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両において惰行による走行時間や走行距離を長く確保できる車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、「車両の制御装置は、車両の車速Vが下限側車速V0および上限側車速V1で決定される車速域内にあるとき、車速Vが車速V0以上であればフューエルカットによりエンジンを停止させてクラッチを開放して惰行により車両を走行させ、車速Vが車速V0を下回ると燃料供給によりエンジンを始動させてクラッチを係合して加速させる(定速フリーラン)」ことが記載されている。
【0004】
また、車両を構成する構成要素毎に制御装置を設け、各制御装置の動作を上位の制御装置にて統合制御するシステムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2には、「マネージャECUが、エンジンECU及びATECUから送信されてくるエンジン及びAT(自動変速機)の特性情報を受信し、その特性情報に基づき制御指令を設定する。またエンジンECU、ATECUは、異なるチューニングパターンに対応した複数の制御則を備え、マネージャECUは、これらECUにて実現可能なチューニングパターンを取得し、車両の使用に対応して最適なチューニングパターンを選択する」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−47148号公報
【特許文献2】特開2002−81345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるような技術では、一般的に、ACC(Adaptive Cruise Control)の加速フェーズにおいて低燃費よりも目標車速にすぐに追従することを優先している。そのため、ACCにおいてエンジンの燃費を向上することはできなかった。
【0008】
一方、特許文献2のように各C/Uを構成する場合、例えば上位C/UをACC(Adaptive Cruise Control) C/Uとして、エンジンC/U、変速機C/Uを下位C/Uとして構成することが考えられる。前記構成とすることにより、ACC C/U130は、エンジンC/U、変速機C/Uの特性情報から、燃費を追及するためのベスト燃費点を目指して指令値を出力し、エンジンの燃費率や変速機の変速比を最良点として運転することが可能となる。
【0009】
しかし、特許文献2では燃費特性に基づき、どのようにエンジントルクを算出するかの開示は無い。
【0010】
本発明の目的は、ACCにおいてエンジンの燃費を向上することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、燃料消費率が最も小さい第1の目標エンジントルクを算出する第1のトルク算出部と、実車速が目標車速より小さい第1の下限車速になった場合、変速機構と差動機構との間に配置され、且つ、トルクコンバータの出力側に接続される変速機内のクラッチを締結させるとともに、前記第1のトルク算出部によって算出された前記第1の目標エンジントルクでエンジンを稼働させ、実車速が前記目標車速より大きい第1の上限車速になった場合、前記エンジンを停止させるともに、前記クラッチを解放させる第1の車速制御部と、を備え、前記第1の目標エンジントルクは、セーリングストップとクルーズ制御を組み合わせて走行するセーリングクルーズの実行条件を満たしていない場合、燃料消費率より目標車速達成度を優先するクルーズ制御の許容加速範囲からのトルク範囲において許容上限加速度に基づき設定した運転点のトルクであり、セーリングクルーズの実行条件を満たしている場合、目標車速達成度より燃料消費率を優先するセーリングクルーズ制御の許容加速範囲からのトルク範囲において燃料消費率に基づき設定した最も燃料消費率が小さい運転点のトルクであり、前記第1の上限車速は、前記変速機が変速比を変化させずに前記目標車速から到達しうる実車速の最大値であり、前記第1の下限車速は、前記変速機が変速比を変化させずに前記目標車速から到達しうる実車速の最小値であるようにしたものである。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ACCにおいてエンジンの燃費を向上することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による制御装置を含む車両の構成図である。
