(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の基板側が負、前記第2の基板側が正となるように、前記第1の基板と前記第2の基板の電極間に電圧を印加したとき、前記第1及び第2の基板の法線方向から入射する光を10%以上透過する請求項1または2に記載のエレクトロデポジション素子。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1Aは、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す概略的な断面図である。本図を参照し、まず、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子の製造方法を説明する。
【0019】
たとえばガラスまたはフィルム基板である透明基板11a上に、透明部材13aを配置する。ここでは
図1Bに概形を示す金型を用いて反転転写を行い、透明基板11a上に、マイクロプリズム形状の透明部材13aを形成した。金型は
図1Cに示すように、底辺の長さが約20μm、高さが約5μm、底角が約15°である直角三角形が、底辺の延在方向に連続する断面形状を有する。
【0020】
透明基板11a上に所定量のアクリル系UV硬化性樹脂(透明樹脂)を滴下した。その上の所定位置に金型を置き、たとえば厚手の石英を透明基板11aの裏側に配置して、補強した状態でプレスを行った。プレス後、1分間以上放置して、UV硬化性樹脂を充分に広げ、透明基板11a側(石英側)から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させた。実施例においては、照射量を2J/cm
2とした。樹脂を硬化させる照射量であればよい。こうして透明基板11a上に、金型の形状を反映する、マイクロプリズム形状の透明部材13aが形成される。
【0021】
透明部材13aが形成された透明基板11aを洗浄機で洗浄した。アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアブロー、UV照射、IR乾燥の順に行ったが、洗浄方法はこれに限られない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0022】
透明部材13a上に、ITOなどの透明導電材料で透明電極12aを形成する。実施例においては、透明電極12aとして、ITO膜をマグネトロンスパッタで成膜した。成膜方法はスパッタに限定されない。パターン形成は、簡易的には、所定形状の開口部を有するSUSマスクを用いて行ってもよい。フォトリソ工程にてパターニングを行うことも可能である。
【0023】
透明電極12aは低抵抗であることが望ましい。実施例においては、3000Å〜4000Åの厚さとなるように、透明電極12a(ITO膜)を形成したが、厚さはこれに限られない。また、透明電極12a(ITO膜)表面は平滑な状態であることが好ましい。このためスパッタは、平滑なITO膜を得られる条件で行う。
【0024】
こうして、透明基板11a上に、順に透明部材13a、透明電極12aが形成された第1基板10aが作製される。
【0025】
次に、ガラスまたはフィルム基板である透明基板11b上に、たとえばITOで透明電極12bが形成された第2基板10bを準備し、第1、第2基板10a、10bを透明電極12a、12bが対向するように配置してセル化を行った。
【0026】
たとえば20μm〜数百μm径、実施例においては500μm径のギャップコントロール剤を、基板10a、10bの一方上に、一例として1個〜3個/mm
2となるように散布する。ギャップコントロール剤の径に応じ、たとえば表示に影響を与えにくい散布量とすることが望ましい。なおエレクトロデポジション素子の場合、多少ギャップムラがあっても表示への影響は少ないため、ギャップコントロール剤の散布量の重要性は高くない。また実施例においては、ギャップコントロール剤を用いたギャップコントロールを行ったが、リブなどの突起によってギャップコントロールを行うことも可能である。更に、小型セルの場合は、シール部分に所定厚さのフィルム状スペーサを配置してギャップを制御してもよい。
【0027】
基板10a、10bの他方上に、メインシールパターンを形成した。実施例では、紫外線+熱硬化タイプのシール材14を用いた。シール材14として、光硬化タイプ、または熱硬化タイプを使用してもよい。なお、ギャップコントロール剤の散布とメインシールパターンの形成は同一基板側に行ってもよい。
【0028】
次に、エレクトロデポジション材料を含む電解液を基板10a、10b間に封入した。
【0029】
実施例では、ODF工法を用いた。基板10a、10bの一方上に、エレクトロデポジション材料を含む電解液を適量滴下する。滴下方法として、ディスペンサーやインクジェットを含む各種印刷方式が適用可能である。ここではディスペンサーを用いた。なお、前述のシール材14は、用いる電解液に耐えるシール材料(腐食されないシール材)であることが好ましい。
【0030】
真空中で、基板10a、10bの重ね合わせを行った。大気中、もしくは窒素雰囲気中で行ってもよい。
【0031】
紫外線を、たとえば3J/cm
2のエネルギ密度でシール材14に照射し、シール材14を硬化した。なお、紫外線がシール部のみに照射されるように、SUSマスクを使用した。
【0032】
エレクトロデポジション材料を含む電解液は、エレクトロデポジション材料(AgNO
3等)、電解質(TBABr等)、メディエータ(CuCl
2等)、電解質の浄化剤(LiBr等)、溶媒(DMSO; dimethyl sulfoxide 等)、ゲル化用ポリマー(PVB; polyvinyl butyral 等)などにより構成される。実施例においては、溶媒であるDMSO中に、エレクトロデポジション材料としてAgNO
3を50mM添加し、LiBrを250mM支持電解質として加え、メディエータとしてCuCl
2を10mM添加した。そしてホストポリマーとしてPVBを10wt%加え、ゲル状(ゼリー状)の電解質層とした。
【0033】
エレクトロデポジション材料として、たとえば銀を含むAgNO
3、AgClO
4、AgBr等を使用することができる。
【0034】
支持電解質は、エレクトロデポジション材料の酸化還元反応等を促進するものであれば限定されず、たとえばリチウム塩(LiCl、LiBr、LiI、LiBF
4、LiClO
4等)、カリウム塩(KCl、KBr、KI等)、ナトリウム塩(NaCl、NaBr、NaI等)を好適に用いることができる。支持電解質の濃度は、たとえば10mM以上1M以下であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0035】
溶媒は、エレクトロデポジション材料等を安定的に保持することができるものであれば限定されない。水や炭酸プロピレン等の極性溶媒、極性のない有機溶媒、更にはイオン性液体、イオン導電性高分子、高分子電解質等を使用することが可能である。具体的には、DMSOの他、炭酸プロピレン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸等を好適に用いることができる。
【0036】
第1の実施例によるエレクトロデポジション素子は、たとえば略平行に離間して対向配置された第1、第2基板10a、10b、及び、両基板10a、10b間に配置された電解質層15を含む。
【0037】
第1基板10aは、透明基板11a、透明基板11a上に形成された、マイクロプリズム形状の透明部材13a、及び、透明部材13a上に形成された透明電極12aを含む。透明電極12aは、マイクロプリズム形状の透明部材13aの斜辺、及び、15°の底角の対辺に沿い、透明部材13aの表面形状に対応する形状に形成されている。
【0038】
第2基板10bは、透明基板11b、及び透明基板11b上に形成された透明電極12bを含む。
【0039】
電解質層15は、第1基板10aと第2基板10bとの間の、シール材14に囲まれた領域の内側に画定される。電解質層15の屈折率は、透明部材13aの屈折率とほぼ等しく、たとえば1.51程度である。
【0040】
基板10a、10b(電極12a、12b)間に電圧を印加可能な電源16が接続される。電源16によって、基板10a、10b間に直流電圧を印加すると、負電圧が印加された側の電極12a、12b上に、AgNO
3(エレクトロデポジション材料)に由来する銀の薄膜が形成される。銀の薄膜は、印加電圧の解除、または反対極性の電圧の印加により電極12a、12b上から消失する。
【0041】
本願発明者らが、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子を観察したところ、初期状態ではほぼ透明であった。わずかに黄みを帯びても見えたが、これはメディエータであるCuCl
2の色であると思われる。メディエータとして異なる材料を使用する、または、セル厚を薄くすることで無色透明の電解質層15とすることができる。
【0042】
図2Aは、第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように、直流電圧を印加した状態を示す概略的な断面図である。実施例においては、透明電極12aに、−2.5Vの直流電圧を印加した。
【0043】
電圧の印加により、電解質層15に含まれる銀イオンが、透明電極12a近傍で金属の銀に変化し、電極12a上に析出・堆積して、銀薄膜(鏡面)17が形成される。
【0044】
基板10b側の、基板法線方向から光を入射させたところ、