図2A】クルーズ走行した場合の燃料消費率と、セーリングクルーズした場合の燃料消費率を表した図である。
図2B】従来クルーズ制御とセーリングクルーズ制御による走行中の目標車速に対する実車速の変化を示した図である。
図3】セーリングクルーズ制御の動作イメージを示した図である。
図4】加速フェーズにおけるエンジンの運転領域を表す図である。
図5】セーリングクルーズ制御のフローチャートを表した図である。
図6】セーリングクルーズ制御を行うためのACC C/Uの構成例を表した図である。
図7】本発明の実施形態の変形例による車両の制御装置の機能を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1を用いて、車両100の構成を説明する。図1は、本発明の実施形態による制御装置を含む車両100の構成図である。
【0015】
車両100は、駆動力源としてエンジン101を有している。エンジン101の出力側にはトルクコンバータ111が設けられる。トルクコンバータ111の出力側には変速機113が接続されている。
【0016】
エンジン本体101(単に内燃機関、エンジンとも呼ぶ)には、始動を行う始動装置103、及び車両100へ電力を供給する発電装置104が備えられる。始動装置103は、例えば直流電動機と、歯車機構と、歯車の押し出し機構からなるスタータモータである。発電装置104は、例えば誘導発電機と、整流器と、電圧調整機構からなるオルタネータである。
【0017】
始動装置103は、電源105から供給される電力によって駆動され、始動要求に基づきエンジン101を始動する。電源105は、例えば電池であり、鉛バッテリを好適に用いることができる他、リチウムイオン二次電池を始め各種の二次電池、キャパシタなどの蓄電器を用いてもよい。電源105は、発電装置104によって発電された電力を蓄え、始動装置103や図示しない前照灯や各種コントローラなどの車両電装品へ電力を供給している。
【0018】
エンジン101の種類は、車両100を走行させる駆動力源であれば良く、ポート噴射式、または筒内噴射式のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等が挙げられる。また、エンジンの構造もレシプロエンジンの他、ヴァンケル式ロータリーエンジンであってもよい。
【0019】
エンジン101は、クランク軸101aを有する。クランク軸101aの一端には、クランク角信号を検出するために既定のパターンを刻んだ信号プレート101bが取り付けられている。クランク軸101aの他端には、トランスミッションへ駆動力を伝達する図示しないドライブプレートと一体のリングギヤが取り付けられている。
【0020】
前記信号プレート101bの近傍には、そのパターンの凸凹を検出してパルス信号を出力するクランク角センサ101cが取り付けられている。前記クランク角センサ101cから出力されるパルス信号に基づいて、エンジンC/U110はエンジン101の回転数(エンジン回転数)を算出する。
【0021】
また、エンジン101の吸気系部品として、吸入空気を各シリンダへ分配するインテークマニーホールド102、スロットルバルブ102a、エアフロセンサ102b、エアクリーナ102cが取り付けられている。
【0022】
スロットルバルブ102aは、一例として、電子制御式スロットル装置である。エンジンC/U110は、アクセルペダル106の踏み込み量を検知するアクセルペダルセンサ107の信号や、その他の各センサから送られてくる信号を基に最適なスロットル開度を算出し、スロットルバルブ102aへ出力する。これにより、スロットルバルブ102aは、最適なスロットルバルブ開度に制御される。
【0023】
エアフロセンサ102bは、エアクリーナ102cから吸入される空気流量を計測してエンジンC/U110へ出力する。エンジンC/U110は、計測した空気量に見合った燃料量を算出して、図示していない燃料噴射弁へ開弁時間として出力する。燃料噴射弁は、前述のクランク角センサ101cの信号が示すクランク角が、エンジンC/U110で予め設定されたクランク角となるタイミングで噴射を開始する。
【0024】
この動作によりエンジン101の気筒内には、吸入された空気と燃料噴射弁から噴射された燃料が混ぜ合わさり混合気が形成される。点火プラグは、クランク角センサ101cの信号が示すクランク角が、エンジンC/U110で予め設定されたクランク角となるタイミングで、図示していない点火コイルを介して、通電される。これにより、気筒内の混合気は、点火して燃焼爆発する。
【0025】
エンジン101は、前述の燃焼爆発で得た運動エネルギーを、クランク軸101aへ伝えて回転駆動力を発生させる。クランク軸101aの変速機側には図示していないドライブプレートが付いている。ドライブプレートは、トルクコンバータ111の入力側と直結している。トルクコンバータ111の出力側は変速機113に入力される。
【0026】
変速機113は、有段変速機構、またはベルト式やディスク式の無段変速機構を持つ変速機本体で、変速機C/U120によって制御される。変速機C/U120は、エンジン情報(エンジン回転数、車速、スロットル開度)やギヤシフトレバー118のギヤレンジ情報119を基にして適切な変速ギヤ、または変速比を決定して変速機113に変速させる。これにより、変速機113は、最適な変速比になるように制御される。
【0027】
変速機構と差動機構115の間にはクラッチ機構113aを有している。変速機構から駆動力を差動機構115へ伝達して駆動輪116を駆動する時は、クラッチ機構113aは締結される。逆に駆動輪116からの逆駆動力を遮断したい時は、クラッチ機構113aは開放される。これにより、変速機構へ逆駆動力が伝達しないように制御することを可能としている。
【0028】
以上のような構成とすることにより、車両100が惰行状態で走行している場合にクラッチ機構113aを開放して逆駆動力を遮断しエンジンを停止させる。これにより、走行抵抗を極力低下させた状態で車両を走行させる状態を作り出すことができるため、燃費を向上させることが可能である。
【0029】
本明細書では、前記のクラッチ機構を開放して走行抵抗を極力低下させた状態で車両を走行させる状態をセーリング(S)と呼ぶ。セーリング状態でエンジンを停止させている状態をセーリングストップ(S&ST)と呼ぶ。セーリング状態でエンジンをアイドルで運転している状態をセーリングアイドルと呼ぶ。
【0030】
従来技術として、一定速度で長距離を走行する場合など、ドライバーが目標車速TVSPを設定して、ACC C/Uがその目標車速TVSP(設定速度)を基準としてスロットル開度やブレーキを制御して走行速度を調整するクルーズ制御(ACC)が知られている。
【0031】
ここで、単純にクルーズ中にエンジンを停止させる動作を行っても、変速機内で駆動力の伝達を制御するクラッチ機構を開放させないと、駆動輪からの逆駆動力が走行抵抗となるため、燃費を向上させることは出来ない。
【0032】
このため、従来のクルーズ制御システムにセーリングストップを組み合わせるには、駆動輪からの逆駆動力がエンジン側へ伝達されないように遮断するクラッチ機構のような手段を変速機内に有する必要がある。前記の手段を持たせることにより、クルーズ制御中にセーリングストップを動作させることにより燃費効果を引き出すことが可能となる。
【0033】
また、通常のクルーズ制御は下り坂においては、トルクの制御範囲を外れてしまうことにより、オーバースピードとなりクルーズ制御が不可能となる課題がある。
【0034】
本明細書では、前述のセーリングストップとクルーズ制御を組み合わせて走行することをセーリングクルーズ(S&ST&C)と呼ぶことにする。
【0035】
セーリングクルーズ(S&ST&C)による燃費効果の原理について説明する。
【0036】
図2Aは、R/L(Road/Load)状態(走行抵抗がある状態)でクルーズ走行(C)した場合の燃料消費率と、セーリングストップを実行しながらクルーズ走行した場合、すなわちセーリングクルーズ(S&ST&C)した場合の燃料消費率を表した図である。なお、縦軸は燃料消費率SFCを示し、横軸は時間tを示す。図2Aでは、説明を簡単にするため、単にR/L(Road/Load)状態でクルーズ走行のみしている場合は、目標車速TVSPで一定に走行しているように模式的に表している。
【0037】
セーリングクルーズ(S&ST&C)では、セーリングストップを実行することにより、エンジン稼働時の燃料消費率はR/L一定走行時より大きくなる。しかし、エンジン停止時の燃料消費率は“0”となるため、燃料消費率を積分して比較するとR/L一定走行時より燃料消費を抑えることができる。