図2Bに示すように、入射方向とは平行でない方向に、鏡面反射することが確認された。入射光は、マイクロプリズム形状の透明部材13aの斜面上方に形成された銀薄膜(鏡面)17によって、入射方向と平行でない方向に反射されている。
【0045】
図3Aに、第1基板10a側が正、第2基板10b側が負となるように、直流電圧を印加した状態を示す。透明電極12aに、+2.5Vの直流電圧を印加した。
【0046】
電圧の印加により、電解質層15に含まれる銀イオンが、透明電極12b近傍で金属の銀に変化し、電極12b上に析出・堆積して、銀薄膜(鏡面)18が形成される。
【0047】
基板10b側の、基板法線方向から光を入射させたところ、
図3Bに示すように、入射方向と反対方向に鏡面反射(正反射)することが確認された。入射光は、銀薄膜(鏡面)18によって、入射方向と反対方向に反射されている。
【0048】
このように、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子は、第1、第2基板10a、10bに印加する電圧の極性を変えることで、入射光、たとえば基板10a、10bの法線方向から入射した光が反射する方向を変化させることができる。更に、電圧無印加状態の素子に入射した光は、素子をほぼ直進して透過するため、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子は、電圧の印加状態に応じて、入射光の進行方向を少なくとも3方向に異ならせることができる。このため、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子は、たとえば光学制御素子として使用可能である。
【0049】
なお、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子に、基板10a側から光を入射させた場合も、電圧の印加状態に応じて、入射光の進行方向を複数の方向に異ならせることができる。
【0050】
図4A及び
図4Bは、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子の光学特性を示すグラフである。
図4Aは、基板10b側の、基板法線方向から光を入射させたときの反射率の波長依存性、
図4Bは、透過率の波長依存性を示す。グラフの横軸は、波長を単位「nm」で表し、縦軸は、それぞれ反射率、透過率を「%」で表す。実線で示す曲線は、電圧無印加状態、点線で示す曲線は、基板10aに+2.5Vの直流電圧を印加した状態(
図3Aに示す状態)の反射率、透過率である。
【0051】
図4Aの点線で示す曲線を参照すると、電極12b上に形成される銀薄膜18により、広い波長領域にわたって、高い反射率が得られることがわかる。実線で示す曲線を参照すると、電圧無印加時においては、波長によらず10%〜20%程度の光が反射される。
【0052】
図4Bの実線で示す曲線を参照すると、電圧無印加時の透過率には若干の波長依存性があり、波長が短いと透過率が低いという関係が見られる。この透過率曲線から、電圧無印加時においては、素子が黄みを帯びることがわかる。メディエータであるCuCl
2の色であると思われるため、たとえばセル厚を薄くすることで改善することができる。
【0053】
図4Bの点線で示す曲線を参照すると、波長によらず10%〜20%程度の光(平均すると少なくとも10%の光)が透過(光抜け)していることがわかる。この点は、駆動条件や電解質層の構成を検討することで改善可能であろう。たとえば、素子に印加する電圧を高くする、または電圧印加時間を長くすることで光抜けは抑止される。ただそうした場合、透明状態(銀が酸化されてAg
+となり、電極上から消失した状態)に戻すのに時間を要するという問題が生じる。透明状態に戻しやすくするには、たとえば黄みは濃くなるが、メディエータであるCuCl
2の添加量を増やせばよい。
【0054】
なお、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子は、たとえば基板10aに−2.5Vの直流電圧を印加した場合も、基板法線方向からの入射光を10%以上透過する。
【0055】
図5は、第2の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す概略的な断面図である。第2の実施例は、第2基板10bが反射電極12Bを備える点で、第1の実施例と異なる。
【0056】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子は、第1の実施例とほぼ同様に製造することができる。相違するのは、基板11b上に、たとえばアルミニウムまたは銀等の金属で形成され、鏡面反射する電極12Bが形成された第2基板10bを準備する点、セル化工程におけるシール材14への紫外線照射を第1基板10a側から行う点等である。