【0038】
なお、図2Aでは、セーリングクルーズ(S&ST&C)の積分値F1とR/L一定走行時の積分値F2との差分ΔFは面積で表される。つまり、セーリングクルーズ(S&ST&C)では、クルーズ制御だけの場合に比較して、燃料消費がΔF少ない。
【0039】
図2Bは、従来クルーズ制御とセーリングクルーズ制御による走行中の目標車速TVSPに対する実車速の変化を示した図である。
【0040】
従来のクルーズ制御は、燃費の優先度は低くして、目標車速達成度を優先することにより運転性に重点を置く。これに対して、セーリングクルーズ制御は、目標車速達成度(運転性)を多少犠牲にしても燃費を優先することを概念とする。
【0041】
図3はセーリングクルーズ制御の動作イメージを示した図である。
【0042】
車両はドライバーの操作によって設定された目標車速を基準として、その上限車速TVSPHと下限車速TVSPLの間をエンジン稼働による加速とセーリングストップによる減速を繰り返しながら走行する。すなわち、車両が加速してTVSPHに達すると変速機内のクラッチを開放してエンジンを停止する処理、すなわちセーリングストップを行う。
【0043】
その後、車両は走行抵抗(路面抵抗、勾配、空気抵抗他)によって緩やかに減速を開始してTVSPLに達するとエンジンを再始動し、変速機内のクラッチを締結して再びTVSPHまで加速する動作を繰り返す。
【0044】
セーリングストップから次のセーリングストップまでの周期は、再始動で費やされる燃料分を考慮すると長いほど燃費効果は向上する。平地におけるセーリング時の走行抵抗はほぼ一定であるため、セーリングストップの周期を長くするには、TVSPHとTVSPLの幅ΔTVSPを大きく設定する必要がある。
【0045】
しかし、ΔTVSPを大きく設定すれば、加速時のトルクが不足して運転性が悪化する。または、前記不具合を解消するため変速比を制御すると最適燃費領域を外れて燃費が悪化する恐れがある。そのため、上限車速TVSPH、下限車速TVSPLは、それぞれ変速機が変速比を増減させる必要がない最大の値、最小の値を設定する。
【0046】
すなわち、上限車速TVSPHは、変速機が変速比を変化させずに目標車速TVSPから所定時間内に到達しうる実車速の最大値である。また、下限車速TVSPLは、変速機が変速比を変化させずに前記目標車速から所定時間内に到達しうる実車速の最小値である。
【0047】
セーリングクルーズ制御により燃費の向上は見込めるが、クルーズ走行中は車速の変動によりドライバーに違和感を与え、商品性を損なうことが考えられる。
【0048】
このため、セーリングクルーズ制御への切り替えはドライバーが任意に選択スイッチで切り替える構成とすれば、車速の変動を容認させることが可能である。なお、制御の詳細については、後述する。
【0049】
また、図3に示すように、加速フェーズAとセーリングフェーズBの両者を切り替えることにより車速フィードバックの基本を構成する。
【0050】
すなわち、加速フェーズAの場合は車速フィードバックのサブ成分(差分)を目標加速度に反映し、前記目標加速度の許容範囲内において最良となる燃費率点でエンジンを作動させて加速する。
【0051】
セーリングフェーズBの場合は車速フィードバックのサブ成分をクラッチ締結度合いに反映し、下り坂で上限速度を超えてしまうような場面でも車速を抑えられる手段を備える。
【0052】
ここで、ACC C/U130は、路面が下り坂であるか否かを判定する勾配判定部として機能する。例えば、ACC C/U130は、目標エンジントルク、実車速に基づいて、下り坂であるか否かを判定する。
【0053】
また、ACC C/U130は、エンジンを停止させるともに、クラッチを解放させた後、路面が下り坂であると判定された場合、実車速と前記目標車速との差分に応じた締結度でクラッチを締結させる車速制御部として機能する。すなわち、ACC C/U130は、下り坂において、実車速から目標車速TVSPを引いた差が大きくなるにつれてクラッチの締結度合いを大きくする。これにより、変速機に駆動輪からの逆駆動力が伝達され、下り坂での速度上昇を抑制することができる。
【0054】
図4は加速フェーズにおけるエンジンの運転領域を表す図である。