【0057】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子の電解質層15も、初期状態ではほぼ透明であった。わずかに黄みを帯びても見えたが、これはメディエータであるCuCl
2の色であると思われ、メディエータとして異なる材料を使用する、またはセル厚を薄くすることで無色透明とすることが可能である。
【0058】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子においては、電圧無印加時に、基板10a側、たとえば基板法線方向から入射した光は、反射電極12Bによって、入射方向と反対方向に鏡面反射(正反射)される。第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧を印加した場合は、電極12a上に銀薄膜(鏡面)が形成され、基板法線方向からの入射光は、マイクロプリズム形状の透明部材13aの斜面上方に形成された銀薄膜(鏡面)によって、入射方向と平行ではない方向に反射される。
【0059】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子も、電圧の印加状態に応じて、入射光、たとえば基板10a側の、基板法線方向から入射した光が反射する方向(入射光の進行方向)を変化させることができる。
【0060】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子に、第1基板10a側が正、第2基板10b側が負となるように直流電圧を印加した場合、反射電極12B上に銀薄膜(鏡面)が形成される。この状態は、電圧無印加時とほぼ等しい光学状態を実現する。このため、第1の実施例と比較したとき、たとえば透明電極12a上に形成された銀薄膜を消失させる際の電流制御を厳密に行う必要がなく、速やかに銀薄膜を消失させることが可能である。
【0061】
なお、第2の実施例において、たとえば透明基板11bのかわりに不透明基板を使用してもよい。
【0062】
第2の実施例によるエレクトロデポジション素子も光学制御素子として使用可能である。たとえば防眩機能を有する車載用ルームミラー(室内後写鏡)に用いることができる。
【0063】
図6Aに示すように、ルームミラーへの入射光は、電圧無印加時においては反射電極12Bにより高い反射率で反射され、ドライバーはこれにより、たとえば後方を視認する(相対的に明るい像が得られる状態)。
【0064】
第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧を印加した場合は、
図6Bに示すように、電極12a上に銀薄膜(鏡面)17が形成される。ルームミラーへの入射光の多くは、銀薄膜(鏡面)17によって、入射方向と平行ではない方向に反射され、ドライバーの目には入射しない。ルームミラーへの入射光の一部は、銀薄膜(鏡面)17を透過し、反射電極12Bで反射され、再び銀薄膜(鏡面)17に入射する。そして再度これを透過した一部がドライバーの目に入射する。
【0065】
たとえば銀薄膜(鏡面)17を透過する光の割合は、10%〜20%程度である。したがってドライバーの目には、ルームミラーへの入射光の数%程度が入射する(相対的に暗い像が得られる状態)。
【0066】
図7A及び
図7Bは、車載用ルームミラー(室内後写鏡)20に写る後続車両の前照灯21を示す概略図である。
【0067】
電圧無印加時(
図6Aに示す状態)には後方を明瞭に視認できる一方で、
図7Aに示すように、後続車両の前照灯21が眩しい場合が生じ得る。この場合、第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧を印加することで(
図6Bに示す状態)、
図7Bに示すように、ドライバーの目に入射する光の量を低減(減光)し、防眩効果を奏することができる。
【0068】
相対的に明るい像が得られる状態(
図7Aに示す状態)と相対的に暗い像が得られる状態(
図7Bに示す状態)の切り替えは、たとえば光センサーを用いて自動的に行う。制御は、一例として、光量が閾値以上である場合、第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧が印加され、光量が閾値未満である場合、電圧の印加が解除、または反対極性の直流電圧が印加されるように行う。切り替えは手動で行ってもよいが、安全面を考慮すると自動で行う方が好ましいであろう。
【0069】
なお、減光の程度は、エレクトロデポジション素子に印加する電圧値や印加時間により制御することができる。後続車両の前照灯21が眩しくない程度に減光し、後方の状態を確認するような調整を行うことも可能であり、たとえば運転時の安全性の向上に資することができる。