【0055】
目標エンジントルクを縦軸にエンジン回転数を横軸にして、等しい燃料消費率の領域を結ぶと等燃費線のグラフが描かれる。このデータから最適となる燃費線を求めて、その線上をトレースするような目標エンジントルクで運転すれば、R/L条件で運転するよりも低燃費で、かつ大きいトルクで走行することが可能である。なお、等燃費線は、メモリなどの記憶装置に記憶されている。
【0056】
ここで、エンジンC/U110は、等燃費線に基づいて、エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、燃料消費率が最も小さい目標エンジントルクを算出するトルク算出部として機能する。
【0057】
詳細には、エンジンC/U110は、許容加速範囲に対応するトルク範囲のうち、燃料消費率が最も小さい目標エンジントルクを算出する。許容加速範囲は、車両の運転状態に応じて許容される加速度の範囲を示す。
【0058】
図5はセーリングクルーズ制御のフローチャートを表した図である。
【0059】
まず、車両走行中にセーリングクルーズ実行の条件が成立しているかをステップS101で判定する。セーリングクルーズの実行条件としては、ドライバー操作によるクルーズモード切替えスイッチの状態、エンジン回転数、車速、推定勾配、アクセル操作状態、ブレーキ操作状態、マスターバッグ負圧、車両システムの診断状態などが挙げられる。
【0060】
セーリングクルーズ実行条件が成立した場合、ステップS102へ進み加速動作を実行する。加速動作は、図4で述べた通り最適な燃費率となるように目標エンジントルクをトレースして加速する。
【0061】
加速実行中にアクセル開度の変化やブレーキ操作が行われた場合は、通常制御へ移行し、アクセル開度の変化やブレーキ操作がない場合はセーリングクルーズの上限車速まで加速する。
【0062】
ステップS105において、車両がセーリングクルーズ上限車速まで加速したら、ステップS106へ移行し変速機内のクラッチを開放し、エンジンを停止するセーリングストップを実行する。セーリングストップ実行中もアクセル開度、ブレーキ操作を監視し変化を検知した場合はステップS110へ移行し、セーリングクルーズを抜けてエンジンを再始動し変速機内のクラッチを締結する。
【0063】
図6は、セーリングクルーズ制御を行うためのACC C/U130の構成例を表した図である。なお、ACC C/U130は、前車追従機能を有していてもよい。
【0064】
エンジンC/U110は、実車速、エンジンC/U110で算出される燃費率が最良となるトルク(燃費率ベストトルク)を、ACC C/U130へ供給(入力)する。
【0065】
変速機C/U120は、トルク制限要求、実変速比を、ACC C/U130へ供給する。前記以外のC/Uは、姿勢制御、障害検知などのシステムによるトルク制限要求を、ACC C/U130へ供給する。
【0066】
エンジンC/U110で算出される燃費率が最良となるトルク値は、エンジン回転数の他、吸気バルブ、排気バルブに設けられた可変バルブタイミング機構や可変バルブリフト機構の進角状態、EGR量、過給機の状態などの燃料消費率マップの特性に影響を与えるパラメータを基に算出される。
【0067】
なお、エンジンC/U110は、エンジン回転数に基づいて、燃費率が最良となるトルク値(目標エンジントルク)を算出してもよい。この場合、エンジンC/U110は、これらのパラメータのうち、少なくとも1つを用いて目標エンジントルクを補正してもよい。
【0068】
ACC C/U130は、前記の各C/U群から入力された信号と実車速から推定した路面勾配の情報を基に目標加速度、駆動力を演算して、変速機C/U120へ目標変速比を出力し、エンジンC/U110へ目標エンジントルクを出力する。
【0069】
(変形例)
次に、図7を用いて、上記の実施形態の変形例を説明する。図7は、本発明の実施形態の変形例による車両の制御装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0070】
エンジンC/U110は、第1のトルク算出部110a、及び第2のトルク算出部110bとして機能する。また、ACC C/U130は、第1の車速制御部130a、及び第2の車速制御部130bとして機能する。
【0071】