【0070】
防眩ミラーへの適用の観点からは、たとえば銀薄膜(鏡面)における10%〜20%程度の光抜けは好ましいといえるであろう。
【0071】
なお、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子も、通常時に第1基板10a側が正、第2基板10b側が負となるように直流電圧を印加することで、同様に、基板10aを入射面とする車載用ルームミラーに適用可能である。
【0072】
図8Aに、防眩機能を有する車載用ルームミラーの他の構成例を示す。本図に示すルームミラーは、エレクトロデポジション素子26及びミラー27を含む。エレクトロデポジション素子26は、たとえばガラス25側から入射する光を透過する状態と正反射する状態を電気的に切り替えることができる。エレクトロデポジション素子26の反射面とミラー27の反射面とは非平行に配置される。
【0073】
エレクトロデポジション素子26が光を透過する状態においては、
図8Bに示すように、ルームミラーへの入射光は、ミラー27で反射され、ドライバーの目に入射する(相対的に明るい像が得られる状態)。
【0074】
エレクトロデポジション素子26が光を正反射する状態においては、
図8Cに示すように、たとえば入射光の一部がエレクトロデポジション素子26に形成される正反射面を透過してミラー27で反射され、その一部がドライバーの目に入射する(相対的に暗い像が得られる状態)。
【0075】
エレクトロデポジション素子26として、たとえば第1の実施例によるエレクトロデポジション素子を使用することができる。たとえば電圧を無印加とすることで、光を透過する状態を実現し、第1基板10a側が正、第2基板10b側が負となるように直流電圧を印加することで、光を正反射する状態を実現する。
【0076】
また、エレクトロデポジション素子26として、透明部材13aが形成されておらず、たとえば透明基板11a上に直接、透明電極12aが形成されているエレクトロデポジション素子を用いてもよい。
【0077】
ただし、たとえば
図6Bと
図8Cを比較すれば明らかなように、マイクロプリズム形状の透明部材13aを配置し、その上方に形成される銀薄膜(鏡面)17を反射面として利用する方が、ルームミラーへの入射光を、より大きな反射角で反射することができ、このため、車載用ルームミラーを小型化、薄型化、軽量化することが容易である。
【0078】
図9Aは、第3の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す概略的な断面図である。第1、第2の実施例においては、透明部材13aがマイクロプリズム形状に形成されていたが、第3の実施例においては、平面レンズ機能をもつフレネルレンズの形状に形成されている。また、第1基板10aの外側(透明部材13a形成面とは反対側の面)に、ミラー19が配置されている。
【0079】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子の製造方法は以下の通りである。
【0080】
たとえばガラスまたはフィルム基板である透明基板11a上に、透明部材13a(フレネル状のマイクロレンズ)を配置する。フレネルレンズ形状の透明部材13aは、たとえば同心円状の平面形状、及び、
図9Bに示す断面形状を備え、精密金型の反転転写により形成される。
【0081】
具体的には、透明基板11a上(金型パターンのセンター部分)に所定量のアクリル系UV硬化性樹脂(透明樹脂)を、精密なディスペンサーを用いて必要量滴下した。その上の所定位置に精密金型を置き、たとえば厚手の石英を透明基板11aの裏側に配置して、補強した状態でプレスを行った。基板11aと金型の押し付け速度が速いと、樹脂と金型パターンの間に径50μm〜200μm程度の気泡が残留しやすいため、実施例においては、気泡の残留が防止されるように時間をかけ、気泡を逃がしながら少しずつ押し込みを行って、樹脂と金型の間に気泡のない状態で樹脂を広げることができた。プレス時の気圧は低いことが好ましく、気圧が低いほど押し込み速度を速くすることができる。おおむね20Torr以下の気圧下であれば、押し込み速度を気にせずプレス可能である。実施例においてはプレスの圧力は一定とし、透明部材13aの大きさは樹脂の滴下量で制御した。
【0082】
プレス後、1分間以上放置して、UV硬化性樹脂を充分に広げ、透明基板11a側(石英側)から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させた。照射量は2J/cm
2とした。樹脂を硬化させる照射量であればよい。こうして透明基板11a上に、金型の形状を反映する、フレネルレンズ形状の透明部材13aが形成される。
【0083】
透明部材13aが形成された透明基板11aを、第1の実施例と同様に、洗浄機で洗浄した。また第1の実施例と同様に、透明部材13a上に、ITOで透明電極12aを形成した。こうして、透明基板11a上に、順に透明部材13a、透明電極12aが形成された第1基板10aが作製される。
【0084】
次に、ガラスまたはフィルム基板である透明基板11b上に、たとえばITOで透明電極12bが形成された第2基板10bを準備し、第1、第2基板10a、10bを透明電極12a、12bが対向するように配置してセル化を行った。セル化の条件は、第1の実施例とほぼ等しい。
【0085】
続いて、エレクトロデポジション材料を含む電解液を、第1の実施例と同様の工程により、基板10a、10b間に封入した。
【0086】
最後に、ミラー19を基板10aに外付けした。ミラー19の反射面は基板10a側に配置される。
【0087】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子は、透明部材13aがフレネルレンズ形状を備える点、及び、基板10aの外側にミラー19が配置されている点で、第1の実施例と異なる。
【0088】
ミラー19配置前の第3の実施例によるエレクトロデポジション素子は、初期状態でほぼ透明であった。わずかに黄みを帯びても見えたが、メディエータであるCuCl
2の色であると思われ、メディエータとして異なる材料を使用する、またはセル厚を薄くすることで無色透明とすることが可能である。
【0089】
また、ミラー19配置前の第3の実施例によるエレクトロデポジション素子も、
図4A及び
図4Bに示すのと同様の反射率及び透過率特性を有する。
【0090】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子においては、電圧無印加時に、基板10b側の、たとえば基板法線方向から入射した光は、ミラー19によって、入射方向と反対方向に鏡面反射(正反射)される。第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧を印加した場合は、電極12a上に、凸面鏡として機能する銀薄膜(鏡面)が形成され、入射光は入射方向と平行でない方向に反射される。
【0091】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子も、電圧の印加状態に応じて、入射光、たとえば基板10b側の、基板法線方向から入射した光が反射する方向(入射光の進行方向)を変化させることができる。
【0092】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子に、第1基板10a側が正、第2基板10b側が負となるように直流電圧を印加した場合、透明電極12b上に銀薄膜(鏡面)が形成され、基板10b側から入射する光に対しては、電圧無印加時とほぼ等しい光学状態を実現する。このため、たとえば透明電極12a上に形成された銀薄膜を消失させる際の電流制御を厳密に行う必要がなく、速やかに銀薄膜を消失させることが可能である。
【0093】
第3の実施例によるエレクトロデポジション素子も光学制御素子として使用可能であり、たとえば凸面鏡の機能を電気的にオン、オフ可能な車載用ドアミラーまたはフェンダーミラー(車体外後写鏡)に用いることができる。
【0094】
図10Aに示すように、たとえば基板10b側からドアミラーに入射する光は、電圧無印加時においてはミラー19によって高い反射率で反射され、ドライバーはこれにより、たとえば後方及び側後方を視認する。
【0095】
図10Bに、ドライバーが電圧無印加時のドアミラーで視認可能な範囲を示す。電圧無印加時には後方、殊に後続車両を明瞭に視認できるため、たとえば通常走行時には電圧無印加状態とする。ただし相対的に視角は狭い。
【0096】
第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように、一例として透明電極12aに−2.5V程度の直流電圧を印加した場合は、
図11Aに示すように、電極12a上に銀薄膜(鏡面)17が形成される。銀薄膜(鏡面)17は、ドアミラーへの入射光に対して拡大反射鏡として機能する。
【0097】
図11Bに、ドライバーがこの電圧印加状態のドアミラーで視認可能な範囲を示す。ドライバーは電圧無印加時に比べ、広い視角範囲の情報を得ることができる。像が歪む一方で、たとえば後下方の視界を得ることができるため、発車時、低速走行時、バック時に安全性の向上を図ることができる。
【0098】
相対的に視角が狭い状態(
図10A及び
図10Bに示す状態)と相対的に視角が広い状態(
図11A及び
図11Bに示す状態)の切り替えは、自動または手動で行う。
【0099】
図12A及び
図12Bは、第3の実施例によるエレクトロデポジション素子を用いた車載用ルームミラー(室内後写鏡)20を示す概略図である。