選択スイッチSWは、低燃費を重視する運転に切り替えるための第1のモードと加速を重視する運転に切り替えるための第2モードを切り替える。すなわち、第1のトルク算出部110a及び第1の車速制御部130aは、所定の実行条件を満たし、第1のモードが選択された場合に作動する。また、第2のトルク算出部110b及び第2の車速制御部130bは、所定の実行条件を満たし第2のモードが選択された場合に作動する。なお、所定の実行条件は、上記実施形態で例示したセーリングクルーズの実行条件と同様である。
【0072】
第1のトルク算出部110aは、等燃費線に基づいて、エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、燃料消費率が最も小さい目標エンジントルクτ1*を算出する。また、第2のトルク算出部110bは、等燃費線に基づいて、エンジン回転数に対応する目標エンジントルクのうち、第1の目標エンジントルクより大きい第2の目標エンジントルクτ2*を算出する。
【0073】
第1の車速制御部130aは、実車速が目標車速TVSPより小さい第1の下限車速TVSPLになった場合、変速機内のクラッチを締結させるとともに、第1のトルク算出部110aによって算出された第1の目標エンジントルクτ1*でエンジンを稼働させる。また、第1の車速制御部130aは、実車速が目標車速TVSPより大きい第1の上限車速TVSPHになった場合、エンジンを停止させるともに、クラッチを解放させる。
【0074】
第2の車速制御部130bは、実車速が第1の下限車速TVSPLより大きく目標車速TVSPより小さい第2の下限車速TVSPL2になった場合、クラッチを締結させるとともに、第2のトルク算出部110bによって算出された第2の目標エンジントルクτ2*でエンジンを稼働させる。また、第2の車速制御部130bは、実車速が目標車速TVSPより大きく第1の上限加速TVSPHより小さい第2の上限車速TVSPH2になった場合、エンジンを停止させるともに、クラッチを解放させる。
【0075】
これにより、ACCにおいて、低燃費を重視する運転と、加速を重視する運転を切り替えることができる。
【0076】
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0077】
セーリングクルーズシステムを搭載した車両において、燃費特性に基づき目標加速度ならびに駆動力を演算して、目標変速比、目標エンジントルクを指令値として出力することにより、最良の燃費点を目指して運転することが可能となり、燃費を向上できる。
【0078】
本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0079】
また、上記の各構成、機能(ブロック)等は、それらの一部又は全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現する機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク等の記憶装置に記憶される。
【0080】
なお、上記実施形態では、エンジンC/U110、変速機C/U120、ACC C/U130などは、別体で構成されているが、一体で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
100…車両
101…エンジン本体
101a …クランク軸
101b …クランク角信号プレート
101c …クランク角センサ
102…インテークマニーホールド
102a …スロットルバルブ
102b …エアフロセンサ
102c …エアクリーナ
103…スタータ
104…オルタネータ
105…バッテリ
106…アクセルペダル
107…アクセルペダルセンサ
108…ブレーキペダル
109…ブレーキスイッチ
110…エンジンC/U
111…トルクコンバータ
112…機械式変速機オイルポンプ
113…変速機本体
113a …クラッチ機構
114…電動式変速機オイルポンプ
115…差動機構
116…駆動輪、タイヤ
117…車速センサ
118…セレクトレバー
119…レンジスイッチ
120…変速機C/U
121…ステアリング
122…ステアリング舵角センサ
123…外界認識カメラ
130…ACC C/U
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7