【0100】
図12Aに示すように、電圧無印加時においては、後続車両22を明瞭に確認することができる。
【0101】
また、第1基板10a側が負、第2基板10b側が正となるように直流電圧を印加した場合は、電極12a上に、ルームミラーへの入射光に対して拡大反射鏡として機能する銀薄膜(鏡面)17が形成され、
図12Bに示すように、後部座席23を広い視角で視認することができる。
【0102】
車両用のミラーに限らず、道路上に設置されるカーブミラー、携帯用ミラー(コンパクトミラー)、鏡台等にも適用可能である。
【0103】
第3の実施例においては、第1基板10aの外側にミラー19を配置したが、ミラー19を配置せず、たとえば第1の実施例のように、入射光が透明電極12a上の銀薄膜(拡大反射鏡の機能を有する鏡面)17で反射される状態と、透明電極12b上の銀薄膜(平面鏡の機能を有する鏡面)18で反射される状態とを電気的に切り替えることにより、
図10Bに示す状態と
図11Bに示す状態とを可換的に実現してもよい。
【0104】
また、ミラー19を配置せず、透明部材13aのフレネルレンズ形状を上下反対に形成し、基板10a側から光を入射させる構成とすることもできる。
【0105】
たとえば
図13に示す変形例のように、フレネルレンズ形状部分の透明部材13aを、基板10a、10b面内方向に対して傾いた面上に形成してもよい。
図11Aに示す場合に比べ、より広い後下方の視角を得ることが可能である。なお、フレネルレンズの表面形状に対応する形状をもつ透明電極12aがたとえば鉛直方向に対して傾くように、第3の実施例によるエレクトロデポジション素子を配置したミラーデバイスによっても同様の効果が得られる。
【0106】
以上、実施例及び変形例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0107】
たとえば、実施例においては、バルク型の素子としたが界面型の素子とすることもできる。
【0108】
また実施例においてはゲル状の電解質層としたが、銀の錯体を用いてもよい。電解質層は、たとえばエレクトロデポジション材料を含有する電解質液や電解質膜を含んで構成される。
【0109】
更に、たとえば第1の実施例では、第1、第2基板10a、10bの双方を透明基板としたが、一方を不透明基板とすることができる。一例として透明基板11a、11bの一方を不透明基板とし、その上方に形成される電極12a、12bも不透明電極とすることが可能である。第1基板10aを不透明とする場合は、透明部材13aのかわりに不透明部材を用いてもよい。不透明電極を形成する材料として、銀合金、金、銅、アルミニウム、ニッケル、モリブデン等をあげることができる。なお、実施例においては、ITOで透明電極12a、12bを形成したが、ITO以外の透明導電性材料を使用して透明電極12a、12bを形成することも可能である。
【0110】
また、実施例においては透明部材13aをマイクロプリズム形状またはフレネルレンズ形状に形成した。これらは表面が平滑(銀薄膜17が鏡面状態をとり得る表面状態)であり、かつ、μmオーダー以上、たとえば数十μm以上の大きさの三次元的凹凸を有する形状である。透明部材13aの形状はこれらに限られず、たとえば基板法線方向からの入射光を入射方向と平行でない方向に鏡面反射する銀薄膜反射面(エレクトロデポジション膜)が形成される形状であればよい。小型セルの場合や大きな反射角が要求されない場合には、たとえば
図14に示す変形例のように、透明部材13aを、凹凸を有しない平面形状に形成することもできる。なお第3の実施例においては、フレネルレンズ形状としたが。それに限らず種々のレンズ形状であってもよい。
【0111】
更に、たとえば実施例においては金型の反転転写によって、マイクロプリズム形状またはフレネルレンズ形状の透明部材13aを形成したが、形成方法はこれに限られず、一例としてロール転写により形成することが可能である。
【0112】
また、実施例においては、第1基板10aが透明部材13aを備える構造としたが、基板10a、10bの少なくとも一方が、電極12a、12b上方に銀薄膜反射面を形成するための部材を備えていればよい。
【0113】
更に、透明部材13aはシール材14の内側領域の一部に形成されていればよい。
【0114】
また、実施例においては電解質層15の屈折率と、透明部材13aの屈折率をほぼ等しくしたが、異なる屈折率としてもよい。第1、第2の実施例のマイクロプリズム形状の透明部材13a、第3の実施例におけるフレネルレンズ形状の透明部材13aが、それぞれプリズム、レンズの機能をもつエレクトロデポジション素子とすることも可能である。
【0115】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。